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永遠のアセリア&雑魚スピ分補充スレッド 29

1 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/20(金) 01:13:18 ID:8louVTpT0
 エターナルも滅多に訪れない次元の遥か僻地に、何の変哲も無い小さな世界がある。この世界に住む人間は呆れるほど愚かで、正体も解らぬエーテル技術を疑いもせずに使っているほどだ。
 その世界にはひとつ問題がある、というか、あった。そこにある国の殆どが、大抵いつでも不満を抱えていたということだ。多くの解決法が試みられたが、その殆どは概ねスピリットたちの生死に関係していた。
これはおかしなことだ。というのも、だいたいに於いて、その不満を抱えていたのはスピリットたちではなかったからである。
 というわけで問題はいつまでも残った。人々の多くは心が狭く、殆どの国が不満足だった。スピリットを最も多く保有している国さえ例外ではなかった。
 そもそもスピリットたちが何処から生まれて来るのか、そこに疑問を抱く者はほとんどいなかった。スピリットたちに戦わせるべきではない、人間自らの手で解決するべきだ、と言い出す者に至っては砂漠で水を探す如くであり、仮にいたとしても既知外と見做された。
 そんなこんなのある日のこと。どこぞの国の王子がエーテル技術とスピリットを手に入れてから三百年余りが経ったその日、ラキオス領内のとある街付近で育成されていたひとりの幼いスピリットが、これまでずっと何が間違っていたのか不意に気がついた。
そしてとうとう、世界を満足させる方法を思いついた。その方法はくーるできっと上手く行くはずだったし、大飢饉が発生する心配もなかった。
 ところがもったいないことに、そのことを人に伝える間もなく、彼女の妹がヨフアルを持って来て、彼女の思いつきは深き淵に沈んでしまった。
 ここは、その時のヨフアルが巡り巡って引き起こした大戦乱を分析するスレッドではない。
 その無邪気なスピリット姉妹と仲間たちを愛でるスレッドである。

永遠のアセリア&雑魚スピ分補充スレッド 29
・・・なんかまえに煽ってたやつを抜粋。
前スレ:永遠のアセリア&雑魚スピ分補充スレッド 28
http://set.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1196850598
発売元:Xuse【本醸造】公式サイト
http://www.xuse.co.jp/
外部板:雑魚スピスレ保管庫
http://etranger.s66.xrea.com/
外部板:雑魚スピスレ避難所@MiscSpirits
http://www.miscspirits.net/Aselia/refuge/

2 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/20(金) 06:09:51 ID:0c94eAvN0
____      ________               _______
|書き込む| 名前:|            | E-mail(省略可): |sage       |
 ̄ ̄ ̄ ̄       ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄                ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                                        ,ィ
                         ,べV       //
ネリーみたいなくーるな女には       / 〃  ̄ ヾ;  / ./
    sage進行がぴったりよね〜    ! i ミ(ノハソ / /./
                           !ik(i|゚ ヮ゚ハ<///
                            リ⊂}!廿i つベ/
                               く/Цレ'
                             し'ノ


3 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/20(金) 06:11:36 ID:0c94eAvN0
あてんしょん

 | ̄ ヽ
 |」」 L.
 |゚ -゚ノ| ……えっとこのスレに投稿したネタ(名前欄に題名を記入したもの)はね……
 |とl)
    ,べV      
   / 〃  ̄ ヾ; 
   ! i ミ(ノハソ
   !ik(i|゚ ヮ゚ハ   。・゚・⌒) 作者の意向が無い限り、
   リ⊂! |T|!つ━ヽニニフ))   問答無用で>>1の保管庫に収録されちゃうんだよ〜
     く/|_|〉 
     (フフ


4 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/20(金) 06:12:38 ID:0c94eAvN0
Q: 雑魚スピって何ですか?
A: サブスピです。

Q: 具体的に教えて下さい。
A: シアー・セリア・ナナルゥ・ニムントール・ネリー・ハリオン・
   ヒミカ・ファーレーン・ヘリオン、以上9名の総称です。

Q: 最近設定かネタか判んなくなってきちゃった。
A: ここで確かめましょう。→http://nechanforce.o-oku.jp/

Q: これまでに投稿されたSSはどこで読めますか?
A: ここで読めます。→http://etranger.s66.xrea.com/

Q: これまでに投稿されたAAは?
A: ここで観れます。→http://nechanforce.o-oku.jp/

Q: 俺あんまりサブスピに興味ないんだけど。
A: 雑魚スピです。>>1の関連スレリンク集か↓で行き先を探してみましょう

5 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/20(金) 06:14:51 ID:JnrlKioX0

エロゲー:Xuse(ザウス)総合50
http://qiufen.bbspink.com/test/read.cgi/hgame/1209287924/

作品別:永遠のアセリア/スピたん/聖なるかな 第98章
http://qiufen.bbspink.com/test/read.cgi/hgame2/1213688983/

ギャルゲー:永遠のアセリア−この大地の果てで−10
http://game14.2ch.net/test/read.cgi/gal/1189103113/

エロゲネタ:聖なるかなSS&ネタスレ第2世界
http://set.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1193308532/



6 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/20(金) 06:16:37 ID:JnrlKioX0
********

*『聖なるかな』の話は
   聖なるかなSS&ネタスレ第2世界
   http://set.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1193308532/
 または
   永遠のアセリア/スピたん/聖なるかな 第98章
   http://qiufen.bbspink.com/test/read.cgi/hgame2/1213688983/
 の適切な方で。

*次スレ建ては レス数975 または datサイズ475KB のどちらか早い方の辺りで。
 それに間に合うようかつ早過ぎない辺りで、適宜準備を開始すること。
 次スレ建立後一週間程度は旧スレ側を レス数981未満 かつ datサイズ480KB未満
 のままで保持し、 移行誘導 兼 即死時の建て直しの円滑化を図ること。
 なお、read.cgi ver 05.0.6.0 2008/06/04 時点では datサイズが
 端数切り上げで表記されるようなので注意すること。
 原理上、KB未満端数切捨て表記の方を判断基準とする。

********


7 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/20(金) 06:18:36 ID:JnrlKioX0
点呼は 28_934 から

> (・∀・)っ[点呼ネタ]着てほしい服・してほしい事(ネタ可
> 例:光陰・大統領→パンツ一丁
> ガチプロレス

> 注:あくまでネタです

ということで、どぞ↓


8 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/20(金) 09:41:04 ID:8louVTpT0
>ウルカ・アセリア→エプロン装備
>共同料理制作→服毒による意識不明の重体患者約3名
>とか?
このスレ立った事気付かれにくいかも。何かいい案は・・・

9 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/20(金) 10:12:46 ID:eKNkyGhCO
>1
おつだ!


各色にコーディネートしたブルマで。
制服は今まで通り着込んでおいて、これは見られても良いものだと、
むしろ見られるべきものだと正当なハイペリア知識を仕込んでくれソゥコウイン。

<3>かな?

10 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/20(金) 20:16:43 ID:OwT3/Ni90
>1
乙!

メイド服ナナルゥに膝枕してもらいながら草笛を聞かせてもらいます!

<4>?

11 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/20(金) 20:21:21 ID:HKbP5XkP0
>>1

ぬこ耳尻尾付きで淡い水色のキャミソールを着用し
黒のニーソックスを履いたニムに膝の上に乗っかってゴロゴロしてもらいたい

多分<5>

12 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/20(金) 20:55:31 ID:9f0/ECtx0
>>1

ハリオンは頂いて行く、エトランジェらしくな!
<6>

13 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/20(金) 21:24:36 ID:aYo4kDMF0
ネリー・シアー・セリア・ハリオンにセーラー服装備
そして光陰が吹き込んだ内容からヒミカが脚本

第○回舞台、題して「もってけ!セ(ry

<7>

14 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/21(土) 00:37:55 ID:UeZlxTxD0
流れぶった切るけど5とか6とかって一体なんディスカ?

15 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/21(土) 01:14:28 ID:aw5sXO/k0
>>1
超乙!
<9>です。

空手着のヒミカと、
柔道着のハリオンと、
合気道着(袴)のセリアに、
容赦なくボコられたい。


>>14
君は<8>だ。
そして、君にはこの言葉を送る。

「物事は、他人に尋ねる前にしっかりと調べ、考えなさい。
 それだけで、明白な答えが出る事が多いのだから。
 それでも解らない時は、誠意をもってお尋ねなさい。
 思考したという土台があれば、同じ答えを聞いても、理解の深さが全く違うから。
 そして、答えを聞いた上でなお真摯に考えなさい。
 自分をより深める為に。
 他人の言葉は、自らの力で昇華しなければ、自身のものではないのだから」


16 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/21(土) 04:03:37 ID:6u5ITG9v0
ニコニコにあがってる幻想入りはここの住人?

17 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/21(土) 06:39:22 ID:UeZlxTxD0
>>15
要約するとググレカスと言いたいんだろうが、なんの前置きもなく点呼しといて
その言い草もどうかと思うんだ。そんなだとさらに過疎るよ。
でも教えてくれてありがとう。

18 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/21(土) 08:57:26 ID:QPgqeUqcO
>>1

・Gパン+白Tシャツやタンクトップなどの白くて薄い服
そんな姿で川とかに行った日には…濡れた服が体のラインや一部を強調したり、透けてたり…

ネリーはチビTヘソ出し・シアー&ニムはダボダボ
ヒミカ&ハリオンはタンクトップ
ヘリオンとナナルゥは胸元だけ
ファーレーンは…想像つかんな…

<10>だな

19 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/21(土) 10:10:35 ID:W1FDWvV80
浴衣姿のハリオン、セリアと卓球がしたい

前スレのナナルゥの人、続き待ってるよ。

<11>、ということでいいのかな

20 名前:金烏:2008/06/21(土) 14:33:27 ID:la8Ua9Al0
初めまして、金烏(きんう)と申します。
「Twinkle Fairies」なる長編SS書いてるんですが、完結してから投下すべきでしょうか?
一週間〜二週間くらいの間隔でチョコチョコ区切った話を書いていて、完結させるならあと半年くらい掛かりそうです。
予定投下間隔は上記の間隔で、投下日は大体が土日か祝日です。
偶にですが区切りが長かったりネタを詰め込んだ話だと、書き上げるのに三週間程掛かった事もあります。

きっかけは、知人と語り合っているウチにナニやらテンションが上がってしまい、妄想が膨らみ過ぎて
「ンなら、SS書いたら良くね?」みたいな感じで始まりました。

<12>

21 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/21(土) 16:10:05 ID:LgGQzknF0
>>1
小川でセリアと水遊び
上はタンクトップと白シャツを裾で結ぶ感じ
下はジーンズのショートパンツで
オプションに帽子(キャップを後ろ向きに)
<13>かな?

>>20
どちらでも好きな方でいいと思う
個人的には投下が不定期でも全然かまわない
要望を聞いてもらえるなら、最終的には最後まで投下してほしいってとこかな


22 名前:月野陽介:2008/06/21(土) 17:12:53 ID:OYH150T40
こんにちは。性懲りもなくまたきました。
白のワンピ着用のナナルゥと町に出たい。・・・とかいうのでいいんでしょうか?
<14>で。
前回エンレインとの戦いが終わったとこから続き投下しようと思います。
・・・ところで前回のやつが見れなくなってて
保管庫にいれてもらえるのかな〜って考えてるけど解る人教えてくれませんか?
・・・ほんと図々しくてすいません。過去ログとか仕組みがよくわかんなくて。
気を取り直して、スピたん〜幻のナナルゥルート2章目、参る。

23 名前:2章 生の価値:2008/06/21(土) 17:14:36 ID:OYH150T40
「・・・どうでしたか?先生、セリアさん、ハリオンさん。」
ナナルゥの部屋の扉が開き、三人が姿を見せる。
「なんとか落ち着いたよ。今はおとなしく眠っている。」
「怪我も治りましたし〜、神剣に飲まれる危険性も今はありません〜」
「そう・・・ですか」
扉の向こうを除くとそこにナナルゥが眠っていた。
あんな事があったと思えないほど安らかな顔をしている。
一緒に外で待っていたみんなから安堵のため息が漏れる。
僕自身も安堵し、同時に疲労感と無力感がのしかかってくる。
あれからもう3時間たつ。
絶叫し、錯乱状態のナナルゥを押さえ込み、どうにかツェナの家まで連れ帰ってきた。
ひとまず落ち着いたようだがこれから先どうすればいいのだろう。
結局何もできなかった。いや、違う。
何もしなかったのだ。
僕はナナルゥが戦っていた時本当は動けていた筈だった。
ただ怖かったのだ。あの時のナナルゥが怖くて諦めたのだ。
神剣に呑まれかけ、助けを求めていたのはナナルゥだった筈なのに。
僕はナナルゥを見捨てたのだ。怖くて全部投げ出したんだ!!
何故考える事を止めたんだ!?
あの時動いていれば、諦めなければ、何か思いついたかもしれないのに!
いや、それよりも何故僕はナナルゥを怖いなんて――
「ロティ」
思考の泥沼にはまっていた僕を引き上げたのは先生の声だった。
「気にするな。と言っても君は気にせずにはいられないのだろうけど・・・
あまり気にしすぎてはいけないよ。」
「先生、僕は――」
「少なくともナナルゥは君が落ち込む事を望みはしないよ。
そんな顔でナナルゥの前に立ったら彼女が苦しむだけと思うけどね?」

24 名前:2章 生の価値2:2008/06/21(土) 17:16:05 ID:OYH150T40
「あ・・・」
そうだ。今、隊長として僕がやる事は自分の無力さや罪悪感に浸る事なんかじゃない。
そんなのは逃避と自身の罪悪感を和らげるおためごかしに過ぎない
あの時できなかったと悔やむのでなくこれからどうするべきかだ。
今一番つらいのは、間違いなくナナルゥなんだから。
「・・・ありがとうございます。先生」
「おや、何かした覚えはないんだけどね?」
「それでも、ありがとうございます。
・・・セリアさん。ナナルゥは、もう大丈夫なんですね」
「とりあえず身体はね。・・・精神的な苦痛は、どうしようもないけど。」
「わかりました。・・・みんな。とりあえず今日はもう休んだほうがいい。
色々あって疲れただろうから」
「うん・・・ねぇ、ロティ」
「?何、ネリー?」
「ナナルゥの事・・・嫌いにならないで」
「――」
「あ、あのね?ナナルゥは、いつもぶすーっとしてるけどね、
ほんとはいつもいっぱいみんなの事考えてて、優しくって、くーるでかっこいいんだから、
だ、だからあんなのは、ほんとのナナルゥじゃな、から、もう、だいじょ・・・ぶだからっ、
おねがいっ・・・」
「ネリー・・・」
言いながら泣き出したネリーにシアーが寄り添い、身体を抱きしめる。
「・・・大丈夫だよ。・・・僕はナナルゥの事を絶対に嫌いになんかなったりしたいから」
そういってネリーの頭をなでてやる。
嬉しかった。
条件反射だったのだろうが斬られかけたネリーが、ナナルゥの事をこんなに心配してくれていることに。

25 名前:2章 生の価値3:2008/06/21(土) 17:19:56 ID:OYH150T40
「ぐすっ・・・ほんと、に?」
「もちろん。だから今日はもう寝よう。
明日、目が覚めたナナルゥにネリーの元気な顔を見せてあげて。」
「ぐしっ・・・うん!わかった!おやすみ、ロティ!」
「うん、お休み。」
自分の部屋に戻っていくネリー達に合わせてみんなも部屋に戻っていく。
「・・・セリアさん。あの・・・しばらく、ナナルゥに付き添っても大丈夫でしょうか?」
「別に大丈夫だけど・・・あなたも・・・その、色々あって疲れてるでしょう?」
「僕はもう大丈夫です。上手く言えないけど・・・今は、そばにいてやりたいんです。
・・・それでどうなるという訳でもないですけど・・・。」
「そう・・・わかったわ。・・・ナナルゥの事、お願いね。」
「あら〜。ロティさん、寝ている女の子にいたずらしちゃいけませんよ〜?
そんなことしたら「めっ!」ですから〜」
「しませんよっ!」

26 名前:2章 生の価値4:2008/06/21(土) 17:23:06 ID:OYH150T40
「っ!あああああぁぁっ!!」
――空と地面の境界線も分からない漆黒。
そこにナナルゥと10数のエンレインがいる。
四方八方からせまり来る炎の刃。
刃を弾き返し、相手を斬り捨て、神剣魔法で焼き払う。
斬る。焼く。潰す。砕く。抉る。屠る。葬る。殺す。
「貴様は自分が一体何をしているか理解しているのか?」
最後の一人となったエンレインが語りかける。
「何を・・・よくも・・・みんなを・・・!」
「俺が?何を勘違いしている」
「黙れ!」
一足飛びでエンレインに肉薄し、刃を振り下ろす。
ダチュ。
腐った果実を潰したような音と同時に刃は肉を抉り。鮮血が飛ぶ。
「!!!!!!」「ナナ・・・ル・・・」
刃が肩から腹部までめり込み、崩れ落ちた相手は、ロティに変わっていた。
「な・・・なんで・・・」
「まだ気付かんのか。俺が殺したのではない。現に、」
後ろからのエンレインの声に振り向くと。
エンレインはなく、そこにはある者は切り裂かれ、ある者は血塗れで、
ある者は消し炭となった仲間達がいた。
「こいつらを殺したのは、紛れもなく貴様自身ではないか。」
「っ――――!!」

27 名前:2章 生の価値5:2008/06/21(土) 17:25:40 ID:OYH150T40
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああ――――――――――――――っ!!!!!!」
「ナナルゥ!?」
付き添って30分くらいたったころ。
突然うなされ、暴れだしたナナルゥの肩をつかむ。
「大丈夫!?ナナルゥ、ナナルゥ!?」
「・・・違う、私は、私じゃ、ない、私は・・やって、いない・・・!」
だめだ、錯乱している!僕の事もわかっていないみたいだ。
「ロティ様が、死、斬られた、ネリ、みんな、斬り、私が、斬った・・・!?」
「ナナルゥ!!」
肩を揺さぶり、強く呼びかける。
しばらく続けていると次第にナナルゥの力が抜け、抵抗もおとなしくなっていった。
「っ・・・!・・・ロティ様・・・?」
「落ち着いた?ナナルゥ」
ほっとしてナナルゥに笑いかける。
「・・・ロティ様。私、あれ、なんで・・・」
「ここはツェナの家だよ。みんな、大丈夫だったから」
そう、やりかたはどうであれ、ナナルゥのおかげでみんな帰ってこれたのだ。
「大丈夫?気分は悪くない?何か口に入れる?」
・・・ああもうなんでもっと気のきいた事いえないんだよ
ほらナナルゥが暗い顔しだしたほらなんか言って元気づけ
「・・・隊長」
「え、な、何かな?」

「私に、処罰を言い渡しください」

「――」その顔は、あの時と同じような絶望に彩られていた。

28 名前:2章 生の価値6:2008/06/21(土) 17:28:02 ID:OYH150T40
「・・・なんだよ、それ。そんな冗談、笑えないよ」
「冗談ではありません。私は隊長や、仲間を故意に傷つけ、死に至らしめるところでした。
死罰、もしくはそれ相応の極刑に相当します」
「ナナルゥ。仕方なかった、とは流石に言えないけど、あの時はナナルゥのおかげで助かったんだ。
ナナルゥがいなければ僕達は先生達がくる前に全滅していた。
開拓者がくる可能性を理解していながら二手に別れて戦力を分散させた僕の方に責任がある。」
「それは・・・あくまで結果論です。次にあの男にあった時に・・・完全に神剣に取り込まれ、
敵味方を判別できず暴走する可能性が否めません。
危険分子は、排除すべきです。」
「――っ!!」脳が、沸騰しかけた様に思えた。
「何だよ、それは。・・・危険分子って、排除って、自分を物みたいに!ナナルゥは、そんなんじゃないだろ!?」
「私は・・・物と同義して差し支えありません。」
「何でだよ!?スピリットが戦争の道具の様に思われてた時代は終わったんだ!
全てと言わなくとも、皆それぞれの道を自由に歩めるようになってきて」
「だからこそ、私の様なものは必要とされません。」
「!!!」
「私は、過去の戦争の遺物の様な存在です。戦いしか知らず、戦いしかできません。
今の時代に価値を見いだしたスピリット達に誤解や偏見を植え付ける害物にしかなりません。」
「・・・・・・!」
絶句した。自分がいらない物だという事を、自暴自棄なだけでなく事実と考えていることに。
だけど。「・・・違う。」
そんな事、認めていいはずがない。
「本当にナナルゥが物なら、みんなの事を心配したりしないしみんなもナナルゥを心配したりしない。」
「え・・・?」
「ナナルゥの傷は、ハリオンさんが何度も回復魔法を使って治してくれた。
ナナルゥが大丈夫だとわかったとき、みんなとても喜んでいた。・・・ネリーもだよ」
「ネリーが?でも、私は、」
「それは、みんなが今までのナナルゥを知っているからじゃないかな。いつも一生懸命で、
みんなの事を思っていて、変わろうと頑張っているナナルゥを見てきたから。
みんな、そんなナナルゥが好きだから。」

29 名前:2章 生の価値7:2008/06/21(土) 17:29:43 ID:OYH150T40
「・・・私、は」
「・・・だから、自分を物だなんて言わないで。
みんなが大切で、迷惑をかけたくないからなんだろうけど、
今まで頑張ってきたナナルゥ自身を否定するなんて・・・悲しすぎるよ。」
「だけど!・・・私は、もう、誰も、傷ついてほしくなくて、だけど、」
それ以上言う前に、僕はナナルゥの手をとった。
「・・・僕も、みんなを守りきれなくて、ナナルゥにつらい思いをさせて、悔しいと思ってる。」
「それは、隊長のせいでは――!」
「だからナナルゥ。強くなろう。神剣に飲み込まれないように、みんなを守れるように。
自分自身を誇りに思えるように、色々な事、色々な意味で、・・・二人とも、強くなろう。」
「・・・・・・隊長。」
それから沈黙が訪れる。
互いに喋る事もなく、でも僕は、手を離さなかった。
しばらくして、ナナルゥの方から沈黙を破った。
「・・・ありがとう、ございました。」
「うん、いいよ。・・・もう休んだほうがいい。みんな数日は方舟で休息する事になってるから。」
「はい・・・隊長も、お戻りください。隊長も、休眠を取る必要が有ります。」
「うん。そうするよ。おやすみ。」
「はい。・・・あの、隊長」
「ん?」
「さきほどの、みんなが大切に思ってくださっているという言葉は・・・隊長、自身も含みますか?」
「もちろん。」
「そう、ですか。・・・お時間をお取りして、申し訳ありませんでした。」
いいよ、と答えつつ部屋を出たが、後になってその問いが、やけに気になった。

30 名前:月野陽介:2008/06/21(土) 17:41:00 ID:OYH150T40
2章終了です。途切れ途切れですいません_(_^_)_
文が下手でいやになります(TOT)
暗くなりすぎないようにしてるけどなんかおもたいかな〜。
一応最後はハッピーエンドになるよう心がけてます。
あとナナルゥの過去っぽい事書こうか考えてるけど
EXPANSIONとかダイジェスとかで出たりしましたか?(持ってなくて)
保管庫の事も含めて教えてくれると嬉しいです。
うっとうしいと思う方は無視してください。
バッシングはなるだけごかんべんを〜
(SSのつっこみやもんくはいいんですけどね)

31 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/21(土) 17:50:14 ID:W1FDWvV80
>>20
かまわん、続けろ(AAry

>>30
乙乙。
保管庫はマトメの人がいたような・・・
過去ログは専用ブラウザ入れるといいよ
Janeとかでググるとよろし

32 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/21(土) 19:52:30 ID:bL77bXjJ0
>>17
いや、こんなんググりようもなかろう。
>>7と増分1な数列で「前置きもなく」だったら、
このスレ最初期(1_171-,2_263-,3_15-,...)からそんなもんだったが、
皆普通に読み取り参加してきていた以上、充分な前置きであると言えよう。
従って、要約するなら「(いろんな意味で)ちゃんと読もうね」だろう。
敢えてググレカス方向に意訳するなら「ググるまでもないわカス」になるのかな。

何でも斬って捨てるのも違うだろうけど、おしめの世話までってのも違うだろう。
そも、「2ch用語・概念の基礎知識」とか「Windowsの使い方」みたいなのは板違いだし。
とはいえ、このスレは2ch系としては、あるいは、エロゲ系板としては、
かなり甘い部類であるとは思われる。
大抵、何だかんだ言って、答えなりポインタなりキーワードなりは出て来るからね。
ま、そういった(>>15みたいな)匙加減がこのスレの真骨頂かもしれないなぁ。
逆に、このスレであまりに基礎的なことまで何の苦言もなく面倒みてくれるようなら
要注意かもね、将来性に全く期待されてないという意味で。

「人手(単純な人数)」だけ多くてもスレは死に得るんだな。
現状での/将来的な「人材(SS書きという意味ではない)」は喉から手が出るほど欲しいし、
普通の「参加者」も適度に欲しいが、「お客様」は要らないよねぇ。
というのがこのスレに限らず大概のスレでも実際のとこじゃないかね。
ま、あまりに人材の敷居が低くてお客様で充分人材な場合もあるかもしれないけど。

33 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/21(土) 19:57:52 ID:W1FDWvV80
誰か>>32を要約してくれ


34 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/21(土) 20:01:25 ID:n9miGFLA0
ニム「めんどくさい」

35 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/21(土) 20:25:50 ID:bL77bXjJ0
>>33
「がんがれ」

36 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/21(土) 21:28:41 ID:uL7HXGZS0
>>20
迷ったら投下。これ基本。

>>30
乙であります。
ロティが主人公(しかも真っ当なw)の長編は初ですね。
スピたん持ってるけど、話の流れを覚えてないのでまっさらな気持ちで楽しませていただきます。

EXPもダイジェストもやったけどナナルゥに特別過去話ってのはなかった筈。
アネたんではあるのかな?やってないからわからん。
このスレ仕様のエピソードはいろいろあるんで、そういうのを活用してくと妄想が広げやすいと思う。

保管庫はタイトルのついたネタやSSがあったら勝手に拾ってくとかそんな感じ.


37 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/21(土) 21:36:41 ID:uL7HXGZS0
一応こっちでも告知。

今スレで現保管庫は終了となりますので、3代目保管庫建築士になりたい方居ましたら連絡スレまでご一報を。
もちろん勝手に3代目作るんでも可。ログとか必要だったら送るんで遠慮なく仰ってくださいませヽ(´ー`)ノ

38 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/06/21(土) 22:30:15 ID:la8Ua9Al0
>>31>>36

了解です。では区切りの良い所まで投下致してみます。
初のSS「Twinkle Fairies」ですが、皆さんに楽しんで頂ければ幸いです。

39 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/21(土) 22:40:00 ID:la8Ua9Al0
序章:異世界からの来訪者(1)

「ねぇねぇ、シアーはユート様の事どう思う?」
「ユート様?う〜ん、よく判んない」
 ラキオスの訓練施設。その一角で、二人の少女が甲高い鋼の調べを奏でながら剣戟を繰り広げていた。
「も〜、怖がってネリーの後ろに隠れてるからだよ?」
「う…ん。でも、初めて会う人って何か苦手なの…」
 少女たちのたおやかな手に握られた剣は訓練用に刃の潰された模造品であったが、小柄な彼女たちが扱
うにしては不釣合いな程の大きさであった。
 時折、その重さに重心を奪われる事があったが、寧ろ少女たちはそれすらも利用し、より一層力の籠も
った一撃を放っていた。そう、少女たちは身の丈の半分近くはあろうかと言う剣を悠々と使い熟している
のだ。まだ幼さが残りあどけなさすら漂う少女たちの外見からすれば、異常と言わざる得ない技術と膂力
であった。
 否、その卓越し洗練された剣捌きだけではない。剣戟に興じる二人の少女たちの外見もまた、普通では
なかった。
 先ず目に飛び込んでくるのはその鮮烈な色彩の髪と瞳であろう。光沢を放つその瑞々しい髪は、宛ら秘
術で溶かした青玉を練り上げて造り上げられた様に美しく、その瞳もまた磨かれた青玉の如き彩りを持ち
合わせていた。その色が自然である証拠に、彼女等の形の良い眉やその美しく整った顔に長く影を落とす
睫毛すら彼女たちの髪や瞳と同じ色をしていた。
 更に、二人を見て何よりも思うのはその互いに似通った容貌であった。匠と呼ばれるに相応しい造り手
が寸分の狂いも無く拵えた造形の様に、はたまた、鏡に映してそこに存在している鏡像の様に、二人の顔
はとても良く似ていた。
「ネリーはどっちかって言うと面白そうだと思うけどな〜」
 二人の内、長く伸ばした髪をポニーテールにした活発そうな少女、ネリーがその結った髪を元気に跳ね
らせながら期待に満ちた声で語りかけた。
「だって、伝説のラキオスの勇者様だよ?ハイ・ペリアから来たって言うし」
「ハイ・ペリアかぁ…。どんな処なのかなぁ…?やっぱり、凄い処なのかなぁ…」
 ネリーの言葉に好奇心を刺激されたのか、今度は豊かで柔らかそうな髪を肩口で切り揃えた御河童の少
女、シアーがしみじみと呟いた。

40 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/21(土) 22:44:42 ID:la8Ua9Al0
序章:異世界からの来訪者(2)

「でも、この前アセリアにこてんぱんにやられてたよ?」
 以前、件の勇者が少女たちの先輩であるアセリアと言う少女と訓練をしていた。その事を思い出し、シアーが不思議そうな
調子でそんな事を漏らした。
 否、それは最早訓練と呼べる様なモノではなく、容赦も手抜きも一切しない、鬼の扱きであった。『ラキオスの蒼い牙』と
称されるこの大陸で名の通った猛者であるアセリアに一方的に打ち負かされた勇者、悠人は、暫くそのまま訓練場の床に大の
字になって動けなくなっていたのだった。その時の光景が、二人の頭の中で甦っていた。
「う〜ん…。ユート様は勇者なのに、何でだろ?」
「でも、あの『リクディウスの魔龍』を倒したのはユート様だったらしいよ?」
 この世界で最も恐れられる存在の一つに、龍と呼ばれるモノがあった。人類だけでなく、あらゆる生物の頂点に君臨するに
相応しいその超越した知恵と魔力、そして堅牢で強靭な生命力を備えた肉体を有するその存在は、最早生物の格などと言う範
疇を根底から覆す程の生物であった。
 遥かに長い時を生きる龍は、基本的に無益な争いを好まない穏健な気性を有する場合が多い反面、その逆鱗に触れた者には
必定の破滅を齎すと言われる程に無慈悲でもあった。この世界の『最強』の生物、それが龍である。
 しかし、その龍である『リクディウスの魔龍』ことサードガラハムを討ち取ったのが、今まさに時の人となっている勇者、
悠人であった。
「やっぱり『求め』の力なのかな〜?」
「四位だもんね〜」
 ネリーとシアーは、悠人の持つ永遠神剣の事を思い出していた。
 『永遠神剣』。『神の作りし聖剣』ともよばれ、マナと呼ばれるこの世界の原初のエネルギーと引き換えに持ち主に奇跡を
齎す意思を持つ武具。『位』と『名』を持ち、『位』の数が小さい程高位とされ、その力も強いとされる。
 時に運命をも支配し、持ち主を異世界から召喚する奇跡すら可能にする。そう、悠人は永遠神剣第四位『求め』に召喚され
た人間である。正確には、『来訪者(エトランジェ)』と呼ばれる人間であった。

41 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/21(土) 22:48:50 ID:la8Ua9Al0
序章:異世界からの来訪者(3)

そして、悠人が選ばれた永遠神剣・『求め』は、歴史上、この世界で確認されている神剣の中では最高位とされる神剣であった。
 その神剣の奇跡の力を用い、悠人はサードガラハムを屠ったのだ。
 しかし、この世界で最強と謳われる龍すら打ち破る力を持つ悠人に、ラキオスの国民は英雄と持て囃し、同時に畏れもした。否、
ラキオスの国民でなくともこの世界の人間ならば大抵の人間は畏怖の念を抱いたであろう。
 この世界で龍と並び、人間が最も恐れるモノ。それは皮肉にも、この世界の人間の為に強大な神剣の力を揮う『エトランジェ』と
『スピリット』であった。
 悠人は前者、そして後者はネリーやシアーたちを始めとする少女たちである。
 突然現れた伝説の勇者に胸を躍らせ、取り敢えずネリーとシアーはお腹が減るまで剣を振り続けたのであった。

 ラキオスの城近郊のスピリットに宛がわれた居住施設、『スピリットの館』。その第一詰め所のとある一室で、一人の少年が寝台
の上で四肢を投げ出して天井を仰いでいた。
 まだ若く所々に未熟さを残してはいるものの、同年代の少年と比較すれば背丈も体付きも平均よりも秀でている方であろう。しか
し、彼の国に多く見られる幼く見えるその顔付きや、今まさに浮かべている困惑した表情が彼をより一層幼く見せていた。
「隊長…、か…」
 溜め息混じりに紡がれた少年の言葉には、鬱々とした響きが漂っていた。元より独り言のつもりなのか、それとも無意識にか。少
年はこの世界では聞き慣れない異国の言葉で、否、この世界には存在しない異世界の言葉を紡いでいた。


42 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/21(土) 22:53:33 ID:la8Ua9Al0
序章:異世界からの来訪者(4)

