永遠のアセリア&雑魚スピ分補充スレッド 18
- 1 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 01:02:18 ID:pZnwZvMM0
- わたしはスピリットです。名前はまだありません。どこで生まれたかちっとも見当がつきません。
何でも薄暗い森のなかで神剣を抱えて泣いていた事だけは記憶しています。
わたしはここで初めて人間というものを見ました。しかも後で聞くとそれは
施設責任者という人間の中でもっとも恐ろしい種族であったそうです。
この施設責任者というのは必ず、わたしたちを捕まえては戦わせるという話です。
けれど、このときは何も考えがなかったから別に恐ろしいとも思いませんでした。
ただ、あの人に手を引かれて森を歩いたとき、何だかホカホカとした感じがあったばかりです。
繋いだ手にそって少し落ち着いてあの人の顔を見あげたのが人間の見始めだったのでしょう。
このとき、ちょっと不思議だと思ったのが今でも残っています。
あの人も、あの人たちも、決してわたしたちとは変わらない顔をしていたのですから。
いつか、それを当たり前とする人に会う日は来るのでしょうか……
永遠のアセリア&雑魚スピ分補充スレッド 18
前スレ:永遠のアセリア&雑魚スピ分補充スレッド17
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1130515119/
発売元:Xuse公式サイト(『永遠のアセリア』は【本醸造】より)
http://www.xuse.co.jp/
外部板:雑魚スピスレ保管庫
http://etranger.s66.xrea.com/
外部板:雑魚スピスレ避難所@MiscSpirits
http://www.miscspirits.net/Aselia/refuge/
外部板:永遠のアセリア関連スレリンク集
http://etranger.s66.xrea.com/past.htm
- 2 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 01:03:36 ID:pZnwZvMM0
- ____ ________ _______
|書き込む| 名前:| | E-mail(省略可): |sage |
 ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
,ィ
,べV //
ネリーみたいなくーるな女には / 〃  ̄ ヾ; / ./
sage進行がぴったりよね〜 ! i ミ(ノハソ / /./
!ik(i|゚ ヮ゚ハ<///
リ⊂}!廿i つベ/
く/Цレ'
し'ノ
- 3 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 01:04:32 ID:pZnwZvMM0
- あてんしょん
| ̄ ヽ
|」」 L.
|゚ -゚ノ| ……えっとこのスレに投稿したネタ(名前欄に題名を記入したもの)はね……
|とl)
,べV
/ 〃  ̄ ヾ;
! i ミ(ノハソ
!ik(i|゚ ヮ゚ハ 。・゚・⌒) 作者の意向が無い限り、
リ⊂! |T|!つ━ヽニニフ)) 問答無用で>>1の保管庫に収録されちゃうんだよ〜
く/|_|〉
(フフ
- 4 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 01:05:28 ID:pZnwZvMM0
- Q: 雑魚スピって何ですか?
A: サブスピです。
Q: 具体的に教えて下さい。
A: シアー・セリア・ナナルゥ・ニムントール・ネリー・ハリオン・
ヒミカ・ファーレーン・ヘリオン、以上9名の総称です。
Q: これまでに投稿されたSSはどこで読めますか?
A: ここで読めます。→ http://etranger.s66.xrea.com/
Q: 俺あんまりサブスピに興味ないんだけど。
A: 雑魚スピです。>>1の関連スレリンク集で行き先を探してみましょう。
Q: エスペリアがよく燃えて困るのですが。
A: こちらへ。→永遠のアセリア−この大地の果てで−7
http://game9.2ch.net/test/read.cgi/gal/1124361124/
- 5 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 01:07:52 ID:pZnwZvMM0
- んじゃ、点呼は久しぶりにスレ勢調査で
何代目スレから雑魚スピスレに居るかを申告↓
- 6 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 01:09:58 ID:xbj3uq/M0
- >>1乙にして…
初代からに決まってるであろう!
その最初も最初から。<1>
それはそうとネリーのチャーハンはもらっていきますね。
- 7 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 01:11:10 ID:hMxHlPqP0
- >>1さん乙です。
初代スレから雑魚スピの海にたゆたっていましたノシ<2>
- 8 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 01:14:52 ID:GJ2GBOBO0
- >>乙ァーレーン
慌てて調べた……初代76からの<3>
- 9 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 01:15:30 ID:2pY1g1nu0
- 初代から<4>
葱から移行してきたクチ。
- 10 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 01:16:22 ID:gED9wagy0
- 14スレ目からです
いまだに色々間違えまくりでスレの皆さんには迷惑かけっぱなしw
<5>
- 11 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 01:42:11 ID:pZnwZvMM0
- そろそろ連投規制も抜けたかなってところで自分も申告。
初代スレ22から。<6>
無理にレス番まで申告する必要はなし、ね、一応。
つーか、
>>6
> その最初も最初から。
ここが激しく気になる俺ガイルんだが、
雑魚スピスレで最も 1 が似合う漢
ということで合ってる?
- 12 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 02:06:08 ID:8SRnWmOK0
- IチOっ。
一月ちょいで2スレ消費か。ヘリオンより速いぜ。
初代からいますよ。16スレの点呼でも思ったけど、初代↑2(無印アセリア&初代スレ)な人がカナリ締めてるようだね。
どっちにしろ最初からの人も途中からの人も抜け出せませんけどね。ファンタズマゴリアには既に蓋がされてます。ナムナム
<7>
- 13 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 02:53:44 ID:4zwsUHh90
- P・N砂漠の少女さんってクォーリンかなぁ…
一応初代から
17の間はほぼいなかったけど
<8>
- 14 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 05:31:25 ID:wlRGZ1gh0
- 14スレ目から。
最初はギャルゲ板のPS2版スレにいました。
まあそのころからネタ妄想がぽつぽつと・・・<9>
- 15 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 05:52:19 ID:hQFNmbYX0
- >>1さん
乙です。
6スレ目くらいから。
「そんなパーフェクトジオングみたいな」
でググったら引っかかって・・・
- 16 名前:15 :2005/11/13(日) 05:58:23 ID:hQFNmbYX0
- sage忘れました。
申し訳ない。
- 17 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 10:00:03 ID:RFfMl/fG0
- >>1
乙ハリオン
12スレか13スレから
ちょっと記憶があやふやだ <11>
- 18 名前:おにぎりの中身の人 :2005/11/13(日) 11:11:30 ID:Hq6QauHj0
- >>1
乙です。
自分は・・・たしか第2スレからいました。
今ではここが2chで一番好きなスレです。
この前あるMMOをやっていると、そのMMOでは敵を捕まえて名前をつけ、一緒に戦うことが出来るのですが
そのペットの名前が「時詠」と「時果」で、思わずニヤリとしてしまいました。
・・・そういや自分もPSOBBで「大樹のハリオン」ってキャラ作ったなぁ・・・
誰もネタに気づかない上に倉庫キャラだったけど。
- 19 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 17:31:25 ID:qEkFPymz0
- 先制SS、いきます。
あてんしょん
このSSは、基本的にファーレーンonlyの補完です。
全五編、それぞれ十六章で完結します。今回が最終編です。
無駄に長いのでそういうのが嫌いな方は遠慮なくスルーお願い致します。
- 20 名前:朔望 風韻 overture :2005/11/13(日) 17:32:28 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年シーレの月黒いつつの日〜§
「お早う、……お兄、ちゃん」
いつもの、照れたような妹の声に目が醒める。
涼しい風が、鳥の澄んだ囀りを運んでくる。瞼を開けば、朝の眩しい景色。
覗き込んで逆光に映る眼差しが、明るく微笑んでいる。
無意識にさらさらの髪を触れば、少しくすぐったそうに目を細め、はにかむ。
穏かな休日。永久(とわ)に続けたい、と祈る、そんな平和な日常。
リビングに入ると、朝食の仕度をしていた彼女が振り返り、穏かに囁く。
「もう少し、だから……」
淡く白く広がる光景。幸せな幻想。自然に零れる笑顔。満たされた――『求め』。
運命と言う名の空虚(うつろ)な世界。委ねず、誓い、紡ぎ合った『たった一つの戦う意味』――――
――――― 風韻 ―――――
- 21 名前:朔望 nocturn −B :2005/11/13(日) 17:33:11 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年レユエの月緑ふたつの日〜§
隣から聴こえる、穏かな寝息。じっと瞼を閉じている横顔を眺めるだけで満たされてくる気持ち。
触れる肌の温もりが、心地良かった。顔にかかった少しくせのある蒼鋼色の前髪を、そっと払ってやる。
拍子にくすぐったいのか、くぐもった吐息を漏らし、頬を胸に摺り寄せてくる。半開きの唇が何かを呟いた。
長い睫毛がぴくぴくと動く。夢でも見ているのだろうか、その仕草が妙に子供っぽくてつい苦笑してしまった。
夜の、ひんやりした風が流れ込んでいる。剥き出しの白い肩に触れてみると、少し冷えている滑らかな肌。
枕元の窓が開いている事に気づいて、起こさないよう静かに身を起こした。
「…………ん?」
ぎゅっ。しっかりと握り締められている、右手。無意識にだろうが、細い指が固く絡み付いていた。
まるでもう離れないと決めたかのように。籠められた力に、愛おしさで胸が熱くなった。
すっかり寝静まっているサーギオスの城。悠人達はエーテルジャンプの準備が整うまで、ここで待機となった。
部屋の窓からは、果ての断崖と呼ばれる世界の終わりと先日までラキオス軍を阻んでいた秩序の壁が見える。
暗く深い断崖はどこまでも黒く、夜の闇との境界を濃くぼやかし、そのまま中空へと続く。
明滅している星々が、今日は気持ち少なく見えた。明るく照らす満月のせいだろう。ふと、詩を思い出す。
既に主を失い(元々居なかったのではあるが)、亡国となったこの土地にも、月は平等に輝く。
慈愛に満ちた表情で影を紡ぐ――ファーレーンはそう言っていたが、そう考えてみると月は酷く孤高に思えた。
「ん……ルゥ……」
微かに身動ぎしたファーレーンが、目を擦りながら上体を気怠げに起こす。目を覚まさせてしまったらしい。
悠人は窓から目を逸らし振り向いた。見上げてくるロシアンブルーの瞳。その瞳の奥に、月は映し出されない。
悠人は急に切なくなり、右手を引き寄せる。突然の抱擁に、しかしファーレーンは驚かなかった。
むしろ求めるかのように、悠人の腕の中に大人しく納まる。そこが居場所、そう告げているようだった。
お互いの存在を肌を通して確かめる。鼓動が重なり、優しい旋律を奏でた。
- 22 名前:朔望 lagrima W−1 :2005/11/13(日) 17:37:43 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年レユエの月緑ふたつの日〜§
それぞれの兄と姉に再会と祝福を譲った佳織とニムントールは、一緒の部屋でその夜を過ごした。
代わりといってはなんだが、一時の友情を感じた二人にとっても、この再会が喜ばしいものには違いなかった。
お互いの今までの状況を語り合う。これまでの経緯を交換し合うだけで、夜は更けていった。
やがて話題は自然と最も親密な兄姉の事へと移っていく。
「ええ? じゃあお兄ちゃん、ファーレーンさんの目の事、ずっと知らなかったの?」
「そう。まったく、カオリの前で言いたくないけど、ほんっっっっとうにニブいんだからっ!!」
ぼん、と枕に勢い良く顔を埋めながら、憤慨するニムントール。緑のお下げが激しく揺れる。
寝る前に解いた方がいいのでは、とそんなどうでもいい事を思いながら、佳織は苦笑いを返した。
「あ、あはは……はぁ〜、そうなんだ。ごめんね、わたしからもちゃんと言っとくから怒らないでニムちゃん」
「う〜〜〜思い出したらだんだん腹が立ってきた。大体ユートってば肝心の所が抜けてるんだから」
「う……それは否定出来ないカモ……。でも、ファーレーンさんって凄いなぁ……」
- 23 名前:朔望 lagrima W−2 :2005/11/13(日) 17:40:29 ID:qEkFPymz0
-
「でしょでしょっ! ……ってえ? お姉ちゃん?」
「うん、だってそんなどうしようもないお兄ちゃんに、それでも想ってくれているなんて凄いよ」
「…………あったり前。お姉ちゃんはお姉ちゃんなんだから」
急に姉を褒められて、恥ずかしくなったのか真っ赤になりながらやや意味不明の言葉を呟く。
佳織はそんなニムントールにくすっと小さく笑い、そしてうっとりと天井を見つめた。
「あ〜いいなぁ、二人とも…………あ!」
「わ! 何? 大声出して――」
「ねぇねぇニムちゃん、わたしもファーレーンさんのこと、お姉ちゃんって呼んでいい?」
「――――へ?」
「ニムちゃんもお兄ちゃんを、お兄ちゃんって呼んでいいから。ね、みんな家族になるんだよ?!」
名案、と言わんばかりにはしゃぐ佳織を前にして、ニムントールは完全に硬直していた。
どこから突っ込んだら良いのか判らない。唐突に何を言い出すのか判らないのはやはりあの兄にしてこの妹なのか。
――――だが、最後の「家族」という響きだけは新鮮に思えた。
「別に……カオリがお姉ちゃんって呼ぶのは構わないけど」
そう返すのが、精一杯だった。言ってから、自分が悠人を「お兄ちゃん」と呼ぶ事を想像してみる。
一瞬で、茹蛸みたいに顔に体中の血液が集まるのを感じた。頬が熱い。ぼんっと音が聞こえてくるようだった。
(……ばっかじゃないのっ!)
ニムントールはそれから枕に顔を埋めたまま、暫く起き上がることが出来なかった。
- 24 名前:おにぎりの中身の人 :2005/11/13(日) 17:40:32 ID:Hq6QauHj0
- 支援します
- 25 名前:朔望 風韻 T−1 :2005/11/13(日) 17:43:44 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年レユエの月緑いつつの日〜§
レスティーナの戦争終結宣言から遅れて3日後。サーギオスとの戦いを終えた悠人達はラキオスへと帰還した。
国民は皆一様に永きに渡った戦乱の終止符が打たれたと喜びに湧いている。街はお祭り騒ぎが続いていた。
しかし肝心の事実――瞬が何か異様な変貌を遂げ、飛び去ったという事――はまだ伏せられている。
すでに大陸が統一されているこの状況で、瞬一人が残った処でどれだけの脅威なのかがまだ未知数だった。
終戦のどたばた(主に旧サーギオス領の占領・保護等の兵士達への引継ぎ)に忙殺されて先送りになっていたが、
今日こそは時深に話を聞こうと悠人は王宮の廊下を歩いていた。
時深は帰着早々レスティーナに拝謁し、賓師の待遇を受けている。事実上瞬を退けられたのは彼女の力だ。
近所の神木神社で出会った、どこか不思議な印象を受けた巫女の少女。介抱された時に見た、銀色の剣。
記憶がはっきりしてくるにつれ、あれは永遠神剣だったのだと今なら判る。
すると彼女もまたこの世界に呼び込まれた、所謂エトランジェなのか。しかし瞬と交わしていたあの会話。
何度か出てきた聞いた事のない単語。――――エターナル。あれは一体何を指しているのだろう。
英語なら…… eternal。必死に記憶の底から引き出す受験単語。確か、永遠とか、そんな意味だったような。
どこかへと去って行ってしまった瞬と彼女の戦いを思い出す。記憶を残像だけが駆け抜けていた。
それでいて、その桁違いの破壊力だけは鮮明に憶えている。どれも一撃が致命傷になってしまうような攻撃。
『求め』を得、スピリットですら敵わない力を持ってしてもその戦いに介入する事が出来なかった。
隔絶された“差”などという物では無い。対峙すれば次に待っているのは絶対の死。本能が怯えていた。
- 26 名前:朔望 風韻 T−2 :2005/11/13(日) 17:45:00 ID:qEkFPymz0
-
(その時深でさえ……瞬は互角以上に渡り合っていた。一体瞬に何が起こったんだ?)
あの、腕が一体化したような禍々しい形状の赤い剣。『誓い』は戦いの最中に瞬を「飲み込んだ」。
そして膨れ上がった神剣の意志。それはもう『誓い』の時とは「位」そのものまで違うプレッシャーを感じた。
あれは『誓い』では無いのだろうか。だとして、『求め』でその剣に対抗出来るのだろうか。
どちらにせよ今の瞬を放っておいていいわけが無い。悠人は一度唾を飲み込み、そして時深の部屋の扉を叩いた。
「悠人さんですね……どうぞ」
まるで来るのが判っていたかのような、時深の声。悠人は一瞬違和感を感じたが、そのまま部屋に入った。
相変わらず巫女服姿の時深が迎える。神社で会った時そのままの穏かな表情。軽くベッドに腰掛けていた。
「あ、あのさ……時深」
「秋月瞬は神剣の意志に同化しました。悠人さんが最後に見た秋月瞬……あれは永遠神剣第二位、『世界』の姿」
「な……」
「今の悠人さん……第五位『求め』では、対抗すら出来ません。それほど二本の間には隔絶された力の差が有ります」
まるでこれから訊ねようとした事を既に承知しているような物言い。悠人は座りかけた椅子から腰を浮かせていた。
「ふふ……座って下さい悠人さん。今お茶を入れますね。話は長くなりますから……」
ふいに表情を緩め、少し朱の混じった大きな瞳で覗き込みながら静かに立ち上がる。
悠人はまるで催眠術にでもかけられているかのように、大人しく椅子に腰を下ろした。
背中を向け、お茶の準備を始める時深。何をするでもなくその背中を見ている程に、違和感が強くなる。
こぽこぽとカップにお茶が注がれる音だけが辺りに響く。悠人は徐々にその重苦しい沈黙に耐え切れなくなった。
「なぁ、時深って一体……」
「エターナル、でしょう? そうですね、何からお話しましょうか……」
そしてまた、質問を先回りで答えられてしまう。悠人はどうしていいか判らなくなり、とりあえず黙って頷いてみた。
するとやはり、見えてもいない筈の時深が小さくくすっと笑うのが白い巫女服の背中越しに聞こえた。
- 27 名前:朔望 風韻 T−3 :2005/11/13(日) 17:47:57 ID:qEkFPymz0
-
時深の話を黙って聞いていた悠人は、途中で何度も手にしたカップを取り落としそうになった。
それは、もう想像の範疇というものを軽く超えた“真実”だった。現実に遭遇していなければ笑い飛ばしていた所だ。
エターナル――――それは永遠神剣第三位以上の持ち主が持つ称号だった。
歳も取らず、成長もせず。eternal。先程思い浮かんだ英単語の意味は、あながち的外れでもない。
広域存在とも呼ばれる彼ら(彼女ら)は、もう気が遠くなるほど昔から二つに分かれて戦い続けていた。
それも、この世界だけではなく、全世界、全時空の中で。あらゆる世界が彼らの戦場だった。
争点は、たった一つ。細かく分かれた神剣を一つに纏めるか、それぞれの意志従ってそれを阻止するか。
前者がロウ、後者がカオスというらしい。彼らは決して“表”には出てこない。常に歴史全体を操作する。
それでいてカオスにはその存在を歴史本来には影響させない、そんな不文律まであるというのだ。
そしてロウは、ここファンタズマゴリアを一つの戦場に選んだ。いや、この世界の神剣も、というべきか。
以前、エスペリアに聞いたことのある伝説の四人の王子。彼らの争いも、エターナルの仕組んだものだった。
それどころかファンタズマゴリアに人類が発祥する前からその準備は行われてたという。
「じゃあ、スピリットという種族も元々は……」
「ええ。神剣を効率良く回収する為に彼らが造り出した、道具に過ぎません」
「そんな……」
エターナルの時間の尺度というものは生身の人間には到底計り知れない物らしい。実際、想像もつかなかった。
目の前の時深が、もう何百年もの間、そうして戦って来た一人なのだと、目の前で説明されてもなお。
- 28 名前:朔望 風韻 T−4 :2005/11/13(日) 17:51:39 ID:qEkFPymz0
-
――――そして今回は、自分達が選ばれたという訳だ。このファンタズマゴリアでの、ロウの最後の仕上げとして。
ソーンリーム台地。聖地と呼ばれるそこには、この世界で最高位の剣『再生』が眠っている。
ファンタズマゴリアに存在する神剣のうち、『求め』、『空虚』、『因果』、そして『誓い』。
高位の四本を『再生』に回収し、その力でこの世界のマナを一気に纏め上げ、滅ぼす。それが彼らのシナリオだった。
時深やカオス陣営も色々と妨害してきたが、この世界の戦いでは最初から後手後手を踏んでいたらしい。
一つは、龍の存在だった。カオス陣営が創り出した門番が、他の世界からの侵入を有る程度阻害していたらしい。
ロウ側が仕掛けなければ防御出来ない、そんな人手が足りないが故の防犯思想が裏目に出た。
時の流れからすればホンの些細な出遅れらしいが、そんなものは実際この世界に生きているものには関係が無い。
「予定では、悠人さんの『求め』が『誓い』に吸収されなければ防げる“目覚め”でした」
「つまり俺が負けた場合って事か……でも実際、瞬は『世界』に飲まれちまったんだろ?」
「はい。彼の歪みは相当気に入られたようです。『誓い』の中で休眠状態だった『世界』が目覚めてしまった」
「そして取り込まれた瞬ごとエターナルになったって訳か……」
「いえ、まだエターナルには成りきれていません。それでも今は私の“視た”未来の中で、最も最悪な状況です」
「最悪って……それほど相手が強いってことだよな?」
「もう、防ぎようがありません。彼らは『再生』の暴走を既に始めようとしています。終末のマナ暴走を」
「何か……何かないのか? 放っとけばこの世界が無くなっちまうんだろ?」
「落ち着いてください、悠人さん。手段は……無い事もありません」
そこで一度、ふう、と小さく溜息をついた時深は、じっと悠人を見つめた。その瞳に迷いが走る。
「…………悠人さん、どんな事をしても守りたいものはありますか?」
「――――え?」
それは、以前ファーレーンから受け取った問いかけと全く同じものだった。
- 29 名前:朔望 風韻 T−5 :2005/11/13(日) 17:54:18 ID:qEkFPymz0
-
「あるけど……いや、あるよ。それも沢山。でもそれが……」
「それでは言います。悠人さん、エターナルになるつもりはありませんか?」
「…………は?」
間抜けな声が漏れる。汗の滲む両手。悠人は咄嗟に返事が出来なかった。理解が追いつかない。
「俺が……エターナル、に?」
「悠人さんにはそれだけのポテンシャルがあります。そうすれば守る事が出来るかもしれません。沢山のものを」
「いや、ちょっと待ってくれ! さっきの時深の話だと、エターナルってのは……」
「……はい。今までの、人としての歴史全てが無かった事になります。具体的にいうと関わった人全てに――」
―――――忘れられます
ぎしっと座っていた椅子が、鈍く響く。悠人はいつの間にか立ち上がっていた。
部屋に、重苦しい沈黙が流れる。間延びされた時間が二人の間に深く横たわっていた。
仄かに輝く灯りの炎が波のように揺らめく。窓明かりにゆるやかに伸びている、二本の影。
どれ位そのままで居ただろう。ゆっくりと、時深が口を開いた。
「ごめんなさい。悠人さんが苦しむのが判っていて、こんな選択しか用意出来なかったこと。でも」
「――――いや、ならない」
「…………え?」
何度も、“視た”未来。そのいずれに於いても悠人が選んだ答えはイエスだった。
それを先読みした時深が謝ろうとした時。しかし、悠人の答えはその時深が、予想もしない一言だった。
「ごめん、時深。でも、自分が犠牲になって守りたい“人”を守る、俺はもうそんな考えは止めたんだ」
「………………」
「ずっと、一緒にいる。そう、約束したんだ。俺は、“俺にしか”守れない人を守りたい。だから」
「………………プッ」
「もっと他に何か出来ることを探すよ…………って時深?」
「ふっ……ふふふふっ! あはっ、あはははははっ!」
「え、え? 俺なんか可笑しな事言ったか?……なぁ、時深、時深って!」
時深は、可笑しかった。悠人が拒絶した事が。だから『最悪な状況』と言ったのに。戦いにも――自分の恋にも。
言えなくて、それでも“予想外”が可笑しくて。目尻に溜まった涙を払いもせずに時深は笑い続けた。
- 30 名前:朔望 badinerie :2005/11/13(日) 17:56:46 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年レユエの月黒ひとつの日〜§
「で、どうなんだヨーティア。ファーの目は見えるようになるのか?」
「う〜ん難しいねぇ、こういったケースは初めてなんだ。大体あたしゃ医者じゃないしね」
「おい、そんな投げやりな言い方ってないだろ!」
「ちょっと落ち着きなさいユートく……こほん、ユート」
「ふぅ……全く酷いよな。レスティーナもエスペリアも知っていたなんて。俺一人だけ馬鹿みたいじゃないか」
「も、申し訳ありませんユートさま」
「ユート、エスペリアを責めるものではありません。これはファーレーンの意志だったのですから」
「レスティーナに言われたくないな、まったく……そんな状態のファーを戦場に送るなんて」
「…………ユートくん、いじわるだよ」
「いや判ってるさ、それがファーなんだって。だから……治せないかな?頼むよ」
「こればっかりはねぇ……専門であるエスペリア殿が首を傾げてるんだ」
「は、はい。わたくしもハリオンも、一体どういう事なのか混乱してまして」
「ハリオンまで知って……ってそっか、そうだよな。ニムに怒られて当然だ。……ひょっとして俺、鈍いのかな?」
「……今更気づいたのですか?ユート」
「……今更気づかれたのですか?ユート様」
「まったくボンクラだねぇ。今更気づくなんて」
「お前ら……」
――――ところでユート、話がある。
- 31 名前:朔望 風韻 U−1 :2005/11/13(日) 18:00:20 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年レユエの月黒ひとつの日〜§
何か出来ることはないかと思い、ヨーティアの研究室を訪ねた悠人は、予想外の研究成果を聞かされた。
――――数日後に、現代世界に帰るための『門』が開く――――
話によれば、時深の出現によってヨーティアの研究に飛躍的な進歩が加えられ、
それによって『門』――ファンタズマゴリアと現代世界を繋ぐ通路のようなもの――を開く事が出来るようになった。
難しい説明は半分も理解できなかったが、ただ今回を逃すともう数千年は無理らしい。
更に、これ以上のエターナルの介入を防ぐ為、『門』に『蓋』をしてしまうという。
外界との繋がりを完全に切ってしまうのだ。それにより、ファンタズマゴリアは初めて世界として「自立」を得る。
それはレスティーナの理想にも平和にも欠かせないものだが、しかし悠人にとっては素直に喜べなかった。
時深によれば、元居た世界は極端にマナの少ない世界なのだ。スピリットが生存出来るような場所ではない。
ファーレーンが一緒に来れない以上、自分が残るしかない。それはいい。悩みは、佳織の事だった。
佳織はどうするだろう。元々現代世界に生きてきたのだから、帰るのが望ましい事は確かだったが、
そうなると佳織は独りぼっちになってしまう。かといって、残れと押し付けるのも今の悠人には出来なかった。
「悠人さん、佳織ちゃんには私から」
「……いや、俺から話すよ。俺が話さなきゃいけないんだ」
兄として。もしかしたら最後になるかもしれないこの役目を、時深に譲るわけにはいかなかった。
- 32 名前:朔望 風韻 U−2 :2005/11/13(日) 18:04:15 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年レユエの月黒みっつの日〜§
そう決心はしたものの、中々話し出す切欠を掴めない。
悠人はスピリット隊隊長としての業務をエスペリアから山のように依頼されていたし、
佳織は佳織でレスティーナの仕事を自主的に手伝っているらしく、昼間はすれ違いっぱなしだった。
話の内容が内容なので出来ればじっくり話し合いたいと思ったが、そんな機会は到底見つかりそうもない。
時深が探った所によると、どうやら敵はソーン・リーム台地に篭って何かを企てている気配らしい。
そんな事まで判るのか、と内心呆れる思いがしたが、いずれにせよ戦いはすぐそこまで迫っていた。
市民に明かさないまま一国が戦闘準備を行うのだ、忙しいのは関係者全てが一緒だった。
言い出せないまま一日を過ごした悠人は結局いい考えも浮かばず、苦し紛れにファーレーンの部屋へと向かった。
同じ妹を持つ者同士、相談したら何か良い知恵が出てくるかもしれない、そんなある意味安直な気分で。
一日顔を合わせなかったので寂しい、という事ももちろん、少なからずあることはあるが。
「ファー、今いいかな?」
部屋の扉をノックする。こん、こん、と乾いた木の軽い音が響き、すぐに中から返事が聞こえた。
「あ、お兄ちゃん! 丁度良い所に来てくれたね!」
「か、佳織?!」
しかし期待はものの見事に裏切られた。ファーレーンとニムの部屋から飛び出してきたのは当の佳織。
部屋の奥で「なんだユートか」とでも言いたそうな顔でこちらを睨んでいるニムントールの姿も見える。
二人とも既に寝巻き姿だった。その属性(?)に相応しく、萌葱色のさらっとした上下のニムントール。
もう寝る所だったのか、いつも両側で纏めている髪を下ろしている。意外と長く、それは肩まで掛かっていた。
一方の佳織は淡い薄紫のワンピースっぽいやや幼いものに身を包んでいたが、それがやけにだぶついている。
(…………まさか、ファーのを借りてるのか?それにしては子供っぽいけど)
一瞬思ったが、本人(ファー)の名誉に関わるような気がするので深く考えないようにした。
- 33 名前:朔望 風韻 U−3 :2005/11/13(日) 18:07:54 ID:qEkFPymz0
- 佳織に腕をひっぱられ、部屋に入る。それにしても、と髪を下ろしたニムントールに新鮮さを感じていると、
「…………なによ」
不機嫌そうにぷい、と目を逸らされてしまった。悠人は床に胡坐をかきながら、言い訳のように話しかけた。
「いやあのさ、ファー、知らないか?」
佳織本人を目の前にして相談相手のファーレーンを探しているという奇妙な事態は、どうも落ち着かない。
切り出してみたのはいいが、同じように床にすわっている二人ともが目を丸くしてこちらをじっと見つめてくる。
その視線が何だか冷ややかな(最もニムントールはいつもの事だが)気がして、悠人は焦った。
「…………なんだよ二人とも」
「あのねお兄ちゃん、お兄ちゃんが知らないのに私達が知ってる筈ないよ?」
「……てっきりユートのトコだと思ってた」
「う…………」
指摘され、顔が熱くなる。言われてみれば最近たまに、ファーレーンは夜を悠人の部屋で過ごしている。
そんな事も忘れる位、悩んでいたのかと我ながら悠人は呆れてしまった。そんな兄に佳織が助け舟を出す。
「それよりあのね、今ニムちゃんと話してたんだけど……」
「あ、カオリ、まだ駄目だってばっ!」
何だか嬉しそうに話す佳織に、何故かニムントールが慌て出す。珍しさに思わず悠人は聞き返していた。
「へぇ、相変わらず仲が良いな。 それで? 何話してたんだ?」
「お兄ちゃんとファーレーンさんの結婚式、いつしようかなって」
「……………………は?」
ニムントールがあ〜あ、言っちゃったなどと残念がっているが、目に映るだけで頭にまでは届かない。
ハイ? ケッコンシキ……イツニシヨウカ? ナニヲ? 謎の表音文字が頭の中を駆け巡る。
何故だか嫌な汗が頬を流れた。悠人は妹向けの優しい笑みを向けたまま、その場に凍り付いてしまっていた。
「――――お兄ちゃん? お兄ちゃんってばっ!」
目の前で手の平を振る佳織のアップを認識したところで、ようやくはっと我に返る。
そして我に返ったとたん、物凄い羞恥心が言葉を急き立てた。
「けけけ、結婚? 結婚だって?! 冗談だろ? いやそもそも何でそんな話になってるんだよっ!!」
- 34 名前:朔望 風韻 U−4 :2005/11/13(日) 18:10:27 ID:qEkFPymz0
-
「…………ユート、イヤなの?」
動揺し、捲くし立てる悠人に何を勘違いしたのか、ニムントールの緑の瞳に怪しい光が走る。
いつの間にか手繰り寄せた『曙光』が主人の意向に忠実にマナを帯びて淡く輝き出していた。
悠人は思わず腰が引けるのを感じながら、それでも必死に弁解した。
「イヤだなんて言ってないだろ? ただファーの気持ちもあるし、大体今は戦いの真っ最中でそれどころじゃ」
「バカッ、ユートッ!!」
「あ…………」
鋭いニムントールの口調に慌てて口を噤むが、もう遅かった。
「うん……戦い、まだ、続いてるんだよね……」
佳織の表情が一気に暗くなる。事態の深刻さは、レスティーナの仕事を手伝っている佳織にも痛いほど判っている。
自分が足手まといなのでは、と思っている事も悠人は薄々感づいていた。ましてや相手は佳織もよく知る瞬である。
無神経な事をつい話題にしてしまった事に、悠人は心底後悔した。
「……ごめん。そんなつもりじゃ無かったんだ」
「ううんううん。私こそごめんなさい、こんな時に。……でもねお兄ちゃん、こんな時だから、なんだよ」
「? どういう意味…………」
「――――だって私、もうすぐ帰らなくちゃだから。その前に、我が侭を一つだけ聞いてもらえないかな」
その一言に、部屋の中が沈黙で満たされた。じじ、と灯りの炎が揺らめく音だけが暫く流れる。
悠人は動けなかった。知っている。佳織は知っていて……そんな想いだけがぐるぐるといつまでも続いた。
「……時深、か…………」
悠人の呟きにこくん、と頷き、黙って窓に顔を向ける佳織。横顔が月の光に青白く映った。
「月が綺麗だね……ね、お兄ちゃん、ファーレーンさんのこと、好き?」
「え、あ、ああ。…………好きだ。離れたくない、と思ってる」
決して視線を合わせずに淡々と訊いて来る佳織の横顔を見つめながら、悠人は懸命に言葉を返した。
答えに満足したのか、一度小さく頷いた佳織がゆっくりとこちらに向き直す。真剣な眼差しだった。
「…………うん。だからね、お兄ちゃんはここに残ってファーレーンさんをちゃんと幸せにしなくちゃダメ」
「でもそれじゃ、佳織が……佳織を独りぼっちにするなんて俺には」
「ダ、メ。大丈夫だよ、私は。小鳥もいるし。それにね……私もちゃんと見つけないと、駄目だから」
- 35 名前:朔望 風韻 U−5 :2005/11/13(日) 18:13:22 ID:qEkFPymz0
- 少しづつ震えだす声。それでも表情だけは決して崩さず、佳織は話し続けた。
(あの、佳織が……)
幼い頃からいつも悠人の背中に隠れ、何かに怯えるようだった佳織。守らなければ、と思った小さな存在。
そんな佳織が、初めて自分の道を自分で進むと決心し、そして歩こうとしている。突然思い出す、銀色のフルート。
悠人は、焼き付けようと思った。成長し、強くなった妹の姿を。この目に、しっかりと。決して忘れないように。
「私自身の幸せを。独りでも、見つけようと思うんだ――――」
「でもね、最後にお兄ちゃんと『家族』の想い出が欲しいんだ。いつ思い出しても笑えるように」
「佳織…………わかったよ」
胸元にぎゅっと手を当て、思い詰めたように見上げてくる佳織。悠人は堪らなくなり、思わず首を縦に振った。
「ホント?! ……ありがとう、お兄ちゃん」
「ああ……でも約束だ。絶対に見つけるんだぞ」
ん、と頷く佳織が目元の涙をようやく押さえる。悠人は感慨で胸が一杯でそれ以上何も喋れない。
場に、しんみりとした空気が流れる。と、唐突にそれまでただじっと黙って様子を見ていたニムントールが口を開いた。
「という訳でユート、これ以上カオリの心配事を増やさないようにしなくちゃね」
その一言に応えるかのように、佳織の表情に明るさが戻った。
「ふふ。そうだね。お兄ちゃんの花婿姿を見れば私も安心してファーレーンさんにお兄ちゃんを任せられるし」
「ちょっと待てよ二人共、俺ってそんなに頼りないか?」
「頼りないよね」
「ね〜〜♪」
お互いを見合い、笑いあう二人。ようやく戻った雰囲気に、悠人はほっとして苦笑いを返しながら頭を掻いた。
- 36 名前:朔望 風韻 U−6 :2005/11/13(日) 18:14:58 ID:qEkFPymz0
-
「あのな。大体まだファーの気持ちを確かめてないじゃないか。話はそれからだろ?」
「あ、それ問題ないから」
「へ? ニム、それってどういう……お、おい」
戸惑いの声を無視して、いきなり立ち上がったニムントールがすたすたと部屋の端の方へと歩いていく。
目で追っていると、そのままこん、こん、と軽くタンスをノックした。妙な流れに悠人は何だか嫌な予感がした。
「な……まさか……」
「ね、聴こえてたでしょお姉ちゃん。だから心配いらないって言ったのに」
瞬間、悠人の全身は再び凍りついた。
「ホラお姉ちゃん、恥ずかしがってないで出てきなよ。ユート、オヨメサンにしてくれるって。よかったね」
ぎぎぎ……とやや軋んだ音を立てながら、部屋の隅に設置してある木製タンスの扉がゆっくりと開いていく。
そこから現れたのは、窮屈そうにしゃがみ込んだまま茹で蛸のように顔中真っ赤にしたファーレーンだった。
「わ、わたし、やめなさいって止めたんですけど…………」
両手を縛られ、外れた猿轡代わりのニムントールの髪結いから、半泣きのまま蚊の鳴くような声で囁く。
(なるほど、だからニムの髪が珍しく下ろされていたのか……)
そんなどうでもいい事を考えながら、悠人はいつまでも開いた口を閉じる事が出来なかった。
- 37 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 18:16:12 ID:DWrgU4is0
- 支援ついでに点呼
なんだかんだで2スレ目から居ついてますよ<12?>
あ、>>1乙です
- 38 名前:朔望 nocturn C−1 :2005/11/13(日) 18:17:19 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年レユエの月黒みっつの日〜§
妹達にさんざんからかわれ、悠人とファーレーンはほうほうの体で詰所を逃げ出した。
なんとなく手を繋いだままリクディウスの森へと入り、『陽溜まりの樹』の根元にまで辿り着く。
駆けて来て乱れた呼吸を暫く落ち着け合った。当然、手はしっかりと繋いだままで。
「ふう〜……全く、あいつら……」
「はぁはぁ……ふふ……でも、楽しかった」
樹の幹に手を当て、額の汗を拭おうとする悠人。ぽたぽたと数滴が地面に黒い染みを作る。
「しかしファー、ニムには本当に弱いんだな。まさかタンスに隠されてるとは思わなかったぞ」
「隠れてた訳じゃないんですけど……あの、でもわたし、昔からニムにはどうしても敵わないんです……ふふ……」
同じように樹の幹にもたれ、胸を手で抑えていたファーレーンがふいに空を見上げた。
「ねぇ、ユートさま。月……出て、いますか?」
「え……あ、ああ。今日は良く晴れてるからな。少し欠けてるけど……ファー?」
「ユートさま……ありがとう、ございます……」
「ファー…………」
ファーレーンは、泣いていた。空を見上げたまま、何も映していない瞳に月の光が反射する。
風に流れたロシアンブルーの髪が運んで来る、煌くような森の匂い。悠人はその清冽な姿に一瞬息を飲んだ。
「なぁ、ファー。その……ウイングハイロゥ開いて見せてくれない、か?」
- 39 名前:朔望 nocturn C−2 :2005/11/13(日) 18:20:28 ID:qEkFPymz0
-
「え……? は、はい」
突然の申し出にやや戸惑いながら、精神を集中させるファーレーン。その背中から、鮮やかな羽が現れる。
ふわさぁ、と眩しく羽ばたくハイロゥに、悠人はやっぱり、と思った。身長をゆうに越える、凛とした白い翼。
初めて見た時、この翼に魅かれた。月に映し出される影と光。その幻想的な美しさに女神――戦乙女を連想したのだ。
そっと触ってみる。淡く光を放つ幾枚もの白羽が奇跡的に織り合い、思いがけない温かみを生み出していた。
「綺麗だ……」
「…………はい?」
漏らした一言に、一瞬何のことか判らないまま首を傾げていたファーレーンの顔が、みるみる赤くなっていく。
「あ、あのあの、わたし……そんな……」
両手で顔を覆い、俯いてしまう。連動するように、ぱたぱたと気ぜわしく羽ばたくウイングハイロゥ。
そんな子供っぽい仕草に、悠人は苦笑した。
そうしてもう一度、やっぱり、と思う。時折見せる、そんな無防備な素直さ。そんな彼女に惹かれたのだ、と。
「順番が逆になっちゃったけど……ファーレーン。俺と、結婚して下さい。家族に……なろう?」
「あ…………」
驚き、勢い良く顔を上げた円らな瞳にみるみる大粒の涙が溜まっていく。
やがて精一杯作り出そうとした笑顔をくしゃっと崩したまま、ファーレーンは
「は、い…………」
感極まったような嗚咽と共に、そっと悠人の胸に顔を埋めた。両手できゅっとシャツを握り締める。
『家族』。スピリットとして生まれた彼女にとって、そんな信じられない幸せと、決してはぐれないように。
- 40 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 18:20:38 ID:9hH4tbJ70
- 支援…今回は最初で最後
orz ガクリ…
- 41 名前:朔望 風韻 V−1 :2005/11/13(日) 18:22:55 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年レユエの月黒いつつの日〜§
「それでは、エトランジェ……タカミネユートとファーレーン・ブラックスピリットの結婚式を執り行います!!」
レスティーナの高らかな宣言に、わっと周囲がどよめいた。
佳織がファンタズマゴリアから帰ってしまう日が、ホーコの月青よっつの日に決まった。
つまりその日が悠人にとっても佳織にとっても、「家族」との最後の別れとなる。
慌しい日程となったが、ヨーティア曰くこの日が最も『門』の同調が安定するのだという。
それに伴い、悠人とファーレーンの婚礼の日取りも決まった。段取りは佳織が率先して進めた。
「ニムちゃんと相談したんだけど、向こうの様式でいいって。結婚式なんて見た事無いからって」
部屋でそう話されても馬鹿みたいに頷くしか無い。てきぱきと準備をする佳織の背中を見ながら、
(こういう時、佳織って本当に楽しそうだよなぁ……)
などと他人事のようにそんなどうでもいい事を思い浮かべる他にしょうがなかった。
何故か本人達を置き去りにするという法則がここでも生きているらしく、
悠人もファーレーンもやや呆然とその様子をただ見守り、知らない間に流されるようにこの日を迎えていた。
- 42 名前:朔望 風韻 V−2 :2005/11/13(日) 18:24:01 ID:qEkFPymz0
-
いつの間にか用意された着慣れないスーツと格闘し、いつの間にかアセリアが作ったという指輪を与えられ。
いつの間にかちょっと御洒落をしたネリーに腕を引かれて式場の謁見の間にまで連れて行かれる。
普段見た事のないネリーの髪を束ねた大きな黄緑のリボンを見つめながら、悠人はつらつらと考えていた。
(レスティーナも、暇じゃないだろうに……なにもこんな大げさな所を選ばなくても)
話を聞いた女王陛下は、祝福しつつこの結婚式を国のイベントとして大々的に宣伝してしまっていた。
エトランジェとはいえ、「人」とスピリットの婚姻。歴史上かつてない状況を、政治的にも活用したのだ。
ようやく理解を得られつつあるとはいえ、まだ平等とはいえない「人」とスピリット。
以前から根強い“妖精趣味”という悪癖のイメージが残っているせいか、その辺にはまだ除き難い壁がある。
「ユートとファーレーンの誓いが、この世界の新たな架け橋となってくれるのです」
真面目な顔でそんな事を言われても、口元に笑みを浮かべられたままでは全然説得力が無い。
どこかで面白がっているのは明白だった。もしかしたら多少の“やっかみ”も入っているのかもしれない。
どちらにせよ公の場、それも王と騎士、といった立場での“国政会議”でそう言われては断る訳にはいかなかった。
重臣達が半ば憐憫の視線を送ってきていたのを覚えている。いずれも元情報部の面々。
彼らの表情が、妖精趣味といった蔑みではなく、純粋に玩具にされた悠人への同情と判るだけに哀しかった。
話を漏らした佳織に文句を言ってみたが、
「え〜、だってやっぱりこういうのは、大勢でお祝いする方がいい事なんだよ。賑やかな方が楽しいし」
と一顧もされずに断言された。こういうの、というのは具体的にどういう事なのかは遂に聞けなかった。
- 43 名前:朔望 風韻 V−3 :2005/11/13(日) 18:26:44 ID:qEkFPymz0
-
「ほらユートさま、何か言ってあげなよ〜!」
肘で軽く小突かれて、はっと顔を上げる。気づくと既に謁見の間の前にまで来ていた。
左に開けた廊下。庭から差し込んだ夕日が右手にある木製の巨大な扉をオレンジ色に染め上げている。
そこから今日の日の為に準備された赤い絨毯が左右に伸び、廊下の反対側に立つ二人の影を映していた。
「あ…………」
同じようにシアーに手を取られている人影。夕日に反射したその姿を見た悠人は、そのまま硬直した。
きめ細かい純白のドレスが朱に輝き、ふんだんに飾られた銀の装飾がきらきらと煌く。
中世の貴族を思わせるゆったりとしたスカート。そこからきゅっと締まった腰の部分に施されている網目状の黒い模様。
大きく開いた胸元に光る、エメラルドグリーンの宝石。銀の刺繍が龍の紋章を形作り、胸の辺りを包んでいた。
しかしそれら全てよりも、おずおずと顔を上げたファーレーンに悠人は見とれた。
薄いベールの向こうで、はにかむように見上げてくる瞳。軽く染めた頬が夕日に眩しい。
そよそよと流れる風にたなびくロシアンブルーの髪の色が胸元の宝石とよく似合っていた。
「も〜! ほらぁ、ユートさまったらぁ」
「あ、ああ…………ファー、綺麗だ…………」
「え〜、そんな事しかいえないのぉ〜?!」
期待していたらしいネリーががっくりと肩を落とす。
不満そうに頬っぺたを膨らまされても、ただそれだけしか言えない。一方のファーレーンも、
「あ、ありがとうございます……あの、ユートさまも……格好良い、です…………」
そういって、真っ赤になったまま俯くだけだった。
ネリーとシアーはそんな二人の様子を見、そして互いの顔を見合わせ、くすっと小さく噴き出していた。
- 44 名前:朔望 風韻 V−3 :2005/11/13(日) 18:28:51 ID:qEkFPymz0
-
「それでは、新郎新婦の入場です……」
おごそかな進行役のヒミカの台詞と共に、皆の注目が一斉に扉に集中する。ゆっくりと開かれる扉。
おお〜と殷々とした溜息が謁見の間に響き渡る。悠人は予想外の人の数に一瞬腰が引けた。
(なっ……なんだコレ!?)
思わず叫びそうになった口を懸命に閉ざす。部屋は、まるでキリスト教の教会みたいに改築されていた。
まず部屋の中央には真っ赤な絨毯が引かれ、それが最奥にまで続いている。
通路の両側には黒い長椅子がびっしりと並べられ、振り向いている人、人、人で埋め尽くされていた。
窓が無かったはずの部屋には幾つかの窓がくりぬかれ、はめ込まれたステンドグラスは妙な原色を組み合わせ。
正面の壁に飾られたイエス・キリストのようなものは良く見ると水晶を貫いた一本の巨大な剣の油絵だった。
銀の鎖が絡まっている所を見ると、エーテル変換施設がモチーフなのかもしれない。かなり凝った出来だった。
指輪といい、アセリアが絡んでいるのは間違いない。悠人はようやく夢から醒めたように意識がはっきりしてきた。
(…………みんな、仕事しろよ)
ここは本当に戦いを目前にした国の王室なのだろうか、などと呆れていると、奥の祭壇?から声が響く。
「な〜にやってるんだいユート、早く来な!」
長い白衣に身を包み、どうやら聖書のつもりらしい科学書を片手にヨーティアがくい、と眼鏡を上げ、
ゴーン、ゴーン……と世界の終わりのような鐘の音がどこからか響き出す。悠人は眩暈を感じた。
「はぁ、まあいいか……さ、ファー」
一体どれくらいの手間をこの短期間にかけたんだと呆れながらも悠人はファーレーンに腕を差し出した。
なんだかんだ言っても、みんなの好意は嬉しい。恥ずかしげに腕を絡めてくる花嫁。
にこっと微笑み返してくる表情を確認し、悠人は歩き出した。ぱちぱちと、つつまし気な拍手に送られて。
- 45 名前:朔望 風韻 V−5 :2005/11/13(日) 18:30:32 ID:qEkFPymz0
-
通り過ぎる二人の両脇で、戦友達が笑顔を送ってくる。全員が拳を握り、親指を立てて冷やかしていた。
時深やレスティーナの姿も見えた。相変わらずの時深の巫女服姿に、場的にいいのだろうかと苦笑する。
そして佳織、隣にニムントール。いつもは素直じゃないニムントールも、この時ばかりは瞳をきらきらとさせ、
眩しそうに姉の晴れ姿を見送っている。ファーレーンがちら、と妹のいる辺りに顔を向け、そっと微笑んだ。
やがて二人は、王座の正面に立った。周囲よりやや高めに設置された祭壇から、ヨーティアが降りてくる。
目の前に立った神父(?)は一度ちらっと悠人を見て意味不明のウインクをしたあと、
「あ〜ややこしい事は苦手でね、手早くいくよ。新郎ユート、汝は妻ファーレーンを永遠に愛すると誓うか?」
などといきなりぞんざいになった。しかしその方が“らしいな”と思い、悠人は笑いを堪える。
肩の力が急に抜け、すらすらと出てくる想いに気持ちが高まってきた。憎まれ口がついて出る。
「ああ、誓う。だけどヨーティアじゃ不安だからな、俺は俺に誓うよ」
そう元気に言い放つと、悠人はやにわにファーレーンの肩を抱いた。そして戸惑う花嫁にそのまま唇を押し付ける。
「ユ、ユートさま? ん……んん…………わ、わたしも誓い……ル、ルゥ…………」
何かを言おうと離れる口を追いかける。と、すぐにファーレーンの身体からすとん、と力が抜けた。
そっと悠人の背中に腕を回し、遠慮気味に首に絡み付いていく。おお〜という溜息と、きゃぁという悲鳴が沸きあがった。
「こらユート、段取りが……まぁいいか」
ヨーティアが呆れて首をぽりぽりと掻いている。構わず、そっと離れた悠人はファーレーンの手を取った。
「愛してる、ファーレーン。絶対に……離さない」
そして先程渡された指輪を滑らすように左手の薬指に通す。
その意味を前もって知らされていたのか、ファーレーンは素直に応じた。
やがて嵌められた銀色に輝くそれをいとおしそうに右手で包み込みながら、
「わたしも誓います……ずっとユートさま……ユートの側に居ると。ナイハムート、セィン、ヨテト……ソゥ、ユート」
見上げた顔を逸らさずにはっきりとそう告げる。同時にわっ、と歓声が二人を包み込んだ。
- 46 名前:朔望 風韻 W−1 :2005/11/13(日) 18:32:44 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年レユエの月黒いつつの日〜§
厳かに行われた礼式の後、披露宴が第二詰所で行われた。流石にここからは身内だけとあってつつましい。
戦いの準備で灰神楽が立つような騒ぎの中、質素ながらも作られた会場に、悠人は温かい温もりのようなものを感じた。
「ぱぱぁ〜カッコよかったよ〜!」
飛びついてくるオルファ。
「はぁ……ファーレーンさん、綺麗……」
うっとりと見つめるヘリオン。
「マナの導きに――――」
「――――乾杯」
向こうで、ヒミカとウルカが早くも杯を交わしている。
「ユートさま、それにファーレーン。おめでとうございます」
「エスペリア。……なんだかまだ、実感が湧かないけどな」
「ふふ……わたくしも、なんだか弟の晴れ姿を見るようで……あ、も、申し訳ありません」
「いや、エスペリアには世話になったからな。俺もその、姉のように思ってたかも。……ありがとう」
「ユートさま、わたくし、わたくしは……」
ハンカチを取り出し、そのままよよよと泣き崩れるエスペリア。どうやら少し飲んでいるらしい。悠人は頭を掻いた。
「まいったな……」
「ユートさま」
「うわっ、なんだナナルゥか。いきなり背後に立つなよ」
「この度はご結婚おめでとうございます。この良き日を迎えたことを私以下スピリット隊一同心より祝福申し上げ……」
延々と語り出すナナルゥの頬が少し赤い。嫌な予感に悠人は周囲を見回し、
「んふふぅ〜ユートさまぁ〜。ファーレーンさんを不幸にしたら、めっめっですよぉ〜」
「おまえら全員、もう飲んでるのかよっ!!!」
しなを作って迫るハリオンに引っ張られつつ、叫んでいた。
- 47 名前:朔望 風韻 W−2 :2005/11/13(日) 18:34:54 ID:qEkFPymz0
-
連れて行かれる悠人をあっけに取られつつ見送っていたファーレーンに、声をかける少女がいた。
「ファーレーン、さん?」
「あら、貴女は……」
くん、と軽く鼻を上げたファーレーンは、咄嗟に思い出す。それは先日、マロリガンで聞いた声だった。
「ええと確か……クォーリンさん」
「はい、稲妻のクォーリンと申します。今はラキオスで、教練指導を行わせて頂いています」
「……ええ、伺っています。今日は、ありがとう」
にっこりと微笑みかけるファーレーンに戸惑いながら、クォーリンはぎゅっと唇を噛み締めた。
「今日は、訊きたかったのです。何故……どうして貴女はそんなに幸せそうな顔を出来るのですか?」
「え……?」
「私達は、スピリット。殺し合い、剣と共に生き、剣と共に死すべき存在。それなのに貴女はどうして……」
「……クォーリン。あの時も言いましたけど……貴女の主は、本当にそんな事を望んでいましたか?」
「…………っ」
「剣の声に従うよりも大切な、自分自身で戦うその意味を。きっとそれを、コウインさまも望んでいたと思います」
「な、そっ……そんな事が、何故貴女に判るというのっ!」
「だって……コウインさまは、ユートさまの大切な人だから。多分、同じ事を言うのではないのかと。……違いますか?」
「なっ…………」
クォーリンは、絶句した。ファーレーンの言う事一つ一つに、光陰の面影がダブって見える。
そして間違っているところか、それは一々正鵠を得ていた。クォーリンは肩に入っていた力をふっと抜いた。
「ありがとう、少し判った気がします……それから、おめでとう。幸せに。私と、そしてコウインさまの分まで」
「ええ……でもクォーリン、貴女にもきっとあると思います。それがコウインさまの生きた証なのですから」
ファーレーンの声に、立ち去りかけた背中がぴくっと弾ける。クォーリンは一度微笑み、そして去っていった。
- 48 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 18:35:24 ID:iWAGM3Nk0
- 支援
- 49 名前:朔望 風韻 W−3 :2005/11/13(日) 18:36:50 ID:qEkFPymz0
-
「ユートさま、聞いてらっしゃいますか? 大体貴方にはいつもいつも隊長としての自覚が…………」
詰所の面々に囲まれた悠人は、さっそくセリアに絡まれていた。近づいた顔からの吐息が酒臭い。
いつもからは考えられない乱れっぷりで、そのしなやかな身体を押し付けてくるのには閉口した。
意外とボリュームのある胸が腕に押し付けられ、気のせいか熱くなっている太腿も先程から擦り付けられている。
「わかった、わかったから……なあアセリア、セリアっていつも酔うとこうなのか?」
悠人は対面で大人しく料理を摘んでいるアセリアに助けを求めるように問いかけた。
するとフォークを口に加えたまま、アセリアは相変わらずの無表情で不思議そうにその光景を見つめ、
「ん。ユート、もう少しセリアの好きにさせろ」
などと意味不明の言葉を返し、そのまま食事の続きに取りかかった。何故か少し嬉しそうでもある。
「いやそうじゃなくてだな……うひゃっ!」
そうこうしているうちに、甘い吐息が耳元をくすぐる。蒼のポニーテールがさらさらと前に流れて色っぽい。
悠人は体中が熱くなってきて焦った。ちらっとファーレーンの方を見ると、誰かと話しているようだ。
この状態を見られないのはせめてもの救いだと思った。しかしほっとしているとセリアの攻撃が再開される。
「ねぇ、聞いてるの? だってしょうがないじゃない……どう接したらいいのかなんて誰も教えてくれなかった……」
益々訳が判らなくなる台詞を飛ばしつつ、急にしゅん、となってしまう。俯いたせいで表情が見えなくなった。
「お、おい、一体何言って……セリア?」
「………………う゛」
「え……わぁっ! おいセリア、ちょっとだけ我慢しろ! アセリア、バケツかなんかないか!」
「ん。準備済み」
「…………さ、さんきゅ」
「ん」
なんでそんなに用意が良いのかと疑問に思ったが、取り合えず引ったくり、セリアの前へ。
するとそれをじーっと見ていたセリアはきっと睨んだかと思うと、無言でそれを持ってどこかへと行ってしまった。
「…………足元ふらついてるけど大丈夫かな?」
「ん……セリア、可愛い」
「…………いや、それはどうかと思うぞアセリア」
「ユート……鈍感」
冷たい視線で言い放ち、セリアの後を追うアセリア。一体何がなんだかさっぱりだった。
- 50 名前:朔望 風韻 W−4 :2005/11/13(日) 18:38:54 ID:qEkFPymz0
-
「やれやれ…………ってうわっ!」
「お姉ちゃんに……言いつけてやる」
安心したのも束の間、いつの間にか隣にニムントールが座っている。ついでに目も据わっていた。
両手で抱え込んだコップに入っているのはどこかで見覚えのある液体。あれは確かヨーティアの研究室で……って。
「ニム……それ酒だろ?」
「大体ユートってほんっっっっっと〜〜に優柔〜不断なんだからっ!」
「いや、それ酒だろ? なぁ」
「判ってるのっ!? お姉ちゃんを泣かしたら、ニムゆるひゃなひんだひゃら」
「だから酒だろっ! ダメじゃないか、そんなの飲んだら!」
「ユートさま〜、女にはぁ、飲まずにはいられない時があるのですよぉ〜?」
「そうだようお兄ちゃん…………きゃははははははは」
「佳織までっ! ハリオン、何やって……ってうわっ! 止めろぉ!!」
「きゃははは〜! ユートさまぁ、顔あか〜い」
豊満な肉体を押し付けてくるハリオンの胸の隙間から、ネリーが指を指して笑っていた。
既に沈没したらしいシアーとヘリオンがその隣ですやすやと眠っている。
助けを求めて向こうを見ると、
「む、中々やりますな、これが噂に聞くイッキノミというものですか」
「まだまだこれからよ、今日は飲み明かすんだからっ!」
ウルカとヒミカの飲み合戦が白熱の展開を見せていた。
- 51 名前:おにぎりの中身の人 :2005/11/13(日) 18:41:24 ID:Hq6QauHj0
- 支援いっとくよ
- 52 名前:朔望 風韻 W−5 :2005/11/13(日) 18:42:07 ID:qEkFPymz0
-
結局エスペリアにみんなの後始末を頼み、こっそりと抜け出したのはそれから小一時間も経った頃。
悠人はどっと疲れた身体を詰所の壁に寄りかからせ、外の空気を思いっきり吸い込んでいた。
「ふふ……お疲れ様です」
声に振り返ると、いつの間にか普段の戦闘服に着替えたファーレーン。腰には『月光』も下げていた。
「ファー、着替えちゃったんだな。綺麗だったからもう少し見ていたかったけど」
「え、ええ。こんな時ですから……」
少しはにかみながら、それでも真面目に呟く。“こんな時”とは戦時中、という意味だろう。
悠人はその一言に一抹の寂しさを覚えた。隣に来たファーレーンの手をぎゅっと握る。
握り返してくる温もりを確認して、黙って空を見上げた。真っ暗な空に無数に浮かぶ星達。ぽっかりと浮かぶ満月。
夜鳥の囀りに混じってときおりわっと歓声が上がる詰所に、悠人は知らず苦笑していた。
今日は楽しかった。いつの間に、こんなにみんなで居る事が楽しくなったのだろう。
集団に、どこか馴染めなかったどうしようもない孤独癖。それがすっかり影を薄めている事にふと気付いた。
「楽しかった、な」
「……はい。楽しかった、です」
呟きに、同じ答えが返ってくる。くすっと微笑むファーレーンの気配が、悠人は嬉しかった。
「でもいいのかな。こんな時にお祭り騒ぎをしているなんて、さ」
戦いはまだ終わってはいない。こうしている今も、いつ敵襲を受けてもおかしくはないのだ。
「こんな時、だから……」
同じように空を見上げていたファーレーンが、そっと囁いていた。
「こんな時だから、みんな再確認したいの……自分が守りたいもののことを……私達はスピリット、だから……」
- 53 名前:朔望 風韻 X−1 :2005/11/13(日) 18:44:08 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年ホーコの月青みっつの日〜§
いよいよ明日は佳織が現代世界に帰るという日、悠人は佳織と最後の日常を一緒に過ごした。
それは当たり前な、“向こう”では普通に行ってきた事。普通に出かけ、普通に話をし、普通に笑いあう。
たった一日に凝縮させたそれを大事に胸にしまいこむように、兄妹はおだやかな日差しの中を歩いた。
やがてヴァーデド湖を遠く望む、高台へと辿り着く。佳織はうわぁ、と歓声を上げて悠人にしがみついた。
「ねね、お兄ちゃん、綺麗だねぇ〜!」
「ああ、なんたってとっておきの場所だからな」
「んふふ〜、ねね、ファーレーンさんはもう連れて来た?」
「どうでもいいけど佳織、何だか口調がハリオンに似てきたぞ。まぁ、連れて来たけどな」
「いいなぁ〜わたしもこんな所に恋人さんと来てみたい〜」
「な! ま、まさか佳織、誰かいるのか? そんなの初耳だぞっ!」
「も〜そんな訳ないよ〜。わたし、ずっと捕まってたんだよ?」
「あ、ああ……そうだった」
「ふふ、小鳥にも見せたかったな、こんな素敵な景色……」
眼下は全てオレンジ色に輝く夕暮れ時。温かみのある光が柔らかく風景を包み込む。
目を細めてきらきらと反射する湖面を見つめる佳織の横顔を眺めながら、悠人はふいに哀しくなった。
もう、自分は守ってはやれない。佳織もそれを望んではいない。互いに分かれようとしている道。
それでも何かを見つけようと歩き出した妹に、かけられる言葉を懸命に捜した。
「なぁ、佳織……」
「ん、なに、お兄ちゃん」
「恋人、見つけたら……絶対紹介しろよ。俺がじっくり品定めしてやるから」
「…………くす……お兄ちゃん、まるで姑さんみたい。でも……うん、わかったよ……絶対、だね……」
「ああ……絶対だ……」
絶対に、叶わない約束。少しくぐもった声で、兄妹が交わした最後の約束だった。
- 54 名前:朔望 風韻 X−2 :2005/11/13(日) 18:45:46 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年ホーコの月青よっつの日〜§
城の庭に設置された、“門”。夜の闇をぼう、と白く染めた大掛かりな機械の前に、皆が集まって来ていた。
「カオリ〜! うう゛、もういっちゃうの〜!」
「こらオルファ、カオリさまを困らせてはいけません。ちゃんと送り届けて差し上げないと」
「いいんです、エスペリアさん。ごめんねオルファ……でもわたし、絶対オルファを忘れないから」
「オルファも! オルファも絶対絶対忘れないよ! トモダチだから……」
「うん、ずっと友達だよ、オルファ」
佳織は一番仲が良かったオルファリルと抱き締めあい、別れを惜しんだ。
続いて次々とスピリット達が佳織と最後の別れを交わす。
「カオリ殿……忘れませぬ、カオリ殿に教わった事。どうか、お元気で」
「そんな、私なんか何も。むしろ助けてもらってばっかりで……有難うございました。ウルカさんも、お元気で」
やがて人ごみを抜け、装置の前に待つ悠人達の所に行く。
そこにはヨーティア、レスティーナ、ファーレーン、ニムントールも居た。
「カオリ……貴女には、辛い思いばかりさせてきましたね」
「レスティーナさん……ううん、でも、これで良かったんだと思いたいです。私も、お兄ちゃんも」
「カオリ…………どうか、元気で」
「ほらニム、ちゃんとカオリさまに挨拶しないと」
「う、うん…………」
ファーレーンの後ろに隠れていたニムントールがようやく前に出る。
初めて対面した時と同じ仕草に、佳織はくすっと笑った。自分からニムントールの両手を取る。
「あ……」
「ニムちゃん、お兄ちゃんを頼むね。何かしたら、遠慮しなくていいから」
「……う、うん! ニムに任せて!」
「お、おい」
「お兄ちゃんも、ファーレーンさん泣かしちゃダメだよ。ファーレーン、お姉ちゃん……お兄ちゃんを、宜しくお願いします」
「!! ……はい……はい、カオリさま……カオリ……どうか、お元気で……」
皆の前で小さな頭をぺこり、と下げる佳織に、感極まったファーレーンが泣き出した。
- 55 名前:朔望 風韻 X−3 :2005/11/13(日) 18:46:58 ID:qEkFPymz0
-
一通りの挨拶を終えた佳織が、ふいに全員に振り向く。背後の機械から浮き上がるマナ蛍。
青白く広がる光。悠人はその光景を決して忘れない。目に焼き付けようと思った。
「わたし、皆さんに何のお礼も出来ないけど……せめて、これだけ聞いてください」
そう言って佳織が鞄から取り出したもの。銀色に輝くそれは、銀色のフルートだった。
大事そうにさすり、一度だけ悠人の方を見る。悠人は頷き返した。それを確認した佳織の瞳が静かに閉じられる。
そうしてそっとフルートに口を当て、佳織が奏で始めた曲は。遠くラキオスに伝わる、夜想曲だった。
「カオリさま…………」
ファーレーンの脳裏に、あの日の孤独が蘇る。城の一角、月夜に響いた哀しいメロディー。
顔を上げ、視線を向ける。旋律の中に、視えた気がした。今は変わった佳織の姿が。見えない筈の強い姿が。
サクキーナム カイラ ラ コンレス ハエシュ
ハテンサ スクテ ラ スレハウ ネクロランス
ラストハイマンラス イクニスツケマ ワ ヨテト ラ ウースィ…………ルゥ………………
知らず、口ずさむ。零れ落ちる詩は、フルートの深い音色と相まって、夜空に吸い込まれていく。
この世界に無いはずの奏鳴。舞い落ちるマナ蛍の円舞。
二人は、奏でた。ファンタズマゴリアの詩を。ハイペリアの楽器で。別れまでの、それは最後の安らぎ。
悠人が守り続けてきた笑顔との、別れ。そして守り続けていく泣き顔への誓いだった。
演奏が終わった後の静寂さえも包み込む余韻(リリース)。夜想が呼び込む風韻(かざおと)。
その場にいた全員が、その幻想的な時間を心に刻み込んだ。
- 56 名前:朔望 風韻 X−4 :2005/11/13(日) 18:51:08 ID:qEkFPymz0
-
「……時間だ、ユート」
「……ああ。佳織」
「……うん」
やがてヨーティアの一言と共に、機械がぶぅん、とうねり出す。
それまで少し離れた所で見守っていた時深が、神剣『時詠』に何かを唱えていた。
「それじゃ佳織、ちょっとの間だけ……お別れ、だ」
「……うん、先に帰って待ってるね……お兄ちゃん」
「ああ、帰ったら、佳織の好きなナポリタンを腹一杯ご馳走してやるからな」
「くす……憶えていてくれたんだ。……うん、待ってる」
白く輝き出す佳織の身体。“門”に吸い込まれていく佳織から、悠人は決して目を逸らさなかった。
ぐにゃり、と歪む視界。耐え切れなかった涙が両目から溢れ出す。
「……お兄ちゃん、今まで有難う……大好きだったよ……」
「ああ……ああ! 忘れるなよ佳織、俺はこの世界でも……佳織を絶対に見守ってるからっ!」
佳織は微笑んでいた。いつもと同じ、少し寂しそうな瞳で。それでもしっかりと、強い意志の籠められた瞳で。
――――忘れないよ、お兄ちゃん……――――
耳に残った佳織の最後の言葉を、悠人はその場に立ち尽くしたまま何度も反芻していた。
マナ蛍の影が一つ、また一つ消えていく。折り重なる離別を名残惜しむように舞い散る光の欠片。
ふと、頬に温かい感触。いつの間にか、隣にファーレーンが寄り添っていた。
覗き込むように、なぞるような仕草で悠人の顔に残った涙の筋を優しく追いかける。
「…………泣いて、いるのですね」
「……いや、もう大丈夫だよ。大丈夫……」
悠人はそっと、手に自分の手を重ねた。絡ませた指に、遠くぼやける景色を引き付けるかのように。
- 57 名前:朔望 風韻 Y−1 :2005/11/13(日) 18:52:26 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年コサトの月青みっつの日〜§
佳織がこの世界を去ってから、二ヶ月が過ぎた。
その間、悠人達はサーギオス軍を吸収して巨大になったスピリット隊の編成に追われ、多忙を極めた。
ヨーティアの研究と時深の協力の下、次第に基盤を堅固にしていくレスティーナ。
ラキオスはその結束力を強化しつつ来るべき戦いに備え、一歩また一歩と前進していった。
ちなみに悠人とファーレーンは、結婚早々別居生活を余儀なくされていた。
「ニム、お姉ちゃんと一緒じゃなきゃ絶対ヤだからね」
びっと目の前に指を突きつけられ、悠人は新居について大臣様(レスティーナ&エスペリア&時深)に相談した。
もとよりファーレーンも悠人もニムントールを今更一人っきりにするつもりは無かったが、
新婚ほやほやの二人には第一詰所と第二詰所の距離はやはり色々と遠すぎる。
又、悠人の立場上、姉妹と三人、今までのような相部屋では同居が出来ない。
エスペリア曰く、
「隊長がそのようでは皆に対する示しがつきません」
かといって、どこかに広い家を探すにも収入が無い。
レスティーナ曰く、
「三人の為だけに別宅を用意するほど国の財政は豊かではないのです」
とぴしゃりと言われては悠人としても返す言葉も無かった。
何だか別の思惑もあるような気がしないでもなかったが、引き下がるしかない。
「ふふ、悠人さんだけが幸せになっちゃ、ダメなんですよ」
などと含みのある一言を時深にまで言われ、結局元のままの生活に戻った。
そんな訳でささいなごたごたもあったが、着実に行われる施政の影で、最後の戦いに向けての準備は少しづつ進む。
- 58 名前:朔望 風韻 Y−2 :2005/11/13(日) 18:53:20 ID:qEkFPymz0
-
そしてこの日が訪れた。
「スピリット隊は時深殿の指揮の下、ソーン・リームへと向かいます!」
エスペリアの緊張した宣言が、謁見の間に響き渡る。そこに集った全員から無言の頷きが返った。
正面に、新たな王冠と衣装に身を包んだレスティーナが立ち上がる。
その両脇を時深と悠人が固め、更にヨーティア、エスペリアと続いていた。世界を支える、最後の戦いが始まった。
この二ヶ月間の調査で、ロウエターナル達が篭っているソーン・リーム中立自治区には
今まで確認された事の無かったスピリットが多数防御を固めている事が判明した。
時深の話によると、どうやら彼女達はエターナルの力を一部とはいえ引き継いでいる、
完全に自我を失ったスピリット――エターナル・ミニオンと呼ばれているものだった。
それが旧マロリガン領ニーハスから唯一ソスラスへと辿り着ける一本道に、数多く潜伏している。
幸い今はまだそこからこちらに侵攻してくる気配はないらしい。
もし彼女らが攻めてくれば、ただでさえ少数なこちら側は一方的な蹂躙を受けてしまう。
ソスラスの更に奥、ソーン・リームの最深部、キハノレが最終的な目的地である以上、
準備が整ったのなら後はこちらから出来るだけ早く攻めるのが上策だった。
既にニーハスに設置されたエーテルジャンプ施設が稼動を始めている。
レスティーナがすっと前に出る。左手を前に上げ、戦いの宣誓を口にしようとした時だった。
「…………っ皆さん! 私と悠人さんの後ろにっ!」
突然背後を振り返り、手にした『時詠』を構える時深。緊迫した声に、別の穏かな声が被さる。
全員が一斉に王座の奥に目を凝らした。
――――ふふふ……いよいよですわね……
ゆらり、と空間が歪む。その高く澄んだ声は、ふいに現れた気配から放たれた。異様に充溢していくマナ。
「法皇自らのおでまし、という訳ですか」
時深が溜息交じりにそう呟いていた。
- 59 名前:朔望 風韻 Y−3 :2005/11/13(日) 18:57:10 ID:qEkFPymz0
-
――――何も無い空間から、“彼女”は現れた。
淡く光り輝くマナの中心で、口元には薄っすらと微笑みを帯びながら。
まるで童話に登場する魔法使いのようにだぶついた白い服。袖口と胴部分の中央を真っ直ぐ貫く黒のライン。
大きめの帽子から無造作に跳ねたプラチナブロンド。後ろ髪が二房、両脇から靡いていた。
幼い大粒な瞳が冷たい金色(こんじき)の光を放っている。くすくすと、無邪気に零れる含み笑い。
中世から抜け出してきたような格好が小悪魔的(コケティッシュ)な印象を醸し出していた。
きぃぃぃぃん…………
『気をつけるのだ、契約者よ。外見に惑わされてはならぬ』
悠人の心の中を覗いた『求め』が激しく警鐘を鳴らしてくる。言われなくても、悠人の手には汗が流れていた。
先ほどから輝く、人の目にもはっきりと判るであろうオーラフォトンの束。
マナが凝縮されたそこからは、明らかに今までとは桁違いのプレッシャーが漲っていた。
そして彼女の小さな外見におおよそ不釣合いな、錫杖のようなもの。銀色に煌くそれが、“人”を否定していた。
――エターナル。時深に聞いていた圧倒的な存在が、今正に目の前に“浮かび上がっていた”。
「ふふふ……今回もやりあうことになるとは思いませんでした。……いい加減、わたくし飽きましたわ」
「因縁というものでしょうね。――――法皇、テムオリン」
油断無く睨みつけながら、時深と少女が王座の前で言葉を交わす。
旧知なのか、その会話自体は何の変哲も無いもの。ただ、お互い言葉に感情というものが全く無かった。
緊張を孕みながら、それでも周囲は誰一人としてその場を動かない。いや、動けなかった。
二人のエターナルが生み出した異様な空間。
そこは、一歩でも迂闊に足を踏み入れればたちまち消滅してしまうという錯覚を、充分本能へと叩き込む。
悠人を含め、全員が固唾を呑んでそれを見守るしかなかった。
- 60 名前:朔望 風韻 Y−4 :2005/11/13(日) 18:58:42 ID:qEkFPymz0
-
「…………あら?」
時深と話していたエターナル――法皇テムオリンの視線が、ふいに悠人に向けられる。
「なるほど……時深さんの読みも、たまには外れますのね」
「…………っ?」
外見とは裏腹に、妖艶な笑み。悠人は『求め』を握る手に力を入れた。油断すると魅入られそうだった。
「これでは多少、趣に欠けますけど……まぁいいですわ。その瞳、気に入りましたよ坊や」
「……光栄だな。お礼に一つ忠告しておく……その変な服で、あんまり外を出歩かない方がいいと思うぞ」
精一杯の力を籠めての、最大限の皮肉。悠人の挑発に、テムオリンの眉が一瞬ぴくり、と反応する。
「…………その蛮勇に敬意を表して褒美を差し上げましょう。完全なる……そして絶対なる破壊を……」
「ぐっ! う、ぁぁ……」
突き刺さるような、それでいて何の抑揚も無い冷静な声。抜き身の刀を首筋で嬲られているような感覚。
どっと汗が噴き出す。今度こそ悠人の全身は戦慄で貫かれ、そして指一本動かせなくなった。
「……まぁいいですわ。とにかく私たちは、この世界のマナを全て『世界』に取り込む事にいたします。あしからず」
ふっと圧力が抜ける。テムオリンが時深と向かい直した途端、悠人は腰が落ちそうになった。
「そうはさせません!」
時深の凛、とした口調に、力が湧いてくる。悠人は搾り出すように叫んでいた。
「……負けるかよ!」
「うふふ……。坊やが強がって、カワイイじゃないですか。時深さん、私に譲ってくれませんか? 徹底的に……」
声に、もう一度悠人をちらっと横目で見たテムオリンは、酷く紅い舌でちろりと自らの唇を舐め、
「可愛がってあげますわ…………いやというほどに……ね」
地の底から響くような低く抑えた声で、妖艶に微笑んだ。
- 61 名前:朔望 風韻 Y−5 :2005/11/13(日) 18:59:21 ID:qEkFPymz0
-
「それではゲームを始めましょう。私は部下を四人連れてきました」
沈黙してしまった場をよそに、テムオリンが淡々と説明を始める。
「タキオス……ここに」
しゃらん、と意外に軽い音が錫杖から響く。高く揚げたその先に、青白い光で形造られた“門”が発生した。
しゅぉぉぉぉ…………
光が再び謁見の間を包む。たった一人その眩さに囚われなかったファーレーンは、突然現れた別の気配に愕然とした。
(これは…………この、気配は…………)
かつてこの場で感じた気配。虚無が全身を包みこむ。
「テムオリンさま……。タキオス、参りました」
忘れもしない、この絶対的な“死の匂い”。タキオス、と名乗る男の声を聞いた時、ファーレーンの中で感情が弾けた。
「許、さない…………」
「……お姉ちゃん?」
姉の異常な一言に、隣で立ち尽くしていたニムントールがはっと我に返る。
恐る恐る首を傾げると、そこにはかつて無いほど怒りの表情を見せたファーレーンが『月光』にマナを迸らせていた。
「…………む?」
不審気にタキオスが振り向く。気配を正面から受け止めたファーレーンは一気に飛び出そうとして――――
「…………ぬん」
「あぅっ!」
「お姉ちゃんっ!」
“視えない”はずの視界一杯に広がる闇にその力を全て飲み込まれ、その場に崩れ落ちた。
- 62 名前:朔望 風韻 Z−1 :2005/11/13(日) 19:00:07 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年コサトの月青みっつの日〜§
ニムントールが慌てて身体を庇うようにファーレーンの肩を掴む。
「つまらん。……が、良い“目”をしている。ふむ、あの時の妖精か……真の力を見せてみろ」
「どうかしましたか、タキオス?」
「…………いえ、なんでもありませぬ。…………ほう、また時深か。よく会うな」
タキオスは既に、ファーレーンの方を向いてはいなかった。何事も無かったかのように、時深に話しかけている。
――――あの時と同じ。何をした訳でも無い相手に手も足も出ず、力を奪われた。
「許せない……許せないのに…………」
ファーレーンは自分の無力さに、口惜しげに唇を噛んだ。
突然倒れたファーレーンに声を掛ける事も出来ず、悠人は正面の光景に目を奪われていた。
「不浄のミトセマール。水月の双剣メダリオ。業火のントゥシトラ」
相変わらず禍々しい気配を撒き散らしながら、淡々とした口調で続けるテムオリン。
そしてその背後に立つ、巨大な男。全身を筋肉で鎧われた褐色の肉体を、毛皮のような上着一枚で覆っている。
彫りの深い顔立ちに、太い眉。その奥で光る鋭い眸芒は肉食獣が獲物を狙う時の正にそれだった。
手にする、黒光りする巨大な鋼。男の身長すら凌駕する神剣が、無骨な男の性格を物語っていた。
「そして、統べし聖剣シュンと私がお相手致しましょう」
ごくり、と悠人の喉が唾を飲み込む。“瞬”。その一言に、どくん、と心臓が跳ね上がった。
サーギオスでの最後の姿が目に浮かぶ。それでも身体が、金縛りになったように動かない。焦燥だけが頭に渦巻く。
これが、エターナル。そしてこんな相手が後四人……いや、瞬はまだ不完全という時深の言葉を信じれば、後三人。
それでも三人。目の前が一瞬昏くなる。じわじわと広がっていく、絶望感。
- 63 名前:朔望 風韻 Z−2 :2005/11/13(日) 19:02:50 ID:qEkFPymz0
-
きぃぃぃぃん…………
「ほぅ…………」
「あら……?」
興味を示したらしいタキオスが声を漏らす。テムオリンも意外そうな顔で悠人の方を凝視した。
『契約者よ、囚われるな。心を強く持て』
突然輝き出す手の中の『求め』。今まで協力的とは決して言えなかったそれだけが、この状況で依然冷静を保っていた。
「……さんきゅな、バカ剣」
伝わってくる、つまらなそうな気配。悠人は苦笑する余裕さえ窺いながら、敵を睨みつけた。
恐怖は無い、とは言えない。しかし不思議な連帯感が、悠人を包んでいた。
「時間ですわね…………それでは、ご機嫌よう」
気を取り直したテムオリンが静かに囁く。翻した錫杖の先に、三度(みたび)“門”が開いた。
優雅に挨拶をしながら消えていくテムオリン。同様に消え往くタキオスの眸が一度ちらっとファーレーンの方を向いた。
「…………お前と剣を交えることを楽しみにしている」
しゅぉぉぉぉ…………
二人のエターナルの姿が消え去った後も暫くの間、謁見の間には静寂が流れていた。誰も口を利けなかった。
- 64 名前:朔望 風韻 Z−3 :2005/11/13(日) 19:04:49 ID:qEkFPymz0
-
ブンッ……ブンッ!