 濡れ烏の様な漆黒の、硬質なさんばら髪が特徴的な黒髪黒眼の少年。
 高嶺悠人。それが少年の名である。
 先日。ラキオス王の命により、悠人はラキオスの北方に位置するリクディウス山脈に棲まう龍、サードガラハムを討ち倒した。その功績を評価され
、悠人は正式にラキオススピリット隊の隊長に任命されたのである。
 だが、兵法も計略も、まして戦闘技術すら知らない、知る必要すらなかった悠人にとって、その地位は重荷以外の何物でもなかった。悠人の住んで
いた国は理想郷でも楽園でもなかったが、少なくとも戦争や無益な殺生を禁忌とする国であった。
 本来なら、その様な地位も肩書きも全て投げ捨ててしまいたかった。
 しかし、悠人にはそれは叶わぬ望みであった。このラキオスには、彼の義妹にして唯一の家族である佳織が人質として囚われているからであった。
 一体、どんな運命の神の悪戯が働いたのか。『求め』の使い手たる悠人だけでなく、彼の義妹である佳織もこの世界に召喚されていたのであった。
 神剣を持たなかった佳織は年相応の非力な少女でしかなく、現在はラキオスに現れたエトランジェに要求を呑ませる為の切り札としてラキオス城内
に軟禁されていると言う常態であった。
当初、悠人は高慢なラキオス王の要求に当然反発した。狡猾な人間は悠人が最も嫌うものであったし、何より、自分が戦争の道具として扱われるのが
我慢出来なったのである。人を殺める事など、この時は死んでも御免であった。
 ならばと、頑なに拒む悠人の前に連れてこられたのは王国に囚われて人質と成り果てた義妹であった。
 悠人を利用する為に佳織が道具として扱われる。その光景に悠人の血は沸騰した。屈強な近衛兵が佳織を取り戻そうと逆上した悠人を取り押さえよ
うとしたが、信じられない事にその悉くを悠人は撥ね除け、圧倒した。『求め』の使い手たるエトランジェとして召喚された悠人は、この時既に人間
を超越した存在となっていたのだ。

43 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/21(土) 22:57:40 ID:la8Ua9Al0
序章:異世界からの来訪者(5)

 あと少しで佳織を救い出せる。
 そこで悠人を止めたのが、この世界に召喚されてからずっと献身的に世話をしてくれていたエスペリアであった。スピリットたる彼女には、人
間の言葉は絶対であった。その緑玉の瞳に映る悲しみの色がそれが彼女の本意ではない事を雄弁に語っていたが、それでも彼女は自らの永遠神剣
『献身』の切っ先を悠人に向け、悠人に『求め』を握らせたのだった。
 全てはラキオス王は悠人の神剣の使い手としての適正を判断する為にエスペリアと切り結ばせる算段であったのだ。最初はエスペリアに剣を向
ける事を躊躇していた悠人であったが、宣告と同時に恐ろしい神剣の使い手に豹変したエスペリアの苛烈な猛攻に、遂に『求め』の力を一時的に
ではあるが覚醒させてしまった。
 エトランジェとしての優れた身体能力に加え、神剣の加護を受けた悠人に神剣の使い手としての利用価値を見出し、これに満足したラキオス王
はエスペリアを下がらせて、この茶番劇は幕を下ろした。
 だが、この力を以ってすれば佳織を助け出せると確信した悠人がその場の緊張が解けた隙を突こうと思った瞬間、悠人を脳を握り潰される様な
頭痛と心臓に杭を打ち込まれる様な激痛、そして内臓を掻き回される様な嘔吐感が襲った。
 特に、王族には敵意を向けるだけでその苦痛は更に激しくなり、ともすれば発狂し兼ねない程の凄まじさであった。
 恐るべき、永遠神剣・第四位『求め』の強制力であった。
 結局、悠人は佳織の身の安全を絶対の条件にラキオスの軍門に下り、ラキオスの手駒としてその身を落とす事になった。
「くそっ…」
 聖ヨト王国の復活と言うくだらない野心に燃えるラキオス王やその家臣たちに怒りを覚えたが、何よりも先ず、その尖兵として使役される今の
境遇に甘んじるしかない、そして佳織を自由にしてやれない自分の無力さに悠人は悪態を吐いた。
 この世界でも自分は誰かを巻き込んでしまう疫病神らしい。そんな自虐的な思考が悠人の心に冷たく圧し掛かってきたのだった。

44 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/21(土) 23:01:28 ID:la8Ua9Al0
一章:刻んだ想い(1)

悠人がこの世界に召喚されて七ヶ月が経ったシーレの月。溢れたラキオス王の野心は、遂にバーンライト王国に対する宣戦布告と言う形
で顕れた。
 悠人たちがサードガラハム討伐を敢行した三ヶ月前のエクの月、バーンライトのスピリット部隊がラキオス領内に侵入していた事が確
認されていた。バーンライトとしては伝説のエトランジェが現れたと確認されたラキオスに対抗すべく、サードガラハムを討ち滅ぼし、
保有するその大量のマナを獲得して軍事力の強化を狙っていたのだろう。
 しかし、バーンライトの思惑は外れ、ラキオス領内に侵入したバーンライトのスピリット部隊は『国籍不明』のスピリットとして、同
じくサードガラハムの討伐に進軍していた悠人たち率いるラキオスのスピリット部隊によって撃退されていた。
 ラキオスはこの件に対してバーンライトに正式な抗議と真相の説明を要求したが、敵対国であるラキオスに危機感を抱いた為と説明出
来よう筈もなく、結局バーンライトはラキオスの望む様な返答を返せずにいた。
 否、『ラキオスの望む』と言う点でならばバーンライトの取った対応はこれ以上は無いものであったであろう。バーンライトに宣戦布
告する迄の三ヶ月の間、ラキオスはこの事件を大々的に国民に報じ、国民にバーンライトに対する反感と不信感、そして好戦ムードを植
え付けていたのであった。
 国内の世論を操作したラキオスは、国家主権の不可侵の保持とバーンライトに対する制裁を名目としてスピリット隊を進攻させたのだ
った。
 全てはラキオス王の思い描いたシナリオ通りであった。

45 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/21(土) 23:06:10 ID:la8Ua9Al0
一章:刻んだ想い(2)

「ねぇねぇ、ユート様。ハイペリアってどんな所なの?」
「なの〜?」
 悠人率いるラキオススピリット部隊は早々に制圧したバーンライトのリーザリオを新たな拠点とし、次の砦のリモドアへ向けて大躍進をし
ていた。今回の作戦に参加したラキオスのスピリットの数は決して多くはなかったが、それを補って余りある程に個々の能力に秀でたスピリ
ットたちが揃っていのだ。
 回復の神剣魔法と防御を担うエスペリア、ハリオンたち緑スピリット。
 強力な攻撃の神剣魔法を得意とするオルファリルと魔法を負荷した剣での近接戦闘を得意とするヒミカたち赤スピリット。
 白兵戦での前衛と後衛の要たるアセリア、ネリー、シアーたち青スピリット。
 尚、遊撃や陽動、撹乱等の特殊な任務を得意とする黒スピリットのヘリオンも配属されたのだが、前線で戦うにはまだ時期尚早であると判
断したエスペリアの助言もあって今回はラキオスに残って訓練を優先させる事となった。
 因みに、今回の作戦期間中に訓練施設で泣きながらもヘリオンが一生懸命真面目に訓練していた事は泣いた本人と担当していた訓練士だけ
の秘密である。
 よって、今回のバーンライト進攻作戦には悠人を含め実質八名で臨む形となっていた。
「ハイペリアにもラナハナやリクェムがあるって本当なの?」
「そうなの〜?」
 行軍中にも関らず、悠人たちラキオススピリット部隊は緊張とは懸け離れた状態に陥っていた。
 原因は明確で、今回新たに加わった青スピリットの双子、ネリーとシアーの矢継ぎ早な質問攻めである。
 双子と言ってもスピリットに血縁と言う物は存在しないらしかったが、そのあまりに似た二人の容姿に二人を双子の様に扱っていた為、本
人たちも今ではすっかり本物の姉妹の様に互いに接していた。
悠人も、紹介された当初は思わずエスペリアにスピリットにも姉妹がいるのかと訊いた程である。
「こら、二人とも。今は作戦中ですよ?それに、ユート様にそんな不躾な質問をしてはいけません。ユート様も困ってしまいます」
 悠人の優秀な補佐官であるエスペリアが窘めるが、そんな事では二人の好奇心が収まろう筈もなく、二人は残念そうな視線で悠人を眺めた。


46 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/21(土) 23:09:41 ID:la8Ua9Al0
一章:刻んだ想い(3)

「別に良いさ。エスペリア」
「ですが、ユート様」
「『求め』が周囲には他の神剣の反応は無いって言ってるし、さっきからずっと哨戒状態で流石に皆も疲れてくるだろ?それに皆俺の世界の
事に興味があるみたいだしな」
 ぶっちゃけ、俺がきついし…。と、悠人は言葉を飲み込んだ。
 悠人も進攻に当たっての心構えをエスペリアから教わっていた。
 これは互いの国権を賭けた代理戦争である事。故に命を賭して、否、命に代えてでもスピリットはその任務を遂行せねばならない事。初陣
が最も命を落とす危険を孕んでいる事。そして何より、他ならぬ悠人の義妹、佳織の為にも悠人は負ける事は許されない事。
 重々承知していた悠人であったが、やはりその重責は堪えるものであった。
 それに、悠人の手には先日のリーザリオ制圧の時にスピリットを斬った感触が残っていた。佳織の為、遭遇した敵とは戦う覚悟は出来てい
た。しかし、戦いが始まる前くらいは悠人は戦いの事は忘れていたいのだった。
 悠人の雰囲気に何かを感じ取ったのか、エスペリアは「解りました…」とだけ言うと黙って悠人の後ろに下がった。
「サンキュ、エスペリア…」
 悠人はエスペリアに礼を言うと、先程から好奇の視線を送ってきたスピリットたちに悠人の世界、ハイ・ペリアについて語り始めた。
 自分は地球と言う惑星の日本と呼ばれる島国に住んでいた事。平日は学校と呼ばれる教育施設に通い、午後と休日はバイトに明け暮れてい
た事。佳織がフルートの奏者として推薦の話が来る程優秀である事。何かと世話を焼いて助けてくれる無二の親友たちがいた事。元の世界を
思い出すだけで、悠人はいくらでも皆の質問に答える事が出来た。


47 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/21(土) 23:12:30 ID:la8Ua9Al0
一章:刻んだ想い(4)

「ユート様、もういいよ…」
「うん、無理しないで…」
 最初、初めて聞く伝説の異世界の話を皆は夢中になって聞いていた。しかし、その話を打ち切る言葉を告げたのは、意外な事に一番話を興
味深そうに聞いていたネリーとシアーであった。
「ん、どうした?やっぱり、俺頭良くないから説明が下手で解りにくかったのか?」
 自分の現代国語の小論文の成績を思い出し、悠人はバツ悪く頭を掻いた。だが、そうではないと首を振る二人に悠人は益々混乱した。
「ううん…。ユート様の話は面白かったよ…」
「でも、そうじゃないの…」
「?」
 要領の掴めない悠人が他のメンバーを見渡すが、皆もネリーやシアーたちと同様に悲しそうな表情を浮かべていた。自分は何か悲しい話を
しただろうかと、悠人は皆に話した内容を思い出してみた。しかし、話したのは悠人の国の世界や佳織、そして光陰や今日子といった親友の
話ばかりで、寧ろ暗い話や悲しい話等は話していないと言えた。
「ユート様がね、辛そうなの…」
「だから、ハイペリアの話はもう良いの…」
「―っ!!」
 その言葉に、悠人は愕然とした。話をする悠人自身でさえ故郷の話をする時は楽しいと感じていた。だが、ネリーとシアーの言葉は悠人さ
え気付かない、無意識の望郷の念を見透かしていたのだった。
「あ、あのっ…?ユート様…?」
「ユート様…?」
 急に黙り込んだ悠人を二人が心配そうに見上げてきた。それを見た悠人は、二人だけでなくその周りの皆の自分を気遣ってくれていると言
う気持ちを感じていた。あぁ、ここには優しい心を持った掛け替えの無い仲間がいる。
 そう思うと堪らなくなり、気が付けば悠人は目の前の二人の頭を自分の胸に掻き抱いていた。
「わわっ!?」
「ユート様?」
 突然の抱擁に二人は驚いて悠人を見上げた。

48 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/21(土) 23:15:22 ID:la8Ua9Al0
一章:刻んだ想い(5)

「サンキュ、二人とも。それに皆。大丈夫、故郷が懐かしいのは変わんないけど俺にはちゃんと俺を大事に思ってくれる皆がいるからな。だ
から俺はまだ頑張れる。元気を貰ったからな」
 二人が見上げる視線の先には、暖かい目で周囲を見渡す悠人の顔があった。まだ悲しみの色は残っているけれど、それを抱えて進んで行け
る強くなった少年がそこにいた。
「あ…」
「あ〜…」
 気が付けば、二人は悠人のその大きな手で頭を撫でられていた。剣を振り続けた所為か、その手は硬くてゴツゴツしていたけれど、それは
まるで干したての毛布に包まれたかの様な優しい心地良さであった。
「えへへ〜♪」
「〜♪」
 二人は生まれて初めて味わうその感触を、悠人が他のメンバーの視線に気付いて撫でるのを止めるまで目を細めて浸っていた。

「とーうっ!!」
 何処か緊張感の抜ける掛け声と共に、真っ白な翼の天使の光輪、ウィング・ハイロゥを展開したネリーが青スピリット特有のスピードを活
かした動きで翻弄した敵の懐に潜り込み、その手に握られた『静寂』で次々とバーンライト兵を金色のマナと還していた。
 次の目的地であるリモドアを目指して進軍していた悠人たちは、その半ばを越えた辺りで待ち伏せていたバーンライト兵たちの強襲に遭遇
した。事前に発せられた『求め』の警告に加えてエスペリアの的確な采配により、悠人たちは然したる混乱も無くバーンライト兵を迎撃する
事が出来ていた。
 固まり過ぎてそのまま神剣魔法の的になる事も無く、かと言ってバラバラに散開し過ぎて各個撃破される事も無く、悠人たちは部隊を二つ
に分けて数に勝るバーンライト兵たちと応戦していた。
「さぁってと、次は―。きゃーっ!?」
 既に幾多のバーンライト兵を屠り、その金色のマナを纏っていたネリーが次の標的を探して見渡していた。その最中、まだ漂っていたマナ
の霧を突き破り、突如姿を現したバーンライト兵がネリーに切り掛かった。
「ネリーっ!!」
あわや、その切っ先がネリーに届こうかと言う時。直前でネリーに追い着いた悠人がバーンライト兵をその長大な『求め』の刃で両断した。


49 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/21(土) 23:19:47 ID:la8Ua9Al0
一章:刻んだ想い(6)

「怪我は無いか!?ネリーっ!」
「う、ん…。へ、平気だよ、ユート様…」
 肩口から胸の半ばまでをバッサリ斬られていたものの、そこから覗く白磁の様に白い肌の細い肩や小枝を思わせる様な華奢な鎖骨、そして、
ともすれば少年のものと見紛う様なさやかな胸の膨らみからは出血の証である金色のマナは確認出来なかった。どうやら、斬り付けられる直前
にネリーは咄嗟に回避行動を取り、斬られたものは服だけで済んだらしい。
「前に出過ぎだ!もう少しで殺される所だったんだぞ!?」
「あぅ、ご、ごめんなさい。ユート様…」
 行軍中は優しかった悠人の、厳しい響きを含む怒声にネリーは思わず身を竦めた。
「―グゥッ!?」
 一息を吐く暇も無く、悠人の頭に『求め』の鋭い痛みが走った。急いで目を向けると、悠人とネリーに向けて今正に神剣魔法を放たんとする
バーンライトの赤スピリットの姿が飛び込んできた。
「くぅっ、間に合うか!?」
 咄嗟にネリーを背後に庇い、悠人は魔法を中和する障壁を構築させ始めた。悠人に続いて背後のネリーも魔法を無効化する神剣魔法、<アイ
ス・バニッシャー>を唱え始めたが、完全に先手を取れると確信したのか、先程まで人形の如く無表情であったバーンライト兵の口元には獲物
を仕留める獣を彷彿とさせる酷薄な笑みが浮かんでいた。
「ちぃっ、このままじゃマズイっ!!」
 展開中のシールドは間に合っても精々一人分。ならばそのシールドの加護を受けるべきは誰か。決断した悠人はまだ詠唱中のネリーをその
場に残し、自らを抵抗のオーラで纏って跳躍した。
「ユート様っ!?」
 その悠人のあまりに突飛な行動にネリーは思わず声を上げた。予想すらしていなかった。出来よう筈もなかった。悠人が取った行動は、そ
れ程迄にネリーの常識を超えたものだったのだ。
「うおぉーっ!!」
 あろう事か、悠人は雄叫びを上げながらバーンライト兵に突進していた。的は自分であると言う様に。ネリーを射線から隠す為、悠人はそ
の抵抗のオーラを身に纏って自らを盾としたのだった。

50 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/21(土) 23:24:51 ID:la8Ua9Al0
一章:刻んだ想い(7)

「ユート様ぁっ!!」
 突然の事態に、ネリーは詠唱も忘れて悠人の背中に向かって再び叫んでいた。
(死ぬ?ユート様が?ネリーを守る為に?ネリーはスピリットなのに?どうして?ダメ、今からじゃ詠唱も間に合わないよぅ。追い着くのも
もう遅いし。どうしよう?どうしよう?どうしよう!?どうしよう!!ユート様に何かあったらどうしよう!!ネリーは!ネリーは!どう
すれば良いの!?)
 普段は思考する事すら厭うネリーの頭の中では、目の前に起こった事態に対処しようとあらゆる知識と経験が高速で駆け巡っていた。しか
し、この状況を打開可能な方法が咄嗟に出る程、ネリーは卓越した策士でもなければ、熟練の戦士でもなかった。知識も経験も、そして知恵
も、何もかもがまだ年若いスピリットには圧倒的に不足していた。
 何も出来ない。果てしなく正解に近いその結論がネリーを打ちのめした時、ネリーは只その場に膝を着く事しか出来なかった。
(くそっ、やっぱり食らっちまうかっ!?)
 電流が流れている回路を思わせる、光り輝くマナによって浮かび上がった緻密な魔法陣を睨み付けながら悠人は半ば覚悟を決めていた。死
ぬつもりは毛頭無かったが、この選択を選んだ代償が決して安いものではないと言う事を、悠人の生存本能と握り締めている『求め』が発す
る警告が告げていた。
「アイス・バニッシャー!!」
 間一髪。あわや、と言う所で悠人の目の前のバーンライト兵が凍り付いた。その一瞬の間の後、凍結が解け、同時に収束していたマナも霧
散して果てた。
「せぇいっ!!」
 ここにきての予想外の妨害に態勢を崩したバーンライト兵の致命的な隙を悠人は逃さなかった。裂帛の気合と共に振り下ろされた『求め』
は相手の左肩に深々と食い込み、鎖骨、肋骨と粉砕していき、最後に右の腰から抜けていった。
 空に立ち昇る金色のマナの中。悠人が振り返った視線の先には、安堵のあまり目元を若干潤ませている『孤独』を構えたシアーと皆の無事
を純粋に喜ぶハリオンの姿があった。

51 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/21(土) 23:26:54 ID:la8Ua9Al0
一章:刻んだ想い(8)

「ネリーもユート様も、無茶しちゃダメだよぅ…」
「お怪我はありませんか〜?」
 『求め』からはもう敵意ある神剣の気配は伝わってこなかった。ふと、遠くから悠人たちを呼ぶ声がした。目を遣ると向こうからアセリアや
エスペリアたちがこちらに向かって来ているのが見えた。どうやらあちらも敵を片付けたらしい。
 改めて危機が去った事を実感し、悠人は大きく息を吐いて『求め』を腰に差した。

 幸いな事にそれ以降は敵襲に見舞われる事は無く、日が傾き始めた頃には悠人たちは交替で歩哨を立てて野営を設けていた。
 敵国の領内と言う事もあり何処か緊張した雰囲気が野営に漂っていたが、それだけではない別の緊張が圧迫感となって張り詰めていた。
 事の発端はネリーを庇って敵に吶喊した悠人の行動に関してであった。その行動が軽率であるだとか蛮勇である等と非難されればまだ悠人に
は納得がいったのだが、スピリットのネリーを庇う為に人間の、それもエトランジェの悠人が自らを盾とする事など言語道断であると言う副官
のエスペリアの諫言の内容は悠人にとって非常に納得がいかないものであったのである。
「何でだよ!?じゃあ、あの時はネリーを犠牲にして俺だけ逃げれば良かったって言うのかっ!?」
「そうです。今日のユート様が取られた行動は、無謀であるどころか我がラキオスにとって多大な損失となったかもしれなかったのです」
 野営テントの中に設けられた簡易作戦会議室。そこでは悠人とエスペリアの激しい口論が繰り広げられていた。尤も、声を荒げているのは専
ら悠人でエスペリアは有無を言わせぬ強い口調で淡々と返すと言った状態であった。

52 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/21(土) 23:31:00 ID:la8Ua9Al0
一章:刻んだ想い(9)

 現在、野営の三方にはアセリアとオルファリル、ハリオンが歩哨に立っており、テントの中ではヒミカは何処か複雑そうに、シアーは只オ
ロオロと、そしてネリーは何処か居た堪れない面持ちでその二人の光景を黙って見ていた。
「確かに被弾は覚悟して突っ込んだけど、『求め』の力があれば十分有効な手段だった筈だろ!?誰も死ななかったし、被害だって最小限に抑
えられた!!」
「ユート様、それは結果論に過ぎません。今回の結果は偶々敵の赤スピリットが低位の神剣魔法しか使えなったから成功したのです。若し、
今日ユート様を攻撃した敵がより強い敵でしたらシアーの<アイス・バニッシャー>で無効化出来なかったかも知れませんしユート様のシール
ドも貫かれていたかも知れないのですよ」
 エスペリアの言葉に悠人は奥歯を噛み締めた。確かに、全て上手くいったのは幸運としか言い様が無かった。次もこの様な事態に陥った時
、再び今日の様に命を拾うと言う保障は無い。ともすれば、今日、金色のマナに還ったのは悠人自身であったかもしれないのだ。
 沈黙した悠人を見て、エスペリアは悠人が感情的になっているものの、理性的な思考がそれを静めつつある状態にあると判断し、内心で一
息吐いた。
 感情の揺れ幅が激しい悠人であるが、最後には理性で押さえ付ける。優しいこの人間の少年は、その優しさ故に感情を爆発させ、そしてそ
の優しさ故にその感情を押し殺すのだ。
今回の事も、非難されるべき点においては概ね反省の色が見て取れた。強情な処はあるが、心根は素直な少年なのだ。
 しかし、そんな優しくて素直な悠人の最も受け容れ難い考えを、エスペリアは納得させずとも理解させなければならなかった。

53 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/21(土) 23:33:01 ID:la8Ua9Al0
一章:刻んだ想い(9)

「ユート様はカオリ様をお守りになるのでしょう?でしたら、私たちを犠牲にしてでも絶対に生き延びねばなりません。ユート様が命を落
とされてしまったら、残されたカオリ様を一体誰がお救いになるのですか?」
「―ッ!!」
 エスペリアの言葉に、悠人は息を呑んだ。そして、その顔に浮かぶ表情を見たエスペリアの心もズキリと痛みを覚えていた。卑怯だと罵
られても良かった。否、いっそ恨まれても良いとさえ思った。悠人にとって佳織の存在をちらつかせて押さえ付けられる事がどんなに酷な
事であるか。エスペリアに解らない筈が無かった。
 だが、そんな汚い方法を使ってでもこの少年に言い聞かせねばこの少年は易々と命を落としてしまうだろう。異世界からやってきた目の
前の少年にとって、血に塗れた剣と破壊を撒き散らす魔法に溢れたこの世界はあまりにも無慈悲であったのだ。
「ご、ごめんなさい…。ユート様…」
 それまでじっと黙っていたネリーが口を開いた。
「ネリーがユート様に迷惑かけたから…。スピリットのネリーなんかの為にユート様を危険な目に遭わせたから…」
「なっ!?ネリーっ!」
 悠人の背中に庇われた時、前に出て我が身を盾にすれば良かった。
 悠人は人間、ましてや伝説のエトランジェ。片や自分は高位の神剣を持つわけでもなければアセリアたちの様な名うての有能なわけでも
ない只のスピリット。
 そんな一介のスピリットたる自分の為に悠人が危険に晒される事などあってはならない事であった。
 ネリーの言葉に血相を変えた悠人の表情は何が浮かんでいただろうか。激しい怒りだろうか、それとも深い悲しみであろうか。どちらに
せよ、テントから跳び出したネリーにそれを知る術は無かった。

54 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/21(土) 23:35:19 ID:la8Ua9Al0
一章:刻んだ想い(10)

「あっ!ネリーっ!?」
 跳び出したネリーをシアーが慌てて追い駆けて行った。
 悠人は何かを言おうとしたが、言葉を掛けるべきネリーの姿は既に無く。結局は二人の出て行った出入り口を只眺める事しか出来なかった。
 暫く悠人がその場に立ち尽くしていると、
「あらあら〜。ご飯の匂いがしないと思ったら、まだ誰も準備をしてなかったんですね〜」
「あ、あははは…。じ、じゃあオルファと一緒に作ろうよ、ハリオンお姉ちゃん。アセリアお姉ちゃんも、お野菜切るの手伝って。テノルグ
(玉葱)とかアセリアお姉ちゃん切るの上手だし…」
「ん、任せろ…。今度は最後まで、泣かない…」
 果てし無く場違いな会話をしながらテントに現れたのは、現在哨戒に当たっている筈のハリオンとオルファリル、そしてアセリアの三人であ
った。
 突然の闖入者にエスペリアは唖然とし、ヒミカは眉間に人差し指を当て、悠人は思考が凍結していた。
「あ、貴女たち、哨戒は一体どうしたのですか?」
「え〜っとですねぇ〜。先程ネリーさんとシアーさんに頼まれまして〜、交替したんですよ〜」
 三人の中で逸早く立ち直ったエスペリアの問いに、ハリオンがのほほんと答えた。
「ですが、哨戒は三人一組で当たる筈です。何故三人とも戻って来ているのですか?」
「それはですねぇ〜…」
 言葉を途中で切ると、ハリオンは二人の遣り取りを傍観していた悠人の腕を取り素早く自分の腕を絡めていた。
「は、ハリオン!?」
「あら〜?ユート様、そんなに驚いた顔をなさるなんて〜。お姉さんとぉ、こうやって腕を組むのは嫌ですかぁ〜?」
 思わず上擦った声を上げた悠人に、ハリオンはさも心外と言う表情でしんなりと首を傾げた。


55 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/21(土) 23:38:25 ID:la8Ua9Al0
一章:刻んだ想い(11)

「いや、そうじゃなくて…。急にくっついてこられたから…」
「そんなぁ〜。ユート様は今日はネリーさんやシアーさん、オルファさんには頭を撫で撫でしてあげてたのに私にはしてくれなかったじゃ
ないですか〜。それに〜、私がユート様を撫で撫でしたいと言っても遠慮してしまわれましたし〜。お姉さんはとぉ〜っても寂しかったん
ですよ〜?だから、少しくらいこうさせてもらっても良いじゃないですか〜」
 下から顔を覗き込む様にして詰め寄り、ハリオンは更に悠人に密着してその肩に己の頭を載せた。
 密着した箇所から伝わる柔らかさと体温、そしてハリオンから漂う女の子特有の体臭とそこに仄かに混じる汗の生々しい匂いに悠人の心
臓は一気に激しい早鐘を打ち始めた。
「は、ハリオンっ!ユート様が困っていらっしゃいますっ! 」
「でも〜、嫌じゃないですよね〜?ユート様〜」
 見兼ねたエスペリアがヘリオンを諫めるが、ハリオンは別段気にした風でも無く、剰え、息も掛かる程に寄った悠人の目の前で、見せ付
ける様にその桜色をした唇をその赤い舌でしっとりと湿らせて微笑んでみせたのだった。
「………(ごくり)。はっ!?」
 はしたなくも鳴らしてしまった己の喉の音に悠人は我に返った。いけない、このままでは道を踏み外してしまう。ここで選択肢を間違え
ぬ為にも、悠人は邪念を振り払うかの様にして頭(かぶり)を振った。
「やぁん♪そんなに動いちゃ、めっ、ですよぅ〜?」
 動いた拍子に絡められていた悠人の腕がハリオンの豊満な胸の谷間に挟まれたが、ハリオンも口で言う程怒ってはおらず、寧ろ嬉しそう
に肩を竦ませて更に悠人にぐいぐいとその身を押し付けていた。
「ユート様が〜、私たちの代わりに歩哨に立って下さいますから〜」
「そんな、隊長であるユート様にその様な事をさせるわけにはまいりません。それならば、この私が歩哨に立ちます」
 エスペリアが反発の声を上げるが、ハリオンはまるで風の調べを聞いているかの様に平然と聞き流していた。
「うふふ〜。ユート様ぁ〜?」
「な、何だ?ハリオン…」
 内緒話でもする様なハリオンの声の調子に、悠人も反射的に囁き返した。

56 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/21(土) 23:41:46 ID:la8Ua9Al0
一章:刻んだ想い(12)

「この場で〜、思いっきり背筋(せすじ)を伸ばしたいと思いませんか〜?」
「―っ!?」
 ハリオンのその言葉に悠人の背中でかつて無い程の冷や汗が噴出した。ひょっとすれば、サードガラハムと対峙した時に匹敵するかもしれな
かった。
「初めての野営は意外と疲れるんですよ〜?ですから〜、体を解しておかないと寝ても中々疲れが取れないんです〜」
「は、ハリオン…?」
 ハリオンの恫喝に、悠人は只戦慄するしかなかった。既に己の肉体は一部制御不能に陥っており、悠人は男としての矜持を、人間としての尊
厳を守る為には、この恐ろしい少女の言葉に従うより方法は無かったのだった。
「い、良いんだエスペリア。それに、皆にばっかり見回りさせるのも悪いし…」
「ですが、ユート様…」
 尚も食い下がるエスペリアを悠人はそっと手で制した。
「実は俺、見張りって好きなんだよ。ホラ、店員のバイトでそんなのもあったし。全然気付かれずに不審な奴とかチェック出来るんだぜ?皆に
も見せてやりたいくらいだよ…」
「泣いていらっしゃいますよ?ユート様…」
「はっはっは…。お願いです、エスペリアさん…。どうか俺を歩哨に立たせて下さい…」
 隊長としての威厳も全て投げ捨てて、悠人はエスペリアに懇願、否、哀願した。
 若し、肉体の自由があったならば悠人は土下座すらしていたかもしれない。尤も、この世界で悠人たちの作法が通用するかはさて置いて…。
「は、はい…。ユート様がそう仰るのでしたら…」
「有難う…。エスペリア…」
 そのあまりにもあんまりな悠人の態度に、エスペリアも引き気味に了承してしまった。
「さぁ〜、お姉さんが一緒に案内いたしますよ〜?」
「………」
 ハリオンに促され、悠人は護送車に連行される囚人の如く、無言の前傾姿勢でその場を後にしたのだった。

57 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/21(土) 23:44:31 ID:la8Ua9Al0
一章:刻んだ想い(13)

「ネリー…」
 テントを飛び出して追い駆けては来たものの。膝に顔埋めて塞ぎ込んだままのネリーの隣で、シアーは先程から只心配そうに声を掛ける事しか
出来ずにいた。
 今ネリーを苛んでいるその考えが、同じスピリットたるシアーには良く理解出来た。人に仕えるスピリットが人間を危険に晒す事など到底許さ
れる事ではない。過失であるとは言え、否、過失であるからこそその責は重かったのだ。
 風説では、大罪を犯したり人間に危害を加えたスピリットは処刑されてその身をマナの結晶へと還されてしまうと言う。
 スピリットは貴重ではあったが、戦闘において適性の無いスピリットなど所詮は単なる欠陥品でしかなかった。欠陥品に有限である貴重なマナ
与えて無駄にするくらいなら、いっそより適性のある有望なスピリットやエーテル施設に当てるマナに還した方が遥かに有益である。それがこの
世界の常識であった。
 幸いにもネリーたちが転送されたラキオスは、レスティーナ王女の意向によってスピリットに対して比較的寛容な傾向にあった為、処刑された
スピリットはまだいない。
 しかし、ラキオス内においてさえその寛容さを批判する声があるのも事実であった。
 非常時において何よりも優先されるべきは国の存続である。国の備品であるスピリットたちを犠牲にしてその危機を脱却出来るのならば、一体
誰が異を唱える事が出来るだろうか。
「ネリーは、どうすれば良いのかなぁ…」
「ネリー…」
 ネリーの悲愴な呟きに、シアーは只隣に座って一緒に途方に暮れる事しか出来なかった。

「ったく…。ハリオンの冗談にも程があるぞ?」
 まだ半身に残るハリオンの感触とその匂いを払拭する様に悠人は呟いた。因みに、先程悠人を拿捕していた当のハリオンはテントの外へ出るや
「は〜い、じゃあしっかり頑張るんですよ〜?ユート様は男の子なんですからね〜」
 と、言い残し、早々と夕飯の支度に取り掛かっていった。
 最初は戸惑っていた悠人であったが、哨戒に当たっている間に自分の頭が冷えてきた事に気が付いた。
(この世界は、ファンタズマゴリアは俺たちが生きてきた世界とは違うんだな…)
 テントの中でのエスペリアとの口論を思い出し、悠人は改めてその事を実感していた。

58 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/21(土) 23:52:01 ID:Qnx9s0n+0
支援がいるかな?