その夜。悠人は一人森の中で、『求め』で素振りを繰り返していた。
明日はいよいよニーハスなのだが、気が昂ぶって眠れそうにも無い。がむしゃらに剣を振りたい気分だった。
『……あまり無理をするな。何事も、一朝一夕では為らぬ』
「…………珍しいな、お前が俺の心配をするなんて。さっきといい、どういった心境の変化なんだ?」
強制し、他の神剣を砕く為に散々血を要求していた『求め』。それが、明らかにロウエターナルに敵意を向けていた。
持ち主の意志などお構い無しだった辺り、むしろ向こう側に与してもおかしくない、と悠人は不思議だった。
そんな疑問を読み取ったのだろう、『求め』が呟く。
『……我の望みはただ、『誓い』を砕く事。その為の障害は取り除くべきだ』
「なるほどな…………っと!」
ビュンッ! 台詞の途中で腕を振り下ろす。『求め』は不機嫌そうに黙り込んだ。
急に腕が重くなり、バランスを崩してよろける。悠人は息を荒げながら、一度休憩を取る事にした。
『契約者よ。我を信じよ…………仲間を信じよ』
「……今日はどうしたんだ? 気持ち悪いぞ、お前からそんな言葉を聞くなんて、な」
『……ふん、単なる気まぐれに過ぎん。どうやら契約者を選び損ねたらしい』
「よく言うぜ……。でもまぁ、言いたい事は判ってる。一人で戦うつもりなんて、最初から無い」
『ならば、自分一人で背負うな。それを悲しく思う者とている筈だぞ。それこそが汝の“求め”だったのだろう?』
「…………心を読むな、バカ剣」
『………………つくづく面白い奴だ』
悠人は、憮然としたまま草叢に腰を下ろした。ひんやりした感覚が頭を冷静に澄まさせてくれる。
- 65 名前:朔望 風韻 Z−4 :2005/11/13(日) 19:05:29 ID:qEkFPymz0
-
がさっ。背中に、草を踏む微かな音。
「…………そうだな」
悠人はゆっくりと振り向いた。そこに、不安そうな顔をしたファーレーンが立っていると確信して。
「よ。ファーも眠れなかったのか?」
「はい……ユートさまも、ですよね」
腰に、『月光』が無い。寝巻き姿のファーレーンは、明らかに何かの気配を感じ取って駆けつけたのだろう。
何の根拠も無いのに悠人はそう思った。また、優しい嘘。悠人は立ち上がり、ファーレーンの手を取ってやった。
「あ、ありがとうございます」
二人は黙ってそのまま草の上に座り、自然に身を寄せ合った。
悠人はぼんやりと空を見上げる。糸のように細い月が水平線上に浮かんでいた。
- 66 名前:朔望 風韻 Z−5 :2005/11/13(日) 19:06:16 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年コサトの月青よっつの日〜§
旧マロリガン領ニーハスを、元首都とは逆の北から抜けた方向に伸びる、一本の細い道。
雪に埋もれかけたそれが、中立自治区に指定されていたソーン・リーム台地の入り口だった。
寒々と急に下がった気温が、ここが別種切り離された土地だと実感させる。
鋭い、棘のような葉が生い茂っている木々に、気温の低さを窺える細かいパウダー状の雪が積もっている。
ファンタズマゴリアで唯一雪の残るこの台地は、生える樹木さえ他の地とは違う種類のものだった。
口元から漏れる息が白いもやとなり、消えていく。ぎゅっ、ぎゅっ、と何かを捻じ切るような音を立てる足元。
元々普段からこの世界でも神聖視され、宗教的な意味合いの強い為、訪れる人々の数も極端に少ない。
彼らが使う道が、ちゃんと整備されている筈も無かった。両側から木が押し寄せてくるような錯覚すら覚える。
誰もが初めて見る雪に最初こそ物珍しさを感じて高揚していたが、すぐにそんな余裕は無くなった。
――――ガッ! ガガガッッッ!!!
剣同士が削りあう嫌な音が、あちらこちらで響き渡る。その度に震える大地。弾けるマナ。
舞いあがった雪煙がたちまち互いの姿を眩ます。日中でありながら、薄暗い戦場。
急勾配の雪山の斜面。悠人達はそこで分散し、敵の反撃を受け止めていた。
「くっ! こ……のぉ!!」
「セリア、落ち着いてっ! 深追いは禁物よ!」
「わかってる、わっ! でもこうも戦術を無視されたら……きゃぁっ!!」
「セリアっ! この……どきなさいっ! ハリオン! ナナルゥ! セリアの支援をっ!」
「あぅ、さっきからぁ、やってるんですけどぉ〜」
「……不可能です。敵の動きが予測できません」
「…………くっ!」
「やらせませんっ!!」
間一髪、飛び込んできた時深の一撃に、ずだずだに引き裂かれて消滅していく敵の少女。
戦場は、終始そんな予断を許さない状況が続いた。
- 67 名前:朔望 風韻 Z−6 :2005/11/13(日) 19:07:16 ID:qEkFPymz0
-
――――エターナルミニオン。
かつて『カオスエターナル』達が世界を守るガーディアン(守護者)として自らの遺伝子の一部を残した生命。
しかしこの世界に侵入を果たした『ロウエターナル』は、彼らを逆に利用する事を考えた。
始まりのスピリット――リュトリアムを連れ去り、そのコピーをエターナルミニオンとして蘇らせたのだ。
ただし神剣と完全に同化している為意志は無く、もちろん集団で役割を決めたり剣術を使いこなす事も無かった。
しかしそれでもエターナルの劣化コピーとはいえその潜在能力はエトランジェに匹敵する。
戦術も何も無くただ乱雑に剣を振り、強力な神剣魔法を放ってくる彼女達を相手に、
最初は時深の指示により組織的に対抗していたラキオス軍は、それでも次第に分散を余儀なくされていた。
「大丈夫ですか、セリアさん」
「はぁはぁ……え、ええ。助かりました」
倒れこんだセリアに手を貸しながら、時深は『時詠』に力を籠めて周囲を見渡した。
残っている敵は、そんなには多くない。しかし、やはりスピリットには、彼女達の相手はきつ過ぎる。
しかも何故かエターナルミニオンは悠人や時深では無く主にスピリット――特に幼い者に集中して攻撃を仕掛けていた。
恐らくは法皇の支配によるものでしょうけど、と唇を噛む。昔からそうだった。卑怯とか、そんなレベルでは語れない。
「トキミさま……?」
黙り込んでしまった時深に、セリアが眉を顰める。
「…………っ!!」
その時、時深は感じた。かなり離れた場所、一人はぐれた味方が、敵に追い詰められている気配を。
「一番近いのは……悠人さんっ! すぐに西に向かってくださいっ!!」
きん!
『時詠』が共振し、鋭い音を短く放った。
- 68 名前:朔望 風韻 [−1 :2005/11/13(日) 19:09:13 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年コサトの月青よっつの日〜§
『時詠』の共振を受けた『求め』が、警鐘を鳴らす。言われなくてもニムントールの危険は悠人も感じていた。
「うるさいなバカ剣! 判ってる、判ってるけど……くっ」
視線の先、進路を塞ぐように立ち塞がるエターナルミニオン。悠人は歯噛みして彼女達を睨みつけていた。
「はぁっ……はぁっ……」
その頃ニムントールは、一体のエターナルミニオンによって、氷壁の一角へと追い詰められていた。
「くっ……このぉ……」
強がってみるが、既に体力が限界に近い。
展開したシールドハイロゥは度重なる衝撃にがたがたに崩れ、『曙光』を持つ手はぶるぶると震えていた。
ブルースピリットの容姿をしている敵の双眸。
無機質な、爬虫類のような眼光が全身を捕らえ、雪を踏みしめつつゆっくりと近づいてくる。
後退しようとして、どん、と背中に氷の壁が当った。冷たいはずの感触が、痺れて痛みを伴ってしまう。
「全く……しつっこいわね……」
ぎらり、と敵の神剣が黒く輝く。先程から見飽きた黒のウイングハイロゥ。
敵は執拗に追いかけてきた。たった一人で、たった一人を。
それは集団戦闘で常にディフェンスを担当していたニムントールのリズムを完全に崩していた。
グリーンスピリットとしての防御力の高さゆえか、まだ致命傷は受けてはいない。
しかし傷口から漏れていくマナは、どんどん戦闘力自体を奪っていく。
何度も回復魔法を掛けてはいるのだが、マナが希薄な土地のせいか、さっぱり効き目が無かった。
――――ひゅん!
「……つっ!」
ざくん、と敵の斬撃が太腿を切り裂く。また、見えなかった。あまりに速い敵の動き。
シールドハイロゥが意味を成さなくなっている。反射的に避けたが、片足に感覚が無くなった。
バランスを崩して雪の中へと倒れこむ。ばふっと片手をついて四つんばいになったニムントールを一瞥した敵が――
「ククククク…………」
初めて表情らしい表情を浮かべた。口元に、嗜虐的な笑みを浮かべて。
- 69 名前:朔望 風韻 [−2 :2005/11/13(日) 19:13:05 ID:qEkFPymz0
-
目の前のレッドスピリットをようやく倒したファーレーンは肩で息をしながら周囲の気配を探った。
「はぁはぁ……ニム?」
『曙光』の気配が遠い。さっきまですぐそこに居たのに何故そんな所に。思うなり、ウイングハイロゥを羽ばたかせた。
妹のすぐそばに、一個の大きな気配が感じられる。敵。ファーレーンは枝を跳ね上げながら森の中を滑空した。
「ニム……今行くからっ!」
爆発的な力の気配が周りの景色をぐにゃりと歪ませる。頬に感じる、異様な熱気。石のようにぶつかってくるマナ。
ニムントールは悟った。敵が止めを刺しに来る、と。力を振り絞り、よろよろと立ち上がる。
「こんな所で……負けないんだからっ!」
ありったけの力を振り絞り、『曙光』にマナを送る。弱っていた緑色の発光が少しだけ強まった。
りぃぃぃぃん…………
「…………え?」
耳鳴りのような、共振。『曙光』から発せられたものではない。
気を取られ、つい『曙光』を見てしまったのが命取りだった。
「しま……っ!」
一瞬にして殺到した敵の細身の剣が繰り出してきた、突き。かろうじて受けた『曙光』が大きく弾かれる。
「あぅっ!」
両手をかち上げられて尻餅をつきかけた所に、水平に流れてきた敵の神剣が深々と空いた脇腹を抉っていった。
「が、はぁっ!」
ぱぁっと舞い散る赤い霧。空気中に離散するそれが自分の血なのだと、仰向けに倒れながらニムントールは悟っていた。
- 70 名前:朔望 風韻 [−3 :2005/11/13(日) 19:15:56 ID:qEkFPymz0
-
「う、うう……」
大の字になったニムントールを、エターナルミニオンの冷たい瞳が見下ろしている。
まだ意識はあるものの、すでに時間の問題だった。どくどくと流れる鮮血がみるみる周囲の雪を赤く染めていく。
ざっ、と耳元で聞こえる足元。敵が迫っている。反射的に、ぴくりと指が動いた。無意識に探る『曙光』。
しかし弾かれた半身は、どこにも無かった。だんだんと混濁してくる意識。
「ちく、しょう…………」
『…………ニムっ!!』
「…………え?」
幻聴かと、思った。呼びかけに、遠く答える声。首に力を入れて顔を上げる。敵が別の方角を向いていた。
――――がぎぃぃぃん……
瞬間。弾かれた剣の甲高い音がニムントールの意識を引き上げる。ふわり、と目に飛び込んでくる白い翼。
「お姉ちゃっ……かはっ!」
舞いあがった雪の煙幕の向こう。離れた所で敵と鍔をぶつけ合うファーレーンの後姿があった。
『月光』に籠めた力を爆発させる。視界に広がる白の閃光。弾け飛ぶマナの光芒。迫る漆黒の眸。
ファーレーンの心に共鳴した『月光』の力がエターナルミニオンの力を凌駕する。
「よくもニムを……許しません!」
「…………クッ!」
対する敵が、初めて苦悶の表情を見せる。敗北の予感ではない。剣を通して流れ込んでくる感情が不快だった。
押し合いながら、ふいに足を蹴り上げる。雪が舞い、鋭い爪先がファーレーンを襲う。
しかしファーレーンは計算済みだった。その瞬間を狙って更に『月光』に力を籠める。
バランスを崩し、敵は倒れる筈だった。ぐっと雪原を踏みしめ、身体を捩ろうとして――――
「しまっ…………」
がくん、と横に流れる軸足。雪が、ファーレーンの踏ん張りを滑らせ、足を取って体勢を崩した。
咄嗟に自分から倒れこもうとした所に、空中に浮かんだエターナル・ミニオンの爪先が翻ってくる。
――――ばきんっ!
辛うじて受けた『月光』が宙に舞った。
- 71 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 19:16:38 ID:DWrgU4is0
- C
- 72 名前:朔望 風韻 [−4 :2005/11/13(日) 19:18:29 ID:qEkFPymz0
-
丸腰になったファーレーンに少女の神剣が襲い掛かる。振りかぶったそれを籠手で受け流そうとしたファーレーンは
「あぅっ!!」
そのまま身体ごと吹き飛ばされ、大木を圧し折ってずるずると沈み込んだ。止めを刺そうと敵が更に襲い掛かる。
――――それは偶然だったのか、それとも何らかの意志が働いたのか。
空中をくるくると回転しつつ『月光』が突き刺さったのは、正にニムントールの眼前。
死の刹那に生じた勝機を、ニムントールは逃がさなかった。無我夢中で『月光』を掴み、残りのマナを全て注ぎ込む。
余力を掻き集めて握り締めた柄が手に伝う血で滑らないように、
「…………はぁっ!!!」
ニムントールは、渾身の力を籠めて姉の神剣を投擲した。
一瞬の、隙。
どすっ!
「…………グッ…………アアアアアアアッッ!!」
初めて刀身に緑の光を帯び、うなりを上げて槍の様に飛来した『月光』が、
振り返ったエターナルミニオンのシールドを破り、腹部に深々と突き刺さる。
同時に少女の体を貫いた『月光』が秘められたマナを爆発させ、鍔に引っかかった彼女ごと更に吹き飛び、
そのまま辺りに林立する氷壁の一つを刺し貫いてようやく止まった。
「ぐ、はっ!」
びしゃっと白い壁一面に、花のような血模様が放射状に広がる。
その中心で、墓標ごと縫い付けられた標本が出来上がっていた。
「ウ゛…………ア…………」
叩きつけられた勢いで全身の骨を粉々に砕かれたエターナルミニオンは、
くぐもった呻き声を上げながらくの字に折り曲がった体を見下ろす。
糸の切れた操り人形のようにだらりと下げた四肢には、最早力が入らない。
鍔まで潜り込んだ『月光』を驚愕の表情で見つめながら、何かを呟こうとして、そしてそのまま少女は絶命した。
- 73 名前:朔望 風韻 [−5 :2005/11/13(日) 19:20:05 ID:qEkFPymz0
-
「おい、しっかりしろっ! ニム、ニムっ!」
…………うるさいわね。なによ、今更来て。眠いんだから、放っといてよ。後、ニムって言うな
「待ってろ、今……マナよ、オーラへと姿を変えよ、我らに宿り……」
…………ん? なんだかあったかい。ん〜気持ちいい〜
「……よし、これでなんとか……そっちは大丈夫か?」
「は、はい。もう平気です」
…………お姉ちゃん? そっか、お姉ちゃん……へへ……あったかいなぁ……
「うわっなんだ急に……お、おいニム」
「すみません、この娘ったら! ちょっとニム、離れなさいっ!」
パッションによる応急処置を終えた悠人は、突然しがみつかれて狼狽の声をあげた。
丸まったまま膝の上に収まったニムントールは自分の居場所を見つけた猫のように全身を押し付けてくる。
くにゃっと力を抜いたまま予想外の温かさ。雪にまみれたさらさらの髪から漂ってくる日向のような匂い。
後ろで何故だか動揺しまくったファーレーンがわたわたと涙目で訴えている。
ぱちくり。
「ん……あれ?」
騒がしさに目を覚ましたニムントールは、一瞬自分の状況が判らなかった。
まだぼんやりとした目に、針金みたいな髪が飛び込んでくる。鼻をくすぐる森の匂い。
「お、起きたか。早速で悪いんだけど、その、少し離れてくれないか?」
「ん〜…………ユートぉ?」
「そうだ、悠人だ。ファーじゃないぞ。ファーならそこでイジケてる」
「わ、わたしイジけてなんかいませんっ!」
「そっか……ユートなんだ……」
ぱふっ。
「お、おいだから……」
「ううん……まだ寒い……から……ここで温ったまる……」
呟き、目を閉じるニムントール。頬を摺り寄せ、甘えるような仕草に悠人は戸惑った。
- 74 名前:朔望 volspiel ] :2005/11/13(日) 19:20:54 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年コサトの月緑ふたつの日〜§
『そうか、時深殿の調査は確かだからな、敵は本当にキハノレに篭ってるんだろうさ』
「ああ、明日にでも向かう。レスティーナにもそう伝えてくれ」
『了〜解。それじゃもう切るぞ。イオが晩飯の用意をしなくちゃならんからな』
「…………そんな理由かよ」
『まぁそう言うな。実際マナが不足してるんだ。……ん? レスティーナ殿?』
『ユート、ご苦労様でした。明日出発するそうですね』
「ああ、行って来る。レスティーナの理想は、きっと叶えてみせるよ」
『…………うん。どうか無事で……ユートくん』
「レスティーナ?…………って切れちまった」
共振を終え、輝きの消えた『求め』を暫く眺めた後、空を見上げる。
「必ずみんなで帰ってみせるさ…………レムリア」
国の命運を賭けた筈の戦い。でも、“勝つ”とは決して言わない。
『始まりの地』。雪のせいか、澄み切った空気に、いつもより沢山の星が瞬いて見えた。
- 75 名前:朔望 風韻 \−1 :2005/11/13(日) 19:24:47 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年コサトの月赤みっつの日〜§
「だ、か、ら! あれはニムであって、ニムじゃないのっ!」
「いやそんな事言われても…………なぁ?」
「ええ、ニムったら絶対にユートさまを離そうとしないんだもの」
周辺のエターナルミニオンの撃退をどうやら終えた悠人達は、ようやくソスラスへと辿り着いた。
「へへ〜、ネリーも見ちゃったもんねぇ〜」
「ニムって意外と甘えんぼさんなんだぁ〜」
「うう、不覚……ネリーやオルファにまで見られるなんて……」
「シ、シアーも見たよぅ〜」
「偶然ですね。私も見ました」
「まぁ、たまたまあそこに集合しただけだけどね。中々可愛かったわよ、ニム」
「みんないつまでこの話を引っ張るのよ……ま、いい見世物だったとは思うけど」
「……セリア、何故顔赤い?」
一人の死者も出さずに済んだのは、奇跡と言ってもいい。傷を負っていないものは誰一人居なかった。
「わ、わたしも感動しましたっ! 普段冷血なニムさんがあんなに素直に――」
「……なんか言った? ヘリオン」
「はわっ! な、何でもないですぅ!…………うう〜、わたしの方が年上なのに…………」
「まぁまぁそれよりぃ、流石はグリーンスピリットですぅ〜。見事に皆さんを癒して下さいました〜」
「む、それは目の保養という意味でしょうか、ハリオン殿」
「ウルカ……微妙に違うと思うぞ」
時深の指示の的確さ。そしてそのエターナルとしての力が無ければとてもここまでは来れなかっただろう。
「悠人さんも悠人さんです。そのまま抱き上げた時のファーレーンの複雑な表情に気づきましたか?」
「あ、ああ。謝るのもなんだけど……あの時はごめんな、ファー」
「い、いえそんな、わたしこそ取り乱しちゃって……ごめんなさい」
「…………なんかムカつく。大体ユートが悪いのよ、お姉ちゃんとおんなじ匂いがするんだもん」
「なっ! い、いきなり何を言うの、ニムっ」
「? お姉ちゃん、何赤くなってるの? ニム、何か変なこと言った?」
それでも、ラキオス軍に悲壮な雰囲気は微塵も感じられなかった。
「全く、皆少しは緊張感というものを…………はぁ〜〜」
一人、溜息をつくエスペリアを除いては。
- 76 名前:朔望 風韻 \−2 :2005/11/13(日) 19:25:37 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年コサトの月黒ひとつの日〜§
ソーンリームの山並みに囲まれた篭の中のような台地。丁度底の部分を塞ぐ門のような形でキハノレはあった。
頭上には、常に分厚い雲。どっしりと重いそれが、先程から悠人達の行く手を阻むように激しい雪を降らせている。
寒冷地特有の鋭い、枝むき出しの樹木が撓るように風に嬲られ、そして軋んだ悲鳴のような哀しい音色を響かせる。
灰色と、白と。その無彩色が織り成す厳然たる拒絶の光景。異様に圧縮されたマナの、爆発寸前の膨張。
どんな人間でも、気づくだろう。ここは、死の世界。遥か理想のハイペリアでは無く、バルガーロアへの入り口だった。
全てを否定し、意志も存在も飲み込み。そうして生まれ出ようとしている虚無に、悠人達は息を飲んだ。
「ここが『再生』の眠る場所。そしてテムオリン達が、全てを終わらせようとしている場所です」
聳え立つ古臭い城門のような街の入り口。無言で見上げた悠人の隣に時深が立ち、そっと呟く。
「悠人さん、覚悟はいいですか。ここは……エターナルの領域。本来、誰もその存在すら許されない場所」
「……ああ。ここで、ケリを着けなきゃならないんだ。“俺達の世界の運命”を自分自身に取り戻す為に」
吹雪の中、悠人は手も翳さずに後ろを振り返った。皆、同様に力強く頷く。悪い筈の視界にちゃんと見える仲間の顔。
瞳に宿る決意に後押しされるように、悠人は『求め』を天に突き上げた。
「だから……俺達は負けない。絶対に、みんなで生きて帰る。その為の……戦いだからっ!!」
――――愚かしい。聞いていて、こちらが恥ずかしくなってきてしまいますわ
「!!!」
どこからか、響き渡る声。どこか含みのある嘲るような口調に、一同に緊張が走る。
- 77 名前:朔望 風韻 \−3 :2005/11/13(日) 19:27:38 ID:qEkFPymz0
-
――――みんなで、などと下らない。全ては、在るべき場所へと還るもの……それを教えて差し上げましょう
突然、周囲が蒼い光に包まれていく。一歩前に出た時深が天を仰ぐように睨みつけた。
「テムオリン! 一体何をっ!」
「これは……エーテルジャンプ! みんな、一つに固まれ! 出来るだけ早くっ」
悠人は足元から突き上げるように舞う粒子に浮き上がるような感覚を感じながら、必死に振り返った。
しかし既に個々を抑えつけるような蒼い柱がそれぞれにシールドを張っているのか、声も微妙にしか聞こえない。
「ユ…………御……で…………」
一番近くに居たエスペリアの姿が、ふっと消え去る。それを合図に、次々と何処かへ転送される仲間達。
――――ふふふ……心配はいりません。折角ここまで足を運ばれたのですもの、案内して差し上げるだけです
「悠人さん、気をつけて! 遺跡の中は……」
「時深!……くそう、おい、テムオリン! そうやって笑っているのも今のうちだ! 俺が必ず叩き潰してやる!」
――――……相変わらず面白い坊やですこと。いいでしょう、わたくしが直接可愛がってあげますわ……存分に、ね
周囲が殆ど見えなくなっていく。悠人は、ファーレーンとニムントールの居た場所辺りを最後に振り返った。
二人とも、もう柱の影に隠れて見えない。それでも悠人は叫んでいた。
「ファー、約束だからなっ! 生きて、それから…………」
ふっ。突如暗転する周りの景色。物凄い力でどこかへ運ばれるのを感じながら、悠人は言葉を思い出していた。
『だから……きっと、大丈夫』
- 78 名前:朔望 風韻 \−4 :2005/11/13(日) 19:29:03 ID:qEkFPymz0
-
周囲が蒼く輝き出す寸前、ファーレーンは偶然ニムントールの手をそっと握っていた。
勘、とでもいうのだろうか、それが幸いし、二人は同じ空間へと飛ばされていた。
「お姉ちゃん、ここ……ひっ!」
「ええ。ソーンリーム遺跡の内部ですね。わたし達は強制的に招待――――」
それ自体がほの蒼く輝く遺跡の壁。あえて言えばエーテル変換施設に近いそのデザイン。
ただし床は所々抜け落ち、天井は無く。それなのに無限に広がるような幻想的な光景は、とてもこの世界とは思えない。
まるで異世界にでも来てしまったような状況で、ファーレーンは冷静だった。いや、冷静にならざるを得なかった。
「……来たか。待ち侘びたぞ」
絶対的なプレッシャー。撒き散らかされた「無」の匂い。全てを還す、漆黒の闇。鳥肌が立つような、死の気配。
ニムントールは動けない。それも当然。初めて見た者なら、誰でも身を竦めるだろう。その不可避な殺意に。
「改めて名乗っておこう。俺はタキオス。永遠神剣第三位、『無我』の使い手だ」
「タキオス……わたしはファーレーン。『月光』のファーレーン。貴方を倒しに来ました」
「む……どうやらまだ“目覚めて”はいないようだが……よかろう、前にも言ったが……お前の全てを見せてみろ」
意味不明の言葉と共に、ゆっくりと背中の『無我』に手をかける。
瞬間、ぶわっとその周りを包む黒いマナ。それだけでびりびりと槍のような緊張感がファーレーンの肌に突き刺さる。
「もう、何故とは問いません。貴方だけは……許せない」
意識だけで紡ぎ出された暴風に晒されながら、ファーレーンも『月光』をゆっくりと抜き放った。
薄く輝き始める刀身。兜越しに、彼女の“視界”が明るく広がっていった。
- 79 名前:朔望 風韻 \−5 :2005/11/13(日) 19:30:40 ID:qEkFPymz0
-
同時刻。エスペリアは、雪原に立っている自分に気がついた。
「ここは……あれは、門。わたくし達は一体…………」
先程と同じ門が目の前にある。ただ、風景に違和感を感じた。吹雪が全く熄んでいる。
少し離れた所に、アセリアとウルカ、そしてオルファリルも立っていた。皆不思議そうに周囲を見回している。
「エスペリア殿。どうやら我々は、門の内側に」
「……ええ。そのようですね。みんな、大丈夫ですか?」
「オルファ、平気だよ!」
「…………ん」
ぴょこん、と手を上げるオルファリル。相変わらず小さく頷くだけのアセリアに、エスペリアはほっと胸を撫で下ろした。
――――そうですか。それは良かったですねぇ
「!!!」
突然、何も無い空間から聞こえてくる声。それは、いつの間にかそこにいた。
一見、何の変哲も無い、ただの青年。しかし、ぴったりと肌に張り付いた黒尽くめの異装。あらぬ方向を向いている横顔。
青黒い前髪から死んだ魚のように濁った瞳が覗く。むき出しの両腕にぶら下げた中肉の剣(つるぎ)。
「エ、エターナル……」
震える唇から声が漏れる。エスペリアは、確信した。状況的にでも、悲鳴のような『献身』の警告によってでもなく。
今目の前に居る青年が、間違い無く「エターナル」なのだと。はっきりと、「本能」がそう告げていた。
- 80 名前:朔望 風韻 \−6 :2005/11/13(日) 19:33:08 ID:qEkFPymz0
-
「あの女王のようにあっさり死んでもつまらないし。ほら、『流転』がこんなに騒いでいる」
「…………?」
「だから……嬉しいですよ。つまらない作戦だったけど、どうやら僕も少しは楽しめるようですね」
うっとりと視線を漂わせ、どちらかといえば無邪気な口調で話す青年に、エスペリアは眉を顰めた。
隣を見ると、『冥加』を構えたウルカも不審そうに窺っている。アセリアもオルファリルも同様だった。
視線にようやく気づいた、といった感じで青年がゆっくりとこちらに振り向く。
瞬間、ぞっと全身を舐め回すような感覚に、エスペリアは戦慄を覚えた。ゆらり、と青年が動く。
「そうだ、自己紹介をしましょうか。僕は永遠神剣第三位、『流転』のメダリオ……もっとも名乗っても意味など――」
ぶわっ、と青年――メダリオの周囲の雪が圧力に潰され、舞いあがる。あっという間に昏く翳る景色。
「――――ないのですけどね、これから死んでいく貴女達にとっては。……さあ、せいぜい美しい悲鳴を聞かせて下さい」
「! アセリア、ウルカ、オルファ! 気をつけてっ!」
シールドハイロゥを全力で展開しながら、搾り出すように叫ぶ。エスペリアは、懸命に自分を奮い立たせていた。
- 81 名前:朔望 風韻 A−1 :2005/11/13(日) 19:34:04 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年コサトの月黒ひとつの日〜§
頬に当る冷たい雪の感覚に、セリアは目を覚ました。
顔を上げ、ぼんやりと周囲を見渡す。仲間が、所々で倒れていた。
どうやら同じように気絶しているだけのようだ。ほっとして目を凝らすと、広い雪原の遠くに建物が見えた。
あれは、確か……そこまで考えて、はっ、と立ち上がる。全身が重い。マナが、希薄だった。
「くっ……ソーン・リーム遺跡……あそこに『再生』が――――」
――――正解。よく眠れたかい?
「なっ……ぐっ!」
突然背後から聞こえる声。慌てて『熱病』を構え、振り向こうとした。途端、痺れる手先。
「慌てるんじゃないよ。折角起きるのを待ってたっていうのにさ」
「こ、の…………」
「いいねぇ、その敵意丸出しの表情、可愛い顔が台無しだよ」
ぺろっと舌なめずりをする背の高い“女”を、セリアは気丈に睨みつけた。どこかはすっぱな口調。意味不明な目隠し。
状況から、どう見ても彼女はエターナル。その圧倒的な力の差は黙っていてもひしひしと伝わる。
「そうこなくっちゃ。やっぱり気絶している相手を殺してもつまらないからさ」
禍々しい波動のようなものが全身を貫く。萎縮していく身体。絶対に敵わないと自分で決めてしまいそうな絶望感。
忍び寄るのは死の気配の筈。なのに、どうしてもその質問が先に口をついて出た。セリアは正直、呆れていた。
「……………………寒く、ないの?」
皮の様な胸当てはまだいいとしても、殆ど隠せていない、ぴったりとしたショートパンツ。
あろうことか、その前のファスナーがぎりぎりまで開かれている。趣味の悪い毛皮のようなものを羽織ってはいるが、
それも大きく前が開かれたままで、防寒具として役に立っているとはとても思えない。
長いだぶついたニーソックスに辛うじて太腿だけは覆われてはいたが、それ以前に羞恥心というものは無いのだろうか?
「あん? おかしな事聞くねぇ。これから殺されるにしちゃ、随分余裕じゃないか」
「………………そうね」
おかげさまでね、とセリアは心の中で呟いた。
- 82 名前:朔望 風韻 A−2 :2005/11/13(日) 19:37:09 ID:qEkFPymz0
-
「う、ううん……」
「ここは……あ、あれ?」
「ふぇ? 冷た〜!」
仲間達が、次々と起き上がってくる。ヒミカ、ハリオン、ナナルゥ、ネリー、シアー、ヘリオン。
どうやら、第二詰所のメンバーはファーレーンとヒミカを除き、全員揃っているようだった。
「……敵、捕捉」
それぞれが、はっと気を取り直して其々の神剣を構える。見渡して、“女”はくくっと喉の奥を鳴らした。
「ようやく全員起きたようだね。一応自己紹介しておくよ。アタシはミトセマール。永遠神剣第三位――――」
先程『熱病』を絡め取った鞭のようなものがびゅん、とうねる。しなやかなそれがやにわに「獲物」を放り投げた。
「――――『不浄』の使い手だ」
「…………何の真似よ」
ざくっと目の前に刺さった『熱病』を慎重に手に取りながら、セリアは訝しんで訊ねた。
「さっきも言っただろう、無抵抗なヤツを殺したって面白く無いんだよ。人の話はちゃんと聞きな」
「呆れるわね…………絶対に後悔するわよ」
見逃されたという屈辱。そしてそれ以前に、「この女に」ナメられたという事実が妙に反骨精神を煽る。
対峙しながら、セリアは無言でヒミカと目配せを交わした。同様に、残りのメンバーが同時に頷く。
じりじりとミトセマールを中心に、狭まっていく包囲陣。しかし彼女はむしろそれを喜んでいるようだった。
「ふん、虫けらが偉そうに。ま、その方がこっちも楽しめるけどさ。……他に何か、聞きたい事はあるかい?」
「…………無いけど、一つだけ。この寒いのに、風邪引くわよ オ バ サ ン」
「っ! 余計なお世話っっ!!!」
瞬間、ぱっと散開して踊りかかるラキオス隊。同時にミトセマールのオーラが膨れ上がる。
迸る膨大なマナは、驚いた事に慈愛と大地を司るグリーンスピリットのものに非常に似ていた。
- 83 名前:朔望 風韻 A−3 :2005/11/13(日) 19:37:50 ID:qEkFPymz0
-
ばきばきっと雪原が割れる。その中から飛び出た無数の「根」が、意志を持っているようにしなやかに踊る。
予想外の方向からの攻撃に、踏み込もうとしたネリーとシアーが足をとられて倒れこんだ。
「わ、わわわっ!」
「いやぁぁん!!」
周囲のマナがどんどん希薄になっていく。セリアは、直感した。女が、マナを「吸い取って」いる。
癒しの神剣魔法とは、全く真逆の方向。命のエーテルが逆流している感覚。
「アタシは元々お前達の言う植物。命のマナが大好物なのさっっ!!!」
叫びと共に、ネリーとシアーに絡まった触手が、ずぶずぶとそれぞれの肢に食い込んだ。
「え、な、何……ふあぁぁぁっ!!」
「ち、力が……抜けるぅ…………」
「ネリー! シアー!!」
がくん、と一度顎を仰け反らせた二人の背中から失われるウイングハイロゥ。『静寂』と『孤独』から光が消える。
「…………シッ!」
鍵状に駆け抜け、迫ったヒミカが『赤光』を振り抜く。同時にヘリオンがネリーとシアーを助けようとした。
しかしそのどちらにも、ミトセマールはつまらなそうに反応した。
「てりゃぁぁぁっ!!」
「ほら、もういらないよ」
「…………あうっ!」
ぶん、と無造作に振り投げられたネリーとシアーがヘリオンにぶつかる。
完全に力の抜けた二人が遠心力を伴っては、小柄なヘリオンに受け止めきれる訳が無い。
避わす訳にもいかず、ヘリオンはそのまま一緒に吹き飛ばされかけた。
「風よ〜、守りの力となれ〜」
どすっ。
「きゅぅぅぅ」
「あらぁ?」
心持ち急いでいるようなハリオンが張ったシールドが、何とか三人を受け止めていた。
- 84 名前:朔望 風韻 A−4 :2005/11/13(日) 19:38:45 ID:qEkFPymz0
-
一方殺到したヒミカはミトセマールの手元から伸びた黒い鞭に、あやうく「なます」に刻まれそうになっていた。
「はははっ! どうしたどうした、逃げてるだけかい?」
「くっ……はうっ!」
交えるたびに枝分かれしてくる異様な鞭の多面的な攻撃に、遂に受けきれず、皮膚が裂ける。
「下がって、ヒミカっ!!」
「!」
セリアは飛び込み、『熱病』を振りかぶりながら叫んだ。
背中で感じるレッドスピリット特有の熱射。ヒミカが一度牽制し、そして力いっぱい後方へと跳ねる。
同時にセリアもそのままウイングハイロゥを羽ばたかせ、上空へと飛び上がった。
「…………なんだい?」
「…………まとめて、消し飛ばします」
自分から退く二人に、ミトセマールが訝しげに動きを止める。そこにナナルゥ最大の神剣魔法が炸裂した。
掲げた『消沈』から開放された赤いマナが、凝縮されて一度ふっと消えうせる。
時間を措かず、直上から殺到する雷。雷鳴が雪煙を巻き上げ、たちまちミトセマールの姿を水蒸気で包みこむ。
ずぅぅぅぅぅん…………
それは炎を伴っているにも関わらず、燃え上がりもせず垂直な錐となってミトセマールを認識し、貫いた。
拡散していく熱量がびりびりと肌を焦がす。キャンセル出来ないスピリットなら、存在ごと消し飛ぶ威力。だが。
「…………ぐぅっ!」
「ナナルゥ?!」
くぐもった悲鳴を上げたのは、ナナルゥの方だった。振り返ったセリアの視線の先で、腹部を貫かれて呻いている。
「……………………なんだい、今のは。くすぐったいじゃないか」
びゅん、とたった今ナナルゥに突き刺さった鞭を引き抜きながら、ミトセマールがぽんぽんと埃を払う仕草で呟いた。
殆ど絶命寸前までマナを吸い取られたネリーとシアーは動けない。
大怪我を負い倒れているナナルゥと、懸命に回復魔法をかけているハリオンも暫くは動けない。
ヘリオンは吹き飛ばされた時の衝撃で、未だ目を回したまま。
あっという間に二人になってしまった戦力。――――しかしセリアは未だ冷静を保っていた。
- 85 名前:朔望 風韻 A−5 :2005/11/13(日) 19:40:44 ID:qEkFPymz0
-
「……なんだ、もうお終いかい? こっちはまだ準備運動も済んでないんだ」
言葉通り、ミトセマールを包む緑色のオーラがどんどん分厚く眩く輝いていく。
この荒れ果てた地でどこからそんな大量のマナを、そこまで考えて、ふとセリアは彼女の足元を見た。
ずずず、と聞こえる異音。地面に潜り込む触手。そうか、なら、とヒミカに振り向く。
ヒミカも気づいたのか、頷き、詠唱を始めた。細身の『赤光』その先端がぽぅ、と赤く染まっていく。
「マナよ、力となれ 敵の元へ進み……」
「ようやく覚悟を決めたのかい……健気だねぇ、まだ尻(ケツ)の青い小娘のくせにさぁ」
余裕を持っているのか、ミトセマールは動かない。ヒミカは詠唱の完了と共に、剣を“地面”に突き立てた。
「叩き潰せっ!インシネレート!!!」
「…………何?!」
ばぅっと瞬間的に盛り上がる地面。セリアが飛び出すと同時に、ミトセマールの顔が歪む。
「ちっ! やってくれたね……この代償は高くつくよ!!」
地中に張った「根」にはシールドが無い。むき出しのまま無防備で焼かれた触手に、ミトセマールは舌打ちをした。
- 86 名前:朔望 風韻 A−6 :2005/11/13(日) 19:41:18 ID:qEkFPymz0
-
一か八かの賭けだった。
「もらったわっ!!」
「これで…………決まれ!」
ウイングハイロゥを羽ばたかせ、最大速度でセリアが迫る。ルージュに輝く『熱病』にちりちりと雪の結晶を撒き散らしつつ。
地中にインシネレートを放ったヒミカが、そのままだっと走り寄る。未だ余韻の残る『赤光』が周囲の雪を蒸発させながら。
「目には目を……って言葉を知ってるかい?」
しかし、ミトセマールにはまだ充分な余裕があった。「養分」が無くても、神剣の「位」の差は隔絶している。
それよりも、小癪な真似をされたのが気に入らなかった。焼かれた「枝」の先でちりちりと焦げ付く痛み。
掠り傷のようなそれがプライドの一部を無粋な爪で引っかいてくる。覆面に隠された瞳に深緑の炎が宿った。
「もう手加減してあげなぁい……ボロ雑巾のようになるがいいさ。楽しみだねぇ、ゾクゾクするよッッ!!!」
そうしてこの世界で持てる全てのマナを一気に凝縮し、『不浄』へと注ぎ込み、
この生意気な小娘二人を永遠に塵以下の分子にまでずだずだに分解して吸い取ってやろうと思った時。
「……ナァッ?!!!」
突然、彼女を包む緑のオーラが影も形も無く、一切が消え失せた。
- 87 名前:朔望 mazurka T :2005/11/13(日) 19:43:26 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年コサトの月黒ひとつの日〜§
「やれやれ……」
渦巻く熱風が周囲を焦がす。地面さえ燃え上がるプラズマの嵐。雪など、存在することすら許されない。
あっという間に消滅する水蒸気の中、浮かんでいる“それ”へ、時深はつまらなそうに呟いていた。
「ギ……ギュ…………」
「私の相手は貴方ですか、業火のントゥシトラ。いえ、永遠神剣第三位『炎帝』に取り込まれしもの……と言うべきですね」
「ギュルゥッッッ!!」
名に相応しく、灼熱のオーラがぶわっと膨れ上がり、赤の属性が飛躍的に増加する。
褐色の球体、その中心で睨みつける巨大な瞳がぎょろり、と血走り、とたん、詠唱も何も無しに閃光が走った。
ガガガガガッ!!
時深の台詞が終わるか終わらないかのうちに、辺りが一気に蒸発する。爆音と共に高温の槍が降り注いだ。
液化した地面が大きく抉り取られ、空気すら燃え上がる。昇華した陽電子が煌きながらマナとなって消えていく。
“生物”であるならば、当然その生命活動を維持出来る筈も無い数万度の高熱。しかしその中で。
「同位ならば、心の差は絶対……それは高位になれば尚更。知らない貴方でも無いでしょうに」
硝煙が舞いあがる中、時深は平然と立っていた。いつの間にか手にした『時詠』を翳して。
身体を覆う、薄く紅いオーラ。それだけで一切の攻撃を無効化し、風圧で僅かに乱れた髪をそっと整える。
「あのテムオリンにそこまでの忠誠を誓う魅力があるとも思えませんが……わかりました、お相手しましょう」
ちゃり。微かな銀の響きがして、『時詠』が顔の前へと広げられる。溜息まじりの気怠い仕草。
その態度にントゥシトラは激昂した。怒りとも驚愕とも知れない瞳が激しく見開かれる。
同時に淡く時深を包み込む、凛然とした金色のオーラ。ントゥシトラの発する陽炎が衝突したのが合図だった。
「飲まれてまでその力を振るおうとするもの。その“宿命”を“運命”の元に」
周囲で、オーラが白い人形のようなものに変形する。時深はざっ、と焦げた地面を蹴り上げた。
- 88 名前:朔望 風韻 B−1 :2005/11/13(日) 19:44:27 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年コサトの月黒ひとつの日〜§
「ホラホラホラホラホラホラホラホラッ!!!」
ガッ、ガガッ、ガガガガッ!!!
鋭い切先が、二手から伸びてくる。銀色に光る刀剣にぞっとするような冷気を孕みながら。
「…………く、速い」
アセリアは、懸命に防戦していた。長い『存在』を懸命に折り畳む。小刻みに、それでいてどれも急所。
心臓、肺、頸部、肝臓、人中、脾腹、そしてまた心臓。メダリオの攻撃は執拗かつ迅速、そして正確だった。
『流転』は決して小さくは無い。その両刀を軽々と片手で振るい、鍛え抜かれた敏捷な動きでアセリアを追い込んでいく。
「アセリアお姉ちゃんっ!」
殆ど重なるような、接近戦。巻き込みを恐れ、オルファリルは神剣魔法を放てない。
もっとも、放っても、結果は同じだった。戦い当初、微塵も動きを見せなかった筈のイグニッション。
メダリオは、それを受けも避わしもしなかった。彼を包む水のようなシールドが、じゅっと軽い音を立てただけだった。
「これでもう、大丈夫です」
「くっ……エスペリア殿、申し訳ない……」
先程まで相手をしていたウルカは攻撃し難い筈の足の腱を両方とも切断され、エスペリアの回復魔法を受けていた。
ラキオスの誇る「白い翼」と「漆黒の翼」が二人掛りでも間に合わないスピード。それがメダリオの武器だった。
- 89 名前:朔望 風韻 B−2 :2005/11/13(日) 19:45:58 ID:qEkFPymz0
-
巻き上がった剣尖に、疾風が二人を包む。アセリアは、旋回しながら一方的に受けていた。
かち上げられ、浮かびそうになる体躯を懸命に沈める。迂闊に力を入れればその部位に『流転』が迫った。
服の裾が切り裂かれ、剥き出された太腿に鮮血が走る。アセリアは次第に圧され、そしてマナを削られていった。
「ふぅ、中々やりますねぇ。でも、僕も負けませんよ……すぐに首を切り落としてあげます」
一度離れたメダリオが、まるで爬虫類のようにアセリアの全身を嘗め回す。その瞳には、明らかに嗜虐の色が見えた。
本気で戦っていた訳では無い。ただ、“嬲るに”相応しい相手かどうかを見極めていただけ。
元々下位神剣など彼の興味の対象外。殺すのは容易い。ただ、剣技だけは目を見張るものがある。そしてそこが重要だった。
「くっくっ……嬉しいですよ。こんな“獲物”に恵まれるなんて、幸せですねぇ」
その長い舌を蛇のようにちろちろと見せながら、メダリオは徐々にその水色のオーラを広げていった。
「エスペリア殿……もしや」
「ええ。私もそう思います……オルファ?」
「な、なぁにエスペリアお姉ちゃん」
目の前で行われる戦いを、固唾を呑んで見守っていたオルファリルが、呼びかけに首を傾げる。
ててて、と寄ってきた彼女に、エスペリアは優しく諭すようにその髪を撫でた。
「いい、オルファ。出来るだけ離れた所から…………」
ガキィィィィン…………
- 90 名前:朔望 風韻 B−3 :2005/11/13(日) 19:47:13 ID:qEkFPymz0
-
「…………ッ!!」
威力が増大したメダリオの『流転』が、十字に重なり、下から擦り上げるような形で『存在』を巻き込む。
弾かれた『存在』が籠手ごと手を離れ、あっ、と声を上げた瞬間、アセリアはどさっと雪原に倒れこんだ。
後を追い、馬乗りに圧し掛かったメダリオが交差させたままの『流転』をその首筋の両脇に雪中深く突き刺す。
「ふふふ……さぁ、ここまでです。どうしますか、絶体絶命ですよ」
「ぐ…………くく…………」
体重をかけられ、小柄な身体が軋む。当てられた刃が徐々に絞られ、首の皮を裂く。
アセリアはくぐもった声を上げながら、既に剣の無い右手をゆっくりと宙に伸ばした。
「ここまで来て、命乞いなどと無粋な事はしないで下さい。見たいんですよ、貴女の美しい最後が…………ん?」
ぺたぺた。
「………………何の真似です?」
「ん。やっぱりユートの方が……カッコイイ」
「……は?」
「お前……魚臭い。それに、ヌメヌメする」
「なぁっ!?」
刃の下で、アセリアはにっと不敵に笑った。結婚式の時に、ネリーに聞いたファーレーンの台詞。
それを今この場で、アセリアは呟いた。素手で、メダリオの胸をぺたぺたと触りながら実感する。
最初は、強いという意味かと思っていた。でも、この男は違う。カッコイイとは違う。
――――――ユートは強いとは違う、カッコイイ。それに……魚臭く無い。ユートの方が、いい。
ただ純粋に、強さに憧れていた。そんな自分よりも、もっと遥かな高みハイペリア。その片鱗が見えた気がして微笑んだ。
「く…………コ、コイツ、言わせておけば……」
しかし、偶然とはいえ図星を指されたメダリオは半分切れかかった衝動にその本性を現し始めた。
歪んだ口元から、知らず涎が零れ落ちる。魚。それは、彼にとっては決して耳にしてはいけない言葉。
普段理性で鎧われている彼の本性、憎しみと虐殺にのみ愉悦を覚える本能への扉の鍵だった。
「よくも……よくも…………」
震える唇から漏れる怨恨の声と共に、周囲の雪が一斉に融け始める。
かつて、これほどまでに自分を侮辱し、かつ生き延びた者は誰一人いない。
メダリオの身体がぶわっと大量の水蒸気に覆われ、『流転』の刀身が黒い光を放ち始めた。
- 91 名前:朔望 風韻 B−4 :2005/11/13(日) 19:48:27 ID:qEkFPymz0
-
どうやって“捕食”してやろうか、メダリオがそう理性の欠片で思った時。
「オルファ、今ですっ!」
「うん! マナよ、神剣の主として命ずる。その姿を火球に変え敵を包み込め!」
「神剣の主が命じる マナよ、癒しの力となれ アースプライヤー!」
オルファリルの『理念』が、エスペリアの『献身』が同時に力を放つ。
だがそれは、メダリオに向けてのものでは無かった。周囲の地面。メダリオを囲むように火球が飛ぶ。
力を抑えたのか、表面の雪が蒸発する事も無く水となり、地中に吸い込まれていく。
「…………何の真似ですか?」
意味不明な行動に、あっけに取られたメダリオの瞳に理性が戻る。しかしそれはすぐに自らの体調異変に阻まれた。
「く……これは」
エスペリアの神剣魔法は、付近の針葉樹達に向けて放たれたものだった。
元来、回復は自身が本来持つ自己保存能力を高めるもの。
グリーンスピリットの癒しはその力をマナにより増幅、一時的に高める物でしかない。そしてこの場合は、樹木の力を。
活性化した木々が、一斉に彼らの地中深く広げた根から物凄い勢いで水分を引き上げ始めた。
連鎖して、メダリオの周囲から水のマナが消え始める。元々が水棲動物である彼には、軽い酸欠に近いものがあった。
がっ!
「……よそ見をしていると、こうなります」
背後から襲撃したウルカが、一瞬の隙をついて『流転』を弾き、返す刀で斬りつける。
流石に動揺から立ち直ったメダリオは逆らわずバク転で避わし、更に蹴りつけてきたウルカの足を足で弾いた。
その間に『存在』を取り返したアセリアが反転して両手持ちのまま突っ込んでくる。
既にマナのある地点まで辿り着いたものの、小五月蝿い攻撃の対応に追われ、メダリオはそれを吸い取る余裕も無かった。
「…………チィッ」
一旦離れてしまい、しかも後退するタイミング。適度に空いた距離は、長い『存在』の間合い。
メダリオは“本来”の姿に戻ろうかと一瞬だけ考えたが、即座にそれを却下した。まだ、「位」の差で凌げるその程度。
一瞬油断したとはいえ、また、マナが希薄なこの世界とはいえ、馬鹿正直な一直線の攻撃を避わすのは容易い。
- 92 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 19:48:42 ID:9hH4tbJ70
- 復帰支援
- 93 名前:朔望 風韻 B−5 :2005/11/13(日) 19:51:42 ID:qEkFPymz0
-
両腕を異様な速さで横に振るう。同時に『流転』の刀身からカマイタチのような黒いマナが群がり飛び散った。
突進してきたアセリアが軽く薙いだ瞬間、ウイングハイロゥの威力が落ちる。
更に、離れた場所でそれぞれに受けたエスペリアとオルファの剣先から魔法の波動が消えうせた。
それはメダリオが長い時の間で編み出した、彼特有の神剣魔法。この世界でも振るえる数少ないものの一つ。
あの時深のように時間を操る芸当などは出来ないが、瞬時に相手の抵抗力を無くす事位は充分に出来る。
足を蹴られ、横転していたウルカが雪塗れになりながら立ち上がり、飛び跳ねる。
アセリアとの位置取りは、メダリオを軸にして丁度中心角1/2πの扇型。
正面と右からの攻撃。思わず得た緊張感に、メダリオは少しだけ口元を上げた。
「いいねぇ……ええ、いいですよ貴女達…………」
メダリオは選択した。避わすよりも、受ける事を。それは、剣技というものに悦びを得る者の性(さが)。
戦いに嗜虐を求める筈の本能にはある意味逆らう感情に、『流転』が不満の声を漏らす。メダリオはそれすらも黙殺した。
「たぁぁぁぁぁっ!!」
「…………参るっ!」
属性を失いつつも殺到する少女と、その真逆とも言える闇のマナを感じさせる少女。
どちらも、もし万が一受けても致命傷にはならないと判断する。メダリオは『流転』を構え直した。
「さて、まずはどちらから…………っ?!」
料理して、と言いかけ、メダリオは絶句した。先程剣を無視したせいだろうかと躊躇する。
そんな事は、今まで一度も無かった。いくらこの世界が微弱なマナしか無かったといっても。
『流転』が、沈黙していた。
- 94 名前:朔望 mazurka U :2005/11/13(日) 19:53:16 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年コサトの月黒ひとつの日〜§
無数に発生し、飛来する熱線。音速を超えて殺到するそれらは、肉体運動のみで避ける事など不可能。
ントゥシトラは、今まで常にその先制攻撃のみで敵を消滅させてきていた。守りの概念など元々無い。
ただ、“喰い尽す”。そうして自分の星さえ併呑していたントゥシトラは、一つしかない眼で目前の少女を映した。
槍は、全て叩き落された。幻かと疑うほど、無傷なまま迫るその紅い瞳。長く流れる同色の髪。
手にした銀色から放たれる威圧感に、ようやく思い出した。乏しい記憶量がその断片を拾い上げる。
――――時詠みのトキミ。常に行く手を阻むもの。天敵の姿に、確かに見覚えがあった。
疑問が頭をよぎる。自分“達”は何故、同位であるはずの神剣にこうも翻弄されているのか。
相手も第三位の持ち主の筈ではないか。複数の意識をもってしても、結論は遂に出なかった。
- 95 名前:朔望 mazurka U :2005/11/13(日) 19:54:00 ID:qEkFPymz0
-
「……遅い」
滑るように至近距離まであえて踏み込んだ時深は、そのまま『時詠』を頭上に翳した。
舞いを踊るようにくるりと手を捻り、そしてさっと身を屈める。“人形達”が刃となってントゥシトラに襲い掛かった。
「ギッ!!」
王冠、体毛、そして本体。それぞれが自分の役目を理解しているようにずだずだに引き裂く。
悲鳴と同時に降り注ぐ、燃え滾る血飛沫。浴びれば身を焦がすそれを巧みに避わし、一度離れる。慎重を期すべきだった。
この後、あのテムオリンが、そしてタキオスとの戦いも控えている。マナの消耗は危険。練磨の感覚がそう告げていた。
「悠人さん……それにみんなは……?」
怯み、動きの止まったントゥシトラへの警戒を割き、気配を探る。どうやらあちこちに点在しているようだった。
そしてそこに感じるエターナルの気配。点灯するその気配が、その時殆ど同時に大きく膨れ上がった。
「いけないっ!!」
幾らなんでも無謀すぎる。自分が行くまで、出来るなら逃げていて欲しかった。エターナルの力は絶対。
あれほどそう警告した筈なのに、悠人やスピリット達は全員それに正面から立ち向かおうとしている。
ロウエターナルは、遊んでいるのだ。この世界を消滅させる、その余興程度にしか考えていない。しかしもう間に合わない。
「もうっ! こんな未来があるなんて…………っ」
複数に点在する彼らを救う手段を、時深は咄嗟にはじき出した。しかし、それは予測もしなかった事態。
当惑しながらも、精神を集中させる。呼び寄せる、一個の存在。何も無い虚空に差し出した手に収束する光。
「……こうなったらもう、知りませんからねっ!!」
時深はやけくそ気味にそう叫んだ。徐々に形造られる、一振りの神剣――――『時逆』を手にし、何故か心持ち微笑みながら。
- 96 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 19:55:20 ID:9hH4tbJ70
- そうですね、こうすれば支援になりますか?
- 97 名前:朔望 風韻 C−1 :2005/11/13(日) 19:56:22 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年コサトの月黒ひとつの日〜§
「ぬぅぅぅん!」
ぶわっと襲い掛かる圧力。褐色の肉体が生み出す真空に、周囲の空間が悲鳴を上げる。
既に気流とか気配とかの問題ではない。凝縮され、鉄塊となった空気の束が纏めて襲い掛かる。
ファーレーンは『月光』の鞘に左手を添えたまま、右手へと横っ飛びに跳ねた。ニムントールの腕を取り、更に後ろに。
「…………お姉ちゃんっっ」
「ニム、下がって!」
そして一瞬前まで居たその地点に、的確に打ち込まれる鉄槌。
どすん、と鈍い音と共に青色の結晶体が弾け飛び、後には巨大なクレーターがまだ残る威力の余韻でぶすぶすと燻ぶっていた。
竦む足を無理矢理動かすように、ニムントールが後方に駆ける。時間を稼ぐ為、ファーレーンはもう一度右に飛んだ。
「ほう、避わしたか……だが」
「!」
タキオスが、巨大な『無我』を振りかぶる。ファーレーンは驚愕と共にウイングハイロゥを畳み、『月光』を抜き放った。
あの巨体で、驚くしかない。タキオスは、充分に取った筈の距離を一瞬で0に戻し、至近距離に迫っていた。
どすんっ!
「あっ……ぐっ!」
『月光』を落とさなかったのが、不思議だった。脳天まで響く衝撃で、全身の骨がばらばらになるような感覚。
ファーレーンは受けた『無我』の重量感に、潰されるように膝を付いた。硬い筈の地面が罅割れ、沈み込む。
このままでは身体が先に砕ける、そう判断し、咄嗟に軸足である右肢にシールドハイロゥを展開した。
「むぅんっ!」
そのままタキオスは力を籠めていく。びちびちと異様に膨れ上がる、『無我』を掴む両腕の筋肉。
先程から、オーラなど使ってはいない。このまま“目覚め”ぬなら、このまま叩き潰そうと思っていた。
- 98 名前:朔望 風韻 C−2 :2005/11/13(日) 19:57:12 ID:qEkFPymz0
-
「くぅっ…………あああっ!」
みしみしと軋み、悲鳴を上げる腕。それでも、ただ受けるしかない。うかつに避わそうと動けばたちまち潰されるだろう。
身動きが取れないまま、細身の『月光』が危険を察知して頭の中に警鐘を鳴らす。
ファーレーンは歯噛みしてそれに耐えた。噛み締めた奥歯がぎりぎりと血の匂いを噴き出し始める。
「ゆ、ゆる、さ、ない……貴方、だけ、はっっ!!」
眼前に迫る赤い双眸。決して許される筈の無い存在。先王を操り、世界を操り、そして…………女王の心を弄び。
神剣の強制力と相まって、憎しみに染まる心。りぃぃん、ときな臭い死の匂いが心を支配しそうになる。
――――闇に目を逸らしていては、剣は振れんぞ。
「!」
呼び覚ますような、凛とした声。瞬間、ファーレーンは我に返った。同時に消える威圧感。浮き上がるようによろめく。
反動で差し出されるように上体が前に出る。その眼前に、仁王立ちのタキオスが猛烈な黒いオーラを溢れさせていた。
意外と粘るスピリットに業を煮やしたかのように、一度離れた『無我』を振り被り直す。
「止め、だ」
そうして振り下ろされた黒の凶器。軌跡が断層を生む。唸りを上げてせまる空気の溝。
虚空への入り口を開きながら死の顎(あぎと)が迫る。重なるように、後方から聞こえる悲鳴。
「お姉ちゃんっっ!!」
「…………う、あぁぁぁぁっ!」
- 99 名前:朔望 風韻 C−3 :2005/11/13(日) 19:57:58 ID:qEkFPymz0
-
――――びぎんっっ!!
必死で跳ね上げた『月光』の刀身が、『無我』の一撃で亀裂を走らせていた。
「あ、ああっ!!」
目前で爆発したマナの塊に、衝撃で吹き飛ばされる兜。その奥、ファーレーンの瞳はまだ死んではいなかった。
咄嗟に受け流そうと、『月光』を斜めに振り下げる。がががっ、と亀裂の先から『月光』の刃が削られていく。
「…………その細身で、よくも凌ぐ」
しかし、タキオスは体勢も崩さない。やや膝を折っただけの姿勢から、横殴りにもう一度片手で『無我』を振るってくる。
ファーレーンは無理矢理地面に『月光』を突き刺し、それを軸に縦にした『月光』で遮った。そしてもう一撃。
再び十字で相交わる刃。ぼろぼろになった『月光』の切先が衝撃と共に弾け飛ぶ。巻き上がる旋風。
ぼこっと沈み込む地面から飛び散る蒼い砂礫。既に、腕の感覚が無い。奪われたマナは光輪すら生成するのも難しいだろう。
ささらのように刃毀れた『月光』が沈黙する。それでもファーレーンはその場で必死に耐えた。
(……負けない…………負けたくないっ!)
もう、それしか考える事が出来なかった。脳裏に浮かぶ、大切な“もの”。わあん、と耳鳴りのような空気の流れ。
渦巻く思考の奔流の中、初めてしがみついた意地。早回しに繰り返される、様々な想い、――――託された想い。
「…………ぐっ!」
刹那、腹部に丸太で殴られたような鈍痛が走る。ひゅう、と毀れる息。口の中に込み上げてくる酸味、鉄錆の匂い。
タキオスが蹴り上げたものだが、遅れてきた痛覚を自覚するゆとりさえファーレーンには無かった。
身を僅かに屈めただけで懸命に苦痛をやり過ごす。刈り取られた呼吸にも、力を抜くわけにはいかない。
無駄に間延びした時間が過ぎる。ただ嬲り殺されるだけの時が着実に迫ってきていた。
「……所詮は道具か」
気息も絶え絶えの様子に、遊び飽きた玩具を見捨てるかのようにタキオスが呟く。ファーレーンはその一言に激しく反発した。
「! そんな……こと、無いっ!!」
絞り上げるような悲鳴が細い喉を震わせた。絶対に肯定出来ない言葉だった。
見えない巨躯に、口元から鮮血を迸らせ。それでも尚利かない視界に向けてきっ、と睨み上げる。――その時、起こった。
- 100 名前:朔望 風韻 C−4 :2005/11/13(日) 19:58:57 ID:qEkFPymz0
-
――――りぃぃぃぃん…………
ファーレーンの叫びにまるで呼応するかのように、突如『月光』が眩い光を放ち始める。
「…………む」
「え……?」
散々に刃毀れを起こした刀身。その表面が、ぱりぱりと音を立てて剥がれてゆく。
その下から浮かび上がる、清冽な刃紋。間歇泉のように噴き出す蒼白いマナ。
鎧われた鍍金のような鋼の“鞘”から現れた真の姿が白銀に輝いて周囲を包み込んだ。
――――『月光』が、目覚めてゆく。
永遠神剣とは、その担い手の「心の強さ」に反応し、その能力を増幅させ、また、減衰もさせる。
初めて対峙したあの時。ただ、絶対的な“無”の前に萎縮し、打ち震えていた。
再びまみえたあの時。ただ、怒りに任せ、その力に屈した。
……だが、今は違った。眼前の死を前に、恐れず、冷静に彼我の力を見極めた上で、ただ『負けない』。
それだけを強く願い、信じ、貫こうとする心。ファーレーンの意志に、――――『月光』が応えた。
りぃぃぃぃん…………
光芒が、『月光』を包み込む。ぼんやりと蒼かった遺跡が、白く映し出される。徐々に形取る、眩い金色の粒子の波。
壁に映し出される敵の影。対峙する男の輪郭。それらが全て、自らの瞳の奥から、はっきりと判る程に。
――――――ファーレーンの視力は、完全に回復していた。
- 101 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 19:59:58 ID:9hH4tbJ70
- あなたが投下するなら、私は支援しなくてはいけないんです!
- 102 名前:朔望 風韻 C−5 :2005/11/13(日) 20:00:04 ID:qEkFPymz0
-
突然、開かれる視界。蒼く飛び込んでくる周囲の景色。痛いほど刺さるような白銀の光。
「あ……ああ…………」
ファーレーンは戸惑った。『月光』と眼、両方を通じての像がぶれながら一致する。
自分自身で体感出来る色彩が明滅しながら織り重なった。戦いの中、隙だらけで辺りを見渡す。
少し離れた先に、気配で悟ったのか、泣き笑いのような表情を浮かべるニムントールが居た。
手元の『月光』を見下ろす。刃毀れも無く、まるで新品のように浮き上がる波紋。優しい共鳴が心に響く。
「ふ、言っただろう。…………その力、全てを見せろ、と」
タキオスは、あえてその間ファーレーンの無防備な背中に攻撃を仕掛けなかった。
それどころか口元には余裕の笑みさえ浮かべ、明らかに下位神剣である『月光』の目覚めに満足げな声を上げる。
しかしファーレーンはゆっくりとかぶりを振り、その言葉をきっぱりと否定した。
「違います……この子は、応えてくれただけ。臆病だったわたしが封じていたものを、ただ開放してくれただけ」
両目から溢れる涙が、せっかく回復した視界をぼやけさせる。
ファーレーンは再び静かに目を閉じた。一粒だけ、雫が落ちた。
「…………何のつもり、だ?」
不審そうな、タキオスの声。ファーレーンは答えた。
「貴方を倒すのに、もう視力などいらない……そういう事です」
冷徹な一言は、しかし不思議な落ち着きと安らぎに満ちたものだった。
身体中に沁み渡るマナ。湧き上がる力に後押しされるように、ファーレーンはウイングハイロゥを広げた。
ニムントールは『曙光』を掲げ、高らかに謳い出した。神剣の先に収束したマナが、緑色に輝き出す。
もう、恐れは無かった。萎縮した体を無理矢理動かす訳でもない。ただ、自分が今すべき事を思い出した。
ファーレーンを助ける。それだけを思えば良い。紡ぎ出す、息吹の呪文。知らず口ずさんだ口元にもう震えは無かった。
――神剣の主が命じる……マナよ、守りの衣となりて我らを包め。ガイアブレス!
- 103 名前:朔望 mazurka V :2005/11/13(日) 20:02:28 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年コサトの月黒ひとつの日〜§
時深の手中で、召喚された『時逆』が咆哮する。突然の存在に断絶された空間が歪みを修復しようと軋んだ。
その中心で、時深は歯をぐっと食いしばった。暴れまくる意志の制御を怠れば、自分ごと消し飛ばされてしまうであろう。
――――リィィィィ……
強力な力が、全身からマナを吸い上げていく。この世界で操るのは、最初から無理があった。
だからこそ、封印してきたのに。脳裏に浮かぶハリガネ頭に、心の中だけでべーっと舌を出す。
昔から、いっつもこうなんだから。そう文句を言いたくても苦笑しか出ない。
予想外の出来事が新鮮な感覚しか齎さないのは今更判りきった事だった。
それをいつも与えてくれていたのは彼なのだから。時深は脂汗を掻きながら、一度だけの詠唱を始めた。
「いきますよ、『時逆』……この場に集いし者に、時を遡る力を……タイムシフト!!」
爆発的に放出される『時逆』に内在していたオーラ。色彩を持たぬそれが、強引に因果律を越えた次元を繋げていく。
浮かべた時計のイメージ。どんどん左回りに回転していくその針。時深は慎重にそのポイントを見極める。
マナの希薄なこの世界で、過去に一度、その中でも特にエーテル総量が落ち込んだ時期。
それの地域と状況だけを、一時的にこの場に再現する。辿り着いた律の枝葉を払い、取り込んだ。
――――そう、『呪い大飢饉』という現象を。
かつて「シージスの呪い」とも呼ばれ、忌み恐れられた歴史現象が、俄かにソーン・リームへと出現した。
僅かながらに漂っていたマナというマナが一気に別世界へと弾き出される。限りなく0に近づいたエネルギー。
そしてそれは、“エターナルとスピリットのこの世界での能力差”が急速に縮まったという事でもあった。
- 104 名前:朔望 unison T :2005/11/13(日) 20:03:26 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年コサトの月黒ひとつの日〜§
ザシュゥゥゥゥ――――――
同時に襲い掛かる炎と氷。その潜在能力を最大限にまで振り絞られた二本の神剣が、
重なり合うようにミトセマールに吸い込まれる。この世界での仮初めの身体が、耐え切れずに悲鳴を上げた。
「なっ……! そ……バカなっ! アタシが、このアタシがこんなオモチャごときで……ぐはっ!」
エターナルが戦うにしては、マナが充分とはいえない世界。『不浄』の力は半分も出し切ってはいない。
創り出した「依り代」はこの世界の物質を再構成させたもの。つまり当然、「この世界の摂理に従うもの」だった。
突然弱くなったオーラを突き破られた以上、その肉体は、斬り裂かれた傷口から確実に悲鳴を上げ始めている。
それでも、ミトセマールはたった今起きたこの現実を決して認めようとはしなかった。
「おもちゃで……悪かったわねっ!!」
「マナよ我に従え、彼の者を包み深き淵に沈めよっ!!」
「ガァ、ァアアアアァアッッッ! コ、小娘ェェェェ!!!」
灼熱と極寒が同時に収束する。分子結合上で繰り返される沸騰と凝固。赫と蒼の火花がぶつかり合う。
送り込まれたマナが触媒となり、運動エネルギーとなって崩壊へと向かう物理運動を活性化させていた。
保てず、ぼろぼろになっていく肉体。信じられないといった表情で目を剥き、消えていく自分自身を見る。
「こ、の……ッ! この、アタシがアアァァァぁぁぁぁ……!!」
最後の力を振り絞り、うねる『不浄』を振り上げた時。
「アアアァァァあぁぁぁぁぁ……………………」
ミトセマールは、この世界から灰も残さず完全に排除されていた。
ひゅう、と一陣の風が吹き上がる。
静かに立ち上がったセリアは乱れたポニーテールをふわっと掻き上げながら、
「一言いっておくけど…………青 く な ん か 無 い わ よ 」
誰も居ない雪原に向けて、きっぱりと言い放っていた。
- 105 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 20:04:06 ID:9hH4tbJ70
- 事象現出キター…支援!