59 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 00:59:40 ID:JEqMH6F/0
一章:刻んだ想い(14)

 『ファンタズマゴリア』。悠人たちの世界を『ハイ・ペリア』と呼ぶのに対し、この世界の人々は自分たちの住む世界に名を付けてはいなか
った。尤も悠人たちも自分たちの世界に名など付けていなかったのでとやかく言えないのだが、佳織が好んで読んでいたファンタジー小説の舞
台である世界の名前から取って、暫定的にこの世界を『ファンタズマゴリア』と呼ぶ事にしたのだ。
 剣と魔法の世界。王子と女騎士の件は流石に異なるが、勇者と妖精等とくれば本当にこの世界はファンタジーの世界そのものであった。
 しかし、この世界に悠人は違和感を覚えていた。勿論、悠人の世界とは異なるこの世界の常識もであるが、何よりも噛み合わないのは生活の
水準であった。
 歴史の知識から言って、この世界の文化レベルは精々中世ヨーロッパくらいであろうと悠人は考えていた。だが、この世界には不釣合いな程
に人々の生活を潤す技術があった。それがマナを利用した『エーテル技術』であった。
 スピリットの館に住んでいた時、悠人はこの世界の風呂は火を焚いて湯を沸かすのだと思っていたが、実際には蛇口を捻れば直ぐに温かい湯
を得る事が出来たのである。それだけではない、厨房の火も、闇を照らす明かりも、全てはエーテル技術によってその恩恵を齎されていた。
 悠人の世界ならば別段驚く事でもなかったのだが、この世界においてのエーテル技術は悠人の目からみても明らかにオーバーテクノロジーで
あった。
(いや、今はそんな事はどうでも良いんだ。問題はこの世界のスピリットに対する考えだろ…)
 生まれながらにして戦争の道具として扱われるスピリット。否、実際に彼女たちに対する人間の扱いは道具以下であろう。人間は便利な道具
を恐れはしない。そこにあるのは、自分より優れた者に対する妬みや恐れ、憎しみと言う人間の負の感情であった。
 それが悠人には我慢が出来なかった。誰よりも強く、勇敢で、優しい彼女たちは他ならぬ人間の為に戦っていた。しかし、傷付いて倒れ逝く
スピリットたちに対して人間はあまりにも高慢で身勝手であった。

60 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 01:02:38 ID:JEqMH6F/0
一章:刻んだ想い(15)

(ん?あれは…)
 そろそろ野営を一周しそうになっていた悠人の視線の先に、寄り添う様にして夕陽に佇む二つの影があった。
(そう言えば、さっきまで散々怒鳴ってたんだっけ?俺…)
 泣きそうだった顔のネリーや怯えた顔のシアーを思い出し、湧き上がってくる罪悪感に悠人は思わず歩みを止めた。
夕陽の逆光でよく見えないが、目を凝らして見ると膝を抱えて蹲っているネリーを同じ様な姿勢でシアーが眺めているのがぼんやりと判
った。幸か不幸か、二人とも悠人の存在にはまだ気付いていない様であった。
 悠人は先刻までのテント内での出来事を思い出し、このまま踵を返してしまおうかと一瞬考えた。悠人の考え方とこの世界の考え方と
ではあまりにもその溝は深い。争いと最も遠い世界に住んでいた悠人の言葉など、所詮は只の奇麗事を並べていると映るかもしれない。
 だが、悠人が心の片隅で燻るものを感じている事も紛れも無い事実であった。それは単なる意地に過ぎないのかもしれないが、佳織と
二人で理不尽な社会を生きてきた悠人にとってその意地は決して譲れない意地であると言う確信があった。では何の為の意地かと自問し
、その答えは悠人の最も単純な気持ちに繋がっている事に悠人は気が付いた。
 迷わず踏み出したその一歩は、悠人でも驚く程に軽くなっていた。
「よ。二人とも」
「あ、ユート様…」
 黄昏れていた二人の背中に、悠人がいつもの調子で声を掛けた。ネリーはまだ気拙さを感じているらしく、反応はしたものの依然とし
て抱えた膝に顔を埋めていたが、シアーは悠人の何処か晴れ晴れとしたその調子に思わず振り返ってしまった。
「ネリー、ユート様だよぅ…?」
「いや、さっきまで俺あんなだったし…。ネリーも顔合わせ辛いだろ?だから、そのままで良いよ」
 ネリーの袖を引くシアーをやんわりと制し、悠人は二人の後ろに立ってサドモア山脈に掛かる夕陽を眺めた。


61 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 01:06:03 ID:JEqMH6F/0
一章:刻んだ想い(16)

「御免な、二人とも…。怖かっただろ…?」
 悠人の口調は明るかったものの、先の剣幕を思い出してしまったシアーの表情が僅かに曇った。
 だが悠人は然して気にするでもなく、そのままの調子で二人に話し掛けた。
「俺さ、やっぱりスピリットだとか言われてもネリーやシアーたちを戦争の道具として扱うのは絶対納得出来ないんだ。何て言うか、俺は
もうスピリットも人間と変わらないって解ったからさ…」
「シアーたちが…?」
「うん。だから、皆が危険な目に遭えば心配するし、馬鹿にされたら腹が立つ。皆俺の大事な仲間だからな…」
「本当?ユート様…」
 それまで蹲っていたネリーが振り返って悠人を見上げた。
「本当にユート様はネリーたちを人間と変わらないと思ってる…?」
 そう言ってやおら立ち上がったネリーの右手には、夕陽の染まる抜き身の『静寂』が握られていた。
「ネリーっ!?」
「ネリーっ、何してるの!?」
 悠人たちが止める間も無く、ネリーは自らの左手の甲に紅を一筋刻み付けていた。
「―痛ぁ…」
 思わず痛みに顔を顰めたネリーの左手からは、傷口から滲む血が金色のマナとなって夕陽に染まっていた。
「ネリーたちの体はこんなのだよ?それでもユート様はネリーたちが人間と変わらないって言うの…?」
 突き出された左手とネリーを交互に見遣ると、悠人は黙ってその手を取り自らの右手を重ね合わせた。
「えっ!?」
「ユート様っ!?」
 今度はネリーが驚く番であった。悠人は腰に差された『求め』を左手に持つと、先程のネリーと同様に自らの右手の甲にマナの霧を立ち
昇らせたのだった。
「痛かったか…?」
「え…?」
「こんなに切って、痛かっただろ?」
「う、うん…」
 じっと目を逸らさない悠人の真剣な眼差しに、ネリーは思わず肯いてしまった。
「人間だって同じなんだ。怪我したら痛いし、悲しい事があれば辛い。良い事があれば嬉しいし、誰かを思い遣れる優しさだって持ってる」
 ネリーのマナと悠人のマナが混ざり合って立ち昇らせている互いの手。それが決して離れない様、悠人は深く指を絡めてその様をネリー
に見せた。

62 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 01:09:42 ID:JEqMH6F/0
一章:刻んだ想い(17)

「マナの霧だとか、そんな目に見える処じゃない。ネリーが感じてるものは何一つ俺と変わらないんだ。それは目に見えなくても、見えるもの
よりもずっと大切な事なんだ。ネリーたちは道具じゃない。ちゃんと心を持って生きてる。俺がそれを知ってる。だから、スピリットは人間と
は違うなんて、道具だなんて悲しい事言うなよ。優しいネリーたちの方が、余っ程人間らしい心を持ってるじゃないか…」
 視界がぼやけて悠人の顔が見えなかった。目の中が邪魔で瞬いてみると、ネリーの頬に血かと思う熱い雫が流れた。
「うぅ、ユート様ぁっ!!」
 泣いていると気付いた時には、その胸の中に飛び込んでいた。大きな体と力強くて太い腕が、小さな体を精一杯抱きしめてくれていた。一杯
に広がる悠人の匂いと温もりが、ネリーの心を包んでいた氷を優しく解かしてくれている様だった。
「一つ、俺と約束してくれないか…?」
「約束…?」
 悠人の顔を見上げながら、ネリーが鸚鵡返しに呟いた。
「まぁ、どっちかって言うと、お願いかな…」
「うん…。分かったよ、ユート様…」
 こくりと頷くネリーを見て、悠人が優しく微笑んだ。
「じゃあさ、絶対に生き延びるって言ってくれないかな…」
「うん、ユート様がそう言うなら、ネリーは絶対に生き延びてみせるよ…」
「そっか、サンキューな…。ネリー…」
 ネリーのサラサラした頭を撫でながら悠人は安堵した。解り合えない事なんて無い。きっと、人間とスピリットが平和に暮らせる世界が来る。
それまでは、自分だけでも彼女たちの味方でいよう。少なくとも、この腕の中の少女が泣く事だけは無い様に。

63 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 01:11:22 ID:JEqMH6F/0
一章:刻んだ想い(18)

「あ…」
「どうしたの、ユート様…?」
 悠人の素っ頓狂な声にネリーが首を傾げて質問した。
「『求め』で傷を治すのを忘れてた…」
 悠人が気付いた頃には、すっかり二人の傷の出血は止まっていた。傷が出来て直ぐならば傷跡も残らす綺麗に治るのだが、今回の様に回復
が遅れると全てが元通りとはいかなくなってしまうのだ。
「ごめんな、ネリー」
「ううん、良いよ…。」
「でも、女の子の手に傷が残るのはダメだろ…」
 悠人の言葉に、ネリーはその自慢のポニーテールを元気良く左右に振ってみせた。
「ユート様とお揃いだから、ネリーはちっとも気にしてないよ」
 そうやって翳すネリーの左手の甲には、恐らく一生ものであろう一筋の傷跡が自己主張していた。
 因みに、羨ましがったシアーが真似して左手の甲を切ってお揃いの傷を付けた事は(勿論、泣いた)、三人だけの秘密となったのであった。

64 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 01:17:38 ID:JEqMH6F/0
一旦ここで終了です。
書込みもそうですが、連続投稿規制が掛かるなんて初めて知りました。



65 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/22(日) 01:19:25 ID:LgYiFECr0
>>64
乙乙!
続き楽しみにしてるぜ!

66 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/22(日) 02:23:02 ID:cuVhCrTA0
なんか伸びてるー!?

>>30
乙。文章の勢いとやや幼稚な文体がちょっとひぐらしの人っぽいなぁとかそんな事を考えて読んでました。
改行や句読点の配慮が散漫でチト読みにくいので、その辺気遣った段落措置してくれるとすごい嬉しい。
ナナルゥは別段難しい過去はなかったと思う。草笛は人間兵士から教わったって程度かな。

>>32
なに言ってるかわからんです。
分からん事聞いてきただけの人に将来性とかどんだけ入れ込んでんですか。
ここは作業場じゃなくて発表の場じゃないの?
幼稚な人が入ってくるのは確かに不安かもしらんけど、閲覧者全てに生産力を要求する方が怖いです。

>>64
乙。ややクドめだけど非常にうまい文章だと思うデス。
ゲーム中では飛ばさざるを得ないような細やかな部分がサラッと読み取れて面白い。
ただ長編とはいえ、今のところSSというより本編粗筋に味付けしてるような印象なので
今後この物量が続くと食傷する可能性を感じました(表題からしてさすがにエンディングまで続けないだろうけど)。
ぶっちゃけ本編はみんな知ってて読んでるから、書き飛ばせる部分は飛ばしていいんじゃないでしょうか。
読み手に「あらすじ乙〜…」って感じ続けさせないのも一つのSSテクだと思うですよ。

67 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/22(日) 02:30:30 ID:t9QQyRbLO
まさかここで二人も新人さんが降臨するとは…
滅びるのは147年後なんだからまだまだいけるなこりゃw
だが携帯で読むのって辛いなあw


まああまり、一見さんを邪険に扱わん方がいいと思うけど…
意外な疑問や新鮮な考えとかあるやもしれんし。
さすがに新ネタの余地は少ないだろうけどw


>30
あーと、スピたんBOOKなるほんがあってだな、少しだけナナルゥの話が有った。設定と言うほどでは無いので問題は無いかと。

>保管庫
マジおつでした。
三代目襲名は他力本願でスマソ。



68 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 08:48:02 ID:JEqMH6F/0
>>66

すいません、本編のifをかなり意識して作っております。
知人と打ち合せしている途中で双子の「好き」を如何に「恋」に変えるかで問答がありました
金「若しかしたら、双子が恋する前に戦争終わンじゃね?」
知「あ〜、それはあるですね」
これが公案もかくやと言わんばかりの最大の難問でした。
打開策として本編のイベントをひたすらアレンジして双子に恋させようと言う指針になりました。
「これは双子のSSだから双子はもう悠人に惚れてる」なんて状態で始めたくなかったのが本音です。
ですから、長くなりますがどうか双子が悠人に恋をするまで読んで頂ければ嬉しいです。

と、言うわけで今日も元気な双子を見てやって下さい。
ちょっと、ドス黒いのでご注意を…

69 名前:Twinkle Fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 08:53:50 ID:JEqMH6F/0
一章:ブラック・ブルー・スピリット(1)

 エルスサーオを出立してから僅か七日。悠人たちは既に本陣のサモドアの手前の都市、リモドアまで進攻していた。だが、サモドア平原に
あったリーザリオ、リモドアとは打って変わり、山岳地帯に位置するサモドアの守りは鉄壁であった。
 山岳地帯での戦闘に慣れない悠人たちにとって、サモドアを囲むサモドア山脈は天然の要塞であり、加えて山岳地帯での戦い方に熟知した
バーンライト兵のゲリラ的な戦闘形式が悠人たちの進攻を完全に封殺していた。
 この状況を打開する策が依然として挙がらない悠人たちであったが、防衛には滅法強いもののバーンライトも攻めに転じる決定打を打てず
、両者は膠着状態に陥っていた。
 しかし、リモドアに駆け付けたヘリオンの伝書により、バーンライト兵がサモドア山道を北上し、ラキオス南部のラセリオに向かっている
事が発覚した。先に動いたのはバーンライトの方であった。
 悠人はリモドアの防衛にアセリア、ハリオン、オルファリルを残し、ウィング・ハイロゥを持つネリーとシアー、ヘリオンに悠人とエスペ
リア、ヒミカを抱えて運ばせ、急遽ラセリオへ向かったのだった。

(ウィング・ハイロゥを持ってる皆は、いつもこんな景色を見てるのかな)
後方へ流れ行く景色と全身を撫でてゆく風を堪能しながら悠人はそう思った。
 悠人たちはラセリオへ向かってサモドア平原上空を滑空していた。全員で行軍していた徒歩とは違い、やはり空を飛んでの移動は段違いの
距離を稼いでいた。尤も、神剣の補助のお蔭で徒歩でもそれなりに早いのだが、補給物資や野営に必要な機材等を運ぶ為にはどうしても歩か
ざるを得ず、スピリットが土煙を巻き上げながら全力疾走をして荷車を引くわけにはいかなかったのであった。
しかし、今回の様に移動だけが目的であればエクゥ(馬)などとは比べ物にならない程に速く。ウィング・ハイロゥを有するスピリットは特に
その群から抜きん出ていたのである。

70 名前:Twinkle Fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 08:56:00 ID:JEqMH6F/0
一章:ブラック・ブルー・スピリット(2)

「〜♪」
 ぼんやりと景色を眺めていた悠人は、頭上から聞こえてきたハミングに思わず苦笑して顔を上げた。
「どうしたんだ?やけに機嫌が良いみたいだけど…」
 空を飛べない悠人たちならば耽る感慨もありそうなものだが、その純白のウィング・ハイロゥを展開しながらハミングを調べている表情は
悠人以上に上機嫌な様子であった。
「ふぇ!?そ、そそそ、そうですかぁ?」
 突然の悠人の指摘に、黒スピリットのヘリオンは吃りながら言葉を返した。
 リモドアを発つ前に誰が誰を運ぶかと言う事になったのだが、悠人をヘリオン、ヒミカはネリー、そしてエスペリアがシアーと言う組み合
わせになっていた。
 ネリーとシアーはこぞって悠人の運搬役に名乗りを挙げたのだが、意外にも悠人が自らの運搬役に選んだのは二人の勢いに完全に呑まれて
しまっていたヘリオンであった。
 理由は至って明白で、三人の中でヘリオンが一番背が高かったからである。その気弱で大人しい性格から小さいと言う印象を受けるヘリオ
ンであったが、背筋を伸ばせば実は二人よりも背が高い。並んでみるとその差は顕著であった。
「は、はいっ!ゆ、ゆゆゆ、ユート様っ!!よ、よよよ、よろ、宜しく御願致しますっ!!」
 余程気合が入っているのか、室内にも関わらずヘリオンの背中には大きなウィング・ハイロゥが既に展開されてしまっていた。
 悠人、一抹の不安がどうしても拭えなかった。
 しかし、その心配はどうやら杞憂であった様で、悠人は特に危険な目に遭う事も無くこうして上空からの景色を楽しむ余裕すら生まれてい
た。
「やっぱり、ヘリオンたちは飛ぶ時はいつもこんな景色が見れるのか?だったら羨ましいな。飛行機から見る景色とは全然違う。本当に自分
が鳥になったみたいだ」

71 名前:Twinkle Fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 08:57:47 ID:JEqMH6F/0
一章:ブラック・ブルー・スピリット(3)

 悠人の正直な感想に、ヘリオンはまるで幼子を思わせる様な仕草で首を傾げた。
「『ヒコーキ』って何ですか?ユート様…」
 どうやら、耳慣れないハイ・ペリアの言葉に興味を覚えたらしい。そう言えば、ヘリオンには行軍中に皆に聞かせた話を全くしていなかっ
たと悠人は気が付いた。
「『ヒコーキ』って言うのは、俺の世界で空を飛ぶ為の機械の事を言うんだ」
「えぇっ!?ハイ・ペリアではウィング・ハイロゥを持たなくても空を飛べちゃうんですか!?」
「それなりの手間は掛かるけどな。まぁ、規模でいったら小さくなるけど個人で飛ぶならグライダーとかもあるぞ?こっちはどっちかって言
うと滑空って言う方が正しいんだけど…」
 悠人が話す伝説のハイ・ペリアの話に、ヘリオンは胸を躍らせて聞き入っていた。悠人もそんなヘリオンの無邪気な反応が嬉しくてついつ
い言葉を重ねてしまう。
「むぅ〜っ…」
「う〜っ…」
 その光景を目の当たりにする四人の少女たち。内二人からは何やら獣じみた唸り声が漏れていた。
「ネリーだってユート様を運びながらお話したいのにぃ〜…」
「にぃ〜…」
 ヒミカとエスペリアを抱えて飛ぶ、ネリーとシアーであった。
 悠人と自分が運んでいるものを見比べ、一瞬、この腕の中のものを大空へと放り投げてヘリオンから悠人を強奪してしまおうかと言う物騒
な考えが浮かんだが、如何に頑堅なスピリットと言えど、耳元で風笛の鳴るこの速度で地面に激突させられれば怪我ぐらいでは済まないであ
ろう。
「アンタたち、今物騒な事考えてなかったわよね…?」
「二人とも…。今は移動だけとは言え、任務中ですよ?お願いですから、それだけに集中して下さい…」
 彼女たちを支える腕に何かを感じ取ったのは歴戦の戦士として生死を生き抜いてきた経験と直感であろうか。二人は自分たちの背中が湿り
気を帯びている事に気が付き、内心戦慄しながらもそれぞれの自分の運搬役に釘を差した。
 そんな戦々恐々とした空気に気付かず、悠人とヘリオンは日が暮れるまでハイ・ペリアの話に興じたのであった。
 余談ではあるが、この後、ヒミカとエスペリアは暫くの間高所恐怖症に陥っていたとの事である。

72 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/22(日) 09:08:22 ID:NXYTSjio0
C

73 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 10:59:02 ID:JEqMH6F/0
規制が取れたので、投下します。
次の話は皆さんご存知の「あの」イベントで御座います。
それではどうぞ…

74 名前:Twinkle Fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 11:00:28 ID:JEqMH6F/0
一章:三人で買い物(1)

 後手に回った悠人たちのラセリオの防衛は、結果から言えば成功に終わった。
 完全に虚を突かれたバーンライトの奇策ではあったが、バーンライト兵がラセリオに到達する直前、悠人たちはラセリオで迎撃態勢を取っ
て待機していたラキオススピリット隊と合流し、これを撃退したのであった。
 あと一日、二日遅れていたならば間違い無くラセリオは陥落していたのだ。実に危ないところであった。故に、戦況を覆す機となりえたこ
の作戦が失敗に終わった事が、バーンライトにとっての大きな誤算となった事は明らかであった。

「おっ買い物〜♪」
「もの〜♪」
 ラセリオの防衛から数日。
 ラキオスは束の間の平穏を享受していた。
 バーンライトとの最終決戦を控えた今。誰もがその平穏を嵐の前の静けさであると理解していたが、大多数のラキオスの人々は自国の勝利
を疑ってはいなかった。
 伝説のエトランジェ率いるラキオス軍は次々と各地のバーンライト軍を駆逐し、その快進撃は華々しい戦果と共に知れ渡っていた。今やバ
ーンライトは本陣を残すだけとなっており、最早風前の灯であった。
 国中が、好戦の狂気に中てられていた。
 報告の上ではラキオスのスピリット隊の誰一人として欠ける事無く進軍していたが、その実激戦と辛勝の繰り返しであった。敵地に安寧は
無く、補給は占領地から接収した物資のみ。連勝していたのではない。全てが一度の負けも許されない過酷な戦いであったのだ。


75 名前:Twinkle Fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 11:02:03 ID:JEqMH6F/0
一章:三人で買い物(2)

 悠人もラキオスに戻って訓練を重ね、来(きた)る決戦に備えていた。次の作戦は、個々の戦闘能力に秀でるラキオスのスピリットたちがサモ
ドア山道を強行突破し、一気に本陣を叩くと言うものである。
 リモドアでのサモドア進攻の際、山岳地帯戦闘に秀でたバーンライト兵を警戒しながらの牛歩進軍では度重なるゲリラ戦に徒に兵力を消耗さ
せる結果に終わってしまった。これを教訓とし、戦力を攻めの一点に集約し、自軍の被害を最小限に抑え且つ最大戦力を維持させながら進攻す
ると言うのが本作戦の狙いである。
 当然、個々が分担する負担は増え、自身の力が最も要求される事となる。
 生き残る為には、少しでも自分を鍛えるしか他に方法は無かった。
「ユート様と〜、おっ買い物〜♪」
「もの〜♪」
 そして、恐らく最も訓練が必要な人物の一人である筈の悠人は、昼下がりのラキオス城下町で買い物をしていた。
 別段、入用の品があったわけでは無い。寧ろ、部屋で休んでいたかった。否、実際悠人は部屋で寝ていた。
 そこに、飛び込んできた(比喩に非ず)ネリーとシアーから叩き起こされ、街の買い物へと誘われたのである。
「あ、ユート様!見てみて、あそこのお菓子屋さん!すっごく美味しいんだよ〜!」
「シアーも良く買いに行くの〜」
「そうか?じゃぁ、俺が買いに行くよ。二人とも何が良いんだ?」
 ネリーとシアーの視線の先にある菓子屋を眺めながら、悠人は二人の注文を尋ねた。
「ん〜、別に良いよ?ユート様も一緒に行こ?」
「行こ〜」
「え、良いのか?」
 この街でのネリーやシアーたちスピリットに向けられる人々の決して友好的ではない視線を思い出していた悠人は二人の意外な意見に驚いた。
先程も、悠人は二人に対する周囲の悪意に満ちた視線を感じ、周囲の人間を警戒していたばかりであったのだ。

76 名前:Twinkle Fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 11:23:16 ID:JEqMH6F/0
一章:三人で買い物(3)

「へーき、へーき。ご〜っ!」
「ご〜っ!」
「わわっ!?二人とも、急に引っ張るなってっ!」
 悠人の静止も聞かず、二人は勢い良く菓子屋の扉を押し開けたのだった。

 カウ・ベルの鐘の音が鳴り響き、同時に悠人の鼻腔を菓子特有の甘い香りがくすぐった。見渡せば、色取り取りの菓子が所狭しと陳列棚に
並べられていた。
 ベルの音を聞きつけて店の奥からこの店の主人らしき男が現れたが、悠人たちの姿を見ても愛想の一つも浮かべてはいなかった。その対応
に、悠人は二人を庇う様にして威圧する様な視線を飛ばす。
「親方〜、この人がネリーたちのユート様だよ〜」
「おにいちゃんなの〜」
 そんな悠人の後ろから、ネリーとシアーが店の主人に向かって親しげな口調で話し掛けた。
「おやかた?」
「うん。あのね、ここでハリオンがお菓子作りの練習させて貰ってるんだよ」
「お弟子さんなんだって〜」
 二人の説明に悠人は思わず目の前の『親方』をまじまじと見てしまった。
 岩から削り出したかの様な厳つい顔と屈強そうな体躯。加えて気難しそうな表情と丸太の様に太い筋肉の隆起した腕やゴツゴツした指。と
ても、目の前の艶やかで繊細な菓子を作っているとは到底結びつかない容姿である。

77 名前:Twinkle Fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 11:28:52 ID:JEqMH6F/0
一章:三人で買い物(4)

「アンタがネの字を『傷物』にしたって言う隊長さんか?」
「なっ!?」
 突然の親方の言葉に悠人は噴き出した。
「シアーもお揃いだよ〜?」
「ほう、シの字もか…。こりゃ責任重大だな…」
 悠人の体から力が抜けていった。
「二人からから話は聞いてるぜ。後、ハの字からもな。変わりモンの隊長が来たってよ…」
 表情は依然としてむっつり顔であったが、親方の目が笑っている事に悠人は気が付いた。
「アンタは…」
 悠人の視線が含むものに気が付いたのか、親方はフンと鼻を短く鳴らせた。
「スピリットと普通に接してるのが珍しいってか?『変わりモン』の隊長さん…」
「………」
 悠人の沈黙を肯定と受け取った親方が首を傾げながら頭を掻いた。
「俺も以前はスピリットには良い印象なんて持ってなかったぜ?街の連中の同じで、そいつ等につまんねぇ人間様の思い上がりをぶつけ
てたモンさ」
 自嘲気味に笑う親方を、悠人は真剣な表情で聞いていた。
「そしたらある日な。俺ン処に菓子を買いに来るスピリットが来るじゃねぇか。冗談じゃねぇ、スピリットが来るなんて他の客に知れた
ら、ウチの店は変な噂が立って客が寄り付かなくなるかも知れねぇじゃねぇか、って思ってな。そのスピリットがウチに来るなり人間の
味が分るのかとか皮肉ったり無視したりして。まぁ、今思えばケツの穴の小せぇ事やってたワケだ…」
「親方…」
「…」
 いつに無くシリアスな展開に、ネリーとシアーも思わず聞き入ってしまっていた。

78 名前:Twinkle Fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 11:34:45 ID:JEqMH6F/0
一章:三人で買い物(5)

「だけどな、そんな俺にそのスピリットがいつも言うンだぜ?いつも美味い菓子が食べられて自分は幸せだ、ってな。そしたら、ネチネチ
と腐ってた自分が段々馬鹿らしくなってきてな。ふと気付いたンだよ。俺は俺の作ったモンを美味いと言って食ってくれる奴の為にこの商
売やってる。それにゃ、人もスピリットも関係無ぇってな…。」
「………」
「だからよ、俺は期待してンだぜ?そいつ等の自慢の体長さんによ…。アンタが世界で唯一そいつ等を守れる人間なんだ。しっかり守って
やってくれよ」

 菓子を買い終えた悠人たち三人は大通りを歩いていた。ネリーとシアーは幸せそうに菓子を頬張り、悠人はそんな二人を眺めていた。
(守ってやってくれよ、か…)
 菓子を齧りながら、悠人は親方の言葉を反芻していた。
(こんな世の中でも、スピリットを理解してくれる人間がちゃんといてくれてるんだな。まだ、その数は少ないけど、それに気付いた人間
はきっと減らない。そしていつか皆にもその事が伝わって、スピリットが差別されない世界が来ると良いな。いや、来なきゃ駄目なんだ)
「あれ、ユート様?ユート様も親方のお菓子が気に入ったの?何だか凄く幸せそうな顔してるよ」
 ふと、目が合ったネリーがそんな事を言い出した。どうやら考えていた事が悠人の顔に出ていたらしい。
「あぁ、美味いな。流石は親方だな…」
 本当は違うのだけれど、今はそんな事はどうでも良かった。只、目の前の笑顔が嬉しくて、悠人はまた菓子を齧った。
「えへへ〜。実は今ユート様が食べてるお菓子はね〜、ネリーが一番好きなお菓子の一つなんだよ?」
 そう言うと、ネリーは紙袋から悠人が食べているものと同じ種類の菓子を取り出して、ぱくり、と大きく齧り付いた。
「〜〜っ♪」
 宣言しただけの様はあった様で。ネリーは零れんばかりの笑みで菓子を噛み締めていた。そんなネリーの仕草に思わず悠人は微笑んだ。
「あ…」
 反対側から聞こえてきた少し沈んだ声。悠人が振り返ると、何やらシアーが紙袋の中を見て残念そうな顔をしていた。

79 名前:Twinkle Fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 11:40:06 ID:JEqMH6F/0
一章:三人で買い物(6)

「どうしたの、シアー?」
「お菓子が無くなったのか?」
 ネリーや悠人の質問にシアーは首を振った。
「えっとね…。シアーもユート様と同じお菓子を食べようと思ったんだけど、もう無くなってたの…」
「俺のは…。ゴメン、無いや…」
「ネリーももう無いよ?」
「うん、食べたら無くなっちゃうもんね…」
 自分の紙袋を覗き込む二人に、シアーがそう言って項垂れた。頭では理解しているが、やはり本音では悠人と同じお菓子を三人で一緒に
頬張りたかったのかもしれない。些細な事だが、しょげてしまっているシアーの雰囲気に何となく居た堪れなさが悠人の中に芽生え始めた。
 悠人が持っている菓子に向けられるシアーの視線が、ご褒美を貰えなかった仔犬の様な、それでいて飼い主を恨む事すら思い付かない
無垢な、故に純然たる『しょんぼり』としたシアーの気持ちを伝えていた。
「じゃあ、シアー。俺と半分こしようか?」
 悠人はそう言うと、右手に持っていた齧り掛けの菓子を二つに分け、その半分を左のシアーへと差出して、
(ん?左?)
 寸での所で悠人は気が付いた。悠人を挟んで歩いている今の状況は、右手にネリー、左手にシアーである。普通に割ってシアー側に来る
のは悠人の齧った方であった。
(食べ掛けの方を渡すのは、流石になぁ…)
「わ〜い♪ユート様、ありがと〜♪」
 しかし、そんな弾んだ声を聞いた時には既に悠人の左手のものはシアーに渡ってしまっていた。
「あ、シアーちょっと待っ―」
「うむぅ?」
 悠人が止める暇(いとま)もあればこそ。悠人から貰った菓子をシアーはその小さな口で齧り、そして不思議そうな視線を返してきたのであった。

80 名前:Twinkle Fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 11:45:21 ID:JEqMH6F/0
一章:三人で買い物(7)

「どうしたの、ユート様?」
「い、いや…。どうせなら、俺が食べてない方の方が良かったかもって思ってさ…。シアーも俺の食べ掛けなんて嫌だろ?」
「?」
 悠人の言葉に、シアーはきょとんとした表情を浮かべた。どうやら、悠人の言葉の意味が今一つ理解しかねている様である。
「いやさ…。その…、何て言うか…。俺が口を付けたものをシアーが口を付けるのは…」
「ユート様は、シアーだと嫌…?」
 悠人の言葉を拒絶と受け取ったのか、シアーが零れ落ちそうな大きな瞳を潤ませて悠人を見上げてきた。
「いや、嫌じゃないけど…」
「本当、ユート様…?」
 シアーの言葉に悠人はコクコクと首を縦に振った。ここで否定的な言葉を口にする事など、一体誰が出来ただろうか。少なくとも、悠人
には不可能であった。
「じゃぁ、はい…。ユート様…」
「う゛…」
 差し出された菓子を見た悠人は思わず唸った。シアーの小さな噛み跡が残る菓子。食べ粕が零れない様に口を付けて食べる所為か、口を
付けた付近はやや湿っていた。
(これは間接キスとか言う程、生易しいものじゃない気がする…)
「ユート様…?」
 固まった悠人の態度に不安を感じてしまったシアーの瞳が、切実な色を帯び始めてきた。
 悠人、こちらも内心かなり切実であった。
 縦(よ)しんば、目の前の菓子を齧ったとしても、シアーが食べた箇所を故意に避ければその行為は間違い無くシアーを傷付けてしまうで
あろう。しかし、躊躇無く間接キスをしてしまうのも道義的に間違っている気がしてならない。
 そう、買い物の途中で二人の『お兄ちゃん』になってしまった今の悠人には非常に難しい問題である。
「………うぅ…」
「い、頂きます…」
 だが、シアーの瞳の表面張力が限界を超えようした瞬間、もう悠人は菓子に齧り付く以外の道は残されていなかったのであった。

81 名前:Twinkle Fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 11:50:41 ID:JEqMH6F/0
一章:三人で買い物(8)

(多分、俺はバルガ・ロアーに堕ちるかもな…)
 口腔に広がる甘い風味と香りを感じながら、悠人はそんな事を考えた。
「えへへ〜、シアーもユート様だったら全然嫌じゃないよ♪」
 悠人の行為に機嫌を良くしたのか。悠人の葛藤など露知らず、シアーは悠人の齧った菓子を再びその小さな口で食(は)み始めた。
「やっぱり美味しいね〜、ユート様〜」
 悠人の腕を取りながら、シアーが頭を擦り寄せてきた。そんなシアーの好意に、悠人も諦めの苦笑いを浮かべるしかなかった。
「あーっ、良いなぁ〜!!ネリーもユート様の齧りた〜いっ!!」
「えぇっ!?ネリーは自分のがあるだろう?」
 突然のネリー台詞に、悠人が素っ頓狂な声を上げた。
「もう、食べちゃったから無いよ?」
「早っ!?」
 言葉通り。見ればネリーの紙袋はすっかり空になっていた。
「ユート様がずぅ〜っと悩んでたからだよ〜。も〜、ネリーだったら直ぐに貰っちゃうのに、何で直ぐ食べなかったの〜?」
「いや、流石に間接キスはまずいだろ?一応、女の子なんだし…」
「間接キス?」
「それって何〜?」
 悠人は、自ら藪を突付いてしまった事に気が付いた。だが既に時遅く、二人の好奇心は首を擡(もた)げた蛇になってしまっていた。
「えぇっと、その…」
「教えて〜、ユート様〜」
「知りたいな…」
 悠人は逃げ出したい気持ちに駆られたが、生憎と悠人の腕は既にネリーとシアーによって捕縛されていた。逃げ場は、何処にも無かった。
 結局、悠人は間接キスについて説明させられ、二人は熱心にその話を聞いていたのであった。正直な所、二人があまり良く理解していない
事を内心期待していたが、
「えへへ〜♪ネリーたちは女の子だって〜♪」
「ユート様は〜、男の子〜♪」
 どうやら、妙な方向で覚えられた事を確信する悠人であった。
 結局、その日は陽が傾くまで街を歩き回り、三人一緒に家路を辿っていた。腕を組んで歩く二人の頬が少し紅く見えたのは、夕陽の所為で
あろうか。
 幸せそうに甘えてくる二人の体温を感じながら、悠人は偶にはこんな日があっても悪くないと思っていた。