- 106 名前:朔望 unison U−1 :2005/11/13(日) 20:04:28 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年コサトの月黒ひとつの日〜§
久々の戦い。歪んだ悦びに身を震わせていた筈の『流転』からその意志が失われた時、
メダリオは心の隅を何かが掠めるのを感じた。心臓がぎゅっと縮んだまま絡め取られる。
「んくっ……なんだ、コレ……知らないぞ、こんなのっ!!」
硬直する全身の筋肉。自分の物とは思えない、ぎちぎちと重い体。メダリオは知らなかった。それが、恐怖という感情だと。
「刻まれる恐怖……知ってしまえば、自然と身体はすくむ。防御を忘れるほどに」
すぐ側で、囁くような声。はっと我に返り、咄嗟に膝を付く。右手からの殺気。ウルカが『冥加』を水平に走らせていた。
「恐怖、だと……ぼくが、がぁっ!」
がきんっ! 短く鋭い衝撃。頭を突き抜ける激痛。急に視界が悪くなる。そしてその中に、あった。くるくると回る『流転』が。
「ガ、ガァァアァァァッッ!!」
血煙と共に舞う、メダリオの左手。避わしたと思っていたウルカの攻撃。なのに、何故。メダリオは混乱した。
「てりゃあぁぁぁぁっ!!」
考える暇も無い。疾風のように駆け抜けたウルカの横から、アセリアが飛び出してくる。『存在』に青白い光を靡かせて。
「こ、この……ハァッ!!」
メダリオは、爪先に力を籠めた。片腕を失いバランスの取れない体勢を必死に保つ。
横っ飛びのまま『存在』の切先を見つめ、その初動を見極める。アセリアは、見逃さなかった。
素直に、メダリオが飛んだ方向へとステップする。方向転換は、しかし一瞬の減速でもあった。
「……そこだっ!!」
「…………んっ!!」
どん。
- 107 名前:朔望 unison U−2 :2005/11/13(日) 20:06:42 ID:qEkFPymz0
-
「…………ははっ、なるほど……予想、しませんでした、よ……」
身体に突き刺さった『存在』を見下ろしながら、メダリオは呟いた。本当に、有り得なかった。
止まり、無防備に身体を捻ったアセリアに、メダリオはその回転軸である腹部に『流転』を振るった。
動作中の人間が、一番避わす事の出来ない部位への手加減無しの攻撃。メダリオは、勝利を確信していた。
だがアセリアはその瞬間、『存在』を“投擲”した。
スピリットが、戦闘中に自分の半身ともとれる神剣を手放す。それは、槍型なら当然の戦い方。
しかし見た目両手持ちのアセリアの剣が飛来するなどという事態は、メダリオには想像が出来なかった。
なまじ剣を知りすぎていた為の盲点。その「見た目」に囚われていた彼を、アセリアの発想の転換が上回っていた。
「ですが……それに、しても……」
メダリオは、解せなかった。いかに先程、いきなり周囲のマナが少なくなったとはいえ。
いかに『流転』が沈黙したとはいえ、技量の差は圧倒的。あの程度の攻撃は、始動後にも充分回避出来た筈。
なのに、身体が動かなかった。何かに縛られたかのように、その場に棒立ちのように動けなかった。
――――恐怖。
「そうか、ふふ……なるほど……」
そこで頭を掠める、黒き妖精の台詞。心臓を鷲掴みにされるような、不思議な感覚。
「ウルカ……さんきゅ」
「間に合いました……咄嗟に唱えたテラーでしたが」
側で、二人が声を掛け合っている。テラー。そうか、それが布石の名前か。メダリオは、目を閉じた。
雪の冷たさを、今更ながらに感じる。頬に解けた水が分解されていく身体に心地良かった。
- 108 名前:朔望 unison V−1 :2005/11/13(日) 20:07:48 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年コサトの月黒ひとつの日〜§
一瞬とはいえ『時逆』の力を解放した時深は、身体中から力が抜けたように膝をついた。
荒い呼吸に僅かに鮮血が混じる。無理は、承知の上だった。この“狭い”世界で、『時逆』の持つ力は強大すぎる。
そして強大すぎるが故に、その使うマナの量も尋常では無かった。――殆ど自爆とも思える行為だった。
自らを構成しているマナをその貪欲な消費に使い、この世界に召喚した剣を振るったのだ。
自分も恐らく後数刻後にはファンタズマゴリアを去らなければならないだろう。それも、テムオリンやタキオスを残して。
「悠人さん……後は頼みました……」
それでも時深は、この選択を選んだ。自分が消えた後、この世界がどうなるのか全く予想がつかない。
いや、エターナルを4人も残すのだ。恐らく十中八九、この世界は滅びるだろう。
「ンギュルルッッッ!」
異型の叫びが、思考を現実に戻す。それでも信じるしかない。
かぶりを振った後、時深はいかにも面倒だと言わんばかりにゆっくりと振り返った。
「仕方がありませんね……今目の前には貴方しかいないのですから……」
その呟きには、何かこれから戦うはずの相手を憐れむような口調すら感じさせて。
- 109 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 20:08:31 ID:9hH4tbJ70
- 3エタ退治支援
- 110 名前:朔望 unison V−2 :2005/11/13(日) 20:08:39 ID:qEkFPymz0
-
「貴方程度の相手では少々不足ですが……この『時逆』の力、その身で味わいながらこの世界を去りなさい」
「ギュッ!ギュルッンル!!」
程度呼ばわりされ、ントゥシトゥラの身体を包む灼熱がより一層怒りで増大する。
それは、雪が融けるなどといった生易しいものではない。固体が昇華を飛び越え、原子と陽子が分裂する。
プラズマの炎が舐めるように周囲を蒸発させ、王冠形の神剣『炎帝』を示す象徴が今まで以上に輝き始めた。
周囲を、数万度の霧が覆い始める。それはすぐに渦を巻き、そして噴き上げる炎の龍を形作った。
まるで太陽の表面に降り立ったような、紅蓮の世界。そこでは、全ての生命活動が不可能になる。
「永遠神剣第三位……『炎帝』。貴方がいかに物質の第四状態を司ろうとも……その時間ごと、止めてみせます!」
ントゥシトラの周囲に、巨大な魔法陣が赤く燃え上がる。瞬間、時深は動いていた。
ヒュン――――
一閃。
「ギッ?!」
この世界で、唯一行われたエターナル同士の戦い。その結末は、あっけない程一瞬の出来事だった。
「……ですから、この程度、と言ったのです」
びゅっと手に持つ『時詠』を軽く振り切り、扇子形のそれを開く。口元を隠し、時深は凄惨に笑った。
その眼前で、まるでピースが外れていくパーツのように崩れ、消え去っていくントゥシトラ。
短い悲鳴の他には何も残さず、今何が起きたのかを理解する間も無く、ントゥシトラの姿は見えなくなった。
やがて時深はキハノレの方角に振り向き、ふっと表情を緩める。と同時に光り出す身体。
「この世界ではこういう時……そう、マナの導きがありますよう……でした、ね…………」
自己を保てなくなった時深の姿が周囲に溶け込むように薄く白く輝く。
「この世界にも……それから、悠人さんにも……さよなら、かぁ――――――――」
時深の最後の囁きは、ひゅう、と吹いた一陣の風に掻き消された。
どこからか来た粉雪が、名残惜しそうに暫くゆっくりとその周囲を舞い続けていた。
- 111 名前:朔望 unison W−1 :2005/11/13(日) 20:12:13 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年コサトの月黒ひとつの日〜§
微弱なマナの気流が流れ、目の前の少女が僅かながらに活性化する。
しかしそれを眺めながら、タキオスは軽い失望感に襲われていた。
元々、殺すつもりなら踏み潰すより容易い。それでも何か自分の知らない力を少女は持っているような気がした。
『無我』を通じ、伝わってくる煩わしい蚊のような微少な力。それでも力なら、興味を引かれぬ訳は無い。
ずっとそうして長い時を力の探求にのみ費やしていたタキオスには、このつまらない作戦の中で唯一の悦びといえた。
だからこそ、わざわざ目覚めを待っていたというのに。眼前の敵は目を閉じ、その気配さえも断とうとしている。
「…………いや、これは」
屈み込んだ体勢から弾ける様に飛び込んできたファーレーンに、初めてタキオスは黒く魔法陣を展開させた。
気配が、消えたのではない。さほど速さも感じさせないファーレーンの姿が、ぶわっと朧のようにぼやけ出す。
「な、に?」
タキオスの目元から、余裕が消えた。眼前に迫る敵の像が、“左右に増えて”いく。幻覚でも、錯覚でもない。
三体。高速で移動しているかどうかは気配で追える。しかしこの場合、ファーレーンは気配自体を無くしているのだ。
額から、つつーと液体が流れる。汗。肉体が、緊張で萎縮していく。忘れかけていた久々の感覚。
「……ゆくぞっ!」
本体が判らない。ならば。全部倒せば良い。タキオスは隙の多い両手持ちを諦め、右手だけで水平に『無我』を薙いだ。
ぶぅんっ!
- 112 名前:朔望 unison W−2 :2005/11/13(日) 20:12:53 ID:qEkFPymz0
-
何も手ごたえが無く、虚しく空間だけが裂けていく。“像”は、減らない。タキオスは咄嗟に跳ねた。
何かを察知したとか予感に従ったとかではない、ただ言いようの知れない本能的な感覚が彼を突き上げていた。
「なんだ……コレは」
オーラによるシールドが、そこだけぽっかりと元から何も無かったかのように、開かれた正面。
何も考えずに飛んだ筈の正面に、ファーレーンのロシアンブルーの髪が靡いた。手元に引いた『月光』が眩く輝く。
「それが……恐怖というものです」
「恐怖、だと……ぬうっ!」
先程からぴくぴくと細かく痙攣している腕。久々の戦いからくる武者震いだと考えていた。
指摘されて、思い出す。『虚空』の担い手と戦い、敗れた時の感覚。これではまるでアレと同じではないか…………
「う、おおおおっ!」
認められない。こんな、下位神剣に対してこのような感情を持つ自分などは。
本人が自覚しないまま焦燥したタキオスが隙だらけの体勢から剣を繰り出した時、彼の魔法陣が突如消えうせた。
しかし、周囲のマナの消失にも、沈黙した『無我』の声も、重くなった身体にすら黒き剣士は気がつかなかった。
ざんっ!
「…………あ?」
タキオスは、信じられないものを見るような目で、空中の一点を見た。
くるくるとまるで独楽鼠のように軽く舞いあがる不恰好なL字の黒。不自然なほど見覚えのある物体。
ブーメランのようなそれが“自分の右腕”だと理解した瞬間、タキオスは怒りで殆ど我を見失う程激昂した。
「許さぬ……許さぬっ!!」
肉体的な痛みなど、既に凌駕している。きな臭い血の匂いなど嗅ぎ飽きた。ぎりぎりの死のやり取りなどむしろ喜び。
だがしかし、この状況が許せなかった。敵と認めながら、どこか侮ってきた自分。その油断がこの結果を生む。
いつ斬られたのか、判らない。この未知な剣術に、それを知りたいと思う余裕も最早無かった。あるのは唯、純粋な殺意。
タキオスは身を捻り、空中で舞っている右腕をがっ、と残った左腕で鷲掴みにした。そして反動のままそれを振るう。
剣を握り締めたまま硬直した右手の先で、『無我』がまだ光っていた。黒く放つオーラフォトンビーム。
それでこの茶番劇を、全て終わらせるつもりだった。
- 113 名前:朔望 unison W−3 :2005/11/13(日) 20:13:37 ID:qEkFPymz0
-
ぶおん、と自分より頭一つ高い相手の腕を斬り落とし、着地したファーレーンに重量感が襲い掛かる。
頭上斜め右。それを気配だけで確認しながら、ファーレーンは尚冷静だった。
その運動自体が行われつつある回転軸。その中心に、影を見る。『月光』の剣先と結ぶスカラー。延長上にある標的。
目を閉じる事で、研ぎ澄まされる感覚。“目覚めた”今のファーレーンにとって、威圧感はむしろ判り易い攻撃気配だった。
唯一点を貫こうと意識するだけで自然に動き出す身体。先の先。ミュラーの教えが正解を導き出す。
ざんっ!
再び繰り返される、先程と同じ攻撃。今度は右腕ごと左腕をもっていかれたタキオスは、
ようやく戦いの最中、ずっと感じていた脅威の正体を思い知った。
「…………『一貫』」
両腕を失い立ち尽くすタキオスの脇をすり抜け、着地したファーレーンは膝をつき、ゆっくりと目を開いた。
くらっと眩暈を感じ、頭を振る。速度を感じさせない速度。それを体現する為には身体にもそれなりの負担がかかる。
ダメージは無いものの、精神的な疲労が水を吸った真綿のように圧し掛かる。呼吸が乱れていた。
タキオスは、既に没我していた。大量にマナを失った身体が悲鳴を上げる。猛烈な飢餓感が理性を削り取る。
マナが、足りない。転がった『無我』の、同調した強制力が流れ込んでくる。顎を上げ、仰け反った。
ここには、マナが無い。何故、とは考えず、ただ求める。砂漠の中で、オアシスを探すように。
「…………」
無言で首を捻った先。小さな細身の背中が映る。ロシアンブルーの髪に、黒く纏う衣装。微かに上下する肩。
しかし、そんな事は今はどうでも良かった。“それ”は、彼が今求める瑞々しいマナを豊富に湛えていた。
下半身から、ぞわぞわと複数の意志が膨れ上がる。蛇のようにうねるそれが、一斉に“餌”を求めて飛び出した。
- 114 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 20:14:07 ID:9hH4tbJ70
- ネタつきつつも支援
- 115 名前:朔望 unison W−4 :2005/11/13(日) 20:16:14 ID:qEkFPymz0
-
「え…………きゃあっ!!!」
最早神剣を使った攻撃はない、そう考えたのは明らかにファーレーンの油断だった。
気配は捕捉していたものの、予想外の攻撃に、咄嗟に身体が反応しない。逃げようとした足首が同時に絡みつかれる。
倒れかけ、ささえようとした右腕、肩。腰の辺りに滑った感覚。逃れようと振るった左手から、『月光』が叩き落される。
からからと回転しながら部屋の隅へ弾け飛ぶそれを追っていた視線が、ふいに浮き上がった。
ファーレーンは四つんばいの姿勢のまま、無数の触手によって持ち上げられていた。
「マ、ナだ……マナヲ……ウバエ……オカセ……」
血走ったタキオスの目が、怯えるように首だけ曲げてこちらを窺うロシアンブルーの瞳を捉えた。
恐怖に揺れている瞳の色を見た途端、言い知れない悦びが心の底を突き上げる。
それに呼応した触手がファーレーンの身体中を嘗め回し始めた。
「な、なに……いやぁっ!」
悲鳴が、木霊する。全身が蹂躙を受けていた。ぞわぞわと生温い触覚に、ファーレーンの白い肌全体に鳥肌が立つ。
抵抗しようと暴れた四肢が、更に複数の触手によって絞られた。同時に両胸にも巻きつく様に食い込んでいく。
「あ…………あ…………うっ」
マナが、吸い取られていた。全身から急速に力が抜ける。血の気がさーっと引いていく、貧血のような感覚。
ぐったりとしたファーレーンの腰を、ぐい、と一本の触手が力強く持ち上げた。
「うあ、あ……」
抵抗の熄んだファーレーンの下半身をこちらに向けて突き出すような形にさせたタキオスは、最後の仕上げに入った。
朦朧としている意識の中、蠢く最大の欲求を具現化する。タキオスの腰からずずず、と現れる今までで最大の触手。
赤黒く、グロテスクなそれによって少女の胎内に潜むマナを味わい尽くす。その愉悦を想像しただけで、脳内が痺れた。
興奮が、穂先に同調してぴくん、と波打つ。タキオスは衣服ごと貫こうと、ぐっと腰に力を籠めた。
- 116 名前:朔望 unison W−5 :2005/11/13(日) 20:16:58 ID:qEkFPymz0
-
どんっ!
「…………ぐ、ふ」
「……お姉ちゃんに、触るな」
すぐ背後から、声。荒い息遣い。タキオスは、振り返ろうとして、気づいた。“胸元に生える”一本の槍に。
ずくん、と何かが抜け落ちる。蘇ってくる自分自身。急速に鎮まっていく心。反比例して崩壊していく肉体。
「お姉ちゃんに…………触るなぁっっ!!!」
「う、ぬおぉぉぉっ!」
ばしゅっ! 緑色の閃光が、辺りを激しく照らし出す。『曙光』から弾けた雷がタキオスの体内外で同時に踊った。
神経が化学的に防衛反応を起こし、あらゆる筋肉を収縮させる。触手など保てるものでは無かった。
動かないファーレーンを放り投げ、ぐずぐずと崩れるそれを攻撃に向けようとする。しかし何もかもが遅すぎた。
「精霊よ、全てを貫く衝撃となれ……エレメンタルブラストッ!」
ニムントールを中心にして噴き出した緑雷は、タキオスの体内で爆発した。
内側から壊される異様な衝撃に、咄嗟に残った足でニムントールを蹴り上げる。
「ぐぅ……っ!」
くぐもった呻きを上げ、ニムントールは転がった。ごむまりのように弾み、動かなくなる。
気絶した小さな身体を確認した後、タキオスは冷静に自分の身体を見下ろした。
『曙光』が、未だ残されている。ぽっかりと空いた胸の焦げ臭い空間で、まだばりばりと細かい放電を繰り返して。
まったく考慮に入れてはいなかった。今まで、神剣の位だけで押さえつけていた相手の敵愾心。
その圧倒的な開きに、甘えていたのかも知れない。恐怖を乗り越え、立ち向かってくる小さきもの。
それに、自我も持たない神剣が、ここまで主の心に忠実だとは考えもしなかった。
タキオスは今はっきりと敗因を悟った。自分に足りなかったもの。それは、畏れの克服。
少女が『一貫』と呼んでいた剣技など枝葉に過ぎない。立ち向かう姿勢、それこそが見えない力だったのだ。
「ふ…………礼を言うぞ……」
肉体が砂塵のように崩れていく。『曙光』の応えを感じ、タキオスは薄っすらと口元に笑みを浮かべたままこの世界を去った。
- 117 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 20:18:55 ID:+hAEzR8X0
- 支援
- 118 名前:朔望 風韻 D−1 :2005/11/13(日) 20:19:03 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年コサトの月黒ひとつの日〜§
「ここは……」
悠人は、ふと目の前に飛び込んだ景色に我を取り戻した。
一瞬だった筈の浮遊感に、まだ身体が揺れているような気がする。ぼんやりと、蒼い空間だけが自覚できた。
「ふふふ……お目覚めですか、坊や」
「! テムオリンっ」
今度こそ、目が醒めた。『求め』を両手で持ち直し、睨みつける。虚空に浮かぶ、白い少女に。
「く…………みんなをどうした」
出来るだけ声を低くして、震えを抑える。正直、こうして対面しているだけで、生きている心地がしなかった。
ただ浮かんでいるだけの、あどけない表情で囁いてくる少女。なのに、こんなにも身体が動かない。
「大丈夫、ちゃんと送り届けて差し上げましたから。それにしても…………」
「…………?」
テムオリンの視線が、ちら、と『求め』に向いた。暫く不思議そうに首を傾げ、ゆっくりと微笑む。
悠人はその表情にぞっとした。まるで幼子がこれから踏み潰す蟻をみているような、そんな残酷な笑みだった。
「おかしいですわね。確かに飲まれた筈でしたのに。まぁ、あの程度の男に何を期待するものでもないのですが」
「あの、男……?」
「ええ。ちょっと留守の間にすぐ側に使えそうな国が出来ていたものですから。サルドバルト……といったかしら」
「! な、まさか……お前が?!」
ぎり。奥歯が軋んだ音を立てる。脳裏に浮かぶ、あの雷鳴の夜。飲み込まれた、ダゥタス・ダイ・サルドバルト。
「上手くいきませんね、色々と。まぁいいですわ、こうして最終的に、駒は揃いましたし」
「こ、ま、だと……ふざけるなっ! この世界を何だと思ってるんだ! 俺達はお前らの玩具じゃないっっ!」
悠人は、吼えていた。今まで感じていた矛盾がぴったりと当てはまる感覚。こいつが。もう、怒りを抑え切れなかった。
- 119 名前:朔望 風韻 D−2 :2005/11/13(日) 20:20:17 ID:qEkFPymz0
-
一瞬きょとん、としたテムオリンが、すぐにくくくと喉を鳴らす。
「ふふふふ……こんなに可笑しいのは数周期ぶりですわ……お礼に、せいぜい――――」
しゃらん。持ち上げた錫杖のような神剣に膨大なマナが流れ込み、やがて複数の剣を形取る。
周囲を一斉に取り囲んだ剣のシールドの中、テムオリンは凄惨に微笑んだ。
「――――教えて差し上げましょう、身の程というものを。永遠神剣第二位『秩序』、その力をもって」
しゃらん。軽く翳した『秩序』の先、地面と垂直方向の円を描き漂っていた複数の剣が一斉に悠人を敵と判断する。
剣先、そして矛先を向けられた悠人は『求め』の力を最大限に引き出した。作り出した魔法陣がテムリオンのそれと衝突する。
同時にテムオリンの小柄な身体が身に纏うローブを翻し、『秩序』を斜めに振るった。
不気味なほど清冽なオーラが舞い上がる。それが合図だった。それぞれが意志を持ったように、放射状に襲い掛かる剣達。
「ぐっ!」
悠人はその一本目すら目で追えなかった。ざくっと太腿に鋭い痛みが走る。しかし膝をつく暇も無い。
続いて飛来する槍がバランスを崩した右肩を削り取り、鮮血を巻き込んだ疾風のような短刀が左腕に食い込む。
「うっ、ぐっ、かはっ!!」
ドドドドドッッ!
まるでハリネズミのような攻撃に、悠人は為す術が無かった。致命傷を避けるように両手で身体を庇う。
その隙間を、ただの打突だけが襲い掛かる。『求め』で偶然弾いた剣が翻って喉先に迫り、そしてぴたり、と止まった。
「…………つまりませんわ」
ざっと全ての剣を周囲に引き戻し、テムオリンが呟く。実力の差は最初から話しにならなかった。
テムオリンの一撃は、それだけで殆ど悠人の体力を削り取っていた。
「ぐっ……くそっ……!」
これだけ受けていながら、傷は一つも死に至るものでは無い。まだ戦えるだけの力も残っている。
それでも悠人は歯噛みをし、悔しそうに呟くしかなかった。近づく事すら出来やしない。まともに戦ってもいなかった。
蟻が象に立ち向かうという喩えを思い出してしまう。冷ややかなテムオリンの表情が、それを物語っていた。
- 120 名前:朔望 風韻 D−3 :2005/11/13(日) 20:22:14 ID:qEkFPymz0
-
「時間の無駄ですわね」
睨み上げてくるエトランジェに、テムオリンは最早興味を失いかけていた。
弱い。精一杯加減した攻撃すらこれではいたぶるのも面倒臭い。ラキオスで対峙した時の予感は間違いだったのだろうか。
少しは楽しめるかと思ったが、とんだ期待はずれだった。この世界での全力を出すまでも無い。
テムオリンは軽い失望と共に、止めを刺そうと『秩序』を持ち上げた。
「もう少し遊んでも良かったのですけれど…………え……?」
「…………?」
しかしその時突然、テムオリンの身体に異変が起こった。がくん、と身を震わせる。
「これは……『時逆』! まさかこの弱小なマナで、あれを召喚したと言いますのっ!」
急速に重くなる体。剣達の光芒が次々と霞んでいく。抜けていく力に、テムオリンは舌打ちをした。
「……まあいいですわ。これであの邪魔者はこの世界には居られなくなったのですから。結果オーライという事ですわね」
相手が悠人のせいかしきりに現代世界の言葉を使いつつ、テムオリンは喉の奥を鳴らし、気を取り直した。
「…………安心なさいな。せめて苦しまないように殺して差し上げますから」
そしてかろうじて剣を構え直した悠人に『秩序』をかざし、冷たくそう言い放つ。
蔑むような口調で見下ろす瞳に青白く残虐な炎が宿り始めていた。
まるで、平気で蝶の羽をむしる子供のような。可笑しそうに僅かに上げた口元が、愉悦の表情を浮かべていた。
為す術無く、それでも『求め』を構えた悠人に圧倒的なプレッシャーが襲い掛かる。
「さて……それではごきげんよう、身の程知らずのエトランジェ」
しゃん、と『秩序』が振るわれたとたん、テムオリンの周囲に浮かぶ六本の神剣が瞬時に姿を消した。
余りの速さに捉え切れないそれらは、ただ邪悪な気配を撒き散らしながら悠人の周囲を回り始める。
「なっ!」
「ふふふ……。こういうのを、何と言いましたかしら?」
楽しそうに首を傾げるテムオリンに、しかし悠人は全く動けない。
「くっ……おいバカ剣、何とかしろっ!」
「……そうそう思い出しましたわ、――――ロシアンルーレット」
ようやく思い出したと芝居がかってぽん、と手を打ったテムオリンが、低く告げた瞬間。
悠人の背後、死角から一本の神剣が確実に心臓目がけて飛来していた。
- 121 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 20:23:57 ID:9hH4tbJ70
- 支援支援
- 122 名前:朔望 風韻 D−4 :2005/11/13(日) 20:24:17 ID:qEkFPymz0
-
「うぉぉぉぉっ!」
手元の『求め』にどれだけ精神を集中しても、マナが足りないせいか、『求め』はぴくりとも反応しない。
どこからか猛烈な殺意が迫っているのはぼんやりと掴めるが、それだけだった。
「ちくしょう!ここまで来てっっ!」
それでも挫けそうな気持ちをなんとか奮い立たせ、何かに縋りつくように叫ぶ。――その時、だった。
――――右だ、悠人
「…………え?」
殆ど、反射的だった。声に反応し、咄嗟に身を捻る。そのすぐ脇を焼けるようなオーラが突き抜けていった。
悠人は最小限の動きだけで、テムオリンの攻撃をかわし切っていた。
「…………なっ?」
驚いたのは、テムオリンも同様だった。信じられない、というように一瞬目を見開く。
「く……往生際の悪い」
気を取り直し、やや冷静さを欠けた仕草でもう一度『秩序』をかざす。
混乱している悠人を目がけ、今度は二本同時に、別方向からの攻撃。
ひゅんっ、と其々に風を切り、飛び去る刃(やいば)。これをエターナル以外に避わされた事などはない。
いくら極端にマナが不足している今の状況でも、テムオリンにとっては絶対の攻撃のはずだった。
一方の悠人も、呆然としていた。
突然頭の中に響いた声。忘れる事などない、懐かしい口調。
――――真っ直ぐ下がって!悠っ
- 123 名前:朔望 風韻 D−5 :2005/11/13(日) 20:25:41 ID:qEkFPymz0
-
今度は、よりはっきりと聴こえた。悠人は思いっきりバックステップした。
目の前を神剣の残像だけが駆け抜け、空気が獰猛な爪で引き裂かれる。
衝撃に、びりびりと震える頬。制御を失ったマナが暴走を始めていた。
しかし今の悠人には、それらの現象が見えていなかった。
「あ…………ああ…………」
ただ、嗚咽を漏らしていた。ただ、涙を流して。
「光陰……今日子…………」
そう呼びかけている悠人の手元で、黄緑色に輝き出した『求め』が紫の雷を迸らせ始めていた。
テムオリンは、既に全力で神剣を操っていた。
逆巻くオーラを渾身で振るい、あらゆる方向から目では追えない筈の攻撃を執拗に繰り出す。にもかかわらず。
「そんな……有り得ないですわ……」
目の前で、ひゅんひゅんと竜巻のように渦巻く高位神剣の群れ。その中央にいながら、男は傷一つ負ってはいない。
「…………っ!!」
しかもいつの間にか、男は“目を瞑って”いた。視覚を自ら閉ざし、その上で自分の攻撃をいなしている。
ゆらゆらと小馬鹿にしているようにも見えるその動きに、テムオリンは逆上した。
ここまでプライドを傷つけられたのは初めてだった。
全ての神剣を一度手元に手繰り寄せ、そして最強の呪文を唱え出す。
いたぶり殺すという当初の予定を今度こそはっきりと変更し、いっきに叩き潰すつもりだった。
「徹底的に可愛がってあげますわ……嫌というほどに、ね」
自らに言い聞かせるように暗示をかける事で高めるオーラ。それにより紡ぎ出される神剣魔法。
不遜なエトランジェなど百回でも消滅させてなお余る力。しかしそれは、遂に発動させる事が出来なかった。
「え…………?」
雷撃を纏った『求め』を翳し、予想外の速さでエトランジェが殺到してきていた。
有り得ない。あの剣に、この坊やにそんな力が有る筈が無い。反撃の間に合わない間合いの中、そう理性が否定していた。
一方で歴戦が培ってきた勘は、この場は一旦退かないと危険だと告げている。
- 124 名前:朔望 風韻 D−6 :2005/11/13(日) 20:26:58 ID:qEkFPymz0
-
「うぉぉぉぉぉっ!!!」
「……ばかなっ!」
迫るエトランジェが翻す『求め』が、紫色に輝いている。
鎧っている黄緑色のオーラが混じり合い、咄嗟に破る方法が思い浮かばなかった。
しかしテムオリンは、退かなかった。プライドが許さなかった。本能が必死で鳴らしている警鐘を、素直に受け取れない。
――――ただの駒に、背を向けて逃げるなどとは。
それが一時的であるにせよ、敗北を認めるのだけは絶対に我慢がならなかった。
ここに来て、テムオリンは理性的な判断を失った。同時に、オーラフォトンの光が消え失せる『秩序』。
冷静な分析よりも、感情を優先させる。そんな事が、『秩序』に力を与える訳がなかった。
ざしゅぅぅぅぅ…………
体当たりをするようにぶつかってきた悠人の身体に接触したテムオリンは、ようやく敗因に気がついた。
纏わりつく意識が濁流のように押し寄せて、テムオリンの思考の中をしきりに明滅している。
「か、は…………」
ゆっくりと、自分の腹部を貫く剣を見下ろす。その周囲から、既に肉体は崩壊を始めていた。
..
「そう……三本、でしたの……」
あらゆる状況が、不利に働いた。
完璧に動かしていた筈の駒が、どこから勝手に主を無視して飛び跳ねるようになったのだろう。
彼らにとっては恐らくは理不尽な、全ての駒が女王(クイーン)に傅くよう塗り替えておいたチェス盤の中で。
「この世界から、消えろォォォォッ!!!」
ただ一人、騎士(ナイト)のままでいる事を貫いた青年がいた。そして、それを守ろうとする意志が剣に宿っていた。
「ほんとうに……可愛らしい坊や“達”だこと…………」
テムオリンは薄っすらと諦観の表情すら浮かべながら呟き、そして虚空の中へと静かに消滅していった。
- 125 名前:朔望 風韻 E−1 :2005/11/13(日) 20:29:12 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年コサトの月黒ひとつの日〜§
「…………ユートさま?!」
テムオリンが消えた後も呆然と『求め』を眺め続けていた悠人は、より開かれた遺跡の奥から呼ばれて振り返った。
ファーレーンがニムントールの肩を庇いつつ、こちらに歩いてくる。兜はつけていなかった。
「ファー……勝ったんだな」
よろける足取りや気絶しているらしいニムントールの様子から、戦ったのはすぐに判る。
悠人はすぐにレジストを唱えた。『求め』が即座にそれに応じる。側に来た二人の傷が塞がっていった。
しかし、展開されたオーラは相変わらず青白いまま。う〜ん、とニムントールが目を覚ましたのを確認しつつ悠人は呟いた。
「…………夢、だったのか……いや…………」
「ありがとうございます……ユートさま?」
ファーレーンは難しい顔をしている悠人にすぐに気がつき、上目遣いで覗き込んだ。心配そうにそっと頬に触れる。
視線を合わせた悠人の顔が、少しづつ驚きに変わっていった。一度彼女の持つ『月光』を確かめ、そして再び顔を覗く。
『月光』は、沈黙している。それなのに、ロシアンブルーの瞳に映る自分の顔。それは、つまり――――
「へへん、驚いたユート? お姉ちゃん、治ったんだから」
目を擦っていたニムントールが悠人の疑問に先回りして応える。
悠人は何故か威張るように胸を逸らせる緑の少女を、ファーレーンごときつく抱き締めた。
「ユ、ユートさま?」
「ユユユユート?!」
「………………」
戸惑ったような声が二つ同時に聞こえる。それでも悠人は無言で二人を抱き締め続けた。胸が詰まって何も言えなかった。
- 126 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 20:30:47 ID:9hH4tbJ70
- やはり支援
- 127 名前:朔望 風韻 E−2 :2005/11/13(日) 20:32:08 ID:qEkFPymz0
-
「他の皆は……って判るわけ、ないか」
手元の『求め』に精神を集中させて気配を探っていた悠人は、諦めたように溜息をついた。
隣を歩いているファーレーンとニムントールに話しかける。
この遺跡(?) らしきものの中には、自分達以外に神剣の気配が無い。唯一つ、味方では無い一本を除いては。
「ええ、ですがここに来る途中、キハノレの周囲から大きな光が四つ同時に消えました。恐らく……」
「外か。気づかなかったな……え、よっつって……エターナルなのか?」
たった今まで戦っていた悠人にはそこまで気を配る余裕は無かった。しかし冷静に考えてみると、確かに色々とおかしい。
そもそもエトランジェである自分がエターナルに勝ったという事。時深の話だけではなく、実際に戦った筈なのに実感が無い。
それに、そう思えば変に気だるい身体。何が足りないという訳でもないのに足取りが重い。いつもの歩幅で歩けない。
激戦の疲れなのか、呼吸をするのにも妙に息苦しさを感じてしまう。『再生』のプレッシャーなのだろうか。
そうして、ファーレーンの発言。大きな光、というのがもし本当にエターナルだとしたら、仲間が倒したのか。
願っている訳では無いが、どう考えてみてもスピリットがエターナルに勝てるとは思えない。更に、四つとは――――
「……待てよ。テムオリンが言っていたよな。ロウエターナルって、この世界に五人じゃなかったか?」
ぴたり、と足が止まる。テムオリンは自分が倒した。ファー達がタキオスを倒している。
向かう先、『再生』と思われる気配の側には忘れもしない殺意。瞬がまだ完全に飲み込まれてなければ、残りは、三人。
ばんっ!
「〜〜〜〜〜」
「また何か考えてるでしょ。そういうの、ユートには似合わないからやめた方がいいよ」
立ち止まり、考え込みそうになった悠人の背中に強烈な平手打ちが響く。悠人は息がつまり、思わず屈み込んだ。
- 128 名前:朔望 風韻 E−3 :2005/11/13(日) 20:33:30 ID:qEkFPymz0
-
「ちょ、ちょっとニム!」
「けほ、けほ……あのなぁ」
心持ち涙目になりながら見上げてみると、何故かふんぞり返っているニムントールと慌てて嗜めるファーレーンの姿。
「ダメだよお姉ちゃん。ユートは放っとくと勝手に落ち込んじゃうんだから。ニム、知ってるもの」
「なな、なんでニムがそんな事知ってるんですか!」
「もぅ、そんな事どうでもいいでしょお姉ちゃん。それよりツマなんだから、ちゃんとオットノシリヲタタイテあげないと」
「え、え……何? ニム、それなに?」
説得しようとしたファーレーンの方がすぐにおろおろと防御に回る。調子に乗ってハイペリア語を連発するニムントール。
あっという間に立場が逆転していた。どっちが姉だか判らない。悠人は急に気が楽になって、ぷっと軽く噴き出した。
「ニムそれ、意味判って言ってるのか? ファーも落ち着け。後、それ以上聞いちゃ駄目だ、色々と」
「ですが……もうニムったら、最近全然わたしのいう事聞いてくれないんですから……」
悠人を尻目に言い争う二人に思わず突っ込みを入れながら、頭が真っ白になっていくのを感じる。
ふんっ、と鼻息の荒いニムントールと首を傾げて困っているファーレーンを見ていると、不思議に心が落ち着いてきた。
「どうでもいいでしょそんな事。ほらユート、着いたよ」
「どうでもいいってニム、そんな言い方……あ」
「…………ああ。今はまず、『再生』を止めなくちゃ、な」
「あ……ユ、ユート?」
悠人はぽん、とニムントールの髪に手を乗せた。そのままくしゃっと軽く撫でる。感謝のつもりだった。
さらさらの髪が指の間を通る。何だか珍しく大人しく、じっとされるがままになっているニムントールに微笑む。
ちらっとファーレーンの方を見ると、ロシアンブルーの瞳が細く優しい眼差しで微笑み返していた。
三人で、きっと帰る。そして、叶える。こんな幸せな時間を、みんなで手に入れる為に。
「ユートさま……行きましょう」
静かに告げるファーレーンに、ぐっと力強く頷き返した。
- 129 名前:朔望 風韻 E−4 :2005/11/13(日) 20:34:20 ID:qEkFPymz0
-
いつの間にか辿り着いた、巨大な扉。蒼い結晶体のようなものが、内から噴き出す猛烈なマナによって赤紫に照らされている。
その中から、今にも弾け飛び散りそうな『再生』と、じっと佇む『世界』の禍々しい気配。
仲間の事も気掛かりだし、先程の疑問も残る。だけど今は、先に進もう。悠人はそう決心をし、重い扉に手をかけた。
真っ赤に噴き上がる濃密なマナの溶鉱炉。その中心に、聳え立つように浮いている一本の巨大な塔。
形状だけはオルファリルの両刀型に似ているが、その大きさといいびりびりと伝わってくる力といい、とても比較にはならない。
黒く浮かび上がる影に内在された意志の塊のようなものが深い臙脂色に混ざり合った複雑な指向性を持ち、
それはとっくに善悪などといった人間的な感性を超越し、萌芽する寸前の植物を連想させて悠人達を精神的に圧倒した。
ビッグ・バン。そんな単語が頭をよぎる。消滅と誕生。避ける事は叶わない、あらゆる物に常に繰り返されてきたサイクル。
「……『再生』、か」
呟いてみる。本来、生み出される瞬間に使われる名詞。しかし紛れも無く、それは沈黙の後に囁かれる言葉だった。
「凄い……」
隣でニムントールが呟く。語彙が足りないのでそんな表現になる。拡大し、曖昧になっていく解釈。一言で済むものではない。
伝わらなかったイメージは、各々の心に反射する。狭い範疇での思考など、何の役にもたたない。
剣は、上下方向に垂直に浮いている。下方に向いた直方体のような剣先から、迸っている一本の光。
表面に何かの文様が刻まれているブロック体が光を中心に放射状に浮き、多数が集まって地面を形成していた。
隙間から覗き見えるその下は無限に続くかと思われるようにどこまでも深く、部屋には壁と呼ばれる横方向の仕切りも無い。
遺跡の中の筈なのに、どこまでも広がる空間。その非現実めいた中心で、光が収束している一点。
周辺の赤を透明に照らし、ワインレッドの輝きに満ちたマナが溢れる『はじまりの場所』に、――――いた。
「決着をつけようぜ、瞬」
もう、怒りは無かった。交わすべき言葉も無い。悠人は『求め』をゆっくりと構えた。異形と成り果てた瞬を見据えて。
- 130 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 20:35:32 ID:9hH4tbJ70
- あっとひっとり!
…支援
- 131 名前:朔望 風韻 E−5 :2005/11/13(日) 20:35:34 ID:qEkFPymz0
-
「…………人間が、ここまで辿り着くか」
宙に、守るように取り囲む六本の槍のような翼。赤黒く光る、爬虫類の鱗を思わせる右肩、左腕。
太く血管が浮いている手、足先から生えた赤い爪。長い前髪がかかる双眸は限りなく赫く、貼り付いたように動かない表情。
人の形を保ってはいるものの、それはもう人ではなかった。抑揚も無い声が低く響く。
「我と戦うためか……それともこの男との因縁のためか……まぁ、それもどうでも良いことだ」
「…………」
サーギオスで感じた殺意は感じられない。質の悪い新興宗教に洗脳されたような陶然とした呟き。
悠人はどうしても、目の前の強敵に憎しみを感じる事が出来なかった。瞬に、哀れみしか持てなかった。
「……ファンタズマゴリアを、滅ぼさせはしない」
だから、それだけを告げた。瞬ではなく、それを飲み込みつつある『世界』に向けて。
「ならば、力で挑んでくるのだな。『再生』が完全に暴走するまで、まだ暫くはあるぞ」
見ようによっては美しい臙脂の刀身に、殊更銀色に輝く刃。瞬が軽々と右手を振り被る。
地面から浮かび上がり、高速で回転し始める赤い魔法陣。悠人は咄嗟に『求め』へと力を籠めた。
この間合いでは、瞬に届かない。後ろにいるファーレーンとニムントールに向かって叫ぶ。
「気をつけろ……来るぞっ!!」
オーラフォトンを展開し、高速で周囲のマナを再構成する。悠人には、何が来るのかは判らなかった。
選択したのはレジスト。汎用性で防ぐつもりだった。途端、瞬の周りに見えない圧力のようなものが発生し、
「……オーラの爆発をその身に喰らえ!」
背後で、ひっと息を飲む気配。二人も何か詠唱をしていたようだが間に合わなかった。
やはり、と舌打ちする。『誓い』の時もそうだったが、瞬の詠唱は速い。そしてそれは必ず攻撃に向けられていた。
「オーラフォトン・ブレイク!!」
背中に背負う程深く肩に乗せた『世界』の先で、縦に展開された魔法陣が弾けた。同時に足元で、何かが膨れ上がる気配。
「なっ…………これは!」
悠人は目を疑った。『求め』の、白銀のオーラが消滅し、そこに赤く円形の文様が渦巻いている。
それは、先程まで瞬の周囲を取り囲んでいたもの。瞬のオーラが一瞬にして自分達との間合いを0にしていた。
- 132 名前:朔望 風韻 E−6 :2005/11/13(日) 20:36:34 ID:qEkFPymz0
-
「ユートさま、飛んで下さいっ!」
「…………ファー!」
声に、咄嗟に屈み、膝に力を籠めた。一気に伸ばし、右へと飛ぶ。ファーレーンも、ウイングハイロゥを広げ
ニムントールを抱えたまま飛び跳ねた。偶然なのか、同じ方向へと移動する。同時に足元が、紫色に“爆発”した。
「うぉっ!」
悠人は叫び、『求め』を薙いだ。迫り来る鉄塊のような脅威。それは的確にこちらへとベクトルを向けている。
「バカ剣! 耐えろよっ!!!」
レジストは消されたが、このままでは防御も出来ない。力任せに振るった先に、重く鈍い衝撃。
何も見えない空間に、ばちぃっと金属同士とは思えない異様な剣戟が響き渡った。
受けた身体ごと圧し潰されそうな感覚に、腕が悲鳴を上げる。悠人は歯を食いしばり、着地した地面を踏みしめた。
「風よ、守りの力となれ……ウインドウイスパ!!」
ようやくニムントールの詠唱が完了する。広がる緑色の盾により、僅かながらに弱まるオーラフォトンブレイク。
「いきますっ!!」
そこへファーレーンが飛び込んでくる。ウイングハイロゥを極大まで煌かせ、四肢を小さく折り畳み。
「……月輪の太刀っ!!!」
繰り出された『月光』が、主の意志を忠実に受けて弾ける寸前のオーラフォトンを斬り付ける。
同時に悠人は押し出すように『求め』を突き出した。そうして後一歩という所で。
ズゥンッ!
「うわぁぁぁっ!」
「きゃあああっ!」
「んぁうっ!」
臨界に達したマナが、崩壊を繰り返す。その余剰エネルギーは、至近距離にいた悠人達を簡単に吹き飛ばした。
もうもうと遺跡の欠片を舞い上げ、血煙の様な色に染まった空間に向け、瞬の無機質な声が囁く。
「……弱すぎる…………死ね」
悠人はよろよろと立ち上がりながら、『求め』越しにその声をはっきりと聞いた。
- 133 名前:朔望 novellette U :2005/11/13(日) 20:37:52 ID:qEkFPymz0
- §〜〜聖ヨト暦332年ソネスの月緑ふたつの日〜〜§
それは、遠い、遠い、夢。
広い、広い草原。水色に、澄み渡る空。忙しげに流れていく雲達。
わたしは一人で、たった一人でぽつん、とそこに立っている。
ぐるりと見渡しても綺麗に切り分けられた水色と緑がどこまでも続いているだけで。
風に波打つ草の音に耳を済ませながら、わたしはただぼんやりと世界を眺めていた。
りぃぃぃぃぃん…………
一陣の風に舞い上がる髪を抑えた手が、何かを持っていることに気づく。
無機質な、それでいてどこか懐かしい温もりを感じさせる銀色の、細い槍。
両手で抱えた時、わたしはいつの間にか雨の風景に囲まれていた。
見上げると、目に入るのは大樹が広げる枝の傘と冷たく細かい霧の壁。
温もりが奪われる感覚に、初めて独り、そんな中に放り出されていることを自覚する。
…………寒い。ここは寒いよ。
急に不安になった心は縋るものを求めて彷徨う。
今は必死に握り締めている槍身が、淡く緑色に輝きだしていた。
ぱしゃ。
だから。呼び声に顔を上げた時、わたしはきっと泣いていたのだと思う。
涙は雨に濡れ、心も雨に濡れ。それでも幻想的な光景に包まれて。
それがわたしの原初の記憶。きっとそこからわたしは「始まった」のだろう。だって。
――――ラ、ニィクウ、セィン、ウースィ?
それが、初めて聞いた、大好きなお姉ちゃんの声だったのだから。
一体どれだけそれで、わたしの心は救われたのだろう。
自分の名前を思い出そうとして、ちょっと躊躇って、そして。
…………ニムン、トール。
初めて使ったときと、同じ言葉。『曙光』が嬉しそうに光を放った。
- 134 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 20:38:57 ID:9hH4tbJ70
- 決戦支援
- 135 名前:朔望 風韻 F−1 :2005/11/13(日) 20:39:45 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年コサトの月黒ひとつの日〜§
先程の攻撃をもう一度くらえばひとたまりも無い。避わそうとして、悠人ははっと後ろを振り返った。
今の衝撃からまだ立ち直っていないファーレーンとニムントールが蹲っている。
このままでは、後ろの2人が危ない。悠人は咄嗟にその場でもう一度レジストを展開しようとした。
しかしその一瞬の躊躇いが瞬に第二撃の発動を許してしまう。いずれにせよ間に合わない、高速の詠唱。
「遅いぞぉぉっ!悠人ぉぉぉっっ!!!」
名前を呼ばれる違和感が一瞬頭を掠めるが、今はそれどころではない。二人を庇うように前に立つ。
赤黒いその牙は、先程同様紙のようにあっけなくそのオーラフォトンを突き破った。そして今度はそれが細く分裂する。
「く、ぐぁぁぁっ!」
体中を切り裂く槍を、悠人は必死にシールドだけで防いだ。だが、それも時間の問題だった。
「ユートさまっ!!」
「ユートっ!!」
後ろから、悲鳴が聞こえる。しかし悠人には振り向く余裕も無かった。無限かと思われる程、降り注ぐ魔槍。
「だ、大丈夫……だっ!」
まともに返事も出来ず、歯を食いしばる。反撃が出来ない以上、絶望的でも今は耐えるしかなかった。
今にも吹き飛ばされそうな悠人の背中を見て、ファーレーンは冷静に決心した。
この敵は、強い。負けるつもりはもちろん無かったが、それでも近づけない現状では切り崩せもしない。
問題は、タイムラグ。どうして一度、攻撃が已んだのか。限界点が、そこに見えてくる。或いは、と仮定する。
膨大なマナの出力に、一時的な容量が足りていないのではないか。瞬という、人間としての器の中では。
高位神剣を振るう、そんな事がこのマナの希薄な世界ではそう容易い訳が無い。タキオスがそれを示していた。
自分のようなスピリットでも、この無尽蔵にマナの満ちた空間で、『月光』を振るえる機会があるのなら。
――――それは、今しかない。敵の攻撃が収まる前。マナを補給する為に、ただのスピリットでも脅威になりうる瞬間。
そうして決断する。それは“人”として、最大の能力。スピリットという種族が今まで出来なかった自己判断。
ファーレーンは、自らの運命を自分で決める意志を、すでに持っていた。目の前の、大きな背中によって。
- 136 名前:朔望 風韻 F−2 :2005/11/13(日) 20:40:48 ID:qEkFPymz0
- 三人は無理でも、二人なら戦える可能性が生じる。そんな単純な差し引き。
恐らくもう一撃は誰にも耐え切れない。動くならこれが最後のチャンスだった。
「ニム……ゴメンね」
「?……お姉ちゃん、何を……あっ!」
まだ上手く体を動かせないニムントールを、悠人の方へと押しやる。そしてなけなしのマナを背中に集中させた。
悠人のシールドの外に飛び出し、『世界』の注意を少しでも逸らす。それがファーレーンの思いついた“賭け”だった。
それによって、たとえ自らが消滅しても。それがスピリットの、ひいては世界の未来に繋がるのなら。
…………決して死に急ぐのではなく。望んだ未来の葉を開く一粒の萌芽になれるのなら。
ファーレーンはタイミングを計り、最後にニムントールの様子を窺った。緑柚色の瞳と目が合う。
「お姉ちゃん……後はよろしくっ!」
不自然な程に明るい声が、ファーレーンの足をぎくり、と止めた。
「な……!」
叫ぶ暇も無かった。『曙光』のシールドハイロゥで緑色に輝いたニムントールが、悠人の前に飛び出していた。
それはまるで、ファーレーンの考えをトレースしたような動き。ニムントールは明らかに姉の思考を読んでいた。
読んでいて、それでいて自分に置き換える。素直な感情が余りにも単純に、少女の行動を決断させていた。
「ニムっ!お前何をっ!」
突然目の前に立った小柄な少女。綺麗に刈り揃えられた緑の髪が散り散りに舞うのを悠人は見た。
…………ドドドドドッ!
「ユート……お姉ちゃんを泣かしたら……しょうち……しない、から…………」
あっという間に『曙光』がシールドごと崩れ去る。残されたニムントールの体から無数の黒い槍が伸びていた。
「ニムぅっっ!!!」
ファーレーンの叫びが、吹き荒れる嵐に掻き消される。それでも闇の濁流に飲み込まれる瞬間ニムントールはにっこりと頷き、
――――大好き
いままでで最高の笑顔を見せながら、あっさりとその存在を失った。それはあっけない、本当にあっけない最後だった。
- 137 名前:朔望 lagrima X :2005/11/13(日) 20:41:57 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦331年エハの月黒よっつの日〜§
お姉ちゃんがぼろぼろになって帰ってきたあの日。
あの日、初めてわたしはお姉ちゃんが何かをわたしに隠していると、気づいた。
何度か問いただしてみたけれど、お姉ちゃんは何も言わない。
だけど、それでわたしは解ってしまった。周囲を取り巻く、戦争という状況。
ニムだけが何故か何時までも訓練ばかりを繰り返していること。
それらを振り返ってみれば、答えは最初から、一つだった。
お姉ちゃんは、今も昔もずっとわたしを守ってくれている。
辛い事も酷い事もあっただろうに、何時も笑顔でわたしを見てくれている。
だから。もう、これ以上問い詰めるのは、止めることにした。
だってお姉ちゃんが言いたくないのなら、やっぱりニムも聞きたくないから。
自分を盾にまでしてただ黙って見守ってくれているお姉ちゃん。
どうしても治癒魔法を憶えられない自分が凄く悔しいけれど、
それでもこれからは、わたしもお姉ちゃんを守るんだ。
たとえ自分を盾にしてでも。ずっとずっと、大好きなお姉ちゃんだから――――
- 138 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 20:43:41 ID:9hH4tbJ70
- 二ム……
……そうだ、支援しなくちゃ
- 139 名前:朔望 風韻 F−3 :2005/11/13(日) 20:44:28 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年コサトの月黒ひとつの日〜§
「このぉぉぉぉっっっ!!瞬っっっっ!!!」
目の前で消えた一つの命が、ぽっかりと緑色の道しるべをそこに残していた。
悲しみと怒りで感情を増幅させた『求め』が白銀に輝く。悠人は剣を逆手に構え、そこに突っ込んだ。
「うぉぉぉぉっっっ!!!」
「なっ!バカな……何故っ!」
絶対的な技のはず。それを破られた瞬は、意外なタイミングで飛び込んできた悠人に咄嗟に反応出来なかった。
周囲に舞う剣では間に合わない。両手で『世界』を持ち直し、迎撃の姿勢を取る。
そこに悠人が殺到してきた。『再生の間』に吹き荒れていた赤の嵐がぴたりと止まる。
「瞬ーーーっ!!」
「……悠人ぉぉっ!!!」
がぎゃぁぁぁん…………
錆びた、削るような鈍い音と火花。繰り出された『求め』が『世界』に受け止められる。
水平に構えた『世界』ごしに見える瞬の憎悪に染まった瞳には、自我が完全に戻っていた。
技を破られた驚きなのか、切り結んだ『求め』の意志に、昏い底から強引に引き上げられる瞬の意識。
入れ替わるように『世界』が、再び眠りにつき、『誓い』の波動へとすり替わっていく。
―――「強さを求め」て自我を保ち続けた悠人と「得る誓い」で憎しみにより神剣を捻じ伏せた瞬。
対照的な二人の白と黒のオーラフォトンが眩しくぶつかり合い、『再生の間』を震わせる―――
ファーレーンは、その様子を呆然と眺めていた。ぺたり、と腰を下ろし、妹が消えたただ一点を凝視する。
自分の目が、信じられなかった。ぽっかりと大きく抜け落ちたような心。かたかたと震えだす身体。
ニムントールだったものが、金色の欠片を残したままこの世から消滅してしまう。そんな事実は受け入れられなかった。
- 140 名前:朔望 風韻 F−4 :2005/11/13(日) 20:45:27 ID:qEkFPymz0
-
「ニム……?」
虚ろな瞳で、立ち上がる。ふらふらと手を差し伸べる空間。赤く照らされる周囲に混じり、仄かに舞う金色のマナ。
「ニム……嘘、だよね…………?」
からん、と落とした『月光』にも気づかず、うわ言のように繰り返す。だが、呼びかけに答えは返ってこない。
「嘘……嘘…………」
一番恐れていた事だった。半身を失うような、気が遠くなる喪失。現実感の無さに、それでも痛みすら感じない。
りぃぃぃぃん…………
ファーレーンは、はっと顔を上げた。足元の『月光』を殆ど無意識に拾い上げる。握り手から伝わる、優しい響き。
遅れてきた波に、今更心がぶるっと震えた。さざ波はすぐに波紋となり、隅々まで感情を満たしていく。
≪しっかり!≫
「……しっかり、しなきゃ」
聞こえたのは『月光』の声か、それとも幻聴か。ファーレーンは溢れ出す涙を振り払うように、そっと目を閉じた。
激しくぶつかり合う、二つの頑なな気配。その先で膨れ上がる深紅の意志。そして、はっきりと感じられた。
そっと自分に寄り添う、柔らかな緑の心。ずっと自分の中に棲み、そして今は見守ってくれている癒しの精神(スピリット)。
ぽたっ、と顎の先から一筋、透明な雫が零れ落ちた。ファーレーンはぎゅっと口元を結び、そして見上げた。
「ニム……負けないから、ね」
りぃぃぃぃん…………
同調した『月光』が、ファーレーンを照らし出す。背中から羽ばたく、身長よりも大きな翼。
それはエメラルドグリーンに輝き、幾枚もの羽を舞い上がらせながら、ばさぁ、と力強く羽ばたいていた。
- 141 名前:朔望 風韻 F−5 :2005/11/13(日) 20:46:33 ID:qEkFPymz0
-
「…………何っ?!」
何度目かの攻防。その刹那、瞬は対峙する悠人の『求め』が微妙に変化し始めているのに気づいた。
「うぉぉぉぉっ!」
「くっ、何だっていうんだよ……悠人ぉ!」
がきぃんっ! 交差する『誓い』。その剣越しに、びりっと伝わるまるで雷のような衝撃。
そしてこの、木刀で電柱を殴りつけたような、鈍い痺れの来る手応え。先程から、徐々に『求め』の力が増大している。
「ぐ……うぁっ!」
「瞬っ!」
突き放した悠人が、再び上段に振り被る。瞬は見た。いつの間にか黄緑に輝き、紫雷を纏う『求め』を。
「あれは……碧! それに岬かっ!!」
殆ど『誓い』に意識を奪われていた時の記憶が蘇って来る。確かに自分は知っていた。『因果』と『空虚』がどうなったかを。
それなのに、と歯噛みする。『誓い』では最早『求め』に及ばなかった。だからこそ、求めたのだ。盲目に、更なる力だけを。
キィィィィン…………
「くっ、この……黙れ! 黙れよっ!!」
『誓い』の意識が頭の中で暴れる。しかし、瞬はそれを跳ね退けた。もううんざりだ、そう心の中だけで叫ぶ。
こんな馬鹿げた、力はいらない。佳織を苦しめた。呼び戻されたその記憶が、はっきりと瞬を神剣の支配から決別させていた。
きぃぃぃぃん…………
「うるさいぞ、バカ剣っっ!」
『求め』の、『誓い』への憎悪が膨らんでいく。しかし、悠人はそれを抑え込んだ。いいかげんにしろ、そう心の中で叫ぶ。
これで最後。誓約通り、『誓い』は砕いてやる。だが、いいようにこの世界を振り回し、次々に大切なものを脅かし。
こんな馬鹿げた、力はもういらない。培ってきた想い出が、はっきりと悠人を神剣の強制から永別させていた。
それでも。
「「決着だけは…………つけるっっ!!」」
悠人と瞬の叫びが不思議な程折り重なり、再生の間全体に大きく響き渡った瞬間、二本の神剣は激しく衝突した。
- 142 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 20:49:34 ID:9hH4tbJ70
- ついに決着か?
支援を!
- 143 名前:朔望 ballade −1 :2005/11/13(日) 20:51:56 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年コサトの月黒ひとつの日〜§
「ぐっ…………つあっ!!」
苦悶の声を上げたのは、瞬。骨まで叩き折られるような衝撃に、手元の『誓い』の感触を失う。
ぶおんと唸りを上げる『求め』と悠人の姿が驚くほど正面に立っていた。その足元、たった今弾かれた『誓い』が落ちていく。
「く、まだ……まだだ!」
「!! 瞬?!」
瞬は咄嗟に悠人の脇を蹴り上げ、その反動で背後に回った。全力を使った直後で、悠人の反応が一瞬遅れる。
「マナよ、僕に従え、オーラとなりて……」
虚空に向かって分解しつつ、落下していく『誓い』。その制御が間に合う距離の内に、瞬は最後の詠唱を紡いだ。
弾き落とされた『誓い』のマナを“引きずり出し”、両肩に集中させる。大きく広げた両手の上に、白銀の球体が浮かんだ。
「この……悪あがきをっ」
悠人は振り返り、振り被った『求め』を凝縮されたマナに対してぶつけようとした。
捻った身体の反動のまま、剣先だけをやや上に向ける。だが、無駄のある動きの分だけ瞬の方が速い。
「正しいというなら受けてみせろよ…………悠人ォッッ!!」
詠唱が完了し、まさに飛来しようとする雷球が二つ、悠人のオーラに干渉してそれを打ち破ろうとしていた。
「マナよ、安息の闇と化せ。ハイロゥに一時の眠りを…………」
「……何ッ!」
背後から忍び寄る、静寂の詩。途端、弱まるフォトンレイに、瞬は微かな異変を感じた。やや圧し戻される、悠人の魔法陣。
- 144 名前:朔望 ballade −2 :2005/11/13(日) 20:52:40 ID:qEkFPymz0
-
…………どんっ
「かっ……ぐふっ…………」
そして次の瞬間、瞬は貫かれていた。背中から体当たり気味に、飛び込んできたファーレーンに。
ごおん、ごおんと響く『再生』の唸りが耳の奥に遠く響く。気づけば弓なりになった身体で空を仰いでいた。
「還って下さい……貴方は……貴方は、ここに居ては駄目なんです!」
後ろから聞こえる、くぐもった声に聞き覚えがあった。かはっと広がる、自らの鮮血。真っ赤に沈んでいく視界。
「また、あの時の、か……あ……?」
刺し貫かれた『月光』から、ファーレーンの意識が流れ込んでくる。それは激しくも温かな記憶。自分が得られなかった記憶。
“人”である自分が得られず、“スピリット”である彼女が得る事の出来た記憶。そしてその中心に――――悠人が、いた。
「あ、ああ…………」
蘇る、病院の光景。既に失われたと諦めていた細い絆。差し出された小さな手。あの時、微笑み返せた自分。
胸の中心に、貫かれた傷から消えていく体の代わりに埋められていく心。瞬は懸命に首を持ち上げ、正面の悠人を探した。
「瞬……」
悠人は、どこか辛そうに瞬を見つめていた。そこにある哀れみの表情が、まだ残るしこりを微かに刺激する。
しかしもう、瞬はそれに反発しようとは思わなかった。自分の事なのに、諦観するような感傷だけが残っていた。
「そ、そんな顔、するなよ……くっ、相変わらず、ムカつく奴だ……だけど」
「瞬……正しいとか、そんなんじゃない。俺はただ」
「ふん…………悪かった。……僕の、負けだ……」
「……瞬っ!!!」
崩れすぎた胸の穴から、ずるっと『月光』が抜け落ちる。瞬は、そのまま再生の間に広がる光へと落ちていった。
「…………佳織」
ふと、疑問に思った。何故、自分は今、戦っていたのかと。そしてそれがこの世界で、瞬が最後に思った事だった。
- 145 名前:朔望 mazurka W :2005/11/13(日) 20:54:29 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年コサトの月黒ひとつの日〜§
何も無い、蒼い空間。引き戻される意識の中、『時逆』がたった今までいた世界の意志を捕捉する。
優しい女性的な響きに生み出されるものの胎動を感じ、逆らう謂れもない私は委ねるように同調した。
呼び覚まされる空間の記憶。巻き戻される因果の律。次元を超えて繋がる“人の想い”、紡がれる時。
「たまには、こういうのもいいかも知れませんね……」
次の戦いが待っている。やがて離れていく意識への同調を切り、近づいてくる本体に心を向ける。
薄っすらと微笑んでいる自分を自覚しながら、私は久し振りに穏かな眠りに包まれていた。
- 146 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 20:55:54 ID:9hH4tbJ70
-
支援だけは、続けよう
- 147 名前:朔望 風韻 ]−1 :2005/11/13(日) 20:56:09 ID:qEkFPymz0
- §〜聖ヨト暦332年コサトの月黒ひとつの日〜§
『契約者よ、戦いは終わった』
「……ああ」
舞い散るマナ蛍のような輝きを見つめ、悠人は短く答えた。もう、エターナルはいない。
『再生』に集まっていたマナが方向性を失い、様々な軌跡を描いて開放されていく。
朱、白、蒼、そして……緑。胸にぎゅっと握った手を当てる。不思議に涙が零れない。ただ、苦しい。
振り返った時の、短い緑柚色の髪と瞳。少し不機嫌そうな顔。佳織と対面した時に見せた恥ずかしがりよう。
同じレベルで小突きあった想い出が溢れ出してくる。ちょっと気難しく、そしてそれより何倍も可愛い、新しい「妹」。
そんな妹を失った喪失感。虚しさだけが残される戦い。悠人は虚ろに『再生』を見上げた。
『貴方は、信じられますか?』
「…………え?」
唐突に響く、声。頭の中に語りかける口調はどこまでも穏かで。
『強さを……その剣を握る、真の意味を』
永遠神剣第二位、『再生』。“彼女”は優しく、まるで心の中をそっと撫でるように問いかけていた。
風の吹き抜ける草原のイメージ。転がるような滑らかな囁き。温かい、光に満ちた音色。
『貴方は…………大丈夫、ですか?』
――――なら、大丈夫。
「…………ああ。大丈夫だ……バカ剣は意外にいい奴だから、な」
『……フン』
「それに……俺はまだ、約束を果たしきってはいない。託されたんだ。――――大事な妹に」
ぶわっ、と耐えていた涙が溢れる。悠人はそれを拭おうともせず、未だ蹲ったままのファーレーンの肩にそっと触れた。
ぴくっと跳ね上がる背中。華奢な身体がゆっくりと振り向く。恐る恐る、上目遣いの表情がくしゃっと歪んだ。
「う…………うわあぁぁぁぁっ!!!」
ファーレーンは悠人の胸に飛び込むなり、激しく泣き叫んだ。まるで子供のように、掴んだシャツをぐしょぐしょに濡らして。
悠人はその背中を、そっと優しく両手で包み込んだ。柔らかいロシアンブルーの髪に顔を押し付け、静かに囁く。
「泣くなよファー。泣いたら……俺が、ニムに怒られちまうだろ…………」
「ああっ、ああああああ………………」
ファーレーンの慟哭が響き渡る再生の間。その中心を、ゆっくりと『再生』が沈んでいった。
- 148 名前:朔望 風韻 ]−2 :2005/11/13(日) 20:57:13 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年コサトの月黒ふたつの日〜§
キハノレの入り口で悠人とファーレーンは仲間達と合流した。お互いの報告を終え、帰途に就く。
皆の雰囲気は決して戦勝者としての軽い物ではなかった。失ったものの大きさが、改めて足取りを重くする。
ネリーなどは真っ赤に目を腫らしたまま、時々誰も居ない地点を振り返りつつ、シアーに袖を引っ張られている。
火の消えたように大人しいオルファリル。じっと俯いたまま一言も喋らないヘリオン。
年少組にとって、初めて仲間を失った戦闘。それは、悲しみ以上に自分達の存在を考えさせる、初めての経験でもあった。
「……ネリー、絶対に生きるよ」
誰にとも無く、蒼い瞳の少女が呟く。声に振り返った皆の驚いたような表情の中、きゅっと小さな手を握り締めたまま。
「ネリー、生きるっ! 絶対に、絶対に……ニムの分まで生きてみせるんだからぁっ!!」
「……うんっ! オルファだって! もうこんなの、嫌だからぁっ!!」
「そうですよね……そうですよ、こんなの……もう嫌ですっ!」
次々と叫び出す少女達。悠人は、空を見上げた。嘘のように晴れ渡る空。中空に浮かぶ太陽は、穏かな日差しを湛えていた。
ぎゅっと袖口を引っ張られる。先程まで手を引いていたファーレーンが、ようやく顔を上げていた。
りんごのように真っ赤に染まった頬、目尻。不安そうに見上げてくる瞳が何かを求めて激しく揺れ動いている。
まだ涙の跡が残っている長い睫毛に微かに光る小さな雫。悠人はそっとその髪を撫でた。
「……一緒に、背負おう?」
たった一言、そう告げる。余計な言葉は必要無かった。ただ、伝えた。一番伝えたい事を、一番大事な人に。
ファーレーンは何も言わずに頷き、そっと悠人の胸に顔を埋めてくる。細く震える肩。悠人は黙ってそれを受け入れた。
時深はついに戻っては来なかった。使命を果たしたとでもいうのか、忽然とその記憶さえも朧気に霞んでいく。
悠人は空を見上げた。包み込むように木霊する少女達の誓いの言葉。
目に眩しい辺り一面の雪景色と降り注ぐ陽光、そして空に還る様々なマナがその光景を見守っていた。
- 149 名前:朔望 風韻 ]−3 :2005/11/13(日) 20:58:33 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年コサトの月黒よっつの日〜§
「……やぁ」
「……ごくろうさまでした、ユート」
ラキオスの王城で、交わした言葉はこれだけだった。公にしている訳でもない戦いに、祝勝などと浮ついたものはない。
厳粛に、まるで通夜のような雰囲気が謁見の間を包み込む。この場に措いて、無駄口を叩く者など誰も居ない。
重臣達は皆押し黙り、目線を薄く下に向けたまま、赤い絨毯を見つめていた。ただ、疲労感のような虚しさだけが満たす。
人とスピリットの共存。この重苦しい結果に、彼らは皆自分の感情に戸惑った。少女の死と引き換えに、得た未来。
ラキオスが小国だった頃、誰がこの感情を理解しえただろうか。彼らは今、純粋に自分の不甲斐なさを嘆いていた。
レスティーナは、立ち去る背中に向かってたった一言呟いた。
「ちゃんと……私、ちゃんと頑張るから、だから、これだけは……」
大きな背中。そこに背負うのは、大きな悲しみとたった一つの存在だけ。
「ごめんなさい、ニムントール、ファーレーン……おかえり、ユートくん……」
ぎぃ……ばたん
廊下へと続く扉が軋んだ音を立てて閉じた。
「あ…………ユートさま…………その」
「ファー、お待たせ」
廊下に出た悠人は、すぐに不安そうに立っているファーレーンを見つけた。
キハノレ以来、ファーレーンはずっと悠人の側を片時も離れようとしない。今もとことこと駆け寄ってくる。
一人でいるのが辛いというのもあるが、離れるという行為を敏感に恐れるようになった。
悠人はそこまででは無かったが、ファーレーンの気持ちは痛い程判る。優しく微笑み、白い手を取った。
「あ…………」
「さ、行こうか。今日はもう、用事は何も無いからさ」
安心したように、それでいて疲れたような不安の翳を常に帯びているファーレーンに胸が締め付けられる。
それでも悠人は痛みを押し殺し、一方的に微笑み続けた。一緒に背負う、その約束を今度は自分が守る番だから。
- 150 名前:朔望 風韻 ]−4 :2005/11/13(日) 20:59:37 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年ソネスの月青ふたつの日〜§
ラキオスに帰還して、数日後の事。悠人はヨーティアの新発明、『抗マナ変換器』の始動に立ち会っていた。
「まぁこれで理論上エーテルはマナとして消費出来なくなる訳だが……おい、聞いてるか、ユート」
「え? あ、ああ。もうこれでマナは無くならない、スピリットも戦わなくて済むんだよな」
「あー……何だか飛躍した理屈だが、まぁ、長期的にみればそうなるだろうさ。レスティーナ殿が尽力すればね」
「そうか、そうだよな……レスティーナなら、でも大丈夫だ」
「…………あのなユート。そのいつも以上にボンクラな頭はいいとして、何か悩みでもあるのか?」
がしがしと頭を掻きながら、ヨーティアは馴れない台詞を口にした。『求め』をじっと見ている悠人。
その雰囲気に、何か妙な空気を感じたのだが、悠人は意外なほどさっぱりとした表情を急に浮かべる。
「いや。ヨーティアにも世話になったな、と思って」
「…………へ? な〜に言ってんだい今更。この大天才さまにとってこの位……なった? おいユート?」
「ああ。もう大丈夫なんだ、ヨーティア。だから」
ばつの悪そうに視線を逸らし、鼻をかく悠人。ヨーティアは一度目を丸くし、そしてじっと悠人の顔を覗き込んだ。
「な、なんだよ」
「……いや。いい顔になったな、ユート。いや……ユート殿。本当は私が押そうと思ってたんだが……」
そう言って、すっと差し出す小さな箱のようなもの。悠人は暫くそれを眺め、そして指を差し出した。
ぶぅぅぅぅぅん…………
起動する抗マナ変換器。重く響く音を背中に、悠人は黙って研究室を出て行った。
その扉をじっと見つめていたヨーティアが、誰も居ない空間に向かって呟く。
「やれやれ、あんなのでも居なくなると寂しくなるねぇ……くす、まるでアンタが消えた時のようだよ」
そうしてどこか遠くへと想いを馳せるように、ヨーティアは小さな眼鏡の奥でそっと目を閉じた。
- 151 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 20:59:50 ID:9hH4tbJ70
- 零れ落ちたものに、哀悼をささげて……
支援
- 152 名前:朔望 風韻 ]−5 :2005/11/13(日) 21:00:51 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年ソネスの月青みっつの日〜§
「そう……ですか」
「ああ、みんなへはエスペリアから伝えておいてくれないか? 薄情だとは思うけど」
「そんなっ……そんな事は、ありません、けど……ですが……」
悠人は第一詰所の裏にエスペリアを呼び出していた。両手で顔を覆う彼女に差し出しかけた手をそっと引き戻す。
暫く、そのままでいた。すぐそこに迫る木々が、さやさやと風に嬲られ、葉を擦らせる。
今日も、良く晴れていた。雲が細かく千切れ、流されていく。同じ風が二人の間の時間をゆるやかに流れていった。
「エスペリアには、良く助けられたよな。何も知らないこの世界で、本当に世話になった……ありがと、な」
はっ、と顔を上げる気配。悠人は空を見上げたまま続けた。今エスペリアの顔を見るのは、反則のような気がした。
「だから、その……エスペリアにだけには、ちゃんと言っておきたかった。皆にも感謝してるけど、その……姉さん」
「…………え? ユ、ユートさま?」
「エスペリア姉さん……行ってきます」
「あ…………は、はい…………行ってらっしゃい、ユートさま……ユート」
悠人は一度手をぐっと突き上げ、そして振り向かずに歩き出した。その大きな背中を見つめていた視界がぼやけ出す。
エスペリアは白いエプロンの裾をぎゅっと握り締めて、涙に耐えた。決して俯かずに悠人を見送る。
「ずるいです、ユート様……そんな風に言われたら、わたくしは…………わたくしは、止められないじゃないですか……」
悠人が立ち去った後の、エスペリアの呟き。誰も聞いていない一言が、冷たい雫と共に地面に吸い込まれていった。
- 153 名前:朔望 風韻 ]−6 :2005/11/13(日) 21:02:43 ID:qEkFPymz0
-
「ユートくん……どうか、元気で……」
執務室の窓際。レスティーナは、黙って森の方角を眺めていた。その向こう、イースペリアから、風が吹いてくる。
止める事は出来なかった。四日前、謁見の間で交わした一言。それだけで、判ってしまった。
大きな、黒い瞳に宿っている、強い決心を。その更に奥深く根付く感情と意志を。
何も声を掛けられなかった事に、後悔はしていない。理性では、判っている。託された、未来。
自分はそれを果たさなければならない。幼少の頃、優しいアズマリア女王と共に誓い合ったあの一言。
――――人と、スピリットの共存――――
レスティーナは左手で前髪を掬い、そっと窓際を離れた。拍子に、一枚の紙がぱらりと落ちる。
目に飛び込んでくる、一人の名前。――――ファーレーン・ブラックスピリット。
未来を切り開いたもう一人の少女の、それはかつての oratario ――聖譚曲―― だった。
- 154 名前:朔望 風韻 coda :2005/11/13(日) 21:03:37 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年ソネスの月青みっつの日〜§
「それじゃ、行こうか」
「……はい」
踏みしめるとさくっと軽い音を立てる草の音。夜風が運ぶ鳥の囀り。一時の休息を謳歌する虫の音。
世界を満遍なく包み込む様々な音色に溶け込むように、歩き出す。右手に掴む、『求め』。左手に掴む、温もり。
まるで落ちてきそうな星空。中空に浮かぶ、上弦の月。淡く照らされた緑が生み出すマナの息吹に、ふと思い出す。
――――手は何で二つあるか、知ってる? 片方に剣を握るためでも、もう片方は手を繋ぐためにあるんだよ
りぃぃぃぃん…………
ファーレーンの『月光』が、『求め』に共振したのか、優しい響きを奏で出す。きゅっと握り返してくる小さな手。
悠人は、自然にファーレーンを見つめた。見上げてくるロシアンブルーが自分を映し出す。
月の光をしっかりと受け止めたファーレーンの瞳が、久し振りに本当に明るく微笑んでいた。
サクキーナム カイラ ラ コンレス ハエシュ
ハテンサ スクテ ラ スレハウ ネクロランス
ラストハイマンラス イクニスツケマ ワ ヨテト ラ ウースィ…………ルゥ………………
――――照らすは既に儚き光 未だ求める寄り添う夜影 貴方は私を紡ぎ出して下さいますか――――
- 155 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 21:04:15 ID:9hH4tbJ70
- これが最後になるのかな?
…支援
- 156 名前:朔望 rhapsody :2005/11/13(日) 21:04:41 ID:qEkFPymz0
-
§〜西暦2008年12月20日〜§
―――― 一人で全部背負い込んで、潰れてもしょうがないぜ?
「……右だ、悠人」
「あれ? なにしてんのよ」
隣を歩いていた筈なのに、いない。振り返ってみると、じっと顔を横に向けたまま、光陰はその場に突っ立っていた。
倉橋神社。通学路の途中にある妙に古い、落ち着いた感のあるその場所は、アタシのお気に入りでもある。
「なに、どうしたの? 何か……光陰?」
光陰は社に向かう石段を眺めながら、どこか遠い視線を送り続けている。
まるで意識が飛んでいってしまったような様子に、アタシは思わず不安になって光陰の肩を揺すった。
「あ、ああ、今日子か」
「ああ今日子か、じゃないわよ。どうしたのさ、ぼーっとしちゃって」
「いや、なぁ今日子……すまん、なんでもない」
「なんでもないって…………何だかヘンよ、もう。しっかりしなさい」
ちょっと怒った風に、嗜めてみる。すると予想通り、光陰は一度首を振り、にっと笑って見せてくれた。
「さ、そんな事より、さっきの話。もうすぐクリスマスなんだし、佳織ちゃんとも話したんだけど…………」
言いながら、ふと頭を掠める疑問。アタシ達は、“いつ佳織ちゃんと知り合ったのだろう”。
今度はアタシの足が、ぴたりと止まる番だった。ひゅう、と冷たい北風が通り過ぎていく。
舞い上がる制服のスカートの裾と前髪をそっと抑えながら、何気無しに神社の方を振り向いた。
―――― 嫌いになるんだったら……とっくのとう……なんだからさ
「あ、あれ?」
ぽた、と落ちる水滴。頬に手を添えてみると、涙が流れていた。胸が、ぎゅっと絞られる。
「…………下がって……ゆ、う?」
「……今日子?」
「え…………な、なんでもないなんでもない……アハ、なんだっていうんだろうね?」
少し先を歩いていた光陰が振り返る。慌てて両手を振って誤魔化しながら、アタシは光陰の元へと軽く駆けて行った。
- 157 名前:朔望 hallelujah :2005/11/13(日) 21:05:42 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年ソネスの月緑ふたつの日〜§
木漏れ日が足元を温かく照らしている。鳥の囀りが幾層にも重なり合い、綺麗なハーモニーを奏でている。
踏みしめる枯葉の柔らかい匂いが、風が運んできた緑の空気と混ざり合って森の香を彩っていた。
早朝のリクディウスの森。初めて会った場所を、また二人で歩く。そんな、ささやかな幸せ。
数々の戦いの末、様々なものを失ってまで勝ち取った小さな小さな心の拠り所。
悠人とファーレーンは無言で寄り添いながら歩いていた。
耳を澄ませば聴こえるはずの様々な音も、しんとした静謐な雰囲気のせいか、決して煩わしくは無い。
むしろお互いの体温と心臓の音、波。それだけを感じ合う。――――もう、月も夜も必要無かった。
縋る物が必要だという事。それこそが弱さ。互いに補い、委ねあう二人にはあの詩の旋律さえも最早不要だった。
ふと、ファーレーンの足が止まる。少し遅れて悠人も歩みを止めた。二人の視線がある大木に重なる。
『陽溜まりの樹』。仲間内でそう呼ばれている大木は、今も鬱蒼とその枝を広げ、空を覆いつくしている。
そこだけ翳った根元へと降り注ぐ、細くきらきらと輝く一筋の陽光。反射して煌く――刀身。
月に朔、望があるように、夜明けにも細かい名がつけられている。悠人は知らなかったが、
完全に陽が昇れば朝(あした)、まだ昏い暁(あかつき)、紫色に空が染まる東雲(しののめ)、
そして全てを明るく輝かせる瞬間、曙(あけぼの)――――眩い光で月を輪郭ごと包みこむ、『曙光』。
「――――ラ、ニィクウ、セィン、ウースィ?」
震える声で、ファーレーンがか細く囁く。両手で口を覆い、溢れる涙を抑えようともせず。
蹲っていた緑柚色の髪がさらさらと風に靡き、同じ色の瞳がゆっくりと顔を上げた。
――――イス、ニムントール
- 158 名前:朔望 kadenz −1 :2005/11/13(日) 21:06:47 ID:qEkFPymz0
-
§〜西暦2008年12月19日〜§
戻ってきた世界では、時間が全然流れていなかった。
私は普通に小鳥に迎えに来てもらい、混乱しながらも学校に向かう。
「ほらほら佳織ぃ、遅れちゃうよ〜?!」
「ちょ、ちょっと待ってよ小鳥〜!」
慌てて靴を履き、玄関を出る。ふと家の表札に目が止まった。
『高嶺 佳織』
たったそれだけ。お兄ちゃんの名前が無い。時深さんが“そう”したのだろう。
判ってしまう事が、これほど残酷なのだと思い知る。そっと指でなぞると、ひんやりと冷たかった。
小鳥の話を総合すると、私はずっと一人ぼっちでこの家に住んでいるらしい。
お兄ちゃんの名前も、そしてその存在さえも、小鳥は憶えていなかった。
冷静に。そう思っても、寂しさは消えない。私の記憶までは消さなかった時深さんに感謝する。
これが私の背負う運命なのだから。お兄ちゃんが居なくても、この世界でちゃんと独りで頑張る。
そう約束したのだから。それだけが、今の私が紡げるお兄ちゃんとの絆だから。
「も〜なにやってんのよ佳織〜!…………あ、秋月、先輩?」
「え……?」
思いがけない小鳥の言葉。まさか、と振り向く。
そこに、学園の制服を着たままぼんやりと立っている秋月先輩がいた。
小鳥が怖がるように、私の後ろに隠れる。何故先輩が? 何故小鳥が憶えているの? 私は完全に混乱していた。
「あ、か、佳織……」
憔悴しきっているような先輩の表情には、あの傲慢な向こうの世界での自信溢れる態度が微塵も感じられない。
一体何があったのだろう。怯えるような視線は決して私と合わせようとはしていなかった。
憑き物が抜け落ちたような瞳。それはまるで捨てられた仔犬のような、酷く何かを恐れているような瞳だった。
――――どこかで、きっとどこかで、見たことがある仕草……
- 159 名前:朔望 kadenz −2 :2005/11/13(日) 21:08:24 ID:qEkFPymz0
- 「秋月先輩……あの」
「謝って済む事じゃないのは判ってる……でも、謝らなきゃいけないんだ、僕は」
「え…………」
「負けたよ、悠人に。負けただけじゃない、助けられた……あのイカレた神剣から」
「お兄ちゃん……よかった……」
ほっと胸を撫で下ろす。お兄ちゃんは、勝っていた。自分の運命に。ようやく手に入れた、自分自身の運命に。
「僕にはもう、佳織を守る資格は無い。いや、最初から無かったんだ、アイツが……正しかった」
「先輩……いいえ、お兄ちゃんは正しくなんかありません。正邪なんて考えてなかったと思います」
「…………そうか、そうだよな。アイツはアイツなりにちゃんと抱えてた……僕も、ちゃんと探すよ。…………さよなら」
「あ…………」
それじゃ、と歩き出す秋月先輩。その背中に、病院での寂しそうな姿が被る。そう感じた時、私は思わず――――
ぎゅ。
「…………佳織……?」
「あの、もしよかったらですけど……一緒に、えと、学校行きませんか……?」
「……いいのかい? でも、僕は……」
「ううん、ホントはまだ少し怖いです。でも……やっぱり先輩、泣きそうだから……あの時と同じだから」
服の裾を掴みながら。俯き、小さく囁いた。震えるかと思った指は、ちゃんとしがみついている。
大丈夫。私はもう大丈夫だから。だから、探そう。私の、私だけの運命を自分で切り拓いてみよう。
その為の、第一歩。勇気を出すのはそんなに難しい事じゃない。踏み出したその事にだって意味がある筈だから。
「おやおやお二人さ〜ん? 何だか意味深な事を話されているようですがぁ〜」
どうやら険悪ではない雰囲気に安心したのか、小鳥が横からひょい、と顔を出す。
「ばっ! そ、そんなんじゃ、無いっ!!!」
「え…………」
「へ…………」
思いもかけない、秋月先輩の反応。真っ赤になって叫ぶ姿に、私と小鳥は一瞬ぽかん、として。
「…………ぷっ」
「ななななんですかその初々しい反応は! 一体どうしちゃったんですか先輩何か悪い物でも…………」
「あははははっ!」
私は久し振りに、本当に久し振りに涙が出るほど笑っていた。
- 160 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 21:08:27 ID:9hH4tbJ70
- …支援
- 161 名前:朔望 phantasmagoria :2005/11/13(日) 21:09:35 ID:qEkFPymz0
-
§〜聖ヨト暦332年シーレの月黒いつつの日〜§
「お早う、……お兄、ちゃん」
いつもの、照れたようなニムントールの声に目が醒める。
涼しい風が、鳥の澄んだ囀りを運んでくる。瞼を開けば、朝の眩しい景色。
覗き込んで逆光に映る眼差しが、明るく微笑んでいる。
無意識に緑柚色の髪を触れば、少しくすぐったそうに目を細め、はにかむ。
穏かな休日。永久(とわ)に続けたい、と祈る、そんな平和な日常。
リビングに入ると、朝食の仕度をしていたファーレーンが振り返り、穏かに囁く。
「もう少し、だから……」
淡く白く広がる光景。幸せな現実。自然に零れる笑顔。満たされた――『誓い』。
運命と言う名の再生(つくら)された世界。委ねず、求め、握り締めた『たった一つの守りたいもの』――
「も〜、何でいっつも起こされるまで起きてこないのよ、お兄ちゃんは」
相変わらずの膨れっ面で、それでもちょっと嬉しそうなニム。
「くす……はい、準備出来ました。さ、ニム、席に座って。悠人、顔を洗って来て下さい」
可笑しそうに口元に手を当て、ゆっくりと見上げてくるファー。
「ああ、今日も旨そうだな。……でもあまり、無理はするなよ」
大きなロシアンブルーの瞳が朝日に反射してきらきらと輝いている。
優しく深い蒼緑の髪を撫でると彼女は恥ずかしそうに、そしていとおし気にそっと腹部へと手を添えた。
月光は常に東雲(しののめ)の陰へと隠されるもの。
でもそれは、つかの間の幻想。走馬灯のように移ろい往く幻影(ファンタズマゴリア)。
やがては浮かぶ曙光に照らされ、朝(あした)の空を白銀の糸で紡ぎ出す。鮮やかな朔へ望へと揺れ動きながら。
―――― 朔望 ende ――――
- 162 名前:朔望 mondschein :2005/11/13(日) 21:10:38 ID:qEkFPymz0
-
§〜 Someday, Somewhere 〜§
一点の曇りも無く澄み渡る夜空。
明滅する星々が殊更明るい月の庇護の元、ささやかに寄り添い合って浮かぶ。
あるものは群れを成し、またあるものは孤高に煌き。そしてあるものは流れ、消えていく。
月が好きだった。
加護を受けているから。そんな当たり前の理由ではなくて。
全てが寝静まった世界をただ見守り、悠久に浮かび上がるその姿が。
日ごとに形を変え、その度に移りゆく表情が。
ひっそりと静寂を包み込む、慈愛に満ちた優しさが。――――闇を紡ぎ、映し出す強さが。
――――――でも。
月は、孤独だった。
孤高の煌きは、弱さ故の儚い強さ。移ろう表情に怯える影は、常に紡ぎ出された寂しさを孕む。
群れを成す事も流れ消える事も選べず、ただ受け入れて曙光の影に溶けていく。
月は、欲しかった。
同じ輝きを持ちながら、自ら光を放つ力強い伴星が。寄り添い、育む優しさが。
悠久の風韻の中、帰らざる日々を共に奏鳴してくれる、そんな「一緒」が欲しかった。
――――――見つけた。
静寂の森に一際目立つ大木の元。寄り添い、微笑みながら眠る二人がいた。強く繋ぎ合わされた手。
鳥の囀りも木漏れ陽も、穏かな旋律となって二人を包む。世界は、どこまでも優しかった。
一匹のエヒグゥが跳ねてくる。鼻をくんくんと鳴らし、小刻みに首を傾げ。
やがて金色へと光り始めた景色の中、白い妖精は再びどこかへと消えていった。
- 163 名前:信頼の人 :2005/11/13(日) 21:11:42 ID:qEkFPymz0
- あとがき
この長編を書こうと思い立った時から、書き終えるまで半年以上を費やしてしまいました。
その間に小説版を初めて拝読してプロットの修正を迫られ、演劇を見逃して悔し涙を堪え(汗
そしてPS版の発売という最大の衝撃の前に、一時は投稿を止めようかとさえ思いました。
というのも、ゲーム内のあの短いエピソードだけで、充分ファーレーンの良さが出ていたからです。
『小説というものは情報である以上、その正確さは量に比例する』とデレク・ハートフィールドは言っていますが
メディアの違いこそあれ、ああいう形で描かれてしまうと唸らざるを得ない所がありました。
「書きたくなるまで書かない」。そんなスタンスが許される立場だからこそ、書けたものだと思っています。
発想が昨年。初期プロットが固まったのが2月。一次脱稿が7月。(投稿前に入れた修正は昨日まで)
当然、この長期的な二次創作に、夜想と風韻での文体の違いも顕著になりました。
他の雑魚スピが書けない鬱憤をリンク風短編にして投稿したりスレのネタに意欲をかきたてたりして結構騙し騙しの末、
ようやくここまで辿り着けたという感じです。書き終えた時には呆然としたりなんかして(汗
一編が異常に長い作品という事で、御支援を常にとても沢山頂きました。
表はもちろん裏でも支えていただけた事が、とても有難く、また、とても心強かったです。
書く上で、様々なメディア同様、このスレの影響を多大に受けました。
ネタ師の方々は勿論、画像版の絵師の方々、AA使いの方々、そしてちょっとした書き込みの数々。
それら全部が刺激になり、ここまで書ききれたものだと思っています。
ネタの拡大再生産というコンセプト。
改めて素晴らしいスレの力とそれを支える住人の皆様方、それを常に裏で支えて居らっしゃる方々、
そしてこの拙作を最後まで辛抱して読んで下さった方々へ、この場を借りて感謝の言葉を述べたいと思います。
本当に有難うございました。そして、これからもどうか宜しく御願い致します。
最後になりましたが、誤字脱字ハリオンマジック等、御指摘がありましたら幸いです。それでは。
- 164 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 21:14:17 ID:9hH4tbJ70
- >>163 信頼様
バ・ン・ザ・イ・!
「朔望」完結おめでとうございますう〜
- 165 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 22:15:38 ID:AzZrcF2M0
- 信頼の人さん。
本当に、おつかれさまでした。
長い長い戦いを、よくぞ戦い抜いて来られました。
少しずつ、信頼を積み重ねて愛へと育てていく。
…私がシアー長編で書きたかった事を書かれてしまい、悔しくもありますが。
あと、使ってやろうと思っていたネタもいくつか使われてしまったり。
まぁ、それは何処でも何にでもよくあること。
私は、私の心と記憶の断片に映る場面をただ私の言葉で表して現にするだけ。
あなたの作品は、ただ純粋にすばらしい。
絵画、彫刻、音楽その他、そして文芸は創る、あるいは紡ぐ人の心を映す鏡。
この、読んだあとの清清しさは間違いなくあなたの心のどこかに確かにあるものなのでしょう。
技量も才能もなく、それでも書きたくて書くだけの私ですが…それでも「書き手」として尊敬します。
不思議な巡り合わせにて、あなたや他の書き手たちと共にここにいる事を誇りに感じます。
あなたの作品からもらった清清しさを、いつか私の作品の何かでお礼として返したく存じます。
だから、ありがとう。
- 166 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/13(日) 22:34:43 ID:wlRGZ1gh0
- >信頼の人さん
半年以上にもわたる超長編お疲れ様です。
恐らくここの住人であればその原動力は一緒であれど、
新参者のワタクシにも、あなたの何よりも強い想いを感じ取れてしまいます。
そして、その想いを、自分だけの言葉で紡ぎだし、それが長き戦いになろうとも、終結に導く・・・
これを感動と言わずしてなんというのでしょうか。
そんなあなたの姿勢を、ワタクシも見習いたいと思います。
失礼かもしれませんが、同じ旗<スレ>の下、同じ原動力を元に集った、同じSSの書き手として。
なんだかんだと能書きを並べましたが、ただ、言わせてください。
ありがとうございました。
そして、おめでとうございます。
- 167 名前:おにぎりの中身の人 :2005/11/14(月) 01:53:07 ID:DUS8JvzG0
- 激しくお疲れ様でした!
そして長編の完結、おめでとうございます!
おそらくは今までのこの補完スレのなかで最長の話、楽しくよまさせていただきました。
本当に、本当にありがとうございます。
- 168 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/14(月) 10:08:14 ID:kYipYyXbO
- 仕事やらイベントやらで来てませんでしたが、完結のタイミングで来れたのは何かの因果でしょうかね〜
完結おめでとうございます。そして、今後のさらなる活躍を期待します
時間が取れたらまとめて一から読みなおしますね〜
と、その前にSSを完成させろよ、俺…
- 169 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/14(月) 10:44:53 ID:zSkhv17/0
- >信頼氏
お疲れ様です。
心地良い感動をどうもありがとう。
そして一作者として、負けてはおれぬと気炎を上げていたり(笑
いや長かった。マジで長かった。
スレには書き込んでいませんでしたが、いつも楽しみにしていました。
そういう好きだったお話が完結してしまうのは、嬉しいことであると同時に寂しくもあったり。
でもそういう作品は必ず読み手の中に何かを置いていってくれるわけで。
だから去られるのが惜しいと感じる。
読んですぐこれを書いていますが、まだ胸には涼しい風の通り抜けたような清々しさがあります。
ありがとうございました。
- 170 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/14(月) 20:37:18 ID:FCUIF0kn0
- >>163
超GJ!
雑魚スピスレ史上超大作、本当に乙彼様です。
まさか、こんな手段でエターナルとの力量を埋めるとは思ってもみませんでした。
ついに登場した「一貫」も見事です。
ちなみに、私の中では完全に腹黒イメージが焼きついているので、
お淑やかで可愛らしいファーを見る度に内心苛ついていたのですがw
それでも、終盤の方で涙腺やられそうになりました。
これまで雑魚スピスレで語られてきたネタの数々を、
一つの物語として纏め上げたその力量は、お見事としか言いようがありません。
素敵な作品をありがとうございました。
- 171 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/14(月) 20:46:32 ID:dYpOWCCX0
- >>信頼の人さん
長い間お疲れさまでした、そして完結おめでとうございます。
最終章を読み進めるほどに、胸を高鳴らせ、重くなっていた胃が解放されていき、
と思えば一旦突き刺さるような痛みを感じ……繰り返された聖ヨト語のやり取りで
思わずホロリと来るのとガッツポーズを同時に繰り出すほどにのめり込んでいました。
もう、「夜想」から「風韻」まで『朔望』の世界をとことん楽しませていただきました。
本当にありがとうございました。
- 172 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/15(火) 02:22:27 ID:owi/fgYF0
- 読み終わりました。読み終わってトイレに行き、窓を開けるといつの間にか晴れた夜空に満月前の十三夜。すぐ側に赤い火星。
ふぅ〜。なんというか胸一杯。悠人、ファーレーン、佳織、ニムントール。そして、同じ大地を踏む全てのスピリットと人々。
誰も知らない戦い。誰も褒めてくれないけれど。
守り、繋ぐ。永遠など必要ではない。月も太陽もいつかは滅びる存在。でも今この瞬間だけは、光を放ち、返す。
うっすらとした雪化粧をベ−ル代わりに、昇る太陽と沈む月を両手に見ながら。
ホントにお疲れ様でした。当初は今年中に終わりそうもないと思ってたんですけど、スレアクセラレイトで一気でしたね。
ネリー達の涙にはもらい泣きしました。タンスでかくれんぼにはwww メダリオカワイソスwサカナサカナサカナサカナーヲ セリアカワイソスw バケツバケツバケツバケツーニ
佳織――いいですよね。このニムとの小姑コンビ。
エスペリア姉さん――相変わらず苦労を掛けます。
「わたくし、いつも損な役回りばかり……」
「すまないエスペリア。俺苦労ばかり掛けてるよな」
「……そういう損とは違うのですけど、ハァ。まぁ今回は望外の言葉を頂きましたからね、良しとしましょう」
時深さん――見せ場たっぷり。さすが格が違います。蘇我氏も草葉の陰から……え、まだ生まれてない?
タイムシフトをこのように使うとは、さすが年の功。亀甲占いどうぞ……え、生まれてるわけ無いでしょう死にたいんですか?
ニムントール――この大地の果て。白み始めた東の空。ニムントールはボサボサのハリがね頭を、空の彼方のもう一人の義妹の代わりに、
たたき起こす。黒いオーラなんか吹き飛んじまいます。気高く純粋。それこそが『曙光』のニムントールなのだから。
レスティーナ――シブチンw
瞬――頑張れなんて言いません。イキロ
悠人――戦って戦って得たもの。それが代償でしょうか。英雄。『求め』が鼻で笑いそうですね。
ファーレーン――満ちました、お腹も満ちます。零れます、月の雫が。太陽と月と大地。知らぬ間の三位一体。
悠人とファーレーンの間だにこそ陽が溜まるのでしょうか。いつまでもいつまでも優しく静かに暮らして欲しいですね。
で、佳織に言ったセリフをニムで実現w ニムントールの家出。
- 173 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/15(火) 04:28:08 ID:QPUB9l8c0
- >>163 信頼氏
超長編『朔望』完結、誠におめでとうございます&お疲れ様です。
しかし、まあ。……なんと言えば良いのか。
よくぞここまで!!ってのが、一番心境として相応しいです。
長さ然り、描写の細かさ然り、構成の仕方然り。
特に、その中でも構成というかファーの盲目を隠す為にされた多数の視点切り替え。
これが、この最終章でファーは勿論、ニムや瞬に感情移入させるという点においても、
凄く活きていて本当に秀逸だと思いました。
それはもう、「こ、この続きはどうなるんだ!?」と何度もやきもきさせられたのを忘れてしまう位に(笑
…もう続きはないのが寂しい限りですが、このような素晴らしい作品を拝読できて嬉しかったです。
本当にありがとうございました。
あ、47の20行目「間違っているところか」は「間違っているどころか」だと思われます。
――別れ際に渡された手紙。そこにはたった一文、こう書かれていた。
『エスペリア姉さん、最後くらいは綺麗に纏めてくれ。頼むから』
「ずるいです、ユートさま……そんな風に書かれたら、わたくしは……わたくしは―――
は っ ち ゃ け ら れ な い じゃないですか!!」
「…いや、もう既にその台詞がアウト気味だし」
「何を言ってるんです、セリア。わたくしの本気のはっちゃけ、まだまだこんなものではありません!!」
「そんな事、知りすぎるくらい知ってるわ…というか。真面目な発言してよ、最後なんだから」
「実は、この『朔望』はほんのプロローグで、この後姉と弟の禁断の超長々編ラブロマンスが―――」
「……ごめん。やっぱ、何も言わないで」
弟の頼みも、妹の願いもぶっちぎり、(予想通り)最後の最後まで駄目街道を突っ走るエスペリアお姉ちゃんであった―――。
……『朔望』の陰のヒロインはエスだと思っております(ぇ
- 174 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/15(火) 06:12:56 ID:xt5e0JNz0
- >>163
もうこれは「乙」ではなく「お疲れ様です」と。
予期だか予感だか期待だかしていても、F−2とhallelujahで涙が。
曙光に空が白むとも月光は其処に在り
月光に空を譲るとも陽光は伴に在り
陽が月を照らすなら、月は闇を支えて応えて見せる
やがて曙光が蘇えるまで
ほら、陽がまた昇る
- 175 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/15(火) 09:17:07 ID:QMgg/jPP0
- >>163
>>信頼の人さん
通しでずっと、読み直してました。
ひとつのファンタズマゴリアをここまで描き出すとは
ただただ圧巻です。
本当にお疲れ様でした。
そしてありがとうございます。
- 176 名前:信頼の人 :2005/11/15(火) 21:51:05 ID:VvEud9w20
- 望外の反響に逆に戦々恐々書き込みます……
>>164さん
ありがとうございます。いつも革命さんにはずっと付き合って頂いていて、とても助かりました。
途中で挟む支援小ネタに何度脊髄反射でレスを返してしまう所だったことかw
>>165さん
あう、ネタ被ってしまいましたか。実は以前某職人さんと同時期に投稿した長編が、
ネタどころかテーマ自体が被ってしまった事があり、その時はお互いの切り口に注目するという事で
前向きに解決しました(?)。ので、願わくばネタを殺さず、どりるあーむさんなりの切り口を見てみたいです。
>>166さん
スレの原動力は、住人の皆さん全員で創り上げたネタの数々&相互刺激だと思います。ので、もしもこの作品が、
鯨さんのこれからの作品にとって何がしかの原動力の一部になっていれば、これほど嬉しい事はありません。
>>167さん
萌やしても萌やし切れないこの想い。全く不思議なゲーム&スレだと思います。
仕事の疲れや朝の眠気を吹き飛ばしてくれるネタの数々に対して、少しでもお返し出来ていれば幸いです。
>>168さん
長いので、ホント無理はせず(汗
お互いに頑張りましょう、仕事やプライベートに無理しない範疇でw
>>169さん
実は負けてられんというか、戦闘シーンの書き方殆どが紅蓮の剣からの独学だったりします(汗
自分なりに(自分の作風に合わせて)アレンジしてみたつもりですが、夜想あたりは感想レスで見破られてたりw
どうしても被る表現や単語に四苦八苦した時とか、とても参考になりました。こちらこそ、有難うございます、です。
- 177 名前:信頼の人 :2005/11/15(火) 21:52:49 ID:VvEud9w20
-
>>170さん
最初にエトランジェルートでと決めた時、隔絶したエターナルと雑魚スピ達の差を埋める方法がこれしか浮かびませんでした。
雑魚は雑魚。なんらかの偶然とか強力なバックアップが無ければ並大抵の小細工では太刀打ち出来ないだろうと。
「一貫」は名前しか発表されていない技なので、完全なオリジナルの補完ですが、実に良いタイミングで発表されたものですw
腹黒ファーレーンの引金を引いた一人っぽかった自分としては……罪滅ぼし?(何故疑問符
>>171さん
思えば道行さんには日付によるミスリーディングをことごとく見破られかけた事かw
ヨト語の繰り返しは意識的に行ったものの、くどくならないかが心配でしたので、そう言って下さると助かります。
>>172さん
ニムントールがシチューを温め直(ry ファーのお腹、気づいてしまいましたかw
あれ、実は有り得る未来の一分岐として書きました。ちょっとネタばれすると、回旋overtureの時深の台詞、
ラストが布石になってます。自分の中では phantasmagoria と mondschein は決して時間軸で繋がってはいないんです。
悠人の、それがつまり「求め」の代償。悠人は(読み手さんは)どちらを選ぶだろう。そんな感じで書いてみました。
それはそうと、自分もまさか秋中に終わるとは思いませんでした。スレアクセラレイト、恐るべしw
>>173さん
こちらこそ、いつも的確な御指摘、大変助かりました。
ところでむしろ、御洒落さん風エスペリアお姉ちゃんとセリアさんの掛け合いがこれで終わりなのが、残念です。
いつも散々笑わせて頂いたものでw 何気にボケと突っ込みが面白い二人なので、出来ればシリーズ化を(ぉ
>>174さん
基本的にゲームのシナリオを追ってきたので、それに負う所が多々あったものだと思いますが、
そう言って頂けると嬉しいです。いつも綺麗な詩を有難うございますw
>>175さん
自分で読み直しても、通しで全部は無理なんですが……(汗
なんというか、こちらこそお疲れ様です。読まれる、という事が、本当に励みになりますw
- 178 名前:信頼の人 :2005/11/15(火) 21:54:09 ID:VvEud9w20
-
>>お礼を頂けた方々へ。
基本的に「読み手>書き手」というスタンスを持っているせいか、気恥ずかしさで一杯です。
何だか上手く言えませんが、このスレを通じて受け取ったものの少しでも返せていたなら嬉しいです。
ちょっとネタスレっぽくないマジレス、失礼しました。
- 179 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/16(水) 07:21:30 ID:i/Ooyzdt0
-
=スピ・フォース・ワン=
主演:ハリオン・フォード
などと朝っぱらから言ってみる。
- 180 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/16(水) 07:51:21 ID:iYQWGpmX0
- >>179
ちょwwwwwwwwそれだと
ガロリキュアの女王が、ヨーティア製作の空飛ぶ機械を使い公務で移動中
反政府活動な集団に襲われ、護衛のスピが全滅!
で、必殺の殺人コロッケを片手に立ち向かっていく。
タイトルとテラ違う内容だ。
- 181 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/16(水) 10:07:18 ID:UIfaWnElO
- 映画ネタか…
ハリオン・ポッターと炎のスピリット
('A`)イケネ、モエチマウ
- 182 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/16(水) 15:04:01 ID:N3h7CXO80
- >>177
>「一貫」は名前しか発表されていない技なので、
> 完全なオリジナルの補完ですが、実に良いタイミングで発表されたものですw
石垣環さん著コミック版ウィザードリィ・鳳龍の塔編の一場面を思い出したですよ。
主人公側の渋いオヤジ担当のロートル忍者が仲間を殺した外道侍を追い詰めた場面。
「鳳龍幻影陣」つって、使うと自分の寿命を削るつうかエナジードレインな荒技ね。
…いかに雑魚スピスレとは言え、どれだけの人がこのネタに反応できるのやらw
んで、映画ネタ…。
ベティ・ブルースピリット
…どの青スピに、あのベティを演らせろっつーんだ…。
エヒグゥの巣の上で
……何故、精神病院方面に?そして婦長がエスペリア姉さ(姉ちゃんフォース
バック・トゥ・ザ・ファンタズマゴリア
………面白そうに時間を越えまくって歴史を好き勝手に変えまくる時深さん。
ごめ、やっぱ脳みそが膿んでるorz
- 183 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/16(水) 18:29:14 ID:IP3jAKiJ0
- スピー・ウォーズ
あれ?
やってること変ってなくね?
- 184 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/16(水) 19:46:24 ID:i/Ooyzdt0
- ソーマの休日
- 185 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/16(水) 20:45:54 ID:9B5Ee3ds0
- 小公女セリア
- 186 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/16(水) 20:51:59 ID:3uluTDvn0
- ディズニー映画もおk?
ファインディング・ニム
- 187 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/16(水) 21:03:26 ID:rnJ/BS0x0
- ブレイブ・ユート
スピリットの自由と解放のために戦え!ソゥユート…なんか変わり映えしない
- 188 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/17(木) 00:45:58 ID:ETcm7jRI0
- 第一回のラジオを聞いていて思った。ヘリオンって物まね上手いなw
ついに念願の姿見を手に入れたヘリオン。鏡の前で色々ポーズを取ったりしたあと、おもむろに発声練習。
「あ、あー。う、うん、んんっ あ い う え え お あ お 」喉を手で押さえて調整。
「え、えーと。よ、よしっ。設定はこんな感じで…………えと……あ、ユートさま危ない! ダークインパクト!!」
「ヘリオン。う、うぅん。ちょっと違うな。あ、あ、へ、ヘリオン。ヘリオン。うんこんな感じかな」
「ヘリオン、あ、ありがとう。助かったよ」
「い、いえ。あのたまたま上手くいっただけです」
「いや…………本当にヘリオンのお陰さ。ありがと、な。俺にはこんなお礼しかできないけど」 ギュッ
「あっユートさま」
「…………ヘリオン」
「私…………あのあの、ユ、ユートさまのこと」
全部一人芝居w 自分の身体を両手でぎゅっとかき抱いて恍惚となってるところに「ふーん」
ピキーン 瞬く間も無く凍りついたヘリオンが、ぎぎぎ、と凍った首を曲げると、
半開きのドアに体を半分入れ、壁に寄りかかったニムが半眼で立っていた。
「ご飯出来た。それだけ」
そっけなく言うとドアを閉めて立ち去るニム。
「あ、ああああああま、待って下さい、待って下さいニムントールさんっっ!!」
こけつまろびつ追いかけ縋りつく、必死のヘリオンお宮。
「あああ、あの、い、今の今の」
「ん、ダークインパクトから」
ニム寛一は振り向かない。
「ひゃぅ! あ、あの、ニムントールさん! た、他言は御無用にっ、御無用にお願いしますっ。後生です!」
ニムの袖を引きちぎらんばかりに掴みかかるヘリオン。
「トイレ掃除」
「…………えっ?」
「皿洗い。洗濯」
がくりと跪いたヘリオンは、諦めた声で、
「洗濯で、お願いします…………」
「そ。一ヶ月で手を打ったげる」
「あぅぅ〜〜」
ますます仕事を抱えるヘリオンカワイソス 緑色夜叉。
- 189 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/17(木) 07:19:58 ID:xDOv7gIY0
- wwそして神剣通販で念願の藁人形を購入するヘリオン。
リクディウスの森で夜な夜なニム人形に五寸釘を打ち込みながら延々テラーを唱えるも、
目撃されたファーレーンにこっそり呪詛返しをされ、自ら恐れるように。
「ほ〜らほ〜ら怖いでしょ……あ、なんだか気持ちいいかも♪」
いつの間にか四つんばい、黒光りなんかもしてたりして。
カワイソス。
- 190 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/17(木) 19:52:55 ID:nEEtiQoW0
- >>189
ヘリオン 姿変わってるから!w
カワイソス
- 191 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/19(土) 11:17:36 ID:Dsm5Lkd10
- スピたんが2006年2月24日発売予定と
年内発売はどうしたのか?orz
- 192 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/19(土) 14:40:13 ID:mqPRsBeg0
- >>191
ラジオがあと3回も聞けるじゃないですか!!
ザウスさんですから、2月ってことは夏くらいまでには、、、
- 193 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/19(土) 18:48:53 ID:j+i1l3GO0
- ヒミカ「スピたんとは、スピリット探検隊のことだったんだよ!」
ハリオン「なんですって〜」
と今回の更新されたバナーで言ってた。
ニム「ニムって言うな!」とか。切れた顔カワウイ。
- 194 名前:どりるあーむ ◆ncKvmqq0Bs :2005/11/19(土) 20:07:30 ID:pmTj4ayC0
- どもです。
ネタが展開されてるところ申し訳ないのですが…。
シアー長編「いつか、二人の孤独を重ねて」の続きを投下いたします。
第4章の「りんごあめ、ちょっぴりあまくて…すっぱくて」です。
保管庫の方、今回も章ナンバーは無しでよろしくお願いします。
(今回は、自分でも書いてて暗くて辛かった部分があります)
では、よろしければどうぞ。
- 195 名前:いつか、二人の孤独を重ねて12/1 :2005/11/19(土) 20:10:26 ID:pmTj4ayC0
- -あのね…いつだって、みてたよ?
大好きなあのひとの背中に、心の中で小さな声でつぶやく。
食事を終えて、部屋に戻って窓を半分だけ開けてみる。
のぞきこんでみて、見えた夜空から少しだけ冷たい風が星と一緒にそよいでくるよう。
後ろでは、ネリーが風呂の準備をしている。
横目でその様子をちらりと見たあと、また窓の向こうに視線を戻す。
今日は、あの赤い星がここからだとまだ見えない。
そういえば、時々一瞬だけ赤い星のそばに小さな青い星が見える気がするけれど。
気のせいか何かなのだろうか、それともかなり見えにくい星なんだろうか。
-赤い星がユート様で、小さな青い星がシアーで…。
ふと、なんとなくそう思ったら無性に悲しくなってきた。
-生まれてからの事を…なんにも、おぼえていないのはどうしてなのかな。
気がついたら、いつの間にか施設へと連れて来られて来ていて。
その前からわかるのは、ずっとネリーと手を繋いでてずっと一緒だったという事だけ。
ぼんやりと、ラキオスに送られるまでのあの日々の事が思い出されてくる。
にんげんに…えいえんしんけんを持って、にんげんのためにたたかえと教えられてきた。
人間に…永遠神剣を持って戦えば楽しいとか気持ちいいぞとか教えられてきた。
ふと、壁にかけてある「孤独」を見て思う。
神剣の、「孤独」の声を聞いて…それに従って身体を動かすこと。
くんれんし、だとか偉そうに威張る人間の命令通りに…けんじゅつを覚えていくこと。
出来なかったら、意味は理解できないけど悪口だとわかる言葉を浴びせられた。
出来たら褒めてくれたしご褒美にお菓子をもらえたけど、なんにも嬉しくなかった。
嬉しくなさそうにしてたら、怒鳴りだしたので嬉しそうにして見せるようにしたけれど。
どっちにしても、人間が自分たちを見る目は冷たくて気持ち悪くて怖かった。
- 196 名前:いつか、二人の孤独を重ねて12/2 :2005/11/19(土) 20:12:31 ID:pmTj4ayC0
- でもそのうち、人間が自分たちを怖がってるのを隠してるんだとなんとなく気づいたけど。
気づいたけど、そんな事を言ったらネリーが酷い目にあう予感がして…だからやめた。
人間なんて、嫌いだった。
何もしてないのに勝手に威張って言う事聞かせて、勝手に嫌な目で見下してきて。
そのくせに、こちらに対する目の奥や仕草の裏と声の調子に勝手な怯えがあって。
-何もしてないのに勝手に怯えないで…何もしてないのに勝手に悪口を言わないで…!
好きになれる理由なんて、何処にも何もなかった。
-ネリーは、どうだったんだろう。
もらったお菓子をわけあったり、なんでもない話で盛り上がったりはしたけれど。
ネリーは、いつも笑ってくれた。傷だらけでも悲しそうでも必ず自分に笑ってくれた。
私も、そんなネリーに何とか笑顔を返そうとしたけれど…どうしても無理やりだった。
そんな自分を抱きしめてくれるネリーの温もりだけが、信じられるたった一つだった。
自分も、出来るだけ一生懸命に抱きしめ返してみるけれど。
ネリーには、自分が抱きしめてもかえって冷たいだろうなとしか思えなくて申し訳なくて。
「ねえ、シアー。こうしてネリーといる時だけは泣いてもいいんだよ?」
どうして、いきなりそんな事を言い出したのかわからなくて。
「ネリー、いつだってシアーの事見てるからわかるんだよ?
ネリーはシアーのお姉ちゃんだから…シアーがシアーの中にためこんでるのわかるよ?
気持ちが辛かったりとか、そういうのは…ちゃんと涙にして出さないとダメだよ?」
わからなくて戸惑っているしか出来ない自分を、お姉ちゃんは強く抱きしめてくれて。
施設に来てからいつの間にか…痛くても苦しくても出なくなってた涙が、あふれてた。
「よかった、シアーの涙は枯れてないっ!シアーの心は枯れてないっ!!」
嬉しそうにそう言いながらまた抱きしめてくれるネリーを抱きしめながら。
こういう時の涙って、こんなに熱いんだと生まれて初めて知った。
- 197 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/19(土) 20:15:08 ID:GWFnrvz40
- 支援、開始します!
- 198 名前:いつか、二人の孤独を重ねて12/3 :2005/11/19(土) 20:16:04 ID:pmTj4ayC0
- 見ている限り、ネリーもシアー自身と同じようにされているように感じていた。
自分は人間が嫌いだけれど…こんなに優しいネリーは、一体どう思ってるんだろうか。
何度か、聞いてみようと思って呼びかけたりするけど何故か躊躇われて聞けなかった。
人間というものをどう思うか、という事に関してはどっちからも決して口にしなかった。
そんなある日、訓練をはじめる少し前に訓練士に聞いてみてしまった。
漠然だけれど確かに疑問に思ってた事だったけれど、今更それほど興味もなかったのに。
ただ、どうしてか…ぽろりとこぼれてしまった。違う、こぼしてしまった。
「どうして、戦うの?…そんなに戦うの好きなら、どうして人間たちでやらないの?」
目の前の訓練士は、あんぐりと口を開けて目を白黒させていたけれど。
やがてすぐに、顔を怒りに歪めながら侮蔑の眼差しを向けてきた。
そして浴びせられる、罵声と…ただ自分たちがスピリットだからという理不尽な答え。
-そっか…人間も、人間が怖いんだ。だから、こうしてスピリットにやらせるんだ。
その時の自分の感情が、すごく急にどんどん冷えていったのを今でも覚えてる。
-ネリーやシアーたち以外のスピリットも、何処の人間もこんなふうにしてるんだ。
けれども、その冷えていった感情が…自分の顔というか目に出ていたみたいだった。
「今日の訓練は…メニュー変更だ」
あまりにも暗い声が、あまりにも明瞭に訓練場に響いたのが…あまりにも気持ち悪かった。
用意をして待機だと言われて、それからしばらくして。
訓練士が、仰々しい鎧甲冑と盾と戦槌で完全武装してきたのが何だか可笑しかった。
自分は防具どころか戦闘服も神剣もなく、ただ裸足の下着姿で棒切れを持たされただけ。
「お前たちスピリットは、人間のために人間を守って戦って人間のために死ぬんだ。
だから…人間の力を思い知らせてやる。この私が、人間の怖さを教えてやる」
そう言ったかと思うと、でたらめに叫んで襲い掛かってくる人間を…ただ、見ていた。
- 199 名前:いつか、二人の孤独を重ねて12/4 :2005/11/19(土) 20:17:39 ID:pmTj4ayC0
- 何もしないのも余計に怒りを誘うだろうから、形だけ上にかざした棒切れが砕ける。
棒切れを砕いた勢いのままで、戦槌が肩に打ち込まれる。
感じたのは、肩で自分の骨が折れた感覚と戦槌の冷たい重さ。
-痛いけど、何も感じないなあ…痛いけど、めんどうくさいなぁ…。
「汚らわしいスピリットごときがっ!いつも…いつもいつもいつもいつもっ!」
その衝撃で、訓練場の床に尻餅をついた格好に倒れた。
-人間って、こういうふうにするのが楽しいんだ。
形だけ、痛そうにして見せて…防御も何もしないで打ちのめされるままにされていた。
「私はっ…私はなあっ…由緒正しい騎士の血筋なんだっ!」
打たれる。
叫び声をあげるのも、おっくうだった。痛みを感じるのさえも、おっくうだった。
「貴族なんだぞっ!人間の中でも高貴な、貴族様なんだぞっ!それも長男だぞっ!」
打たれる。
そうっと、気づかれないようにこっそり横目で見た人間の顔は醜かった。
「その私に、父上は勉強だなどと言ってっ!下賎なスピリットの訓練士なんぞにっ!」
打たれる。
ただ感じていたのは、痛いのに痛むのさえめんどうくさいのが自分で不思議だった事だけ。
「こんな辺境の施設に私を追いやった父上や兄弟どもこそが、無能なのだっ!」
-わめかないでよ、唾がかかって汚いんだってば…。
打たれる。
「それなのに、それなのにっ!どいつもこいつも私を無能呼ばわりしおってっ!」
-まだ終わらないのかなぁ、いつまで続けるのかなぁ。
打たれる。
「それに加えて、お前だ!いちいちいつも、私をそんな目で見よって…!」
-なんだか、頭がぼうっとしてきたけど…眠いのとは違うなあ。
「はあはあ、はあっ…思い知ったかスピリットめ…これが人間の、私の力だっ!」
より勢いよく振り下ろされる戦槌を見つめながら、脳裏にネリーの笑顔がよぎる。
- 200 名前:いつか、二人の孤独を重ねて12/5 :2005/11/19(土) 20:20:46 ID:pmTj4ayC0
- -ネリー、ごめんね…シアーはもういくね…さよなら…。
ゆっくり、目をつぶって待っていたけれどいつまでも戦槌の衝撃は来ない。
「シアー、大丈夫!?ねえ、しっかりしてシアーっ!」
決して今この場に来るはずのない、聞きなれた声に驚いて目を開けると。
「ひどいよ、こんなの…ひどすぎるよ…あんまりだよぅ!
でも、でも…もう大丈夫だから。ネリーが来たから…シアーを守るから…!」
別の場所で他の訓練士のもとで訓練していたはずのネリーが、自分を抱きしめてた。
-泣いてるの、ネリー?
自分の身体に落ちるネリーの涙は、傷にしみるけれど暖かくて…ただ、嬉しかった。
ふと思い出して、さっきまで自分を打ちのめしていた訓練士の姿を探してみる。
訓練士は、訓練場の隅っこで鎧の重量で起き上がれない身体をおこそうともがいていた。
「ネリー、どうしてここに?…何を、したの?」
まさか…と悪い予感が止まらないのを隠し切れないままで、ネリーに問うと。
「何って…訓練してたら、突然胸騒ぎがして…静寂が鳴り出して止まらなくて…。
それで、シアーの事を思い出して訓練バックれて全速力でシアーのところに来たら…。
シアーが、あんな事されてたから!アイツを体当たりでブッとばして助けたんだよっ!」
全身から血の気がひいていくのがわかる感触を、その時に生まれてはじめて知った。
床に乾いた金属音が不規則に響くのに気がついて、その方向を見やると。
あの訓練士が、鎧を自分の身体からはぎ捨てながら凄まじい形相でこちらへ向かっていた。
さっきまで自分を打っていた戦槌で、今度はネリーを狙ってるんだとはっきりわかった。
「貴様ら…私は人間で騎士の血筋で貴族で長男でエリートなんだぞ…それを…。
貴様も、貴様も…私を無能呼ばわりするのかあっ!」
ネリーは、訓練士を睨みつけたままで黙って動かないでいる。
-いけない…いけないっ!
戦槌が、ネリーに振り下ろされる瞬間に自分の身体をひっくり返す。
「シ、シアーっ!?ダメだよ、離してっ!離して、シアーっ!」
訓練場の壁にかけられた「孤独」に心の中で呼びかけて、全力でネリーを押さえつける。
さっきまでの訓練でマナを消費しきっているネリーは、必死でもがくも動けない。
- 201 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/19(土) 20:21:17 ID:GWFnrvz40
- 手前の剣は支援を好む。例えそれが無意味なものでも
- 202 名前:いつか、二人の孤独を重ねて12/5 :2005/11/19(土) 20:22:42 ID:pmTj4ayC0
- ネリーをかばう自分の背中に、戦槌が先ほどにもまして激しく打ち込まれる。
口の中に、いつもの訓練で慣れきった血の味が広がってゆく。
真下のネリーの服に、自分の口からもれる血がぽたぽたと落ちていくつもの染みを作る。
「やめて、やめてよっ!シアー、骨がボキボキ折れてくのがわからないのっ!?」
横目にネリーの「静寂」が青く輝くのが見えて、「孤独」に更に強く呼びかける。
背中に何度も何度も打ち込まれる衝撃に意識が遠くなるのを必死でおさえて。
とにかく、ネリーを…人間から守ることだけを考える。
そのうち、背中への衝撃もネリーの叫び声と泣き顔も何だか遠くに感じられてきて…。
目をさましたら、訓練場じゃなくていつもの自分の部屋だった。
全てがわからなくて瞬きしているうちに、全身包帯姿でベッドに寝てる事に気づいた。
「シアー、気がついた…?もう、本当に大丈夫だからね?」
ネリーが、ひどく心配そうに自分の顔をのぞきこんでるのにも気づいて。
「シアー、死にかけてたんだよ?もう少し遅かったら本当に危なかったんだから」
手が、ぎゅっと握られるのを感じる。
-この手があったかいのって…そっか…ネリー、ずっと握っててくれたんだ…。
「ネリーの担当の訓練士が、他の訓練士や兵士を連れて駆け込んでくるまで…。
アイツ、シアーにひどい事し続けてた。わけわからない事わめいて、笑いながら」
ぽつり、と説明をはじめるネリーの言葉で初めて現在の状況に対する疑問がわく。
「他の訓練士と兵士たちが、アイツを取り押さえて…シアーを手当てして部屋に運んで。
緊急事態のために待機していたグリーンスピリットが魔法を使い果たして。
それでやっと、シアーは助かったんだよ…」
自分の顔に、ネリーの涙が落ちるのを感じる。
「それから…さっき、聞いたんだけど。
アイツは、もう二度と来ないってさ。今さっき、どっかへ連れられてった。
なんでも、軍事裁判ってのにかけられて処罰されるんだって…」
そこまで話して、ネリーはやっと少しだけ笑ってくれた。
それから、傷が完全に癒えた頃にラキオススピリット隊への正式な配属が決まった。
- 203 名前:いつか、二人の孤独を重ねて12/6 :2005/11/19(土) 20:24:28 ID:pmTj4ayC0
- そこまで思い出して、ふっと目を閉じる。
夜風が、切り揃えた髪を流してゆく。夜風が、頬を優しく撫でてゆく。
-人間なのに、あの人だけは違った。
おとぎばなしでしか聞いたことのない伝説のエトランジェは、自分の嫌いな人間だった。
確かに人間だったのに、自分が知ってる人間たちと雰囲気が全然違った。
珍しい動物を見てる気持ちでネリーの背後に隠れて見てた自分に、微笑んで手を振った。
その時の目が、今まで見てきたどの人間たちの目とも違った。
-人間なのに…どうしてあんなに、優しい目で見てくれるんだろう。
初めて戦争に行った時、初めてスピリットを殺した時。
怖かった。
目の前で、自分たちスピリットの手によって同じスピリットが殺されて。
口から血を吐いて傷口から血をたくさん流して、もがき苦しんでマナの霧と散っていった。
初めて見たその光景が、とても怖かった。
次は自分なんだ、自分もこうなるんだと思った。
身体が寒くて震えて、怖さで冷たい涙が止まらなくてガタガタと歯が鳴って。
それまでの自分自身の緊張も周りの声も、何もかも混乱してわからなくなって。
ただ、何かすがるものが欲しくて目の前にあった足に必死にしがみついた。
そしたら、ふわりと頭を撫でてくれた。優しく髪を撫でてくれた。
その手のあったかさに震えも涙も止まって、ゆっくり気持ちも落ち着いてきて。
はじめてふれた、あの人の優しさは…誠実な温もりだった。
あの後も、あの人の温もりはずっと自分を守ってくれた。
理不尽な要求も酷い事も、何も求めてこないでくれた。
ただ、誠実な温もりだった。
- 204 名前:いつか、二人の孤独を重ねて12/7 :2005/11/19(土) 20:26:38 ID:pmTj4ayC0
- そこで、やっとそれまでの色々な事を思い出すのをやめて。
-もうネリーも、ほっといて一人で風呂に行っちゃったよね…。
自分も風呂の準備をしようと思って、窓を閉めて部屋の内側へ向き直ると。
寝巻きに着替えて風呂の準備をすませたネリーが、ベッドに腰掛けて。
「ん、気持ち落ち着いた?…風呂、いけそう?」
いつものポニーテールを解いて、いつものように微笑んで…ずっと待っていてくれた。
「ほら、シアーのぶんも風呂の準備をやってあるよ?
シアーは、あとはそこのお星様模様のパジャマに着替えるだけでだいじょーぶっ」
優しすぎる。
「…何を思い出してたのかくらいネリーにもわかるから、さ…」
自分くらいしか滅多に見れないストレートヘアーでの、その笑顔があまりにも優しすぎる。
この姉こそ、優しすぎるあまりに…いつか、心を枯らしてしまわないんだろうか。
「ネリーがユート様を怒って以来、シアーとユート様は一緒に沈みっぱなしだよね」
寝巻きに着替えてネリーから、下着やバスタオルなど入浴セットを受け取る。
「ユート様ってば、時々キョロキョロするだけで全然シアーを捕まえられないなんて…。
この前の事といい、ラブが足りないとネリーは思う。くーるなオンナのネリー的にっ」
おおげさに肩をすくめて、そんな事を言ってくるネリーに苦笑を返して。
-というか、ユート様が寂しそうだから出てこようとすると引き止めてたじゃない…。
「ラブとかネリーがくーるなオンナかどうかはともかく、ユート様は誠実で優しいよ?」
わざと、さりげに酷い事を言ってみながら部屋の戸を開けて廊下に出る。
「シアーはさ、普段の行動を見てると時々読めない事があるよね。
まったく本物の天然なのか、ちゃっかり策士なのか紙一重だよ…たまに」
こちらをギロリとジト目で見ながらネリーも廊下に出て、足で蹴って戸を閉める。
- 205 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/19(土) 20:28:01 ID:GWFnrvz40
- 早く支援しなくては。研究室がゴミで埋まらないうちに・・・
- 206 名前:いつか、二人の孤独を重ねて12/7 :2005/11/19(土) 20:32:24 ID:pmTj4ayC0
- 「こらっネリー!足で戸を蹴って閉めるなんて、行儀が悪いでしょうッ!」
その途端に鋭い怒鳴り声が廊下に響いて、ネリーが身体をびくうっと跳ねさせる。
油汗をだらだら流しながら引きつり笑いを浮かべるネリーと共に声の主へ振り向くと。
ネリーと同じくポニーテールを解いて風呂の準備万端のセリアがネリーを睨んでいた。
「あ、あはははははは…。セリアも…こ、これからお風呂?」
何とか、これから聞かされるだろう小言を回避しようと震える声で努力を試みるネリー。
「そのつもりだったんだけど…今ちょうど、お客様が見えてね。
シアー、ユート様があなたに会いに来てるんだけれど…どうするの?」
-えっ…ユート様が会いに来てくれた?
-確かにゆうべ寝る前に、「逃げる背中を追いかけさせろ作戦」終了だとか言われたけど…。
-今日はもう、会ってくれないんだと思ってたのに?
「へ?…今日は朝からシアーに引っ張られて第一詰め所に何度か行ったけどいなかったのに」
一緒に驚いてるネリーが言う通り、もう自分から謝ろうと思って朝から何度も会いに行った。
ネリーやニムにセリアとキョウコ様は、絶対に男から謝らせるべきだと主張していたけれど。
「とりあえず、客間へお通ししてあるけれど…もう夜遅いし風呂に入りにいくとこ…っ!?」
セリアの台詞が終わる前に、セリアの横をすり抜けてユート様のところへ走る。
後ろから、セリアの怒鳴り声が聞こえてきたけれど今だけは無視して走る。
息を切らして、客間に飛び込むと果たして悠人がそこにいた。
何かが詰まった買い物袋を抱えて、会いたかったその人はそこに立って待っていてくれて。
「シアー…ごめんな、こんな夜分に会いに来てしまって、さ。
あと、朝から何度も第一詰め所の方に俺を訪ねてきてくれたんだって?
エスペリアから聞いた。…本当に、ごめん…ごめんな、シアー…」
- 207 名前:いつか、二人の孤独を重ねて12/10 :2005/11/19(土) 20:35:38 ID:pmTj4ayC0
- もう、その人がそこにいてくれるだけで何もかもどうでも良かった。
ほんの数日でかなりためこんでいた感情が、一気に溢れてくるのを止められなかった。
止めたくもなかったし、止める理由もなかった。
「ユート、様…会いたかった。シアー、ずっと会いたかった…!」
抱えていたバスタオルや下着などを床に放り投げて、シアーは悠人の胸に飛び込む。
両手を大好きな人の背中にまわして抱きしめると、悠人はそっと両手で肩を抱く。
「シアー、あの時は最低な事を言ってしまって本当にごめん…。
ただ…シアーを傷つけたくなかったんだ。俺がシアーを傷つけるのが怖かったんだ。
それなのに、かえって傷つけてしまって…もう二度と、あんな事は言わない」
その言葉に顔をあげると、辛そうな表情でじっと真っ直ぐ見つめてくる悠人の顔。
「…もう、いいの。シアーは、もういいの。
ただ、ユート様が…ユート様が優しい目で真っ直ぐ見てくれるのがいつも嬉しかったの。
けど…けど、あの時に思わず泣いたのは…もう見てくれないんだと思ったの」
シアーは、首を強く横に振ってから悠人を真っ直ぐ見つめ返しながら気持ちを吐き出す。
悠人の脳裏に、あの時にネリーが言った…ユート様のシアーという言葉がよぎる。
「ああ…本当に、本当にごめんな…!」
片手でぎゅっと強く抱きしめて、もう片手で髪を撫でる。
しばらく、ずっとそのままでいて。
やがて悠人とシアーのどちらからともなく、ゆっくりと身体を離して。
- 208 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/19(土) 20:36:37 ID:GWFnrvz40
- 全員構え!支援になります
- 209 名前:いつか、二人の孤独を重ねて12/11 :2005/11/19(土) 20:37:35 ID:pmTj4ayC0
- 「今日いなかったのは、さ。俺のいた世界のお菓子を作るために街を走り回ってたんだ。
…ほら、イオからお菓子くれて謝るなら許してあげると言ってたと言われたもんだからさ」
-確かにイオ様とユート様の話をしてた時に、少し機嫌が悪かったからそう言ったけど。
-うう、ちょっと…しまったかも?…いや、これはやっぱり…しまったよね…。
「だって、ユート様ったらシアーの事ぜんっぜん捕まえてくれないんだもん…」
なんだか凄く恥ずかしくなって、真っ赤な顔でプイとそっぽを向いてむくれてしまう。
「ごめんごめん…ほら、リンゴ飴。
材料集めるのと他の皆のぶんも作るのに手間取ってさ。
もう夜遅いから今は食べないと思うけど…あとで皆でわけてくれよ」
そう言いながら、買い物袋から甘い香りと一緒に取り出した「リンゴアメ」は。
まるで、宝石みたいにきらりと少しだけ輝いていて。
「宝石の中に…果物が入ってるう…。きれいな、お菓子だね…」
そっと、悠人の手から生まれてはじめて見るそれを受け取って。
かりっと、薄く包んでいる飴ごと果物をかじる。
「なんだか、甘くて酸っぱくて…不思議な味だね。…うん、シアーはこれ好き…」
にっこりと、心からの笑顔を大好きな人に向ける。
「そっか…手作りだから不安だったけど、喜んでもらえてよかった」
シアーは片手にリンゴアメを持ったままで、悠人をぎゅっと抱きしめる。
悠人も、それに応えてシアーの髪を優しく撫でる。
ふたり、お互いに甘くて酸っぱい気持ちを胸に感じながら。
- 210 名前:いつか、二人の孤独を重ねて12/12 :2005/11/19(土) 20:39:25 ID:pmTj4ayC0
-
-暖かく
-清らかな
-母なる光
-すべては再生の剣より生まれ
-マナへと帰る
-たとえどんな暗い道を歩むとしても…
-精霊光は必ず私たちの足元を照らしてくれる
-清らかな水
-暖かな大地
-命の炎
-闇夜を照らす月
-すべては再生の剣より生まれマナへとかえる
-どうか私たちを導きますよう…
-マナの光が私たちを導きますよう……
- 211 名前:どりるあーむ :2005/11/19(土) 20:53:13 ID:pmTj4ayC0
- 支援、どうもありがとうございました。
とりあえず、今回はここまでです。
前回までの反省点として「ユートの孤独さを描写しきれていなかった」のがありました。
そこで、今回はシアーの方にスポットを当てて前回よりももっと深く描写するように。
一言で言えば、確かな説得力が欲しかったのです。
それと、今までネリーを表に出せてなかったぶん今回は活躍させてみました。
シアーにしてもそうですが「これが私のネリーだッ」てな勢いで描きました。
それにあわせて、今回の投下にてのシアーの回想で前回にてユートがセリアに語った
「初めての出会い」を強調してみましたが、さてどうでしょうか。
前半が暗いぶん、後半はおもいっきりフルパワー前回でラブラブにしてます。
描いてて、恥ずかしかったですともエエ。…そう、たったこれしきのラブラブ度で。
シアーと言えばお菓子ですが、お菓子の選択で凄く悩みました。
悩んだ末に、手作りのリンゴ飴ってのが閃いてそれでいきました。
…と、いう次第です。
ここまで読んでくださった方、支援をくださった方、ありがとうございました。
追伸
今回の萌えコンセプトは、「パジャマで抱きついてくる」です。いかがだったでしょうかッ。
- 212 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/19(土) 21:01:39 ID:Zj/CFOLM0
- 最初に誤字?指摘をば。
>息を切らして、客間に飛び込むと果たして悠人がそこにいた。
シアー視点ですので、「ユート」かと。
細かくてスマソ、つい感情移入して細かい所がかえって違和感感じたというか。
初めて会った時の、あの俯き加減の怯えた瞳。
ネリーの後ろに隠れるように窺っていた仕草の理由がそんな所に。
貴族出の坊ちゃんの薄っぺらいプライドは、自分で得たものでないだけに怯えも相当に酷いですね。
当時のラキオスの訓練士は不名誉な地位だったらしいですから余計というか。
ネリーの方はどうだったのかなぁ。あの明るさが薄氷のような強がりだとは判るけど、
「ネリーがユート様を怒って以来、シアーとユート様は一緒に沈みっぱなしだよね」
この台詞が音声入りで飛び込んできた時にはジーンとしつつ考えさせられてしまいました。
こんな雰囲気の切り替えし方を覚えざるを得ない位シアーを守ってたんだな、とか。
そう考えると「おねえちゃんも〜」のあの台詞がより深く感じてしまいます。
さて、出会いまでの経緯を知ってしまったからは、惹かれ合うその顛末が知りたくなってくる訳で。
ウイングハイロゥ全開で飛び込んで来る程の何がしかがあったのだろうか。
シアーの、「違った」がどう変化していくのか、その辺の過去回想と現在形のパジャ抱きしめに
萌えワクしつつ、次回楽しみにしてますね。
ところでセリアさん、お客さん放っといて風呂って……くーるですねぇ相変わらずw
- 213 名前:どりるあーむ ◆ncKvmqq0Bs :2005/11/19(土) 21:02:39 ID:pmTj4ayC0
- …よく読み返してみると、番号振りが間違ってる。
そして、このスレにおける大事なお約束をも忘れてる。
えー、こほん…。
誤字脱字ハリオンマジックなどありましたら、よろしくご指摘願います。
- 214 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/19(土) 21:11:53 ID:GWFnrvz40
- >どりるあーむさん
お疲れ様でした。
辛い辛い過去は、今や未来へとつながるきっかけになる。
ただただ自分たちを虐待するだけの存在の中から、一筋の光を見つけたシアー。
それだけに、分かり合おうとして、すれ違って、心の中でお互いの存在を大きくして・・・
だからこそ、あの人を好きになれる。
だからこそ、あの人を誰よりも信じられる。
だからこそ、いつか一つになれるって信じてる。
・・・彼らはこれからどうやって生きてゆくのでしょうか?
恐ろしくキリの良い終わり方をしたようですが、次回作はあるのでしょうか?
・・・楽しみにしています。
・・・・・・さて、ワタクシも頑張らなくては。
- 215 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/19(土) 22:42:37 ID:7BoEMd530
- >>211 どりるあーむさん
お疲れ様でした
なるほど、シアーの人見知りはこれが原因?と考えさせられたり
リンゴ…ヨト語ではなんって言うんでしょうねぇ
そのあたりの資料でもあれば便利なんですけど…書き手としては
まあ、そこは作者の保管の腕の見せ所と言った所でしょうか
次回にも期待が高まります
- 216 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/20(日) 00:01:35 ID:sV4Ls2CV0
- >>211
乙〜
んーと、
分子/分母
ね、名前欄。とどーでもいい所にツッコミ
- 217 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/20(日) 12:19:21 ID:pnpz2FXK0
- 風呂上がりの艶々したお肌を煌かせながら廊下を歩くセリアとネリー。
その背中を目撃した通りすがりの光陰&今日子。
「あん? ……なぁ今日子、俺、目、おかしくなったのかもしれん」
「イキナリ何言ってんのよ」
「いや、何だかセリアが二人に見え……いや、あれはネリーちゃんか?」
「へ? あ、あら? えっと……は、はは、アタシも疲れてるのかな……」
ふらふらと立ち去る二人。髪を下ろしたこの二人組は大変危険。
ぱじゃま代わりのソゥユート特製白シャツから見え隠れする太腿の付け根とか透ける背中とか。
- 218 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/20(日) 17:19:54 ID:7VEcAGLV0
- 「……性欲を(ry」
なぜか久しぶりなこのセリフ。
毎度毎度遠征から帰ってくるたびに呟いている気もしないでもない。
俺だって思春期真っ盛りの少年。オナーニを数日していないだけで溜まってくる。
まあそんなわけで、毎度自慰用のだいぶエッチな本を天井裏から取り出そうとした。
以前エスペリアに見つかったこともあってか、隠す場所には凝ってきた。
ベッドの上に立ち、天井の板を外して漁る……?
ん?なんだこの薄い紙……
『へっへっへ』
ヨト語でそう文字が書かれている。それだけで俺はベッドに崩れ落ちた。
「ナナルゥ……お前もか…」
もう誰も信じられないよ、佳織…
人生に絶望しながらも、俺のムスコは自己主張をしている。
ああ、また誰かオカズにしなきゃいけないのか…
さて誰にしよう?
1.ネリー&シアー
2.セリア 済
3.ナナルゥ
4.ヒミカ 済
5.ハリオン 済
6.ファーレーン
7.ニムントール 済
8.ヘリオン
……なんだよ、この『済』ってマークは。
唐突に神の言葉でも降りたんだろうか、なにやら訳の分からない強制が働き、
俺は『済』のマークがついていないスピリットを選んでしまった。
1.ネリー&シアー
- 219 名前:悠人君の妄想だいあり〜つぅ :2005/11/20(日) 17:20:59 ID:7VEcAGLV0
- 「へっへ〜♪ユート様、なんでこんなにしちゃってるのかな〜?」
「かな〜♪」
ベッドの上に全裸で仰向けに寝転がらされ、手足を縛られた俺は、二人の少女に嫐られていた。
くにくにと足裏で俺のそそり立つモノを弄り回す青い髪の少女達。
年端もいかない彼女たちに好き勝手にされている。
それがどうしようもなく俺の性感を高め、一撫でごとに反応してしまう。
「こーやってネリーの『ムレムレストッキング』の足で擦られるのとー」
「シアーの『ナマアシ』で〜擦られるの、どっちがいい〜?」
っ、っくぁ…こ、光陰の野郎何教えてるんだこの二人に…!
だが今の俺はそれどころじゃない。
四つの足裏が隙間なく俺のペニスを包み込み、ずりずりと動いてくる。
「っあ、く…ふ、ふたりと、も…やめ……!」
蒸れたストッキングのネリーがカリを引っ掻くように動けば、素足のシアーが
それに合わせたようにやわやわと玉を足の指で揉む。
シアーが鈴口を土踏まずで擦るときには、ネリーが竿を包むように足を動かす。
双子の息のあった足の動きに、下腹から熱いナニカがこみ上げてきた。
「あれ、ユート様?イッちゃうの?ねえイッちゃうのユート様ぁ?」
「ネリーだめだよ〜。もうちょっと焦らしてあげようよ〜」
俺の絶頂の予兆を感じたのか、ぐりぐりと痛いまでに俺のペニスを踏みつけるネリーに
シアーは無邪気な笑みを浮かべながらそう提案した。
- 220 名前:悠人君の妄想だいあり〜つぅ :2005/11/20(日) 17:21:29 ID:7VEcAGLV0
- 不満そうに、ぶー、と口だけで言いながらも俺のモノから足を離す。
「っく、は、はぁっ…」
思わず息が漏れてしまった。
ネリーのストッキングのざらざらとした感触。シアーの素足のすべすべとした感触。
光陰からそういうプレイはあると聞いたことがあるが、こんなにも気持ちいいとは思ってもいなかった。
異なる足の感触が未知の快楽を引き出してくる。
なによりこんな幼い双子の姉妹に嫐られるという状況が、俺の頭を痺れさせていた。
「ユートさまぁ?もっときもちよくなりたぁい?」
縛られた俺に飛び乗り、馬乗りになりながらシアーが陶然とした顔で聞いてくる。
下着すらつけず、幼い秘裂から漏れだしている液体が俺の腹を濡らす。
ぬるりとして、滑らかな肌の感触に、頭は更に快楽を求め始める。
「あ、ああ……気持ちよくなりたい…」
遙かに年下のシアーに懇願する屈辱。しかし、俺の頭の中は今は快楽への欲求で満たされていた。
俺の答えに満足したように笑みを浮かべ、シアーは俺の顎を指で持ち上げた。
その顔は、俺が見たこともない…女の、顔。
ぞくりと背筋に悪寒が這う、無邪気な少女の顔は、ただ、楽しそうに口を開いた。
「それじゃあ……ユートさま、シアーたちのペットになれる〜?」
「―――」
一瞬、言葉を理解できなかった。
理外にあったシアーの言葉。ペット、に、なる…?
- 221 名前:悠人君の妄想だいあり〜つぅ :2005/11/20(日) 17:32:42 ID:7VEcAGLV0
- 「っな、なに、言ってるんだ、シアー…」
「え〜?わかんなかったユートさま?」
くすくすと笑い、シアーは横に座って成り行きを見ていたネリーに目配せをする。
「ネリーたちが気持ちよくなりたいときに〜、こーゆーことできる…ペ・ッ・ト♪」
「な、何を言ってるん―――っあぐ!?」
肛門に、指が入ってくる。
腸内で指が曲げられ、裏側からペニスの付け根を指で擦られ――――っぐぅあ!!!
「へっへー、オトコノヒトってこういうことされると、すぐ精液びゅーびゅー出るんだよね♪」
ネリーが楽しそうに俺のペニスをしごきながら、尻穴をっている。
竿の裏側、本当に身体の裏側から犯されている…っ!
我慢できない。もう、射精してしまう―――っっ!?