82 名前:Twinkle Fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 15:26:32 ID:JEqMH6F/0
一章:萌芽(1)

 バーンライトとの最終決戦に臨むラキオス軍は、怒涛の勢いでサモドア山道を駆け上がっていた。
「うおおぉぉーっ!!」
 鬨の声を上げる悠人を先頭に右翼にネリーとセリア、左翼にシアーとヒミカ、そして中央にヘリオンとナナルゥ、殿をエスペリアとし、
夜明けと共にラセリオを出立したラキオス軍は昼前には既にサモドア山道の八合目にまで差し掛かっていた。
「皆っ、サモドア迄あともう少しだ!!このまま一気に攻め上るぞっ!!」
 悠人が背後の全員に檄飛ばして振り返った瞬間、悠人の頭の中に『求め』の警告が鋭く走り、同時に岩陰に潜んでいたバーンライト兵が
悠人目掛けて襲い掛かって来た。
「退けぇっ!!」
 大声一喝。悠人は前方に歪みが生じる程の重厚なマナを収束してオーラ・フォトンの強固な障壁を作り出し、その楯で迫り来るバーンラ
イト兵を撥ね飛ばした。
「貰ったぁ〜っ!!」
 岩肌に叩き付けられたバーンライト兵が起き上がろうとした所にネリーが必殺の一撃を加え、金色のマナの霧へと還す。
「ユート様、大丈夫?」
 素早く隊列に戻り、ネリーは先陣を切り続けている悠人に声を掛けた。
「あぁ、大丈夫だ。だけど、ネリーも気を付けろよ?俺が吹き飛ばしても、動けない振りをしたり、それを囮にしたりして逆に襲われるか
もしれないからな」
「了〜解っ。でも、ユート様の作戦は大成功だよねっ」
 あれ程に難攻不落であったサモドアの守りは既に瓦解し始め、最早本陣は目と鼻の先にまで迫っていた。
 今回の作戦の要は悠人の防御の堅さにあった。敵を倒す技量を身に付けるには悠人には時間が足りなさ過ぎ、かと言って前線から下げる
にはその力はあまりにも大き過ぎた。
 そこで、悠人はひたすらにシールドを張る修練を積む事に専念したのであった。
 悠人が如何に大きな力を以ってしても敵に届かねば意味は無い。しかし、相手の攻撃は悠人に確実に襲い掛かって来る。ならば、それを
全て防ぎ切れば打ち合わずとも実質的に相手の戦力は悠人の防御と中和された事と等しくなる。
 強大なエトランジェの力ならではの戦い方であった。
「成功かどうかはサモドアを落とせるかどうかだな」
「あはは、そだね」
 不敵に笑う悠人にネリーも釣られて笑い返した。

83 名前:Twinkle Fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 15:35:23 ID:JEqMH6F/0
一章:萌芽(2)

「ユート様〜、ネリー。敵だよ〜」
 ネリーの反対側を走っていたシアーが〈アイス・バニッシャー〉を展開しながら前方を指差した。
 それに倣い、ネリーも神剣魔法を詠唱を始める。
「敵の神剣魔法と攻撃は俺たちが何とか防ぐ。そうしたらセリアとヒミカは一気に反撃に転じてくれ、ヘリオンは二人のサポートを頼む!!」
「言われなくても」
「了解っ!!」
「は、はは、はい!!わわ、分かりましたっ!!」
 悠人の指示に三者三様の返事で応え、悠人たちはバーンライトの迎撃に真っ向から衝突した。
「「〈アイス・バニッシャー>!!」」
 ネリーとシアーの神剣魔法がバーンライト兵の神剣魔法を無力化し、続いて悠人のオーラ・フォトンの障壁が神剣の凶刃を悉く弾き返し
た。
「て、てて、〈テラー〉っ!!」
 発動したヘリオンの神剣魔法がバーンライト兵の動きを鈍らせ、そこにセリアとヒミカが切り込んで次々と敵を屠ってゆく。
 快進撃を続けるその様を眺めながら、後方ではエスペリアが内心安堵の溜め息を吐いた。
 当初、悠人が先陣を切ると言い張った時は気が気でなかったエスペリアであったが、今ではその不安は杞憂であったと思えてきた。剣の
振り方も儘ならない悠人であったが、防御に専念すればその堅牢さは並のスピリットでは到底切り崩せるものではない。基本的には身を守
っているだけなので、切り結ぶよりも遥かに危険も少なかった。
「皆っ、サモドアだっ!!」
 先頭を走る悠人が声を上げた。見ればサモドアの防壁がそこにあった。
「ナナルゥ、合図を頼むっ!!」
「了解しました…」
 悠人の指示を受け、ナナルゥが空へ向かって神剣魔法を炸裂させた。
「あっ、ユート様っ!!見てっ!!」
 程無くしてネリーがサモドアの北を指差して声を上げた。その先には、ナナルゥの放った神剣魔法と同様、空へと昇る一筋の紅の尾があ
った。
「よし、このまま俺たちはサモドアに突入っ!!市街地中央でリモドアからのアセリアたちと合流だっ!!一気に制圧するぞっ」
 アセリアたちからの合図を受け、悠人たちは伏兵のバーンライト兵たちを薙ぎ払いながらサモドアの正門へと雪崩れ込んだ。

84 名前:Twinkle Fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 15:40:59 ID:JEqMH6F/0
一章:萌芽(3)

 聖ヨト歴330年、スリハの月。大陸からバーンライトと言う国が滅亡した。
「終わったな…」
 サモドア郊外に設けられた野営で悠人は夜空を見上げながら一人ごちた。
 阿鼻叫喚の巷と化した最終決戦とは打って変わり、今は空の月と幾らかの星が光を降り注ぐ静かな夜だった。
 自国の大勝に沸くラキオスであったが、悠人たちへのスピリット隊への労いの言葉は無く、対照的に市街では人間たちのお祭り騒ぎが
繰り広げられていた。
 何度も死線を彷徨ったこの二ヶ月。終わってみれば、胸に残るのは生き延びた安堵と徒労感を覚える虚しさばかりであった。
 今回は無事に生き残る事が出来たが、一方で、いつ迄何処までこの戦いは続くのだろうかと悠人は思った。この勝利は終わりではなく
、次の戦争の始まりであろう事は容易に想像出来ていた。
「あ、ユート様見ぃ〜っけ」
「見ぃ〜っけ」
 声に振り返ると、ネリーとシアーが悠人の背後にいた。
「ん?どうしたんだ、二人とも?」
 悠人が訊ねると、ネリーとシアーはそれぞれ悠人の右と左に腰を落とした。
「えへへ〜。何となくユート様の傍に居たいかな〜、って」
「シアーもユート様の傍に居たいな」
「そっか」
 懐いてくる子犬の様な二人の直接的な好意に嬉しくなり、悠人は二人の頭を優しく撫でた。
「んふ〜♪」
「わぁい♪」
 ネリーとシアーは目を細め、もっともっととせがむ様に悠人に体を預けてきた。
「うわ…」
 布越しに伝わってきた二人の体温と柔らかさに悠人は思わず焦った声を出してしまった。常春の気候とは言え、流石に夜は冷える。そ
こへ来てこの不意打ちだった。
「どうしたの、ユート様?」
「?」
「い、いや。何でも無い…」
 まさか、二人にどきりとしたと言える筈もなく、悠人は誤魔化す様に二人の頭を無言で撫で続けた。

85 名前:Twinkle Fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 15:56:25 ID:JEqMH6F/0
一章:萌芽(4)

「今日のユート様、格好良かったよ」
「うん、凄く格好良かったの〜」
 悠人を見上げながら、二人はそんな事を言い出した。
「アレ?俺、今日何かしたっけ?戦いはずっと守ってばっかだったし、活躍なら二人の方がしてたんじゃないのか?」
 悠人は首を傾げ、今日の自分を振り返ってみた。
「この傷の時みたいに、ユート様がアセリアにお話してたとこ」
 そう言い、ネリーは左手の甲に残る一筋の傷を悠人に見せた。
「うわ、そう言えば皆が居たんだっけ」
 バーンライトが陥落した直後。単身で敵陣の真っ只中で戦っていたアセリアに悠人が言って聞かせた場面があった。
 夕陽に照らされて橙色に染まる二人が手を取り合う光景は、宛ら一枚の絵の様に様(さま)になっていた。
 悠人は耳まで真っ赤になった。語った時の最後は恥ずかしくて茶化してみたが、こうして改めて言われると顔から火が出る程であった。
 月明かりの下でなく、もっとはっきりとした明かりの下であったならばそこには耳まで紅潮した悠人が映っていただろう。
「ちょっと、アセリアが羨ましかったなぁ〜」
「うん、だからね、ユート様。シアーたちもご褒美にいっぱい頭撫でて欲しいな…」
「ご褒美?」
 確認する様な悠人の呟きに二人は大きく破顔して頷いた。
「ネリーたち、頑張って敵をいっぱい倒したんだからね〜」
「シアーもだよ〜」
 二人の言葉に、悠人の血が一気に冷えた。
「何人倒したかなぁ〜?確かサモドアに着いてから敵もいっぱい出てきたし…」
「シアーだって、沢山倒したもん」
 悠人の為に戦果を出せた事に対する事と、それをきっと褒めて貰えると疑わずに目の前で指を折って数える二人の表情は喜びと期待の色に
染まっていた。

86 名前:Twinkle Fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 16:18:17 ID:JEqMH6F/0
一章:萌芽(5)

「あれ…?」
「ユート様…?」
 そんな二人を、悠人は黙って抱きしめた。
 どうして、この娘たちの両の手は罪に染められてしまわなければならなかったのだろうか。
 どうして、人間は争いを止める事が出来ないのだろうか。
 どうして、この世界はこれ程までに悲しくて残酷なのだろうか。
「えっと、ユート様…?」
「どうしたの?シアーたち、何か悪い事でもしたの…?」
 震える悠人の腕に何かを感じ取った二人が、不安そうな声を上げた。
「違う、ネリーやシアーたちは何も悪くない。悪くないんだ…」
 絞り出す様に言うのが精一杯だった。これ以上は、声が震えて喋れそうになかった。
「ユート様…」
「…」
 二人は、そっと悠人の頭を抱いた。
 悠人が何に苦しんでいるのかは解らない。
 しかし、自分たちが悠人を想う心が伝われば良いと思った。
 かつて自分たちが辛い時、悠人は解らないなりに彼の優しさで自分たちを慰めてくれた様に。
 あの時のお返しなのであろうか。否、そうではないと思う。
 悠人が慰めてくれたから慰めるのではない。悠人が辛そうだから慰めたかった。
 胸が締め付けられた様に苦しかったから。
 そして、この胸の鼓動が悠人に伝われば嬉しいとも思った。
 苦しむ悠人を見て、二人の胸に衝動的な感情が湧き上がっていた。
 それは、狂おしい歓喜の様でもあり、同時に身が裂ける悲しみの様でもある不思議な焦燥感だった。
「「ユート様、大好きだよ…」」
 同時に出てきた二人の言葉は、慰めでも励ましの言葉でもなかった。

87 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/22(日) 16:28:23 ID:JGKGHh//0
支援いるかな?

88 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 16:45:53 ID:JEqMH6F/0
一章終了です…
投下よりも規制がツライですね…
でも、負けません…
えぇ、負けませんとも…

89 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/22(日) 19:51:34 ID:NXYTSjio0
乙です

新規の職人さんが増えるのはいいことだ
一ネリシア好きとして今後とも期待

90 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/22(日) 20:25:21 ID:cuVhCrTA0
乙でありオツでありんす。相変わらず文章がちと重いけど、代わりに
街の風俗や戦闘地域の流れなどが読み取れるのがいいですね。

良作を見ていると自分も一筆したためたくなるけど、マイナー志向がたたって
あんまり話が作られてないキャラを探そうとやっきになってしまう…
保管庫行ってウスそうなところ探してきます。
メダリオ兄さんの話とかどうなんだろう。って「雑魚スピ」スレの時点でアレなのか?

91 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 21:36:56 ID:JEqMH6F/0
手元に投下予定のSSが出来ました。

92 名前:Twinkle Fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 21:46:24 ID:JEqMH6F/0
二章:悠人と街娘(1)

 バーンライト王国に勝利した矢先。ラキオス王国はその隣国のダーツィ大公国から宣戦布告を受け、領内の整備も儘ならぬ状態で開戦を
余儀無くされた。
 しかし、ダーツィからの進攻ルートは鉄壁の守りを誇ったサモドアのみであり、ダーツィはバーンライトを凌ぐ軍事力を持ちながらもラ
キオスに攻め入る機を計りかね、一方のラキオスもこれ迄以上の強敵との戦いに備えて無闇に攻め入らず、こちらは軍備の強化に重点を置
く方針が執られていた。
 よって、攻め手に欠く両者の睨み合いが暫くの間続いていたのであった。

「せぃやぁっ!!」
「遅いよ、ユート様っ!!」
「くっ、まだまだぁっ!!」
「そんな力任せじゃ、ネリーには当たんないよっ!!」
 ラキオスの訓練施設。そこでは悠人のネリーの剣戟が繰り広げられていた。
「―はっ!!」
「うんっ!!さっきよりも良くなったよ、ユート様っ!!」
 互いの得物は刃を潰された訓練用の模造剣。神剣の扱い方ではなく、戦闘技術の底上げをしたいと言う悠人の要望であった。
 先の戦いでは功を奏した悠人の防御戦法であったが、流石にそれだけの戦い方では今後の戦いに無理が出てくる事は目に見えていた。生
き残る為にも、仲間を守る為にも、悠人自身が強くならねばならなかった。
「ふっ!!」
「それっ!!」
 シュワン、と鳴く残響音に遅れ、訓練場の床に一振りの模造剣がけたたましい音を立てて転がった。
「う…」
「さぁ、どうするのかな〜?ユート様?」
「ま、負けた…」
「えへへ〜、ネリーの勝ち〜♪」
 模造剣の切っ先を突きつけられ、悠人は両手を上げて降参した。
「ユート様〜、ネリー、休憩だよ〜」
 そんな二人の隣で、シアーがタオルとお茶を準備していた。

93 名前:Twinkle Fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 21:51:21 ID:JEqMH6F/0
二章:悠人と街娘(2)

「う〜ん、やっぱり二人とも俺なんかよりずっと強いんだな…」
 シアーから渡されたタオルで汗を拭きながら、悠人は改めて彼我の実力差を痛感していた。いや、二人だけではあるまい。未だ訓練中の
ヘリオンを含めても、戦闘技術だけなら悠人は間違い無くラキオスで最弱の兵士である事は確実であった。
「でも、最初に比べれば大分上手くなったと思うよ?ね、シアー?」
「うん、ちゃんと型も取れる様になってたよ。ユート様」
 お茶を飲みながら、二人は何処か嬉しそうな表情を浮かべてそう評した。
「でも、他の皆は訓練士やパートナー見つけて訓練してるのに、二人は俺の訓練に付き合ってくれて何か悪いな」
 悠人の言った通り、二人は率先して悠人の訓練相手になってくれていた。
 自由奔放でマイペースな二人が悠人の訓練相手を買って出た時は訓練になるかどうか不安であったが、実際に二人の指導を受けてみると
意外にも丁寧で解り易く、悠人は内心驚いてさえいた。
「良いの良いの。ネリーたちはこっちの方がいつもの訓練よりずっと面白いよ?」
「うん、それにユート様と一緒だもん」
「そっか。有難うな、二人とも…」
 悠人はそんな二人の頭を感謝を込めて撫でた。
「えへへ〜♪」
「わぁ♪」
 と、午前の時間が終わる時報が訓練施設に響き渡った。訓練していた他のメンバーは午後の予定の準備に取り掛かろうと次々に訓練場を
後にしていった。因みに悠人は午前に訓練を入れ、午後には街の巡回を入れていた。
「終わったよ〜、ユート様〜」
「今日はシアーたち、ユート様と一緒に街を巡回したいな」
 そして、二人は午後も悠人と一緒に過ごすつもりでいるらしく、キラキラと期待に満ちた目で悠人を見上げてきた。
「あぁ、別に構わな―」
「何を仰っているんですか?ユート様、街を巡回するのでしたら固まって巡回するなんて非効率過ぎます。遊びに行くのでは無いのですか
ら、出来るだけバラバラに行動して街の隅々まで目が届く様にして下さい」
 反射的に二人の申し出を承諾しかけた悠人を、遮る、と言うよりも寧ろ諫める声が悠人の背中に投げ掛けられた。

94 名前:Twinkle Fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 22:02:21 ID:JEqMH6F/0
二章:悠人と街娘(3)

「せ、セリア…」
 油の切れた機械人形の様な動きで振り返ると、まだ帰っていなかったのか、そこには仁王立ちで悠人を眺めているセリアがいた。背筋がそ
こはかと無く薄ら寒いのは、背中に背負った彼女の永遠神剣・『熱病』の所為だろうか。
「え〜?だって、ネリーたちはユート様と一緒が良いのに〜」
「セリアぁ…」
 二人の視線を受けたセリアは微塵も動じず、更に何故か「フッ」と小さくクールに笑い悠人を鋭く睨め付けた。
「ユート様?」
「な、何かな?セリア…」
「何かな?ではありません。今はダーツィ大公国とは膠着状態にあるとは言え、私たちは戦争をしているんです。訓練はちゃんとやって頂い
ていたから良いのですが、あまり私的な事を公務に挟むのは感心しません」
「うっ…」
 セリアの正論に悠人は何も言えなかった。確かに、今は戦時下とは思えぬ程にのんびりとした雰囲気がラキオスにあったがそれが仮初めで
ある事は誰が見ても明白であった。
「仲が良いのは結構ですが、守るべき規律や保つべき限度を弁えて下さい」
 そう言い残し、セリアは踵を返して訓練場を去って行った。
「ユート様?」
「ユート様ぁ?」
 全身に嫌な汗が吹き出てきたのを悠人は感じた。しかし、ここで流されると人間として色々と駄目になってしまいそうな気がしてならなか
った。何故か湧き上がる罪悪感に苛まれつつ、悠人は二人に向かい合った。
「ゴメンな、二人とも。やっぱり午後の巡回は別々に回ろうな」
「「がーんっ」」
 余程楽しみにしていたのか、二人は膝を折ってその場に崩れ落ちた。そんな二人に悠人の心も茨で締め上げられたかの如くズキズキと痛み
が走ったが、もう変更する事は出来なかった。

「ほら、セリアも午後は巡回っぽいし、鉢合わせたらそれこそ悲惨だろ?だから、今度の休みに一緒に街を回ろうな?まぁ、今度の休みがい
つ来るかは俺にも判んないけど…」
「うん…。解ったよ、ユート様…」
「でも、次のお休みの日は絶対にシアーたちと一緒だよ?ユート様…?」
「あぁ、再生の剣に誓って…」
 斯くしてネリーとシアーの目論見は破れ、悠人一人での巡回が決定したのであった。

95 名前:Twinkle Fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 22:08:09 ID:JEqMH6F/0
二章:悠人と街娘(4)

 昼下がりのラキオスの城下町を悠人は当ても無く一人で巡回していた。
 一応、地図は持っているものの文字がまだ十分に読めない悠人には絵から伝わるイメージで判断するのが精一杯だったりするのだが、
いざとなればやたらと目立つラキオス城を目印にスピリットの館に帰る事が出来るので、悠人はのんびりと城下町を巡回する事にしたの
だった。
(しかし、大きな動きが無いとは言っても本当に皆のんびりしてるな)
 巡回しながら、悠人はぼんやりとそんな事を思っていた。かつての悠人の頭の中では戦争とは国が一丸となって総力戦で戦うと言うイ
メージがあったが、今の目の前の光景は戦争前の光景そのものであった。
 尤も、血が流れない事に越した事は無く、悠人はそれでも良いと思っていた。
(あっちじゃ、日本は平和ボケしてるなんて言われてたけど、平和ボケ出来る国って実は相当幸せだったんだよなぁ…)
 腰に差した『求め』に指を添えながら、悠人はついこの間まで当たり前に享受していた平和の有難さをしみじみと感じていた。
「ん?この匂いは…」
 フラフラと歩いていた悠人であったが、どうやら無意識に覚えていた道を辿っていたらしく、気が付けば先日知ったばかりの屋台の近
く迄やって来ていた。
(確か、この辺だっけ?ぶつかってワッフル―じゃなかった、ヨフアルを道にバラ撒いたのは…)
「あーっ!?ユート君だ〜!!」
「そうそう、確かこんな声で―、って、レムリアかっ!?」
 声が聞こえてきた方に目を遣ると、少し離れた場所から紙袋を抱えたレムリアが満面の笑みで悠人に向かって手を振っていた。
「また逢えたね。これって奇跡かなぁ?」
「いや、仕事の巡回だから奇跡と言う程でもないと思う…」
「ぶ〜。連れないなぁ、ユート君は。そう言う時は何か気の利いた台詞の一つでも言わなきゃ」
「と言われてもなぁ…」
 仕様が無いと半ば呆れ顔で駆け寄ってきたレムリアに、悠人も苦笑しながら相槌を打って応えるしか無かった。

96 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/22(日) 22:14:23 ID:e3itQYCm0
しえん

97 名前:Twinkle Fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 22:18:57 ID:JEqMH6F/0
二章:悠人と街娘(5)

 と、その時、
「まぁ、ユート君はそんなタイプじゃ―、きゃぁっ!?」
「おっと、大丈夫か?レムリア」
 道の凸凹に爪先を引っ掛けて転びそうになったレムリアを、悠人は咄嗟に抱き留めていた。
「あ、有難うだね。ユート君…」
「まぁ、無事で良かったよ…」
 間にヨフアルの詰まった紙袋を挟んでいるとは言え、密着した状態から伝わってくる互いの感触に思わず二人の顔が赤面した。まだ知り
合って日の浅い割に中の良い二人であったが、流石にこの接触は照れの方が先に立ってしまったらしい。
「むぅ、何だろ?変な感じ…」
「ユート様ぁ…」
 そんな二人を、遥か後方で二つの影が覗いていた。

 湖の見える広場に辿り着いた悠人とレムリアは長椅子に腰掛け、暖かな陽光の下、焼きたてのヨフアルを齧っていた。
「う〜ん。やっぱりあそこの屋台のヨフアルは最高だね。ラキオス一だと思うもん。ユート君もそう思うよね?」
「いや、俺はそう判断出来る程ラキオスのお菓子屋を食べてないし…。でも、そうだな。このワ―じゃなかった、ヨフアルは相当美味しい
って言うのは解るな」
「ふふっ、ユート君が言ってたヨフアルそっくりのお菓子だっけ?私も食べてみたいなぁ〜」
「う〜ん、佳織なら作れるかもしれないな。結構お菓子とか作ってたりしてたし…」
「カオリって、ユート君の…」
「妹だよ。今は城に住んでるんだけど…」
 悠人の妹が人質としてラキオスに拘束されていると言う話はあまり知られていない。当然であろう、よもや自国の英雄が身内を人質にさ
れて不本意な戦いを強制されていると知れれば国民は悠人に対して不信感を持つ事は火を見るより明らかであった。
 戦争に最も必要なのは軍事力でも資金でもない。そんなものは後から幾らでも作り出す事は可能であった。
 実質、歴史の紐を解いてみれば富める国も貧しい国も戦争を起こしてきたのである。両者に通じる共通項は何か。
 そう、世論と言う国民の総意が得られれば戦争は起こせるである。よって、悠人はラキオスの伝承通り、ラキオスに伝わる神剣を奮い、
ラキオスに更なる繁栄を齎す英雄として国民に報じられ、国民を煽動する道具にされていたのであった。

98 名前:Twinkle Fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 22:22:37 ID:JEqMH6F/0
二章:悠人と街娘(6)

 しかし、悠人は殊更真実を伝えようとは思わなかった。そんな事をしても佳織が戻ってくるわけでもないし、何より、あらぬ反逆の疑惑
が持たれた場合一番に被害を被るのは悠人の指揮下にあるスピリット隊全員なのである。
 だが、佳織の名が出てきた途端何故かレムリアの表情が曇っていた。その事が気になって、悠人はわざと茶化してみた。
「どうしたんだよ?レムリア。顔が変だぞ?」
「ユート君、一つ聞いても良いかな?」
 悠人の軽口とは対照的に、レムリアの表情には悲愴ささえ漂っていた。断罪される咎人の様なその眼差しに、悠人は思わず頷いてしまっ
ていた。
「ユート君は、ラキオスの事をどう思ってる?」
「ラキオスか…。そうだな…」
 その質問に、悠人は暫くの間黙考した。初めてこの世界、この国に来た時の事を思い出した。
 アセリアに助けられた事。エスペリアに世話になった事。剣を持たされた事。そして戦う事を選ばされた事。
 決して良いことばかりではなかった。寧ろ、理不尽に怒りさえ覚えた事もあった。そして、今もその理不尽な中で悠人は翻弄されていた
のだった。
「どうでも良かったよ。マナだとか、大陸の統一だとか知るもんかって思ってた」
「…」
 悠人の言葉に、レムリアの表情に諦観の様なそんな色が浮かんだ。しかし、悠人は構わずに言葉を続けた。何となく、レムリアはそれを
望んでいる気がしたのだ。
「もしこの『求め』の拘束力が無かったら、佳織を連れて逃げ出してたかもしれない。たとえそれが誰かを傷付ける事になっても、俺は躊
躇わなかったと思う」
「ユート君…」
 何故だろうか。本当は悠人の本音など一介の街娘であるレムリアに話すべきではないのかもしれなかった。しかし、レムリアの紫の瞳が
、悠人に嘘を吐かせる事をさせなかった。人を深く見通す様な、不思議な雰囲気があった。
「正直、恨みもしたし憎んだりもしたな。俺や佳織を利用しようとする周りの奴等が全部気に食わなかった。」
「ゴメンね、ユート君…」
 レムリアの謝罪に悠人は驚いた。それが、全てを代表するかの様な真剣なものであったからだった。

99 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/22(日) 22:24:46 ID:mKeSKyqX0
(はりおん ´∀`)しえん〜

100 名前:Twinkle Fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 22:27:48 ID:JEqMH6F/0
二章:悠人と街娘(7)

「いや、レムリアは悪くないだろ?元はと言えば、戦争を始めたラキオス王たちだと思う。何て言うか、皆を煽動してるって判るんだ。
だから、国民も踊らされてるんだと思う」
「ううん、国民も、ユート君に戦って欲しいって思ってるんだよ。皆、ユート君に勝って、そして守って貰いたがってるの。そう、私も
…」
 悠人の言葉に、レムリアは首を振って目を伏せた。まるで、その罪を背負うのは自分であると言うかの様に。
「そっか。じゃあ、尚更頑張らなくちゃな」
「え?ユート君?」
 悠人の言葉に、今度はレムリアが驚きの声を上げた。
「最初ははっきり言ってラキオスなんて大嫌いだったよ。でも、スピリット隊の皆やその皆を大事にしてくれてる他の皆が居るって知っ
たらさ、この国も満更じゃ無いって最近思えてきたんだ。勿論、スピリットに対して差別してる奴が居るのは悲しいけど、そうじゃない
人もちゃんといる。それに、この国にはレムリアが生まれ育った国だろ。それだけで、この国を守る価値はあると思う」
「ユート…」
「ん?レムリア?今…」
「あっ!?や、やだなぁ、ユート君。あんまり格好良いから、つい口に出しちゃったよ」
「うわ、何か俺、恥ずかしい事言ってるな」
「そんな事ないよ、ユート君。私、すっごい感動したよ。こんなに私の国を思ってくれている人がいるなんて、感激だよ。私の個人の権限
で国民栄誉賞だってあげちゃうよ」
「はは、それはちょっと大袈裟だろ?」
 大きく頭(かぶり)を振り、やけに輝いた瞳で見詰めてくるレムリアに、悠人は項が痒くなってくるのを感じた。

101 名前:Twinkle Fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 22:31:01 ID:JEqMH6F/0
二章:悠人と街娘(8)

「でもさ、やっぱり俺が戦えるのは守りたいものが出来たからだと思う。最初は佳織だけだったけど、一緒に戦ってくれる皆も俺にとって
はもう大事な仲間なんだ。人間だとかスピリットだとか全然関係無くて、いつかそんな垣根を越えて皆が平和に暮らせる世界が来れば良い
なって思うんだ」
「任せといてよ、ユート君。私が頑張って、きっとユート君が言う様な新しい世界を作ってみせるよ」
「あ、あぁ…。何でそんなに力が入っているかは判らないけど、レムリアも協力してくれるならきっと何とかなる気がしてきたよ」
 詰め寄ってきたレムリアの威勢に押されつつも、悠人は何となくこの目の前の少女なら一旗上げてくれそうな気がしていた。恐らくは、
只の悠人の直感であろう。しかし、予感ではあるが、的中しそうな気がしてならなかった。

 そんな二人の遣り取りを、物陰から凝視している二つの影があった。
「はわわわわわわわわわわわわわわわ…」
「あうあうあうあうあうあうあうあう…」
 何を話しているのかはよく聞き取れないが、湖を眺めながらヨフアルを食べ、楽しく談笑しているのは見て取れた。しかも、悠人と一緒
に居る少女は結構な美人である。先程の真剣な表情での話なども、もしかしたら大事な事について語り合っていたのかもしれない。
「ど、どうしよう、シアー?」
「分かんないよう、ネリー…」
 兎に角、思考が纏まらなかった。さっきから胸の中では居ても立っても居られない不思議な感情が吹荒れっ放しで、この段階で既に手が
付けられないのに、ここに来てあの二人の親密そうな遣り取りが更に拍車を掛けていた。

102 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/22(日) 22:35:16 ID:4LIaxf4D0
(しえん〜)

103 名前:Twinkle Fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 22:39:26 ID:JEqMH6F/0
二章:悠人と街娘(9)

「ひゃうっ!?」
「わわっ!?」
 一瞬、悠人と一緒にいた少女と目が合った。深い、吸い込まれそうな綺麗な紫色をした瞳であった。
 少女の目が驚いた色を浮かべた瞬間。
「に、逃げるよっ!!シアーっ!!」
「う、うんっ!!」
 レムリアの視線を追った悠人が振り返ると、そこには誰も居ない広場の片隅が映っているだけであった。
「レムリア、何かあったのか?何か凄く驚いた顔してたけど…」
「いやぁ、ユート君も罪な男の子だねって思ってね」
「?」
 レムリアの何かを含んだ笑みと言葉であったが、悠人にはさっぱり意味が解らなかった。そんな悠人に、レムリアは仕様が無いと何処か
懐かしさを覚える諦めた表情を浮かべた。
「まぁ、頑張って。それじゃ、私はもうそろそろ帰るね。今日は楽しかったよ、またね、ユート君」
「あ、あぁ。またな、レムリア…」
 微妙に謎を残しながら、悠人は去り行くレムリアに別れを告げ、再び巡回をする為に町の中へと消えて行った。
 そして、そんな彼等の一部始終を遠くから眺め、人知れず大きな溜息をついた影があったのだった。
「全く、私も何をやっているのかしら…」
 踵を返し、セリアは街の巡回へと戻っていった。

 夕刻のスピリット館第二詰所。その居間で、ネリーとシアーが無気力にテーブルに突っ伏していた。
 帰ってきた他のスピリットたちがそんな二人の様子に心配して声を掛けたが、本人たちすら何故にこれ程に消沈しているのかが解らず。
結局は只生返事を返すばかりであった。
「うぅ…」
「むぅ…」
 この感情には心当たりがあった気がしないでもなかった。サモドア陥落の夜、苦悩する悠人に感じた胸の痛さに何となく似ていた。だが、
あの時は同時に不思議な多幸感も覚えていたのだが、今は只胸が痛いだけだった。
 最近は悠人の事を考えると小さな痛みと大きな嬉しさがこみ上げてきていたのに、今日のあの時から痛さばかりが胸を締め付けた。そし
て今も、二人の中では不完全に燃えたエーテルがいつまでも燻っている様な焦燥感がじわじわと広がっていた。
「あら、二人とももう帰っていたの?」
 と、そこに巡回を終えたセリアが居間に入って来た。

104 名前:Twinkle Fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 22:44:30 ID:JEqMH6F/0
二章:悠人と街娘(10)

「あ、セリア。お帰り〜」
「お帰りなさ〜い」
 体を動かすのも億劫であったが、せめて挨拶くらいはきちんとしないと規律に厳しいセリアに注意されるので、二人は何とか気力を絞って
顔を上げて声を掛けた。
「全く…。しゃきっとしなさい。そんな調子じゃ、ユート様に呆れられてしまうわよ?」
「う゛…」
「あぅ…」
 見兼ねたセリアの叱咤にネリーとシアーが項垂れた。何故だか、今は悠人の名前を聞くだけで辛くなってくるのであった。そんな二人の
様子に瞑目し、セリアは溜息を吐いて自室へと去って行った。
「ネリーたちも、部屋に戻ろっか…」
「うん…」
 のそのそと、緩慢な動きで二人は居間を後にした。

 そんな光景を奇異の目で見るスピリットたちが居た。
「一体、何があったのよ?あの二人があんなになるなんて、ちょっと想像つかないわよ」
「さぁ?セリアさんに叱られたみたいでも無い様ですし…。帰ってきてからずっとあんな調子で…」
「ですが、体調が悪いわけではなさそうです。今朝も訓練を予定通りに熟していましたし、先程も観察してみましたが、特に問題は見当たり
ませんでした…」
「うふふ」
 厨房での会話の遣り取りの中、鍋のスープを掻き混ぜながらハリオンが一人笑みを零した。
「どうしたのよ、ハリオン?笑ったりなんかして」
「何か、知っていらっしゃるんですか?」
「非常に気になります…」
「いえいえ。只、ネリーさんとシアーさんも可愛いなぁ、って思いまして〜」
 その応えに、一同はその真意を捉えきれずに首を傾げた。
「え〜っと、毎度の事だけど、それだけじゃ判んないんだけど?」
「でも、ハリオンさんには判っちゃうんですよね…。私なんていっつも図星を指されちゃいますし…」
「いえ、ヘリオンの場合は大部分が自爆しているのが原因ですので、その点は大丈夫だと思われます…」
「ふえぇ〜っ!?それはちっとも大丈夫じゃないですよぅ、ナナルゥさ〜んっ!!」

105 名前:Twinkle Fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/22(日) 23:00:05 ID:JEqMH6F/0
悠人と街娘(11)

 何やら賑やかになってきた厨房で、ハリオンは只嬉しそうにその光景を眺めていた。
「でも、そうなったらとっても素敵ですよね〜。ユート様…」
 誰にも聞こえない様な小さな声で、ハリオンは厨房の窓から紫暮れの空を眺めていた。
「泣かせたりしたら、お姉さんは、めっ、ってしちゃいますからね〜」


と、街娘編は以上です。
勝手に喋ってくれるレムリアは暴走しがちなので楽しい反面冷や冷やしますね。
あと、ハリオンは書いててほのぼのします。
知人もハリオンだとEROい描写も自然に読めるから不思議だと首を捻っておりました。
金「それがハリオン・マジックの一つでは?」
知「あ〜(膝を打つ)」

次はダーツィ編、そしてイースペリア編です。
そう言えば、エーテル・コア暴走の影響でエーテル施設に不調が出るらしいですね?
あら?ナニやら第二詰所のお風呂が不調らしいじゃないですか。
大変です、彼女らは一体何処でお風呂に入れば良いのでしょうか?
知人に話したらこう言われました
知「ケシカラン」
えぇ、どうせケシカランですとも。
オイラは原作に不埒な色をマジェマジェするしか出来ませんし。
てか知人は鼻血拭いて下さい…
そんなワケで、思い上がり甚だしいですが期待して待ってって下さい。
これからも、宜しくお願いします。

106 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/23(月) 01:50:59 ID:kTw7NGW1Q
無印で周回プレイをしつつサブスピ分が欲しくて
サブスピの差し替えパッチなるものを探してます。
探して見つけたと思ったら2008年6月17日で閉鎖って・・・orz
どなたかサブスピパッチのUPお願いします。

107 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/23(月) 21:09:33 ID:mxvpY3D50
やっぱりハリオンはいいなあ...