「だーめだよ〜♪」
「っが、ぁ!?」
突然襲った痛み。それが頭の芯まで響き、直前まで迫っていた射精感を根こそぎ奪っていった。
何が起こったのか、そしてこの痛みは何なのか、俺は視線を下げて、それを知った。
俺のペニスの先、鈴口にシアーは指を挿し込み、ネリーは玉を握り締めていた。
「ぶぅ、勝手にイッちゃうなんてだめだよユート?」
楽しそうに、本当に楽しそうにペニスをぐりぐりと弄ぶ蒼の姉妹。
限界以上に俺の中に爪を入れ、玉を引き延ばす。
痛みだけではない、男としての全てを失ってしまいそうな恐怖感に、俺は狂うかのように叫んだ。
- 222 名前:悠人君の妄想だいあり〜つぅ :2005/11/20(日) 17:36:12 ID:7VEcAGLV0
- 「わ、わかった!わかったから、や、め―――っぎぁ!?」
「だ・か・らぁ…ちゃんとネリー達もいつもユートを呼んでいる時みたいに、様をつけて呼んでよね?」
スピリットの力で限界以上に伸ばされた玉。
「い―――ぎ…わ、わかり、まし、た……ネリー、様……」
これ以上伸ばされたら死んでしまう。そんな激痛の中、朦朧とした頭でそう誓う。
俺の答えに満足したのか、ネリー…様は玉を掴む力を弱めた。
だが、シアーの方は不満そうに俺を見て…
「ネリーちゃんだけずるい〜!シアーも様つけて呼んで〜」
「は、っがぁっ!?」
小指が、尿道に潜り込んだ。
入るはずもない大きさのそれが無理矢理押し込まれてくる。
爪先が押し開き、シアーの小指がねじ込まれてきた。
痛いなんてもんじゃない。息をすることすらできない。
「や、やめっ!シアー、やめっっっっあぐあぁっ!!」
「ちゃんと呼んでくれたら〜、止めてあげるよユート?」
「っ言う!言うから!!シアー様止めてくださいッ!!お願いしますっ!!」
その答えに満足したのか、シアー様は俺の尿道の中に入れていた指を引き抜いた。
小指には俺の先走りがぬとり、と糸を引いている。
それをシアー様は美味しそうに口にくわえ、味わった。
- 223 名前:悠人君の妄想だいあり〜つぅ :2005/11/20(日) 17:36:58 ID:7VEcAGLV0
- 「ん…ちゅ、ん。おいし〜♪」
「あー!シアーだけずっるーい!ネリーもー!」
さっきまで俺の肛門を弄っていたネリー様が、ペニスに口を付けた。
小さい口を更にすぼめ、我慢汁が溢れている鈴口に吸い付く。
「ん、じゅるっ、ちゅー…」
「あぐぅっ!?」
すい、ださ、れえっ……!
ペニスの根本、睾丸から直接精子を引っ張り出されるような吸引。
冗談ではなく俺の中身を吸い尽くさんばかりにネリー様は全力で吸ってくる。
「あ〜、シアーも〜」
それに対抗したように、シアー様も俺のペニスに舌を這わせた。
パンパンに張った睾丸を口に含み、舌で転がすように蠢かす。
「「んむぅ〜〜♪」」
二つの舌の饗艶。性器全てにまとわりついてくる二人の舌に、一気に射精感が押し寄せてきた。
「っっあ!で、出ます!出ますネリー様シアー様!!」
こみ上げてくる精液。噴き出してくる絶頂への快楽。
「ん〜、じゅるっ…っちゅ、ちゅるっ…いいよっ、ユート、いっぱい出してっ♪」
「あはっ、だしちゃえ〜♪」
お二人が俺のカリに口を付け、一気に吸い上げた。
- 224 名前:悠人君の妄想だいあり〜つぅ :2005/11/20(日) 17:37:38 ID:7VEcAGLV0
- 「あ、あ、っぐ、うあぁぁ―――ッッ!!!」
目の裏で、火花が、散った。
腰が、無くなる。力が抜ける。身体が跳ねる。
強すぎる快楽に痛みすら感じながら、それでも、精液は噴き出ている。
「うきゃうっ!」
「ん〜♪あったかぁい…」
ゼリーのように濃く、粘る精液をお二人の顔にぶちまけた。
「あ、は…うあ、ま、だ、出……」
仰向けのまま反り返ったペニスが、白いゲルを俺の腹に出し続けていた。
「ん、臭くて…おいしぃ♪」
「あ、ぅぁ…ネリーさ、ま…」
俺の腹の上にぶちまけられた精液に舌を這わすネリー様。
「ほら〜ユート、中のもちゃんととってあげるね〜?」
「は…はい、シアー様…っく」
シアー様は俺のペニスの先端に口を付け、中に残っていた精液を吸い上げた。
お二人の舌が俺の身体を綺麗にしていく。その光景に、俺は例えようもない幸福感を感じていた。
「ね、ユート」
「ユートは〜、私たちのペットになる〜?」
お二人の言葉。そんなこと、もうわかっているはずでしょうに…
「はい…俺をお二人のペットにしてください…」
- 225 名前:悠人君の妄想だいあり〜つぅ :2005/11/20(日) 17:46:06 ID:7VEcAGLV0
- …
妄想を終えて以下略。
というか、なんだこの妄想は……俺って、ロリコンの上にMだったのか…
いや違う!断じて違うッ!!
これはそうだ誰かの陰謀だ!時深とか!!
あーでも…気持ちよかったんだよな。
こう、ネリー様とシアー様の息のあった連携とか……って、うわあああ!!
「ま、マズイ…」
今自然にネリーとシアーを様付けしてた…
「…寝よう。多分疲れ溜まってるんだ……」
自分の中で花開く別な才能に恐怖を感じながら、俺はさっさとベッドに潜り込んで忘れるように努力を始めた……
前の選択肢に戻りますか? Y/N
- 226 名前:妄想の人 :2005/11/20(日) 17:49:40 ID:7VEcAGLV0
- ,. -‐'''''""¨¨¨ヽ
(.___,,,... -ァァフ| あ…ありのまま さっき 起こった事を話すぜ!
|i i| }! }} //|
|l、{ 妄 j} /,,ィ//| 『おれはヘリオンのSSを書こうと思ったら
i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ いつのまにかネリシアのSSを書いていた』
|リ u' } ,ノ _,!V,ハ |
/´fト、_{ル{,ィ'eラ , タ人 な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
/' ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ おれも 何をされたのか わからなかった…
,゙ / )ヽ iLレ u' | | ヾlトハ〉
|/_/ ハ !ニ⊇ '/:} V:::::ヽ 頭がどうにかなりそうだった…
// 二二二7'T'' /u' __ /:::::::/`ヽ
/'´r -―一ァ‐゙T´ '"´ /::::/-‐ \ EXPANSIONだとかスピたんだとか
/ // 广¨´ /' /:::::/´ ̄`ヽ ⌒ヽ そんなファンサービスなもんじゃあ 断じてねえ
ノ ' / ノ:::::`ー-、___/:::::// ヽ }
_/`丶 /:::::::::::::::::::::::::: ̄`ー-{:::... イ 曲芸商法の 片鱗を味わったぜ…
- 227 名前:どりるあーむ ◆ncKvmqq0Bs :2005/11/20(日) 18:07:18 ID:1S4sIaQ/0
- >212さん
>>息を切らして、客間に飛び込むと果たして悠人がそこにいた。
>>>シアー視点ですので、「ユート」かと。
了解です、保管庫に保管された時に修正願いを申請しておきます。
ここで描いたシアーの施設での境遇は、保管庫にあるとあるヘリオン長編がヒントになっています。
自分にとって、あまり書いていて気分のいい場面ではありませんでしたが…。
「ただでさえ世間から厳しい目で見られる恋愛関係」なので、それでもなお二人が強くひかれあう理由が欲しかったでした。
現段階では、まだ二人が互いに相手への気持ちを自覚したばかりなところです。
やっと、これで二人の恋のスタートラインです。
セリアさんについては、まあ…あーゆーオモシロ人間だと思ってますのでw
それにしても、ネリーはあくまでシアーの支援役なのである程度動きをセーブさせなければならないのが辛い。
機会があれば、どなたかの描かれるネリー長編を拝読したいものです。
>>214鯨さん
上にも記述しましたが、ようやく二人とも恋のスタートラインというところなので。
いったん、ああいう書き方という事で…改めてオープニングムービーです(んなもんいらねぇ
話のパーツは、ロウエターナルとの最終決戦まで揃えてますので…あとは章投下ごとに組み上げるだけです。
こちらこそ、鯨さんのヘリオンをいつも楽しみにお待ち申し上げております。
- 228 名前:どりるあーむ ◆ncKvmqq0Bs :2005/11/20(日) 18:08:55 ID:1S4sIaQ/0
- >>215革命さん
ありがとうございます。
ゲームをやってて、この子の人見知りは単に根が大人しいだけじゃないような…と感じていました。
で、鯨さんにも申し上げたのですが上記の上記のようにとある2つのヘリオン長編をヒントにしたわけです。
ゲームをやってて感じるのは、ヘリオンには精神的タフさがまだあるけどシアー&ネリーは逆に脆さが見えるような…と。
シアーの場合は、あくまで私の個人的感覚ですが…ある意味エスペリア姉さんと共通してる部分も感じます。
聖ヨト語そのものはあくまでゲームを演出するためにあそこまでしか作られてないんだと思います。
完全に日本語に対応してたら、物凄い事になるかと。それこそ設定資料集が国語辞典並みの分厚さに。
私なりの補完、努力してみます。期待を裏切らないものを書けるか心配ですけれども。
>>216さん
しまった、バカがばれたーッ!?
>>217さん
お、着目してくれた人がいたっw
>>見え隠れする太腿の付け根とか透ける背中とか
そうですか、そこがアナタの萌えポイントなのですね?なるほどよくわかりました。
参考にしますですよ、いやもうマジで。
ていうか、わざとシアー以外は寝巻きの描写を曖昧にしてありますけどね。
- 229 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/20(日) 18:14:20 ID:1S4sIaQ/0
- >>226妄想の人さん
シアーの…生足…ナマアシ…グッジョブ。
グッジョブ、おお…グッジョブっ!!
エロが描きたくても描けない私は、根本的に何かが欠如してるのだろうと感じる今日この頃。
っていうか…そーゆープレイってマジで何処で覚えてくるもんなんだろう^^;
保管庫にある鼻血もんのSSを読むたびに感心しつつ、いつも思うことですが。
- 230 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/20(日) 18:23:58 ID:7/du3EPw0
- >>226
ポルナレフ乙&GJ
途中からお二人になってるのもワラタですw
- 231 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/20(日) 19:39:55 ID:fm3ZAi5P0
- >226
お茶を飲もうとしたけど、なんとなく水にした。
くぅっ個人の妄想空間にまで神剣の支配は及んでいるのか!! 雑魚スピ達によるイビルルートコワーw
ユート 済
コーイン
戦車キュラキュラ。
この影響で>227の「それでもなお、二人」を「それでもな、お二人」って読んぢまったぜベイベー
- 232 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/20(日) 20:31:12 ID:+CTd81zW0
- 今月のTGにガロリキュア放送局TGVerなるもんがあった
まだ聞いてないけど
- 233 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/20(日) 21:14:06 ID:qf3Wq8qi0
- >>226
GJです!
妄想さんは内容もさる事ながら
終了口上の小ネタがハゲワロス
そのセンス、是非見習いたいですw
- 234 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/21(月) 02:24:16 ID:RxBoEUCS0
- おbsn全国デビューおめ。
ttp://dat.2chan.net/18/src/1132504789290.jpg
- 235 名前:ヒミカのキャンプリポート 3スイング目 :2005/11/21(月) 02:39:32 ID:JXVAUP7F0
- 一時間後。
「あ、やばっ!」
微睡みから覚めたヒミカは上半身をいきなり起こした。
「原稿、送らなくちゃ間に合わなくなる! ってあれ?」
コタツの上にあったはずの原稿は物の見事に消え去っていた。
「う、うそ。ちょっとどこ行ったの」
狼狽してコタツ布団を巻き上げて数枚の紙を捜すヒミカ。その後ろで襖がスラっと開くとハリオンが入ってきた。その手にはヒミカの原稿を持っている。
「大丈夫ですよヒミカ。私が送っておきましたから〜」
「え、そうなの助かったわハリオン。ありがとね」
「いえ〜。ヒミカ疲れてるようですから、お風呂沸いてますから、入って来たらどうですか〜?」
「うんそうね。入って寝るわ」
「はい〜」
あくびと共に部屋を出て行くヒミカを見送るハリオン。その顔には何かをやり遂げた者特有の清々しい黒さが滲み出していた。
翌日。
ラキオスポーツ。
〜〜〜〜
〜〜
またやってみたいです。それでは皆さん開幕戦で会いましょう。あ、その前にオープン戦ですね。では、皆さん
と私たちにマナの導きがありますように。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
左写真は、全てを書き終えて、ちょっとコタツでおねむなヒミカ選手の近影。提供者はHさん。
「//////ちょ。ちょ、ちょちょちょっとなによこれぇっ!! ハリオン!! ハリオンどこにいんの!! ハリオンッッ!!!」
ヒミカ選手お疲れ様でした。最後にヒミカ選手からプレゼント。ヒミカ選手のサイン色紙三枚と、ハリオン選手ナナルゥ選手のを二枚づつ。
計7枚を皆さんに抽選でお届けします。ハガキに三人への応援メッセージを書いて以下の宛先までお送り下さい。締め切りは...
スマン。前スレ耐えきれなかったorz ヤバイとは思ってたけど。そんなわけではみ出し。ほんとごめ(トリプルスイング)
- 236 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/21(月) 03:39:12 ID:jptP7CpG0
- おbsn乙
- 237 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/21(月) 07:13:05 ID:5Q4wXXUu0
- >>226
……色々と抑え切れない何かが湧き出てきそうですが、一言だけ。
『ムレムレストッキング』は凶悪過ぎる……
- 238 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/21(月) 09:19:19 ID:ECAG5e2S0
- >>233
激しく同意
>>235
幕引き乙です。
@前スレ557
×:天版
○:天板
- 239 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/21(月) 10:28:48 ID:VIxJEDct0
- >>235
コタツリーグ終幕ですね
お疲れでした
- 240 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/21(月) 13:01:38 ID:pds9XlG90
- >>234
コレって…コラだよな?
ぱにぽにってこーゆーネタ満載なので、コラかマジかすげー判りづらい
- 241 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/21(月) 17:03:14 ID:F/TlxRgj0
- アニメスレから関連wiki行ってみたが、元ネタ一覧に思いっきり
永遠のアセリア倉橋時深云々ってあったからマジっぽい。
ちょっと、流石にどうかと思うんだがな。
- 242 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/21(月) 19:32:16 ID:dlHeDbDu0
- >>240
マジ、おbsnって見たとき目を疑い、次にタイムシフトの文字で確信したw
- 243 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/21(月) 21:44:04 ID:pds9XlG90
- マジかよ…
てコトは抱き枕争奪戦のコト書いてる時点で、
ぱにぽにの制作がどれだけ自転車操業かが判るなw
- 244 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/21(月) 23:03:26 ID:JXVAUP7F0
- ニュースを見ながらふと思った。
突如フィギュア界に現れたクールビューティ「銀盤の蒼き妖精セリア」
つま先を越えたところで回転するポニテ テラハァハァ
- 245 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/21(月) 23:17:17 ID:Hh/55RVq0
- >>244
10体買うから作って。
- 246 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/22(火) 00:18:28 ID:lYPdQq2X0
- >>245
人形の事ではないかと思われ
とマジレスw
いや人形でも妖精でもどっちでもテラハァハァ
- 247 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/22(火) 06:40:17 ID:lxbqngtK0
- >>244
【トリプルエクセルサイレントフィールド】
エターナルセリア個有サポートスキル。
ウイングハイロゥで飛び跳ね、回転しながら全方向に冷気と萌えを撒き散らす。
-40℃の寒気団なんか目じゃ無い程冬型の配置。最近よく発動しているツンデレ。
属性:青2000% 対人魅了効果:テラハァハァ 必須アイテム:ハイソ
- 248 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/22(火) 06:54:34 ID:lxbqngtK0
- ついでにふと思ったのは、それぞれのスピ達に合う冬季スポーツ。
ソーンリームの斜面を元気に飛び跳ね、
小さな身体を目一杯使ってエアを決めるモーグルネリー。
その後頭から雪山に突っ込むのもお約束。雪まみれになってにぱっ。
黙々とかまくら造りに励むシアー。出来た途端、早速コタツを持ち込むニムントール。うにぃ。
- 249 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/22(火) 09:27:06 ID:3gkvXCi/0
- メガネつきヒミカもスノボが似合いそう。
- 250 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/22(火) 12:14:19 ID:NDau42fOO
- ハーフパイプで
「くーるっ!」
とか言いながら1080゚決めているネリーを幻視した。勿論目を回してコケる姿も。
ジャンプでウィングハイロウ使ってしまい失格になるアセリアも幻視。
- 251 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/22(火) 12:30:55 ID:uswm7M/q0
- 正しくはトリプルアクセルじゃなかったっけ?
- 252 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/22(火) 20:41:39 ID:88Lerh1S0
- ∧_ヘ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
,,、,、,,, / へ孤ノゝ < いざ、かまくら〜。あ、ニム、おもちひとりでたべちゃダメ〜〜 ,,、,、,,,
/三/ゝ゚ ヮ゚ノゝ \____________ ,,、,、,,,
/三/| ゚U゚|\ ,,、,、,,, ,,、,、,,,
,,、,、,,, U (:::::::::::) ,,、,、,,,
//三/|三|\
∪ ∪
,,、,、,,, ,,、,、,,,
,,、,、,,,
- 253 名前:くじら318号 :2005/11/22(火) 21:07:49 ID:NbTsnvf30
- どうも、こんばんは。くじらでございます。
長編の第V章が上がりましたので、流れをぶった切って投下したいと思います。
恐縮ですが、以下のことをご了承の上でお読みください。
・本編のイベントがアレンジしてあったり、はしょってあったりします。
本編のイベントではしょってあるところは、本編の通りに流れたと思ってください。
・そのくせかなり長いです。
では、くじら式長編第V章投下開始します。
- 254 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:09:25 ID:NbTsnvf30
- ─────北方五国が統一された、その次の日の午前中。
「え!?それ、本当ですか?」
「はい〜、本当みたいですよ?」
今、第二詰所ではある報せが飛び交っていた。
それは、悠人の妹、佳織が人質から解放されたということだった。
思いもよらぬ吉報に、ヘリオンはお茶を飲む手を止め、ハリオンはにこにこしていた。
「これは、お祝いしなくてはいけませんね〜」
「そ、そうですね!すぐ行きましょう!」
「あ、でも、ちょっと待っててくださいね〜?」
今にもすっ飛んでいきそうなヘリオンをハリオンは制止すると、台所に入り棚を前にしてしゃがみこむ。
そして棚を開け、奥まで手を突っ込んだかと思うと、一つの包みを取り出してきた。
「そ、それ・・・何ですか?」
「ふふふ、こんなこともあろうかと隠しておいた、秘蔵のお菓子ですよ〜
このお菓子は、冷やしておくと、お茶に良くあっておいしいんです〜」
「い、いつの間にそんなところに・・・・・・じゃなくて!そ、それ、大丈夫なんですか??」
「大丈夫ですよ?だって、最近買ったばかりですから〜」
本当にいつの間に買ったんだろう?
ラキオスに居る間は殆どの時間ヘリオンと一緒に過ごしていただけに、全く覚えが無かった。
・・・・・・やっぱり侮れない。
それはそうと、どうやらハリオンはそのお菓子を手土産にするらしい。
第一詰所で悠人や佳織と一緒にお茶を飲みながら食べようという目論見があるのはヘリオンにもわかったが、
そのお茶会に自分も参加できると思うと、ヘリオンにそれを否定する理由は無かった。
「では、行きましょう〜」
ハリオンはそのお菓子包みと、そのお菓子に最もあうであろうお茶葉の入った瓶を手に持つと、
第一詰所に向かおうとヘリオンに促す。
「は、はい!・・・・・・でも、大丈夫かなぁ・・・はうぅ」
悠人と一緒に居られることに喜びを感じるヘリオンだったが、その一方、お菓子が痛んでいないか、
果たしてそれが悠人の口に合うのだろうか。・・・など、ハリオンにとっては杞憂の思考が駆け巡るのだった。
- 255 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:10:29 ID:NbTsnvf30
-
─────ここは第一詰所の食卓。
そこでは、エトランジェの兄妹とオルファが平和そうに談笑していた。
佳織が人質から解放されたことを心から喜んでいるのは悠人だけではない。
佳織が寂しくないようにと、話役として遣わされていたオルファもまた、佳織が傍に居ることに幸せを感じていた。
悠人は一口、エスペリア特製のブレンドティーを啜る。この空間は本当に平和だった。
「ふ〜」
「でね、でね、その時パパが転んで洗濯物ばら撒いちゃってね、エスペリアお姉ちゃんがすんごい顔して怒って・・・」
「あはははは、おっかし〜。お兄ちゃん、そういうところ抜けてるからね」
「大きなお世話だ。慣れないことはするもんじゃないって思い知らされたよ」
「お兄ちゃん。そんなんじゃ一人暮らしできないよ?お兄ちゃんだらしないから、部屋がゴミ箱になっちゃうよ?」
「ねえねえカオリ、パパのお部屋って、ゴミ箱なの?」
「うん。すっごく散らかってるんだから。いつも私がお掃除してあげてるの。大変なんだよ?」
「あはは、パパだらしなぁ〜い」
「うぐぐ・・・」
悠人はふと思い出す。元の世界の自分の部屋がどういう状況かを。
確かに常に散らかっている上、佳織が掃除しても、2、3日で元に戻る。
おまけに佳織が重箱の隅を突付くかのように細かい掃除をするので、妙なものは隠せない。
自業自得なのだが、プライバシーもくそも無かった。
「でも今のお部屋は綺麗だよね。パパ」
「まあ、エスペリアが良く掃除してくれるし、持ち込むような私物もそんなに無いからな」
「・・・・・・やっぱりこっちでもだらしないんだね」
はあ、と佳織は呆れたようにため息をつき、オルファは天使のように笑う。
こういったくだらない話も平和な空間の中では笑い話になるのだから不思議なものだ。
- 256 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:12:29 ID:NbTsnvf30
- こんこん。
玄関の方から扉を叩く音が聞こえる。
「あれ、誰か来たのかな」
「お客様だね。オルファが出てくるから、パパとカオリはここに居てね♪」
そう言うと、オルファはぴょこんと椅子から降り、とことこと玄関に向かった。
一体誰が来たのだろうか、あまり心当たりの無い悠人は佳織と目を合わせて首をかしげる。
少しして、オルファがその来客を連れて食卓へと姿を現した。
「えへへ、パパ。ハリオンお姉ちゃんと、ヘリオンが来たよ」
「おはようございますぅ〜、ユート様♪」
「お、おはようございますっ!」
いつもの調子で挨拶をする二人。
特にヘリオンに関しては、あの荒療治の後遺症みたいなものも見られず、元気な顔をしていた。
「どうしたんだ?二人がこっちに来るなんて珍しいな」
「えっとですね〜、カオリ様がユート様の元に戻られたと聞きましたので、お祝いでもと思いまして〜」
「そ、そうなんです!ユート様、おめでとうございますっ!」
「そうか。ありがとうな、ヘリオン、ハリオン」
「ははは、よかったね、お兄ちゃん」
「・・・・・・それで、その包みと瓶は一体何?」
ハリオンが持っている妙な包みと、お茶葉のようなものが詰まった瓶。
さっきからこれ見よがしに持っているので、悠人が尋ねると、ハリオンは待ってましたとばかりに話す。
「ふふふ、一緒にお茶会でもしようと思いまして〜、この包みは、おいしいお菓子なんです〜」
「お菓子!?オルファそれ食べたい!」
「オ、オルファ・・・」
お菓子という言葉に反射的に反応するオルファ。まるでパブロフの犬だ。
察するに、瓶の中身は思ったとおりお茶葉らしい。
「はいはい〜、みんなで食べましょう。ユート様、お台所お借りしますね〜」
悠人の返事を聞くまでも無く、ハリオンはお茶を淹れるために台所へと入っていった。
- 257 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:13:23 ID:NbTsnvf30
- 「あの、ゆ、ユート様、ここに座っていいですか?」
「え?ああ、別にいいけど」
「で、では。失礼しますっ」
ヘリオンは遠慮がちに尋ね、そして悠人の左手側の椅子(食事のときのアセリアの席)に腰掛ける。
ちなみに、悠人とオルファはいつもの席、佳織はオルファの右隣の椅子に座っていた。
そのまま少し談笑していると、ハリオンがお茶とお菓子を持ってやってきた。
「ユート様、お待たせしました〜」
ハリオンはお盆からお菓子の乗った皿をテーブルの中心に置き、続いてお茶をそれぞれの目の前へと置く。
悠人はそのおいしいお菓子とやらを見る。
みんなの人気者ヨフアルとは違い、このお菓子は饅頭のようなもの。見るからにお茶にあいそうだった。
ハリオンがヘリオンの隣に腰掛けると、一口お茶を啜る。
それを合図に、そのテーブルの者全員がお茶とお菓子に手をつけ始めるのだった。
「お兄ちゃん、これおいしいね♪」
「ああ、そうだな」
「本当に、お茶にあいます!」
そのお菓子を口に含み、お茶を少しだけ飲むと、うまいことお菓子がお茶でほぐれて一層おいしさを増す。
何よりも、さっきの心配が取り越し苦労だったことにヘリオンは喜んでいた。
「そっかあ、このお菓子ってこうやって食べるとおいしくなるんだ。オルファ知らなかったよ」
「あれ、オルファってこのお菓子食べたことあるのか?」
悠人が尋ねると、オルファは幸せそうな顔で話しはじめる。
それが後に大惨事を生むことになろうとは、仏様はもちろんこの世界の神様でもわからなかっただろう。
「うん。この間ね、ネリーたちが持ってきてくれたんだよ♪」
「へぇ〜そうなんだ」
「なんかね、第二詰所の台所の棚の奥に入ってたんだって」
- 258 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:14:31 ID:NbTsnvf30
- ビシイィッ!
オルファがそういった瞬間、ヘリオンの表情が凍りついた。続いて状況を察したのか悠人と佳織も仲良く凍りつく。
手に持っていたお菓子をぽろり、と落とすほどに固まっていた。
・・・・・・そのお菓子を持ってきたハリオンはというと・・・いつもどおりのニコニコ顔。
表情の凍りついた三人がちらりとハリオンを見ると、まるで化け物を目の当たりにしたかのように震えだす。
未だに状況のつかめないオルファは、それを不思議そうに眺めていた。
「あ、あれ?パパ、カオリ、ヘリオン、どうしたの?何か怖いものでも見たの?」
全くもってその通り。
「・・・・・・オルファ。それ、本当なのか?」
「うん、それがどうかしたの?・・・・・・あ゙」
ようやくオルファにもわかったらしい。
さっきからハリオンの周りに僅かではあるが殺気のこもったマナが集まり始めている。
「私の知らない間にそんなことになっていたんですね〜。あの子たちには、
めっ、てしてあげないといけませんね〜。すいません、ユート様。私、お先に失礼させていただきますぅ〜」
ハリオンは席をすっと立つと、ずっしりとした足取りで食卓から去っていった。
「ヘ、ヘリオンさん。と、止めなくていいんですか?」
「ハ、ハリオンさんがああなったら、だ、誰にも止められません!ハリオンさんが怒ると、すっごく怖いんですっ!!」
ヘリオンの目は本気だった。以前ハリオンを怒らせたことがあるからこそだった。
「マジか・・・ネリー、シアー・・・逃げてくれよ」
四人は成す術も無く、椅子に縛り付けられたかのように固まっていた。
次の瞬間・・・
ガチャ。と、玄関の扉が開き、どこかで聞いた声が響き渡る。
「オ・ル・ファ〜あっそぼ〜!!」
「あ〜そ〜ぼ〜♪」
!タイミング、悪─────
- 259 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/22(火) 21:14:51 ID:4sGqLnCi0
- 支援開始
- 260 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:15:38 ID:NbTsnvf30
- ず ど ご ー ん !!
「きゃあああぁぁぁ〜!!」
「やあぁぁぁ〜んっ!!」
認識したときにはすでに遅かった。
殺意のこもった緑マナの爆発は完全にあの双子を捕らえていただろう。・・・おそらく無事では済まない。
勇気を振り絞って、オルファが玄関のほうを覗くと、そこにはすでにハリオンやネリー、シアーの姿は無かった。
爆発の物凄さを語る砂埃と、粉々になった玄関の扉だけがそこにあった。
「あ、あれ?誰もいないよ?」
「は、ハリオンさんが連れて行っちゃったんですよぅ〜」
「なんてこった・・・ヘリオン、あのさ、ハリオンの怒りを買うと、あの後どうなるんだ?」
「ハリオンさんのせっかんは・・・あの後、その・・・お、思い出すだけでも恐ろしいですっ!」
「ネリー、シアー・・・生きてたらいいね」
「うう、そ、そんなぁ・・・」
悠人たちはお茶とお菓子をさっさと片付け、お茶会をお開きにした。
その後、第二詰所に戻ったヘリオンがボロボロ+涙目になった双子を見たのは言うまでも無い話なのだった。
─────それから、どれくらいの平和な日々を過ごしてきただろうか。
佳織と町に出かけたり、オルファが風呂場で突進してきたりと、落ち着かない日々。
疲れているのは確かだが、平和である限り笑顔でいられる。佳織が傍にいるから。
- 261 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:16:22 ID:NbTsnvf30
- 「これから、どうなるんだろうな・・・」
悠人が考えていたのは、そのまんまこれからのこと。
今まで、佳織が人質にとられて、そのためにバカ剣【求め】を手にとって、佳織のために戦ってきた。
だが、もう戦う理由は無い。佳織を助けられたから。どうにかして逃げ出して、元の世界に帰りたかった。
「でも、俺が逃げ出したりしたら、みんなどうなるんだろう・・・」
それなのに、アセリアたちスピリット隊のメンバーのことを考えると、踏みとどまってしまう。
もう、一人一人に情が移ってしまっている。
今まで世話になったのに、今まで命懸けで一緒に戦ってきたのに、自分はもう戦わなくていいからって、
大事な人たちを置いて逃げるなんて、悠人にはできない。できるはずも無い。
「・・・・・・考えててもしょうがないか。お茶でも飲もう・・・」
とりあえず、お茶でも飲んで気を紛らわそうと、悠人は食卓へ向かうのだった。
悠人が食卓に降りてくると、そこには先客がいた。
「あ、お兄ちゃん」
「よお、佳織」
テーブルにちょこんと座っている佳織。その目の前にはティーポットが置いてあった。
一人で、夕焼けに染まる景色を見ながらティータイムでも楽しんでいたのだろう。
「お兄ちゃんも、お茶飲む?」
「ああ、ちょうど飲もうと思ってたところだし、もらおうかな」
「は〜い」
悠人がそう言うと、佳織はもう一つのティーカップに、七分方ポットのお茶を注ぎ込む。
「お兄ちゃん、はい、どうぞ」
「お、サンキュ」
悠人はそのお茶を啜る。
いつもとは少し違うルクゥテとクールハテのブレンドのお茶の香りが、暖かさと共に体中を駆け巡る。
- 262 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:17:22 ID:NbTsnvf30
- 「ふぅ〜」
落ち着いた空気が食卓を支配すると、何を思ったか佳織が質問してくる。
「ねえ、お兄ちゃん」
「ん?どうしたんだ、佳織」
「お兄ちゃんは、元の世界に帰りたい?」
「え・・・・・・そりゃあ、帰りたいに決まってるだろ。将来のこともあるしさ」
「うそ」
「え?」
「うそでしょ?本当は、エスペリアさんたちのことが心配なんじゃない?」
「それは・・・」
さすがは我が義妹。あっさりと見抜かれてしまった。
確かに悠人は今、帰りたいという欲求と、みんなのことが心配だという心が、葛藤を生じさせている。
もっとも、今は帰る方法がわからないから、みんなと一緒にはいられるけど。
「私ね、帰らなくてもいいんだよ」
「なんで」
「だって、幸せなんだもん。お兄ちゃんがいるし、エスペリアさんたちは優しいし・・・」
「それ以上に、大好きなファンタジーの世界だから面白い・・・とか思ってないか?」
「あ〜!ひど〜い!私真面目なんだよ?」
佳織はぷぅ〜っと頬を膨らませて反論してくる。
「それに、私お兄ちゃんのことが心配なんだよ?」
「俺のことが心配?なんでだよ」
「だってお兄ちゃん、このままだとエスペリアさんたちの誰かをお嫁さんにしちゃいそうなんだもん」
「ぶっ!!げほげほげほ」
悠人は思わず咳込む。
この間のオルファの質問に続いてお茶を吹き出す羽目になろうとは。
- 263 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:18:22 ID:NbTsnvf30
- 「な、なんでそうなるんだ!?」
「お兄ちゃん、のんびり屋さんだし、ねぼすけだし、料理以外の家事は苦手だし・・・」
「うぐぐぐ・・・」
佳織の指摘がどすどすと、アイアンメイデンの如く心に突き刺さる。
「でもね、私本当はそっちのほうが安心するんだ」
「え?」
「お兄ちゃん、あちこち抜けてるから。誰かが一緒にいてくれたほうが安心するの」
「なるほどね。まあ・・・そうかもな」
「それでお兄ちゃん、もしお嫁さんにするなら、誰がいいと思う?」
「お嫁さんにするなら、か・・・」
もしも、の話なのだろうが、佳織は時々冗談なのか本気なのかわからなくなることがある。
まあ、女の子はこういう話が好きなのだろう。悠人は乗ってやることにした。
「う〜ん、いないねぇ・・・」
「え〜?本当にいないの?」
悠人はみんなが自分のお嫁さんになった時のことを想像してみるが、どうもパッとしない。
アセリアはイメージ的にパッとしない上、あの料理を食べさせられるかと思うと恐ろしいし、
エスペリアはお嫁さんというよりはご主人様とメイドさんだし、
オルファは年が離れすぎていて、お嫁さんにすると犯罪者になりかねない。
「いないというか、どうもパッとしないんだよな」
「そうかな〜?」
「そういう佳織は、俺に合うお嫁さんだったら、誰がいいと思うんだよ」
「私は、お兄ちゃんにはエスペリアさんみたいなしっかりした女の人が合うと思うな」
「エスペリアか・・・まあ、そのへんだろうな。もしも、の話だけど」
おそらく一番マシだろう。尻にしかれそうな雰囲気はあるが・・・
- 264 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/22(火) 21:19:36 ID:4sGqLnCi0
- 支援継続
- 265 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:19:43 ID:NbTsnvf30
- 「でもね、実はもう一人、気になる人がいるの」
「それ、誰?」
「うん、ヘリオンさんがちょっと怪しいかなって思ってるの」
「・・・・・・は?」
「お兄ちゃん、気づいてた?この間のお茶会のとき、ヘリオンさん、ほっぺ赤くしてたんだよ?
それに、座ってもいいかってお兄ちゃんに聞いた時の態度、怪しいと思うけどな〜」
「ヘリオンはいつもあんな調子だよ。緊張してて、ぎこちなくて・・・」
「・・・やっぱりね」
「え?」
佳織は何かに感づいているようだった。まるで悠人をカマにかけたようにうんうんと頷く。
「ヘリオンさん、きっとお兄ちゃんのこと大好きなんだよ」
「な、なんだってぇー!?そ、そんなことないだろ」
「ううん、私にはわかるよ?好きな人を前にして、緊張しちゃってるんだよ」
何をどういう風に解釈したらそうなるのか。悠人には理解できない佳織ワールドが広がっているらしい。
「おいおい、いくらなんでもそれは虫が良すぎるだろ」
「もう!お兄ちゃんの鈍感!お兄ちゃんはヘリオンさんのことどう思ってるの?」
「ど、鈍感って・・・そりゃ、俺にとってヘリオンは、大事な仲間だし・・・頼りないところもあるけど、頑張りやだし」
「そこまで見てれば、大したものだと思うよ?・・・何かあったんでしょ」
「うぐ・・・」
今日の佳織は妙に冴えている。こうなってしまっては否定するだけ無駄だろう。
悠人は思い出す。今まで自分はヘリオンとどう出会ってきたのかを。
訓練所で倒れていたときに始めて会って、そのあと自分の部屋にまでわざわざ挨拶に来て・・・
思えば、ヘリオンがぎこちなかったのはその頃からだった。
そして、自分と同じ部隊に入って、初陣で心を失いかけて戦えなくなったけど、それでも健気に頑張って、
神剣を元に戻してやったこともあったっけ。
・・・・・・で、今に至るわけだが。
「そういえば、いろいろあったな・・・かくかくしかじか」
悠人は今まで何があったのかを話した。
- 266 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:20:44 ID:NbTsnvf30
- 「ほほ〜、じゃあヘリオンさんにとってお兄ちゃんは恩人なんだね」
「・・・そうなるか、なぁ」
「ふふふ、お兄ちゃんがどうするのか私には解らないけど、女の人の想いには応えてあげなきゃだめだよ?」
「まあ、それは遥か先の話として置いておくとしようか」
「お兄ちゃん!誤魔化しちゃだめ〜」
悠人は話をはぐらかして、もう一杯ポットのお茶をカップに注ぐ。
こういう話で動揺してしまった心を落ち着けるには、お茶を飲むのが一番だった。
佳織ももう一杯お茶を飲むと、再び食卓には静寂が訪れる。
窓の外から聞こえてくる、サラサラという木の葉が風で擦れあう音が、風流で気持ちいい。
「(でも・・・もしあのヘリオンのぎこちなさの訳が、佳織の言うとおりだったとしたら?)」
悠人は静寂の中で、ふとそんなことを考える。
ヘリオンがぎこちなくて、ドジを露呈するようになったのは、悠人の記憶上は部屋に挨拶に来てから。
訓練所で声をかけてもらったときには、まだそんなぎこちなさや緊張は見られなかった。
「(俺はあの時、何をした?何を言った?)」
大分前のおぼろげな記憶を掘り起こそうとする。思い出せたのは・・・
「あの、どうして、そうなってまで戦っているんですか?」
「ああ・・・守りたい人がいるからかな」
「守りたい人・・・?」
「うん、俺の大事な人。その人がいるから、がんばろうって思えるんだ」
「大事な人・・・そうですよね!はい、よくわかります!」
- 267 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:21:40 ID:NbTsnvf30
- 「(戦う理由・・・大事な人?ヘリオンも、大事な人のために戦っている?だから、俺に同調した?)」
それならなんとなく解る。
同じ理由で戦っているなら、他人とは思えないかもしれない。
スピリットだから戦っている、というわけではない。しっかりと自分の意思をもって戦場に出ている。
エルスサーオに向かう途中に感じた、足手まといのヘリオンに自分を重ねたときの感情を思い出す。
「(・・・・・・似ている?俺と、ヘリオンが・・・?ヘリオンも、そう思ってる?)」
様々な思い当たる節を駆け巡らせる。確かにそういう可能性もあった。
だが、それはまだ悠人にとっては可能性であるだけで、確定ではない。
「(ま、本当のところは本人しかわからないからな・・・余計な詮索はしないでおこう)」
「・・・・・・お兄ちゃん?」
「ん、ああ、佳織?どうした?」
「それはこっちの台詞だよ。遠い目をしてぼーっとしてるんだもん」
ぼーっとしてたのは確かだろう。考え事していたんだし。
しかし、ここでヘタに反応するとまた佳織に考えを見抜かれてしまう。
「な〜に考えてたの?」
「別に、何も・・・」
「お兄ちゃん、なにか大事なこと考えてたでしょ。私にはわかるよ?
お兄ちゃんが大事なこと考えるときは、いつもぼーっとして、黄昏ながら考えるんだもん」
確かに考え事はしていたが・・・果たしてそれは大事なことに当たるのだろうか。
もし佳織の仮説が当たっているなら、悠人にとってもヘリオンにとっても大事なことだろうけど。
今はまだ、大事なことだと胸を張って言えるようなことではなかった。
「いや、本当になにも考えてなかった」
「ほんとう?なんか怪しいな〜。大体お兄ちゃんって・・・・・・」
佳織がまた悠人の欠点を指摘しようとした、その瞬間・・・
- 268 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:22:55 ID:NbTsnvf30
- カーン!カーン!カーン!
どこからともなく、大きな鐘の音が響き渡る。
それは本来は鳴ってはいけない音、敵襲などの警報を知らせる鐘の音だった。
「・・・まさか、敵か!?」
「お、お兄ちゃん!」
二人は同時にがたり、と音を立てて席を立つ。
悠人は反射的に腰の【求め】を握ると、神剣の気配を探り始めた。
「1・・・2・・・3・・・・・・くっ!10人以上はいるな・・・・・・城に向かってる!?」
「お兄ちゃん、戦いに行くの?」
「ああ・・・佳織、地下室に入ってろ。ここにいるよりは安全だ」
「う、うん・・・お兄ちゃん、絶対に帰ってきてね。お願いだから・・・」
「大丈夫・・・みんなと合流すれば、そうそう遅れはとらないさ。約束するよ、絶対に帰ってくるって」
「うん、約束だよ」
神剣の力・・・オーラフォトンを展開し、悠人は敵に向かって走り出した。
佳織や、レスティーナ王女、そして、スピリット隊のみんなと生き延びるために。
「(たのむ・・・持ちこたえてくれ!)」
───── 一方、そのころ・・・・・・第二詰所にて。
カーン!カーン!カーン!
けたたましく警鐘が響く。その音は、ここでも展開されていた夕焼けのティータイムを強制終了させた。
「て、てて、敵ですか!?」
「あらあら、そうみたいですね〜。全然気づきませんでした〜」
「ってハリオンさん!そんなのんきにしている場合じゃないです!はは、早く救援に行かないと!」
「・・・・・・慌てすぎるのも良くないんですけどね〜」
のんびりとお茶を飲んでいたヘリオンとハリオンは、壁に立てかけてあったそれぞれの神剣を手に取る。
- 269 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/22(火) 21:23:16 ID:4sGqLnCi0
- 疾風よりも速く支援する
- 270 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:23:51 ID:NbTsnvf30
- 食卓から飛び出すと、2階から慌てて降りてきたヒミカに目が合った。
「二人とも!敵襲みたいよ。準備はいい?」
「も、問題ありません!」
「大丈夫です〜」
「そう?それじゃ、いくわよっ!」
そう言うと、三人は神剣の力を使って全速力で走り出す。
だが、今のヘリオンには敵のスピリットよりもハリオンのほうが恐ろしかった。
なぜなら、さっきのティータイムはまだ始めたばかり。お茶はまだ温かく、お菓子も出したばかりだったのだ。
自分の趣味(の一つ)を邪魔されたハリオンは、おそらくあのせっかんに匹敵する八つ当たりをしてくれる。
その巻き添えになるのが、ヘリオンにとっては恐怖なのだった。
「(はうぅ・・・ハリオンさん、手加減してくれるといいんですけど・・・)」
「(ふふふ、私の邪魔をする人はぁ、み〜んな めっ てしてあげるんですから〜♪)」
「(大丈夫かな・・・ハリオン、さっきから妙に笑顔だけど・・・何かあったのかしら?)」
それぞれの想い(思惑)を胸に、三人は敵のいるほうへと急ぐのであった。
─────三人が謁見の間に飛び込むと、そこではすでに戦闘が行われていた。
エスペリアとオルファが、2対3で明らかに物量で押され、苦戦している。
「一気に、飛び込みます!」
ヘリオンはハイロゥを展開して全力で高速移動し、敵のうちの一人に斬りかかる。
虚を突かれた敵は思わず振り向くが、ヘリオンのスピードには追いつくことができず、一撃で体を二つに分けた。
「うふふ、そぉ〜れ〜!」
ハリオンは【大樹】で全力の刺突を連続で繰り出す。
その攻撃が敵の腹に突き刺さると、そのまま敵ごと【大樹】を振り回し、敵を壁まで投げ飛ばしたのだった。
・・・当然、その瞬間にマナの霧と化す。
「・・・もらった!ファイアーボールッ!」
残りの一人に、ヒミカが焼殺魔法を叩き込む。
対象が魔法に弱いグリーンスピリットだっただけに、一瞬で消し炭と化した。
「はぁ、はぁ・・・助かりました」
「オルファ助かっちゃったよ。ありがとう、ヘリオン、ハリオンお姉ちゃん、ヒミカお姉ちゃん♪」
- 271 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:24:40 ID:NbTsnvf30
- 少し遅れて、謁見の間に悠人とアセリアが入ってきた。
「こっちは片付いたのか?」
「はい、彼女たちのお陰で、この場はなんとか・・・」
エスペリアはそう言うと、ついさっき入ってきた三人に目配せする。
すると、自分をアピールするチャンスとばかりに、ヘリオンが声を挙げた。
「はい!ゆ、ユート様、私たち、頑張りました!」
「そうか、よく持ちこたえてくれたな。みんな」
本当はものの一瞬で片がついたのだが、オルファを含め誰も突っ込みをいれようとはしなかった。
「それより、敵はこれだけなんですか〜?」
「はい・・・襲撃にしては、小規模すぎます。何か他に目的があったのでしょうか・・・?」
ハリオンとヒミカは難しい顔をしている。それはエスペリアや悠人も同じだった。
敵は、その服装からサーギオス帝国の手の者。帝国が絡んで被害が小さくて済むはずが無かった。
「もしかして、オルファたちじゃなくて、王様たちをねらってたりして♪」
「!!」
オルファ以外の全員が感付く。
敵の狙いは、スピリットを狙ってラキオスの戦力を削ぐことではなく、頭を直接狙ってきたと。
確かに、手馴れ揃いのラキオススピリット隊を相手にするには、少なからずかなりのリスクを伴う。
つまり、それをまとめる者を討ち、瓦解させようとする作戦だということだ。
・・・・・・もしそうならば、ラキオス王やレスティーナが危ない!
「みんな、王たちが危ない!急ぐぞ!!」
オルファ以外の全員が一斉に頷き、王族の寝室に向かう悠人に続いて走り出す。
「え、え?ど、どうしたの?」
あの時と同じく、未だに状況がつかめないオルファ。
何がなんだかわからないが、オルファも悠人たちの後を追うのだった。
- 272 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:25:40 ID:NbTsnvf30
- 悠人たちが王族の寝室のある廊下にたどり着くと、そこには信じられない光景が広がっていた。
死屍累々と並ぶ兵士たちの死体。その傷は、全てが全て、鋭い刃物による致命傷。
それが指し示すものは、兵士を殺害したのがスピリットであることだった。
「な、なんだこれは・・・」
悠人は今まで、スピリットは人を殺めることができないものだと思っていた。
・・・だが、それは違った。
スピリットは人間に従順。すなわち、人を殺すように訓練されたスピリットなら、人を殺すことができる。
なんの躊躇も無く人間を手に掛けることのできるスピリット。
そんなのがこれからの相手だと思うとゾッとする。それは何よりも恐ろしい殺人兵器だからだ。
「ぐ、ううう・・・」
兵士の死体の山から、僅かに呻き声が聞こえてくる。
悠人はその声を辿ると、腹に深々と刺突による傷を負った死に掛けの兵士がいた。
「大丈夫か!?」
「きさま・・・か、エトランジェ・・・」
「すぐ助けてやる!エスペリア、ハリオン!回復魔法を・・・」
「無駄だ・・・スピリットの、癒しは・・・人間には、効かない・・・」
「くそっ!」
「陛下は・・・すでに、スピリットに、やられた・・・殿下は、スピリットの館に向かって逃げている・・・」
「なんだって・・・!お前は・・・」
「俺はもうだめだ・・・それより、エトランジェ・・・お前、ハリオン・・・って、言った、よな」
「何?ハリオンがどうかしたのか?」
兵士は、血反吐を吐きながら、無理矢理に声を発しようとする。
「そこにいるのか?・・・ヘリオン・・・も、一緒か?」
「え?私ならいますけど・・・どうして、私たちのことを??」
「あなたは、一体なんなのですか〜?」
本来は人間がスピリットなどに興味を持つことは無い。だから、名前を覚えられることも多くは無かった。
そんな世界の中で、悠人やレスティーナ以外の人間に名前を呼ばれることは、
ヘリオンやハリオンにとって、いや、全てのスピリットにとっては珍しいことだった。
- 273 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:26:51 ID:NbTsnvf30
- 「ハリオン・・・ヘリオン・・・お前たちに、謝っておきたかった・・・」
「あ、謝って?な、何言ってるんですか?」
「お前たちの施設の責任者・・・あの女は、何年か前に死んだそうだな・・・」
「お姉ちゃんのこと、ですか〜?」
「そうだ・・・よく聞け・・・
・・・あの日、施設の物を破壊して、あの女を、殴って、犯して、廃人同様にしたのは・・・・・・俺だ」
「・・・へ?」
「え・・・?」
二人とも、信じられないといった表情だった。当然だろう。
ヘリオンとハリオンの、一生忘れられないであろう悲劇。その張本人が目の前にいるというのだから。
二人の中で、あの日の、あの時の出来事がフラッシュバックする。・・・自然と、涙が溢れ出す。
「思えば・・・お前たちを戦いに赴かせたのも、あの時の出来事なんだろう・・・
俺は・・・・・・焦っていたんだ。戦えないスピリットを目覚めさせなくては、俺の立場が危うくなる。
俺は、そのために、あの女を廃人にし、ヘリオンを目覚めさせようとした・・・その結果、うまくいったよ。
だが、あの時俺の中には悪魔がいたんだ・・・他にも方法があったはずなのに、乱暴しかできなかった。
だから・・・お前たちに、ちゃんと謝っておきたかった。それが罪滅ぼしにはならないって、解ってはいるがな・・・」
「うそ・・・うそですよね?あなたが、あの時の兵士さんで、お姉ちゃんを・・・殺したって・・・」
「そんなことって、ないです。そんなこと、あっちゃいけないんですよ?」
ショックのあまり、ヘリオンとハリオンは片言になる。
いろんなことがぐるぐると頭の中を走馬灯のように駆け巡って、何も考えられなくなった。
「・・・何を言っても、許しては、もらえないだろう、が・・・・・・言わせてくれ・・・・・・すまな・・・い・・・ぐ、ふ・・・」
より一層血反吐を吐き出し、その首をごとり、と横たえる。・・・その兵士は息を引き取った。
ヘリオンと、ハリオンに対して、何もしないまま。罪を償うことも無いまま。
「あ、ああ、あぁ・・・そんな・・・そんなああぁぁあぁあ・・・」
「お姉、ちゃん・・・・・・お姉ちゃん・・・」
二人はがくり、と膝をつく。涙しか流れ出ないその瞳からは、光が失われかけていた。
- 274 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/22(火) 21:26:53 ID:4sGqLnCi0
- 猛火の如き遍く支援
- 275 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:27:42 ID:NbTsnvf30
- 『ヘリオン!しっかりしてください!ヘリオン・・・!』
『ああ、ハリオン!気をしっかりと持ってください!心の闇に飲み込まれてはいけません〜!』
二人のもっている神剣、【失望】と【大樹】がそれぞれの主に呼びかける。
あの悲劇の日、二人に誓いを持たせた時のように。
・・・・・・しかし、たった一人の『お姉ちゃん』を失ったときの悲しみは、
いくら時が経っても、どんなに頼れる仲間<パートナー>がいても、決して簡単に拭い取れる物ではなかった。
なによりも、罪を償ってもらえなかった。それによるやるせなさが二人を支配していた。
「ヘリオン!ハリオン!しっかりしろっ!!」
大声と共に、体をぐらぐらとゆすぶられ、二人ははっと我に帰る。
その涙という闇に溺れた瞳に光を取り戻したのは、エトランジェだった。
「あ・・・ゆ、ユート様ぁ・・・」
「ユート様、私、どうしたんですか〜?」
無二のパートナーである神剣。それの声ですら治せなかった深い深い心の傷。
それなのに、悠人の声が心奥深くまで響き、その深い傷を拭う。
どうしてだろう。悠人自身の言葉はそれほどまでに癒しを持つ物ではないのに。
二人の心が、悠人の言葉を聞いたとき、悠人の顔を見たとき、不思議に癒されていく。
「二人とも、何があったのか俺にはわからない。俺にはヘリオンやハリオンの気持ちは理解できないかもしれない。
でも、今ここで立ち止まるわけには行かないんだ。だから、まだいなくならないでくれ」
悠人の今の素直な気持ち、大事な仲間を失いたくは無い。
特にヘリオンについては前例がある。また心を失った人形なんかになって欲しくなかった。
「・・・・・・すみません、ユート様・・・少し、ヘリオンと二人にしてくれませんか〜?」
「は、ハリオンさん・・・」
「え?ああ・・・大丈夫なのか?ハリオン・・・」
「はい。大丈夫です〜。ですから、ユート様たちは王女様を追ってください〜」
「あ、ああ、わかった。でも、無理はするなよ・・・・・・行くぞ、みんな」
悠人がそう言うと、アセリアやエスペリアやオルファ、続いてヒミカが心配そうな顔をして、その場を去っていった。
- 276 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:28:52 ID:NbTsnvf30
- 廊下に誰もいなくなったことを確認すると、ハリオンは疲れきった顔で壁を背に寄りかかる。
普段の、何もかもを許してくれそうな優しい顔は、今はどこか遥か彼方を見ていた。
ヘリオンは、その場にへたり、と座り込んで、何か思いつめたような表情をしていた。
「ヘリオン・・・お姉ちゃんは、幸せだったのでしょうか〜」
「そんなの・・・わかりません。お姉ちゃんしか・・・わかりません」
本当だった。
確かに『お姉ちゃん』はあの兵士に殺された。でも、その兵士がやってきたのだって、
ヘリオンがいたから。ヘリオンがまだ戦えなかったから、あんなことをされたのだ。
だから、ヘリオンさえいなければ、あの嵐の夜、ヘリオンを助けなければ、
『お姉ちゃん』はもっと生きられたのかもしれない。
「ハリオンさん・・・私、こんな風にのうのうと生きてていいんですか・・・?
私がいたから、私がお姉ちゃんの所に来たから、あんなことになって、お姉ちゃんは・・・」
ヘリオンを再び自責の念が襲う。元を辿れば、自分のせいだって、それしか考えられなかった。
「私は、ヘリオンがいてくれて、幸せでしたよ?」
「どうしてですか?ハリオンさんだって、お姉ちゃんがいなくなって悲しいんじゃないんですか?」
「私、嬉しかったんです〜、ヘリオンが来てくれて・・・まるで、かわいい妹ができたみたいでした〜・・・
確かに、お姉ちゃんが死んじゃったのは悲しいことですけど・・・お姉ちゃんは、後悔はしてないと思います〜
ヘリオンがまだ喋れないときに、お姉ちゃん、言ってました。私やヘリオンと一緒にいると、暖かいって・・・」
「やっぱり、お姉ちゃんは幸せだったんですね・・・でも、私がいたから、その幸せは・・・」
その幸せは、なくなってしまった。ヘリオンがそう言いかけたとき、ハリオンの人差し指がヘリオンの唇に当たる。
「それは違います〜。ヘリオンがいたから、お姉ちゃんも幸せになれたんですよ?
それが、例え短い間だったとしても、お姉ちゃんは、幸せだったと思うんです〜
ですから、私たちはお姉ちゃんの分まで生きなきゃいけないんですよ・・・?」
- 277 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:29:36 ID:NbTsnvf30
- りいいいぃぃん・・・
ハリオンの言葉に同調するかのように、【失望】が干渉音を響かせる。
『そうです・・・ですから、そんなに自分を責めないでください。ヘリオン・・・
私は、あなたに死んでほしくはありませんから。あなたと一緒に生き延びたいのです』
「はい・・・」
ハリオンと【失望】に優しく諭されるヘリオン。
まだ心の靄は完全に晴れたわけではなかったが、それでも、ある一筋の希望を見出すことができた。
「なんでもかんでも自分のせいにしないでくださいね。そんな子は、めっ てしちゃうんですからね」
「はうっ!そ、それだけは勘弁してください〜」
どうやらいつもの調子に戻ったらしい。
そんな姉妹の様子を見て、二本の神剣は思わず笑いをこぼす。
『ふふ、それでこそヘリオンです』
『あらあら、めっ は最後の手段ですよ?ハリオン』
「さ、ヘリオン。ユート様のところへ急ぎましょう〜」
「は、はいっ!ユート様、どうかご無事でいてください!」
ヘリオンとハリオンはしっかりと立ち、悠人の去っていったほうへと走る。
同じ理由の、大事な人を守るために戦う人を助けるために、今まで自分たちを助けてくれた悠人を助けるために。
─────ただひたすら、館に向かって走る。
ヘリオンとハリオンの視線の先には、暗闇の中轟々と燃え盛る火の手に包まれたスピリットの館。
悠人たちは無事なのだろうか、唯それだけが二人の脳裏をよぎる。
そのうち、炎の中から一つの黒い影が飛び出し、空中で停止する様が見えた。
- 278 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/22(火) 21:30:23 ID:4sGqLnCi0
- 緩やかな水の流れは支援となって
- 279 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:30:25 ID:NbTsnvf30
- 「は、ハリオンさん!あれって・・・なんですか!?」
「あの銀髪、黒いハイロゥ・・・見たことがあります〜。あれは、帝国遊撃隊最強のスピリット、ウルカですね」
炎の光によって、そのウルカの姿形、なにからなにまで・・・そう、ウルカが抱えているものもはっきりと見えていた。
「あ!あれ・・・もしかして、カオリ様!?」
遠目でもはっきりと見えた、佳織のかぶっている不気味な帽子。
それは間違いなく、ウルカが抱えているものが佳織だということだった。
「助けなくてはいけませんね〜。ヘリオン、頼めますか?私は、ユート様たちに合流しますので〜」
「はい!任せてください!相手が帝国最強だからって・・・退くわけには行きません!」
ヘリオンは思いっきりウィングハイロゥを展開し、地面が抉れるかのように踏み切って、大きく羽ばたいた。
【失望】に手を掛け、猛然と目標に向かって突進するのだった。
「ユート様の大事な人を・・・渡すわけにはいきません!」
「シュン殿の言葉、確かに伝えた。・・・また会いましょう。ユート殿」
「待てええぇぇっ!ウルカァァー!」
ウルカがその漆黒の翼をはためかせ、南へと向いたその瞬間のことだった。
「む・・・!?」
ウルカ自身にも匹敵するスピードで、一つの光の翼が、ウルカへと迫っていった。
その翼の主は、一気にウルカに接近したかと思うと、佳織を抱いたままのウルカと、腰の刀で切りすさぶ。
あれほどのスピードの出せる味方。それは、悠人の知る限り一人しかいなかった。
「・・・・・・ヘリオン!?」
間違いなかった。ハイロゥの光によって映し出されたツインテールの少女の顔。
さっきまで戦うこともままならなかったであろう少女が、佳織を助けるために戦っていた。
- 280 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:32:01 ID:NbTsnvf30
- ガキイィン!キイィン!
神剣のぶつかり合う音が、ハイロゥと炎の光によって染め上げられた闇夜に響き渡る。
佳織を抱えているせいで、ウルカは満足に動くことができない。
それが幸いして、ヘリオンでも互角にわたり会えているのだ。
「やああぁぁぁぁーっ!!」
「クッ・・・!手前の邪魔をするな・・・!」
「ヘリオンさん!やめて、やめてええぇぇ!」
佳織の叫びは、悠人のために戦うヘリオンには届かなかった。
ウルカは右手だけで神剣を巧みに操り、ヘリオンの連撃をしのぐ。
これほどのスピードで戦うことのできる相手を前にしては、ヘタに逃げることもできない。
ウルカには、ヘリオンを倒すこと以外に選択肢は無かった。
「隙あり・・・そこですっ!」
「・・・!かかったな!」
ガッキイイイン・・・
二人の神剣がぶつかった瞬間、ヘリオンの動きが止まる。
神剣の攻撃を受け流すと同時に突き出した右膝が、ヘリオンの腹部に食い込んでいた。
「あ・・・く、ううぅ・・・」
「終わりだ・・・堕ちろ!!」
ウルカは神剣を振り上げ、ばっさりとヘリオンのハイロゥを切り裂く。
「え、あ・・・きゃああああぁぁぁー・・・」
無数の光の羽が飛び散り、飛ぶ力を失ったヘリオンは、ぐらり、と傾いて闇の森の中へと落ちていった。
「く・・・またあのような猛者に出会うとは・・・」
「ヘ、ヘリオンさん・・・そんな・・・」
「あの者はヘリオン殿と申すのか・・・その名、覚えておこう」
そう言うと、ウルカは神剣を鞘に収め、南へと飛び去っていった。
- 281 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:33:16 ID:NbTsnvf30
- 「ヘリオン!」
ヘリオンが落下してくるであろう地点に向かって、悠人は全力で走る。
あれほどの高さから落ちては、いかに神剣を持ったスピリットであろうとも無事ではすまない。
「うおおおおぉぉぉおっ!!」
悠人はオーラフォトンを全力で展開し、一気に地面を蹴り、まもなく着地するヘリオンに向かって飛び込む。
どさっ
────間一髪。滑り込んだ拍子に伸ばした両腕でヘリオンを受け止めることができた。
「い、いてててて・・・ヘリオン、大丈夫か?」
「あ、ゆ、ユート様ぁ・・・」
どうやら無事らしい。腹部の打撲とウルカに斬られて粉々に砕け散ったハイロゥ以外に傷は見当たらなかった。
「なんであんな無茶したんだよ!相手は帝国最強のスピリットだぞ?」
「だって、だって・・・カオリ様が・・・」
「佳織のことは俺だって悔しいけど・・・さらったって事は、危害を加えるつもりは無いってことだ。いつか助けだせる」
「そんな・・・ユート様にとって、カオリ様は大事な人じゃないですか・・・そんなのでいいんですか?」
「ヘリオン・・・それはちょっと違うよ」
「え?」
どういうわけなのだろうか、悠人の大事な人、佳織が帝国にさらわれたって言うのに、
どうしてこうも悠人は冷静なんだろうか、ヘリオンにはわからなかった。
「確かに・・・俺にとって佳織は大事な人だ。でも、俺の大事な人っていうのは、佳織だけじゃないんだ。
アセリアや、エスペリア・・・スピリット隊のみんな。レスティーナ王女。俺を支えてくれるみんなが・・・俺の大事な人なんだ」
「そ、それって・・・私もですか?」
「うん。だからさ、俺は佳織のことも心配だけど・・・みんなのことも心配なんだ。
さっきのヘリオンみたいに、無茶してさ、勝手に死んじゃったりして、俺のそばからいなくならないでほしいんだ」
「そ、そんなことも知らないで、私・・・ゆ、ユート様、ご、ごめんなさいっ!」
「いや、ありがとうヘリオン。佳織のために戦ってくれてさ。でも、もうあんな無茶はしないでくれよ」
「は、はいっ!」
そう言って悠人はヘリオンの頭をくしゃくしゃと撫でる。
その手の温もりは、あの時とは別の、ヘリオンの生還を喜んでくれてる、そんな暖かさだった。
- 282 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:34:24 ID:NbTsnvf30
- 「立てるか?」
「えっと・・・はうぅっ!い、いたたた〜、む、無理です〜」
ヘリオンは立ち上がろうとするが、その瞬間、びきっ と言う具合に顔が強張り、痛そうに腰をさする。
どうやら、着地のショックで腰を痛めたらしい。
「・・・・・・しょうがないな。そのまま楽にしてろよ」
「は、はい・・・」
「よっと」
「!!」
体全体が、ふわりと浮いた。
太腿の裏側と、背中の辺りにある暖かいものの感触。そして、目の前には悠人の顔。
ぶらさがる黒髪のツインテール・・・いわゆるお姫様抱っこの状態になっていた。
「あ、ああ、あああの、ゆ、ゆゆ、ユート様、こ、こっこれはぁ〜」
「・・・しょうがないだろ。ヘリオンが動けないって言うんだから・・・」
「そ、そ、そそれはそうですけど・・・は、恥ずかしいですっ!」
ヘリオンは今にも燃え上がりそうなくらい顔を真っ赤にして、心なしか頭から湯気が上がっているようだ。
佳織の言っていたこともまんざら冗談ではないかもしれない。
「大丈夫、ヘリオンを抱くのは初めてじゃないし」
「はうっ!は、初めてじゃないって・・・い、いいいつの間に〜!!?」
「ヘリオンが初陣で、心を失いかけたときだな。あの時もこうやって、運んでやったんだぞ」
「そ、そんなぁ・・・はうう、初めての抱っこが無意識のときなんて・・・酷いですぅ」
「確かに・・・でも今回は、ヘリオンの意識があるだけ、みんなに説明するのが難しいかもな・・・
ヘリオン、みんなの前では、気絶したふりをしたほうがいいかもしれないぞ」
「そ、そうですね〜。でも、みんなのところにつくまでは、起きてますから♪」
「ははは、そうしてくれ」
悠人とヘリオンは、そんなことを話しながら森の中を進む。
みんなのところにつくまでの時間は、ヘリオンにとって今まで味わったことの無い種類の幸せな時間なのだった。
10分後、みんなと合流した悠人とヘリオン。
何があったのかをみんなに説明しているときに、ヘリオンの気絶のふりがばれたからさあ大変。
エスペリアに要らぬ嫌疑をかけられた悠人が解放されるのにはかなりの時間を要したという・・・
- 283 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/22(火) 21:34:25 ID:4sGqLnCi0
- 静寂の大地の立つも支援はやめず
- 284 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:35:25 ID:NbTsnvf30
-
──────それから、どれくらい経っただろう。
亡き父の後をついでラキオスを統べるべき椅子に座ったレスティーナ。
帝国に攻め込むためにマロリガンに同盟交渉を持ちかけるも失敗、さらにマロリガンとの戦争になる。
マロリガンは今までの弱小国とは相手が違う。広大な土地と、稲妻部隊という精鋭を率いる強敵。
本格的な戦闘状態に入るまでは、スピリット隊のメンバーたちは訓練と休息の日々。
その隊長である悠人は、これからの戦略の要になるという人物を迎えにラキオスを離れているという。
──────悠人がラキオスを離れてから、3日目。
ヘリオンは僅かな休息の時間の中で、自分の部屋の窓から、黄金色に染まる景色を眺めていた。
その光は、ブラックスピリット特有の黒髪ですら照らし、僅かに茶色をかける。
暖かい光と、ツインテールを揺らす少し冷たい北風が相まって、えもいえぬ心地よさを生み出していた。
「はぁ・・・・・・ユート様・・・」
ぼんやりと考えていたのは、エスペリアや来客のスピリットとともに遠出している悠人のこと。
あの日以来、ヘリオンが悠人のことを考えない日は無い。
悠人が自分とは離れたところ、別の場所にいると考えただけで、どうしてか不安になる。
エスペリアや、ここまで一人でやってきたスピリットがついているんだから大丈夫だって解っているのに。
なによりもヘリオンは悠人のことを人一倍信頼しているのに、不安が途切れることは無かった。
- 285 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:36:20 ID:NbTsnvf30
- こんこん。
部屋のドアが叩かれる音がする。
「ヘリオン〜?いますか〜?」
どうやらハリオンが来たらしい。ヘリオンは無言のままドアを開け、ハリオンを招き入れる。
ハリオンの手には、二組のティーカップと、お茶が入っているであろうポット、それをお盆の上に載せていた。
「ハリオンさん・・・どうしたんですか?」
「ヘリオン、最近元気が無いみたいなので〜、お茶でも一緒に飲もうかと思ったんです〜」
「そうですか・・・じゃあ、いただきます」
ハリオンのティータイム。それは半強制的なもので、断りきれたものは今まで一人もいない。
・・・だが、今のヘリオンは、そのティータイムを受け入れたいと思っていた。お茶を飲んで、気分を紛らわしたかった。
ハリオンはお盆を床に置くと、てきぱきとカップにお茶を注いでいく。
ヘリオンはそのカップを受け取ると、そのお茶を啜りながら、紫紺の瞳を再び黄金色の景色に向けた。
「ヘリオン・・・どうしたんですか〜?ぼーっとしちゃって・・・」
ベッドに腰掛けてお茶を飲むハリオンが心配そうに声をかける。
「私・・・最近変なんです」
「変・・・ですか〜?」
「はい・・・変って言うより、よくわからないんです。ユート様のことを考えると、よくわからなくなるんです。
なんだか、胸がどきどきして、体がむずむずして、不安になっちゃって・・・この気持ち、よくわからないんです」
ヘリオンが悠人に対して親近感を持っているのは前々からだったが、
この気持ちはそれとは違う、何かもっと別のものであるような気がするのだった。
「・・・・・・ヘリオンも、そうだったんですか〜」
「って・・・ハリオンさんも?私みたいに、どきどきして、むずむずするんですか?」
「はい〜。というよりも・・・私、ユート様のことを考えると、落ち着かないんです〜」
「なんなんでしょう・・・なんだか、とっても大事なことのような気がするんです・・・」
ぼーっとしているように見えて、真剣な面持ちのヘリオン。
結局、二人の間でその変な気持ちの正体がつかめることは無かったけど、
大事なことのような気がする。そのヘリオンの言葉は、後に的を射ることになるのだった・・・・・。
- 286 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:37:10 ID:NbTsnvf30
- ──────数日後、賢者ことヨーティア・リカリオンを連れて悠人たちが帰還したことにより、
ラキオス城内の士気が高まった。・・・いよいよ、マロリガンとの戦争が始まる。
悠人にとってまさに試練ともいえる、永遠戦争の歴史の一ページに残るような戦いが・・・
マロリガンとの戦いに備え、悠人たちスピリット隊は、前線拠点ランサに全員集合していた。
マロリガン領への唯一つのルート、ヘリヤの道を越えるために、作戦会議をするためだ。
何せ敵国の領地はマナ消失の激しい砂漠地帯。何の備えも無しに入ればあっというまに全滅する。
しっかりとしたチーム編成と、補給線の維持が何よりも重要なことだった。
「第一部隊は俺と、アセリア、ナナルゥ。第二部隊はヘリオン、ハリオン、セリア。
第三部隊はエスペリア、オルファ、ファーレーン。第四部隊はネリー、ニム、ヒミカ・・・こんなもんか?」
「そうですね・・・その編成ならバランスが良いと思います。では、次はどう攻めるかですが・・・」
「・・・・・・一気に行く」
「え?」
「第一部隊から第三部隊までで一気に侵攻をかける。長期戦は不利だし。第四部隊は万が一に備えてランサで待機だ」
「なるほど・・・だからこの編成なのですね」
エスペリアはざっと編成表を見る。攻撃力とスピードの高い、前線速攻向きのメンバーだった。
ヘリオンとファーレーンで敵を撹乱し、悠人、アセリア、セリアで敵を切り倒し、ナナルゥとオルファが魔法で攻撃、
エスペリアとハリオンは後方から神剣魔法で支援。それぞれの役割のバランスもよかった。
「じゃあエスペリア、この編成だって事をみんなに伝えてきて」
「はい」
そう言ってエスペリアは宿屋の一室から出て行った。
しかし、悠人は嫌な予感がしていた。何か、薄く纏わりつくような、拭いきれない嫌な予感が・・・
『契約者よ。おそらく今回の戦い、一筋縄では行かぬぞ』
「ああ、わかってる。よくわからないけど、とんでもない予感がするんだ」
・・・・・・そして、近いうちにその予感が的中するのだった。
- 287 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/22(火) 21:38:01 ID:4sGqLnCi0
- 虚ろなる空に昇りて支援
- 288 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:38:22 ID:NbTsnvf30
- ──────翌日、悠人の戦略どおりに第一部隊から第三部隊までで陣形を組み、ヘリヤの道を進む。
敵部隊との戦闘に関してはほぼ思惑通りで、とんとん拍子に有利に進められたが、
なによりも、砂漠という厳しい環境が悠人をはじめ、スピリットたちを疲弊させていた。
「あ゙、暑い〜」
汗がダラダラと流れ、水分が飛んでいく。シャツとズボンがあっというまに汗で濡れ、【求め】を持つ手は汗ばんでいた。
「大丈夫ですか、ユート様」
至って無表情、汗すらかいていないナナルゥが声をかけてくる。
「・・・・・・な、なんでそんなに平気でいられるんだ?ナナルゥ・・・」
「レッドスピリットは、暑さには強いものです。これはヨーティア様の研究結果でも事実が確認され・・・」
「わ、わかった。俺が悪かったから、疲れてるときに説明口調は止めて・・・」
「ユート・・・涼しくしてあげられないのが残念だ」
と、アセリア。おそらくアイスバニッシャーがエトランジェに効かないことを言ってるのだろう。
さらりと怖いことを言われたが、悠人はこの環境なら凍りついてもいい。そう思っていた。
「ううぅぅ〜、あ、暑いです〜」
「本当ですね〜、干からびちゃいますよぅ〜」
思った以上の苛酷な環境に文句を言うヘリオンにハリオン。
じりじりと降り注ぐ強烈な光は、ハイロゥの膜を張っているとはいえ、どんどんマナを消費させる。
「うるさいわね・・・文句を言ってる暇があったらさっさと歩いて」
ブルースピリットにとって最も相性の悪い環境でイライラしているセリア。
ヘタに逆鱗に触れれば、本気でアイスバニッシャーをかけてくる。セリアのそれは人一倍強力だから怖い。
「(でもまあ、私が凍らせられることはありませんけどね)」
ブラックスピリットにもアイスバニッシャーは効かない。だからヘリオンが何を言ってもセリアが怒ることはなかった。
「まあ、スレギトまでの辛抱ですから、我慢してくださいね〜。セリア」
「わかってるわよ・・・」
それに、ハリオンが抑止力になる。ある意味で最も平和な部隊なのだった。
- 289 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:39:14 ID:NbTsnvf30
- 「ふう、これほどまでに暑いとは思いませんでした・・・」
しんどい行軍にため息をつくエスペリア。この部隊で最も暑さに弱かった。
「エスペリアお姉ちゃん、大丈夫?」
横からオルファが心配そうにエスペリアの顔を覗き込む。
レッドスピリットが暑さに強いという公式が成立しているせいか、オルファはぴんぴんしていた。
「この仮面を被ってきて正解でした。いい日除けになります・・・ふふふ」
役得、役得といった顔をするファーレーン。白地を基本とした仮面は光を跳ね返し、必要以上に熱を持たない。
「ファーレーン・・・その仮面、予備はありますか?」
「すいません・・・予備はランサに置いてきてしまいました・・・ふふふ」
それにあやかりたいといった表情のエスペリアだったが、それが叶うことは無いのだった。
キイイイィィィン・・・!!