108 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/06/23(月) 23:35:59 ID:bhZvLVyy0
溜まっていたSSを一気に投下してみましたが、投下量多過ぎですかね?

109 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/24(火) 00:47:30 ID:cbexr2OD0
長いのはいいけど、むやみに近況小話とか挟むとダレるかもしれないです。
特に要望や批難がなければ支援受けつつ粛々と投下するのが個人的には好ましいです。
あと、章立てができてるなら(/11)などのように、その章の残数が確認できるような
正確に切り分けた投下法だと支援もしやすく読み手に優しいかなーと。

そして今から追加分を読んでくる俺。

110 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/24(火) 00:55:21 ID:Uh1ah4Se0
別にそうは思わないけどなぁ
定期投下する!って考えなら不慮に備えて残しておいた方がいいかもしれないけど
元から不定期予定でしょ?

111 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/24(火) 00:56:28 ID:9VrjGodT0
えーと、これはCの必要あり?
それとも丸一日以上経ってるし、ここで二章は終わり?

112 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/06/24(火) 07:26:14 ID:US8c/EQb0
二章はもう少し続きます。
恐らくマロリガン編から三章に入るかと…


113 名前:111:2008/06/24(火) 19:36:26 ID:9VrjGodT0
ごめん、なんか(6)までしか表記されてなくて、書き込んだんだ。
書き込んだはずの文章がなくて2chブラウザから入り直してみたら、それ以降も表記されてた。
うん、マジごめん。今度から支援関係は更新止まったの確認して、2chブラウザから入り直してそれでも止まってたら書き込むことにするよ。

114 名前:ヒミカイザー 第5話:2008/06/25(水) 00:53:44 ID:HkVgdOG40

ヒミカイザー 第5話『無言の結末』。
こちらのチャンネルで放送中。

ttp://www.miscspirits.net/Aselia/test/read.cgi/refuge/1099180045/201-230


115 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/26(木) 21:26:36 ID:hFQV5pNY0
>>114
乙。
最早ナナルゥはただのニコ厨ですなw
スイーツ(笑)に吹きましたw

てか元ネタが普通にわからんのですが、これ本当に元ネタあるんですか?


116 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/26(木) 21:47:41 ID:41H0GxHq0
アルカイザーでレッツ検索!

117 名前:月野陽介:2008/06/26(木) 21:50:12 ID:2pLWA/Kv0
こんにちは。何とか三章仕上がったので投下してみます。
4節終了時にナナルゥの過去っぽいのを少し聞いちゃうみたいな。
ほんとは昨日投下できそうだったんですけどアセリアの設定とか見てたら
ソーマのせいでエスペリアより古株のスピリットいないんですね・・・。
あわてて矛盾のでないように適当にぼやかしたり削ったり付け加えたりして
ミスが多そうで不安ですが・・・
「(表面上は)怒らないよ?」という人だけご覧ください。
スピたん〜幻のナナルゥルート〜3章、突貫します。


118 名前:3章 何が為の強さ:2008/06/26(木) 21:54:04 ID:2pLWA/Kv0
あの時。ロティ様の言った「強くなろう」と言う言葉。
それを聞いてからなぜか思い出したのは過去の戦争の時代の事。
初めの頃、己の意思で強くなりたいと思いがあった。
ただ力量的な事でなく、己を保ち、明確な意思や理想を持ち
それが己を縛る枷とするのでなく己の誇りとして戦う力とする事。
戦いの事しか知らず、人がスピリットを使役して当然と思っていたが、
それでも「仲間を守りたい。そのために強くなりたい。」という確固たる意思はあった。
正義、自由、平和、侵略、開放、征服。
戦争を起こすお題目の意味など知る由もなく、自分が戦う事に何の不満も感じなかったが、
それでも仲間に死んで欲しくないと言う思いだけは確かにあった。
いつから感じなくなったのだろう。何故感じなくなったのだろう。
その答えは簡単だった。自分がそう望んだのだ。

あれから数日後。僕達はまた方舟から旅立ち、そして何とか目的を果たしてきた。
しかし、戦闘でのナナルゥの調子がおかしい。
本調子ではないと言うわけではない。けどまだ戦闘に支障が出るほどではないが迷いを感じる。
それは神剣に取り込まれる明確な可能性、それによる力を振るう事の躊躇か。
(・・・それだけじゃ、ないんだろうな。)
それと同時にエンレインに対する危機感や焦りというものもあるのだろう。
力がいるが、神剣に支配されてはいけないという対立する思い。
どうにかしたい。そう思っていた時、メロディが流れてきた。
音のする方向に歩いていくとナナルゥが公園の原っぱに座り、草笛を吹いている。
陳腐な感想だが、素直に綺麗な音色だった。公園に居合わせた人達も穏やかな顔で聞きほれている。
演奏が途切れたときを見計らってナナルゥの横に腰掛け、声をかけてみた。

119 名前:3章 何が為の強さ2:2008/06/26(木) 21:56:37 ID:2pLWA/Kv0
「ナナルゥ」
「・・・隊長。」
「本当に上手いね、ナナルゥの草笛。僕も間近で聞いたのは初めてだったけど」
「ありがとうございます。精神状態を整える必要があると判断しましたので。」
ああ、そういえば草笛はそんな効果があるって言っていたんだっけ。
「・・・やっぱり、前に言った事で悩ませちゃったかな?」
「いえ・・・あれから少し・・・過去の自分を思い出したのです。」
「昔の・・・ナナルゥ?」
「はい。記憶もおぼろげですが、戦闘方法指南以外にもよくしていただいた先輩達や、
信頼しあえる同年代の同士がいたと認識しています。」
「へぇ・・・」
「今となっては判断は不可能ですが、決して不快でない時間があったと記憶してます。
戦いに駆り出される恐怖を抱え、だからこそ皆が戦争がないその時を楽しもうと努力していたと。」
それを語るナナルゥの顔が嬉しそうに見えたのは、多分気のせいではないだろう。
「しかし、戦争が始まり、初めて立った戦場で私に目をかけていただいていた先輩が私を庇い刃に倒れ、
よく模擬戦をしていた同僚が魔法を受け、目の前で死んでいったのを見て、力が欲しいと強く望むようになりました。
・・・そして、相手の命を奪う躊躇いも、消えていたように思います。」
守るため、仲間を死なせないための、勝つための、戦って相手を殺すための力。
間違ってるなんていえるはずもないが、そんなものを求めないといけない時代を悲しく思った。
「スピリットの神剣は持ち主の意思や思いを反映して、少しずつ形や性質を変えるものです。
『消沈』は私にあわせて力を与えてくれました。みんなを死なせたくないという私の思いを感じ取って。
・・・それでも、周りの仲間はどんどん倒れてゆきました。昨日まで共にいた者が、
互いに生き残ろうと語り合った者が簡単に消え、それに対して憤る暇もありませんでした」
「ナナルゥ・・・」
戦争と言う巨大な悪意の塊に一個人の思想など無に等しい。
戦争に余計な事を考えてはいけない。迷うものや考えるものは真っ先に死ぬ。
御伽話のような救いや奇跡などない。あるとしても信じ、縋る事など許されない。
それが現実。救いもなく情けもなく容赦もなく全てがある意味平等に死ぬ。
まともに戦争に関与しなかった僕でも肌に感じる残酷で、だけど確かな戦場での真理。

120 名前:3章 何が為の強さ3:2008/06/26(木) 21:58:45 ID:2pLWA/Kv0
「いつしか無力感が諦めとなり、全てがどうでもいい、何ももう感じたくないという思念が浮かび、
『消沈』はそれに答え、感情というものを・・・消してくれました。」
「・・・」戦争の最中、己のあり方に堪えられずに自我を手離して神剣に取り込まれるスピリットは
少なくなかったと知っているが改めて聞くとやはりそれを当然としていた世界に憤りを感じた。
「ただ、かろうじて仲間を守るという意思が残り、それが支えとなって神剣に完全に取り込まれるのを無意識に防いでいた。
今ならそう判断します。『消沈』も私が拒んでいるのを感じたのか自我をひとかけらほど残してくれました。」
そう言って愛しそうに傍らに置いていた『消沈』の柄を撫でる。
それを見てどんな形であれナナルゥと『消沈』の間に強い絆があるのだと感じた。
「・・・私はその時も、今までも、仲間を守れるなら自分はどうなろうとかまわないと思っていました。
しかし、今は何故か、死に恐怖を感じます。・・・あのときの自分に、戻りたくはありません。
皆を守りたいという思いは変わらなくて、そのために今は戦わないわけにはいかないのに、
自我を失う事や死の恐怖が妨げになります。・・・迷いを抱えた状態であの開拓者と満足に戦える訳がないのに。」
・・・そうだったのか。ナナルゥは自分の中に芽生えた感情に戸惑っているんだ。
でも、おかしな言い方だけど僕はそれを嬉しく思った。
「・・・怖いと思うなら、それでいいんじゃないかな。」
「え・・・?」
「それが、感情というものだから。ナナルゥがそう思えたのならそれはとても大切な事だと思う。
そういう事はもっと表に出していってもいいんじゃないかな。」
「しかし・・・皆に余計な気苦労を背負わせてしまいます。」
「そうかな?ナナルゥが困ってたり迷ったりしてても隠そうとしてた方がみんな悲しいと思うよ。
ナナルゥがそういう風に自分の思っている事をいってくれたらきっと喜ぶ。
少なくとも、僕はナナルゥが話してくれて嬉しかったよ。」
「隊長が・・・ですか?」
「うん。ナナルゥの力になりたいと思ってたからさ。だから、ナナルゥが頼ってくれて嬉しい。」
「あ・・・私・・・は、その、なぜか、隊長には知って欲しいと・・・」

121 名前:3章 何が為の強さ4:2008/06/26(木) 22:03:49 ID:2pLWA/Kv0
「あはは、ありがとう。・・・えっと、僕は戦争で直接戦っていたわけじゃないから
ナナルゥに対して大きな事は言う資格なんて無いかもしれない。
でも、戦う為とか守る為に怖さとか迷いを捨てる必要はないんじゃないかな。」
これは更にナナルゥを迷わせるかもしれない。だけど、どうしても言いたかった。
「むしろ強くなる為にそういった感情を手放すのはすごく危険な事だと思うんだ。
辛いかもしれない。何も考えずただ戦えば楽かもしれない。それでも考えて、
自分なりの答えを出す事ができたら・・・それがナナルゥ自身の強さになる筈だから。」
「・・・申し訳ありません。私には、よくわかりません。ですが、今しばらく、時間をくれませんか?」
「いいよ。こういう事はあせって答えを出すものじゃないしね。
それと・・・これからも何かあったとき、もしよかったら僕にも言って欲しい。
僕にできる事ならいくらでも力になるし、ナナルゥがどんな答えを出しても僕はナナルゥを応援するから。」
我ながら恥ずかしい台詞だけど本心からの思いだった。
どれほど傷つこうと仲間を守る力でありたいと願っているナナルゥを支えていきたい。
きっと僕は、そんなナナルゥが―
「・・・はい・・・。・・・あの、隊長。」
「何?」
「・・・精神状態に乱れを感じましたので・・・草笛を吹くことを許可いただけますか?」
「?・・・うん。じゃあ僕も聞いてていいかな?」
「はい。それでは、失礼します。」
少しナナルゥの態度が気になったけど、僕はナナルゥの草笛をじっくり聞かせてもらう事にした。
その横顔がわずかに赤く見えたのは、たぶん勘違い・・・だよね?

122 名前:月野陽介:2008/06/26(木) 22:10:01 ID:2pLWA/Kv0
今回は短めだけど3章終了です。
何がいいたいんですかと聞かれたら
消沈とナナルゥはあれでも信頼しあってるんだよということで。
頭で筋書き浮かんでいても文にするのはムズカシイ!
頑張れ自分、もっと文上手くなれ!
とりあえず半分くらいかな?あと2,3章書こうと思ってます。
ここまできたらなんとかこのスレで仕上げます。
どうか見捨てないでお立会いください。

123 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/06/26(木) 22:47:27 ID:AGlYajsW0
土日祝日をメインに投下と言ってましたが
何と無く投げれそうなのでSSをジャイロで投げ込んでみます
目指せ、100マイル

二章:焚火を囲んで(1〜4)

短いから支援なくてもゴール出来るよね?
多分…

124 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/06/26(木) 22:52:44 ID:AGlYajsW0
二章:焚火を囲んで(1)

 長く続いたラキオスと大公国との均衡は大公国の後退と言う形で崩された。
 この膠着状態に痺れを切らせていた軍部はここぞとばかりに進軍を嗾け、悠人たちは半ば押し切られる形で進軍を余儀無くされたのだった。
 大公国進攻の際のエスペリアの情報に拠れば、サモドア山道を下って直ぐにヒエムナとケムセラウトの二つの拠点が西と東に存在していた。
 当然、ここで大公国側が挟撃に持ち込んでくるであろう事は予想されていた。
 しかし驚くべき事に、両拠点を同時に陥落させ、それを首都キロノキロの進行の足掛かりとせよと言うのが軍部が課した指令であった。
 訓練の甲斐も有り何とか剣の基礎くらいは身に付けた悠人であったが、依然防戦に回る以外に戦う術が無いのが実情であった。
 結果、最も戦力の集中する大本営のキロノキロに続くヒエムナ砦をアセリア、エスペリア、オルファリル、ヒミカ、ハリオン、ナナルウが。
 背後のケムセラウトをネリー、悠人、シアー、セリアが攻略する事となったのだった。

「ユート様、ユート様っ!!喉渇いてない?お水だよ?」
「えっと、タオルだよ…。体を冷やすと良くないから…」
「あ、あぁ。有難う、二人とも。サンキューな…」
 陽も沈み始めた頃、ケムセラウトを目前に控えた悠人たちは小休止を取る事にした。
 やはり挟撃を画策していた予想は的中し、至る所でダーツィ軍の遊撃部隊に遭遇した悠人たちはその都度各個撃破を繰り返して進軍していた。
 悠人を中心に守りを固め、他の三人が敵の主戦力を潰していく。
 セリアはネリーとシアーの扱い方を熟知しており、お陰で悠人が指揮を執るよりも遥かに安全且つ確実に戦況を有利に進めていった。
 実際、ここ迄の快進撃はセリア無しでは有り得なかったと言っても過言では無い。
 成程、第一詰所のリーダーがエスペリアであるなら第二詰所のリーダーはどうやらセリアであるらしい。
 実に見事な手腕であった。

125 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/26(木) 23:05:05 ID:AGlYajsW0
二章:焚火を囲んで(2)

 そして、その優秀な参謀に悠人は何故か焚火を挟んで鋭いメンチを真正面から切られていた。
 よって、悠人は休憩に入ってから生きた心地―ではなく、かなり落ち着かない気分にさせられていたのであった。
「え〜っと、セリア?」
「何でしょうか?ユート様」
「いや、その…。何かって言う程じゃないんだけど…」

「貴女が物凄く眼を飛ばしてくるので、僕は恐怖のあまり縮み上がってしまいそうなんです」

 そう言える程悠人は度胸があるわけでもなければ命知らずでもなかった。
 と、気が付けばネリーとシアーが閉口している悠人に愛想良く寄って来ていた。
「ユート様、疲れてない?ネリーが揉んだげよっか?」
「お腹空いてない?ユート様…」
 この前から何かと世話を焼きたがってくる二人に苦笑しつつ、悠人はやんわりと断った。
「いや、俺は平気だけど…。それより、二人の方が休めてないんじゃないのか?あと少しでケムセラウトだろ?
敵が死守する砦が一番手強いんだから、今の内にしっかり休んでおけよ?『求め』も近くに危険な気配はないって言ってるし。
いざとなったら俺のシールドの中に非難すれば大抵の攻撃は防げるからな」
 そう言い、ユートは二人の頭をくしゃくしゃと撫でてそのままぺたんとお座りさせた。
「あうぅ…」
「うむぅ…」
 不満そうでもあり何処か嬉しそうでもある表情を浮かべ、ネリーとシアーは撫でられた頭を押さえて悠人を上目遣いに見ていた。
「大丈夫だって、今日は殆ど守ってばっかりでそんなに疲れてないし。それに、俺より二人の方が活躍してただろ?明日は今日以上に大変になるんだから、しっかり休んで疲れを取る事」
 そう言うと悠人は野営用の外套で二人を手際よく包み、二人の頭を太腿の上に乗せた。
「はわわ…」
「あわわ…」
 最初は面を食らった二人であったが、悠人が二人の頭を撫で始めると途端にされるが儘になってしまった。
 しかし悠人の手に安心したのか、やがて焚火の爆ぜる音と安らかな寝息が聞こえ始めた。
 二人の寝顔に微笑む悠人のそんな様子を、セリアは黙って眺めていた。

126 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/26(木) 23:16:25 ID:AGlYajsW0
二章:焚火を囲んで(3)

 少数であったにも関らず、悠人たちはケムセラウトを陥落する事に成功した。
 神剣魔法を悉く無効化するセリアたち青スピリットたちに対し、ダーツィ兵は白兵戦で応じざるを得なかった。
 一方、堅牢な防御と神剣魔法の援護によって攻撃を前面に押し出す事の出来た悠人たちは瞬く間に敵を蹴散らしていったのだった。
 そして、ケムセラウトを陥落するや、悠人たちは急遽転進してエスペリアたちと合流すべくヒエムナへと向ったのであった。

「っくしゅ!!うゃ…」
「あぁ、全く…。肌蹴てるっての」
 寝ているネリーの乱れた野営用の外套を整え、悠人は苦笑しながらそんな事をぼやいた。
 反対側では同じ様に外套に包ったシアーが静かな寝息を立てて眠っていた。
 昼間は獅子奮迅の活躍をしてくれていた二人だが、やはり相当に疲れが蓄っていたのだろう。
 日没と同時に野営を張り始めたが、夕餉を済ませた二人は悠人を挟む様にして直ぐに眠ってしまった。
 実を言うと悠人も床に就きたかったのだが、先程から(悠人の主観であるが)凍てつく様な視線が突き刺さってきて眠れそうになかった。
 パチパチと爆ぜる焚火。その向こう側で、セリアが悠人たちをじっと眺めていた。
「え〜っと、セリア?」
「はい。何でしょうか?」
 悠人の呼び掛けには応えるものの、色の見えない声音と表情が悠人の勇気を容赦無く削り落していく。
 しかし、ここで引いてはセリアからの信用は得られない。何故かそう感じた悠人は決死の覚悟で言葉を絞り出したのだった。
「以前に俺の事は信用出来ないって言ってたけど、やっぱり今もまだ信用出来ないかな?」
 悠人の質問に、セリアは少し言葉を考えた。
「そうですね…。どちらかと言うと、ユート様はまだ力不足です」
「そっか、まだまだか…」
 出てきた言葉は決して良い言葉ではなかった。
 しかし、セリアの率直な意見に場都(ばつ)の悪い笑みを浮かべたものの、同時に悠人は何処か強い意志をその瞳に灯していた。

127 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/26(木) 23:20:10 ID:AGlYajsW0
二章:焚火を囲んで(4)

「今日は有難うな、セリア。二人が大した怪我も無く戦えたのもセリアのお陰だろ?
今の俺は守る事で精一杯だから、セリアがいてくれて随分助けられたよ」
「べ、別に礼を言われる様な事ではありません。
ユート様の補佐をする様にエスペリアからも言われましたし、私は只自分の仕事をやっただけですから…」
 悠人の真剣な表情と謝礼に、セリアがやや視線を泳がせた。
 焚火に浮かぶセリアの頬にはやや赤みが差さっていたが悠人はそれに気が付かなかった。
 たとえ気付いたとしても悠人にはそれが焚火の所為だと考えるのであろう。
 それが幸か不幸かはセリア本人にも判らなかったが、そんなセリアの考えなど知らず、悠人は破顔して微笑み掛けた。
「それでも、やっぱりセリアには感謝してるよ。もう、スピリット隊の皆は俺にとって家族みたいなモンだからさ」
「家族ですか…?」
 悠人の言葉に、セリアは思わず鸚鵡返しに訊き返した。
「あぁ。だから、セリアには有難うって言いたいし、迷惑掛けて済まないって思ってるんだ」
 そう言いながら、悠人は両側で寝ているネリーとシアーの頭をそっと撫でた。
 寝ていても悠人に撫でられたのが判るのか、撫でられた二人は幸せそうな寝顔を浮かべた。
「ユート様は確かに今は力不足ですが、時間があればきっと強くなれると思います。
ですから、今は無理をなさらずにユート様が出来る事だけをなさって下さい。
ユート様にもしもの事があればカオリ様は勿論、そこで寝ている二人もとても悲しむと思いますから」
 そう言って悠人に頭を預けて眠る二人を見るセリアの瞳が、悠人には以前よりずっと優しく感じられた。
 気位の高い印象を受けるセリアだが、本当は優しい心の持ち主なのだろうと悠人は思った。
 時に厳しいセリアの言葉であるが、不思議とそれが受け入れられるのはその言葉に優しさを感じるからなのだろう。
「セリアはやっぱり二人のお姉ちゃんなんだな」
「そうね、手の掛かる妹たちだけど…」
 砕けた口調のセリアを聞いて、悠人はその柔らかな響きに目を細めた。
 本当のセリアの言葉を聞いた気がして悠人は少し嬉しくなったのであった。

128 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/06/26(木) 23:38:35 ID:AGlYajsW0
投下して気付きました

月野さんが先にイラッシャッテル…
オイラのSSがお目汚しにならない事を祈るばかりです…

あぁ、しかも(1)で名前がオイラのままじゃないか…orz

気を取り直し、次でダーツィ編は終わりです
そして、オイラの妄想が炸裂した風呂SSが…

書いてて楽しかった反面、難産に血反吐を吐いた話でもあります…

ユート先生のお風呂場授業
セリア先生のお風呂場授業

なんつータイトルだ…orz
すいません、タイトルは冗談にします…
でも、風呂SSは冗談ではないですから推敲して頑張りますよ?
それではまた


129 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/28(土) 00:29:09 ID:8S+8+UyN0
二章:夕餉の前(1)

「何だってっ!?」
 ヒエムナを陥落させ、悠人たちはいよいよダーツィ大公国の本拠地であるキロノキロ進攻を控えていた。
しかし、急遽ラキオスの情報部から齎された報告は正に青天の霹靂であった。
「サルドバルト王国が同盟国のイースペリアを裏切ったっだって!?」
「はい。イースペリアからの緊急要請に我がラキオスも応じましたが、既にサルドバルト軍はイースペリアの領内深くまで侵攻しているそうです」
 エスペリアが報告書を要約し、悠人に現状を伝えていた。
 だが、飛び込んでくる情報はどれも芳しいものではなく、えもいわれぬ焦燥感が益々膨らんでいくものばかりである。
 表面上は淡々と報告しているエスペリアであったが、報告書を握る手や漂う雰囲気から相当の動揺を押し隠している事が感じ取れた。
「先ずはダーツィを攻略し、そのままランサを経由してイースペリアへ向かいましょう。ユート様」
「あぁ、急がなくちゃな…」
 腰に差した『求め』の柄に手を掛けながら、悠人は奥歯を噛み締めた。

「ふぅ…」
 キロノキノを陥落させ、続いてランサを奪還した悠人たちは接収したイースペリアのスピリット施設で休息を取っていた。
 とは言っても、ほんの数刻前まで戦場となっていた市街では未だにその爪痕が生々しく残っていた。
 エスペリアたちが軍部と連絡を取り合って復旧の対応に当たっていたが、味方である筈の悠人たちへの街の人々の対応は冷えたものであった。
(援軍に来ても、結局街を壊したんじゃなぁ…)
 何も出来ない悠人は割り当てられた自室で夕日に染まる町並みを只眺める事しか出来なかったのだった。
 灰燼と化した戦場跡地での光景を思い出し、悠人は遣る瀬無い気持ちになった。
 人間の命令で神剣を奮い、その人智を超えた破壊の力でぶつかり合うスピリットたち。
 そして、そんな彼女たちに向けられる畏怖に染まった人間たちの視線。
 そんな人間の身勝手さに、悠人は胃が焼けそうな不快感を覚えていた。

130 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/28(土) 01:05:30 ID:8S+8+UyN0
二章:夕餉の前(2)

「ユート様?居る?」
「入っても良い?」
 ノックと同時に聞こえてくる二人の声。断る理由の無い悠人は気持ちを切り替え、ベッドに腰掛けて返事をした。
「あぁ、開いてるから」
「うん、じゃあ入るね」
「ね〜」
 元気な調子で部屋に入って来るネリーとシアー。そんな二人の何処となく嬉しそうな様子に悠人も釣られて笑みを浮かべてしまった。
「どうしたんだ?二人とも?」
「んとね、何と無〜くユート様と一緒に居たいなぁ〜って思って。ね?シアー」
「うん、夕飯まで時間があるから。それまでユート様と一緒に居たいけど、ダメ?」
 覗き込みながら様子を伺ってくる二人に苦笑を洩らしつつ、悠人は手首を振って迎えた。
「いや、全然駄目じゃないぞ。俺も退屈してたトコだしな」
「ホント?ユート様♪」
「わぁい♪」
 言うや否や、ネリーとシアーは悠人の右と左に座って肩が触れる程に身を寄せて笑みを零した。
 二人の頭を悠人が撫でると、二人は目を細めて表情を蕩けさせて身を預けてきた。
「えへへ〜、ユート様〜♪」
「撫で撫で〜♪」
 幸せそうな二人の様子に、悠人は黙って二人の頭を撫で続けていた。
 二人の髪の手触りが心地良いのもあったが、甘えてくる二人の様子に悠人は何だか微笑ましい気持ちにさせられるのである。実に可愛い気のある妹分たちであった。
「ん?」
 気が付けば二人は悠人に凭れかかる様にして寝息を立てていた。そんな光景に悠人の眦も下がってしまう。
 無理もない。今日は強行に次ぐ強行での進軍であったのだ。いくら神剣の加護があったとしても疲れが無くなるわけではない。
 寧ろ、肉体的な疲れを神剣が緩和してしまう分、休み無く続く分精神的な疲労が溜まってしまっていたのだろう。
「このまま寝かせて…。あ…」
 二人を起こさない様に立ち上がろうとした悠人であったが、二人は悠人の服をしっかり掴んで寝ていたのだった。
「うぅ、参ったな…」
 一人なら何とか対処出来たのかもしれないが、二人となると起こさない様に離れるのは至難の業であった。
 どうしようかと悩んでいる内に悠人も疲れに襲われ始め、やがて部屋に三つの寝息が立ち始めたのであった。

131 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/06/28(土) 01:08:22 ID:8S+8+UyN0
改行が多いと何度も突っ撥ねられました…
本当は

「ん?」
「くぅ…」
「すぅすぅ…」

と続く筈でした…

一応、これでダーツィ編は終了です

132 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/28(土) 21:35:48 ID:YSDgx1PK0
がんばれ乙

133 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/06/28(土) 23:11:56 ID:8S+8+UyN0
皆さ〜ん、お風呂の準備が出来ました〜(1〜14)
準備は良いですか〜?
     _
    '´ ヘ ヘヾ
   ノ〈从ハ从〉
   从ヲ´ヮ`ノヲ
   ノ⊂》|Tリつ
  て(く/|_ノゝ
     し'ノ

134 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/28(土) 23:15:04 ID:cE0yLHxX0
いぇーい!

135 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/06/28(土) 23:15:32 ID:8S+8+UyN0
二章:突撃、隣のユート様!!(1)

(一体、こんな戦いに何の意味があるんだろうな…)
 大浴場に一人、悠人は湯船に浸かりながら水滴の滴る天井をぼんやりと仰いでいた。
 先の大規模なエーテル・コア暴走により消滅したイースペリア。
 表向きではサルドバルド王国の工作が原因であった痛ましい事件と報じられていた。
 だが、本当の原因が非道なラキオス王の奸計である事は現場に居合わせた悠人が一番知る所であった。
 尤も、今回の事で最も衝撃を受けたのはエスペリアであろう。
 命令とあらば情を排し、自らを道具とすらして任務を遂行する軍人たる彼女である。
 しかし、本当は慈愛に満ちた優しい性格である事は世話をして貰っている悠人自身が一番解っていた。
 今では普段通りに仕事を熟しているが、内心ではどんな良心の呵責に苦しんでいるのか悠人には想像が付かなかった。
「くそっ…」
 あの時の歓喜に染まったラキオス王の顔を思い出すだけで、悠人は腸が煮え返りそうになった。
 蒼白になり、それでも震える拳を握り締めて報告していたエスペリアを悠人は忘れる事が出来なかった。
 それだけではない。イースペリアで見(まみ)えた神聖サーギオス帝国の『漆黒の翼』ウルカ。
 敵対している帝国が有するあのスピリットの存在が、今後の戦況を更に熾烈なものにするであろう事を雄弁に物語っていた。
 山積みになった問題の多さに、悠人は考える事に疲れてしまっていた。
(あんまり風呂の中で考え事するモンじゃないな…)
 悠人は湯船から上がり、体を洗う準備を始めた。
 一応、他に誰も居ないのだが腰巻をしているのは他のスピリットのメンバーが入ってきた時の保険である。
(まぁ、エスペリアに言付けておいたし、脱衣場の扉に貼り紙もしたから誰も入って来ないとは思うけどな…)
 手に洗髪料を伸ばし、悠人は硬質な自分の黒髪を洗い始めた。
 やがて洗髪料が程好く泡立ち始め同時に悠人の視界が遮られ始めた時、浴場の扉が勢い良く開け放たれたのであった。

136 名前:Twinkle faireis ◆f.DQhHGo4M :2008/06/28(土) 23:20:36 ID:8S+8+UyN0
二章:突撃、隣のユート様!!(2)

「―――え…?」
悠人は一瞬何が起こったのか理解出来ずにいた。
「あ、ユート様見っけ♪」
「見つけた〜♪」
(確か、エスペリアが俺が風呂に入ってるって知らせてくれてる筈だよな?あと、貼り紙も目立つ様に貼ったつもりだったんだけど…)
 現実から逃げる為、悠人は洗髪の手を止めて黙考し始めていた。

 時は少し遡る。
「ユート様〜、ネリーだよ〜」
「シアーもだよ〜」
 第二詰所から第一詰所に来たネリーとシアーの二人は悠人の部屋の前で悠人を呼び掛けていた。
 続いてネリーが元気良くノックしたが何の反応も返っては来ない。
「居ないの?ユート様。入るよ?」
 ネリーが断って扉を開けると、無人の部屋が二人を迎えた。やはり、悠人は別の場所にいるらしい。
「う〜ん、ユート様何処に行ったんだろ?」
「さっき訓練場から出ていくのを見たけど、街には行ってないみたいだったよ?やっぱり、第一詰所の何処かだと思うけど」
「多分、エスペリアなら知ってるかもしれないよ?ネリー」
「そうかも。じゃあ、行こっ、シアー」
 二人は元気良く回れ右をし、開けた扉もそのままに厨房のエスペリアへと向かうのであった。

「ユート様ですか?」
「うん、挨拶しようとしたら部屋に居なかったの」
「ユート様が何処にいるか、教えて欲しいの…」
「ユート様でしたら、大浴場の方にいらっしゃると思いますよ」
 二人の方を見ながら、先程風呂に向かう悠人から他の皆に知らせる様に頼まれていたエスペリアは言われた通りにそう告げた。
 視線は二人に向けられているが、鍋を掻き混ぜる手の動きは淀み無く動いている。
 一見、普段通りのエスペリアであった。

137 名前:Twinkle faireis ◆f.DQhHGo4M :2008/06/28(土) 23:22:54 ID:8S+8+UyN0
二章:突撃、隣のユート様!!(3)

 だが、もし本当に彼女が普段通りならば直ぐに気付いたであろう。
「え、そうなの?」
「じゃあ、何の心配も要らないね」
 二人が抱えた着替え一式、言動、性格。これらが組み合わされて導き出される未来に。
「急げ〜♪」
「急げ急げ〜♪」
 遠ざかってゆく二人の足音を聞き流しながら、エスペリアは無心に鍋の味を調えていた。
 今は何も考えず、目の前の仕事に没頭していたかった。

「あ。『ユート様が使用されています』って書いてあるよ」
「ホントだ。ねぇ、早くしないとユート様が出てきちゃうかもしれないよ?ネリー」
 扉の貼り紙を見るや、二人は急いで脱衣場に飛び込んだ。
 床に畳まれた悠人の服が置かれていたが、二人の脱ぎ散らかした服の下に隠れてしまった。
 兎に角、時間が惜しい二人は脱ぎ終えるや否や勢い良く浴場へと繰り出したのであった。

「うわぁっ!?ふ、二人とも、何で此処に居るんだ!?」
 視界が塞がれているので視認は出来ないが、接近を知らせる足音に悠人は激しく狼狽えた。
 保険を掛けておいて良かったと、心から思う悠人であった。
「え〜っと、イースペリアのマナ暴走の影響でネリーたちのお風呂の調子が悪くなっちゃったの」
「厨房とかは使えるみたいだけど、お風呂は水しか出ないの…」
「あぁ、確かエスペリアがそんな事言ってたな。って、俺たちの所の風呂を使いに来たのは解るんだが、何で俺が入ってる時なんだ?
エスペリアや扉の貼り紙で俺が入ってるって分らなかったのか?」
「ううん、分かったよ」
「だから急いで来たの。一緒にお風呂に入りたかったから」
「しまった、逆効果だったのか…」
 満面の笑みで返してきた二人に、悠人は自ら墓穴を掘ってしまった事に気が付いたのだった。

138 名前:Twinkle faireis ◆f.DQhHGo4M :2008/06/28(土) 23:27:31 ID:8S+8+UyN0
二章:突撃、隣のユート様!!(4)

 アセリアやオルファリルもそうであったが、悠人が風呂に入っていようが構わず、否、寧ろ風呂に入っている時を狙って入ってくる事が多々あった。
 最初は、女性だけのスピリット同士で育った為、男女間に於ける羞恥心が無いのが原因だろうと悠人は思っていた。
 しかし、何度も入ってくる彼女たちの言動からそれだけが原因ではないと言う事を悠人は薄々気付き始めたのだった。
 勿論、羞恥心が育っていなかった事も原因の一つであったのだが、最大の原因は別のものであった。
 そう、彼女たちの好奇心である。
 最早それは観察などと言う次元ではなかった。
 ガン見であった。
 しかも、彼女たちの最も興味を惹いたのが悠人の男性器であった。
 自分たちには無いモノである事に加え、悠人が必死になってソレを隠す姿に彼女たちの好奇心が甚く刺激されてしまったのだ。
「…ユート、ソレは何だ?ん、気になる。触ってみても良いか…?」
「パパの体ってどうなってるの〜?オルファも見せるから、パパも見せてよ〜」
 風呂場から逃げ出した悠人。そして自室の隅でシクシク泣く日々であった。
 その後、エスペリアに頼んで極力悠人の入浴中に入って来ない様に言って貰い、漸く悠人は安心して風呂に入れる様になったのである。

「あ、ユート様。髪を洗ってるの?」
 泡立ち始めていた悠人の頭を見ながら、シアーが悠人の傍まで寄ってきた。
「あ、あぁ…。そうだけど、それがどうかしたのか、シアー?」
「ユート様の髪、洗いたいな…。ダメ?ユート様…」
「いや、髪くらい自分で洗えるから大丈夫だぞ?」
「しゅん…」
 いや、口で言わなくても…。と思いつつも、悠人はシアーの落胆ぶりを肌で感じ取っていた。
 目が開けられない分、かえってシアーの落ち込んだ様子が悠人の瞼の裏にはっきりと浮かび上ってしまっていた。
「ちょこっとだけで良いから、ユート様の髪、洗いたいな…」
 健気である。実に健気である。
 同時に悠人の中に申し訳無さがじんわりと広がっていき、やがてそれは限界に達して悠人を流してしまうのであった。

139 名前:Twinkle faireis ◆f.DQhHGo4M :2008/06/28(土) 23:32:46 ID:8S+8+UyN0
二章:突撃、隣のユート様!!(5)

「じ、じゃあ、洗って貰おうかな…?」
「わぁい♪」
 嬉しさを隠そうともせず、シアーは洗髪料を手に伸ばすと悠人の髪にその白く細い指を通してきた。
 もっと勢い良く来るかと思っていたがシアーの優しい手付きに悠人は思わず驚いてしまった。
「ユート様の髪って、やっぱり少し硬いね〜」
 上機嫌に悠人の髪を洗い始めたシアーがそんな感想を漏らした。
 悠人としてもそんな嬉しそうなシアーの様子に満更でもない気分にさせられるのであった。
「どう?ユート様、気持ち良い?」
「あ、あぁ。シアーは髪を洗うのが上手なんだな」
「えへへ。ネリーの髪もシアーがよく洗うの」
「へぇ、そうなのか」
「ネリーだって、シアーの髪を洗ってるんだよ?ユート様」
「じゃあ、二人で洗い合ってるのか?」
「そうだよ」
「皆で背中流したりするよ」
「皆って…。まぁ、そうだろうな…」
 第二詰所の風呂を見た事は無いが、第一詰所よりも大所帯であるから今いる大浴場よりは広いのかもしれない。
 それにこれだけ広ければお湯を沸かすのも大変であるだろうし、更に長時間沸かし続けるのを考えれば一度に済ませた方が経済的である。
 尤も、風呂が大きいのは設計者の好みである処が大きいのだが。
「ところで、ネリー。目が開けられないから見えないんだけど、もしかして今何か泡立ててないか?」
「うん、石鹸を泡立ててるよ?ネリーもユート様の体洗いたいし」
 聞こえてくるアブクの音は頭からだけではなかった様である。
 このままでは頭の天辺から爪先まで洗われてしまう。悠人、大いに焦っていた。
 シアーの洗髪に感心している間に、外堀は着々と埋められ始めていたのだ。
「いや、体は自分で洗うから二人とも湯船に浸かってきたらどうだ?体が冷えたら寒いだろ?」
「ネリーはそんなに寒くないから大丈夫だよ、ユート様」
「それに、シアーまだユート様の髪洗い終わってないよ?」
「そんな事言って、二人とも風邪なんか引いたら俺は嫌だからな。ちゃんと体を冷えない様にしっかり温まっておかなきゃ駄目だぞ?」
 言い聞かせる様に、悠人は語気を強めて二人に注意した。
 途端、悠人の頭と隣からアブクの音がピタリと止まった。

140 名前:Twinkle faireis ◆f.DQhHGo4M :2008/06/28(土) 23:36:44 ID:8S+8+UyN0
二章:突撃、隣のユート様!!(6)

「ど、どうしたんだ?二人とも…」
 内心強く言い過ぎたのかと思い、悠人は落ち着かない気持ちになった。
 視界が閉ざされているので二人がどんな表情なのかも判らない。
 もし、目を開けて二人の表情が悲嘆に暮れていれば悠人はどん―
「ユート様、優し〜い♪」
「ありがと〜♪」
「うわぁっ!?」
 突然抱き付いてきた二人の行動に、悠人は悲鳴にも似た裏返った声を上げた。
 ネリーは脇腹に、シアーは背中に。悠人の感触を楽しむ様に体を摺り寄せてきたのである。
「ユート様の体って大っき〜い♪」
「シアーたちとは全然違うね♪」
「ふ、二人とも体に何も巻いてないのかっ!?」
 特にシアーは悠人の背中に凭れ掛かる様にべったりと密着させていた為、胸やその先端、腹部の感触が余す所無く伝わってきてしまっていた。
 これで反応しないのならば男として問題であるが、反応されても悠人は困るばかりである。
 実際、既に困り初めていた。
「そだよ。何で?」
「お風呂に入る時は、皆裸だよ?」
「普通はそうだけど、俺の世界じゃ男と女は一緒の風呂には入らないんだ。
一緒に入る時は混浴って言って、お互いの体を隠して入るのが決まりだったんだ」
 ともすれば霧散してしまう思考を何とか掻き集め、悠人は必死になって言葉を紡いだ。
 一目散に逃げ出したいのが本当の所であったが、迂闊に動けないのが今の悠人の悲しい状況なのである。
「だから、二人もタオルとか巻いて体を隠す事。あと抱き付いたり人の体をジロジロ見ない。
それがハイ・ペリアでの決まりなんだ」
「そうなの?」
「ごめんなさい、ユート様…」
 離れていく二人の感触に、悠人は内心で大きく安堵の息を漏らしていた。
 何とかこれ以上危機的状況に陥る事態は避けられそうである。

141 名前:Twinkle faireis ◆f.DQhHGo4M :2008/06/28(土) 23:40:33 ID:8S+8+UyN0
二章:突撃、隣のユート様!!(7)

「ふ〜ん。じゃあ、んっ、しょっと…」
「あ、シアーも〜」
 ネリーとシアーが何かの作業をし始めているのは察する事が出来た。
 しかし、未だ視界が閉ざされていのるのでは確認する術はなく、悠人はおずおずと二人に声を掛けた。
「えっと、二人とも何してるんだ?」
「ユート様の言った通り、体にタオルを巻いてるの」
「こうすれば大丈夫だよね?ユート様」
 どうやら、二人は早速悠人の言い付けを守ってくれているらしい。
 こんな所は素直で可愛いと思う悠人であった。
「よ〜し、準備完了〜っ!」
「ちゃんとタオルで隠したよ」
「お、応。解ってると思うけど、抱き付いたりするのは駄目だからな?」
「うん。でも、ユート様の体を洗うのは良いよね?」
「洗いたいな…」
「…、濫りに触れなければ…」
 暫しの逡巡も後、悠人は渋々合意した。
 何と言うか、二人の声が余りにも不安そうで悲愴な雰囲気を漂わせていたのである。
「やった〜っ!じゃあ、洗うね?ユート様」
「ごしごし〜♪」
「ね、ネリーは背中だけで良いからな?前は自分で洗うのがハイ・ペリアの決まりなんだ」
「え〜?残念〜」
 矢張り、前も洗う気満々であったらしい。
 釘を差しておいて良かった。
 そう思わずにはいられなかった。
 やがて二人の作業も終わり、前を自分で洗い終えた悠人は漸く石鹸の泡を洗い流す事が出来たのだった。

142 名前:Twinkle faireis ◆f.DQhHGo4M :2008/06/28(土) 23:42:38 ID:8S+8+UyN0
二章:突撃、隣のユート様!!(8)

「ふう〜、サッパリした。二人とも、サンキュ―――、って、うわぁ!?」
 礼を言おうとして振り返った悠人は再び前を向いて絶叫した。
「何で二人とも上を隠してないんだよ!?」
「アレ?」
「ユート様みたいに腰に巻いただけじゃダメなのかなぁ?」
 首を傾げ、二人は確認する様に自分たちの胸に手を当てた。
 それだけの事でいとも容易く隠れてしまう二人の胸である。
 しかし、そんないつ外れてしまうとも分からないもので隠されてしまっても、かえって悠人は落ち着かないのである。
「俺は男だから下だけ隠せば良いけど、二人はちゃんと上も隠さなきゃ駄目だろ」
 見えてしまったモノを払拭する様に、悠人は声を上げて注意した。
 鎮まりかけていたモノも一瞬反応しそうになり、悠人はかなり生きた心地がしなかった。
「それも決まりなの?ユート様」
「街でも胸の肌蹴た男はいても女の人はいないだろ?風呂場でも一緒だ。って言うか、どの世界でもそれは一緒じゃないのか?」
「う〜…。でも、ネリーたちユート様と同じ短いタオルしか持ってきてないや」
「ネリー。巻き付けるんじゃなくて、こうやって前に掛ければ大丈夫だよ」
「あ、ソレ良いかも。シアー、頭良い〜。ユート様、これで全部隠れたよ」
「シアーもだよ〜」
「あぁ、一応二人とも大丈夫だな…」
悠人が怖る怖る振り返ると、そこにはタオルで前を隠したネリーとシアーが立っていた。
 隠す所は隠れているものの、二人とも恥ずかしがっている様子は微塵も見受けられず、ネリーに至っては寧ろ堂々とさえしている感さえ漂っていた。
 今一隠している感じが無いのだが、それでも悠人はやっと出来た目の遣り場に素直に安心したのだった。

143 名前:Twinkle faireis ◆f.DQhHGo4M :2008/06/28(土) 23:46:44 ID:8S+8+UyN0
 と、ふと悠人は気が付いた。
「ん?ネリー?」
「ネリーだよ?どうしたの?ユート様。ネリー、何か変?」
 怪訝そうな表情を浮かべた悠人に、ネリーも不思議そうな表情で返した。
 悠人にこんな顔をされるのは初めてなのでネリーは少し戸惑っていたが、内心は期待半分不安半分と言った具合である。
「いや、変と言うか何と言うか…。髪を下ろしたネリーって俺見た事無かったから、その、珍しくて。へぇ、そんな風になるんだな…」
 悠人が感心して指摘した通り。いつも頭頂で結わえられているネリーの髪が見事に解かれ、腰辺り迄真っ直ぐに広がっていた。
 時折流れていく水滴が浴場の明かりを映してネリーの青い髪をキラキラと彩る光景に悠人は思わず見入ってしまい、ふと我に帰った。
「って、悪い。二人にジロジロ見るなって言っておいて、俺が見てたら駄目だよな。体も洗ったし、俺はそろそろ上がる―――っくしっ!」
 浴場から出ようとして、悠人は大きなくしゃみをした。どうやら、少し冷えてしまったらしい。
「ユート様、体が冷えたの?」
「ちゃんと温まらないと風邪引いちゃうの、ユート様」
「あ、あぁ。そうだな…」
 尤もな正論に反論出来ず、悠人は素直に湯船に沈むのであった。

「えへへ〜♪」
「〜♪」
「ふ、二人とも、ちょっと近過ぎないか?これは…」
 右と左をネリーとシアーに挟まれ、膝を抱えた悠人はひたすら視線を前方に泳がせていた。
 一応前は隠れているものの、二人とも肩迄湯船に浸かっているのでタオルは湯の中を漂ってしまっているのだ。
 つまり、真横に佇んでいる悠人からは揺れるタオルの隙間から色々と零れたものが見れてしまうと言う非常に危険な状況であった。

144 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/29(日) 00:13:32 ID:keRH8aST0
しえん

145 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/29(日) 00:52:15 ID:ze4bkY620
支援は必要か……?

146 名前:Twinkle faireis ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 01:02:41 ID:/ar0+7gU0
二章:突撃、隣のユート様!!(10)

 元の世界でバイトに明け暮れていた生活の為か、悠人には病気で仕事を休まねばならない事態を無意識に避ける習慣が付いていたのかもしれない。
 頑丈さが取り柄だと悠人自身も思っていたが、世話を焼いてくれる佳織やこの様に己の限界を超えない無意識の安全弁のお陰で健康を維持してきたのだろう。
 加えて、湯船に浸かるや互いの体を洗い始めた二人を見て、悠人は洗い終わる前に体を温めて上がれば良いと思っていたのだ。
 悠人、これが致命的なミスであった。
「よ〜っし。シアー?いっくよ〜!!」
「うん」
 やけに気合いの入った声であると、そう思った時は遅かった。
「よ〜し、終わりっ。じゃあシアー、お願い」
「えぇっ!?」
 二人が洗う為にタオルを外した辺りから悠人はそっぽを向いていたので分からなかったが、どうやら電光石火の早業で洗い終えた様である。
 そんな戸惑う悠人を余所に、今度はシアーがネリーを洗い始めた。
「じゃあ、いくね?えっと、ゴシゴシ…」
 シアーののんびりとした台詞に悠人は少し落ち着きを取り戻した。
 流石にネリーの髪を洗うとなれば時間が掛かるのは当然で、現にさっきのネリーよりも時間が―――
「じゃば〜…。ネリー、全部洗ったよ?」
「って、早いだろ!?どう考えてもっ!!」
 悠人が突っ込んだ時には既に時遅く、排水溝には二人の泡が流れ去っていた。
「ユート様〜、隣に入るね?」
「シアーも〜」
「あ、え…」
 気が付けば再び前をタオルで隠したネリーとシアーが気持ち良さそうに悠人の隣で湯船に浸かり、至福の表情を浮かべていた。
 勿論、言われた通り二人は抱き付いてきたりはしないが、代わりに剥き出しの腕を悠人の腕に密着させてきた。
 その表情はとても幸せそうで悠人と一緒に風呂に入る事を純粋に楽しんでいる様であった。
 一方、目の前に漂ってくるネリーの髪を指先で弄りながら、悠人はこの状況を如何に打開すべきかと悩むばかりであった。

147 名前:Twinkle faireis ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 01:06:52 ID:/ar0+7gU0
二章:突撃、隣のユート様!!(11)

「ユート様とおっ風呂〜♪」
「おっ風呂〜♪」
 そんな悠人の気も知らず、ネリーとシアーは上機嫌にそんな事を口ずさんでいた。
「えぇっと、何で二人ともそんなに俺と風呂に入りたかったんだ?」
「だって、オルファがユート様と一緒にお風呂に入った事があるって言ってたんだもん」
「だから、シアーたちも一緒に入りたくなったの」
「あ〜、オルファか…。いや、別にウチではそれが普通ってワケじゃないんだけどな?」
 言いながら、悠人の頭の中にオルファリルと張り合うネリーの姿が浮かんでいた。
 何と無く似た処のある二人なだけに互いにライバル心を抱いているらしく、悠人もそんな二人の遣り取りをよく目にしていた記憶があった。
「それに、カオリ様もユート様と一緒にお風呂に入った事があるって言ってたよ?ねぇ、ユート様。兄妹だったら一緒にお風呂に入ったり寝たりするものなんだよね?」
「ユート様は、シアーたちのお兄ちゃんだもん」
「いや、小さい時はそうかもしれなかったけど、もう今じゃ入らないぞ?
それに、ネリーやシアーくらいの年なら、俺と一緒に風呂って言うのは拙いんじゃないのか?」
「何で?」
「何でって言われても、やっぱり恥ずかしいからじゃないのか?お互い…」
「ネリーは平気だよ?」
「シアーも〜」
「いや、俺が平気じゃないから…。それより、二人とももっと恥じらいを持とうな?」
「はじらい?」
「?」
 首を傾げる二人の頭の上に疑問符の幻覚が浮かんで見え、悠人は天井を仰いだ。
 同じスピリットでもエスペリアやヘリオン、セリアやヒミカたちは一般的な羞恥心を持っているのに、何故持つ者と持たざる者の差で出来てしまうのか。
 目の前の二人は無垢と言うには余りにも無防備であった。

148 名前:Twinkle faireis ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 01:10:35 ID:/ar0+7gU0
二章:突撃、隣のユート様!!(12)

「ユート様…」
「シアーたちと一緒にお風呂に入るのは、イヤ…?」
 悠人の雰囲気を感じた二人が途端に不安そうな表情を浮かべた。
 解っている。二人はただ悠人と一緒に風呂に入れればそれで良いのであって、それ以上でもそれ以下でもないのだ。
 しかし、それを手放しに受け入れる事は悠人の倫理感が許さないのである。
 悠人は何とか二人に納得して貰うべく、必死になって頭を働かせていたのだった。
「別にネリーやシアーとこうやって風呂に入るのは嫌ってワケじゃないさ。
風呂に限らなくても一緒に飯食ったり買い物したりするもの全然嫌じゃない。
だけどさ、いくら仲が良くても何でも一緒ってワケにはいかないんだ」
「どうして?ユート様」
「それも決まりなの?」
「う〜ん?決まりとは違う気がするな…」
 明確な答えを知っているわけでもないが、それでも悠人は気の赴く儘に言葉を続けた。
 多分、答えなんて人それぞれなのであろう。
 ならば、思った事を正直に二人に言ってしまおうと悠人は考えた。
 それ以外に二人に語る言葉を悠人は持っていはいない。
 何処まで伝わるかは分らないが、言わないよりは遙かにマシだと思ったのだ。
「何て言えば良いんだろうな?え〜っとそうだな。『違い』、かな?」
「『違い』?」
「人間とスピリットの?」
「違う違う。男と女の違い。まぁ、スピリットには男がいないからアレだけど、それでも男と女の違いって言うのはあると思うんだ。
だから、人間とかスピリットとかは関係無くて、俺は男で二人は女の子だろ?
その違いが微妙なんだけど、何でも一緒に出来ない理由を作っているんだと思う」
「男と女の違い?」
「それが無いとどうなるの?ユート様…」
「さぁ?多分、俺とこうして風呂に入るのと、他の皆と入るのが同じになるんじゃないのか?取り敢えず…」
「皆と同じ?」
「?」
 悠人の抽象的なモノ言いに今一つ真意を掴めない二人は首を傾げるばかりであった。

149 名前:Twinkle faireis ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 01:13:35 ID:/ar0+7gU0
二章:突撃、隣のユート様!!(13)

 そんな二人であったが、悠人も感覚で語ってしまった自分の言葉に内心首を傾げていたのであった。
(まぁ、俺も自分で何を言ったのか良く解ってないしなぁ…)
 考えて物を喋らない自分に呆れつつも、悠人は何やら考え始めた二人から静かに離れて湯船から出た。
 体は既に温まっていたし、撤退するなら今が好機であろう。
 悠人は手早く体を拭き上げ、脱衣所の扉へと手を伸ばした。
 と、
「ネリー、シアー。脱衣場の扉が開けっ放しだったわよ。廊下に湿気が漏れると建物が傷むからいつも閉めなさいって言ってるでしょ?
それに、脱いだ服はちゃんと棚に仕舞いなさい。一応、棚に入れておいたけど、どれがどっちの服か判らなかったから纏めといたわよ。
大体、お風呂を借りに来てるんだから、こんな振舞いじゃユー―――…」
 開かれた浴場の扉の向こう。
 悠人の視線の先では、目が合ったセリアが一糸纏わぬ姿でポカンとした表情を浮かべて固まっていた。
 勿論、髪は解かれ、手にはタオルが握られており、いかにもこれから一っ風呂浴びようかと言う出で立ちである。
(へぇ、セリアって髪を下ろしたらこんな感じになるのか…)
 などと暢気に現実逃避をする一方で、悠人の頭の中では激しく警鐘が鳴り響いているのであった。

150 名前:Twinkle faireis ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 01:15:18 ID:/ar0+7gU0
二章:突撃、隣のユート様!!(14)

「きゃあっ!?ゆ、ユート様っ!?」
「うわぁっ!?せ、セリア、ご、ゴメン!!直ぐ上がるからっ!!」
 局所を隠して叫ぶセリアの脇を通り抜け、悠人は脱衣所へと飛び込んだ。
 しかし、置いてあった筈の自分の着替えが見当たらず、悠人はからり情けない格好で脱衣所を探し歩く羽目になっていた。
「ゆ、ユート様。どうして此処に?」
「いや、一応俺が風呂に入ってるって貼り紙がしてあった筈なんだけど?」
「わ、私は入る時に扉を閉めただけで、気が付きませんでした」
「じ、じゃあ俺の服は?脱衣場の目立つ所に置いといたんだケド」
「た、多分、二人の服と一緒に棚入れたのかも知れません。それ以外には何も見当たりませんでしたから…」
「そっか。じ、じゃあ、セリアも風呂を楽しんでこいよ?俺はもう上がるから」
「言われなくてもそうしますっ!!」
 そう言うと、セリアは大浴場へ入り、ぴしゃりと扉を閉めた。
 一方、心臓は未だ驚いているものの、悠人は一応の事態の収束に安堵の溜息を吐いた。
 扉の向こうから何やら話し声が聞こえてきたが、一刻も早くこの場を退散したかった。
 二人の服の詰まった棚を見据え、悠人は急いで自分の着替えを探し始めた。
「ユート様、申し訳ありません」
 悠人が探し始めた直後、そんな台詞とともに勢い良く脱衣場の扉が開かれた。
 手にお玉を持った必死な表情のエスペリアであった。
「料理の支度に夢中になって、ユート様の言い付けをちゃんと守れませんでし―――た?」
「いや、これは別にヤマシイ事をしているワケではなくてだな…」
 背中に冷や汗が流れるのを感じながら、悠人は懸命に弁解を試みていた。
 たとえ腰巻一丁で女の子の服の塊に手を突っ込む姿であろうと、話し合えばきっと解って貰えると信じて。
「………」
「………、っくし!!」
 寒い。
 そう思う悠人であった。

151 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 01:18:48 ID:/ar0+7gU0
規制で一時間は辛かったです…orz

一旦終了ですが、もう少し風呂場の話は続きます

152 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/29(日) 01:31:48 ID:Mb+zSnjf0
>>122
乙。神剣に飲まれる方向性を、いかにもラキオスのスピリットっぽい独特さへと定めてて面白いです。
ご自分でも気付いてるとおり、セリフ回しの細部や文体の整備を徹底するとすごくイイですよ。
キャラもののSSは全体が突飛かどうかよりも細かいところでつまずかない方が読みやすさを左右しますし。

>>151
乙。面白いけど個人的にはちと冗長かなと思ったです。
台詞回しの細部が整ってるからスパーンって読めるのがやっぱ強いし、キャラ立ても抜群。
けど「恥じらいの薄い女の子と風呂に同席する羽目になるシチュ」にまつわる事を
思いつく限りギッチギチに詰めてるせいで、威力はあるけどテンポを阻害してる感が否めなかったです。
ネリシアならではの要点を突く針を研ぎ澄ます方が却って能率的じゃないかと。
読者のテンポに殉じろとまでは言わないけど一応「連載」だし、テンポの持つ威力も考慮する方がスキが少ないかと。

とにかくお二人とも次も期待しますわ。

153 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 02:10:32 ID:/ar0+7gU0
>>152
ご指摘ありがとう御座います
テンポの取り方は上手な方々のSSや小説とかで学んでいきたいですね

まぁ、知人に「双子に体洗れたい?」と尋ねた所「是非に」と即答してきたので双子に洗って貰いました
実は選択枝方式で話を書いてた時期がありまして、今回の話はその典型なのです
一番意外だったのが「ブラック・ブルー・スピリット」の選択で
双子のSSなのに知人がヘリオンを選んできたのでオイラはドエライ吃驚した記憶があります
知「だって、ヘリオンも好きなんですもん!!」
金「んもぅ、我侭なんだからっ!!」
こんな知人ですが、アセリアシリーズが大好きな気持ちは本物ですのでどうか温かく見守ってやって下さい

154 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/29(日) 03:03:51 ID:DZD7Gp1I0
>>152
何様なんだお前は

155 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/29(日) 03:51:15 ID:Mb+zSnjf0
やや技術的な含みを持った感想述べただけのオレ様ですけど?

156 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 11:28:05 ID:/ar0+7gU0
皆、支援の準備は良い?
SS投下よ(1〜9)

   , ヘ _
   〃 ' ヘ ヘヽ
  ノi ミ从l~iルソ  
 (((ヾ(i|゚ ー゚ノi|  
  从i⊂》|Tリつ
    く/|_|〉
    〈.フフ



157 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 11:39:04 ID:/ar0+7gU0
二章:その手で守るものは…(1)

「はぁ…」
 頭から湯を被り、セリアは大きな溜息を吐いた。
 顔から火が出そうな失態であった。暫くは悠人とはまともに顔を合わせられそうにないだろう。
(見られたわよね…)
 間近で向き合っていたので全身が視界に入る事は無かったが、互いの上半身は間違い無く見えていた。
 一瞬ではあったが、セリアには強烈な印象が瞼の裏に焼き付いてしまっていた。
 悠人が体を鍛えているのは知っていたが、改めて見てみるとその逞しさにセリアは驚かされた。
 太く力強い腕や盛り上がった肩、鎧の如く体を覆っている隆起した筋肉、そして広くて大きな背中はとても自分たちには持ちえないものであった。
 恐らく、アレが男の子の体なのだろう。女性しかいない自分たちスピリットとは何もかもが違っていた。
(―って、これじゃ私がユート様の裸を見たみたいじゃない。見られたのは私なのよ?)
 我に返り、セリアは気を取り直して自分の体を洗い始めた。
(早くお風呂の調子が直ってくれれば良いんだけど…)
 先のエーテルコア暴走の煽りを受け、ここ連日のラキオスでは至る所でエーテル施設の復旧に大童となっており、当然軍事施設は復旧対象の筆頭でありスピリット関連の施設もこれに含まれていた。
 しかし、あまり影響を受けなかった第一詰所の設備を利用すれば良いと言う事で第二詰所の本格的な復旧は後回しにされていたのであった。
 尤も、火も明かりも儘ならない人々からしてみれば入れる風呂が近くにあるスピリットたちの風呂をわざわざ優先的に直す必要が感じられないのも仕方の無い事である。
(でも、よりにもよってユート様に見られるなんてツイてないわ…)
 同性のスピリットならば今更恥ずかしがる事も無いのだが、初めて異性に肌を晒してしまった事。
 しかも、その相手が悠人であった事はセリアにとって何気にショックであった。

158 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 11:41:38 ID:/ar0+7gU0
二章:その手で守るものは…(2)

 洗う手を止め、セリアはふと自分の体を見下ろした。
 同僚のあの三人程ではないがそれなりには育ってはいる、と思う。
 街で見かける同年代の娘たちと比べてもそう引けを取ってはいない、筈である。
 スタイルが良ければ恥ずかしくないと言うわけでは無いが、万が一、万が一であるが悠人が自分の体を見て否定的な感情を抱かれるのも癪である。
 別段良く思われたいなどとはつゆにも期待しない様に、セリアは体の隅々をチェックし始めた。
(そうね。余計な脂肪が付いてないのは良いけど、筋肉が付いてるって言うのはどうなのかしら?胸は、まぁ平均的よね?
一応、アセリアよりはあるもの…。手や足は胼胝で堅くなってしまってるけど、ユート様は気にしてないみたいだし…)
 自分の掌を眺めながら、セリアはこの前の訓練の事を思い出した。

159 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 11:44:36 ID:/ar0+7gU0
二章:その手で守るものは…(3)

当時、悠人は剣の振り過ぎで肉刺を潰してしまったのだが本人は我慢して訓練を続けていた。
 普通は肉刺が潰れたくらいでは周囲に気付く者などいないのだが、悠人の手がマナの燐光を帯び始めたのに気付いたネリーとシアーが見兼ねて手当をしたのである。
 開いた手は血塗れマナ塗れで皮はズルズルの酷い有様になっており、手当をしたシアーなどは思わず涙ぐんでしまっていた程であった。
「も〜、見てたネリーたちの方が痛かったんだからね?」
「ちゃんと手当しないと。黴菌が入ったら大変だよ?ユート様」
「痛ててて…。訓練してた時はそこまで痛くなかったんだけど。でも、サンキューな二人とも」
 他の訓練の邪魔にならない様に三人は訓練場の隅で手当をしていたが、その時、悠人の負傷を知ったエスペリアは回復魔法を掛けようと『献身』を携えて駆け寄っていた。
「ユート様。怪我をされたのでしたら、私が―」
「そ〜ぉれ〜♪」
 のんびりとした掛け声とは裏腹に、紫電を纏った『大樹』がエスペリアのそのブラウンの髪数本をマナの塵に還して鼻先を掠め、訓練場の壁深くに突き刺さった。
「きゃあ!?い、今のは<ライトニング・ストライク>!?」
「え〜っと、偶には私の相手をしてくれませんでしょうか?エスペリア」
 突然の妨害に泡を食ったエスペリアが視線を向けると、そこには笑顔を浮かべてこちらに向かって来るハリオンの姿があった。
 後方には今まで相手をしていたのだろうヒミカがいるのだが、何故か諦めた表情で休憩していた。
「ハリオン、貴女はいつもヒミカと訓練なさっているじゃないですか」
「ですから〜、偶には、ですよ〜?」
 そのままエスペリアの前を横切り、ハリオンは何でも無いと言う調子で壁に刺さった『大樹』を引き抜いた。

160 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 11:46:57 ID:/ar0+7gU0
二章:その手で守るものは…(4)