全員がその警鐘に感づいた。なにか、強力な神剣の気配が猛スピードでこちらに向かってくる。
悠人には、その気配には覚えがあった。忘れたくても忘れられない、そんな黒い気配。
そして、悠人たちの前にその気配の主が、部下であろうスピリットと共に舞い降りた。
「ウルカァーーッ!」
「・・・・・・再びまみえることになるのも、また縁。いや、三度でしたかな?ユート殿・・・」
帝国遊撃隊最強の名を欲しい侭にする、漆黒の翼ウルカ。
冗談をほのめかす口とは別に、強烈な闘気を放つ赤い瞳は、悠人を捉えていた。
「佳織はどこだっ!」
「・・・・・・わが国へ」
「ふざけるなっ!」
その冷静な口調にペースを崩される悠人。手にもつ【求め】が、誓いの眷属を殺せといわんばかりに光る。
- 290 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:40:31 ID:NbTsnvf30
- 悠人が【求め】を構えると、ウルカはその視線を別の、ツインテールの少女へと向けた。
「手前はまだユート殿と戦うつもりは無い。・・・ヘリオン殿、手前と戦ってもらおう」
「・・・へ?わ、私ですか!!?」
まさか自分が指名されるとは思ってもいなかったのだろう。驚きで表情が固まる。
「ふざけるな・・・ウルカ、おまえは明らかに実力差がある相手に対してその剣を振るうのか?」
ウルカは視線をヘリオンから逸らし、少し考えたように目を瞑ると、すぐに言葉を返してきた。
「・・・あの時のヘリオン殿との戦いの中に、手前は何かが見えたような気がした故。
もう一度、今度こそははっきりとそれを見たく、手前はヘリオン殿と戦いたい・・・
それに、いくらなんでも殺すつもりはありませぬ。ユート殿とは、その後で死合をもって決着をつけるとしよう」
そこまで言われたら、逃げるわけには行かない。ヘリオンの瞳が覚悟で固まった。
「わかりました・・・私、ヘリオンがお相手しますっ!」
「感謝いたす・・・ヘリオン殿」
「ヘリオン・・・気をつけろよ・・・」
両者が同時にハイロゥを展開する。一瞬でその場にはぴりぴりした空気が張り詰める。
普通に考えても、神剣の力具合からいってもウルカの方が桁違いに強い。
特に、今回はウルカのほうにはハンディキャップが無い。苦戦が善戦になるのは目に見えていた。
「・・・行きますっ!!」
「ハアッ!」
踏み込みの勢いで砂埃が舞い、二つの影が衝突する。
神剣が幾度もぶつかり合い、火花が飛び散り、その都度、剣圧がこちらにも飛んでくる。
悠人たちは神剣の力を使い、その戦いをただ眺めていた。
戦いが始まって間もなく、ヘリオンのほうに疲れが見えていることを全員が認識できるほどに。
- 291 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/22(火) 21:41:56 ID:4sGqLnCi0
- ネタ尽きた支援
- 292 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:42:09 ID:NbTsnvf30
- ガッキイイィィン・・・
やがて二つの影が形を作り、それぞれの神剣がぎちぎちとこすれあって光を放つ。
鍔迫り合いに持ち込まれては、もはやヘリオンに勝機は無かった。
「はあぁ、う、うううぅぅ・・・」
「一つ、ヘリオン殿に聞いておきたいことがある・・・」
「・・・・・・え?」
息すら切らす様子も無い、余裕綽々のウルカが鍔迫り合いしながら問いかけてくる。
「・・・ヘリオン殿は、何故戦っているのですか?」
「どういう・・・ことですか?」
「ヘリオン殿の強さはユート殿と同じ、何かの目的があって生み出せる力。今一度聞こう。何故戦っているのですか?」
どうしてこんなことを聞いてくるのか。だが、ヘリオンにも、ウルカがただの戦鬼には見えなかった。
何かを求めて彷徨っている、そんな風に見えた。・・・ヘリオンは苦しそうに口を開く。
「・・・私、大事な人を守るために、戦っているんです」
「・・・・・・大事な、人?」
「はい・・・大事な、かけがえの無い人・・・ユート様も同じ、大事な人を守って、助けるために・・・戦っているんです!」
「ユート殿も・・・カオリ殿がそうだというのか・・・」
大事な人を守る。戦う理由を求めていたウルカにとって、それがどんなに立派で、羨ましく思えたか。
佳織と同じく、ヘリオンにも底知れぬ心の強さがある。ウルカはそれを感じ取っていた。
───── 一瞬、ウルカの剣に篭る力が抜けた。
「・・・! 隙ありです!」
「くっ!!」
ザシュッ・・・
ヘリオンの剣は一方的な勢いで迫っていた【拘束】を押し返し、その勢いでウルカの胸から肩口にかけてを切り裂く。
砂埃の中に血が飛び散る。うかつな油断が致命傷となったウルカは、その場にしゃがみこんだ。
「く・・・お見事・・・ヘリオン殿、ありがとうございます」
「ウルカさん・・・・・・」
「ユート殿・・・こちらへきてくださいませぬか?」
ウルカは自分の元へと悠人を誘う。ワナであるかどうか詮索することなく、悠人はウルカに近づいた。
「ユート殿・・・これを」
- 293 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:43:19 ID:NbTsnvf30
- ウルカは背中のポシェットから何か小さなものを取り出し、悠人に手渡す。
「こ、これは・・・佳織の!?どうして、ウルカが・・・」
「カオリ殿に、次にユート殿に会うことがあればと、言伝と共に頼まれたものです。
『自分は負けないから、ユート殿も負けるな』・・・カオリ殿はそうおっしゃられていました」
「・・・そうか、ありがとう、ウルカ」
「では、手前はこれで・・・」
ウルカは傷口を押さえ、ハイロゥを広げる。その場を飛び立とうとしたとき・・・
「あ、あの、ウルカさん!」
「・・・・・・何でしょう、ヘリオン殿」
ヘリオンも聞きたかった、ウルカの戦う理由。でも、どうしてか聞けなかった。
ウルカはまだ、その問いに答えられないような気がしたから。答えてくれない気がしたから。
「・・・いえ、なんでもありません!」
「フ・・・また会いましょう」
そう言うと、ウルカは部下たちと共に悠人とヘリオンの前から飛び去っていった。
「う・・・!はぁ、はぁ・・・あ・・・」
ウルカが飛び去って、安心したかと思うと、ヘリオンはがくり、と膝をつく。
さっきの戦いのダメージは見かけ以上に大きいようだ。
「ヘリオン!大丈夫か!?」
「はうぅ・・・ユート様、ちょっと、疲れちゃいました・・・」
「相手はあのウルカだったんだ。無理も無いさ・・・ランサに戻って休んだほうがいい」
「で、でも・・・!」
「でも、じゃない。無茶するなって言っただろ?」
「は、はいぃ・・・」
「よし、決まりだな。おーいセリア、ヘリオンをランサまで連れて行ってくれ。侵攻は残りのメンバーで行う」
「わかったわ・・・(助かった。正直、私もしんどかったものね・・・)」
セリアはウィングハイロゥを展開し、左脇にヘリオンの胴を抱え、その場から飛び立つ。
「はうぅっ!い、痛いですっ!もうちょっと優しく持ってください〜」
「つべこべ言わないのっ!叩き落されたいの?」
「うぅ・・・」
セリアたちがランサのほうに飛んでいったのを確認すると、悠人たちはヘリヤの道をさらにすすんでいった。
- 294 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:44:37 ID:NbTsnvf30
-
──────2時間後。セリアとヘリオンはランサの宿屋で寝かされていた。
ヘリオンはもとより、セリアは過酷な砂漠の環境に当てられて、ランサに着いた途端ぶったおれてしまったのだ。
「せ、セリアさん・・・大丈夫ですか〜?」
「ヘリオン・・・は、話しかけないで・・・うう、頭が痛い・・・」
セリアは頭を抱えてごろん、と寝返りを打ちヘリオンから視線を逸らす。
症状としては、体内のマナの減少による病気、一種の脱水症状のようなものだったが、
頭が痛いと言って転げまわるその様子は、二日酔いのそれにも良く似ていた。
「セリアが暑さに弱いなんて、知らなかったわ」
と、セリアを茶化すヒミカ。セリアはすっかりグロッキーだった。反論する気も起こらないらしい。
「まあ、ゆっくり休みなさいな。どうせ、また砂漠に行くんだからね」
「うう〜、自分にアイスバニッシャーしたい気分だわ・・・」
バッターン!
病室と化した宿屋の一室の扉が勢いよく開く。
そこには、やけに慌てた顔のネリー、シアー、それからニムントールがいた。
「ちょっと三人とも、病人がいるんだから、静かに入ってきて」
「そ、そそそ、それどころじゃないのっ!ヒミカお姉ちゃん!外見て、外!」
「え・・・?」
ネリーに促され、ヒミカと、無理矢理上半身を起こしたヘリオンが窓から外を見る。
すると、そこには信じられないような光景が広がっていた。
「なに・・・あれ」
遥かかなたの空に広がる虹色のカーテン。いわゆるオーロラのようなものが展開されている。
砂漠に発生するものとは思えない光景だった。
「わぁ〜、きれいですね〜」
「うん、そうだよね、ヘリオン」
「きらきらして、素敵〜」
やたらと呑気なネリー、シアーにヘリオン。それに対して、ニムントールとヒミカは嫌な予感がしていた。
- 295 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/22(火) 21:45:39 ID:4sGqLnCi0
- sienn
- 296 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:46:16 ID:NbTsnvf30
- 「ねえ・・・・・・あっちのほうってさ、ユートたちが行った方向だよね」
「なにかあったのかしら・・・」
「・・・へ?」
もし、あのオーロラがただの自然現象ではないとしたら、もしあれが何かの兵器だったとしたら・・・
ニムントールの背筋が凍りつく。なぜなら、悠人の元にはファーレーンもいるから。
「お、お姉ちゃん!!」
「だめよ、ニムントール!何があるかわからないわ!」
「くっ・・・!!」
部屋から飛び出しそうになったニムントールをヒミカは制止する。
本気でファーレーンのことを心配しているその緑色の瞳には、僅かだが涙が浮かんでいた。
「・・・今は、ユート様たちの帰りを待つのよ・・・ヘタに動いてはいけないわ」
「そ、そんな・・・お姉ちゃん・・・」
「(ハリオンさん・・・ユート様・・・どうか無事でいてください)」
オーロラの元にいるかもれない大事な人の無事を願うヘリオンとニムントール。
ネリーとシアーは何がなんだかわからずに、泣きじゃくるニムントールをただ傍観していた。
・・・ちなみに、セリアの意識がさっきから飛んでいることには、ヒミカが気づくまで誰もわからなかったという・・・
──────それからしばらくして、スレギト制圧に向かったメンバーがぼろぼろになって帰還した。
砂漠の真ん中に突如として現れたオーロラ。あれは強力無比のマナの嵐だという。
危険を察知した悠人によってすぐに部隊は撤退し、事なきを得たが、被害は少なくは無かった。
・・・・・・だれも死ぬことが無かったことが唯一の救いなのだろう。
ニムントールはファーレーンの胸に飛び込んで大泣きし、ヘリオンはハリオンと悠人の生還を喜んだ。
・・・大事な人が、かけがえの無い家族が死ななくて良かった。二人の心はただそれだけに染まった。
- 297 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:47:26 ID:NbTsnvf30
- あのようなものがあっては、これ以上マロリガンに戦いを挑むわけには行かない。
最低限の防衛部隊をランサに残し、悠人たちはラキオスに帰還していた。
ヨーティアが言うには、あのオーロラは『マナ障壁』といい、半永久稼動できる超広域防衛兵器だという。
そのマナ障壁を打ち破るため、ヨーティアが様々な対策を練っているというので、
それまでの間、ランサの防衛と訓練と休息の日々を送ることになるのだった。
その過程で、負傷したウルカを保護するなど、色々なことが起こっていた。
──────第二詰所にて、今日はヘリオンとハリオンも帰還しており、僅かな時間の休息をとっていた。
・・・だが、その場には、ヘリオンにとってはあまり嬉しくない会話が飛び交っていた。
「・・・・・・それ、本当ですか?敵の部隊の中に、ユート様の幼馴染がいるって・・・」
「それが、本当なんですよぅ〜、私もはっきりとこの目で見て、この耳で話を聞いてきましたから〜」
そう、話の内容はマロリガンの誇る精鋭、稲妻部隊に悠人の幼馴染にしてエトランジェ、今日子と光陰がいるということ。
元の世界にいる間、ずっと一緒に生きてきた親友たちと戦わなければならない、殺しあわなければいけない。
そんな現実を前にして悠人がすっかり塞ぎこんでしまっているというのだ。
悠人と一緒にその二人のエトランジェに遭遇したハリオンは事細かに見聞きしたことをヘリオンに伝える。
「そんなの・・・そんなのって、酷すぎます!」
「はい〜・・・私たちに何かできればいいんですけど、そのうちの片方、
キョウコ様は、もう既に意識が完全に神剣に飲み込まれているそうなんです〜・・・」
「そんな・・・もう、手遅れなんですか・・・?ユート様は、大事な人を殺さなきゃいけないんですか・・・?」
「それは・・・ユート様次第だと思います〜。私たちには、何もできません〜」
「・・・私、ユート様に会ってきます!」
ヘリオンはがたり、と勢いよく席を立ち、玄関に向かって走っていった。
「ヘリオン・・・」
あの二人に会ったときに悠人を励ますも元気付けられなかったハリオンは、それをただ見ているしかできなかった。
悠人の問題は悠人が解決するしかない。それがハリオンには解っていたから。
- 298 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:49:03 ID:NbTsnvf30
- 「今日子・・・光陰・・・なんでだよ。なんで戦わなきゃいけないんだよ・・・」
悠人は自分の部屋で、ベッドに腰掛けて窓の外に向かって愚痴をこぼしていた。
時折、【空虚】と【因果】を砕けと、【求め】の執拗な干渉音が頭の中に強く響く。
悠人にとって【空虚】や【因果】なんてどうでも良かった。ただ今日子と光陰を助けたいだけ。
だが、それらの神剣は既に二人を持ち主として選んでおり、神剣を砕くことは、十中八九死につながる。
特に、今日子は神剣に飲み込まれている。【空虚】の死は、今日子の死だった。
ベッドの傍に立てかけてある【求め】を見る。
「こんなもんで・・・こんなもんで、殺しあえって言うのかよ・・・そんなこと、できるわけないだろ・・・」
ただ、我儘だった。生き残りたい、助けたい。でも、それは不可能に近い。
どんなに頼れる仲間がいても、どんなに戦いに慣れて強くなっても、できることとできないことがある。
悠人はその事実の前に押しつぶされそうだった。
こんこん。
部屋のドアが遠慮しがちに叩かれる。
「ユート様・・・入っていいですか?」
「・・・ヘリオンか?・・・・・・いいよ」
悠人が許可を出すと、失礼します、という具合にヘリオンが入ってきた。
「・・・・・・どうしたんだ、ヘリオン」
「ゆ、ユート様が元気が無いって聞いたので・・・その、励ましに来たんです」
ヘリオンがそうして尋ねてきたということは、スピリット隊のメンバーに悠人の苛つきがばれているということ。
悠人は、みんなに迷惑をかけてしまったと、罪悪感が積もる。・・・だが、尋ねてくれたのは、嬉しいことだった。
「そうか・・・ありがとう、ヘリオン」
「あの、その・・・辛いかもしれませんけど、負けないでください!」
ヘリオンの言葉で、悠人はふと、ウルカからの佳織の伝言を思い出す。
『自分は負けないから、ユート殿も負けるな』
その言葉は、こんな時に思い出すものなのかもしれない。
辛い事実に押しつぶされて、戦場で散るようなことになれば、それこそ佳織やみんなを悲しませることになる。
そんなの嫌だった。その言葉を思い出させたヘリオンの言葉は、悠人にとって重いものになっていた。
「ヘリオン・・・こっちに来ないか?立ったままじゃ辛いだろ、ベッドにでも腰掛けてくれ」
「へ?・・・あ、は、はいっ!」
- 299 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/22(火) 21:49:46 ID:4sGqLnCi0
- やっぱここは支援ね
- 300 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:50:09 ID:NbTsnvf30
- 悠人に促され、ヘリオンはベッドの上、悠人の隣にちょこんと座る。
「あのさ・・・もし、ヘリオンだったら、こんなときどうする?幼馴染と殺しあわなきゃいけない、そんな時・・・」
「わ、私、ですか?・・・・・・私だったら、その幼馴染を助けます!」
「もし、どうやっても助けられないってわかっていたら?」
「そ、それでも助けます!だって、幼馴染を、大事な人を見捨てるなんて、私にはできません!」
「!!」
悠人は、もうだめだってわかると、諦めかけていた。でも、ヘリオンは違っていた。
どんなに絶望的な状況でも希望に向かっている、そんな芯の強さをその言葉から悠人は感じ取っていた。
「そっか・・・強いんだな、ヘリオンって」
「そ、そんなことないです・・・私、単純なだけです」
ヘリオンは顔を真っ赤にして否定しようとする。それは隠しきれるものじゃないって気づかずに。
「そうだよな・・・まだ駄目だって決まったわけじゃないんだよな・・・諦めたらそこで終わりなんだよな」
そう言って悠人は天を仰ぐ。何か、詰まったものが取れたようなすっきりした表情で。
「なあ、ヘリオン」
「は、はい!何でしょう」
「俺と一緒に、戦ってくれ。今日子と、光陰を助け出すために・・・ヘリオンの力を貸してくれ」
「ゆ、ユート様・・・・・・は、はい!喜んで!」
絶望感に打ちひしがれていた悠人の心に再び光を取り戻させてくれたヘリオン。
悠人は、ヘリオンと一緒なら、希望に満ちたこの少女と一緒なら、絶望を覆せるんじゃないかと思っていた。
今日子や光陰を助け出せるような気がしてきた。
なんとかなるって、なんとかしてみせるって信じる心、その心が、今の悠人にはあった。
- 301 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:51:23 ID:NbTsnvf30
- ─────それから、夕日が景色を染めるまで、悠人とヘリオンは一緒にいた。
あの日と同じ、黄金色の光が部屋の中を照らし、暖かさとともにどことなく寂しさもそこにあった。
「(な、なんだ・・・?この感じ・・・)」
黄昏の光の中で、悠人はふと横を見る。
そこには、さっき自分に希望を与えてくれた少女が、黒髪のツインテールをゆらゆらと揺らして、笑顔で腰掛けている。
「(な、なんか・・・綺麗だ)」
「あ、あの、どうしたんですか、ユート様?な、なんかぼーっとしちゃって・・・」
「え、あ、いや・・・なんでもない・・・」
なんでもないわけなかった。どうしてこうどぎまぎするのか、悠人は状況を整理してみる。
「(えっと、俺が落ち込んでたから、ヘリオンが励ましに来てくれて・・・それで、元気付けられて・・・今に至る)」
・・・どう考えてもそれが直接の原因とは思えなかった。もっと別の要素を考えてみる・・・
「(俺は、休息のためにランサから戻ってきて・・・で、一緒にヘリオンとハリオンも戻ってきて・・・他には誰も・・・ッ!!)」
悠人のなかでとんでもない考えがまとまった。
「(俺とヘリオンがここにいて、ハリオンは多分第二詰所にいるから・・・!!)」
そう、今はこの部屋、いやこの館、もとい一つ屋根の下には悠人とヘリオンだけ。・・・二人っきりだった。
こんな感覚、感じたことは無かった。
初めてファンタズマゴリアに来たとき、館には自分とエスペリアしかいなかったが、こんな感覚を覚えたことはない。
「(も・・・もしかして、俺、惚れちゃった・・・??ヘリオンに・・・??)」
頭が爆発しそうだった。
いつだったか佳織が言っていた。ヘリオンは悠人のこと大好きなんじゃないかって。
思えば今までも自分はヘリオンに何度も助けられてきた。ヘリオンを何度も助けてきた。
その過程を経て、悠人までヘリオンのことを好きになっていたら、恐るべき、相思相愛という公式が成り立つ。
「(い、いやいやいいや!んなわけない!それにいくら好きだからって、年が離れすぎて◎♂♪£∈♀〜!)」
考えれば考えるほど混乱を極める悠人の思考。
「あ・・・そうです」
混沌の淵に沈んだ悠人の思考を掘り起こすかのごとく、ヘリオンが何かを悠人に提案してくる。
- 302 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:53:00 ID:NbTsnvf30
- 「あの・・・ゆ、ユート様・・・」
「な、なななんだ?ヘリオン?」
とんでもないことを考えたせいでぎこちない口調になる。これじゃいつもの逆だ。
「えっと、その・・・マロリガンとの戦いが終わったら、ゆ、ユート様に一緒に来て欲しいところがあるんです・・・」
「え・・・、どこ?それ・・・」
「い、今はまだいえませんけど・・・あの、駄目ですか?」
否定する理由も、肯定する理由も無かった。デートだとか、そんなことを考えなければ平常心でいられるだろう。
「あ、ああ・・・いいよ」
悠人は二つ返事で ぐっ と親指を立ててOKサインを出す。
「〜〜〜〜〜!!!」
その途端、ヘリオンの顔が一気に紅潮する。
なんだか物凄く恥ずかしいものを見たような、物凄く嬉しいものを見たような、複雑な表情になっていた。
「あ、あああ、ああのあのあああのゆ、ゆゆゆ、ユート様ぁ・・・そ、それ、それれれそれは・・・」
悠人はそんなヘリオンと、サインを出した右手を見る。
「(なんだか前にもこんなことがあったような・・・・・・ああ゙ッ!)」
悠人は、ファンタズマゴリアに来て間もない、まだ聖ヨト語も喋れなかったとき、
窓の外のエスペリアにうっかり同じようなことをして激しく赤面させたことを思い出していた。
「(そういえば、このサインってどういう意味なんだろ・・・)」
隣のヘリオンはその意味を知っているようだが、この異様な慌てぶりから、聞いてはいけないような気がする。
だが、悠人にそれを知りたいという思考があることもまた真実なのだった。
「なあ、ヘリオ・・・」
「う、う〜ん」
気がつくと、ヘリオンはうんうん唸って半端なバンザイのような格好でベッドに倒れこんでいた。
なんだかよくわからないが、状況から察するに気絶してしまったらしい。
「お、おい!ヘリオン!大丈夫か!?」
悠人は両腕をベッドに突いて、ヘリオンの顔の真上から呼びかける。
・・・が、当然、その呼びかけに答える声は無かった。
- 303 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/22(火) 21:54:14 ID:4sGqLnCi0
- ロマンスにワクテカしながら支援
- 304 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:55:56 ID:NbTsnvf30
- こんこん。
部屋のドアが叩かれる。
「ユート様〜?ヘリオン見ませんでしたか〜?」
聞き覚えのあるのんびりした声がドアの向こうからした瞬間、がちゃりとドアが開かれる───
「あ゙・・・・・・」
「あらあら〜?何をなさってるんですか〜?」
・・・ベッドに仰向けで倒れこんだヘリオン、ベッドに両手を立てて、ヘリオンの真上にいる悠人。
誰がどう見ても、誤解という誤解を招く光景だった。
「ユート様〜?ヘリオンを押し倒して、何をなさってるんですか〜?」
「い、いや、これは・・・その」
「ああ〜、なるほど〜、そういうことだったんですね〜」
「何がそういうことだ!違う、ハリオン!これは、そう、誤解だ!」
「ここは二階ですよ〜?それより、ヘリオンを襲うような人は、私が めっ てしちゃいます〜♪」
やっぱりそういう誤解をされていた。・・・それよりも、
今の悠人にあったのは、ヘリオンが何よりも恐れるハリオンのせっかんの矛先が自分に向いたことによる恐怖だった。
「では、ユート様、こちらへ〜♪」
つかつかと接近してきたハリオンに腕をぎゅっと捕まれると、悠人はずるずると引きずられて退室したのだった。
「だから違う!誤解なんだってばぁ〜・・・!」
15分後・・・
ど っ ご 〜 ん
「うわああああぁぁぁあああ〜〜〜!!」
その日、大規模な爆発音と、エトランジェの悲鳴がシンクロし、ラキオス中にそれが轟き渡ったという・・・。
- 305 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:57:05 ID:NbTsnvf30
- 「う、う〜ん・・・・・・あ、あれ?ユート様は・・・?」
りーりー、と虫の鳴くその日の夜、ヘリオンが目を覚ますと、当然そこには悠人の姿は無かった。
激しい興奮の末に気絶したせいで、どうにもこうにも記憶がおぼろげだった。
「ゆ、ユート様があんな・・・い、いえ!そんなことするわけないです!あれはきっと夢です!」
自分の中で必死に事実を否定しようとするヘリオン。
「そうです!あれは夢です!きっとあの時、ユート様の部屋でうっかり寝ちゃって・・・あ、あんなはしたない夢を〜〜!!」
・・・こうして、悠人が謎のサインを出したことが事実だったことを知るのは、悠人だけになったのだった。
次の日、ランサに再び向かおうと集合したとき、悠人がオンボロだったのは言うまでも無いことなのだった。
──────数日後、スピリット隊のメンバーはランサで奇妙なものを見せられていた。
ちょっと見ただけでは何に使うのかさっぱり解らない不恰好な物体。・・・・・・しかもかなりでかい。
「・・・・・・これが、そうなのか??」
「そう!そのとおり!これがあのむかつくマナ障壁を解除できる切り札さ!」
スレギトで出し抜かれたのがよっぽど頭にきたのか、対処法が出来上がるとやたらご機嫌なヨーティア。
どうやらこの機械であのマナ障壁を解除させるつもりらしい。
「・・・大丈夫なのか?その、本当に効くのか、ってあたりで」
「おいボンクラ、それをこれからやってもらうんじゃないか〜、ま、理論上は効く筈だからさ、がんばれよ」
そう言ってヨーティアは悠人の肩をぽんぽんと叩く。
俺は実験台じゃない!!と叫びたかったが、それ以上反論すると何を言われるかわかったもんじゃない。
「わかったよ、これをスレギトで起動すればいいんだな?」
「そうそう。じゃ、私はラキオスに戻って研究の続きをするからね。がんばんな〜」
ヨーティアはさっさとエーテルジャンプの端末へと走っていった。・・・・・・物凄く不安だ。
「ユート殿・・・ここはヨーティア殿を信じるべきでしょうか・・・?」
つい最近メンバーに加わったウルカが心配そうに横から声をかけてくる。
「どうもこうも・・・やるしかないんだよな・・・はぁ・・・」
スピリット隊のメンバーたちは一抹の不安を抱えながら、マロリガン攻略戦を再開するのだった。
- 306 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:58:21 ID:NbTsnvf30
- ──────それから二日後、うまいことマナ障壁を解除することができた悠人たちは、
マロリガンとの最終決戦に向けてスレギトで作戦会議を行っていた。
首都に侵攻するルートは三つ。どこから攻めるかによって戦略も変わってくる。
悠人とエスペリアとヒミカ、それからセリアは、マロリガン周辺の地図を広げて、悩んでいた。
「ミエーユ経由のルートは、恐らく最も防衛線が厚く、苦戦を強いられるでしょう・・・」
「かといって、デオドガン方面も辛いわね・・・」
「じゃあ、時間かかってもいいから北から回り込んで・・・」
とまあ、こんな調子。どのルートにも一長一短があるので、はっきり言って決めかねている。
「ユート様は、どのルートがいいと思いますか?」
と、エスペリア。そんな重要なことを一任されるわけにもいかないが、悠人は参考までに答える。
「そうだな・・・バーンライトやサルドバルトを陥としたときと同じでいいんじゃないかな?」
「ユート様、それは一体?」
あのときのことを忘れたのか、ヒミカは興味津々だ。
「・・・部隊を4つに分けて、1部隊を北のルートへ、残り2部隊でミエーユのルートにそれぞれ侵攻。
残りはスレギトで防衛。敵を正面にひきつけて、その隙に北から攻め込むってのはどうだ?」
「なるほどね・・・まあ、単純な戦法ほど効果があるっていうしね・・・」
以前自分が提案した戦略を焼き直されて頷くセリア。
「それで、ユート様・・・部隊編成はどうしましょう?」
「北の第一部隊は、速さを重視しなきゃいけない。だから、俺を筆頭に、ウルカとヘリオンを連れて行く。
ミエーユ方面の部隊はバランスを重視して、第二部隊はエスペリア、アセリア、オルファ。
第三部隊はヒミカ、ハリオン、ネリー。スレギト防衛の第四部隊はファーレーン、ニム、セリアだ」
「そうですね・・・なるべく被害を抑えるには、そのような組み合わせが有効でしょう」
「ユート様、最近妙に冴えてるのね。即行で組み合わせをいえるなんて、そうはできないわ」
「では、それで行きましょう。私たちに、マナの導きがあるよう・・・」
- 307 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 21:59:21 ID:NbTsnvf30
- ──────いよいよ、侵攻開始。
作戦通りに、悠人はウルカとヘリオンを連れて、マロリガン北の荒野を走っていた。
「急げ!ヨーティアの情報どおりだと、クェド・ギンはエーテル変換施設を暴走させようとしている!」
「はい、急ぎましょう、ユート殿」
「あ・・・!ユート様っ!また敵ですっ!」
「くそっ!邪魔をするなぁーっ!」
敵は三人、ブラック、ブルー、レッドが一人づつ。攻撃力重視の部隊だ。
「雷炎よ、彼の者達を焼きつく・・・」
「そうは、させぬっ!・・・・・・星火燎原の太刀ッ!!」
敵のレッドスピリットが詠唱を終える前に、ウルカは神速の踏み込みで敵を一打ちにし、強引に詠唱を止めた。
目にも留まらぬスピードで無数の傷を負ったスピリットは一瞬でマナの霧と化す。
「す、すごい・・・」
「ヘリオン!ボーっとするな!速いのがそっちに行ったぞ!」
ウルカの動きに見惚れていたヘリオンに敵のブラックスピリットの凶刃が迫る。
「遅い・・・あまりにも遅すぎる!」
「・・・遅いのはそっちですっ!そこ!」
・・・が、速攻で反応したヘリオンは、その敵とのすれ違いざまに【失望】で敵の腹を貫き、マナの霧に帰す。
「あの、これは私が悪いんじゃないんですよ?戦争なんですから・・・エトランジェさん、死んでください!」
続いて悠人のところには、よく見られる弱気なブルースピリットが神剣に力を集中させて切りかかる。
「・・・させるかあぁっ!」
強力なオーラフォトンで敵のヘヴンズスウォードを受け止めた悠人は、
大きく弾かれた敵を薙ぎ払い、さらにオーラフォトンを纏った【求め】を叩きつけ、敵の姿をマナの霧へと変えた。
「(・・・・・・すまない。本当は戦いたくなかっただろうに・・・)」
心の中で悠人は死んでいった敵のスピリットたちに謝罪する。
それが罪滅ぼしにならないってわかってはいるけど、そうせずにはいられなかった。
「ユート殿、大丈夫ですか?・・・む!」
「ああ、大丈夫だ・・・それより、急ぐぞ・・・・・・!?」
「ゆ、ユート様!こ、これって・・・!」
悠人がそう言ったとき、マロリガン首都の方向から強力な神剣の気配が接近するのを三人は感じた。
・・・・・・この力強さは第五位の強さ。それが意味するものとは・・・。
- 308 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/22(火) 22:00:07 ID:4sGqLnCi0
- 冴えソゥユート支援
- 309 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 22:00:15 ID:NbTsnvf30
- 向こうからやってくる人影。長身のがっちりした体型に、金短髪、青い制服の上にオレンジ色のコート。
それは、悠人の良く知っている男。そいつが、一人のグリーンスピリットとともに近づいてきた。
「よお」
「光陰・・・!」
「ここまで来ちまったか・・・悠人、どうやらお前と俺は戦う運命にあるらしいな」
「ふざけるな・・・そんな運命は要らない。それに、俺は光陰と戦うつもりは無いんだ!そこをどけっ!」
「望むとも望まずとも、戦うしかないんだよ。お前は。・・・いや、俺たちは」
「クェド・ギンがなにをしようとしているのか解っているのか!もうすぐここ一帯はマナ消失で吹き飛ぶぞ!」
「わかってるよ。でも、俺には、今日子しかいないんだ。こうするしかないんだよ。悠人・・・!」
何か思いつめたような、覚悟を決めたような光陰の目。
それは、百の言葉でも決して覆せるものではなかった。・・・あの時のヘリオンの瞳のように。
「それにな、俺は一度お前と全力で戦ってみたかったんだ。・・・ここを通りたかったら、俺を倒せ!!」
「くっ・・・」
「ゆ、ユート様・・・」
「ユート殿・・・」
「二人とも、先に行っててくれないか?俺は、光陰との決着をつける」
悠人が光陰のほうへと目を向けると、光陰の後ろのグリーンスピリットが口を開く。
「逃がしはしません。そこのお二方は私、稲妻部隊副隊長クォーリンと以下三名がお相手いたします」
クォーリンと名乗るスピリットがぱちん、と指を鳴らすと、砂丘の陰から敵の増援が姿を現す。
稲妻部隊でも手馴れの者たちなのだろう。さっきのスピリットとは力の具合が違っていた。
「みんな・・・行くぞ!!」
悠人の声を合図に、ウルカとヘリオンは砂丘に立つ敵の増援へと飛び込んでいった。
- 310 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 22:01:04 ID:NbTsnvf30
- 「悠人・・・うおおおぉぉぉおお!!」
光陰がオーラフォトンを展開し、こちらに向かってくる。
巨大なダブルセイバー型の神剣の攻撃は、一撃を受けるだけでもダメージは大きいだろう。
悠人は防御のオーラを全力で展開する。
かろうじてその攻撃を受け止めることができるも、旋風のような連撃に、オーラの盾は徐々に削れていった。
「くっ・・・光陰・・・!」
「その程度か・・・お前の覚悟はその程度なのかよ、悠人ぉっ!!」
「う・・・うおおぉぁああああ!」
悠人は【求め】を振り返すが、その攻撃は光陰の頬を掠める程度にとどまった。
光陰の反射のバックステップでかわされたのだ。
「へ・・・そうこなくっちゃな」
「くっそお・・・」
まだ親友と戦うことに僅かな躊躇を残しているこちらに対し、光陰は遠慮なく攻撃してくる。
「(光陰は本気だ・・・本気で俺を殺そうとして・・・ッ!)」
光陰はちらり、と後ろを見る。
そこでは、早くも二人の敵を屠ったウルカとヘリオンが縦横無尽に飛び交っていた。
その動きには一切の迷いは無い。
「悠人・・・お前はあいつらを見ても何も思わないのか?」
「何・・・!?」
「あいつらだって苦しいはずじゃないのか?同族を殺してまで、お前のために戦ってくれてるんだぞ?
それなのに、肝心のお前が眼前の敵を殺すことに躊躇して・・・そんなので良く生き残ってきたな」
「馬鹿野郎ッ!どうして俺が光陰を敵にしなきゃいけないんだ!」
「もういい、お前がそういうならそれでいい。だがな悠人、お前が死んだら、次に死ぬのは、あいつらだ」
「!!」
- 311 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 22:03:58 ID:NbTsnvf30
- ドクン。
目の前にいるヘリオンやウルカ、スピリット隊のみんなの顔が、死の瞬間が脳裏によぎる。
ヘリオンや佳織との約束も果たせなくなる。例えそれが私情に駆られた物だったとしても。
そんなの嫌だ。そんなの見たくない。誰も殺させない!!
「・・・・・・おいバカ剣。全開で行くぞ。次の一太刀で決める」
『フ、そうでなくてはな。だが契約者よ、この後には【空虚】が待ち構えていることを忘れるな』
「ああ、わかってる・・・・・・行くぞ光陰ッ!!」
「おうっ!かかって来い悠人ッ!!」
【求め】に白色のオーラフォトンが集中する。これでいい。もうこちらも手加減なし、だ。
「うわあああああぁぁぁあぁあああ!!」
「おおおぉぉおおおおあああぁぁ!!」
悠人と光陰は、同時に砂の大地を蹴り、光を放ちながら衝突する───。
ドシュッ・・・
────手ごたえは、あった。恐らくそれは光陰も同じだろう。
だが、決定的に違うのは、光陰は【因果】が悠人に当たる直前、刃を返していたこと。
このときはじめて解った。光陰も悠人を殺すことに躊躇していたんだって事。
強烈なみねうちのダメージを受けた悠人、脇腹を真一文字に切り裂かれた光陰。
二人はそのまま、砂の上に膝をついた・・・
- 312 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/22(火) 22:04:41 ID:4sGqLnCi0
- 決着支援
- 313 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 22:05:07 ID:NbTsnvf30
- 「・・・!! コウイン様ッ!!」
「逃がさぬぞ!!クォーリン!」
「やめろウルカ!!」
光陰が膝を突くと共に、それに気づいたクォーリンは光陰に駆け寄ろうとする。
ウルカがそこに追撃をかけようとしたが、悠人のとっさの呼びかけにより、それを阻止することができた。
「ゆ、ユート様ぁっ!だ、大丈夫ですか!?」
こちらにはヘリオンが心配そうに駆け寄ってくる。
ふと見ると、周りにはクォーリン以外の敵のスピリットは一人も見当たらなかった。
「ああ、俺は大丈夫。思ったより傷は浅い・・・それより、光陰ッ!」
悠人たちは傷の痛みに動かない体に鞭打って光陰に駆け寄る。
クォーリンが回復魔法をかけてくれているとはいえ、その傷は浅くはなかった。
「光陰!大丈夫か!?」
悠人がそう問いかけると、光陰はいつもの、人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべて答える。
「結局、お前には敵わずじまい、か・・・ちぇ、ここまでかっこつけたけど、ろくなこと無かったぜ」
「もういい、後は俺たちにまかせて、休んでろ。今日子は、俺が何とかしてやる!」
「そうか・・・悠人。今なら、お前を信じられるな。今日子のこと、頼んだぞ・・・
なんてったって・・・俺たちの、じゃじゃ馬姫様なんだからな・・・・・・・・・」
がくり、と光陰は首を横たえる。まさか・・・!!
「こ、光陰ッ!!?」
「大丈夫、コウイン様は気絶なされただけです。それよりも・・・」
「ああ、わかってる」
「はい。コウイン様は私にお任せを。あなた方はキョウコ様を、マロリガンを・・・お願いします。急いで!」
クォーリンはそう言うと、回復のマナを放つ手を悠人に向けてくる。
僅かな傷を拭い去った悠人たちは力強く頷き、マロリガン首都に向かって走り出した。
「(だれも・・・死なせるものかッ!)」
- 314 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 22:06:04 ID:NbTsnvf30
- ──────悠人たちは荒野をひたすら走る。
マロリガンの首都が目と鼻の先まで迫ったとき、見覚えのある人影が仁王立ちしていた。
「今日子ーッ!!」
「やっと来たか・・・遅かったな。【求め】の主よ」
その声は今日子のものだったが、その口調は別人の・・・おそらくは【空虚】の人格の表れ。
本当にもう、完全に飲み込まれてしまったのだろうか・・・
「今日子ッ!俺の声が聞こえるか?返事をしてくれ!」
「無駄だ・・・【求め】の主よ、もう今日子という存在はない。ここにあるのは我、【空虚】だけだ」
「くっそおっ!」
『契約者よ、【空虚】の言うことは本当だ。・・・砕け。【空虚】を砕くのだ!!』
「そうはさせるか、バカ剣。俺は今日子を助け出すって誓ったんだ!何とかしてみせるッ!」
「ほう・・・面白い。かかってくるがいい。【求め】の主よ!」
今日子・・・いや、【空虚】は稲妻を帯びたオーラフォトンを展開する。
その見るだけでびりびりと伝わってくる殺気は、完全に悠人に向けられていた。
「行くぞ!【空虚】おおぉぉっ!」
ガキイイィィン!
【求め】と【空虚】がぶつかり合う。その瞬間、悠人の目には意外な顔をしたやつが映っていた。
「な、なに・・・?なぜ、【求め】がこれほどの・・・!!」
「なんとかしてみせるって・・・言っただろ?俺は、力に支配されたお前とは違うんだッ!」
「ぐうう・・・!!」
「うおおおおぉぉぉおおっ!!」
悠人は【求め】を振り上げ、オーラフォトンを全身に纏うと、一気にそれを【空虚】にぶつける。
その爆発は、【空虚】の断末魔と共に、今日子の体を吹っ飛ばした。
「ぬ、ぐ、ぬぐぁ・・・!」
どさり、と今日子の体が地に着く。
「はぁ、はぁ・・・やったか?!」
『契約者よ、どうやらこの娘、斬られる直前に【空虚】の意識を切り離したようだ。
まったく、人間というものは時によっては神剣の力をも凌駕するものなのだな』
「・・・ってことは、今日子は助かったのか?そうなんだな!?」
とはいえ、今日子の体は傷ついている。すぐに治療しなくては危険だった。
- 315 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 22:07:53 ID:NbTsnvf30
- 「誰か、誰か回復できる奴はいないのか!?」
悠人はまわりを見渡すが、そこにいるのはウルカとヘリオン、それから緑スピリットを除く稲妻部隊。
「くそっ!このままじゃ・・・!」
「悠人ーーーッ!!」
今日子を治療できないことに僅かに絶望感を抱いた瞬間、後ろから男の声が響く。
「光陰!?」
その光陰の横には、グリーンスピリットのクォーリンもいる。
「大丈夫か、悠人。今日子はどうなった!?」
「ああ、神剣の意識は切り離した。あとは体の治療をすれば・・・」
「では、私にお任せを・・・!」
クォーリンは神剣を構え、今日子に癒しの魔法をかける。
次の瞬間、マロリガンの首都の方の空が虹色に染まりあがった。
「・・・あ、あれは・・・!?ユート様っ!」
「ユート殿、時間が在りません!急ぎましょう!!」
ヘリオンとウルカが急かす。それは悠人も同じだったが、今日子を置いていくわけにはいかなかった。
「悠人、何を考えてる!ここはクォーリンに任せて、急ぐぞ!」
クォーリンは魔法をかけながらこくり、と頷く。
さっきとまるで一緒の状況。二人の命を助けてくれたクォーリンには感謝するべきだが、
なによりも今は時間が無い。
「わかった。光陰、ヘリオン、ウルカ、行くぞ!!」
決意を新たにすると、悠人たちは光陰とともに、マロリガンの首都へと乗り込むのだった。
──────それからすぐに、ミエーユを経由した部隊が合流しマロリガン首都に総攻撃。
中枢のエーテル変換施設にて変わり果てた大統領クェド・ギンと対峙し、これを撃破。
ヨーティアの教えてくれたパスワードを入力して、変換施設の暴走を止めることに成功した。
マロリガンからでてすぐに、悠人と光陰は丘の上に沈みかける陽を背に立つ人影を見る。
それは紛れも無く、悠人と光陰の幼馴染にしてじゃじゃ馬姫。今日子の元気そうな姿だった。
その後、彼らは轟く雷鳴と何かがぷすぷすと焦げるような匂いとともに、感動の再会を果たしたという。
- 316 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/22(火) 22:09:08 ID:4sGqLnCi0
- 支援、いるよね
- 317 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 22:09:57 ID:NbTsnvf30
- ──────マロリガン制圧戦が終結し、ラキオスに帰還した悠人たち。
頼りになる仲間を得たスピリット隊は、各々の館に戻り、休息のひとときを得ていた。
その日の夕方、第二詰所にて・・・
「・・・・・・で、直らないんですか〜?」
「無理ね。私たちはこういうことには詳しくないもの。ヨーティア様に頼むしかないわね」
第二詰所の裏手で四苦八苦するハリオンとセリア。
何が起こったのかというと、第二詰所のエーテル湯沸かし機が故障してしまい、風呂に入れないのだ。
砂だらけの戦場からやっと帰って来れたのに、風呂に入れないというのは重大なことだった。
「じゃあ、私はヨーティア様に頼んでくるわ。それまでは直るまで我慢するか、第一詰所で入れてもらったら?」
「では、そうします〜」
ハリオンはそう言うと、裏口から館の中へと入っていった。
「・・・・・・というわけで、今から第一詰所に向かいますよ。ヘリオン」
「そんなことしていいんですか?それに、あの・・・第一詰所にはユート様やコウイン様がいますし・・・」
「ちゃんと許可を取れば大丈夫ですよ〜。ほらほら、早く〜♪」
「はうぅ・・・わかりました」
なんだか第一詰所の風呂に入ることが楽しそうで、嬉しそうなハリオン。こうなっては誰も逆らえない。
強引に着替えを持たされたヘリオンは、ハリオンに付き合うことにしたのだった。
ヘリオンの心配事はハリオンにとっては蚊帳の外。・・・というよりも、ハリオンは何も心配してはいない。
さっさと戦いでついた汚れを落としたい。ハリオンが考えていたのはそれだけだった。
- 318 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 22:11:23 ID:NbTsnvf30
- 「・・・・・・というわけで、ここのお風呂に入れていただきたいんですけど〜」
「わかりました。そういうことなら仕方ありませんね」
第一詰所につくなり、ハリオンはエスペリアを捕まえて交渉をする。
困ってる人に頼まれたら断れない性格のエスペリアが、拒否しないわけが無かった。
「ですが、あまり長く入っていると、・・・その、邪魔が入るかもしれませんので、お早めにお願いします」
「はいはい〜」
「(え、エスペリアさん・・・ハリオンさんが早めに済ませられるわけ無いじゃないですか・・・)」
ヘリオンはそう突っ込みたかったが、ハリオンの報復を恐れて言葉を飲み込む。
そののんびりした性格の通り、ハリオンの入浴時間もかなり長い。
最低でも一時間は入っている。毎度毎度それにつき合わされてるヘリオンは、今日は覚悟を決めたのだった。
二人は更衣室でさっさと服を脱いでタオルを巻き、まだ誰もいない風呂場へと入る。
ついさっき沸き上がったばかりなのだろうか、風呂場には湯煙が立ち込めていた。
さっそく、浴槽へと足を踏み入れる・・・
ちゃぽん。
爪先から足の裏、踝から膝、そこからしゃがみこんで、ゆっくりと肩までお湯に浸かる。
その沸きたての風呂は、体中の汚れはもとより、心身の疲れをも癒していった。
「はあぁ〜、気持ちいいですぅ〜」
「そ、そうですね!・・・ちょっと熱いですけど」
初めて入る第一詰所の風呂。
その湯加減は、年少組の多い第二詰所と違って、少し大人向けの熱めのお湯だった。
「今回の戦いで、お肌がカサカサになっちゃいましたからね〜、しっかりと潤さないと〜」
ハリオンはぱしゃぱしゃとお湯を手ですくって顔につける。
「♪〜〜」
幸せそうな顔で目を細め、浴槽の端に寄りかかるその姿は、『いつもの』ハリオンの姿だった。
- 319 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 22:12:40 ID:NbTsnvf30
- 「(はうぅ・・・こうなってからが長いんですよぅ・・・一人で上がろうとするとまた めっ てされちゃうし・・・うぅ)」
天にも昇る気持ちでのんびりくつろぐハリオンだったが、昔から一緒に入っているせいか、
すぐ近くでヘリオンが一緒に入っていないと落ち着かないらしい。
おまけに、ハリオンが満足のいくまで入っていないといけなかった。
対照的にヘリオンはあまり長く入っていられるほうではない。時折体を冷やさないと、のぼせてしまう。
そんなもんだから、ヘリオンはハリオンと一緒に風呂に入るのはあまり好きじゃなかった。
・・・・・・本当はもう一つ理由があったが。
──────ハリオンがのんびりし始めてから、20分ほどたったころ・・・
がらがらがら・・・
風呂場の引き戸が開かれる音が聞こえてきた。
「(あれ?誰か入ってきたみたいです・・・)」
「お、今日も気持ちよさそうだな。エスペリアの湯加減は絶妙だからかな」
どこかで聞いたような、そして良く聞きなれた男の人の声。紛れも無く、あの人──
「ゆ、ゆ、ゆゆゆ、ユート様っ!!!?」
ヘリオンは思わず声に出してしまった。
「な!?その声は・・・ヘリオン!?」
湯煙の向こうから、悠人もまた驚きで声を張り上げる。
「ヘリオンだけじゃありませんよ〜?私も一緒ですぅ〜」
ただでさえこういう場面に免疫の無い悠人にハリオンは追撃をかける。
風呂に入る前から悠人はのぼせそうなくらい顔を赤くしていた。
「な、なな、何で二人がここにいるんだよ!」
「えっと、向こうのお風呂が壊れちゃいまして〜。それで、こっちのお風呂をお借りしてるんです〜。
ユート様ぁ〜、ご一緒にどうですか〜?気持ちいいですよ〜♪」
「は、ハリオンさん!そ、そんなのだめですっ!」
「そ、そうだ!いくらなんでもこれはだめだ!」
悠人とヘリオンは同時に拒否するが、ハリオンは意地の悪い質問をしてくる。
- 320 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/22(火) 22:13:48 ID:4sGqLnCi0
- サービスショット支援w
- 321 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 22:13:49 ID:NbTsnvf30
- 「あらあら〜?どうしてですか〜?
ユート様は、私と一緒じゃだめですか〜?ヘリオンも、ユート様と一緒に入りたいでしょう〜?」
「はううっ!!そ、そそ、それはぁ・・・」
ヘリオンは目を点にしてあわあわしている。もはや平常心ではない。
悠人はヘリオンに抑止力を期待しても無駄だろうと、早くから見抜いていた。だからどうにかなるってわけでもないが。
「お〜い悠人〜、俺も一緒に入るぞ〜・・・・・・って、どうした?」
風呂場の入り口で固まる悠人の後ろからやってくる光陰。
「い、いや・・・実は先客が・・・」
「何!?先客だと!?誰だ!?誰が入っているんだ!悠人!答えろ!」
怒涛のごとく日本語で問い詰めてくる光陰。その迫力を前にしては、答えないわけにはいかなかった。
「へ、ヘリオンとハリオンが・・・」
「ほ、ほうほうほう!ヘリオンちゃんと、ハリオン姉さんがねえ・・・むふふ」
一瞬物凄く怪しげな笑みを浮かべた後、キャラが変わったようにきりっとした視線をこちらに向けてくる。
「悠人よ・・・混浴は男のロマンだ。そう思うだろう!?」
「こ、光陰!お前まさか入る気じゃ・・・」
「 当 た り 前 だ ! それに、ああやって誘われているんだ。入らないでいられるか!」
悠人が風呂場の方をみると、湯煙の向こうからハリオンが手招きをしていた。
余計なことを・・・!といった具合に恨み辛みを心の中で叫ぶが、この光陰の勢いは止められそうも無かった。
「よし、では行くぞ!悠人!」
光陰がコートを脱いで、それを後ろに勢いよく投げると、妙に早くばさり、と音がする。
「あ゙・・・・・・光陰、う、後ろ・・・今日子が・・・」
「・・・・・・はい?」
そこでは、怒りマークを頭上に浮かべた今日子が光陰のコートを受け止めていた。
「話はぜ〜んぶ聞かせてもらったわよ?・・・こぉんの最低坊主ーーーッ!!」
- 322 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 22:15:04 ID:NbTsnvf30
- スパーン!ズドーン!バリバリバリ・・・
「んぎゃああぁぁぁああああ〜〜〜!!」
今日子のライトニングブラスト付きのハリセンチョップが無防備の光陰に炸裂し、風呂場に轟音が響き渡る。
光陰が黒焦げになったのを確認すると、今度はその殺気の篭った視線を悠人に向けてくる。
風呂に入る準備万端のため、身を包むものは腰のタオル一枚しかない。
さすがにこんな格好で一生を終えたくは無かったが・・・
──────殺される。そう思って覚悟を決めると、今日子は気持ち悪いくらいの笑顔を向けてきた。
「ふふふ、悠?私はこのバカみたいに野暮な真似はしないからね?」
「な、ちょ、ちょっと待て今日子!なんか勘違いしてるぞ!?」
「勘違いなんてしてないわよ?そういうことなんでしょ?じゃ、ごゆっくり〜」
「お、おい!」
冗談なのか本気なのか、今日子は光陰をずるずると引きずりながら笑顔で更衣室から出て行った。
どうしたものやら。このまま出て行ったら今日子とハリオンに殺されかねない。冗談抜きで。
ヘリオンには悪いけど入るしかないのか、この天国と地獄の境目に。・・・悠人は覚悟を決めた。
「よ、よし、じゃあお邪魔させてもらおうかな・・・」
「ゆ、ユート様ぁ・・・」
「そうそう、素直が一番ですよ〜」
ハリオンのことだ。湯船の中で何をされるのかはわからない。
場合によっては夢見心地のまま昇天・・・なんてことも在り得る。悠人は油断しないようにゆっくりと湯船に浸かる。
その波紋がヘリオンとハリオンに届くと、どういうわけか彼らの間の湯煙が晴れる。
ヘリオンとハリオンの目には半裸の青年が、悠人の目には同じく半裸の少女と大人の女性がはっきり映っていた。
- 323 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 22:16:10 ID:NbTsnvf30
- 「え・・・」
悠人は思わずヘリオンに視線を移す。
風呂に入っているからか、今はツインテールの髪をほどき、長く自然に垂れ下がっている黒髪。
それはあどけない少女を演出するいつもの髪型とは違って、少し大人っぽくて、艶やかだった。
・・・・・・黒髪美人。素のヘリオンの顔を見た悠人の第一印象は、まさにそれだった。
「ゆ、ゆ、ユート様っ!ど、どうしたんですか?またぼーっとしちゃって・・・」
「え、あ、いや・・・ヘリオンって、髪をほどくと印象が変わるなって・・・」
「そ、そうですか?」
「そうですね〜。いつものもいいですけど、髪をほどいてもかわいいですね〜」
「は、ハリオンさんまで・・・じゃあ、あの、ゆ、ユート様は、どっちがいいと思いますか?」
真面目で思い込みの激しいヘリオンのことだ。おそらく悠人の選んだほうの髪形にずっとするつもりだろう。
悠人は無難な答えを返した。
「そうだな・・・俺はいつものがいいな。なんていうか、そのほうがヘリオンらしいし」
「や、やっぱり、そうですよね!私、あの髪型、気に入ってますから・・・」
「でも、こんなのもいいんじゃないんですか?」
ハリオンはヘリオンの後ろに回りこむと、長く垂れた髪を持ち上げて一つにまとめた。
それは、ポニーテールの髪型・・・・・・ちょうど、ネリーやセリアの髪型だった。
「ひゃ!ちょ、は、ハリオンさん、や、やめてください〜」
「う〜ん、ちょっとちがうなぁ」
「じゃあ、こんな風にして〜・・・」
ハリオンはうなじのあたりで髪をまとめ、ふたつのおさげを作り出す。
オルファのような、ニムントールのような・・・そんな、幼さを強調させる髪型。
「お、なかなか似合ってるんじゃないか?」
「そうですね〜お似合いですよ、ヘリオン♪」
「はうぅ〜、ユート様もハリオンさんも、私で遊ばないでください〜!」
ヘリオンがふくれっ面でそう叫ぶと、ハリオンはぱっと手を離し、悠人と一緒に笑う。
風呂の中で、半裸で語り合っていることなど忘れるほどの平和なひと時だった。
- 324 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/22(火) 22:17:10 ID:4sGqLnCi0
- 光陰カワイソス支援
- 325 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 22:17:27 ID:NbTsnvf30
- 「あ、そういえばさ、ヘリオン」
「な、なんですか?ユート様」
「あの時さ、マロリガンとの戦いが終わったら、一緒に来て欲しいって言ってたことあったろ。あれって、なに?」
「あ、あれは・・・」
「あらあら〜?なんですか〜?私に内緒のお話ですか〜?」
ハリオンはなんらかの種類の疑いの眼差しを悠人たちに向けてくる。
「そうでした。ハリオンさん、実は、私・・・・・・(ひそひそひそ)」
ヘリオンはハリオンに耳打ちする。まるでまだ悠人には知られたくないといった感じで。
「なるほど〜、そういうことだったんですね〜。それなら、ぜひ一緒に来てもらいましょう〜」
「一体なんなんだよ。・・・それに、ハリオンも行くの?」
「はい〜。これには、私も必要ですから〜。ヘリオンは、私に言うのを忘れてたらしいです〜」
「ですから、ゆ、ユート様。明日の朝、ラキオスの城門まで来てください!」
一体何をするつもりなんだろう。そのときの悠人には、この二人の思惑を知ることなどできなかった。
「(それにしても・・・)」
悠人はちらり、と視線を落とし、目を右往左往させる。
その視線の先に何があるのか、ヘリオンとハリオンにはすぐに見破られてしまった。
「ユート様〜?どこ見ているんですか〜?」
「ゆ、ゆ、ゆユート様!そんなにじろじろ見て、比べたりしないでください〜!!」
そう、視線の先にあったものは、胸。
年が離れてるせいなのかそれともヘリオンはあまり成長しないのか、あるいはハリオンが成長しすぎなのか。
あまりの大きさの違いに悠人の視線はそこに向かわざるを得なかった。
それに、この胸の差のことはヘリオンにとっては最大のコンプレックスであり、
ハリオンと並んでいると毎度毎度指摘されるため、一緒に風呂に入りたくないもう一つの理由だった。
「え、いや、その・・・」
「ゆ、ユート様は大きいほうがいいんですね!?そうなんですね!?」
「ふふふ〜。ユート様は、大きいほうがお好みと、これは貴重な情報ですよ〜?」
「ち、違う!そういうわけじゃ・・・」
「じゃ、じゃあどういうわけなんですか!?ゆ、ユート様、ちゃんと説明してください!」
よっぽど恥ずかしいことなのか、ヘリオンは顔を真っ赤にしている。
「まあまあ、そう焦らず、ちゃんとお試しください〜」
「え?」
- 326 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 22:19:53 ID:NbTsnvf30
- ハリオンがすっと悠人に近づいたかと思うと、ハリオンは悠人の腕をつかみ、引き寄せると・・・
たゆん。
「〜〜〜〜〜!!!」
悠人は遅れて気が付いた。呆気にとられているうちに自分の右手がハリオンの胸を掴んでいる事に。
「な、な、なな、なななぁぁぁああああ〜〜!!?」
その光景を目の当たりにしたヘリオンは、自分には夢のまた夢であろう事態に混乱してしまい、
興奮の真っ只中でその意識を湯煙と共に飛ばしたのだった。
「う、うう〜ん・・・・・・ぶくぶくぶく・・・」
「ヘ、ヘリオン!し、しっかりしろ〜!」
悠人はヘリオンを起こそうと駆け寄る。その時、自分の身に恐るべき事態が起こっていたことを知らずに。
「!! あらあら〜、ユート様、かわいいです〜♪」
顔をぽっと赤くして視線を落とすハリオン。それにつられて悠人も視線を落とすと・・・
「◎♂♪£∈♀〜!!!」
声なき声の叫び。
駆け寄ったときの衝撃で、腰に巻いていたタオルが外れてしまっていた。
今まで、佳織にすら見られたことは無かったのに。恥という恥で頭が爆発しそうだった。
がらがらがらー
「ヘリオン、ハリオン、いつまで入っているんです・・・か・・・・・・」
エスペリアがいつまで経っても風呂から上がらないヘリオンとハリオンの様子を見ようと、入ってきた。
・・・・・・とんでもなくタイミングが悪い。悠人の姿を見た瞬間、エスペリアの顔がみるみる青ざめていく。
「ゆ、ユート様、ああ、あ、あ、あ、あ・・・・・・き、きゃあああぁぁぁああああ〜〜〜!!!」
─────そのエスペリアの悲鳴がきっかけとなって、第一詰所は戦場と化すのであった・・・・・・
- 327 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 22:20:52 ID:NbTsnvf30
- ──────次の日の朝。朝食を済ませた悠人は、ヘリオンたちに言われたとおり城門へと向かう。
まだ高くまで昇っていない、淡い陽の光。時折吹く涼しげなそよ風。清清しい朝とはこういう朝を言うのだろう。
そんな朝の情景を体一杯に受け止めて、悠人は歩く。その両頬に赤い手形を残しながら・・・
城門の辺りまで来ると、見慣れた二人の人影が目に入る。
「お〜い!」
悠人がそう叫ぶと、それに応えるようにツインテールの少女が手を振る。
「あ、ユート様ぁ〜!」
・・・が、緑の髪の女性はなんだか不機嫌そうだった。
「ユート様〜?遅いですよ〜?」
「悪い悪い、飯食うのと言い訳に時間かかっちゃってさ」
「ゆ、ユート様・・・大丈夫ですか?あの・・・すっごく痛そうなんですけど・・・」
ヘリオンは悠人の顔を見て心配そうに言う。
あの時気絶してたから、ヘリオンはあの後とんでもない大惨事が起こったことを知らない。
「ああ、めちゃくちゃ痛かった。今もひりひりしてるよ」
・・・・・・そう、あの時、エスペリアの出した悲鳴によって第一詰所のメンバーが一気に風呂場に集結。
またもやとんでもない誤解をされたせいで、エスペリアと今日子に思いっきりビンタを左右の頬に叩き込まれ、
調子に乗ったオルファとアセリアにまでその上から叩き込まれる始末。・・・流石にウルカは見ているだけだったが。
で、ハリオンはというと、ヘリオンを担いでその場からさっさと離脱。
ハリオンが弁解しようとすれば余計にややこしくなる。・・・・・・賢明な判断だった。
「・・・・・・で、何処行くんだ?」
「はい〜、私たちに、ついてきてください〜。こうやって、案内しますから〜」
「あ、ハリオンさん!ずるいです!私も・・・で、では、ゆ、ユート様、行きましょう!」
「おいおい・・・」
ヘリオンとハリオンに手を引かれ、悠人はラキオス城を後にしたのだった。
一体どこに連れて行くつもりなのか、期待と不安が入り混じっていた。
- 328 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/22(火) 22:22:18 ID:4sGqLnCi0
- 朝の空気を感じて支援
- 329 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 22:22:34 ID:NbTsnvf30
- どれくらい歩いただろう、悠人たちはラキオスの街を出て、街道を歩いていた。
休みの日とはいえ、あまり城を離れるのは良くないことなのだが、それほどまでに見せたいものでもあるのか。
「・・・なあ、そろそろ何処に向かってるのか教えてくれてもいいんじゃないか?」
「その必要はありませんよ〜?だって、ほら〜」
「ユート様、あそこです!」
ヘリオンとハリオンの視線の先、そこには、古びた木造の一軒家があった。
三人がはその家の玄関先まで来ると、ハリオンはその家の鍵らしきものを取り出し、手馴れた様子で鍵を開ける。
「お、おい・・・この家、一体何なんだ?なんでハリオンがここの鍵を・・・」
「あらあら〜?持ってて当然ですよ〜?だって〜・・・」
「この家は・・・・・・私たちの家なんですから・・・」
ヘリオンとハリオンは合いの手で説明し、すごく懐かしそうな目で家の玄関の扉を見つめていた。
「じゃあここが、二人がスピリット隊に来る前に住んでいた施設?」
「はい・・・そうなんです。入りましょう、ユート様」
ヘリオンが玄関の扉を開けると、長い間使われていないせいか、所々から黴臭さや埃が舞う。
二人はそんなことを気にも留めず、中へと入っていった。・・・続いて、悠人も中に入る。
三人は埃と蜘蛛の巣にまみれた廊下をぎしぎしと音を立てて進む。
幾つも並ぶドアの中で、ヘリオンとハリオンはここだ、といわんばかりに一つのドアの前で立ち止まる。
またヘリオンがドアを開けると、同じように埃が舞ってくる。アレルギーではないが、少々たまらない。
悠人はその部屋を覗き込むと、すたすたと中に入っていったヘリオンが窓を開けていた。
ベッドに棚に小さな椅子、観葉植物(だったもの)があるだけの質素な部屋、どうやら寝室のようだが・・・
「この部屋って・・・」
「ここは、私のお部屋なんです。何もありませんけど・・・私の、思い出のお部屋なんです」
ヘリオンは半分風化した布団のかかったベッドに腰掛ける。
心なしか、その瞳には、懐かしさと、悲しさ、悔しさ・・・様々な感情が込められているように見えた。
- 330 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 22:23:51 ID:NbTsnvf30
- 「それで・・・一体、ここがどうしたって・・・?」
「ユート様〜、これから、ユート様に伝えたいことがあるんです〜。ヘリオンの言葉、ちゃんと聞いてくださいね?」
「え・・・俺に、伝えたいこと?」
「はい・・・ユート様に知っておいて欲しいんです・・・私たちが、戦う理由を・・・」
「戦う理由?スピリットだから戦ってるとか、そんなのじゃなくて?」
悠人は少し嬉しかった。
スピリットだから死ぬまで戦う、この二人はそんな呪われた宿命を背負って戦っているわけじゃなかったってこと。
二人の表情はいつにも増して真面目そのもの。悠人は、ヘリオンの話に耳を傾けることにした・・・
「はい。あれは、まだ私が神剣も扱えないほど小さかったころの話です・・・・・・」
────── ヘリオンの口から語られた過去。それは、暖かくて、懐かしくて、悲しくて、凄惨な現実。
たった一人の、ヘリオンとハリオンの心の支えだった『お姉ちゃん』。瞬く間に崩壊した幸せ。
それがきっかけで覚醒し、神剣を使えるようになったヘリオン。二人を戦いへと導いた誓い。
「・・・・・・そうか。そんなことがあったんだな」
「そうなんです〜。ですから、もう一人の家族を守るために、私たちは戦っているんです〜」
「あの時・・・お姉ちゃんが死んじゃって・・・私に残されたのって、ハリオンさんと、この【失望】だけなんです」
そう言って、ヘリオンは【失望】の鞘を握り締めた。
過去の悲しみを打ち明けたヘリオンに同調するかのように、【失望】がぼんやりと光る。
「でも・・・・・なんでそんなことを俺に?」
「ユート様・・・私と初めて会ったとき言ってましたよね?守りたい人が、大事な人がいるから、戦えるんだって・・・
私も、私たちも、同じなんです。大事な人を守りたいから、戦っているんです・・・」
「大事な人って・・・ハリオン?」
「さ、最初はそうでした・・・でも、スピリット隊に入ってしばらくしたら、
なんだかみんなを見ているうちに安心してきて・・・これって家族なんじゃないかって、そう思いまして・・・
ですから、ハリオンさんも、ユート様も、みんなも、私にとっては大事な人なんです」
「そっか・・・・・・俺と同じなんだな。俺も最初は佳織だけだったけど、今は、今は・・・みんなが、大事なんだ」
- 331 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 22:24:58 ID:NbTsnvf30
- 悠人はずっと前から思っていた。自分とヘリオンは似ているんじゃないかってこと。
佳織に色々言われたりして、そうなんじゃないかって考えたことはあったが、確信はもてないでいた。
だが、今このとき、それが確信に変わった。同じ理由で戦う少女を前に、親近感を覚えずにはいられなかった。
「なんだか、暗くなっちゃいましたね〜。私、お茶でも淹れてきます〜」
「え、ああ、頼むよ、ハリオン」
暗い雰囲気を好まないハリオンは場の空気を明るくしようと振舞う。
・・・・・・が、ハリオンが部屋から出て行こうとした、次の瞬間・・・
「あ、あらあ・・・ら・・・?」
どさっ。
どういうわけか倒れこんでしまうハリオン。尋常ではない状況に、悠人とヘリオンは慌てだす。
「は、ハリオン!?どうした!!」
「ハリオンさん!?だ、大丈夫ですか?!」
「すぅ・・・すぅ・・・・・・」
「・・・寝てる?」
倒れこんだハリオンは、幸せそうな顔で寝息を立てていた。
命に別状があるって事は無いようだが、どうして急に寝てしまったのか、首をかしげるのだった。
「ハリオン・・・どうしたんだ?急に寝ちゃって・・・」
「ゆ、ユート、様・・・わ、私も・・・・・・なんだか、眠く、なっ、て・・・・・・」
どさっ。
続いてヘリオンも寝込んでしまう。
「ヘリオン!?・・・・・・くっ、くそ・・・俺も・・・?だ、だめ・・・だ・・・」
どさっ。
悠人たちは成す術なく、眠気に抵抗することもできずに意識を失ってしまうのだった。
『契約者よ・・・我らも力を出せなくなってしまったようだ・・・しばらく、ねむ、る・・・』
『ヘリオン!ヘリオン・・・しっかり、しっかり、し、て・・・・・・』
『ハリオン、起きてください〜。ああ、でも、私もなんだか眠くなってぇ〜・・・・・・』
神剣たちもまた、その力を失っていく。そして、その意識をも闇へと沈めていくのだった・・・
- 332 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/22(火) 22:25:49 ID:4sGqLnCi0
- 意外な展開に支援
- 333 名前:ただ、一途な心 第V章─大事な人─ :2005/11/22(火) 22:25:59 ID:NbTsnvf30
- 「(ふふふ、上手くいったようですわ)」
「(首尾は良好、といったところですが・・・本当に、よろしいのですか?)」
「(ええ、あの【求め】の坊やには、もっと良く働いてもらわなくてはいけませんもの)」
「(では、計画通りに)」
「(急いでくださいね。時深さんに気付かれたら水の泡ですもの・・・ふふふ、楽しくなりそうですね)」
「う、うう、う〜ん」
目の前に広がる暗闇。背中に感じる冷たくてざらざらしたものの感触。
冷たい風と、この寒さにもかかわらず鳴り響くりー、りーという虫の声が、悠人の意識を掘り起こす。
「こ、ここは・・・?」
重い瞼をこじ開ける。周りを見ると、自分から少しはなれて倒れているヘリオンとハリオンがいた。
空を見ると、雲に隠れてしまいそうな三日月が、怪しい光を放っていた。
ぎしぎしと鳴る体に鞭打って体を起こし、後ろを見ると、そこには古風な建物。
「ああ、ここは・・・あの、いつもの神社か・・・どうりでどっかで見たような光景だと・・・神社!!?」
まさか、まさか、まさか・・・・・・!!悠人は自分の目を疑い、きょろきょろと周りを見渡す。
間違いなかった。石段の上から見える住宅街。悠人と佳織が住んでいたマンション。
いつも水のみ場として利用していた神社。ひんやりとした冬の空気。何もかもが一致している。
「う、嘘だろ・・・俺たち、帰ってきちゃったのか!!?」
念のために頬をぐいっと引っ張るが、その痛みで目の前の光景が変化することは無かった。
─── 一体何が起こってしまったのか、
悠人の世界、向こうで言えばハイペリアに帰還してしまった三人。
悠人、ヘリオン、ハリオン・・・彼らの運命やいかに!?
- 334 名前:くじら318号 :2005/11/22(火) 22:29:14 ID:NbTsnvf30
- 第V章は以上です。
所々手抜きなのは勘弁してくださいorz
あれもこれもと書いているうちに恐ろしく長くなってしまいました。
今まで書いたどんなSSよりも長いです。
さて、これからがヤマ場だ。頑張らないといけませんなぁ。
というわけで
誤字脱字、ハリオンマジック等、指摘がありましたらお願いします。
- 335 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/22(火) 22:35:07 ID:4sGqLnCi0
- >>334 くじら318号さん
お疲れ様でした。ロウエタも絡んできて急展開
三人のハイペリアライフはどうなるのでしょうか…
次第に増えていくボリュームに圧倒されてしまいます
本編もヤマ場に差し掛かるそうで、大変とは思いますが頑張って下さい
- 336 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/23(水) 03:02:44 ID:aBlx0O2v0
- お疲れ様でした、鯨さん。
次回も楽しみにしています。
それにしても、光陰…合掌。次こそは上手くいく事を祈るぞ。
- 337 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/23(水) 03:13:20 ID:kYZo6pr90
- >334
シアーッァァァアッァァァァアたん素でスルーされてるような気が(汗)
お留守番中、詰所中のお菓子が食べ尽くされる事でしょう。もきゅ?
なんだか長い割りにあっさり風味に感じました。あくまでハイペリア編が本番って事でしょうか。
兵士さん……むぅ。お咎め受けなかったのだらうか。
佳織、そら怖いわねw
まさか、コアラさま御自らでしゃば……お手を煩わせ遊ばすとは。どういう狙いなのか期待しております。
陰謀渦巻くハイペリア。悋気渦巻くエスペリア。マナの薄い世界でハリオンのたゆんが萎んでしまわないか、心配で心配で。
トイレの使い方を、ちゃんと子犬に躾な(神々の怒り)
- 338 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/23(水) 09:01:29 ID:VfnB2HMg0
- >>334
乙です。
あらあら〜、これは〜次回が〜楽しみですねぇ〜
>298
×:尋ねて
○:訪ねて
- 339 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/23(水) 10:00:34 ID:5NvpN2EM0
- >>248
スピードスケートに挑戦、ウルカ&アセリア。
ウイングハイロゥ全開の鍔迫り合い。
「む、中々やりますな、アセリア殿」
「ん……負けない」
コーナーを曲がりきれずに二人とも玉砕。
ハイジャンプヒミカ。K点越えまであと少し。
スピリッツ・ホッケー・リーグ SFL。
ゴールキーパー光陰。ニムントールの殺人シュートが何故か殺到。
- 340 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/23(水) 12:54:22 ID:kYZo6pr90
- フィギュアスケート・ペア。セリア悠人組
「うぉっちょ、ちょっと待ってくれセリア、うわうわぁっ」
「な、なんですかそのへっぴり腰は! しっかりして下さい」
「そんな事言ったって、な、な、死んだばあちゃんが氷と天ぷらにだけは近寄るなって遺言が」
「なにを言っているのか理解出来ませんが。――ふぅ。しょうがないわね。ほら手を掴んで。そうゆっくり。恐れないで、私を感じて下さい」
「……………………」キンチョー
「…………ハ。い、今のはそそそう言う意味ではなくて、わ、わたしの体を感じて……ちがう! マナの流れを感じて……ほ、ほら振動を合わせて」ドキドキ
「……………………」ヒッシ
聞いてない悠人と、勝手に動悸中のセリア。
「パパ達何やってんのかな」スーイ
「さー。遊んでんのかな」スーイ
「きゃあ〜〜ど、どいてくださぁ〜〜いっ!」ドン
「うぉっ」ヒシ
「きゃ、ちょちょっとユートさましがみつかないでっ、っちょ!どこ触ってんの!!」 バシン
氷上をスラップシュートされた悠人君はSFL初ゴール。
- 341 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/23(水) 18:52:25 ID:0gQ9tNZh0
- >>340
氷上の熱き戦いテラワラw
「…………釣れませんね」
リンクでわかさぎ釣りしているナナルゥを想像してしまったのは何故だろう。七輪とか用意して。
- 342 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/23(水) 20:49:37 ID:kYZo6pr90
- そのナナルゥの周りを囲うように氷ブロックを積み上げていシアー。
「んッしょ、これでかんせ〜い」
「シアー。360度見ても出口を発見出来ません。閉じこめられたようです」
「そうなの〜困ったね〜。あ、引いてるよナナルゥ」
|
__ . | _____
( | )
 ̄ ̄ J  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
/V\
/◎__ヽ
レ'´iミ(ノハソ
_ l !ik(i|;;゚ヮ゚ハ
ヽツ.(ノリ:::::::.::::.:..|)
ヾソ::::::::::::::::.:ノ
` ー U'"U'
ナナルゥを穴ルゥと誤変換した俺は七輪の為に練炭買ってくる。
- 343 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/23(水) 20:59:23 ID:0gQ9tNZh0
- >>334
ヘリオン、風呂へ(知ってる人いるかなぁ……)。
自分で薦めておいて、何故に張り手ですか今日子さんw
おお、佳織が大人だ……ちゃんと妹してますね。
帰りたいなどと我が侭を言わず、ぐっと我慢して兄の尻を叩くとは。大変良く出来ました。
お姉ちゃん殺しの下手人……なんかこう、胸の中がもやもやと。言い分は判るのですが、許せません。
死に際の謝罪ほど自己満足なものは無いですから。それでも恨まず、励ましあう二人。
まるでお姉ちゃんのような『失望』の台詞。まだ、大きなしこりは残るだろうけど、頑張れ、特にハリオン。
ファーの二回目の「・・・ふふふ」に何がしかを見た。放置セリア、カワイソス。クォーリン、「以下三名」てw
まるで予想外の急展開。暗躍している面々の思惑も気になりますが、次回果たして二人は制服を着るのか?