「お相手でしたら後程致します。ですから、今は私にユート様の手当を―」
「あらあら〜、やっぱりそうだったんですね〜。駄目ですよ、回復魔法なんて使っては〜」
 依然として笑顔のままのハリオンであったが、エスペリアは放たれるプレッシャーをひしひしと感じていた。
 手元の『献身』が警告を発し、気が付けばシールド・ハイロゥが展開されていた。
「あらあら〜?脅かしちゃったんでしょうか〜?」
 ハリオンの言葉に、エスペリアの形の良い眉が僅かに上がった。
 本人に悪気は無いのだろうが、本能的に恐れを抱いた事を見透かされた気がしてエスペリアとしては少し面白くない気分になった。
「貴女もユート様の手当をしたいのですか?ハリオン」
「え〜?違いますよ〜。でも、ユート様を手当して差し上げたいかどうかと言われればしたいですねぇ〜」
「違わなくないじゃないですか…」
「そうですね〜。ですけど、今は私たちが魔法で治したら駄目なんですよ〜?だから、エスペリアには私と一緒に訓練して貰いますね〜」
 点が見えた瞬間。それが刺突であると気付いたのはエスペリアのシールドが展開された後であった。
 しかし、超絶の脊髄反射で構築された言わば本能の防御の盾であったそれはハリオンの『大樹』に貫かれ、エスペリアは堪らず『献身』で火花を散らして受け止めていた。
「正気ですか、ハリオン!?今の一撃は本物でしたよ!?」
 戦慄と共に噴き出た汗がエスペリアの背中を流れていった。
 全力と迄はいかないが、まともに入れば怪我どころでは済まない一撃であったのだ。

161 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 11:50:25 ID:/ar0+7gU0
二章:その手で守るものは…(5)

「あらあら〜?私はいつも真面目に訓練してるんですけどね〜?エスペリアも本気で打ち合わないと〜怪我、しちゃいますよ〜?」
 のほほんとした雰囲気はいつもの儘で、ハリオンは怒涛の槍撃を繰り出してきた。
 突いたと思えば薙ぎ払い、弾いたと思えば返しの一撃が来る。
 一見、闇雲に振り回している様に見えるハリオンの攻撃であったが、そのどれもが鋭く、重く、そして巧妙であった。
 機先を取られて防戦に回っていたエスペリアであったが、全てを防ぐのに精一杯で攻撃に転じる機会を図りかねてしまっていた。
「あ、でも〜、もし怪我しちゃいましたら私が治しますから大丈夫ですよ〜」
 その言葉に、エスペリアの中で何かが、カチン、とキた。
「貴女には負けません。全力でいきます!!」
 全力でシールドを展開し、エスペリアはハリオンを弾き飛ばした。
「やぁん!!」
 間延びした悲鳴を上げたものの、ハリオンは空中で器用に体を捻り、体勢を立て直して綺麗に着地した。
 弾き飛ばされる瞬間に発生させた自分のシールドで相殺し、受けるダメージを完全に無効化していたのであった。
「やぁっ!!」
「え〜いっ!!」
 二人の一撃が衝突し、続いて嵐の様な応酬が繰り広げられた。
 刃、柄、石突。指、手甲、肘、腕、脚、踵、脚甲、爪先。
 槍だけではない。彼女たちは自身の全てを武器として戦い、ぶつかり合った。

162 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 11:52:41 ID:/ar0+7gU0
二章:その手で守るものは…(6)

「へぇ〜、エスペリアたち凄く気合い入ってるなぁ…」
 よもや原因が自分だとは夢にも思っていない悠人は、そんなふたりの遣り取りを眺めながら呑気な台詞を吐いていた。
 エスペリアが相当の使い手である事は悠人自身が身を以て知っていたが、まさかのハリオンのあの強さに悠人は驚いてしまった。
「ハリオンって守ったり回復してるイメージがあったけど、本当はあんなに強かったんだな」
「アレ?ユート様知らないの?ハリオンの『大樹』は六位だからヒミカやファーレーンと一緒で、ラキオスのスピリットの中じゃ一番位が高いんだよ?」
「そうなのか?でも、いくら神剣の位が高いって言ってもあの強さは本人のものだと思うけどな。
実際、俺の『求め』は四位だけどあんな戦いなんてまだ無理だし。―っ痛っ!?」
「あ…、痛かった?ごめんなさい、ユート様…」
 悠人の声に手当をしていたシアーが申し訳なさそうな表情を浮かべたが、悠人は首を振って苦笑で済ませた。
「消毒が少し染みただけだから、気にせず続けてくれ…」
「うん、ちょっと我慢してね?ユート様」
 そうは言ったものの、その後は特に痛みを感じる事も無くシアーは手際良く悠人の手当を済ませた。その見事と言っても良い手際に、悠人は素直に感心してしまう。
「へぇ、上手いモンだな。シアーってこう言うのが得意だったんだな」
「得意ってわけじゃないけど、一応一通りの手当は出来るの」
 悠人に褒められて嬉しいのか、謙遜しながらもシアーははにかんだ笑みでそう答えた。
「ネリーも出来るよ?ユート様。包帯でグルグル巻くと楽しいよね〜?」
「ネリーの手当が大体判った様な気がするな…」
「アレ?何か期待してた反応と違う?」
 そんなネリーに苦笑しつつ、悠人は手を開閉して手当の具合を確かめていた。

163 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 11:54:41 ID:/ar0+7gU0
二章:その手で守るものは…(7)

「けど、肉刺が出来るのってちょっと懐かしいかも。ネリーたちも訓練し始めた頃はいっぱい作ってたよ?」
「シアーも出来てたよ」
 悠人の仕草を見た二人が懐かしそうにそう言った。
「今はもう堅くなって平気なんだけどね。触ってみる?ユート様」
 手甲を外し、ネリーは手の平を悠人に差し出した。その手には、悠人の肉刺と同じ場所にすっかり堅くなった胼胝が出来ていた。
「あぁ、堅いな…」
 ネリーの手を悠人は包み込む様にして触った。
 部活やバイトではない、長年の訓練に因って出来た胼胝の堅さに悠人は驚き、そして遣る瀬無い気持ちになった。
 剣を握らされ、血に染められてきたスピリットたちの手。
 生きてきた世界が違うとは言え、この世界の常識は未だ悠人には受け入れられそうになかった。
「えっと、ユート様?」
 悠人の雰囲気の変化を感じ取ったのか、ネリーが視線を泳がせながらシアーを見た。
 だが、シアーも何が原因なのか、どうすれば良いのか分からずに不安気な視線を返す事しか出来ない。
 居た堪れなさに耐え切れず、ネリーは茶化す様に口を開いた。
「もしかしてユート様は堅い手って嫌い?」
 ネリーの問いに、悠人は頚を振って否定した。
「嫌いじゃないさ。それだけネリーが頑張ってきたって事だからな…。シアーも、他の皆もきっといっぱい頑張ってきたんだと思う…」
 戦争の道具として運命られたかの様に神剣を手にして生まれてくるスピリットたち。
 人間たちによって血に塗れた道を歩かせられている彼女たちだが、悠人は彼女たちを不幸な存在だとは思いたくなかった。
 思った瞬間、悠人自身が彼女たちを不幸にしてしまうと思ったのだ。同情でも憐れみでも良い。
 だが、不幸な存在と決め付けて彼女たちに接したくはない。
 笑って欲しい、幸せになって欲しい。
 誰よりもそれ願うが故に、悠人は尚更に彼女たちの存在を受け入れたかった。

164 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 11:56:31 ID:/ar0+7gU0
二章:その手で守るものは…(8)

「だからさ、俺は皆の手がどんなに堅くっても全然気にしないから。その手で皆は大切なものを守ってきたんだろ?
そりゃあ取り零したり落っことしてきたものだってあるかもしれないけど、少なくとも皆はこうして俺に会ってくれた。生き伸びててくれたんだ。
俺だって皆が助けてくれたからこの世界で生きてこられた。立派な手なんだ。それに比べたら俺の手なんてまだまだだよ」
 自分を叱咤する様に、悠人は手当てされた自分の手を眺めた。
「違うよ、ユート様!ユート様の手はね、いっぱい、い〜っぱいネリーたちに元気をくれてるよ!」
 握られていた手を握り返し、ネリーは悠人に詰め寄った。
「ユート様の手はね、どんなに美味しいお菓子やマナよりもネリーたちを元気にしてくれるんだよ?
どんなに訓練が辛くても、戦場で死にそうでも、ユート様がネリーたちに手を差し伸べてくれるから頑張れるんだよ?
だから、ユート様はまだまだなんかじゃないよ。ユート様はね、ちゃんとネリーたちを守ってくれてるの」
 そう言うとネリーは悠人の手を自分の胸元に押し当てた。
 そうして心に触れさせるかの様に、守らせるかの様に。そして信頼の証を示すかの様に。
 悠人は、ささやかだがそれでもちゃんと女の子を感じさせる柔らかさにドキリとさせられてしまっていた。
 しかしその一方で、同時に伝わってくるネリーの体温や心臓の鼓動に不思議と穏やかな気分にもなっていた。
「シアーもね、ユート様の手は大好きだよ。大きくて、温かくて、優しくて…。こうしてるだけでシアーの中に幸せが広がっていくんだよ?
だから、もっといっぱい撫でて欲しいな、ユート様…」
 空いていたもう一方の悠人の手を取って、シアーは自分の頭に載せてそう呟いた。
 ふわふわした髪に感触を楽しむ様に悠人が頭を撫でると、シアーも目を細めて頭を摺り寄せてきた。
「あ〜、ネリーも、ネリーも〜」
「分かった分かった、俺で良かったら幾らでも撫でてやるからな?」
 せがんで来たネリーに苦笑しながら、悠人はネリーの頭を撫で始めた。
「二人とも、サンキュ…」
「えへへ〜♪」
「〜♪」
 悠人は微笑み、二人の頭を暫くの間撫で続けていた。

165 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 11:58:02 ID:/ar0+7gU0
二章:その手で守るものは…(9)

 もし、ハイ・ペリアの世界の人々が悠人の様な人間ばかりならば、本当にハイ・ペリアは理想郷なのかもしれない。
 そんな想いを抱かずにはいられない出来事だった。
 戦う事でしか存在を認められないスピリットたちを在りの儘に受け入れようとしてくれる悠人。
 ネリーの言う通り、悠人の存在はスピリットたる自分たちにとって確かに救いであった。
 自分はもう素直な態度は取れないけれど、代わりにあの子たちが悠人を助けてくれるだろう。その時は出来る限り応援してあげたい。
 何故か胸が少し痛かったが、セリアはそれに気付かない事にした。
 でも、この思い出と一緒にいつまでも大切に覚えていよう。
 いつかマナに還るその日まで、自分たちスピリットに愛情を注いでくれた心優しき勇者がいた事を。
 訓練場の隅で、後から来たニムントールに回復魔法を掛けられていた二人の緑は記憶の片隅に置いといて…。

166 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 12:12:31 ID:/ar0+7gU0
こうやってふ双子の愛情値を上げていくんですね?
よく解ります

次で風呂SSは終了です
そろそろ書き溜めも少なくなってまいりました…
三章からは投下速度がかなり落ちると思います

それにしても、ハリオンとエスペリアの遣り取りは面白いですね
ニヤニヤしながら書いてた記憶があります
同時に誤字脱字テンコ盛りで知人にズバズバ指摘されました…orz

それではまた後程…

167 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/29(日) 16:15:52 ID:DZD7Gp1I0
>>155
技術指南できるほどの腕前を自覚するなら
SS投下してくれ

168 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/29(日) 16:37:25 ID:Mb+zSnjf0
>>166
乙だが急に仕事が入ったので夜帰ってきてから読むよ…(涙

>>167
技術に干渉したら腕前を発表しなきゃいけないなど、そういう義務の押し付けめいた
言い方が横行すると、この手のスレは過疎るような気がしてならない。
というか腕前のない奴がこういう感想を述べたらいかんのか。
そんで技術論は聞いたら全て導入活用せにゃならんのか。
要は読み手に留まるくせに他人にお説をぶつけるなと言いたいんだろうが、
極端な、しかも穿った言い方しか出来ないような人の話は聞けないし、
人に作品をねだるにももうちょっとマシな言い方をしてくださいよ。

169 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/29(日) 18:57:33 ID:+oAJNK6I0
     _
    '´ ヘ ヘヾ
   ノ〈从ハ从〉
   从ヲ´ヮ`ノヲ
   ノ⊂》|Tリつ
  て(く/|_ノゝ
     し'ノ

仕事疲れたよ・・・ハリオンに癒されてぇ・・・

170 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 20:42:46 ID:/ar0+7gU0
ハリオンは出てきませんが、SS(1〜5)を投下致します

171 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/29(日) 20:43:10 ID:SYF3yHUT0
ハリオンのこの上ない良いタイミングのカットインに感動。


ところで一番の癒しはニムたんだと思うんだがどう思う?

172 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 20:44:07 ID:/ar0+7gU0
二章:姉と妹たち(1)

「セリア、さっきから何してるの?」
「背中が洗い難いなら、シアーたちが手伝うよ?」
「きゃあっ!?」
 背中から声を掛けられ、セリアは思わず声を上げた。
「わわっ!?」
「びっくりした〜」
 声に驚いた二人は目を丸くしてセリアを眺めていたが、二人のそんな態度にセリアも咳払いで仕切りなおし、改めて二人に向き合った。
「急に声を上げたりして御免なさい。ちょっと考え事をしていたものだから…」
 何でも無い、と言う様にセリアは流した。
 悠人に裸を見られたのが気になり自分の体をチェックしていた、なんて事はセリアからしてみれば全然無い。
 が、それでも一応誤解を受けない様に振舞うのも先輩スピリットとしての義務なのである。そうセリアは自分に言い聞かせた。
「?まぁ、良いや。ところで、セリア。ネリーたち、ちょっと訊きたい事があるんだけど良い?」
「シアーたちで考えてみたけど、やっぱり良く解らなかったの…」
「何?私に答えられる事なら良いんだけど…」
 知らない事、分からない事は年長のスピリットに質問する。
 基本的に戦闘知識しか教育を受けないスピリットたちは、そうやって他の知識を得るのが慣習になっていた。
 何かと二人の目付け役に回る事が多いセリアは同時に色々な事を教える機会も多く、今では相談役にもなっていた。
 今度は一体何を訊かれるのやら。濡れた髪を掻き上げてセリアが待っていると、ネリーが早速質問を投げかけてきたのだった。

173 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 20:47:05 ID:/ar0+7gU0
二章:姉と妹たち(2)

「んとね、セリアはユート様に裸を見られて恥ずかしかった?」
「当たり前でしょうっ!!」
 ネリーの質問にセリアは間髪容れずに叫び返した。
 先の光景がフラッシュ・バックし、沈静化していた羞恥心が再燃したセリアは耳まで真っ赤になっていた。
 しかし、そんなセリアの様子を見てもネリーとシアーは不思議そうに首を傾げるばかり。
 そんな二人の様子を見てセリアは一人得心して思わず目を覆うのだった。
「えっとね、ユート様がネリーたちに恥じらいを持った方が良いって言ってたんだけど…」
「シアーたち、恥じらいが無いのかなぁ?セリア…」
「え〜っと、一応二人ともユート様の前ではちゃんと体を隠していたのね?」
 セリアの問いに、二人はしっかりと頷いた。そんな二人の反応に、セリアは安堵の溜息を吐いた。
「ユート様がちゃんと隠さなきゃいけないって言ってたからちゃんと隠したよ」
「あと、くっ付いちゃ駄目って言われたからその通りにもにしたよ」
「判ったわ…。要するに言われる迄そうしてたのね、貴女たち…」
 セリアは頭を抱えたくなった。
 無防備どころではない。悠人が紳士で良かったと心から思った。
 尤も、風呂場で遭遇する紳士と言うのも相当アレであるが…。
「ねぇ、セリア。セリアは何でユート様に裸を見られて恥ずかしかったの?」
「そ、それはユート様は男の人だもの。恥ずかしくもなるわ」
「でも、シアーたちは恥ずかしくなかったよ?やっぱり、シアーたちって恥じらいが無いのかなぁ?」
「ねぇ、セリア。恥じらいってどうやって持つの?教えて」
「こう言うものは持とうと思って持てるものじゃないし、気が付いたら備ってるものだから教わってどうこうできるものじゃないのよ」
「そうなんだ?」
「じゃあ、シアーたちはどうすれば良いなのかな…?」
 悠人に持てと言われた羞恥心を直ぐに持てない為か、二人は不安そうな顔でセリアを見上げてきた。
 そこにいるのはいつものお転婆な二人ではなく、慕う姉に縋ってきた悩める可愛い妹たちであった。

174 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 20:48:46 ID:/ar0+7gU0
二章:姉と妹たち(3)

 確かに、最近の二人は可愛くなった。それは容姿に限らず、こう言う弱さが見え隠れするところもであろう。
 だが、その弱さをセリアは否定する気にはならなかった。
 誰かと接して成長していく上で、その弱さは価値があるとセリアは信じていたし、何よりその弱さは同時に素敵な可能性の種でもあるのだ。
 ならば、自分は種が芽吹く様に応援したいと思う。
 セリアは額に手を添え、良い助言を探して思案を始めた。
「そうね…。貴女たちが解りたいと思うなら、ユート様と私たちの違いを比べてみたらどうかしら?」
 セリアの言葉にネリーとシアーは驚いた顔をした。
「あのね、セリア。ユート様も、ユート様とネリーたちは違うって言ってたの。
 あ、違うって言っても人間とかスピリットだとかって言う意味じゃなくて、ユート様は男の人で、ネリーたちが女の子って意味だよ?」
「解ってるわ。あの人が人間だとかスピリットだとかに拘る様な人じゃないのは皆知ってるもの。
それで、ユート様はその違いについて何て言っていたの?」
「え〜っと、その違いが無くなると、シアーたちがユート様と一緒にお風呂に入ってもそれは他の皆とお風呂に入るのと変わらないって」
 シアーの説明を聞いて、セリアは悠人にしては何気に含蓄のある事を言ったものだと感心した。
 その一方で、多分本人も解っていないだろうと言う予想もしていた。
 解っているのなら、もっと解り易く二人に説明していた筈である。
「成程ね…。ユート様が仰っていた意味だけど、これは実感しないと理解できそうにないから多分私が言葉で教えても意味が無いと思うわ。
でも、言葉で捉えるよりも貴女たちは想像して理解した方が良く解ると思うわ」
 言っては何だが、二人は深謀遠慮と言った思考は不向きであった。戦闘での咄嗟の機転は良いのだが、大局を見据えた様な立ち回り等は完全に無理である。
 ましてや男女の機微など理解するには経験と知識が絶対的に少な過ぎていた。
 尤も、男女の遣り取りなどセリア自身も殆ど無いのであるが。

175 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 20:49:54 ID:/ar0+7gU0
二章:姉と妹たち(4)

「それじゃあ、先ずは簡単なところからいきましょうか。二人は別に私や他の皆と一緒にお風呂に入っても何とも思わないでしょ?
まぁ、皆で入れば賑やかになるかもしれないけど、そんなところね」
 セリアの言葉にネリーとシアーが頷き、セリアはそれを確認した。
「じゃあ、今度は貴女たちがユート様と一緒にお風呂に入ったとするわ。
勿論、お互いに体は隠してるし、抱き付いたりしないわ。良いかしら?」
「セリア、ユート様と同じ事言ってる」
「何で?」
「私もユート様も恥じらいを持っているからよ。それが知りたいのなら私の話を聞いて頂戴」
「うん、分かった」
「頑張る」
 気を取り直し、セリアの説明が更に続く。
「話を戻すわね。それで、二人にとってユート様と一緒にお風呂に入るのは私たちとお風呂に入るのと同じかしら?」
「え〜っと…」
「う〜ん…」
「考えなくて良いから、想像してみて」
 セリアの言葉に従い、二人は懸命に想像力を膨らませた。
 先程悠人との入浴を思い出しながら、そこに生じる差異を感じ取ろうとしていた。
「ユート様はどんな感じだったの?仕草や体付きとか、本当に皆と同じだったの?
それに、貴女たちを見たユート様はいつもと全然違ってたでしょ?」
 流石に言っているセリア自身も恥ずかしくなってきたが、二人の頬が少し紅潮している辺りその甲斐はあった様である。
 湯に浸かっていない二人の紅潮は、決して湯中りの所為では無いだろう。

176 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 20:51:48 ID:/ar0+7gU0
二章:姉と妹たち(5)

「それに、多分ユート様も貴女たちを見て意識してたかもしれないわね。二人とも、ユート様に女の子って意識されるのはどんな気分かしら?」
 その言葉で、二人の顔にさぁっと朱が差した。
「わ、わ、わ?ネリー、すっごいドキドキしてきたかも…」
「シ、シアーは、ちょっとクラクラしてきたの…」
 胸に手を当て、高鳴る自分たちの鼓動に戸惑い始めた二人を見て、セリアは漸く一息吐いた。
(いきなり男と女の関係に発展されても困るけど、ユート様なら多分大丈夫よね?)
 悠人に性格からして、相手の無知に付け込んだり無理矢理迫ったりする事は無いだろう。
 まぁ、逆に二人から強引に迫られたら流されてしまいそうな可能性が無きにしも在らずではあるが。
 しかし、今は二人が悠人を意識してくれれば御の字であろう。必要な知識は二人の成長に合わせて教えれば良い。
 折角スピリットは往々にして耳年増であったりするのだから。
(とは言っても、私も経験が豊富ってわけでもないのだけど…)
 目の前で赤くなる二人を、セリアは少し眩しげに眺めるのであった。

177 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 21:13:48 ID:/ar0+7gU0
以上で風呂SSは終わりです
夢と妄想を有難う…
グッバイ・イースペリア…

時系列的に漸くニムントールとファーレーンが登場可能になりました
まぁ、二人とも積極的に関わってくる性格では無いので接点を作るのが難しいです
こっそりと誰かのフォローをするのがオイラの中での二人の立ち位置なのかもしれません

さて置き、次の投下を如何すべきか…?

今から準備したら少し時間が掛かりそうです(日付が変わる前には終わりますが)…
それでも読みたい人はお気に入りのキャラを述べて挙手っ!!

178 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/29(日) 21:30:19 ID:NuIBUxDpO
ニムントールちゃんはね

ニムちゃんって呼ばれたいんだホントはね。

だけどちっちゃいから
俺のことに素直になれないんだよ

カワイイね ニムントールちゃn(エレブラ!


179 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/29(日) 22:37:48 ID:+oAJNK6I0
ハリオン・ニム・エスペリアとグリーンスピリットは逸材ぞろいですな。
小説は楽しみに待ってるぜ。


180 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 22:46:03 ID:/ar0+7gU0
本当に私たちの出番が無いわね、ニム…

     _ ,へ 
    ,´ /:::: |ヽ  , ⌒⌒ヽ
   ∠ <=====ゝ (((゙^)) ) i  ニムはちょこっと出番があったよ?
   んヘ!」 ‐ノ」| L!、ー゚| i)イ> お姉ちゃんは『名前すら』出てきてないケド…
     <(つ/ ̄ ̄ ̄//i l i/ ヽ
 ̄ ̄ ̄ヽ/SpiNet/ ̄ ̄(l[_ソ ̄ ̄ ̄

ファ「………」
ニム「お姉ちゃん、仮面被ってて蒸れない?」
ファ「どうしてそんな事訊くの?ニム」
ニム「いや、何でもないから気にしないで…」

と言うワケでSS投下です
1〜9ありますが、出来れば支援をお願いします

181 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 22:47:43 ID:/ar0+7gU0
二章:三人でデート(1)

 ルカモの月、黒一つの日。
 ラースから攻め上がったラキオス軍は怒涛の勢いでサルドバルド領内に進行し、アキラィス、パードバルドと瞬く間に次々に拠点を制圧。
 遂には首都のサルドバルドを陥落せしめるに至った。
 同盟国への裏切りの代償を、サルドバルド王国は滅亡と言う形で贖う事となったのだ。
 ラキオス王は北方五国の統一に酔い痴れ、国民の多くも戦勝の喜びに沸き返っていた。
 その後、首都のラキオスでは盛大な凱旋式が執り行われていたが、悠人たちスピリット隊はスピリット施設での待機が命じられていた。
 所詮はスピリット。
 彼女たちが戦争で戦う事が当たり前と考えている人間たちにとって、称えられるべきは命令を下した人間でありスピリットはその為の道具でしかないのだ。
「わ〜、見てみてユート様!!何か凄いよ!?」
「ち、ちょっと待てって、ネリー!!こんな所で飛んだら目立つから!!」
「ユート様〜っ、ネリーっ!!何処なのぉ…。グスっ…」
「あぁ、シアー、こっちだぞー!!って、ネリー、戻って来〜いっ!!」
 そんな中、待機中の三人は何故か凱旋式の人混みの中にいたのであった。

182 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 22:49:47 ID:/ar0+7gU0
二章:三人でデート(2)

「やっと、佳織が戻ってくる…!!」
 自室の窓から城を眺め、気持ちを抑えきれずに悠人は呟いた。先日のサルドバルド制圧の功績が認められ、悠人は晴れて佳織と一緒に暮らす事が許されたのであった。
(でも、レスティーナが口添えしてくれるなんてな…)
 佳織の解放。その申し出を提案したのは何とレスティーナであった。
 当然、最初は難色を示していたラキオス王であったが、提案者であるレスティーナ本人がその巧みな弁舌で以ってこれを説得したのだった。
 勿論、悠人に対して釘を刺す発言もあったのだが、今思えばそれは悠人に制約を課すと言うよりもラキオス王を納得させる為のものであったかもしれない。
 レスティーナの意図する所までは悠人には解らない。だが、佳織が返ってくる。それが純粋に嬉しかった。
 一応、待機を命じられているものの実際今日はスピリット隊の休日となっていた。
 中には凱旋式に出席する要人の護衛を命じられて任務に就いている者もいたが、技術も知識も乏しい悠人にその任が回ってくる事は無い。
 よって、朝食と終えた悠人は暇を持て余す事になっていたのだった。
「ユート様、居る〜?ネリーだよ〜」
「シアーも来たよ〜」
 ノックの音に続いて、そんな二人の声が聞こえてきた。悠人はベッドに腰掛けると二人を部屋に招きいれた。
「開いてるよ」
「うん、じゃあ入るね」
「お邪魔しま〜す」
 弾んだ声を出して扉を開け、ネリーとシアーは悠人の前にやってきた。
「どうしたんだ?二人とも何か嬉しそうだけど」
 二人の様子を見た悠人がそう言うと、それを待っていたとばかりに二人は大きく破顔して悠人の隣に腰掛けた。

183 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 22:52:06 ID:/ar0+7gU0
二章:三人でデート(3)

「えへへ〜。ユート様は今日はお休みなんだよね?」
「シアーたちも今日はお休みなんだよ〜」
 そのまま悠人の腕を両手で抱いて、二人は期待に満ちた目で見上げてきた。
「この前、ネリーたちユート様と一緒にお出かけするって約束したもんね〜」
「だから…。ね?ユート様」
 二人の言葉に、悠人は以前の約束を思い出した。確かに、果たすなら丁度良い機会かもしれない。
「今度の休みの日に一緒に街に遊びに行こうって約束だっけ?」
「そうそう、それっ!!」
「わくわく…」
 悠人は二人から離れてベッドから立ち上がり、学生服の上にいつもの外套を羽織ると二人に向き合って張り切った表情を見せた。
「よし、じゃあ遊びに行くか。今日はお祭りだから一杯楽しもうな」
「やったぁ〜♪」
「わぁい♪」
「ととっ!?えっと、二人とも…。これじゃ、遊びに行けないんだけど…?」
 抱き付いてきた二人を受け止め、悠人は苦笑しながら二人の頭を撫でた。
「えへへ〜♪」
「〜♪」
 今日は楽しい事が確定。
 そんな零れんばかり二人の笑顔であった。

184 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 22:54:18 ID:/ar0+7gU0
二章:三人でデート(4)

「あらあら〜、いらっしゃいませ〜。あら?」
 来客を告げるカウ・ベルの音に呼ばれて現れたエプロン姿のハリオンは珍しく驚いた表情を浮かべていた。
 常連の客と一緒に訪れた客は彼女の良く知る人物であったが、ここで会うのは初めてであったのだ。
「やっほ〜、ハリオン」
「また来たよ〜」
「あらあら〜、今日はお二人ともご機嫌ですね〜」
 常連である二人に挨拶を済ますと、ハリオンはその後ろに立っている客に向けてにっこりと微笑んだ。
「ユート様も、ようこそいらっしゃいましたね〜。お姉さんは嬉しいですよ〜」
「いや、俺なんかが来て迷惑じゃないか?こう言うお菓子屋とかあんまり入った事無いから、いまいち勝手が分からないんだけど…」
 以前に来た店であるとは言え、悠人には矢張り緊張が隠せないでいた。
 お菓子屋等の女の子や子供が多く出入りする店に悠人は殆ど免疫が出来ていなかった。
「いえいえ〜。ユート様も可愛いですし、私は全然気にしませんよ〜?」
 果てしなく解釈に困る返事をされ、悠人は笑うしかなかった。
 どうせ今日は二人付き合うのだ。ならば、とことん付き合うまで。悠人は腹を括って楽しむ事にした。
「ところで〜、ユート様〜?」
「何だ?ハリオン」
「今日は三人でデートですか〜?」
「で、デート!?」
 ハリオンの発言に、ユートは思わず叫び返していた。
 当然、そんな言葉に反応した悠人に興味を覚えた二人は素直に質問を始めてしまうのだった。
「ユート様、『でーと』って何?」
「教えて欲しいな…」
「えぇっ!?ハリオンじゃなくて俺に訊くのか?」
 (悠人にとって)まさかの二人の質問に、悠人は思わずたじろいだ。
 悠人はハリオンに視線を向けるも、本人は「あらあら、頑張って下さいね〜。ユート様〜」と胸の前で指を組んでニコニコと佇んでいた。
 どうやら完全に悠人に任せるつもりであるらしい。

185 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 22:56:10 ID:/ar0+7gU0
二章:三人でデート(5)

 確かに、悠人とネリーとシアーの今の状態をデートと呼べばデートと呼べなくも無いであろう。
 と言うか、デート以外の何物でも無い。
 しかし、改めてデートと認識してしまうと悠人としては気恥ずかしいモノがあるのである。
 如何に伝説と謳われようと、悠人の中身は年頃の少年なのであった。
「そ、そうだな…。仲の良い人や仲良くなりたい人と一緒にご飯を食べたり遊んだりする事かな?」
 当たり障りの無い、無難な、悪く言えばヘタレなその答えであったが、ネリーとシアーは悠人の答えに大きく満足した様であった。
「へえ〜。じゃあ、ネリーたちはユート様とでーとしてるんだね」
「でーと…。どきどき…」
「いや、まぁ…。そうだな…」
 面と向かってそう言われると恥ずかしい悠人であったが、それでも悪い気がしないのは目の前で頬を両手で覆いながら表情を綻ばせて喜んでいる二人のお陰であろう。
 何だかんだで二人はとびきりの美少女であるし、そんな二人の素直な幸せそうな仕草を悠人はやはり可愛いと思ってしまったのだった。
 と、店の奥から香ばしい匂いが漂い始め、続いて店内に向かって足音が近付いてきた。
「ハリオン、今お菓子が焼き上がったんだけど、並べるのを手伝ってくれな―。え…?」
 聞こえてきたその声に悠人は驚いた。
 尤も、驚いたのは向こうも同じらしく、悠人の姿を見るや菓子を乗せたトレイを持ったままその場に立ち尽くしてしまっていた。
「ゆ、ユート様…?」
「ひ、ヒミカ?」
 確認し合う様に、二人は互いを呼び合っていた。

186 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 22:57:49 ID:/ar0+7gU0
二章:三人でデート(6)

「え?ちょっと、嘘?何でユート様がここに?」
「いや、今日はネリーとシアーと遊ぶ約束で…。って、何でヒミカがここで働いているんだ?」
「えっと、ハリオンがここで修行させて貰い始めて、そうしたら私も一緒に誘われてまして…」
 悠人に質問にヒミカは俯きながら答えた。いつものハキハキとした彼女らしくない、どこか歯切れの悪い話し方である。
「に、似合いませんよね?こんな格好…」
 ヒミカはトレイを台に置くと恥じる様に両肩を抱いた。
 しかし、ヒミカのエプロン姿は意外にでもなく普通に似合っており、如何にも菓子屋の娘と言った具合であった。
 普段が優秀な戦士であるヒミカだが、こう言った女の子らしい格好をすると物凄く似合う。
 それがヒミカであった。
 だからであろう、悠人は思った感想をそのまま口に出していた。
「いや、似合ってると思うぞ?やっぱりアレだな、女が家事しろなんて思わないけど、そう言う女の子らしい格好してるヒミカは可愛いんじゃないか?」
「はいっ!?」
 悠人の素直な感想に、ヒミカは信じられないと言った表情で悠人を見た。
「あ、アレ?俺って、何か変な事言ったのか?」
 そんなヒミカの反応に思わず悠人は焦った。鈍感だのデリカシーが無いだのと幼馴染みの言葉がやけに耳に甦ってしまう。
 しかし、ハリオンは「違いますよ〜」と、悠人に微笑んできた。
「うふふ〜。ユート様〜、ヒミカは自分の事を女の子っぽくないって思っているので〜、照れちゃってるんですね〜」
「ちょっ、ちょっとハリオン!?」
 思わず声を上げたヒミカだが、悠人の視線に気付くと更に赤くなって俯いた。

187 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 22:58:53 ID:/ar0+7gU0
二章:三人でデート(7)