というか、ハリオンは着れるのか? と本編には全然関係無さそうな所に注目しつつ。
ところで、『前線速攻向き』メンバー構成にネリーやヒミカがいない事に心の中だけで突っ込みw
>>342
そこでヒートフロアですよ。わかさぎもこんがり焼けてイイ感じ。
たまに焦げ付いたエプロンと亜麻色の髪なんかもその中に混じっていてガクブル。
- 344 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/24(木) 03:06:13 ID:PzUn2uYi0
- さっき某ガ○ダムのゲームみたいに出撃前のマップ画面でエスペリアに
「ダスカトロン大砂漠にて敵部隊と遭遇しました。敵スピリット隊を撃破してください」
とか言われる夢を見た。敵が顔なしの汎用スピで味方が雑魚スピの。
やっぱりあれのやりすぎかなあ。
- 345 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/24(木) 04:54:24 ID:TQph5CM00
- >>343
ヒートフロアで自分の足元が溶けて水中へドボン
ネリー「水も滴るイイオンナだねー」
- 346 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/24(木) 18:51:13 ID:0o8H7h0xO
- 部屋の整理をしてたら大量のチラシに混ざってPC版アセリアのチラシが出てキタ━━━━( ゚∀゚)━━━━!!!!
製品版と所々違ってる〜
昔から出かける度にチラシ収集をして保存してたからなぁ〜自分の趣味に感謝♪
- 347 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/24(木) 20:24:31 ID:lNevQjUP0
- ヒミカのザ・ガッツ出演マダー。
- 348 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/24(木) 20:37:35 ID:BLdRnkP30
- タカさんだったのか!
- 349 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/24(木) 23:21:02 ID:wgB9LoMIO
- なぜかハンマー持ってひたすら上へ上へと雪山を登っていくネリーを想像してしまった。
2Pはシアー。敵キャラは光陰w
- 350 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/24(木) 23:51:51 ID:P4NcQgEX0
- 足をぶったたいて追い払うわけだな。
頂上にはネネの実やヨフアルのご褒美かw
- 351 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/25(金) 01:27:05 ID:RZTj9sbL0
- ちょいとシナリオかいてるときに疑問に思ったんだけど、光陰と今日子って普段はどっちに住んでるんだろ?
第1詰め所かそれとも第2詰め所か・・・
明言ってされてたっけ?
- 352 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/25(金) 06:48:15 ID:Rcq+IqbR0
- Expで悠人と街歩いている時初めてハリオンとか紹介されていたから第一かと思ってた。
- 353 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/25(金) 08:32:33 ID:vuy6OeVB0
- かといって確実に第一に住んでるという描写もないんだよな。
人数振り分け的には第一なんだろうが
それは、悠人が来る前の比が3:9って所からしてあてにならんし。
- 354 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/25(金) 13:00:18 ID:5ppyvX9x0
- 保管庫のSSだと、光陰・今日子・クォーリンは第二詰め所にいる雰囲気で描かれてるけども。
第一詰め所のメンバーて、ラキオススピリットでも選りすぐりのエリートメンバーな感じなんだよね。
(そもそも、服装が根本的に違うしね。まあ正ヒロインとサブキャラの差と言えばそれまでだけど)
詰め所そのものの構造とかも明らかになってないのも個人的に気になる。
まあ、色々と隙間があるからこそ色々と妄想補完が出来るわけなんだけれども。
- 355 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/25(金) 16:32:25 ID:fQE3zAeB0
- うーん、正直光陰と今日子は城の使ってない部屋とかあてがわれてるのかと思ってたり。時深みたいに。
や、だって光陰が第二詰め所で暮らすなんてことになった場合
「ネリーちゃん、シアーちゃん、ヘリオンちゃん、ニムントールちゃんと一つ屋根の下…一つ屋根の下!?
一つ屋根の下あああああッッ!!!」
と暴走するであろう事は想像に難くなく。
必死で、レスティーナに別の部屋を用意してくれるよう頼み込む悠人&今日子―――。
クォーリンは第二詰め所でなんら問題なさそうだけど、光陰は第一・第二どっちでも問題あり過ぎだとオモ。
- 356 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/25(金) 19:21:49 ID:5ppyvX9x0
- …光陰だけ、第二詰め所は第二詰め所でも。
おもいっきり第二詰め所の建物から離れた、敷地の外れの離れ小屋なんでは。
悠人が良くて何故に自分だけダメなのかと納得いかないが今日子に逆らえず泣き寝入り。
毎日、欠かさず決まった時間に食事に呼びに来てくれるクォーリン。
毎日、お茶会とかあると必ず誘いに来てくれるクォーリン。
毎日、朝と寝る前は挨拶を交わすためにわざわざ来てくれるクォーリン。
毎日、遠慮する光陰ににこやかに微笑みながら掃除など家事一般を申し出るクォーリン。
毎日、光陰が第二詰め所に住めるように悠人や今日子に直訴してくれるクォーリン。
ここまでされても、「クォーリンはいいやつだなあ」としか理解できない光陰。
…光陰より、クォーリンが不憫で泣けてきた。
- 357 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/25(金) 19:54:05 ID:YWZRct+t0
- >>356
全米が泣いた。
ただそんな努力もあってか、人気投票では思いがけず大健闘w
- 358 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/25(金) 19:54:43 ID:/zLSioWb0
- |
\ __ /
_ (m) _ピコーン
|ミ|
/ `´ \
('A`) そうだ! 離れで一緒に住めばいいんだ!!
ノヽノヽ
くく
- 359 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/25(金) 20:36:07 ID:eOGfoIn00
- 第二詰所の離れの夜。
ベッドに横たわって本を読む光陰と、その傍で編み物をするクォーリン。
「なあ、クォーリン」
「はい、なんでしょう、コウイン様」
「今日さ、第二詰所に遊びにいったんだよ」
「…そうでしたね。何かあったんですか?」
「俺はさ、ほんの良心のつもりなのに、ネリーちゃん、シアーちゃん…遊ぼうって誘ったら、全力で拒否されたよ」
「お気になさらず。いつものことじゃないですか」
「それだけならまだいいよ。どうせ遊ぶなら、ユート様のほうがいい!って言うんだぜ?…沈むよなあ」
「ふふふ、きっと照れているんですよ」
「そっかなあ…子供って、時々残酷だからなあ」
「そこがかわいいものだと思いますけどね…」
たった一つのエーテルランプの灯火がクォーリンの顔を赤く照らしあげる。
ぼんやりとした光の中で、クォーリンは慈しみの目を光陰に向けながら、せっせと編み物をする。
「クォーリン。ずっと気になってたんだけど…その編み物って…?」
「これですか?ふふ、これから寒くなりますから、マフラーでもと思いまして…」
「ふーん。誰かにあげるのか?」
「は、はい。ですから、なるべく急いで…」
「そうかぁ…幸せ者だなぁ、女の人からプレゼントを貰える奴ってのはなぁ」
「あ、あの……コウイン様…」
「ん?どうした?」
「い、いえ……なんでもありません」
せっせ、せっせ。
- 360 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/25(金) 20:38:42 ID:L/IOpDjB0
- |
\ __ /
_ (m) _ピコーン
|ミ|
/ `´ \
('A`) なんて因果なクォーリン
ノヽノヽ
くく
_no
- 361 名前:351 :2005/11/25(金) 21:09:15 ID:RZTj9sbL0
- 皆dクス
うーん、微妙だけど第1詰め所にしとくかなぁ
ってかそれ前提でシナリオ書いちまったし…orz
>>359
健気なクウォーリン萌え
- 362 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/25(金) 21:22:43 ID:/zLSioWb0
- な ん で す か こ れ は 。
いかん、萌えたw
「クォーリン、そろそろ戻った方がいいんじゃないか? 明日に差し支えるぞ」
「あ、いえあのその……と、隣の、空き部屋に……今晩も泊まっても、いいですか……」
「ああ。いいけどあんまり感心しないな。クォーリンだって女の子なんだからさ。やもめ暮らしの男の部屋になんかそう泊まるもんじゃないぜ?
どんな噂が立つもんかわかったもんじゃない」
「…………ふふ。そうですね。……困りますね……コウインさま」
ふぅっと吹き消されたエーテルランプ。立ち上る幾本かの白い筋が、もう一つの部屋へ身を移す女と、男の間にいつまでもたゆたっていた。
- 363 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/25(金) 22:11:30 ID:I0DIwho90
- >>362
どんなシチュを用意しても不憫な展開にしかならないのはある種の才能ですなw
- 364 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/25(金) 22:37:30 ID:xa7jTIyBO
- きっと…スピたんでは……!!>クウォーリン
- 365 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/25(金) 23:19:10 ID:vuy6OeVB0
- 各CGによーく見ると居る。ずっとこっちを見てる。
- 366 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/25(金) 23:48:07 ID:UCUW6WzPO
- が、人丸は描いた覚えがない。
- 367 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/25(金) 23:59:28 ID:vtU4uiBc0
- >>366
怖すぎるぞw
- 368 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/26(土) 00:28:37 ID:9NwL4gT90
- 公式にCG追加!
・・・まだセリア姉さんのCGNEEEEEEE
光陰とミュラーさんテラカッコヨス
- 369 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/26(土) 00:33:49 ID:kzqqlgGV0
- セリアはまだツン状態なんだよ! デレ期にならんとCGは来ないのじゃまいか。
ところでツェナって、時深が残したガーディアンみたいなものなのではないだろうか。
- 370 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/26(土) 00:49:58 ID:PBs02lTeO
- 確かに「薙ぎ払う」が似合いそうな武器だな。
もしブレス吐いたら俺的には一気にランクアップ。
- 371 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/26(土) 20:45:24 ID:kzqqlgGV0
- 『エスちゅ♥』
- 372 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/26(土) 21:25:31 ID:HrdPuixA0
- >>371
『エスちゅ』は保管庫の人気投票コメント欄で連載しているよw
- 373 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/26(土) 21:27:00 ID:PQenxAL60
- >>368
光陰の後ろに半分ほど見えているのが…
- 374 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/27(日) 03:11:41 ID:/DbktaaN0
- スピたんを永遠のアセリアの続編とは思えないなあ。いいとこファンディスクが限界なんだけど、それにも無理を感じる…
やっぱ、前作ヒロインの影も形もないからかねえ。まあ、新主人公×前作ヒロインは雑魚スピよりも鬱になるがな。
ということは、やっぱユートがいないとなあ〜。前作ヒロインが出てこないでアセリアでのルートが不明なら、なかったファンタ残留ED後ってのもできたような気がします。
つか、普通に地雷になりそう、地雷でなかったとしても永遠のアセリア関連と考えて素直に楽しめないかもなあ
- 375 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/27(日) 07:35:21 ID:uUKelWgG0
- むしろゲーム部分の期待度の方を比重高くしているので、そちらの方面では問題ない。
ゲーム部分がアレだったらどうしよう、という別問題が発生しているが。
- 376 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/27(日) 08:29:09 ID:s/74eunk0
- …個人的には、素直にファンタズマゴリア異聞っつかアセリアIfとかにして。
メインスピ+今日子+時深+レスティーナのルートを削って…。
その削ったぶんを、雑魚スピ一人一人のルートにすりゃ良かったんじゃ?と思う。
今更、遅いけどね。
- 377 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/27(日) 11:21:19 ID:DNFPj2fq0
- >376
気持ちは分かるが、売れなさそうだな。
ここでだけ絶賛とかになりそうな。
いや、ライター違うんなら、それすら怪しいか。
- 378 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/27(日) 11:27:23 ID:14gWgJj/0
- IFって言うより、EX2?
- 379 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/27(日) 11:37:35 ID:14gWgJj/0
- そういやふと思ったんだが、オルファとウルカはデフォルトで生殖能力あってもおかしくないのでは。
テムも時深もサービス悪いのかなぁ?
- 380 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/27(日) 11:57:47 ID:Qcbg1+Po0
- >>379
二人とも、意味も無く自分たちに無いものをホイホイくっつけるほど、サービスがいいようにも思えないんだが…
- 381 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/27(日) 12:22:38 ID:Qcbg1+Po0
- ところでややスレ違いでもうしわけないんだが、スピたんには、永遠のアセリア&エクスパンションのヒロイン達は、
レスティーナ以外未登場ということで、ファイナルアンサーなんでしょうか?
クリアデータを読み込めば、時深以外の選ばなかったヒロインが登場、とか、レスティーナエンドのデータだと、時々、謎のヘタレ協力者が出没、とかだったらすんげーうれしいんですが(w
- 382 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/27(日) 12:42:47 ID:pP0vWN6E0
- 未だその匂いすらしないので、出ないと思っておく方が無難。
レスティーナだって出ない可能性もある。
クリアデータは夢にしておけ。
発売後に肯定派と否定派で更に荒れそうだな。
出来云々よりそっちが心配だよ。
- 383 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/27(日) 12:59:09 ID:3jfa5E6T0
- まぁでもゲームシステムよければ、それなりに満足するんでは無いだろうかと楽観してみる。
- 384 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/27(日) 13:00:17 ID:/DbktaaN0
- は?ライター違うんですか?
- 385 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/27(日) 13:38:50 ID:14gWgJj/0
- >380
「私は悠人さんの子供を産めます! って言うか産みます!」
- 386 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/27(日) 14:04:44 ID:/DbktaaN0
- オルファに生殖能力ないからスピにもないんじゃないの?
- 387 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/27(日) 14:06:25 ID:E9GxKE6u0
- >>386
微妙にズレてる気がする
- 388 名前:おにぎりの中身の人 :2005/11/27(日) 15:23:50 ID:81XRr/dm0
-
_,,..,,,,_
/ ,' 3 `ヽーっ
l ⊃ ⌒_つ
`'ー---‐'''''"
「スピたん」になって絵が妙に可愛くなったので
それにあわせて姿が変わった業火のントゥシュトゥラ
- 389 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/27(日) 16:34:46 ID:14gWgJj/0
- ントゥシュトゥラはかく語りき
TGのラジオ聞いたけど、まぁ通常を3位とするなら8位くらいの出来かな。
シアーの大物さだけは良く分かったw
- 390 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/27(日) 22:41:55 ID:Qcbg1+Po0
- 今、ふと気がついたんだが、ントゥシュトゥラの名前ってe.t.c.(エトセトラ)のもじりなんだろうか?
- 391 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/27(日) 22:50:29 ID:myr72TbA0
- ントゥシトラ
でしょ。みんな。
- 392 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/27(日) 23:00:27 ID:C+NZVWLa0
- すまん、流れを読まずに悪いんだが、クォーリンて誰だっけ? 本編にいたのか、それとも設定集か何かか?
- 393 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/27(日) 23:02:58 ID:OmKGDA6J0
- >392
>>365-366
- 394 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/27(日) 23:39:29 ID:FUQwiTQr0
- 設定資料集ではウルカと仲良く会話しているね
- 395 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/28(月) 00:12:31 ID:oAqglTCO0
- >>392
本編の共通シナリオをよーーーーーく読み返してみよう。マロリガン戦辺りを。
- 396 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/28(月) 00:26:55 ID:zEtO/+tuO
- 正確にはマロリガン組生存ルートのマロリガン最終戦あたり。
…あ、俺PS2版じゃ毎回死亡ルートだ。(セリアイベントの為)
- 397 名前:ネリーこーる :2005/11/28(月) 06:52:37 ID:PDChovDh0
-
ちゃ〜ら〜ら ちゃ〜ら〜ら ちゃ〜ら〜ら〜♪
――――んふふ〜いよいよだね〜。敵なんてネリーの魅力でイチコロなんだからぁ〜
「さぁって――」
「散開、敵の攻撃を逸らしつつ戦いましょう」
――――ちょ、ナナルゥ、ネリーの台詞邪魔しないでよぅ、折角くーるに決めようとしてたのにぃ!
「楽勝だ……我々にかなうはずがない」
――――う、何だか強そう…………でも、負けないんだから。いっけー!
「この距離はネリーの間合いっ! もらったぁ〜〜っ!!」
ざしゅっ!
「うぁぁっっ! こうもダメージを食らうとはっ!」
――――当ったっ! よっし、次のターンで止めだよっ! ネリー、強いっ! ネリー、くーるっ!!
「……まとめて、消し飛ばします。アポカリプスッッ!!」
―――― ………………へ?
ズガガガガーーーンン……………………しーん…………
――――ネ、ネリーの攻撃って一体……orz
じゃんっじゃかじゃじゃんっじゃじゃんっ じゃんっじゃかじゃじゃんっじゃじゃんっ…………
- 398 名前:ネリーこーる :2005/11/28(月) 06:53:33 ID:PDChovDh0
- 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ナナルゥ、次からアポカリプス禁止」
「……何故ですか、ネリー」
「なんでもっ! あんなのズルいっ! ネリー、活躍できないじゃんっ!!」
「活躍?……そんな事に意味があるとも思えませんが……判りました。アポカリプス禁止ですね」
「そ、アポカリプス禁止。ナナルゥだって、これ以上Md下がったらヤだよね?」
「…………本当にそこを心配してくれているのですか?」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ちゃ〜ら〜ら ちゃ〜ら〜ら ちゃ〜ら〜ら〜♪
――――今度は迎撃戦闘かぁ。まずは敵さんの出鼻、挫くよ〜
「く、くく、来るんですか? 来ちゃうんですかぁ? うぅ……」
――――お、今度は楽勝っぽい。へへ〜、ここはくーるなネリーの台詞でメロメロにぃ〜〜
「ふぅ、面倒」
――――わ、ニムいたの? てかまた台詞取られてるしっ! も〜、こっちがやる気無くなっちゃうよぉ!
「先制攻撃、いきます。イグニッションッッ!!」
―――― ……………………へ?
ズガガガガーーーンン……………………しーん…………
――――ネ、ネリーの出番が、台詞が一言も…………あ、あれ? もしかしてネリー、……いらないこ? orz
じゃんっじゃかじゃじゃんっじゃじゃんっ じゃんっじゃかじゃじゃんっじゃじゃんっ…………
- 399 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/28(月) 08:01:47 ID:vNTeqkfn0
- …ネリー、どんまい。
でもまあ、編成に加えてもらえるだけまだいいと思うよ。
君の妹なんて、確かに一撃の重さが取り得と言っちゃ取り得だけれど。
実のところ、並み居る肉弾戦メンツの中ではパワー不足の部類に入るから。
加えて、攻撃回数の少なさとサポートスキルも並程度。
愛と萌えがなければ、ふつーならベンチウォーマーです。
それに比べれば、黒スピに近い攻撃回数とサイレントフィールドのある君はマシ。
………負けるな、青スピ双子(Tд⊂)
- 400 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/28(月) 14:07:01 ID:bVZWwgJr0
- ネリーのサイレントフィールド2とアイスバニッシャー9を覚える速さは大変ありがたい
シアーはサポート倒す時は役に立ってる気がする
- 401 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/28(月) 19:25:03 ID:6XomMMBz0
- >>400
PS版は直接A,、Sを狙えるからね
- 402 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/28(月) 20:09:08 ID:XCuU6fC10
- >>401
おかげでシアーはエースアタッカーになりましたよ
S狙い撃ちのフューリー強いわぁ
- 403 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/28(月) 20:09:51 ID:XCuU6fC10
- sage忘れすみませぬorz
- 404 名前:勝手に続こーる :2005/11/28(月) 20:59:30 ID:1vHVkDwK0
- 「ユートさま、この編成で本っっ当に良いのですか?後悔なさいませんか?」
「う…なんか目が怖いぞエスペリア。まあほら、回復は俺が担当すればいいだけだし、
キャンセルはどっちかに任せれば良いし、意外とバランス取れてるから心配しなくていいよ。」
「―――わかりました…ブツブツ」
ちゃ〜ら〜ら ちゃ〜ら〜ら ちゃ〜ら〜ら〜♪
―――ふっふ〜ん、今度こそネリーの出番!ユートさまに渡したヨフアル代は痛かったけど、
組んでもらったネリー・シアー・ユートさまの部隊構成ならきっと言える!
シアーにも台詞取らないでって釘を刺しておいたし、準備は万全よね〜!
敵さんどこかな〜っと♪……あ、いたいた!
「さーってと、きあ」「あ、人がいる〜。こんにちは〜……あれ、敵?」
「うわああ〜ん!シアーのバカバカバカ〜っ!!」
「お〜い、ネリー、戦闘だぞ〜、どこに行くんだ〜?」
- 405 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/28(月) 21:03:00 ID:D+rMppYCO
- SHだとほんといいとこ無しだからなあ>シアー
能力値的にはなかなか優秀なんだし、狙い撃ち系スキルに
行動-1とか付いてれば最後まで見せ場があったのに
- 406 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/28(月) 21:06:07 ID:ypgkzX4s0
- むむ、グールに続いてこーるか。
次は…………ドールで! 1/1
前置きリビドーはさておき、
なんて事を言うんだネリー! ナナルゥが、ナナルゥが! どんな気持ちで心を鰹節の如く削って美味しいだし汁で
ネリーのマインドを守ってくれているのか分からないなんて! 君はクールなんかじゃない。まだまだお子様だ!
…………ぉっと。
ネリー。分かってくれたかい。そうだ、いいんだよさぁ僕の胸でお泣き……ハァハァ ほら、ぼ僕の部屋に行こうか ゴク 落ち着いたら
ナナルゥに誤りに(スターダスト)
- 407 名前:勝手に改こーる :2005/11/28(月) 22:51:42 ID:PDChovDh0
- ちゃ〜ら〜ら ちゃ〜ら〜ら ちゃ〜ら〜ら〜♪
―――ふっふ〜ん、今度こそネリーの出番!コウインさまに渡したニーソックスは痛かったけど、
組んでもらったネリー・エスペリア・コウインさまの部隊構成ならきっと言える!
エスペリアなら台詞まで寝取らないだろうし、準備は万全よね〜! 敵さんどこかな〜っと♪……あ、いたいた!
「さーってと、きあ」「さて、いくか。特に面白くもないけど、燃えたくもないしな」
「うわああ〜ん! コウインさまのばかばかぁ〜! ロリぃ〜〜っっ」
「ちょ、ちょっと戦闘中ですよネリー、せめてアイスバニッシャーを…………きゃぁぁぁっっ!!!」
「な、なんだかわからんが……俺が悪いのかぁっ?!!」
- 408 名前:勝手に再こーる :2005/11/29(火) 00:51:35 ID:c+RhhOME0
- くっそー。みんなしてネリーが奮発したソデノシタを無視するんだもん。うむむぅーもうこうなったら、ネリーにだって考えがあるもんねっ。
えーと。えーと。
|
\ __ /
_ (m) _ピコーン
|ミ|
/ `´ \
,べV
/ 〃  ̄ ヾ;
! i ミ(ノハソ そうだ! オールラウンダーになっちゃえばいいんだ!
!ik(i|゚ ヮ゚ハ ネリーってあったまいいーー! くーる!!
リ
――――きたきたきたぁ〜♪ 気合を入れて、いっくよ〜
Eミニオン赤「……………………」
――――マナよ、我に従え。場を凍てつかせ、静寂となせ
Eミニオン緑「……………………」
――――これやると疲れるんだけど…… そんなこと考えてる場合じゃないよね いくよっっ!!
Eミニオン青「……………………」
――――へっへー。やった、ちょっと強かったけど楽勝だねシアー?……………………
,べV
/ 〃  ̄ ヾ;
! i ミ(ノハソ
リ !ik;-;ハ, <シア〜〜ユートさま〜コウインさまでもいいから〜さみしいよ〜
( Ημ)|
乙_∪ .∪
- 409 名前:どりるあーむ ◆ncKvmqq0Bs :2005/11/29(火) 04:52:29 ID:heCtSIL00
- ネリーこーる、ステキすぎですなw
本当にそろそろいいのかな、と不安ですけどもシアー長編の続き投下です。
「いつか、二人の孤独を重ねて」
第5章「こころをふみにつづるいみ、やさしいおもいでをくれるいみ」です。
今回は、8レス分あります。
前回がちっと暗かったので、もう少し雰囲気を明るくしています。
では、良ければどうぞ。
- 410 名前:いつか、二人の孤独を重ねて1/8 :2005/11/29(火) 05:01:39 ID:heCtSIL00
- 「みんな、今日から日記をつけるようにするのはどうでしょう」
妙に上機嫌なエスペリアが、唐突に何の前触れもなくそう言い出す。
ラキオススピリット隊第一詰め所の食卓は、清々しい朝の空気と光に満ちていた。
第一詰め所の面々は、朝食を終えて食後のお茶を楽しんでる最中であった。
みんなでほうっと心地よい一息をついた直後に、エスペリアのいきなりな提案。
エスペリア以外の全員が、ぽかんと口を開けたままエスペリアを見つめていた。
ただ一人、いつものように感情の掴みづらい表情のまま無言で頷くアセリアをのぞいて。
「日記、か?…エスペリア、俺まだ聖ヨト語は話せるだけで読み書きは…」
そう言いかけた悠人を、エスペリアはにこにこと上機嫌なまま遮る。
「読み書きでしたら、日記を書きながら覚えれば大丈夫です。
もちろん、私と特別コーチが教えますのでユート様は何の心配もいりません」
-いや、めんどうくさいし…第一、そんな暇があるのか?
「めんどうくさくありませんし、私は毎日欠かさず日記をつけていますよ?」
にこにこ微笑んだまま、さりげなく悠人の思った事を読んでくるエスペリア姉さん。
さすがに毎日見ているだけあって、言動パターンを把握している様子。
人の言動パターンを読むな、と言いたかったがまた読まれるのもイヤなので黙る悠人。
「エスペリア殿、質問があるのですが…」
すっかりラキオス隊に馴染んだウルカが、おずおずと挙手してエスペリアに尋ねる。
「はい、ウルカ…なんでしょう?」
なんだか緊張しているウルカに対して、エスペリアはやわらかな微笑みで応える。
「その…ニッキとはいかなるものなのでしょうか?」
極めて大真面目に、そう質問してきたウルカとアセリアをのぞいて固まる全員。
-あー、でも考えてみれば帝国には入浴の習慣もないそうだしなあ…。
-本当に、国によってスピリットに対する扱いが違うものなんだなぁ。
悠人はあごに手を当てて、この異世界で同じ大陸であっても文化の違いを実感する。
もっとも、悠人にとってはあまりいい感じを持てない文化の違いであったが。
エスペリアの説明に真剣に相槌を打ちながら一言一句聞き漏らすまいとしているウルカ。
そして何故か、ウルカにあわせて一緒に相槌を打つアセリア。
- 411 名前:いつか、二人の孤独を重ねて2/8 :2005/11/29(火) 05:14:55 ID:heCtSIL00
- 「なるほど…己の毎日を自ら書き綴る事で自己の精神を見つめる修行なのですね」
微妙に勘違いしているウルカだが、あえて誰もつっこまないでおいた。
「オルファも日記つけなきゃダメ?…どうしても?」
悠人以上に、いかにもめんどくさそうに文句言ってくるオルファ。
その手は、せわしなく飲みかけのお茶の入ったカップをぐるぐるまわしている。
「オルファ…一人でつけるのが辛いなら、むしろ楽しくつける方法がありますよ」
そんなオルファに対し、エスペリアはに楽しそうに笑ってみせる。
「つまりですね…誰かと一緒に交換日記をつければいいんです」
得意気なエスペリアと頭に疑問符を浮かべたウルカとアセリア。
悠人とオルファは一瞬再びぽかんと口を開けたが、やがて諦めのため息をついた。
再び挙手しかけたウルカに、聞かれる前に交換日記とは何かを説明するエスペリア。
「ん…じゃあ、わたしはセリアと交換日記をつけたい」
そう言ったかと思うと、さっとカップを台所に運んでさっと出かけるアセリア。
「ふむ、ならば手前はヘリオン殿に申し込むこととしましょう…。
互いに毎日の鍛錬の結果について感想と意見交換を交わせば剣の道も見えましょう」
ゆっくりと茶を飲みながら、ヤる気満々にウィングハイロゥを展開しているウルカ。
「じゃあ、オルファは…誰がいいかなぁ。本当は、パパがいいんだけど…」
ちらりと自分を見ながら、そう言うオルファの言葉に悠人は妙な胸騒ぎを覚える。
「でもパパはシアーとコイビト同士だから、やっぱりシアーがいいんだよね?」
口に含んでいた茶を盛大に豪快な音と共に噴いてしまう悠人。
「いいなー、互いに愛しあってれば交換日記も楽しそうだよねー」
拗ねた顔のオルファに、現在の自分にとっては心臓に悪い言葉を続けられむせる悠人。
「オ、オルファ…その、今更否定はしないがやはりそこまで進んでるわけじゃ…」
咳き込みながら今ひとつ潔くない態度をとる悠人にオルファは顔をしかめる。
「パパ、ユージューフダンは良くない。カレシなんだからカノジョを大事にしなきゃ」
もはや毎度のごとく、こういう場面では力なくうなだれるしかないソゥユート。
ふと、肩をつつかれてるのに気がつくとお茶をかぶったエスペリアがムスッとしていた。
- 412 名前:いつか、二人の孤独を重ねて2/8 :2005/11/29(火) 05:30:33 ID:heCtSIL00
- エスペリアの「日記つけましょ」発言からだいたい一時間後くらいだろうか。
無い知恵を総動員してあらゆる抵抗を試みたが、全て無駄に終わった。
悠人は、ため息をつきながら第二詰め所への道を歩いていた。
大陸中に音と聞こえるラキオスの名参謀・献身のエスペリア姉さん曰く。
-ユート様とシアーは生まれ育った環境の違いもさることながら、年の差もあります。
-それ故に、日常で普段接しているだけでは通じ合えない事も互いにあるでしょう。
-ふたりとも、周囲と一歩距離を置いて一人で抱え込む癖は共通しています。
-あ、これはネリーが言ってたんですよ。私、なるほどと思いました。
-私は、それもまた以前の騒動の原因ではないかと考えています。
-もしまた似たような事があれば、隊全体の士気に関わります。
-そこで、今回の交換日記でシアーから読み書きを教わりながら交流を図ってください。
-シアーがカバーしきれない分は、私がサポートいたします。
-この期に及んで、まさかイヤとは言わせませんよ?
そう言いながらやたらと分厚い新品の日記帳を押し付けたエスペリアの笑顔。
普段なら戦いなどで疲れた心を癒してくれるはずのそれを思い出して、またため息。
ふと歩みを止めて、持たされた日記帳の表紙を見やる。
装丁はいかにも丈夫そうな革製なのだが…真ん中にあまりに不似合いな相合傘マーク。
その革表紙に最初から刻印された相合傘マークから、ハナから交換日記専用であるらしい。
ご丁寧に、相合傘マークの左右にそれぞれ聖ヨト語でユート、シアーと記されてある。
というか、渡されたその場で強引にエスペリアによって無理やり自分で書かされたのだが。
いくらなんでも、これを渡すのは物凄く恥ずかしい。
少なくとも悠人にとっては、顔から火どころかアポカリプスが出そうな代物である。
「ほんっと〜に、これをシアーに渡すのか?第一、俺は交換日記なんて柄じゃないし。
一昔前の中学生じゃあるまいし、大体年上の俺からシアーに何て言うんだよ…」
そうして一度ため息をついて、改めて歩き出そうとすると不意に肩をつかまれる。
振り返ると、戦闘でもないのに無駄にオーラフォトンを全開している光陰がいた。
- 413 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/29(火) 05:38:55 ID:TV6x3lOn0
- 支援
- 414 名前:いつか、二人の孤独を重ねて4/8 :2005/11/29(火) 05:50:06 ID:heCtSIL00
- 「フッ…悠人から話は詳しく聞かせてもらったぜ」
第二詰め所の居間にて、ずらりと集まった女性陣の前にてニヒルに笑う光陰。
その背後では、悠人が何もかも諦めきった表情でたそがれていた。
女性陣、それも年少組からそんな悠人に冷たく痛い視線が容赦なく突き刺さる。
…約一名、クォーリンだけは光陰しか視界に入ってないというか恋する乙女の視線。
続いて光陰に、より冷たく痛い視線が鋭く突き刺さるが光陰はまるで意に介さない。
…正確には、クォーリン一人の視線だけは熱っぽいのだがやはり光陰は気づかない。
「と、いうわけでだ!ぜひとも俺から交換日記の相手を指定させていただきたい…。
いやむしろここは是が非でも、この碧光陰自ら指定させていただこうッ!」
拳を握り締めて鼻息荒く主張する光陰に、一同は同時にため息をつく。
…クォーリンだけは、マナの導きに必死で祈りを捧げながら期待の眼差しを向けているが。
「ふーん…コウイン、そんなにクォーリンと交換日記をつけたいんだ。
まぁニムはお姉ちゃんとつけるし、シアーはユートとつけるの確定なんだし」
表情と声はしれっとしているが、目だけは容赦なく光らせて輝爆弾発言を放つニム。
「そ、そーですねっ。わわ、私はウルカさんとつけることに決まりましたしっ!」
こんな時にこそ、ブラックスピリットの身上であるスピードを出せるヘリオン。
「せっかくだから、ネリーはオルファとつけたいかもっ!…せっかくだから、ね?」
続いてそう言いながら、まだ相手の決まってなかったオルファに目配せするネリー。
「オルファも、せっかくだからネリーがいいかも!…せっかくだから、ね?」
ネリーの目配せに同じく目配せで返しながら、一緒に最悪の事態を回避するオルファ。
とっさに展開された、年少組の息のあった連携に思わずほろりとしてしまう悠人。
「えっ…ちょっまっ、ニムントールちゃん?き、キミたちっ!?」
一瞬呆気に取られつつも慌てる光陰だが、自分を射抜く殺気に黙り込むしかなくなる。
それは全身から紫電を放ち始めた今日子と、ゆらりと剣に手を伸ばすファーレーンのもの。
その様子を見て、悠人は光陰の邪な野望が木っ端微塵に粉砕された事に安堵を覚えた。
- 415 名前:いつか、二人の孤独を重ねて5/8 :2005/11/29(火) 06:04:43 ID:heCtSIL00
- 不意にシアーと目があってしまい、二人とも顔が真っ赤に熱くなってしまう。
どれくらい、互いに見つめあっていたのだろうか。…実際は数十秒程度だが。
悠人はやがて、シアーの真っ赤な顔がだんだん困った顔になってくるのに気がついて。
目はあったままで、その場で深呼吸。同時にシアーも一緒に深呼吸したのはご愛嬌。
光陰の背後から出てきて、出来る限り平常心(のつもり)でシアーのほうへ歩いてゆく。
シアーの姿が少しずつ近づいてくるにつれ、焦りと恥ずかしさと鼓動の早さが加速する。
悠人にとって恐ろしく長い距離を経て、ソファーに座るシアーの前まで来る。
実際は、居間の入り口から少し離れた窓際のソファーまで程度の距離しかないのだが。
「や、やあ…お、おはようシアー。…い、今ちょっといいかな?」
ガチガチに固まった顔の筋肉を総動員して何とか微笑みながら、優しく話しかける。
そして、そーっとシアーの隣に腰を下ろす。
「ュ、ユート様…ぉはょぅ〜…」
か細くかすれる声でそう言ったかと思うと、両目にじわっと涙を潤ませるシアー。
「ま、まてまて泣くなシアー!すまん俺が悪かった、本当にごめんっ!」
何故か必死で謝りながら、シアーの髪を撫でてなだめようとする悠人。
片手で髪を撫でながら、もう片手に抱えていた日記帳をそっとシアーに渡す。
「えっと、多分話は理解してると思うんだけど。シアーさえ良ければ、だけど」
渡されたそれを両手で持って、じっと表紙を見ているシアー。
当然ながら、視線は表紙の真ん中の相合傘マークに注がれている。
-ほら見ろシアー引いてるじゃないか!もう少し普通の奴はなかったのか…?
「うん…ありがとうユート様。シアー、これでユート様と交換日記つけるね」
笑顔を向けて、照れくさそうに応じてくれたシアーに悠人はほっとしながら微笑んだ。
「ん、こちらこそありがとうなシアー。そ、それとその表紙はだな…」
ようやくさっきまでの緊張など色々が解けて、悠人が困った表情でそう言いかけると。
「うん、これ昨日キョウコ様が買ってきてエスペリアお姉ちゃんに渡したやつだよね」
本当に邪気のない笑顔で、ニコニコとこの事態の真の黒幕を暴露してくれるシアー。
悠人はキッと今日子を睨むが、今日子は腕組みして凄く面白そうにニヤニヤしていた。
- 416 名前:いつか、二人の孤独を重ねて6/8 :2005/11/29(火) 06:08:07 ID:heCtSIL00
- ところでクォーリンはというと、光陰の腕の中で失神していた。
「うおお、どうしたんだクォーリンっ!しっかりするんだ、目を覚ませぇ!」
何故クォーリンが失神しているかわからないまま、必死に呼びかけている光陰。
あえて説明すると、がっくりしていた光陰にクォーリンが交換日記を申し込んだところ…。
クォーリン、お前だけが俺の味方だよ…てな感じで快諾した瞬間に失神したのである。
とりあえず、そんな二人をそっと暖かく放置する事に無言で満場一致した悠人たちだった。
「さて、結果が出たわけですが」
突然、ナナルゥがお金がいくらか入った器を両手で抱えて一歩前に進み出てくる。
「さあ、賭けに負けた人は負け分をこの器に入れてください」
女性陣のうち何人かが、ため息ついたり残念そうな顔で次々と器にお金を入れていく。
「ハリオン、負け分が集まりました。
この賭けへの参加費と合わせて、勝ち分の分配には充分かと思われます」
すると、いつにもましてやたらと笑顔のハリオンが手に持ったメモを確認し出す。
「えっとぉ〜。勝ったのは…。
ヘリオンとクォーリンとヒミカとウルカとアセリアですねぇ〜。
おめでとうございます〜、今名前を呼ばれた人は勝ち分をもらいに来て下さい〜」
名前を呼ばれた面々が、ハリオンからお金を順番にもらっていく。
ちなみに失神しているクォーリンの分は、セリアが代わりにクォーリンの懐に入れていた。
その様子を見ていた悠人は、さすがに疑惑の眼差しをハリオンに向けながら質問する。
「ハリオン、ナナルゥ…その賭けとか勝ち分とかって一体なんだ?」
その質問に、ナナルゥが淡々とした声で返事をする。
「はい。ユート様とシアー、どちらから先に交換日記を申し込むかという賭けでした。
胴元はハリオンですので…基本的に儲けはハリオンのお菓子研究費用に行きます。
またごらんになられたように、ユート様から申し込む方に賭けた者は少数です。
ちなみに、私は負けました…残念です」
悠人はまたも力なくうなだれながら、自分は弄ばれてるのではと今更考えていた。
「あ…シアーの勝ち分を忘れていますよ、ハリオン」
シアーは、そのナナルゥの台詞で自分を凝視する悠人にあくまでもにっこり微笑んでいた。
- 417 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/29(火) 06:14:52 ID:PH2K8zvO0
- さーってと、支援入れていっくよ〜
- 418 名前:いつか、二人の孤独を重ねて7/8 :2005/11/29(火) 06:17:48 ID:heCtSIL00
- それからまたしばらくたって、ところも変わって第二詰め所のネリーとシアーの相部屋。
「えーっと、シミハオ・ラスレス・カウート。ハート、ネシロム」
そろそろ昼飯時になりつつある午前中の陽射しが室内をやわらかく照らしている。
「セィン、ユート。ムスル・レナ…イス」
二つ並べられた子供用の学習机のうち一つに向かって悪戦苦闘している悠人。
悠人のすぐ隣でその手の中の日記帳を覗き込んでいるシアーがつついてくる。
「ユート様、ちょっと間違ってる…。イス、ムスル・レナ…だよ」
むう、と唸りながら間違った箇所を訂正する悠人にシアーは軽く頷く。
あれから、二人で聖ヨト語の読み書きの勉強をしていた。
悠人にとって、聖ヨト語の文字の形状は厄介なものだった。
イメージがつかめないのである。
聖ヨト語の文字は現代世界での言語に関してのルールをあてはめづらかった。
それでもエスペリアのおかげで、発音だけは出来るようになっていたのが不幸中の幸い。
シアーの丁寧に噛み砕いて、根気良く確実に理解させる教え方も良かった。
現代世界では授業中は居眠りしてばかりの悠人も、おかげで頑張れていた。
もっとも、こんな状況で居眠りしようものなら後でどうなるか知れたものではなかったが。
何よりも、部屋の扉の向こうから感じる馴染み深すぎる神剣の気配の数と時々漏れる声。
「そ、そんな…あのバカ悠が勉強で全く居眠りする気配がないなんてっ!」
-今日子、その言葉よーく覚えておくからな。
「ああ…いかにシアーちゃんが教えてるとは言え悠人の忍耐力を侮っていたぜ」
-お前もだ光陰っ!…この屈辱、あとで必ずマキシマム友情パワーで返すからな!!
「さすがユート様です。もともと私の優秀な生徒でしたから、信じていました」
-エスペリア…感謝してもしきれないが、お前まで面白そうに賭けに参加しないでくれ。
-ていうか…何でラキオス隊の全員がそこにいるんだよ。
そう、ハリオンによってまたも賭けの対象(オモチャと読む)にされていた。
シアーの好意を無駄にしたくないのもあったが、プライドもかかっていた。
- 419 名前:いつか、二人の孤独を重ねて8/8 :2005/11/29(火) 06:27:24 ID:heCtSIL00
- 「ねえユート様…、今日はここまでにする〜?」
シアーの声に、そういえばお昼時だという事を思い出して頷く悠人。
エスペリアに言葉を習って以来、久しぶりの勉強だったが不思議と気分は爽やかだった。
少し疲れはあるけれど、それでも次はまた明日以降というのが妙に名残惜しかった。
「ありがとな、シアー。お疲れ様」
そう言って、シアーの髪を撫でて微笑む。
実のところ、悠人はシアーの髪を撫でるのが好きになっていた。
撫でられる時の、シアーの幸せそうな笑顔を見ると悠人自身も気持ちが安らぐから。
「ううん、どういたしまして…ユート様もお疲れ様〜、あふぁあぁぁぁ〜」
撫でられながら伸びをして、欠伸もしてしまうシアーがとても可愛かった。
-いつも、優しい思い出をありがとう。シアーもみんなも守り抜いてみせるからな…。
そんな思いを込めて見つめると、シアーも目をぱちくりさせながら悠人を見つめ返してきた。
その日の夜。
寝る前に、シアーは悠人からもらった日記帳に自分のぶんを綴っていた。
ちらりとネリーのベッドに視線をやると、目をこすりながらシアーを待っている。
相変わらず優しい双子の姉のために、もう急いで書き上げる事にした。
一応、今日の授業でユート様がどれくらい読み書きが出来るのかは把握できた。
だから、ユート様が読めるように配慮して書いているけれども。
たくさんある、伝えたい事を半分も書いていけないのがもどかしかった。
それでも…生きていける限り、自分が戦死しない限りまた書けるとも自分に言い聞かせる。
けれどもやはり、だからこそ怖くなる。
自分が戦争の真っ只中にいる事、今まで自分の剣で誰かの命をマナの霧と散らせてきた事。
そして何よりも、いつかは自分もマナの霧と散って再生の剣にかえるんだという予感。
だからせめて、一番伝えたい一文だけを最後に書き加えておく。
今はまだ、ユート様には読めないだろうけれども。
ウレーシェ、スサネシエ、ユントウ、セィン、ウレ、クカケ…イス、ティーカンス。
いつも、優しい思い出をありがとう…大好きです。
- 420 名前:どりるあーむ ◆ncKvmqq0Bs :2005/11/29(火) 06:30:50 ID:heCtSIL00
- どもです。支援をくださった方、どうもありがとうございました。
それと、何度も「本文が長すぎます」が出てまいりました。
文章に無駄が多すぎる、という事ですね…反省。
ほんとーに少しだけですが、死ねました…聖ヨト語。
「朔望」にて聖ヨト語を上手に演出に使いまくった信頼の人さん、マジ凄いですわ…。
文法もあってるか怪しいですが、それ以上に「記憶」の捏造翻訳が怪しさ大爆発です。
手元の聖ヨト語単語辞書にあった、単語の作り方に従ってはいるんですが。
カナ打ちの文字を基本的に右に一つずらす、例外もフィーリングもかなりあり。
で… キオク→クカケ となったんですがどうなんでしょう。
あと、現代世界の言語について触れてる部分も全部間違ってる可能性が激烈にあります。
はっきり言って、自分は致命的に脳みその性能が低スペックです…。
よければ、そのへんに誤字脱字ハリオンマジックの指摘をお願いします(´Д`;)ヾ
なお、今回の萌えコンセプトは「じっと見つめまくるシアー色々」でした。
ていうか、鎖骨とか太腿とかうなじとかがついに描けませんでした…ゴメンナサイ。
- 421 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/29(火) 06:56:55 ID:PtjLUDIO0
- >どりるあーむさん
お疲れ様でした。
前回とは打って変わって明るく仕上がってますな。
楽しく読ませていただきました。
>本文が長すぎます。
専用ブラウザを使ってはどうでしょう?
ワタクシ Jane Doe を使っていますが、
書き込む際にサイズ、行数、プレビューを確認できるので、大変便利です。
- 422 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/29(火) 08:01:05 ID:Hau566hz0
- >>420
乙。
ハリオン姉さん、その内容の賭けで当事者(シアー)の参加は反則です!w
「本文が長すぎます」は1レス当たりの行数制限ですので、
分割の仕方ですね。
- 423 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/29(火) 08:02:32 ID:Hau566hz0
- あ、バイト数もあったか。
- 424 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/29(火) 18:58:05 ID:/0xa7dh50
- >>420乙
先客がいるけどヨフアルをどうぞ
ttp://www.xuse.co.jp/product/spirits/img/spikoma_cool2.jpg
- 425 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/29(火) 19:46:36 ID:/3kYURM+0
- >>420
しまった。
何気に余計な事考えず、純粋に嬉しがってあっけらかんと申し込む光陰に不覚にも好感持ってしまった(汗
ついでとばかりに皆に推され、失神もののクォーリン。よかったねよかったね(違
渡す相手に校正受けつつ書くものを果たして交換日記というのだろうかなどという疑問は野暮ですね。
シアーにしてみれば自分の為に一生懸命何かをしてくれる、
そんなユートくんの横顔をそれこそじっと見つめているだけで幸せなのでしょう。
たとえそれが戦いの間だけの、泡沫の夢でも。
それはそうと賭けだったですかw シアーと悠人……自分だったらどっちに賭けるかなぁ。やっぱりネリーか(ぇ
- 426 名前:おにぎりの中身の人 :2005/11/29(火) 20:13:59 ID:4YqfjXMA0
- >>424
落ち着け、ハリオン姉さんとヨフアルを食べるのは俺だ。
>>420
お疲れ様でした。
シアー可愛いよシアー・・・
それにしてもよかったねクォーリン
さぁ今日からついにコウイン様との交換日記です!
ついに昨日コウイン様が書いてくれた日記を読むときが!
○月□日
今日はネリーちゃんシアーちゃんヘリオンちゃんニムちゃん、誰にも会えなかった。
あと、飯食って寝た。
コウイン
ク「も・・・・・も・・・・・・・・」
ク「コウインさま萌えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
ラキオススポーツ5面
自室で鼻血を出し、出血多量で危篤状態だった元稲妻部隊副隊長のクォーリンさんが発見された。
幸い発見が早く、その場に居合わせたHさん(仮名)のキュアーにより一命を取り留めた。
そのHさんのコメントによると
「昨日〜、クォーリンさんがお料理を教えて欲しいって言ってたものですから〜、台所で待っていたんですけど〜
いくらまっても来ないので彼女の部屋に行ってみたら〜・・・
あ、ちなみに今日は煮込み料理を教えようと思っていたんですけど〜
材料が無駄になったので第一詰め所に(ry」
以上、Hさんのコメントでした。
- 427 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/29(火) 20:30:03 ID:/3kYURM+0
- 誰にも合えなかったコウインさま萌えなんだろうかw
次の日のクォーリン日記
今日は一日中マナが足りなかった。
「ゥゥ……マナダ……マナヲヨコセ……」
とベッドで暴れまくる私をコウインさまがずっと支えてくれていたんですね。
意識が無かったのが残念ですけど、マロリガンの頃を思うとまるで夢のようでした。
ご迷惑をお掛けしたコウインさまに対してこんな事を言うのは不謹慎かも知れませんが、とても嬉しかったです。
……何かだだ甘の展開になりそうなので終わる。
- 428 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/29(火) 21:00:43 ID:heCtSIL00
- >>421鯨さん
ありがとうございます。
連続で暗いのが続くのは自分でも辛いので、明るい話にしました。
登場するキャラもイメージした時にいい顔をしてるように思えるように書いたつもりです。
専用ブラウザですか…確かにこの調子では必要かもですね。情報ありがとうございます。
>>422
まあ、ハリオン姉さんだしシアーだし細かい事にはあまり拘らなさそうなので。
(お菓子へのあくなき拘りはあるのでしょうけれども)
基本的に、みんなで楽しければいいやって感覚があるんじゃないかと。
あと、分割のしかたにバイト数ですか…やはり専用ブラウザなのかな。
>>424
ごっつぁんです。ハリオン姉さん、ちょっと向かいの席に失礼しますー。
>>425
そろそろ、光陰にも間違った意味での本領発揮をさせてもいい頃かなと。
クォーリンは、保管庫人気投票コメントでSSでも報われないとあったのでじゃあこのくらいで、と。
交換日記に関するネタには、色々と私なりに考えてる事がそれなりにあります。
雑魚スピルートSSの一つである以上、他の方の作品と「ユートとヒロインの気持ちの通じ合う過程」がかぶらない方法をと考えていました。
まあ、どこの田舎の中学生だっつー発想ですが…シアー相手にはこれが無難そうだったので。
文通や筆談とかで、面と向かっての音声での対話で出来ないコミュニケーションが出来るという場合もありますし。
に、しても…何処でもネリーのほーがシアーより人気ありますねえ…。
- 429 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/29(火) 21:10:54 ID:heCtSIL00
- >>426おにぎりの中の人さん
ありがとうございます。
実のところ、このSSで書いてるシアーは、ゲーム本編よりも快活で行動的です。
いつも、そこのところがどう思われてるのかなと不安だったりします。
ただ、ゲーム本編でイベントを見ていると本当は快活な部分があるんじゃないかとも思えるのです。
時深ルートで、オルファVSネリーの激闘が繰り広げられてる横でユートにアレするアレとか。
まぁ、基本的には不思議ちゃんタイプだとも感じているんですけどね。
ともあれ、可愛いと思っていただけたのなら幸いです。
クォーリンが、今度こそ報われるか否か。
…私が書くまでもなくすでに雑魚スピスレ的ネタが展開されてますなw
それにしても、初めてクォーリンを書いたので不安もあるわけですが。
- 430 名前:くじら318号 :2005/11/29(火) 21:40:08 ID:PtjLUDIO0
- えー、どうもこんばんは。
くじらでございます。
どりるあーむさんに続いて、長編の続きを投下したいと思います。
第W章ですが、おっそろしく長いので、容量の関係で3つ(4つになるかも)に分けることにしました。
今回はそのうちの一つ目です。
そのせいか、ヤマ場と言ったのにまだヤマ場がありません。
おまけに恐ろしく半端なところで切ってありますが、勘弁してください。
残り二つにつながる前座だと思ってくれれば幸いです。
では、くじら式長編第W章第1話。投下開始します。
- 431 名前:ただ、一途な心 第W章─私だけの愛のカタチ─ :2005/11/29(火) 21:43:32 ID:PtjLUDIO0
- ──────ヘリオンとハリオンの家で、突然の眠気に襲われて意識を失ってしまった三人。
気が付くとそこは全く別の場所・・・・・・悠人のいた世界、ハイペリアだった。
「な、なんでこんなことに・・・いや、それより・・・」
自分は目覚めたというのに、ヘリオンとハリオンはまだこの寒空で眠ったままだ。
さっさと起こさないと、風邪を引いてしまう。
「おい!起きてくれ、ヘリオン、ハリオン!」
大声で呼びかけるが、返事は無い。どうやら完全に夢の世界にいるようだ。
「ったく、ハリオン!起きろっ!」
悠人はそう叫んで、ハリオンの体を大きく揺さぶる。大きく揺れる胸とともに僅かに反応があった。
「んん〜♪ユート様ぁ〜、もう食べられません〜♪」
「おいっ!寝ぼけるな、さっさと、起きろ〜〜〜っ!!」
「う・・・ん、んん〜、もう、なんですか〜?」
夢の世界から無理矢理に呼び戻されたハリオンは、不機嫌そうに体を起こし、瞼をこする。
ハリオンが目を覚ましたのを確認すると、悠人は次にヘリオンの元に駆け寄る。
「ヘリオン!おい、ヘリオン!起きろっ!」
ハリオンと同じように、ヘリオンの体を大きく揺さぶる。
「う・・・ん、う〜ん、ゆ、ユート様が、わ、私にあ、あんなことや、そんなことを・・・」
「どんな夢見てんだよっ!!起きろっつ〜〜〜の〜〜〜!!!」
「はうっ!」
地をも揺るがすような大声がヘリオンの鼓膜を貫く。
これまた夢の世界から無理矢理に呼び戻されたヘリオンは、びくん、と跳ねるように目を覚ました。
- 432 名前:ただ、一途な心 第W章─私だけの愛のカタチ─ :2005/11/29(火) 21:44:41 ID:PtjLUDIO0
- ようやく意識を取り戻したヘリオンとハリオンは、きょろきょろと辺りを見回す。
さっきまで自分たちがいた、埃まみれのヘリオンとハリオンの家は影も形もなくなって、
代わりに今まで見たことも無い光景が目の前には広がっていた。
「あ、あらあら〜?ここは、どこですか〜?」
「・・・・・・へ?こ、ここ、どこですか?わ、私たちの家は?」
なにがなんだかわからずにおろおろしている二人に、悠人はなだめるように話しかける。
「ヘリオン、ハリオン・・・信じられないかもしれないけど、落ち着いて聞いてくれ。
ここは・・・・・・いや、この世界は・・・俺や、佳織、光陰、今日子のいた世界なんだ」
「・・・・・・はい〜?」
「・・・・・・え?」
やっぱり信じられない顔をする二人。
まあ、突然眠くなって、起きたら別の世界にいますって言われてあっさり信じる奴はいない。
・・・だが、悠人の世界に来ていることが現実である以上、信じてもらうしかなかった。
「ここが、ユート様の世界ですか〜?」
「ゆ、ユート様の世界・・・・・・ということは、も、もしかして、ハイペリアですか!?」
「そういうことになる・・・かな。とにかく、俺たちはハイペリアに来ちゃったんだよ!」
どういう解釈でもいい。とにかく、自分たちがファンタズマゴリアとは違うところにいることを解って欲しかった。
「ユート様〜?どうしてこんなことになったんですか〜?」
「そ、そうです!ゆ、ユート様・・・説明してくださいっ!」
「俺が知りたいよ!!」
偽らざる本音。この場には、どうしてこんなことになったのかを説明できる者はいなかった。
それは、ハイペリアからファンタズマゴリアに飛んできた悠人ですら例外ではない。
- 433 名前:ただ、一途な心 第W章─私だけの愛のカタチ─ :2005/11/29(火) 21:45:53 ID:PtjLUDIO0
- ひゅうぅっ
なにがなんだかわからない三人を急かすように、冬の北風がその場を吹き抜けた。
その寒風は、悠人はともかく、半袖姿のヘリオンとハリオンの体を急速に冷やす。
「はうぅっ!さ、寒いです〜!!」
「そうですね〜。この間までは暑いところだったのに、これじゃ風邪引いちゃいます〜」
「確かに、ここで燻っててもしょうがないな。ヘリオン、ハリオン。行こうぜ」
「行くって、何処へですか〜?」
「・・・・・・決まってるだろ。俺の家に、だよ」
「ゆ、ゆゆ、ユート様の家に!?い、行きましょう!今すぐにっ!」
なんだか凄く嬉しそうなヘリオン。悠人は今にもすっとんでいきそうなヘリオンと、
寒そうに上腕をさするハリオンと一緒に自宅へと向かうのだった。
三人は夜の住宅街を歩く。
ところどころにある街灯のお陰で明かりに困ることは無かった。大分久しぶりに歩いた、いつもの帰り道。
ご無沙汰していても、道を忘れる、ということはなく、どんどん自宅に近づいていく。
その道中、Y字路に差し掛かったところで、自宅の方向からコツ、コツと足音が聞こえてくる。
「誰か・・・来る!?おい、ヘリオン、ハリオン!隠れるぞ!」
悠人は小声で二人に指示する。
それに呆気にとられる二人だったが、悠人に引っ張られて傍にあった自動販売機の陰に隠れる。
当然、何か喋りださないように、両手で同時に二人の口を塞いだ状態で。
「むぐ、ん、ん〜〜〜んん〜!」
「んふ、ひゅーほはふぁ、ふふひいえふ!」
口をふさがれた二人はじたばたと抵抗するが、悠人は逃がさないようにしっかりと腕で押さえる。
悠人がちらり、と覗くと、OLらしい女性が歩いていくのが見えた。
幸いにも、こちらのほうの道に来るということも、こちらに気付くことも無く、女性は去っていった。
- 434 名前:ただ、一途な心 第W章─私だけの愛のカタチ─ :2005/11/29(火) 21:47:10 ID:PtjLUDIO0
- 「ふ〜、危ない危ない・・・」
悠人は二人の口を塞いでいた手を離す。
「はふぅ、危ない危ない・・・じゃないですよぅ〜、何するんですか〜?」
「はぁ、はぁ・・・そ、そうですよ!突然隠れて、口塞いできて・・・苦しいじゃないですか!」
全く状況が飲み込めていないヘリオンとハリオン。悠人は謝りながら説明しだした。
「悪い悪い・・・でもさ、俺はともかく、ヘリオンやハリオンはこの世界の人じゃないんだ。
・・・特に、そんな格好はこの世界にはないから、見た目だけだと凄く怪しいんだよ。わかるよな?」
ヘリオンとハリオンが着ているラキオスのスピリット隊の制服。
この世界でこの類の服を着るのはどこぞのコスプレ趣味のあるような奴だけだ。
あまつさえハリオンは槍持ってるし、ヘリオンは刀ぶら下げてる。これで怪しくないわけなかった。
「ああ〜、だから隠れたんですね〜」
「そうだったんですか・・・ご、ごめんなさい!ユート様!」
「いや、わかってくれればいいんだ・・・だから、なるべく誰にも見つからないように・・・急ごう」
「はいはい〜」
「は、はい!行きましょう!」
・・・よくよく考えたら、今喋ってる言葉も日本語とは全く別の言語。どんなに忍んでも喋られたらアウトだろう。
まあ、喋りそうになったら注意すればいいだろうと悠人は思い、先を急ぐのだった。
・・・・・・
「おい、君たち何をしているんだ?」
「や、やばい!警官だ!逃げろおおぉーーっ!」
「はううっ!なんだかわかんないけど、あの人怖いです〜っ!!」
「お、おい君たち、待ちなさい!」
どっぴゅ〜ん!
悠人たちは脱兎のごとく逃げ出す。
「は、速い・・・・・・もう見えなくなってしまった。なんだったんだ、今の?」
・・・・・・
「い〜しや〜きいも〜、や〜きいも〜、や〜きたて〜♪」
「こっちもダメだぁっ!!」
「・・・でも、なんだか美味しそうなにおいがします〜♪」
「今度買ってやるから!今はダメ!」
「はぁ、ざんねんです〜・・・」
- 435 名前:ただ、一途な心 第W章─私だけの愛のカタチ─ :2005/11/29(火) 21:48:16 ID:PtjLUDIO0
-
──────30分後、悠人たちはようやくあるマンションの一室のドアの前に来ていた。
人目を避け、警官から逃げ、ダンボール箱をかぶって右往左往しているうちに、時間がかかってしまった。
「はー、はー・・・・・・やっとついた・・・ったく、どうして夜中だってのにこんなに人が・・・」
「ここが、ユート様の家なんですか〜?」
ヘリオンとハリオンは目の前のドアを見つめる。
マンションやアパートは向こうには無かったから、こういう家だったとは思わなかっただろう。
表札には『高嶺』と書かれていたが、当然、二人にはそれを読むことはできなかった。
早速、悠人は鍵を取り出して鍵を開け、ドアを開けた。
「さ、入ってくれ」
「は、はい!では、お邪魔しますっ!」
悠人に促され、ヘリオンとハリオンは部屋の中へと入っていった。
夜中で誰もいないということもあって、部屋の中は真っ暗。慣れた場所にある電灯のスイッチを入れる。
ぱちんっ
「ひゃあっ!」
突然明るくなる室内に、ヘリオンは飛び跳ねるように驚く。
「あらあら〜、ここだけお昼みたいですね〜♪」
その蛍光灯の明るさは、向こうのエーテル灯の明るさとは段違いだった。
白色の光によって照らし出されたリビングは、あのときのまま。いつもとなんら変わりない空間だった。
違うのは、佳織がいないことと、ヘリオンとハリオンがそこにいること。
悠人はちらり、と壁にかかった時計を見る。12月9日、10:30・・・道理で暗いわけだ。
そんなことよりも、あの時から日付が変わっていないことに驚く。
- 436 名前:ただ、一途な心 第W章─私だけの愛のカタチ─ :2005/11/29(火) 21:50:59 ID:PtjLUDIO0
- 「・・・さて、これからどうしようか・・・」
「私、ちょっと疲れちゃって・・・眠いんですけど〜」
「そ、そうですね、私も眠いです・・・ふぁ〜あ・・・」
ヘリオンは大きくあくびをする。ついさっき起きたばかりなのに、どういうわけか眠い。
それは悠人も同じだった。
「そうだな・・・じゃあ寝るとするか。こっちに来てくれ」
悠人は二人を自分の部屋のほうに案内する。
「向かって左側が俺の部屋・・・右側が佳織の部屋だから。ヘリオンとハリオンは、佳織の部屋で寝てくれ」
「あらあら〜、そんなこと言わずに〜、一緒に寝ましょうよ〜ユート様〜♪」
「は、ハリオンさんっ!そ、そそそんなのだめですよっ!」
どうしてこうなのか、先日の風呂のときに続いて悠人と一緒にいたがるハリオン。
ヘリオンはそんなハリオンを見るなり、大慌てでそれを止めようとする。
・・・が、ヘリオンの制止はハリオンに対しては効果が無い。結局は悠人が判定を下すのだった。
「はは・・・悪いけど、一人にしてくれ。頼む」
「ほ、ほら!ユート様もこう言ってますから!ハリオンさん!こっちに来てください!」
「はいはい〜。ではユート様、おやすみなさい〜」
なんだか必死なヘリオンに引きずられ、ハリオンは佳織の部屋へと入っていく。
「やれやれ・・・」
悠人は一言そう言うと、自分の部屋へと入っていった。
悠人は【求め】を立てかけ、疲れきった顔で、大分久しぶりに自分のベッドに寝っころがる。
冬の気候で冷え切った布団は、どこか気持ちよかった。
「なんでこんなことになったんだろう・・・」
考えていたのは、どうしてこんなことになったのか、どうして帰ってきてしまったのか。
二つの世界を、二度も行き来した自分。
ファンタズマゴリアに行ったときは、佳織や、今日子、光陰も一緒に飛ばされた。
今度はこっち、ハイペリアに戻ってきたときには、ヘリオンとハリオンが一緒。
- 437 名前:ただ、一途な心 第W章─私だけの愛のカタチ─ :2005/11/29(火) 21:51:45 ID:PtjLUDIO0
- ふと、【求め】に言われたことを思い出す。
佳織の両親が死んだのも、佳織たちが一緒にファンタズマゴリアに飛ばされたのも、自分に巻き込まれたから。
今回のこともそうなのだろうか?ヘリオンやハリオンも自分に巻き込まれたのだろうか?
「俺のせい、なのかな・・・」
疫病神。よく瞬に言われてたその単語が瞬時にして悠人の頭の中を駆け巡る。
佳織たちにとっても、ヘリオンやハリオンにとっても、自分の世界の方がいいに決まってる。
「俺に巻き込まれたのか・・・俺は、みんなのことを邪魔して、こんな目にあわせて・・・」
罪悪感が積もる。
フルートに情熱をかける佳織、一生懸命に自分を励まして、突っ込んでくれていた親友の今日子に光陰。
自分たちに残された、かけがえのない家族を、大事な人を守るために戦うヘリオンとハリオン。
例えそれがどんな形であれ、ちゃんとみんな生きる目標みたいなものを持っていた。
悠人には、それを自分の都合で巻き込んで、邪魔してしまった。・・・そんな自責の念がのしかかる。
「くそっ・・・!俺は、俺は・・・・・・!!」
情けない。情けなさすぎる。勝手に巻き込んでおいて、いざって時に何もできないなんて。
原因も何もわからない。どうやって世界の境界線を越えればいいのかわからない。
情けなさと悔しさで思わず涙が出てくる。ごろんと寝返りを打って、掛け布団をぎゅっと握り締めていた。
こんこん。
突然、部屋のドアが叩かれる。この遠慮しがちなノックは、ヘリオンのものだった。
「・・・どうした?」
悠人は布団で涙を拭い、ドア越しに話しかける。
「あ、あの〜、ゆ、ユート様、ちょっと来て欲しいんですけど・・・」
「・・・?」
- 438 名前:ただ、一途な心 第W章─私だけの愛のカタチ─ :2005/11/29(火) 21:52:36 ID:PtjLUDIO0
- 悠人は体を起こし、ベッドから降りるとドアに近づき、ドアをがちゃり、と開ける。
すると、そこには頬を赤らめてなんだかもじもじしているヘリオンが立っていた。
「どうしたんだ、ヘリオン。眠れないのか?」
「い、いえ、そうじゃなくて・・・あ、でも、確かに眠れませんけど・・・はうぅ・・・」
「なんだよ、はっきりしろって」
「えっと、その〜・・・おトイレ、どこですか?」
ヘリオンがそういった瞬間、全身の力ががくっ、と抜ける。
何か精神的なもので眠れないのかと思いきや、トイレに行きたくて眠れなかったのだ。
悠人は拍子抜けして、思わずずっこけそうになった。
「な、なんだ、そんなことかよ。トイレだったらあのドアだよ」
悠人はそう言って、玄関口の傍にあるドアを指差す。が、ヘリオンはどうにもこうにも動けないようだ。
「あ、あの・・・ゆ、ユート様、一緒に来てください!」
「な、なな、なんでだよ!俺は女の子と一緒にトイレに入る趣味は無いぞ!」
「えと、あの、そういうわけじゃなくて・・・・・・その、私、夜中のおトイレは一人じゃダメなんですよぅ・・・」
「あのなぁ・・・ヘリオン、お前一体幾つになったんだよ。そんな子供みたいな・・・」
「い、幾つになってもダメなものはダメなんです〜!と、とにかく来てください〜!」
「ハリオンに頼めばいいだろ?わざわざ俺が行かなくたって・・・」
「ハリオンさんならもう寝ちゃいましたよぅ〜。無理矢理起こすとここが戦場になっちゃいます〜!」
「げ・・・もう寝たのか。は、早い・・・」
余程眠かったのか、それとも寝つきはいいほうなのか。どこぞのマンガの昼寝少年並みの早さだった。
いつだったかハリオンのせっかんを受けたときのことがフラッシュバックする。・・・あんなことはもう勘弁だった。
「は、はやく一緒に来てください〜・・・も、漏れちゃいますよぅ〜・・・」
そう言われてヘリオンを見ると、股間を押さえ、真っ赤な顔で我慢、さっきにも増してもじもじしている。
「わ、わかったよ。行けばいいんだろ、行けば・・・」
「あ、ありがとうございます〜・・・」
悠人は、極端な内股でちょこちょこと歩くヘリオンの手を引いて、トイレまで付き合うことにしたのだった。
- 439 名前:ただ、一途な心 第W章─私だけの愛のカタチ─ :2005/11/29(火) 21:53:45 ID:PtjLUDIO0
- トイレのところまで来ると、ヘリオンはそのドアを開けて、勢いよく飛び込んでドアを閉めた。
「は、はあぁぁ〜〜・・・・・・助かりましたぁ」
ドア越しにちょろちょろという水音がする。
悠人は妙な想像を膨らまさないようにして、トイレの横の壁に寄りかかっていた。
トイレの基本的な形は一緒だったから、ハイペリア式洋風便器をヘリオンでも扱うことができたのだろう。
「ゆ、ユート様、ちゃんといますよね!?」
「はいはい、俺はここにいますよ・・・」
本当に子供っぽかった。小さいころ何かあったんだろうか、よっぽど深夜のトイレは怖いらしい。
「(・・・ま、その辺は余計に詮索しないことにしよう。ヘリオンだって、自分のこと探られたら嫌だろうし)」
「えっと・・・これ、何でしょう・・・」
「(ん・・・?)」
ピッ
「ひゃああうぅっ!!」
「な、なんだ!?どうしたヘリオン!!」
突然奇声を張り上げるヘリオン。直前のピッという音から、何が起こったのかは大体想像が付いた。
「ゆ、ユート様!な、なんだか急におしりにお湯がぁ〜!!と、止めてください〜!!」
思ったとおり、ヘリオンはウォッシュレットのスイッチを押してしまったらしい。
止めてくださいと、悠人はその声に思わずトイレに突入しそうになるが、ここは抑えて声で指示する。
「ヘリオン!落ち着け!右側の赤い印を押すんだ!」
「あ、あか・・・・・・赤い印〜・・・これですね!」
ピッ
「あ・・・・・・」
「止まったか?」
「あの・・・間違えて、ピンク色のを押しちゃったんですけど・・・」
ピンク色のスイッチはなんだっただろうか、悠人は普段は使わないので急には思い出せなかった。
「き、きゃあああぁぁぁあああ〜〜!!こ、今度は前にお湯がぁ〜!!」
ようやく思い出した。ピンク色のスイッチ、それは女性の前のほうを洗う装置だったこと。
「お、落ち着け!落ち着いて止めろ〜!」
- 440 名前:ただ、一途な心 第W章─私だけの愛のカタチ─ :2005/11/29(火) 21:54:48 ID:PtjLUDIO0
- 「あ、あふ・・・くぅ、ちょ、ちょっと気持ちいいかも〜、は、はうぅ・・・・・・」
人肌程度の温度で吹き出すお湯で秘部を刺激され、息を切らして悶絶するヘリオン。
なるほどそういう使い方もあったか、などと感心している場合ではなかった。
「ヘリオン!さっさと止めるんだ!そうしないと精神がイケナイ方向に〜!!」
「はぁ、はあぁ・・・わ、わかりました〜・・・ふ、あふぅ・・・」
ピッ
何も起こらない。どうやら今度はちゃんと止められたらしい。
「だ、大丈夫か、ヘリオン・・・?」
「は、はいぃ・・・ユート様、すぐ出ますね」
コロコロコロ・・・・・・
「え、えっと、ユート様。流すにはどうすれば・・・」
「左側の銀色のレバーだよ」
「あ、これですね!」
くいっ。じゃばばばば〜・・・がちゃ。
「はあぁ・・・・・・すっきりしましたぁ♪」
ヘリオンは満足そうに笑顔を向けてくる。悠人は赤面したまま、そんなヘリオンを見つめていた。
よーく見ると、服のスリットの部分が濡れている。どういう惨事が起こったのか想像は難しく無かった。
「あの、ゆ、ユート様・・・?どうしたんですか?」
どうしたもこうしたもない。あんなものを聞かされた後では、こうならざるを得なかった。
「いや・・・ヘリオンってさ・・・・・・敏感なんだな。すごく」
「はうぅっ!そ、それを言わないでください〜!!は、ハリオンさんには黙っててくださいね!」
「当たり前だ。こんなことハリオンに知られたら・・・俺たちは二人まとめて めっ だぞ。あんなのはもう御免だ」
「は、はい!その通りです!・・・って、ユート様、やられたことあるんですか?」
「ま、色々あってね・・・・・・じゃあもう寝ようぜ」
「は、はい!おやすみなさい、ユート様!」
ヘリオンはそう言うと、自分の寝床、佳織の部屋へと戻っていった。
「(・・・・・・それにしても、ちょっとラッキーだったかな?)」
悠人はその心の中に不純なものを抱えて、寝るために自分の部屋へと戻っていくのだった。
- 441 名前:ただ、一途な心 第W章─私だけの愛のカタチ─ :2005/11/29(火) 21:55:32 ID:PtjLUDIO0
- ──────翌日の朝。懐かしい種類の日の光が窓から差し込む。
・・・が、冬というだけあって、朝はとても寒く、布団から出るのが億劫になるものだ。
ゆさゆさ。
「・・・・・・ト・・・ま!・・・ートさま!」
どこかで聞いた声と共に揺さぶられる体。こんな寒い朝に悠人をたたき起こしてくる人物は・・・
ゆさゆさ。
「ユート様!ユート様!起きてください!」「(お兄ちゃん!お兄ちゃん!起きてよ!遅刻しちゃうよ!)」
夢見心地の頭の中で、自分を起こそうとする声が勝手に翻訳されて聞こえる。
自分の部屋の中という空間で寝ているせいか、いつもの光景が自動で脳内再生されていく。
「う、うう〜ん。か、佳織・・・あと5分寝かせて・・・」
「はぁ・・・だめです。ユート様、完全に寝ぼけてます」
「しょうがないですね〜、ふふ、私におまかせを〜♪」
なんだか楽しそうな声が聞こえる。悠人をたたき起こすのを楽しみにしている奴は一人だけ。
ぐらぐら。
さっきよりも強い力で揺さぶられる体。いつものパターンだと、どんどん掴むところが上がっていき、
最終的には首根っこをつかんで揺さぶられ、生命活動レベルで危険に陥る。
だが、そこまでわかっていても、悠人の精神は睡魔には勝てないのだった。
ぐらぐらぐら。
「(ああ、この痛いくらいの振動が気持ちいい・・・さらなる夢の世界へ・・・ゴー・・・)」
ぴたっ。
激しい振動が止まる。諦めてくれたのだろうか、ありがたいことだった。
「だ、だめみたいですよ・・・」
「こうなったら、最後の手段です〜。ヘリオン、この方法は知っていて損は無いですから、見ててくださいね〜」
何をする気なのか、おぼろげな意識の中でそう思っていると・・・
- 442 名前:ただ、一途な心 第W章─私だけの愛のカタチ─ :2005/11/29(火) 21:58:02 ID:PtjLUDIO0
- ちゅっ。
なにか暖かいものが唇に当たる。
「(ん・・・んん?なんだ?これ・・・・・・!い、息ができない!)」
みるみるうちに酸素不足になっていく体内。唇に当たった何かによって、呼吸を止められていた。
その苦しさあってか、悠人の意識は現実世界へと引き戻される。
悠人が思い瞼をこじ開けると、目の前にいたのは・・・
「!!!!!!」
・・・目の前にいたのは、緑色の髪の女性。静かに目を瞑って、悠人に口づけをしていた。
徐々に自由を奪われる体。悠人は最後の力を振り絞って、目の前の女性を引き剥がす。
まさかこんな方法を使ってくるとは、お釈迦様でも想像できなかっただろう。
「ぶあ、はぁ、はぁ・・・・・・は、ハリオン!?お、俺を殺す気か!!」
「だって〜、ユート様が早く起きないからいけないんですよ〜?」
「だ、だからってこんな・・・・・・二重の意味で死に掛けた・・・」
悠人はその死にかけの意識をはっきりとさせ、ベッドから跳ね起きる。
「ハリオン・・・頼むから、今度からこの起こし方は止めてくれ。はっきりいって心臓に悪い」
「そうですか〜?でも、効果覿面じゃないですか〜♪」
確かに起床効果は高い。相手によっては死者をも甦らせる勢いだろう。
ふと、悠人がハリオンの後ろを見ると、半端な格好で倒れているヘリオンがいた。
「・・・・・・で、なんでヘリオンはこんなところで寝てるんだ?」
「あらあら?さっきまで起きてたんですけどねぇ〜?」
・・・・・・結局、ヘリオンが気絶しているということに悠人たちが気付くことは無かったという。
「(そっか・・・俺、ヘリオンやハリオンと一緒に、この世界に戻ってきちゃったんだっけ)」
悠人は朝のコーヒーを淹れながら、自分の目の前にある現実を思い出す。
- 443 名前:ただ、一途な心 第W章─私だけの愛のカタチ─ :2005/11/29(火) 21:59:46 ID:PtjLUDIO0
- 「ユート様〜?それなんですか〜?」
「ん、ああ。これはコーヒーって言う飲み物だ。・・・・・飲むか?」
「では、いただきます〜」
「あ、わ、私も・・・」
悠人はコーヒーメーカーを手馴れた様子で操作し、すぐに3人分のコーヒーを淹れる。
それをコーヒーカップに移すと、ヘリオンとハリオンの前に置いた。
「はい、どうぞ」
悠人の合図と共に、二人は同時にコーヒーに口をつける。すると、片方の顔が瞬時に強張った。
「ゆ、ユート様ぁ・・・こ、これ・・・に、にが、苦いです・・・」
「そうですね〜。でも、なんだかお菓子に合いそうな飲み物です〜」
苦さに顔が引きつるヘリオンとは対照的に、ハリオンは平気な顔をして飲んでいる。
「(さすがに口に合わなかったか・・・)」
向こうでの飲み物はお茶が主流だっただけに、コーヒーは奇特な飲み物なのだろうか。
「まあ、コーヒーは大人の飲み物って言うしな。ヘリオンにはまだ早いかもな」
「そ、そんなことないです!に、苦くたって、せっかくユート様が淹れてくれたんですから、飲まないと・・・」
「無理するなよ。これ入れれば誰でも飲めるからさ」
悠人はそういって、砂糖の入ったポットとコーヒーミルクの入ったキャップを差し出す。
ヘリオンはコーヒーに砂糖を小さじ2,3杯入れると、もう一口、おそるおそるコーヒーを啜る。
「あ・・・・・・甘くなりましたぁ」
ヘリオンの表情が柔らかくなる。甘いという言葉に反応したのか、ハリオンも同じようなことをする。
「そうですねぇ〜・・・でも、何も入れないほうがお菓子に合うかもしれませんね〜」
ハリオンのこういった飲み物の旨い不味いの判断基準はお菓子に合うかどうか、らしい。
確かに、コーヒーはケーキなどの甘いお菓子と一緒に出て来ることが多いけど。
「さて、朝ごはんを作らないとな・・・」
悠人は冷蔵庫の中をチェックする。
佳織がしっかりしていたお陰で、中は食材で一杯だった。
「よしよし、これだけあれば・・・」
- 444 名前:ただ、一途な心 第W章─私だけの愛のカタチ─ :2005/11/29(火) 22:00:54 ID:PtjLUDIO0
- 悠人はその中から、5、6個の卵と人数分のベーコン、マーガリン、ケチャップを取り出す。
さらに、その近くにある食パンを取りだし、テーブルの上にあるトースターに放り込んでレバーを捻る。
流し台の下の棚からフライパンを取り出して油を引き、かちり、とコンロに火を入れる。
そこからさっさと卵とベーコンを放り込み、スクランブルエッグを作る。
ヘリオンとハリオンは、普段は絶対に見られない悠人の調理の手際を、じっと眺めていた。
ちーん。
「よし、ちょうど良く出来上がったぞ」
トースターが焼き上がりを意味する音を鳴らすと同時に、悠人は料理を皿の上に盛り付ける。
さらに別の皿にトーストを乗せると、おのおのの前へと持っていく。
「できたぞ〜。じゃあ食べようぜ。いっただきま〜す」
「あ、はいはい〜。いただきます〜」
「え、あ、は、はい!いただきます!」
悠人の調理の様子に呆気に取られていたヘリオンとハリオンは、悠人の言葉で目を覚ます。
悠人がそれを食べ始めると、二人もつられて食べ始める。
「あ〜、おいしいですね〜♪」
「そうですね、とってもおいしいです!・・・でも意外です、ユート様がお料理できるなんて・・・」
「料理ってほどじゃないよ。こんなの誰でもできるさ」
「それでも、人に出せる料理を作れるのは立派なことですよ〜?」
ハリオンがそう言った時、心なしかヘリオンの表情が暗くなった・・・ような気がした。
当然、今の悠人にはその意味を理解することはできなかった。
「(はうぅ・・・私の料理なんて、まだまだ未熟で、ユート様に食べてもらえるような物じゃないです・・・)」
自分を過小評価してしまい、萎縮してしまうヘリオン。
そのせいで、自分の料理を悠人に食べてもらえる日がどんどん遠ざかっていくのだった。
「ごちそうさま〜」
三人が食べ終わると、悠人はせっせと後片付けを始める。
6枚の皿と、フライパンを洗って籠に入れるだけの作業は、ほんの数分で終わった。
- 445 名前:ただ、一途な心 第W章─私だけの愛のカタチ─ :2005/11/29(火) 22:04:58 ID:PtjLUDIO0
- 「さて・・・これからどうしようか」
悠人はヘリオンとハリオンに目配せする。
その視線の意味するものは、これからこの世界でどう生きようか、ということ。
帰る方法がわからない以上、この世界で生きていくしかない。
「あの〜、ユート様。せっかくですから、ハイペリアの町を案内していただけませんか〜?」
何を思ったのか、ハリオンがそう提案してくる。
「あ、それいいですね!私もユート様が住んでいる町を見てみたいです!」
その提案にヘリオンは賛成する。
別の世界に飛ばされたというのに、この二人の危機感の無さは一体なんなのだろう。
悠人は向こうに飛ばされたとき、危機感で一杯だったって言うのに。
だが、うだうだと悩んでいても帰れるわけじゃない。悠人はそれに乗ることにした。
「町に・・・か。まあ、いいかな」
「やったぁ!」
そんなに街を見たかったのか、ヘリオンは大喜び。
「・・・でも、昨日も言ったけどその格好は目立つから、着替えてくれよ」
「代えの服なんて、あるんですか〜?」
「ヘリオンは佳織の服に着替えてくれ。ハリオンは・・・ちょっと待ってて。サイズの合うの探してくる」
ヘリオンは小柄な体型だから、佳織の服はきっとぴったりだろう。
・・・が、ハリオンは完全に大人体型の上にあの豊満ボディーだ。果たして合うのがあるかどうか。
悠人は席を立って、家中のタンスやクローゼットを漁ることにした。
──────15分後。
「ふう・・・とりあえずこれだけだな。サイズが合いそうなのって」
佳織の両親の服、悠人の私服・・・・・・あるものはなるべく佳織の部屋にかき集めた。
「じゃあ、二人とも、佳織の部屋で着替えてきてくれ。ヘリオンの服は佳織の部屋にあるから」
「はいはい〜、じゃあまた後で〜♪」
「どんな服があるんでしょう・・・ちょっとワクワクします!」
どんな世界でも女の子はファッションとかは気にするものなのだろう。二人は楽しそうに部屋に入っていった。
- 446 名前:ただ、一途な心 第W章─私だけの愛のカタチ─ :2005/11/29(火) 22:05:44 ID:PtjLUDIO0
- ──────さらに30分後。
「・・・・・・随分時間がかかってるな」
コーディネイトに時間がかかるのは、女の子たる所以。
悠人は平日はバイト漬けで、殆ど制服しか着ない。休日でも私服の選択にはそれほど時間はかけない。
それだけに、女の子の服選びと長話にはうんざりさせるものを感じる。
「・・・あの二人のことだ。きっとヘリオンはハリオンに振り回されているんだろうな・・・」
こんなことはいけないって解ってるけど、面白そうなので悠人は聞き耳を立てることにした。
「・・・・・・これなんかいいと思いますけど」
「そうですか〜?ちょっと大人っぽくて似合いませんよ〜」
「はうぅ・・・子供扱いですか」
「扱いも何も・・・ちゃんと似合うものを選ばないといけませんから〜・・・あ、これなんてよさそうです〜」
「あ!それ、カオリ様が着てたのと同じですっ!」
「あらあら、そうですね〜。じゃあ早速着てみましょう〜」
「ひ、一人で着れますから!どさくさにまぎれて変なところ触らないでください!」
「はいはい〜♪」
ガサゴソガサゴソ・・・・・・
「あらあら〜、かわいいですね〜。よく似合ってますよ〜♪」
「はうぅ・・・でもちょっと足が寒いです・・・」
「これ履けばいいですよぅ〜。じゃあ、ヘリオンはこれで決まりですね♪」
「ええ!?もうちょっと選ばせてください!」
「ふふ、いいじゃないですか〜。カオリ様と同じ格好なら、きっとユート様の気を引けますよ〜♪」
「はううっ!!・・・そ、それなら、これでいいです」
「私はどれにしましょうか〜・・・ちょっと迷いますぅ・・・・・・これなんかよさそうですね〜」
ガサゴソガサゴソ・・・・・・
「・・・・・・どうですか〜?」
「わぁ・・・ハリオンさん、とっても似合ってます!・・・でも、ちょっときつくないですか?その、胸の辺りが・・・」
「大丈夫ですよ〜。じゃあ、これでいいですね〜♪」
「(あ・・・終わった!出てくるっ!)」
ササササササッ!
- 447 名前:ただ、一途な心 第W章─私だけの愛のカタチ─ :2005/11/29(火) 22:07:02 ID:PtjLUDIO0
- がちゃ。
「ユート様〜、お待たせしました〜♪」
「!!!!」
悠人は我が目を疑った。目の前に出てきた二人の姿は・・・・・・!
「(・・・・・・に、似合う・・・似合いすぎるっ!!)」
ヘリオンの姿。それはおおよそ聞いたとおりの服装。佳織の制服に、いつものニーソックス。
紺をベースにしたセーラー服に、黒髪のツインテールがよく似合っている。
かなりきわどい位置にあるスカートの端、そこから見えるすらりと細長い足。
寒くないようにとニーソックスを履いているが、それでも脚線美は衰えない。
この世界にこれほどの美少女がいたのだろうか、そう思えるほどかわいかった。
片やハリオンの格好は、白と黒のチェック柄のロングスカートに、白い靴下。
上には、茶色に少し黒がかかったような色の、少し胸元がきつそうなセーター。
アクセサリーとしてなのか、シルバーロザリオのペンダントに、佳織の予備のトンボ眼鏡。
どことなく、絵に描いたような『お母さん』を連想させる格好だった。
この上にエプロンをつければ、とてつもない破壊力を生み出す格好になる。
・・・・・・悠人はそんな二人に見惚れていた。
ハイペリアの服がここまで良く似合うとは、夢にも思わなかったのだから。
「ゆ、ユート様!ど、どうですか・・・?」
「え、あ、ああ、よく似合ってるよ、二人とも」
「そうですか〜?ふふ、ありがとうございます〜」
「そ、それで・・・ユート様はその格好で行くんですか?」
悠人の格好、それはいつもの制服。ファンタズマゴリアで着ていた白い衣を着ていないだけ。
自分の世界を歩く以上は、着慣れた服のほうがいい。悠人はそう思っていた。
「ああ、そのつもりだけど」
「そうですね〜。その格好のほうが、ユート様らしいです〜」
「言い忘れてたけど、神剣は置いていけよ。この世界では武器は持っているだけで犯罪だからな」
「あ、は、はい!わかりました!」
いつもの癖で神剣を持っていた二人は、【失望】と【大樹】を壁に立てかける。
「じゃあ、行こうか」
悠人は金の入った財布をポケットに入れて、二人と一緒に出かけるのだった。
- 448 名前:ただ、一途な心 第W章─私だけの愛のカタチ─ :2005/11/29(火) 22:08:05 ID:PtjLUDIO0
-
「それで、どこに行くんですか〜?」
町に行きたいと言い出したのは自分のくせに、どこに行くのかと聞いてくるハリオン。
「そうだな・・・とりあえず、学園に行こう」
「ガクエン?ゆ、ユート様、なんですか?それ」
「俺とか佳織とか、今日子や光陰も行ってた、この世界の教育施設だな。みんなそこで勉強するんだ」
「ユート様がお勉強してたところですか〜。なんだか楽しみですね〜」
どちらにしても、町に行くには学園の傍を通らなくてはいけない。
それに、学園はかなり大きい建物だから、紹介せざるを得ないだろう。
悠人たちはのんびりとハイペリアの朝日を浴びながら歩き、学園のほうへと向かった。
──────15分ほど歩いていると、見慣れた白い建物が見えてきた。
「ほら、あれが学園だ」
悠人はその建物を指差す。
建物の大きさといい、敷地の大きさといい、そのスケールに二人は圧倒されていた。
「わぁ・・・ユート様、こんな綺麗で、大きくて、広いところでお勉強しているんですね」
「たしかに、綺麗な建物ですね〜。これなら、お勉強もはかどるんじゃないですか〜?」
その言葉に悠人は耳が痛くなった気がした。
悠人の、佳織のためのバイト漬けの日々に、はかどるお勉強などという言葉は存在しない。
バイトの疲れのせいで、学園にきても机に突っ伏して寝ることが殆どの毎日。
なんだかんだ言ってテスト前に今日子や光陰にノートを写させてもらうのが日常茶飯事だった。
「・・・ま、それは人によるかな」
「あらあら〜?ユート様、お勉強は苦手なんですか〜?」
「・・・悪かったな。勉強苦手で」
「で、でも、ユート様は勉強してるよりも、体を動かしているほうが似合ってると思います!」
微妙にフォローになっていないヘリオンの言葉。
悠人はなんだか前にもエスペリアに同じ事を言われたような気がした。
「・・・・・・さ、もういいだろ?町に行こうぜ」
「え〜?もうちょっと見ていたいです〜」
「そうですよ!せっかく来たんですから、しっかりと見ておかないと」
学園は見世物ではないのだが、その物珍しさに興味津々なヘリオンとハリオン。
- 449 名前:ただ、一途な心 第W章─私だけの愛のカタチ─ :2005/11/29(火) 22:09:15 ID:PtjLUDIO0
- だが、悠人が急かす理由は、もっと別のところにあった。
「(う〜ん、あんまりここにいると、知り合いに見つかったりして気まずくなるからな・・・)」
悠人がそんなことを心配していると・・・
「悠人せんぱ〜い!!」
ギクリ・・・・・・悪いことは重なるものだ。悠人の脳裏にそんな言葉が浮かぶ。
しかも、よりによって一番性質の悪い奴に見つかるとは。・・・覚悟を決めなくてはいけなかった。
「悠人先輩!おっようござい・・・ま・・・」
悠人に走りよりながら挨拶をするピーチクパーチクマシンガントーク少女、夏 小鳥。
だが、その天にも届くような元気で明るい挨拶は、悠人の傍の人物を見た瞬間に途切れ途切れになる。
「あ・・・あ、あ、あああああ〜〜〜!!!」
「な、なんだ?どうした小鳥!」
「ど、どどど、どうしたじゃありません!悠人先輩!この眼鏡美人のお姉さんは一体誰なんですか!?」
小鳥の視線はハリオンに向いていたらしい。
三人の中では、この世界では最も珍しい顔をしているから当然といえば当然なのだが。
続いて、小鳥の視線は制服姿のヘリオンへと向かう。
「ゆ、悠人先輩!私というものがありながら、こんなかわいい子と一緒にいるなんて〜!!
悠人先輩!この子一体誰なんですか!?近所じゃこんな子見たことありませんよ!!」
どうやら小鳥にはヘリオンがこの世界の、日本人に見えるらしい。黒髪だから、当然だが。
小鳥にばれないということは、ヘリオンは町に出てもなんら問題は無いということだ。
・・・緑の髪と、深緑の瞳が特徴のハリオンは問題がありまくりのようだが。
「悠人先輩!なにぼーっとしてるんですか!ちゃんと紹介してください!」
「え、ああ、紹介して欲しかったの?」
「そうですよ!特に、この子は転校生じゃないんですか〜?それなら、なおさらです!」
「わ、わかった・・・えっと、緑色の髪のがハリオンで、制服着てるほうがヘリオン・・・(・・・って、しまった!)」
時既に遅し。おもいっきり紹介してしまった。
- 450 名前:ただ、一途な心 第W章─私だけの愛のカタチ─ :2005/11/29(火) 22:10:32 ID:PtjLUDIO0
- その紹介を聞いていた小鳥は、聞きなれない名前を聞いて呆然としている。
その時、後ろから小鳥の迫力に押されていたヘリオンがくいっ、と袖を引っ張り、声をかけてきた。
「あ、あの・・・ユート様?この子、誰ですか?」
「あ・・・バカ!しーっ!しいぃーーっ!喋っちゃダメ!」
おまけに、この世界には存在しない聖ヨト語まで使ってしまった。
「緑色の髪のお姉さん・・・聞かない名前・・・聞いたことが無い言葉・・・・・・悠人先輩!」
「な、なな、なんだ?」
「ふっふっふ・・・悠人先輩。小鳥の目はごまかせません!この二人は、悠人先輩の駆け落ち相手ですね!?」
「はぁ!!?」
「とぼけたってだめですよ〜?私の知らないところで、外国の女の子と仲良くなっちゃったりして〜!
勉強のできない悠人先輩が言葉を覚えるくらいです!きっと、深い愛で結ばれているんですね〜」
「お、おい!なに前代未聞のトンチンカンな勘違いしてるんだ!」
「じゃあどういうことなんですか?ちゃんと説明してくださいね、悠人先輩!」
完全に小鳥の術中(?)にはまってしまった悠人。
悠人はどういう手を使ってでも誤魔化さなければと思った。そうしないと、開放してもらえそうも無い。
「ヒソヒソ・・・二人とも、少し黙っててくれ。ここは俺に任せてさ。頼む」
「ヒソヒソ・・・よくわかりませんけど〜、わかりました〜」
「ヒソヒソ・・・は、はい!ユート様にお任せします!」
悠人は小声で二人に指示する。とにかく、なるべく誤解を深くしないようにしないといけなかった。
「なにヒソヒソ話してるんですか〜?」
- 451 名前:ただ、一途な心 第W章─私だけの愛のカタチ─ :2005/11/29(火) 22:11:54 ID:PtjLUDIO0
- 「悪い悪い。察しの通り、ヘリオンとハリオンは外国の人だ。ヘリオンは見ての通り、この学園に留学しに来たんだ」
悠人は大げさにヘリオンのほうに腕を振り、小鳥に解るようにする。
「ほうほう、それで?その・・・は、ハリオンさん?は、どうして来たんですか?生徒じゃないみたいですけど」
「ああ、ハリオンは先生なんだ。その、えっと・・・か、家庭科の先生。新任の、ね」
続いて、ハリオンのほうにも手を振って説明する。
「ふむふむふむ。で、どうしてその二人が悠人先輩と一緒なんですか?」
「それはだな、この二人は外国にいる佳織のおじさんの弟の嫁さんのいとこの連れ合いの知り合いでね。
ずっと前から日本に興味を持ってたらしくて、最近こっちにやってきてさ、頼まれちゃったんだ。
ちなみに、ハリオンとヘリオンは姉妹なんだって。あまり似てないのが気になるらしいけどね」
「なるほど!だから名前が似てるんですね!では悠人先輩、最後の質問です!」
「な、何?」
いつの間にか質問コーナーと化している。これだから小鳥節は恐ろしい。
「悠人先輩は、私と、ヘリオンさんと、ハリオンさん!だれが一番好きなんですか?」
「ど、どうしてそうなるっ!?」
悠人は思わず突っ込む。
色恋話が三度の飯よりも好きな小鳥にとって、この二人が恋のライバルにでも見えたのだろうか。
「あ、やっぱり言わなくていいです!」
「・・・ヘ?」
「悠人先輩の気持ちは、悠人先輩が打ち明けてくれるまで、私待ってますから!
でもでも、こんなに綺麗でかわいい人たちと一緒にいるんです!私乗り遅れちゃうかも〜!!
いえいえ、この二人という障害を乗り越えてこそ、私と悠人先輩の愛は確実なものに〜!!キャ〜」
自分の世界に浸りきり、激しく暴走する小鳥。こうなっては、悠人に抵抗の術は無い。
とにかく、ようやく質問攻めが終わったことに安心する悠人なのだった。
- 452 名前:ただ、一途な心 第W章─私だけの愛のカタチ─ :2005/11/29(火) 22:13:09 ID:PtjLUDIO0
- 「それで、悠人先輩。これからご登校ですか?」
「え、ああ・・・いや、今日はこの二人を町に案内するんだ」
「そういえばそうですよね。今日は授業ありませんからね!では、私はフルートの練習がありますので!」
「おう、じゃあな小鳥」
「悠人先輩。ハリオンさんとヘリオンさんに変なことしちゃだめですよ〜!」
「だれがするかっ!」
言いたいことを言い終えたのか、小鳥は走って学園へと入っていった。
いつもの通り、悠人は部室のほうへと走ってゆく小鳥を見送る。でないと、また変に誤解されるからだ。
「はぁ・・・・・・やれやれ」
「お疲れ様です〜。ユート様、元気いっぱいでかわいい子ですね〜」
「な、なんだか、オルファみたいな子ですね。ユート様・・・そういえば、あの子、なんていうんですか?」
そういえば、この二人に紹介するのを忘れていた。
「ああ、あいつは小鳥。夏 小鳥だ。見ての通りパワフルな、佳織の親友だよ」
「カオリ様の親友なんですか〜。コトリ様、っていうんですね〜」
「コトリ様ですね!」
「・・・・・・あのさあ、ずっと前から気になってたんだけど、二人って、俺たちに対してみんな様付けなんだな」
「そ、それはそうですよ!ユート様は私たちの隊長ですし、カオリ様はその妹さんですし・・・
キョウコ様もコウイン様も、今のコトリ様だって、ユート様のお知り合いなんでしょう?だったら・・・」
「いや、なんていうか・・・そんなに堅い呼び方はしなくていいと思う。みんな許してくれるよ。
それにさ、オルファやアセリアなんて会った時から佳織を呼び捨てにしてたんだぜ?もっと柔らかくなれよ」
「い、いいんですっ。私、そのほうがなんというか、落ち着きますので・・・」
「そうですね〜。様付けのほうがしっくりきます〜」
悠人は少し悲しくなった。思えば、この二人が様付けで呼ばなかった人間は『お姉ちゃん』ぐらいだろう。
どんなにしっかりとした信念を持っていても、スピリットが人間に従順、という公式は変えられない。
佳織も、今日子も、光陰も、みんな優しい。様付けしなかったからといって怒る奴は誰もいない。
その辺はアセリアやオルファ、ニムントールを見習って欲しいと、今日ばかりはそう思ったのだった。
- 453 名前:ただ、一途な心 第W章─私だけの愛のカタチ─ :2005/11/29(火) 22:13:58 ID:PtjLUDIO0
- 「じゃあユート様、そろそろ行きましょう〜」
「早く町を見たいです!」
「ん、ああ、行こうか」
急かすヘリオンとハリオンに促され、悠人は学園を後にしたのだった。
──────10分ほど歩くと、だんだん賑やかになってくる。
悠人たちは、町のショッピングモールに来ていた。
12月ということあって、そこらじゅうがクリスマスムード一色。そのせいで、余計に活気だっていた。
軒並みに電飾に彩られた色々な店が、普段よりも派手に並んでいる。
「わぁ〜〜。賑やかな町です!素敵です!」
「そうですね〜。なんだか楽しくなっちゃいますね〜」
学園に続いて、町の賑やかさと派手さに圧倒されて、ちょっと言葉が狂うヘリオン。
「とりあえず、色々歩き回ってみようぜ」
「そうですね〜。私たちは、ユート様について回ります〜」
「で、では!行きましょう!ユート様!」
町を案内するといったものの、特に目的は無いので、悠人たちは町をぶらぶらすることにした。
- 454 名前:ただ、一途な心 第W章─私だけの愛のカタチ─ :2005/11/29(火) 22:15:56 ID:PtjLUDIO0
- ちくちくちく・・・
「(うう・・・やっぱりこうなったか)」
あちこちにある珍しいものを見て楽しみながら、大通りの歩道を歩く一行。
そんな中で悠人の予感は当たり、さっきから通行人の視線がちくちくと刺さってくるのだ。
「お、おい!あの女、随分といい体じゃないか?・・・す、すごい」
「そ、そうだな・・・どこの国のお姉さんなんだ?緑の髪が、すっごく綺麗だ・・・」
「それだけじゃないな。大きな瞳にトンボ眼鏡。ぐっとくるね〜」
「ちょっとタクヤ!何処見てんのよっ!!」バシッ
その視線の対象は主にハリオン。
この世界には、赤(紅)い髪や青い髪の人間はいるが、さすがに緑色の髪の人間は見かけない。
おまけに、母性本能を刺激するような格好なので、主に男性からの視線が熱い。
「うわ〜、見て見て、あの子、かっわいい〜〜」
「ほんとだ。あの制服ってさ、近くの学園のだよね。転校生かな?」
対照的に、小柄な体型で学園の制服を着込んだヘリオンは、女性からの視線が多かった。
「聞いたこと無い言葉喋ってるね。あの制服の野郎は通訳なのかな」
「そうだね。お友達になれないかな?」
「(・・・・・・勘弁してくれ)」
二人が日本語ではない言葉を喋る上、ぴったり付いてくるので、悠人が通訳と間違われることもしばしば。
「あ、ユート様!あれ!」
ヘリオンの指差す先、洋服屋。そこには淡いピンク色のドレスがウィンドウに飾られていた。
大き目のフリルと、満遍なく散りばめられたラメが、美しさを強調している。
興味津々なヘリオンとハリオンはそれに駆け寄る。
- 455 名前:ただ、一途な心 第W章─私だけの愛のカタチ─ :2005/11/29(火) 22:17:01 ID:PtjLUDIO0
- 「わぁ・・・素敵・・・」
「きれいですね〜。もしかしたら、レスティーナ様のよりもきれいかもしれませんね〜」
「そうだな・・・レスティーナが見たら、なんて言うかな・・・ん?」
ふと横を見ると、二人は目を瞑ってなにやらむにゃむにゃと呟いていた。
このドレスを自分が着ているところを妄想していたのだろうか、やけににやにやしている。
「(なんか、嫌な予感がしてきた・・・)」
「あの〜、ユート様〜?このドレス、買ってくれませんか〜?」
「(ほらきた・・・)・・・・・・絶対ダメ」
「な、なんでですか?私たちだって、こういうの着たらきっと凄いですよ?」
悠人はちらり、と下を見る。
「(三十万円・・・・・・俺を殺す気か)・・・ダメダメ。こんなの買うお金ないんだから」
「それは残念です〜」
悠人は思っていた。こんなのを買っても使う機会はないし、二人に似合うかって言うと眉唾物だ。
髪を下ろしたヘリオンなら似合うかもしれないが、目に浮かぶのは裾をずるずると引きずる姿だった。
「さ、ここはもういいだろ?歩こうぜ」
「は、はいぃ・・・ちょっと残念です。はぁ・・・」
がくり、と肩を落とすヘリオンとハリオンを連れて、悠人はその場を後にしたのだった。
─────さらに歩いていると、二人の目に、大きな垂れ幕のかかった建物が目に入った。
「あ、ユート様!あの大きな建物はなんですか?」
「あれはデパートっていう建物だ。中でいろんなものが売られているんだ」
「おもしろそうですね〜。ユート様、行きましょう〜♪」
正直気が引けたが、デパートなら一気に色々説明できるからいいだろうと思い、悠人たちは中に入った。
三人は自動ドアをくぐり、デパートの中へと入るとすぐに、女性用の服やアクセサリを扱う店が目に入る。
やっぱり女の子なのだろう、ヘリオンとハリオンはすぐにそこに飛びついていった。
「・・・・・・おい、見るだけにしろよ。さっきも言ったけど、お金ないんだからな」
「はいはい〜、わかりました〜。あ、これなんてかわいいです〜」
「はい!えっと、これもきれいですよ!」
この二人のことだ。散々見た末に買わされそうな気がする。悠人の中で、そんな類の予感が走った。
- 456 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/29(火) 22:18:01 ID:kpnvz34O0
- 援護、いきます
- 457 名前:ただ、一途な心 第W章─私だけの愛のカタチ─ :2005/11/29(火) 22:18:21 ID:PtjLUDIO0
-
────── ヘリオンとハリオンがそのフロアで服を物色し始めてから約2時間後。
「・・・・・・ぐー、ぐー・・・」
あまりの長さに呆れた悠人は、フロアの隅にあるベンチで居眠りをしていた。
佳織や今日子がこういうことを好まないため、悠人にはこういうことに免疫が無かった。
そのため、悠人はすっかり待ち疲れしてしまったのだ。
「ユート様〜、起きてください〜」
ぐらぐらと揺すぶられる体。朝の二の舞になっては堪らないと、悠人はすぐに目を覚ます。
二人が何かを買わされた様子は無い。さっきと同じ格好で、何も持ってなかった。
言葉が通じないんだから、買わされるはずは無いんだが。
「(ほっ・・・)ああ、終わったの?」
「待たせちゃってごめんなさい・・・・・・あ、あの、ユート様・・・おなか空いちゃったんですけど・・・」
ヘリオンのその言葉に、悠人は反射的に時計を見る。12:30・・・ちょうど昼飯時だった。
「そうだな。なんかおいしいもの食べに行くか」
「ユート様〜、せっかくですから、ハイペリアの料理を食べたいです〜」
ここで食べる以上は何を食べてもハイペリアの料理なのだが。
つまりは、ファンタズマゴリアの料理とは違う、洋風ではない料理が食べたい、ということだろう。
さっそく、悠人たちはレストランのあるフロアへと移動するのだった。
- 458 名前:ただ、一途な心 第W章─私だけの愛のカタチ─ :2005/11/29(火) 22:20:55 ID:PtjLUDIO0
- 「(・・・・・・とは言ってもなあ)」
レストランの集合するフロアに来ていた悠人は悩んでいた。
どれを食べさせたらハイペリアらしいと思ってくれるだろうか。
あるのは、ハンバーグ屋、パスタ屋、すし屋、ラーメン屋、定食屋、あとは小洒落たカフェ。
悠人的にはラーメンだが、果たして口に合ってくれるだろうか、そんな不安がよぎる。
・・・・・・が、悩んでいても埒が明かないので、悠人は二人に選ばせることにした。
「そうですね〜・・・私はここがいいです〜」
「わ、私もここがいいです!」
二人が選んだ店・・・それはパスタ屋。さっきまでハイペリアの料理がいいって言ってたのに。
「ふふふ、ぜひとも、ハイペリア流のハクゥテを食べてみたいですね〜」
「(ああ・・・そういう意味だったのか)・・・ちなみにそれはハクゥテじゃなくてパスタだぞ」
「どっちでもいいです!ユート様、さっそく入りましょう!」
「はいはい・・・」
二人に引っ張られて店に入る悠人。
だが、悠人は内心、すし屋に入られなくて良かったと、心底ほっとしていたのだった。
──────1時間後。
「ふ〜、食った食った。と」
「こっちのハクゥテもおいしかったですね!」
満足そうな悠人とヘリオンに対し、ハリオンは少し納得のいかない顔をしていた。
「う〜ん、向こうのとあまり変わらなかったですね〜。ちょっと残念です〜」
「・・・・・・まあ、似たような料理は味も似たようなものってことで」
「おいしかったからいいじゃないですか。さあ、どんどん回りましょう!」
「・・・・・・やれやれ」
三人のデパート巡り。それはかなり長引くだろうと、悠人は覚悟を決めたのだった。
───ハイペリアという異世界を堪能するヘリオンとハリオン。その内に様々な危機感を覚える悠人。
彼らのハイペリアでの生活はまだまだ続くのか、それともファンタズマゴリアに帰るのか。
いや、そもそも帰ることができるのだろうか・・・・・・とりあえずハイペリア編は続く───
- 459 名前:くじら318号 :2005/11/29(火) 22:25:35 ID:PtjLUDIO0
- 第W章第1話はここまでです。
中途半端でゴメンナサイorz
ハリオンに何を着せるかで小一時間悩みますた。
アセリアルートのアレンジ版とはいえ、かなりきついっす・・・
保管庫の管理人様。
捕獲の際は、タイトルは『ただ、一途な心 第W章─私だけの愛のカタチ 第1話─』
でお願いします。入りきらなかったので・・・
では、誤字脱字、ハリオンマジックなど、指摘があればお願いします。
(´・ω・`)ノシ
- 460 名前:おにぎりの中身の人 :2005/11/29(火) 23:44:42 ID:4YqfjXMA0
- スピリッ党ハリオン派である私はこの話が大好きですヒャッホーウ
ハリオンの格好を脳内で想像するだけでハァハァですよ、実に。
こんな人が町歩いてたらそりゃみんな見るってさね
ヘリオンもいいねぇ、制服へリオンとか・・・
ハリオンが制服着たらどーしようかと一瞬思いましたよ
- 461 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/30(水) 07:05:46 ID:PaUbbZ080
- 面白いです、鯨さん。
未知の現代世界に放り込まれた彼女たちが、凄く生き生きと動いてますね。
せっかくなので、ヘリオンにもっと色々な服を着せてみてはどうでせう?w
こういうの読むと、私もシアーにピンクハウスやゴスロリを着せてみたくなるです。
あと素肌露出の全く無いシックなデザインのロングスカート系のメイド服とか。
…浪漫なかほり漂う、ミルクホールの給仕さんの和服メイド服や割烹着も悪くないかも。
ともあれこれからどうなるのか、展開が読めなくなりましたので楽しみです。
- 462 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/30(水) 20:13:46 ID:Z8ejQ4pH0
- >>459
遂にスレ初ハイペリアのオリキャラ登場、その名もタクヤくん。
ちょっと眼鏡フェチの入った、ヤキモチ焼の彼女付き。今後の活躍に期待大(大違
徐々に現代世界に適応していくヘリ&ハリ。あんまりはしゃぐとマナが足りなくなっちゃいますよ。
コーヒー飲んだ時のハリオンの反応がw 何でもお菓子に結びつくのは流石というか。
志倉の制服ヘリオンキターー! 日頃胸が無い事を嘆いていたのが、こんな所で役に立つとはお釈迦様でも(ry
まだ何故こうなったのか理由が読めないし、送り込まれた意図も掴めない。
ファンタズマゴリアに置いてけぼりの光陰とその仲間達も気になります。時間の関係もあるだろうけど。
ただ、戦いを一時でも忘れ女の子している二人を見てるとそんな事どうでもいいかなとか思ってしまうのは不思議ですね。
もう暫くこの展開を楽しみたいような、この後が早く知りたいような、そんな気分です。
さて、SSへの感想レスは引き続きとして、トリガまで後11k程になりましたので、恒例の煽り文&点呼お題同時募集です。
点呼一案:スピリットのこんな部位が好きだ! 例:見えないファーの鎖骨
- 463 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/30(水) 20:34:31 ID:PqkRpGT70
- 点呼案弐:意識調査
おまいさんにとって「本スレ」とは?
(a). [エロゲネタ板]: 永遠のアセリア&雑魚スピ分補充スレッド
(b). [エロゲネタ板]: SS投稿スレッド@エロネギ板
(c). [エロゲー板]: Xuse(ザウス)総合
(d). [エロゲー作品別板]: 永遠のアセリア/スピたん
(e). [ギャルゲー板]: 永遠のアセリア−この大地の果てで−
- 464 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/30(水) 20:44:27 ID:Z8ejQ4pH0
- >>462
×:後11k
○:後6k でしたorz
- 465 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/30(水) 20:49:22 ID:UsSxYHKc0
- >>463
(e)はもう無いんじゃないかな
- 466 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/30(水) 21:06:57 ID:PqkRpGT70
- >>465
うん、そうだけど、問うているのは意識なので、
最近終了したばかりの(e)も入れておいた。
ただ、テンプレのFAQ(>>4)はどうするか考えないといけないね。
- 467 名前:煽り文案 :2005/11/30(水) 21:12:02 ID:Yuud7jE90
- オフィシャル世界と半ば袂を別ちつつ、
今日もせっせと営みを続ける第二ファンタズマゴリア。
そのネタマナサイクル(スレ)は葱板の中で異彩を放つ速度で廻り続ける。
その先に待ちうけるのは、我等が望む栄華か?
それとも、現実との乖離が進んだ我等に下る審判の時か?
――答えは「スピたん」の中にある………。
永遠のアセリア&雑魚スピ分補充スレッド 19
- 468 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/30(水) 21:46:37 ID:/YGt40zg0
- >>460
喜んでいただけたなら幸いです。
制服ハリオンはあまり乗り気ではありませんでしたが、
今日子の制服があったらやってもいいかな、とは思っていました。
でもさすがに流れ上それはマズイかな、と思ってやめましたw
>>461
もっと色々、ですか・・・
本編中でのメイドヘリオンがワタクシ的に最萌なのです。
でも、確かにゴスロリとかもいいかもしれないですね。
色々考えることにします。
>>462
OK、じゃあいっそのことハイペリア永住ルートで・・・いや、嘘ですけど。
真面目な、エタ関連の展開はこれからですので、お楽しみに。
ちなみにタクヤが片仮名なのは深い意味はありません(何
さて続き続き、と。
半端なところで終わったのを挽回できる出来にしないとなあ・・・
- 469 名前:てんぷれ1 :2005/11/30(水) 22:31:49 ID:Z8ejQ4pH0
- オフィシャル世界と半ば袂を別ちつつ、
今日もせっせと営みを続ける第二ファンタズマゴリア。
そのネタマナサイクル(スレ)は葱板の中で異彩を放つ速度で廻り続ける。
その先に待ちうけるのは、我等が望む栄華か?
それとも、現実との乖離が進んだ我等に下る審判の時か?
――答えは「スピたん」の中にある………。
永遠のアセリア&雑魚スピ分補充スレッド 19
前スレ:永遠のアセリア&雑魚スピ分補充スレッド18
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1131811338/
発売元:Xuse公式サイト(『永遠のアセリア』は【本醸造】より)
http://www.xuse.co.jp/
外部板:雑魚スピスレ保管庫
http://etranger.s66.xrea.com/
外部板:雑魚スピスレ避難所@MiscSpirits
http://www.miscspirits.net/Aselia/refuge/
外部板:永遠のアセリア関連スレリンク集
http://etranger.s66.xrea.com/past.htm
- 470 名前:てんぷれ2 :2005/11/30(水) 22:33:06 ID:Z8ejQ4pH0
- ____ ________ _______
|書き込む| 名前:| | E-mail(省略可): |sage |
 ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
,ィ
,べV //
ネリーみたいなくーるな女には / 〃  ̄ ヾ; / ./
sage進行がぴったりよね〜 ! i ミ(ノハソ / /./
!ik(i|゚ ヮ゚ハ<///
リ⊂}!廿i つベ/
く/Цレ'
し'ノ
- 471 名前:てんぷれ3 :2005/11/30(水) 22:34:06 ID:Z8ejQ4pH0
-
あてんしょん
| ̄ ヽ
|」」 L.
|゚ -゚ノ| ……えっとこのスレに投稿したネタ(名前欄に題名を記入したもの)はね……
|とl)
,べV
/ 〃  ̄ ヾ;
! i ミ(ノハソ
!ik(i|゚ ヮ゚ハ 。・゚・⌒) 作者の意向が無い限り、
リ⊂! |T|!つ━ヽニニフ)) 問答無用で>>1の保管庫に収録されちゃうんだよ〜
く/|_|〉
(フフ
- 472 名前:てんぷれ4 :2005/11/30(水) 22:36:04 ID:Z8ejQ4pH0
-
Q: 雑魚スピって何ですか?
A: サブスピです。
Q: 具体的に教えて下さい。
A: シアー・セリア・ナナルゥ・ニムントール・ネリー・ハリオン・
ヒミカ・ファーレーン・ヘリオン、以上9名の総称です。
Q: これまでに投稿されたSSはどこで読めますか?
A: ここで読めます。→ http://etranger.s66.xrea.com/
Q: 俺あんまりサブスピに興味ないんだけど。
A: 雑魚スピです。>>1の関連スレリンク集で行き先を探してみましょう。
>>4、さくっと削ってみました。何か変な所あったら修正御願いします。
点呼案:意識調査
おまいさんにとって「本スレ」とは?
(a). [エロゲネタ板]: 永遠のアセリア&雑魚スピ分補充スレッド
(b). [エロゲネタ板]: SS投稿スレッド@エロネギ板
(c). [エロゲー板]: Xuse(ザウス)総合
(d). [エロゲー作品別板]: 永遠のアセリア/スピたん
(e). [ギャルゲー板]: 永遠のアセリア−この大地の果てで−
- 473 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/30(水) 22:48:03 ID:PqkRpGT70
- >469
前スレのスレタイ、「スレッド」と「18」の間の半角スペースが削れてるね。
とどうでもいいようなツッコミでトリガを踏んでスレ建て一人目行くね。
- 474 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/30(水) 22:53:18 ID:PqkRpGT70
- 54バイト足りなかった orz と凹んでこれで踏むはず(汗
- 475 名前:名無しさん@初回限定 :2005/11/30(水) 23:02:36 ID:PqkRpGT70
- 失望のための希望。
落胆のための期待。
歴史の果てから、延々と続く実りなき待ちぼうけ。
ある者は悩み、ある者は妥協し、ある者は供給者に絶望する。
だが、営みは絶えることなく続き、ふと誰かが呟く。
たまには自分で切り拓くのも悪くない。
次スレ「永遠のアセリア&雑魚スピ分補充スレッド 19」。
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1133358922/
妄想は、ピリオドを打たない。
- 476 名前:名無しさん@初回限定 :2005/12/01(木) 01:33:45 ID:NL8CpmZHO
- シアーマジで怖い
- 477 名前:名無しさん@初回限定 :2005/12/01(木) 10:42:58 ID:T7M6r3Kz0
- >>476
何がどう怖いのか、詳しく。
- 478 名前:名無しさん@初回限定 :2005/12/01(木) 12:31:24 ID:LcRyTmWo0
- あぁ3回目が放送されてるのか。
- 479 名前:名無しさん@初回限定 :2005/12/01(木) 23:10:26 ID:ylOGmqUq0
- , ヘ _
〃 ' ヘ ヘヽ
ノi ミ从l~iルソ
((ヾ(i|゚Д゚ノi 「私に命令するなと言っただろう!ソゥユート!」←ツン
, ヘ _
〃 ' ヘ ヘヽ
ノi ミ从l~iルソ
((ヾ(i|゚ -゚ノi 「だが、訓練後の話くらいはつきあってやろう」←デレ
まさにツンデレ
- 480 名前:名無しさん@初回限定 :2005/12/02(金) 00:13:34 ID:ZosLrQqkO
- 誰?
- 481 名前:名無しさん@初回限定 :2005/12/02(金) 10:11:47 ID:0X9WTtZB0
- ツンデレというより二重人格?w
- 482 名前:名無しさん@初回限定 :2005/12/02(金) 20:33:14 ID:poxt0o7g0
- 何処の萌え冥王に感染したんだよw
- 483 名前:名無しさん@初回限定 :2005/12/02(金) 20:52:39 ID:pc0IxTMy0
- それはヒミちゅ。
- 484 名前:エロ大王 :2005/12/04(日) 09:54:02 ID:h6ItkD4z0
- お久しぶりでゴザイマス
OHPで一部ヘリオン抱き枕の画像がでてますねえ・・・
ヘリオンかわいいよヘリオン(;´Д`)ハァハァ
- 485 名前:ドドドドド :2005/12/04(日) 09:54:04 ID:15s/RzTf0
- ハリオンにぶつかったヒミカはかく語った。
私は今、ハリオンの胸をほんのちょっぴりだけど体験したわ。
い……いえ……体験したというよりは、全く理解を超えていたのだけれど……。
あ……ありのまま、今起こった事を話すわよ。
『私はハリオンの胸にどこまでも深く沈み込んでいくと思ったら、いつの間にか柔らかく押し出されていた』
な……何を言ってるのか解らないと思うけど、私も何をされたのか解らなかった……。
頭がどうにかなりそうだったわ……。
バストサイズ74だとか86だとか、ましてや69や66なんて、そんなチャチなものじゃあ断じて無い。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったわ……。
- 486 名前:エロ大王 :2005/12/04(日) 09:55:04 ID:h6ItkD4z0
- >>485
ワロタw
- 487 名前:孤独の理由 :2005/12/04(日) 21:30:48 ID:p8+WvXzX0
-
対帝国戦の最中、サレ・スニルを攻めていた頃。
「とぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」
「おっ、行ったな」
短く揃えた蒼い髪を靡かせて、一人の少女が剣を逆手に突っ込んでいく。
鋭く広げられたウイングハイロゥ。その俊敏さに、流石ブルースピリットと思わず感心してしまう。
元々調整不足だった彼女は、この帝国戦が初参戦。同じ隊になったのはこのサレ・スニル攻略戦が初めてだった。
「てりゃぁぁぁぁぁっっっ!!!」
「…………ん?」
局面は、既に追撃戦。
城前に陣取っていた野戦部隊は大方城に引き返し、今はもう最後の反撃を試みて来た手負いの残部隊を逆に追い込んだ所。
所謂残敵掃討というやつで正直彼女一人でも楽に撃退出来ると思い、レジストだけかけて見守っているのだが。
「たぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
「…………おい」
文字面とはうって変わって気の抜けるような掛声は愛嬌。
普段のぽやぽやとした雰囲気を知っていれば、むしろ当然ともいえる。
彼女は、一生懸命戦っていた。それこそ自分の持てるスキルを全て惜しげも無く繰り出して。だが。
「ちょっと待て、シアー」
「おりゃぁ――にゃんっ!?」
一旦後退して丁度目の前に屈み、再度飛び込もうとしたシアーの襟首を、俺はむんず、と思いっきり掴んでいた。
- 488 名前:孤独の理由 :2005/12/04(日) 21:31:48 ID:p8+WvXzX0
-
「う゛う〜〜……」
「…………いやその、悪かったって」
円らな瞳をうるうると潤ませながら無言の非難を浴びせられ、つい謝ってしまった。
普段大人しい分だけ、熱中している所を邪魔されたりすると大層ご機嫌が悪くなるらしい。
籠手越しに首の辺りをしきりにこしこしと擦っている。そういや掴んだ時ぐきっと嫌な音がしたっけ。
いや、しかし。俺にも正当な理由があったのだ。それこそ鞭打ち覚悟の急制動かけてもいい位の。
…………だからそんな睨むなよ。すんません反省してますってば。
「でもな、シアー。何でいっつも、一撃離脱なんだ?」
「……んん?」
結局、本題に入る前に戦時食として隠し持っていたヨフアルを一個せしめられてしまった。
もきゅもきゅと夢中で頬張る仕草から、あっさり機嫌は回復したようだ。
いきなり話しかけられても食べかすを頬につけたまま、無邪気な笑顔で見上げてくれる。
…………あれだけグズついていたくせに。とは決して迂闊に口にしてはいけない。凄く言いたいけどいけないんだ。
そんな事より。そう、シアーは、先程から常に行動回数一回の攻撃を繰り返していた。
技自体はちゃんと訓練されているし、多種多様でもある。ヘヴンズスウォード、フューリー、インパルスブロウ。
特に属性攻撃であるフューリーやインパルスブロウなどはブルースピリット特有の重さが感じられるし、
小柄ながらもしなやかさと敏捷さを兼ね備えた身体を精一杯撓らせて打ち込むヘヴンズスウォードは、
振り切った時に『孤独』から舞いあがるマナと空気の粒子がぶつかり合う様から、その威力の大きさが充分伝わる。
だがしかし、惜しいかな、それら全てが「一撃」なのだ。つまり避わされたら、はい、それまで。そこでお終い。
敵だって、馬鹿じゃない。戦いぶりを観察していれば、初撃を防げばそれで安全だと分析できる。
そしてシアーは、先程からある意味期待通り(?)その陥穽に嵌っていた。つまり、気合(?)の掛声と共に突撃し、
自慢の技を敵が避けた後の地面に炸裂させ、爆風と共につき抜け、それをもう一度繰り返して戻ってくる。
幸いにしてまだ振り切った後の無防備さをつかれたりはしていないが、それももう恐らく時間の問題だった。
- 489 名前:孤独の理由 :2005/12/04(日) 21:33:59 ID:p8+WvXzX0
-
「……んく。う〜ん、なんでだろうねぇ」
「いや、俺に訊かれても」
「えと、ユートさま、イチゲキリダツってなぁに?」
「…………判らないなら答えるなよ。いい。シアーは一旦、後方待機な」
「んぅ? は〜い♪ …………ん〜と……ユートさま、あのね?」
「よしっ! 一緒に帰るか、シアー!!」
頭痛のしてきたこめかみを抑え込み、俺は無理矢理笑顔を作りながら、ヤケクソ気味に大声を張り上げた。
まだ戦いも終わってないのに、“後方待機”も知らないシアーを迷子の子供のように護送しなければならないとは。
『契約者よ、得意の保護欲か?』
(五月蝿い黙れ突然出てきて意味不明な台詞を吐くな)
「一緒ぉ? 〜〜〜うんっ!」
「………………」
『………………』
少しはにかみながらにぱぁ、と心底嬉しそうな笑顔を浮かべるシアーに、俺と『求め』の波長が嫌なシンクロを成した。
一旦既に制圧していたゼィギオスまで戻ってきた俺は、早速エスペリアやネリーにシアーの近況を聞いてみた。
それによると、少し前にブルースピリット最強の技ヘヴンズスウォードを覚えた際に、
唯一残っていた複数攻撃スキルであるリープアタックをうっかり上書きしてしまったという。
それにより、シアーの攻撃スキルには、ずらっと行動回数一回のものばかりがものの見事に揃ってしまっていた。
これでは先日のような事態も仕方が無いと頷ける。だがしかし、本人に自覚が無いのはいくらなんでも拙いだろう。
俺は城の前でぽけ〜と景色を眺めるシアーに声をかけてみた。
- 490 名前:孤独の理由 :2005/12/04(日) 21:35:34 ID:p8+WvXzX0
-
「よ。何か見えるのか?」
「………………」
「ところでさ、話は聞いたよ。でもこのままじゃ、シアーの戦い方はまずいと思うんだ」
「………………」
「で、さ。一緒に訓練しないか。そうしたらもう一度リープアタックを覚えられるらしいから」
「………………」
「…………シアー?」
「あ〜、ユートさまだぁ。うん、お空が綺麗なんだよ〜」
「へ?」
「そうなんだぁ。シアー、どこか変なのぉ?」
「えっと……あの?」
「う〜ん…………うんいいよ、ユートさまと一緒ぉ……えへへぇ〜」
――――なんだかじれったくなってきた。
「よし、じゃ、膳は急げだ。早速行くかっ!」
「ふぇ?…………や〜ん♪」
急に手を引っ張られた時差ぼけシアーが妙な声を上げたが、俺は構わずにずるずると訓練所まで引き摺っていった。
「それじゃ、構えて」
「あのぉ……ユートさまぁ?」
抜いた『孤独』を膝の前で水平に持ち、おずおずと見上げてくるシアー。
どうでもいいが、余り強く両手で握ると刃に食い込んで切れてしまうんじゃないかとはらはらしてしまう。
「なんだ、シアー。何でも聞いてくれ」
「その…………ゼンハイソゲって、なぁに?」
「……いいか、良く見てろよ。連撃っていうのは、こう…………シッ!!」
びゅびゅっ! 何となく展開が読めてきた俺は長くなりそうな話を一方的に打ち切り、フレンジーを振るって見せた。
もちろん手加減はしたのでシアーの目でも充分追えた筈だ。ちらっとそちらを見ると、
「ふぁぁ〜。凄いねぇ」
目を丸くして、小さな手をぱちぱちと叩き、感心しているようだった。
というか何の為にこんな事をしているのかちゃんと判ってるんだろうか。
- 491 名前:孤独の理由 :2005/12/04(日) 21:38:17 ID:p8+WvXzX0
-
「さ、シアーもやってみろ。いつもみたいに全力じゃなくていいから、その分次の一撃を繰り出すように」
偉そうに指導しているが、実際俺も剣に長けている訳じゃない。言っている事も我ながら漠然としている。
それでもんしょんしょと何か考え込んでいたシアーは、一度小さくうん、と頷き、そして。
「……とぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜」
へろっ。へろっ。
「………………」
「ふぅ〜。ねぇユートさまぁ、どうかな〜」
「……なぁシアー、なんでそんなに気合が入らないんだ?」
まるで波線が見えてきそうなシアーの太刀筋に、俺はがくりと膝をついた。
「あのね、もいっかいあると思うとね、シアー、力出ないんだぁ」
落ち込んでいる俺を慰めているつもりなのか、すまなそうな声で髪をぽんぽんと撫でてくるシアー。
何だか同情されているみたいだった。…………いや、あのな。なんで俺が慰められなきゃならんのだ。
「ね、シアー頑張るから、ユートさまもがんばろ〜」
「………………」
未だ面識も無い筈の、名も無き訓練士(シアー担当)のこれまでの苦労が窺える。
こうして前途多難な特訓は全く実を結ぶ事無く無駄に数日を費やしていった。
そして、いよいよサレ・スニル攻城戦が始まった。
大掛かりな作戦なので、シアーといえども外す訳にはいかない。
とはいえ直接訓練していたせいか、状況が判るだけに抑えても抑え切れない揺れるこの不安。
目を離すとこちらが落ち着かないので、結局エスペリアに頼み込んで同じ部隊にしてもらった。
アセリアにそれとなくフォローして貰うよう、頼んでおく。
「ん。任せろ」
無表情に自分の胸を叩くアセリアにもどことなく一抹の不安を感じるが、溺れる者は藁をも掴む。
心配だからといって付きっきりでは手数を望んでシアーを狩り出した意味が無くなるので、自分の仕事に専念する。
当面の敵を撃退し、進路を確保していざ城に突入、という所で二人を探してみた。
- 492 名前:孤独の理由 :2005/12/04(日) 21:39:50 ID:p8+WvXzX0
-
「あ、人がいる〜こんにちは〜………あれ、敵?」
「ん、いく」
「こ、こっちに来るぅ〜〜」
「…………この程度、すぐに片付く」
「来ないで、来ないで〜!」
「やぁぁっ、たぁぁっっ!」
「………………」
敏感に反応し、遮二無二突っ込んで行くアセリアと、初動が遅い分どうしてもワンテンポ遅れるシアー。
確かにアセリアは、しっかりと自分の使命を守っていた。申し分が無い程、忠実に。
それこそシアーが一撃を仕掛ける前に、群がる敵を全て自分で打ち払う位素早い動きで。
「いや、上手くいってるのはいいんだけどさ……」
結果オーライ。そんな単語が浮かんでくる。だがしかし。
「これじゃシアーが居る意味、無いだろ…………」
二人共元気な様子に安心しながらも、やっぱりどこか釈然としなかった。
「じゃ、シアーは俺の側を離れるなよ。攻撃のタイミングはこっちで指示するから」
「は〜い……えへへ〜」
何が嬉しいのか、とことこと駆け寄り、必要以上に俺の側にくっつくシアー。ホントに判ってるんだろうか。
- 493 名前:孤独の理由 :2005/12/04(日) 21:41:11 ID:p8+WvXzX0
-
俺達は城に突入した際、それぞれのパートナーを交換していた。
言い忘れていたが、部隊は四人編成。今アセリアと組んだネリーが羨ましそうに指を咥えてこちらを見ている。
「ん〜、ユートさまと一緒ぉ〜」
「こらぁシアー、ユートさまにくっつくの禁止ぃ!」
「え〜〜? だってネリーもぉ、さっきまでユートさまと一緒だったよ〜?」
「……こんなトコで喧嘩するなよ、頼むから」
大体なんでこんなにブルースピリットばかりになったんだ。
≪ユートさまがそう仰るのでしたら反対はしませんけど……本当に宜しいのですか?≫
編成を頼んだ時のエスペリアの複雑な表情が思い出される。ああ、自分でそうしたんだっけ。
「ユート、嬉しいか?」
「……アセリア、どういう意味だよ」
「ん、別に」
「…………ちぇ」
気のせいか、少しくすっと笑ったアセリアに、俺は今更ながら後先考えない自分の行動に呆れ、反省しそして後悔した。
城は巨大な街道を塞ぐ形で建設されている。その構造上、入り口は南北に二箇所あった。
北からヒミカ率いる別働隊が同時に攻め入る手筈になってはいたが、何とかという剣術使いを招聘する為、
部隊の一部から、まだ訓練不足のヘリオン、ニムントール、それに交渉役のセリアが抜けてしまっている。
その分戦力が大幅に抜けており、どちらかと言えば陽動に近い作戦行動しか取れない。
神剣の位が高いハリオンやファーレーン、それにナナルゥがいるとはいえ、数の不足はどうしようも無かった。
一方こちらはもう一部隊、エスペリア、ウルカ、オルファの精鋭ともいえる部隊が追従してきている。
更に遊撃として、光陰や今日子が旧稲妻部隊を率い、城外に出た敵を引き付ける役目を負ってくれていた。
それらを総合すれば、こちらのルートから城の中心に深く攻め込むのが作戦の成功に繋がると言っていいだろう。
「みんなっ! 行くぞっ!!!」
「お〜!」
「お、お〜」
「…………ん」
「………………あのな、もうちょっと気合入れてくれ頼むから」
振り返りつつ気合を入れる為にと叫んでみたが、面子を見渡すとどこか幼稚園児の引率を連想させるのが鬱だった。
- 494 名前:名無しさん@初回限定 :2005/12/04(日) 21:41:46 ID:F9oyEQga0
- 支援、要ります、か?
- 495 名前:孤独の理由 :2005/12/04(日) 21:44:20 ID:p8+WvXzX0
-
ヤケクソ気味に『求め』を振りかざしつつ飛び込んだ城内。そこに待ち受けていたのは、まずレッドスピリットの部隊。
「これくらい熱い方がいいのよね、汗かいたら痩せるらしいし」
「触れたら熱いと大評判! ……あたしの中でだけなんだけど」
「これだけの炎なら、きっと凄いわよ ホント、すごく熱いんだってっ!」
それぞれの神剣の先、集中したマナが真っ赤に焼けて渦を巻く。三人が横に並び、正に神剣魔法を放とうとした所だった。
――――なんでこんなに気の抜ける戦闘台詞だけが重なってるんだろう。そんな疑問が頭を掠めるが、とりあえずは叫ぶ。
「来るぞっ、ネリー頼む! アセリア、シアー、行くぞッ!!」
自分自身は『求め』を両手で構えたまま、横に飛んだ。視界の隅に、ネリーが『静寂』を振りかざすのが見える。
「これで向こうの力を抑えれば… うんっ、いけるいける〜っ!」
そしてひゅっと振り切った剣先から迸る青白いマナが飛び出し、周囲の炎を掻き消したのを確認し、俺は敵に飛び込んだ。
神剣魔法を封じられたスピリット達は隊列を乱し、後方へと下がって時間を稼ごうとする。
更に追いかけると、密集隊形になっていた。集団の向こうにアセリアがウイングハイロゥを広げている。
反対側から斬り込むつもりなのだろう。俺は後ろを振り返り、付いて来ているであろうシアーに声をかけようとした。
「……あれ?」
いない。後ろに、シアーはいなかった。あれ程離れるなと言っておいたのに。
「とぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」
「! シアー?!」
上方から、ふいに聞こえてくる聞き覚えのある気の抜けた声。
シアーは俺の頭上を飛び越えるように、ハイロゥを羽ばたかせていた。
- 496 名前:孤独の理由 :2005/12/04(日) 21:46:03 ID:p8+WvXzX0
-
俺を追い越したシアーはまっしぐらに敵へと突っ込んでいく。
あっけに取られて見ていると、逆手に持った『孤独』をくい、と捻り、上体を逸らして振り被った。
無茶な動きに小さな身体が空中でバランスを崩し、勢いに急制動をかける。そしてそのままぽてり、と敵の前に“落ちた”。
「………………」
「………………」
「あれぇ〜? おかしいなぁ〜」
落ちた時に打ち付けたのか、しきりに腰をさすりながらあひる座りのような格好で『孤独』を不思議そうに眺めるシアー。
どうでもいいが、敵の目前だった。突然の事態に反応してはいないが、唖然とした敵が我に返るのを待つ訳にはいかない。
「どけ、シアー!!」
「……ふえ?」
俺は強引に両者の間に割って入り、そして『求め』を力一杯振り下ろした。
「判ってるのか?! 一歩間違えれば死んでいたんだぞっ!」
「ユートさまぁ、シアーも反省してるから……」
「ネリーは黙っててくれ、俺はシアーに言ってるんだっ」
「ユ、ユートさま、怖いよう……」
アセリアとの挟撃でレッドスピリット達を倒しきった後。俺は、敵の拠点のど真ん中で怒鳴り散らすはめになっていた。
「ユート、喧嘩、よくない」
「なんだよアセリアまでっ! こんなの喧嘩じゃないだろ?!」
じっと宥めるような口調で見つめるアセリアにも、当り散らした。完全に頭に血が昇っていた。
「ユート、落ち着け」
それでもぽん、とアセリアに腕を軽く叩かれ、はっと我に返る。徐々に気持ちが落ち着いてきた。
「……悪かった。言い過ぎたよ」
「ん」
ネリーが、すっかり怯えて背中に隠れてしまったシアーを庇うように抱き締めている。
「ネリーも……ごめんな、大声出して」
「あ、ううん、ネリーはへーきだけど……」
ちらっと後ろを見るネリーの視線を追いかける。見え隠れする蒼い髪が揺れていた。
俺は『孤独』を両手で抱え込んでいるシアーに、努めて優しく話しかけた。
- 497 名前:名無しさん@初回限定 :2005/12/04(日) 21:48:00 ID:F9oyEQga0
- ええと、支援、だよね・・・?
- 498 名前:孤独の理由 :2005/12/04(日) 21:49:14 ID:p8+WvXzX0
-
「なぁシアー、どうしてあんなことしたんだ?」
思い出しても不可解だった。空中であんな無茶な動きをしたら体勢が崩れるのは当たり前だ。
大体前に見た時、シアーの構えはあんなんじゃなかった。あれじゃまるで……まるで俺の――――――フレンジー。
「まさか……俺の真似をしようとしたのか?」
問いかけに、ぴくっと丸い肩が跳ねる。おずおずと見上げてきた蒼い瞳が、無言のままこくり、と小さく頷いた。
――――教えてはいない。飛びながらなんて、考えたこともない。当然だ、俺は空を飛べないんだから。
地面への踏み込みやら『求め』の重量やら、それを使って振るう技なのに。それでもシアーは最初に見たそれを忠実に……。
俺は膝を折り、目線をシアーの高さに合わせ、これ以上怯えさせないようにぽむ、と頭に手をやった。
「ごめんな。俺、本当にシアーの事を考えて教えて無かった。シアーはちゃんと教わったとおりにやっただけなのにな」
「ユートさま……?」
「あれは飛ばないで使う構えなんだ、シアー。だからさ、今度は俺の隣でやってくれないかな。怒鳴ったりして……ごめん」
視線を決して逸らさず、蒼い瞳を見つめる。しっかりと思いを伝えるように。
すると何かを探っていたようなシアーの表情が、少しづつ安心したような柔らかさを取り戻した。
「うん…………判った」
そうして最後に小さく頷き、シアーはようやくちょっとだけ微笑んだ。
丈夫な石で構成された城の内部は巨大な廊下が左右に広がっていた。吹き抜けの構造なのか、今居る地点から天井が見えない。
正面の奥から時々ずしん、と地響きが鳴る所を見ると、どうやらヒミカ達も突入してきたようだ。向こうの方が数は少ない。
こちらもまだ後衛のエスペリア達との連携が取れてはいないが、このままここでじっと待っている場合でも無さそうだった。
アセリアが、ひくひくと鼻を動かしている。何をやっているのかと思ったら、急にこちらを見た。
「?…………どうしたんだアセリア、なんだか挙動不審だぞ」
「ユート、こっち」
「え? お、おい」
そしてそのまますたすたと歩いて行ってしまう。なんの躊躇いも無い後姿に、一瞬置いていかれた。
- 499 名前:孤独の理由 :2005/12/04(日) 21:50:50 ID:p8+WvXzX0
-
「へへ〜アセリアってぇ、匂いで判るんだって〜」
「匂いって……相変わらず器用なヤツだな」
動物的な勘というやつだろうか。そういえば、今までも不思議な言動が多かったけど、間違ってた事は無いしな。
などと苦笑しながら歩き出した所で、ちょこちょことネリーの後ろを歩くシアーと目が合った。
「…………あ」
しかしまだ少し警戒したような瞳で、すぐに下を向いてしまう。俺は『求め』を持ち直し、空いている手を差し出してみた。
「さ、行こう、シアー」
更に安心させるように、にっと笑ってみせる。すると俺の顔と手を交互に見比べていたシアーが
「…………ん〜」
と、ようやくほっとしたような顔で右手を伸ばしてきた。そっと掴むと、少し湿っている。
よほど緊張していたのだろう。まるで兎かなんかの小動物みたいだな、などと連想していると、
「……ねぇ、ユートさまぁ?」
「ん?」
「キョドウフシンって、なぁに?」
「………………」
すっかり緩んだ表情のシアーに、うっかりここが戦場だという事を忘れそうになった。
「ん、……来た」
前を歩いていたアセリアがぴたりと止まり、『存在』を構え直す。途端、廊下の奥、暗闇から数人のスピリットが躍り出た。
地上はもちろん壁からも空中からも、全方向からの強襲。ブラックスピリットとブルースピリットの群れ。
暗闇の更に奥、ちかっと光ったオレンジ色の光に気づき、ネリーに指示を出す。
「ネリー、頼む! ただしサイレントフィールドは無しだ、敵が多すぎる!」
「おっまかせ〜……紡がれる言葉、そしてマナの振動すら凍結させよ……アイスバニッシャーッ!」
『静寂』の先から蒼い光球が弾けたのを確認し、俺は側にいたシアーの肩をぐい、と引き寄せた。
「あ〜! シアーったら、いいんだぁ〜!」
何故か地団駄を踏むような妙なダッシュで既に飛び出したアセリアを追うネリー。二人は空中の敵の迎撃に向かった。
光輪が二つ、それに大きく羽ばたいたウイングハイロゥがニ翼、見通しの悪い天井の方で舞い、剣戟が響く。
- 500 名前:孤独の理由 :2005/12/04(日) 21:51:28 ID:p8+WvXzX0
-
「いいか、俺がまず斬り込むから、シアーは後ろから付いてきて、合図があったらさっきのを試すんだ」
地上の敵は皆ブラックスピリット。伏せるような低い姿勢から、所謂雁行で右手から襲い掛かってくる。
上杉謙信の、車掛りの陣。そんな、歴史で習ったような単語が脳裏に浮かんだ。
武田信玄がどう対応したかは残念ながら憶えていない。とりあえず、その先頭から潰していくしかなかった。
「ん〜……は〜い」
表面だけは、勇ましくきっ、と敵を見据えているシアーを確認し、どこか不安になりながらも俺は最初の敵に斬りかかった。
ガ、ギ、キンッ! ガ、ガガガッ!
複数の剣戟が廊下中で火花を散らす。空中の情勢も気になったが、俺はそれ以上に手が一杯で余裕が無かった。
「ハッ!」
短い気合と共に、上段に構えたブラックスピリットが膝を折り畳んだ姿勢から飛び込んで来る。
全身ごとぶつかって来るのは体当たりで姿勢を崩そうというのだろう。向こうは多勢。倒れれば、命は無い。
「く、こ、のっ!」
左手に飛び退きながら、上体を逸らす。そのまま下から摺り上げてくるもう一人の剣に、『求め』を合わせた。
「マナよ、我が求めに応じよ、オーラとなりて、守りの力となれ……レジストッ!」
キンッ、という高い音と同時に、腕に伝わってくる鈍い痺れに耐えながら、オーラフォトンを展開する。
発生させた魔法陣のマナの壁に、周囲の敵が一旦弾かれたように後退した。陣形が崩れる。そこが狙い目だった。
「今だ、シアーッ!!…………うぉっ!」
しかしそこで、どさっと急に背中に圧し掛かる重量感。頭が揺らされ、膝を付く。
ぐわん、とぶれる視界。四つんばいになった拍子に床に叩き付けた『求め』ががしゃり、とイヤな音を立てた。
- 501 名前:孤独の理由 :2005/12/04(日) 21:52:22 ID:p8+WvXzX0
-
一体何が起きたのか、一瞬判らなかった。
アセリアが倒した敵が空中から落下してきたものだったのだが、くらくらした頭ではそんな判断が出来ない。
自分の姿勢がどちらを向いているのかも漠然としている。ぐにゃり、と歪む世界。波のようにうねる床。
ああ脳震盪だなこれ、とどこか冷めた一部分で冷静に悟る。身体が思う様に動かない。そしてそれを敵が見逃す筈もなかった。
「…………てあぁぁぁぁぁっ!」
ふいに、隣を通り過ぎる気配。ふわ、と浮いた白い羽根が目の前を舞う。小柄な身体が撓み、その背にまで翻る神剣。
『孤独』が細く煌き、青白いマナを撒き散らしながら振り切られるのを遠くなりかけた意識の隅で見ていた。
「おい悠人! しっかりしろ!」
がつん、と突然目から火花が飛ぶような衝撃が後頭部を襲った。歳の割りにやけに渋い声。
混濁しかけた頭が痛みで急速に覚醒する。俺は光陰に思いっきり殴られていた。
「〜〜〜こ、光陰?」
「よ、目は覚めたか?」
「話は後よ、さっさとシャキっとしなさい、悠!」
「っ!そうだ、シアーは?!」
がばっと起き上がり、周囲を見渡す。正面に、シアーの姿があった。遠巻きの敵の中、おろおろと『孤独』を構えている。
足元に、敵が二体マナの霧に代わろうとしていた。…………二体。フレンジーの攻撃回数。イヤな予感が駆け上がる。
その瞬間、敵が一斉に動き出した。
「シアー、待ってろっ!」
俺は一足先に駆け出した光陰と今日子に遅れないよう、必死に『求め』にマナを送りつつ駆け出していた。
後続の光陰達が間に合ってくれたお陰で不利を悟ったのか、敵は蜘蛛の子を散らすような勢いで逃げ出していった。
逃げ出した方向から膨大なマナと火球の明滅、悲鳴が聞こえる。
エスペリア達かヒミカ達が突入したのに鉢合わせしたのだろう。戦いは、収束に向かっているようだった。
後から聞いた話によると、どうやら俺達は自覚無しに敵の本営を直接衝いていたらしい。
後日エスペリアにはその無謀さをくどく説教されたが、その場にアセリアが居ないのは納得がいかなかった。
- 502 名前:名無しさん@初回限定 :2005/12/04(日) 21:53:46 ID:F9oyEQga0
- 支援!・・・でもこれ、ちゃんと効いてるかなあ?
- 503 名前:信頼の人 :2005/12/04(日) 21:55:17 ID:p8+WvXzX0
- 駄目だ、足りない……orz
再生のための聖戦。
訓練のための建設。
歴史の果てから、連綿と続くこの単調な作業。
ある者は悩み、ある者は面倒臭がり、ある者はマナ切れに絶望する。
だが、Lv.は絶えることなく上がり、また誰かが呟く。
たまには処刑の臭いを嗅ぐのも悪くない。
次スレ
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1133358922/
神剣も、たまには替えたい。
- 504 名前:名無しさん@初回限定 :2005/12/04(日) 21:59:06 ID:CDQEkPT00
- __
「,'´r==ミ、
くi イニニニ)
| l|| ゚ヮ゚ノl| <ならば、クラッド・トキーミが潜入しつつ500kbGet!!
j(ノ[[||呂|)
(7[[|~| ̄|]]
.!_j!_j
全部
最新50