「いえ、その…。やっぱり、私なんかがこんな格好してもやっぱり中身まで変わるわけじゃないですし…。
何より、自分がどんなのかは自分が良く知ってますから…」
 自虐的な笑みを浮かべ、ヒミカは更に言葉を続けた。
 普段は快活な彼女であったが、どうやら負の感情に取り憑かれると際限無しに沈んでいく性格なのかもしれない。
「性格だって、こんなですし…。体付きだってハリオンみたいでもなければ、他の子みたいにちっちゃくて可愛いわけでもないですし…」
「そうなのか?」
 悠人は首を傾げながらヒミカを見ていた。
 そのあまりにも自然な、どうして?と言う様な純粋な疑問を含んだ悠人の視線に、今度はヒミカが理解出来なかった。
「え…?ですから、私がどんな格好しても女らしくならないって事ですけど…」
「?」
 ヒミカが説明するものの、悠人は依然として、否、更に難しい表情を浮かべるばかりであった。
「いや、ヒミカって普通に女の子っぽいと思うぞ?」
「そ、そんな事ありませんっ!!」
 全力で否定してくるヒミカに、悠人は簡単な問題に梃子摺る優等生でも見るかの様な、不可解なものを見る目でヒミカを見た。
 何故、此処まで頑ななのだろうか。
 悠人にはわけが分からなかった。
「ところで、コレってヒミカが作ったお菓子なのか?」
 解らない事を考えても仕様が無いと諦めたのか、悠人はヒミカの持ってきた焼き菓子を指差した。
「えぇ、まぁ、そうですけど…」
「じゃあ、一個貰うな?ハリオン、代金はコレで足りるかな?」
 焼き菓子を一つ取り、悠人はポケットからルシル硬貨を一枚取り出してハリオンに手渡した。
「はい〜。でも、これならあと二つ買えちゃいますね〜」
「そうか?じゃあネリーとシアーに頼むな」
「分かりました〜。では二人とも〜、ヒミカの焼きたてのお菓子ですよ〜」
 焼き菓子を二つ手に取ると、ハリオンは悠人の後ろの二人に運んでいった。

188 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 23:00:23 ID:/ar0+7gU0
二章:三人でデート(8)

「あ、ありがと…」
「し、シアーも有難うなの…」
 二人に菓子が行き渡るのを確認すると、悠人は早速ヒミカの焼き菓子を囓ってみた。
「うわ、これは美味いな…」
 陳腐な感想だが、悠人にはこれ以上の褒め言葉を思い付けなかった。
 少し堅めの焼き菓子だが、歯応えが実に楽しい。
 甘味は蜜であろうか。噛む程に控えめな甘さが広がっていき、芳香が鼻腔から上品に抜けていく。
 菓子には疎い悠人でも、このヒミカの焼き菓子が相当なものである事が理解出来る程の逸品であった。
「ヒミカはとっても火の加減が上手で〜、良く釜の番も任されるんですよ〜」
 ハリオンのその言葉に、悠人は得心の表情を浮かべた。これ程上手に焼き上げるのならば確かに文句は無いだろう。
「そ、そんな。私なんてそれくらいしか出来ませんし…。それに生地作りや味付けなんかまだまだで…」
「それでもこの焼き具合は凄いと思うけどな?それに、釜の番なんて余っ程信用されてなきゃ任されない事なんだろ?
それだけ凄いんだよ、ヒミカは」
 ヒミカの頬に朱が差した。
 ここまで面と向かって褒められては何と返せば良いのか見当も付かなかった。
「ヒミカって料理も上手なんだな。結構気が利くとこもあるし、謙虚さはあるけど芯はしっかりしてるし。
女の子らしいって言うよりは、普通にお嫁に行けそうだよな」
「お、お嫁さん!?」
「あらあら、良かったですね〜ヒミカ」
 ヒミカに対する悠人の評価を聞いて、ハリオンは自分の事の様に喜んだ。
 彼女がいくらヒミカを褒めても何故か恨めしそうな視線を返されてしまうのがいつもの事であった。
 しかし、脳と口の神経が直結している悠人の言葉ならヒミカも受け取らざるを得ないのだろう。

189 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 23:01:55 ID:/ar0+7gU0
二章:三人でデート(9)

「で、でも。家事なんてやれば誰でも出来る様になりますし…。いくら女らしく振舞っても、私は女らしくなれないんです…」
 長年の悩みとはそう簡単に払拭させてはくれなさそうである。
 だが、そんなヒミカの気も知らず、幼馴染みからの散々な評価が不当な評価ではなかったのが悠人なのであった。
「でも、俺は女の子らしくなりたいって思っている女の子以上に女の子らしい女の子はいないと思うけどな?
その点から言えば、ヒミカが一番女の子らしいんじゃないかな?」
 その言葉にヒミカが、そして悠人には見えないが背後の二人が大きく反応した。
「ヒミカ〜。ユート様はちゃんとヒミカの事を可愛い女の子って思ってくれてますよ〜」
「ハリオン、その、そう言う言い方されると俺が恥ずかしいんだけど…」
 ハリオンの言葉に悠人は頬を掻いた。軽薄だと思われたくないと言うのもあるが、悠人自身、異性を意識するのも、それを悟られるのも抵抗があった。
 親友の生臭坊主を思い出し、よくもまぁこんな事を堂々と主張していたものだと悠人は感心半分呆れ半分になる。
「え?そんな、ユート様が?だって、私は…」
 何やらブツブツと呟いていたヒミカであったが、悠人と目が合うや一気に耳まで赤くなった。
「わ、私、次の仕込みがありますのでし、失礼しますっ!!ハリオン、そのお菓子並べといて!!」
 目を泳がせ、ヒミカは転がり込む様に厨房へと消えていった。普段は姉御肌のヒミカであったが、心は何処までも純情乙女なのであった。
「あらあら、ヒミカは恥ずかしがり屋さんですね〜」
 微笑むハリオンを見ながら、悠人は大きく肩で息を吐いた。
 そんな悠人たちの光景を眺めながら、
「う〜…」
「むぅ〜…」
 ネリーとシアーはヒミカの焼き菓子を囓っていたのだった。

190 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/29(日) 23:04:33 ID:+oAJNK6I0
     _
    '´ ヘ ヘヾ
   ノ〈从ハ从〉
   从ヲ´ヮ`ノヲ   <は〜べすと〜
   ノ⊂》|Tリつ
  て(く/|_ノゝ
     し'ノ
       

191 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 23:08:37 ID:/ar0+7gU0
選択肢です

→1.デートを継続する
 2.折角の休みなんだから遊べよ
 3.てか、これからでしょ?
 4.もっとだ、俺たちのデートはこんなもんじゃないぞ!!

さぁ、どれですか?

192 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/29(日) 23:12:52 ID:s1ehe6hz0
4!4!4!

193 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/06/29(日) 23:47:59 ID:/ar0+7gU0
街で出会ったのはこれで三回目だね!!
ユート君、これでヒロインは確定だよね!?

   , '  ⌒ヽ
  (@)ノノ)))リ)
   §(リ゚ ヮ゚ノ§ 〜♪
   ⊂!) 英i7つ
    くイ__ 〉
    (_/ヽ_)

と言うワケで、デートの後半(1〜8)を投下します
出来れば支援下さい、ディスプレイの向こうのエトランジェ…

194 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/29(日) 23:59:40 ID:Mb+zSnjf0
→1.デートを継続する
 2.折角の休みなんだから遊べよ
 3.てか、これからでしょ?
 4.もっとだ、俺たちのデートはこんなもんじゃないぞ!!

だが俺は修正パッチを当てて
→5.ナルカナの手を握る
でいく。

195 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/30(月) 00:04:16 ID:/ar0+7gU0
二章:両手に花(1)

「………」
「………」
「………」
 無言の重圧の中、悠人は途方に暮れていた。
「いや〜、やっぱりあの屋台のヨフアルは美味いな」
 悠人がそれと無く言ってみるが、
「うん、そうだね…」
「美味しいね、ユート様…」
 悠人の両脇の二人は何処か歯切れの悪い反応を返すばかりであった。そんな二人を眺め、悠人は内心で首を傾げる事しか出来ない。
(一体、二人ともどうしたんだ?)
 ハリオンたちと別れてからずっとこんな調子なのだが、悠人には皆目見当が付かなかった。
 何と無く二人の機嫌が良くない事は雰囲気で伝わってきたが、離れるどころか益々くっ付いてくる二人の行動に悠人の困惑は増すばかりである。
 それと無く二人の様子を伺ってみるものの、二人が一心不乱にヨフアルを囓っているばかりで何を考えているのか分からなかった。
 寧ろ、考えない様にしている様にも見えてくる。
 と、悠人はある事に気が付いた。
(ん?ネリーの口元にクリームが付いてるな…)
 無心で食べているネリーの口元にはヨフアルのトッピングのクリームが付いていた。
 態度は普段と違うが、そこにいつものネリーを見付けた気がして悠人は安堵した。
「ネリー、ちょっと動かないでくれるか?」
「え、何?ユート様?ひゃうっ!?」
 苦笑を浮かべ、悠人はネリーの口元に指を這わせた。そのままクリームを掬い、自然な動作で指を舐める。
 肌理の細かい、さっぱりとした甘さが舌の上で雪の様に解(ほど)けていく。成程、主役はあくまでヨフアルであると言う屋台の親父の拘りが伝わってくる逸品であった。
「ゆ、ゆ、ユート様…!?」
 魚の様に口はパクパクさせ、ネリーは顔を真っ赤にして悠人を見上げていた。
 そんなネリーの態度に悠人は今更に己が行為の意味に気が付き、顔を真っ赤にして狼狽えたのだった。

196 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/30(月) 00:06:43 ID:/ar0+7gU0
二章:両手に花(2)

「わ、悪い、ネリー。その、考えも無しにやっちゃったから…。えぇっと、嫌だったよな?ゴメン…」
「べ、別に良いよっ!?ね、ネリーはく、くくく、く〜るな女なんだから、そそそ、そんな事くらいじゃ全然気にしないんだからねっ!?
いつでも大丈夫なんだからっ!!」
 呂律が回っていない上に、意味不明なネリーであった。
「むぅ〜…」
 そんな二人を羨ましそうにシアーが眺めていた。口元をなぞってみても、行儀の良いシアーには取ってくれそうなモノは何も付いていない。
「あ…」
 だが、シアーは閃いた。悠人の口元。そこに釘付けになった。
 そう
「ユート様」
「ん、どうしたんだ?シアー」
 綺麗にして貰えないのなら
「動いちゃダメだよ?」
「え?し、シアー…?」
 れろ、ん…
「―っ!?」
「あーっ!?」
 綺麗にしてあげれば良いのだと。
「えへへ…。これで綺麗になったよ?ユート様」
 ヨフアルの欠片を舐め取り、シアーは得意そうに笑っていた。悠人の食べているヨフアルの味も共有出来るのだからこれ以上の役得は無いだろう。
 目の前の悠人の顔が更に真っ赤になった。そんな困った表情の悠人を見て、シアーは無意識に唇を湿らせた。
(い、今、口の中にっ!?)
 悠人のヨフアルの味が分かって当然のシアーは気付かなかったが、実は悠人もシアーのヨフアルの味が分かってしまっていた。
 つまり、
(え?俺、シアーとキスしちゃったのか!?)
 血が上り、思考が吹き飛びそうになる悠人だが、そんな動揺すら許さない程に事態は加速し始めていた。

197 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/30(月) 00:07:49 ID:/ar0+7gU0
二章:両手に花(3)

「あ〜っ!!シアー、ズ〜ル〜い〜っ!!」
「ず、ズルくないもん。それに、ネリーだってユート様に綺麗にして貰ってたもん」
「それならネリーが綺麗にしないとダメでしょっ!?何でシアーがやっちゃうの!?」
「し、シアーだってユート様に何かしてあげたいんだもん。お返しだとかそんなの関係無いもん。シアーがしたいからするんだもん!!」
 ネリーの抗議にシアーは真っ向から反論していた。普段の大人しい性格を考えればそれだけで驚くに十分である。
 悠人にはもうワケが解らなくなってきていた。
「えっと、二人とも。少し落ち着―」
「ユート様は黙ってて!!」
「これはシアーたちの問題なの!!」
「ハイ、スイマセン…」
 鎮静化を促そうと試みた悠人の言葉は、二人の一喝に敢え無く打ち砕かれた。
 両側から腕を取られている悠人としては当事者である気がしないでもないのだが、熱くなった二人には言葉では少し届き辛くなっているのかもしれない。
 悠人は小さく嘆息し、反目し合っている二人の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「あぅ…」
「はぅ…」
 少し頭が冷えたのか、二人の態度が落ち着いたものになる。そのまま二人の頭を撫で、悠人は宥める様な口調で話掛けた。
「まぁ、俺としては二人が仲良くしてくれると嬉しいんだけどな?」
「う〜…」
「でも〜…」
 困惑した表情でネリーとシアーが見上げてきた。その二人の視線に不満ではなく不安を感じ取ったのは悠人の誉れであろう。
 長年、佳織を不安にさせたくないと努めてきた悠人は他人の負の感情に対して覚える事が鋭くなっていたのかもしれない。

198 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/30(月) 00:09:53 ID:Kwb7mt4U0
二章:両手に花(4)

「大丈夫だって。何が不安なのかは分からないけど、俺が付いてるからな。って、言ったら不安かな?」
「ユート様…」
「…」
 ネリーとシアーの体から力が抜け、悠人はそのまま体を預けてきた二人の背中に腕を回した。
「えへへ〜♪」
「〜♪」
 悠人の腕を両手で胸に抱き、二人は悠人の腕の中に納まる様に互いに寄り添った。さっきまでとは違う、嬉しそうな笑顔に悠人は漸く安堵の表情を浮かべた。

「いや〜、見ててハラハラしちゃったよ。ユート君」
「れ、レムリア!?いつから居たんだ!?」
 弾かれる様に顔を上げると、そこには紙袋を抱えたレムリアが立っていた。
 袋の口から覗いているヨフアルから察するに、恐らく袋の中身はヨフアル。それも相当な量なのであろう。
 相変わらずのヨフアル中毒である。
「えっと、街でネリーちゃんとシアーちゃんと三人で腕を組んで歩いてる所からかな?
話掛けようとしたんだけど何か気拙そうな雰囲気だったし、でも私もヨフアル食べに来てたからそのまま来ちゃったんだけど…。
気を悪くしちゃったらゴメンね」
「あぁ、別に俺は構わないんだけど…」
 そう言いながらも、悠人の背中にはじっとりと汗が滲み出していた。
 先程と同じ、否、先程よりも更に重くなっていく空気を悠人は感じていた。発生源は悠人の腕の中であった。

199 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/30(月) 00:11:19 ID:Kwb7mt4U0
二章:両手に花(5)

「ユート様、この人は?」
「シアーたちの事、知ってるの?」
 悠人にしがみ付きながら二人は訝しむ様にレムリアを見上げた。
 しかし、そんな二人の態度に気を悪くするでも無く、レムリアは寧ろ喜色を浮かべて二人に話し掛けてきた。
「ふふっ、ネリーちゃんとシアーちゃんって割と有名なんだよ?双子のスピリットなんて凄く珍しいからね。
それと、私はレムリア。宜しくね、二人とも」
「う、うん…」
「よ、宜しく…」
 そんな二人の態度に悠人は違和感を覚えた。
「どうしたんだ?二人とも」
 人見知りをしてしまうシアーならまだしも、天衣無縫を絵に描いた様なネリーまでもが萎縮している事に悠人は驚いた。
(もしかして、レムリアを恐がってるのか?)
 一瞬、そんな考えが浮かんだが悠人は直ぐに思い直した。
 レムリアの人柄はよく知っているつもりであったし、何より彼女はスピリットに対して偏見を持たない数少ない人間であった。
 好かれこそすれ、嫌われる理由が無い。悠人自身、レムリアに対する心証は頗る良いとも言えるのだ。
 しかし、レムリアは何故か場都(ばつ)の悪そうな表情で笑っていた。
 一体何の負い目を感じてるのか、悠人にはさっぱり分からなかった。
「あはは…。まぁ、そりゃあ警戒されちゃうよね〜?」
「あぅ…」
「むぅ…」
 一応、それで当人たちは納得したらしい。
「女の子には色々と秘密があるんだよ。ユート君」
 一向に話が見えない悠人に、レムリアは悪戯っぽく笑うのであった。

200 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/30(月) 00:12:49 ID:Kwb7mt4U0
二章:両手に花(6)

「いや〜、それよりも、ユート君」
 意地の悪い笑みを浮かべたレムリアが悠人たちを見下ろしていた。
「何とも羨ましい状況だね〜」
「いや、これは、その…」
 耳まで真っ赤になりながら、悠人は言葉に詰まった。改めて顧みれば、二人の女の子を両脇に抱えて仲良く抱き合っているこの状態。
 軟派だと罵られて、一体どんな申し開きが出来るだろうか。
「でーとだよ」
「でーとなの」
 悠人に擦り寄りながら、ネリーとシアーが同時にレムリアに言い放った。
 意外と強い二人の口調に悠人は驚いたが、それよりも目の前のレムリアが目を丸くしている方に驚いた。
 何と言うか、ここまではっきりと言われるとは思っていなかった様である。
「へぇ、そうなんだ…」
 それから顎に指を添え何度か小さく頷くと、レムリアはネリーとシアーを眩しそうに眺めた。
「ふふっ。そっか、デートかぁ…。羨ましいな〜」
「ゆ、ユート様はネリーたちのだからねっ!?」
「と、取っちゃヤだよぅ?」
 さっきまでの威勢は何処へやら。二人は悠人にしがみ付くと怯え半分、威嚇半分でレムリアを見上げていた。
 そんな二人を見て、レムリアは丸でハリオンの様な笑みを浮かべていた。
「だ、そうだよ?ユート君」
 レムリアの言葉と視線を受け、悠人は何と無くそこに含まれるものを感じた。
 尤も、厭な気配ではなくて祝福の野次とでも言う気配である。
 一秒間、悠人は覚悟を決めた。
「まぁ、『両手に花』ってヤツかな?」
 表情は得意気に、内心は羞恥の呵責に耐えながら悠人は二人の頭を撫でた。

201 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/30(月) 00:14:21 ID:Kwb7mt4U0
二章:両手に花(7)

「『リョーテニハナ』?」
「どう言う意味なの?ユート様」
 案の定、耳慣れないその言葉に興味津々の二人が見上げてきた。
「俺の世界って言うか、国の諺かな。『リョウテ』って言うのは両手、『ハナ』って言うのは花って意味。まぁ、そう言う事…」
「へ〜、ユート君にしては言うねぇ」
 悠人の説明を聞いて、レムリアがクスクスと笑った。
 からかわれているのだが、そこに下品な雰囲気が漂わない辺りが妙に不思議であった。
「?」
「?」
 理解出来ていない二人に、悠人も少し可笑しくなった。
「まぁ、さっきネリーが俺が二人のだって言ってただろ?だから『二人は俺のだ』って言ったら、その、言い過ぎかな?」
 多分、そんな一言で良かったのだろう。ネリーとシアーが大輪の花の様な笑顔を浮かべた。
 言葉に出さなくても伝わる事はあるが、言葉にする事で伝わったり得られたりするものもあるのかもしれない。
 そう、今の目の前の二人の笑顔の様に。

202 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/06/30(月) 00:18:49 ID:Kwb7mt4U0
二章:両手に花(8)

「ううん、良いよっ!!」
「シアーも〜!!」
 これ以上くっ付き様が無いと思っていたが、それは悠人の思い込みであった。
「ふ、二人とも、少し苦しい…」
「あ…」
「ごめんなさい、ユート様…」
 両側から全力で抱き締められ、悠人の肺が絞られていた。もう少しで食べた物が戻りそうであった。
「そっか〜、じゃあ仕様が無いね」
 笑顔で頷くと、レムリアは悠人に向き合った。
「二人の事末永く宜しくね、ユート君。二人を泣かせたりしたらこの国の王女様が黙ってないからね?」
「え?ちょっと、レムリア?」
 口調は軽いが、底の知れないレムリアの言葉の重圧に悠人は狼狽した。
 勿論、二人を不幸にするつもりなど更々無いが、もしそうなった場合には本当にレスティーナが出てきそうな予感がした。
 何故だか分からないが、レムリアの言葉を軽んじられない悠人であった。
「ユート様ぁ〜♪」
「様ぁ〜♪」
 悠人が背中に冷たいものを感じていた一方でネリーとシアーは幸せそうに頬擦りしていたのだった。

203 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/06/30(月) 00:38:59 ID:Kwb7mt4U0
これにてデート編は終了です
因みに口の端の欠片ネタは

金「双子とデートするンだけど、どうよ?」
知「そりゃあ、決まってますよ」

で決まりました
ナニガキマッテイルンデスカ…?

しかし、かなり連投して来ましたがいよいよストックが尽きてきましたよ…
自慢の肩も湿布如きでは誤魔化しきれないこの状況…
ですが、そろそろ佳境に差し掛かる頃です
まだ話が出来ていないと言う事は他の読者さんと同じ立ち位置に居ると言うワケです
一体どんな展開になるか、オイラ自身がワクワクしながら楽しんで書く位の心意気を持たなきゃダメなんですよ

ですので、もう暫くのお付き合いの程お願い致します

204 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/30(月) 03:48:01 ID:FcZxEstZ0
>>168
すまん。キモいから突っ込んだだけだ

205 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/30(月) 06:55:18 ID:8dlMszeM0
そこはスルーしておこうぜ

>>203
友達以上恋人未満的なポジションでデートなんかしたら…!
……あとは分かるな?

206 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/30(月) 06:56:54 ID:8dlMszeM0
おっと、書き忘れた
いつも乙でっす。
続きwktkして待ってるですよ

207 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/06/30(月) 23:12:59 ID:Kwb7mt4U0
割と内容を予告したりするンですが、どんなモンなんでしょう?
投下する迄、内容は伏せておくべきですかね?

208 名前:名無しさん@初回限定:2008/06/30(月) 23:21:42 ID:d3D48Qw+0
>>207
あらすじ感の強い内容を、さらに予告でばらしちゃ駄目だろって思うところもあるけど、
現時点でかなり長くなってるし毎回の調子直しとして挟んでもいいと思いますよ。



209 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/06/30(月) 23:32:43 ID:Kwb7mt4U0
>>208
予告はしても、内容には触れない程度に抑えてみます
自爆癖というか、日常でも要らん事しぃのオイラなのです…orz
ご意見、有難うございました

210 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/01(火) 19:59:46 ID:OoVwHIR4O
ちょっと目を離したらこんなに伸びてるとは・・・
ハリオンマジックですねわかります

211 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/02(水) 06:31:31 ID:MVNItl0k0
確かに、割とハリオン混じってますね

212 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/02(水) 15:57:43 ID:ZJtsMgET0
ハリオンのアシストは最高です

213 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/03(木) 20:43:32 ID:0bvDLZR50
慈愛を胸に詰め込めるだけ詰め込んだお姉さんだからな

214 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/03(木) 21:10:23 ID:0bvDLZR50
                    ・・・・・・・・・・・・・・
  _ ._____ .___ ____ ____ _____ _____ __
   ∨       ∨    ∨      ∨      ∨       ∨       ∨  
                   _    , ヘ _                   __
  , ^》ヘ⌒ヘ《ヾ  ' ` ^ヽ   '´ ⌒ヽ  〃 ' ^^ヾ   '´ ⌒ヽ   '´∋θ∈  「,'´r==ミ、
 ( リ〈 !ノルリ〉))ノ ル从ルリゝハ」」」l」」〉  i ハ从从リ  ! ソノノ~)))   ! ノノ))))  くi イノノハ)))
 ノノ(!リ;゚ヮ゚ノリ( 从リ;゚-゚从ヾゝ;゚ヮ゚ノゝノノゞリ;゚ヮ゚从 く人リ;゚-゚ノiゝ i (リ;゚-゚ノl|   | l||;゚ヮ゚ノl|
(( ⊂》|Tリつ  ⊂》|Tリつ ⊂》|Tリつ (((⊂》|Tリつ  ⊂》|Tリつ  ⊂)iゝヲiつ  j /ヽ y_7っ=
   く/|_ノ⊃  く/|_ノ⊃  く/|_ノ⊃   く/|_ノ⊃   く/|_ノ⊃  ノl〈/ !芥!〉リ (7i__ノ卯!
    (フ      (フ     (フ       (フ      (フ     く_/liVil,ゝ   く/_|_リ

215 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/03(木) 21:15:06 ID:la1e7X/k0
       _
                '´ ヘ ヘヾ
               ノ〈从ハ从〉
             _从ヲ´ヮ`ノヲ___
          /  廴_ |;;;;;;;;;;;;;;;;| _, -‐′ ノ}           /  |
          丈ー- `丶  ̄ ̄]k´ _ - ´ジト、      xく⌒ヽ、|
           丁 ̄丁;;;;;;;;;;;;;;;;;;「` ー一 '′B ヾ 、ー<   \ り
              /|   | ̄ ̄ ̄ ̄|       矼` 》 ヒ  `ヽ   V
           {U、 ト ___ |   / x';;べ:、/,.べヽ/へ ノ
          / W丶 !;;;;;;;;;;;;;;;;;;;/   ′〃´  ド″  Y/  h
         i  `ミ、  '、;;;;;;;;;;;;;;;|   /;'′   ‖   乢 /`ミ、
        ∠二丶、 `゙ーラ;;;;;;;;;;;;L /ji7  ,-─ ´\←´-‐>`ー┬'
        `┬‐´二 ─二「`ー┬‐┴ァ_∠ニ二二イ `ー t ,、 |
         |/ハ `ー┬1r─、 |ゝ─^、三ヲ ,小、  |小,  |/ |ナ<〉
       ///>へ ├┴─´     | / | '、  |、|ノへ|`┴ー'
       ヾ'_入 -‐ ´          〈仆 |  X」┴‐ '´

216 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/04(金) 00:04:52 ID:c1gP4smw0

ヘリオンをいぢめたい。
ヘリオンをいぢめたい。
ヘリオンをいぢめ抜きたい。
純真で。無垢で。疑うことを知らない彼女にオレオレ詐欺とか仕掛けたい。
マナ足りないから風呂場で待っててくれとか言ってみたい。
何か言いたげに訓練を見守っているのを華麗に放置してみたい。
なかまを守る為とか刷り込みながら、敵地でひとり放り出してみたい。
新しく覚えたんですようとか自慢げに披露する技をあっさり上書きしてみたい。
ダークインパクトとテラーTだけを使い回したい。戦闘よーい。頑張りたくない。
ヘリオンをいぢめたい。
ヘリオンをいぢめたい。
ヘリオンをいぢめ抜きたい。
ツインゲールがGみたいだねと面と向かって爽やかに褒めてみたい。
初挑戦の手料理が並べられたテーブルを目の前でちゃぶ台返したい。
ファンタズマゴリアで唯一の第九位なのを、徹底追究してみたい。
ししょーすげーとかひらがなで馬鹿にして、Lv.1のまま処刑してみたい。
裏切られたことをまだ信じきれずにそれでも零れる大粒の涙を見てみたい。
そうしておいて慰めたい。えへへーとか単純に機嫌直すのを見て悶えたい。
ちんまい胸と身体をいきなりぎゅっと抱き締めて、はわわと慌てさせてみたい。
ハリオンかわいいよハリオン。
ハリオンかわいいよハリオン。
ハリオンかわいいよハリオン。

217 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/04(金) 00:05:33 ID:BrqBIGDx0
何というハリオンマジックwwwww

218 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/04(金) 01:01:54 ID:uFdwxcNN0
>>216
よっしゃ、何か出所不明な創作意欲がウジウジと涌いてきました
今週の土日には2〜3話程投げ込めそうです
>>216さんのハリオンマジックの片鱗、とくと御覧在れ…

注:ハリオンは出てきません

219 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/04(金) 19:23:58 ID:BepYwNrKO
>>216はただヘリオンもハリオンも両方いぢめたいだけなんだ

みんな察してやれよ

220 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/04(金) 22:38:19 ID:xGW09Lml0
多分貴方よりエヒグゥの方が役に立つわ。
貴方の物真似したら皆から注意されたけどなんでかな?
貴方の住んでる場所、地図だと「第一詰所」になってるわ。
貴方の神剣の穴の中にハイロゥリング1本分通した犯人、アセリアよ。
貴方、イースペリアに侵攻した次の日、エスペリアに呼ばれてたけど、何で?
貴方の部屋のベッドって何であんなにいつも女の匂いがするの?
貴方、何で先が針金みたいな髪型になっちゃったの?
貴方の妹さんの部屋の壁紙とかカーテンとか、なぽりたんそっくりよ。
貴方のライバルの再就職先、サーギオスに決まったわよ。
貴方の詰所じゃ、一番危険な食べ物がリクェムらしいわね。
貴方の写ってる写真、最後に消えちゃってたわよ。
貴方、何でお風呂に入るといつも誰かに乱入されてるの?
貴方の着ている白い羽織、薄い麦茶みたいな色してるわね。
貴方誘拐されても「エターナル」で片付けられそうね。
貴方洗濯物干してたエスペリアに、何でわざわざ親指立てるの?
貴方の神剣、一言目には「マナをよこせ」なんだって?
貴方のシャツ、ソーマ・ル・ソーマみたいにいつもヨレヨレね。

最期にこれだけは言っておくわ。
貴方人気あるわよ。第二詰所の私以外に。

  , ヘ _
 〃 ' ヘ ヘヽ
ノi ミ从l~iルソ    カタカタカタカタカタカタカタカタ…
((ヾ(i|゚ -゚ノi
)ノ(__つ/ ̄ ̄ ̄/
  \/___/


221 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/05(土) 00:25:49 ID:6dBvtle60
>貴方の部屋のベッドって何であんなにいつも女の匂いがするの?

何してるんですか、セリアさんw

222 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/05(土) 10:56:22 ID:ODSU2YkD0
 ,'^》フ⌒´ヽ》ヘ      あ、あの、SS(1〜6)の準備が出来ちゃったんですけど
 ( ノ i」」」」」〉))    投下しちゃっても宜しいんでしょうか…?
 ノノ(!リ゚ ヮ゚ノリ((  
(( ⊂! |T|!つ リ
 ===く/|_|〉lj= 
    (フフ

223 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/07/05(土) 10:59:07 ID:ODSU2YkD0
二章:涙と笑顔(1)

「あら、こんなに早く起きてくるなんて珍しいわね」
 厨房で朝食の準備をしていた給仕服のセリアは、居間に現われた二人の姿に少し驚いた。
「えへへ〜。今日もユート様の所に遊びに行こうかな〜って思って」
「頑張って、早起きしたんだよ〜」
 洗濯物の入った籠を運びながらネリーとシアーが答えた。
「そう、偉いわね。じゃあ頑張って洗ってきて。私もそれまでには朝食を作っておくから」
「うん」
「分かった〜」
 洗い場へと消えて行った二人を見送り、セリアは一人微笑んだ。
 この前の悠人と街に遊びに行った日から二人はずっと機嫌が良かった。お陰で第二詰所はここ毎日が賑やか過ぎる程だ。
「アレ?ネリーさんとシアーさん、今日は早起きなんですね」
 帯を締めながら、セリアと同じ給仕服に身を包んだヘリオンが厨房に入ってきた。
「お早よう、ヘリオン」
「あ、お早ようございます。セリアさん」
 挨拶を済ませ、野菜を刻み始めたセリアの隣でヘリオンは野菜を洗って皮を剥き始めた。
「仕事を早く終わらせて、ユート様に会いに行くそうよ」
「そうなんですか〜。良いなぁ〜」
 羨ましそうにヘリオンが呟いた。
「あら、今日は私たちも休みなのよ?折角だから、貴女もユート様をデートに誘ってみたらどうかしら?ヘリオン」
「ふわきゃっ!?」
 コロン、とシンクから音が鳴った。
 見ればラナハナ(人参)の先が見事に切り落とされていた。
 いけない。つい冗談でからかってしまったが、ヘリオンには刺激が強過ぎたのかもしれない。
 取り敢えず、ヘリオンの指が落ちなかった事にセリアは安堵した。

224 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/07/05(土) 11:01:25 ID:ODSU2YkD0
二章:涙と笑顔(2)

「そう言えば、カオリ様が第一詰所に移られてそろそろ一月になるわね」
「あ、はい。私ももう随分良くして貰ってます」
 一月前迄はエスペリアやオルファリルを除けば佳織と面識を持っているスピリットは殆どいないと言っても過言ではなかった。
 一応、ラキオスの重要人物として軍からの情報はあるものの、その内容は似顔絵や背格好などの判別の為の身体的な特徴ばかりであった。
 エスペリアやオルファリルのお陰で軍からの情報以上の事はある程度手に入れる事は出来ていたが、逆にそれ以上の情報は全くと言って良い程に無かった。
 それでも、二人からの佳織に関する情報は貴重であり、何よりその内容には驚かされるばかりであった。
 曰く、ファンタズマゴリアに召喚されるや早々と聖ヨト語を習得してしまう程に物覚えが良い事。
 フルートと呼ばれるハイ・ペリアの笛の名手である事。
 可憐で折り目正しく、人徳のある人物である事。
 列挙すれば枚挙に遑が無かった。
 そして先月、ラキオススピリット隊は第一詰所に移ってきた佳織に挨拶に出向いたのだった。
 二人の齎した情報に嘘偽りはなかったが、実際に会えばそれらの情報が佳織についてほんの一部の事しかなかった事を皆は思い知った。
 同時に、悠人が戦ってきた理由にも納得したのだった。
 それ程に、佳織は不思議な魅力を備えた少女であった。
「カオリ様の為だったんですよね…。ユート様が戦っていらっしゃったのは…」
 しみじみと、ヘリオンは呟いた。
 共に過ごす時間が積み重なる程に、悠人がつくづく争いを好まない人間であると皆は痛感した。
 誰かが傷付く度、誰かを傷付ける度に悠人は怒り、涙を流した。これまで幾度の悠人の涙を見、これから幾度の悠人の涙を見ていくのだろうか。
 きっと、悠人の涙が枯れる事は無い。
 悠人の優しさが枯れる事が無いのだから。

225 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/07/05(土) 11:12:30 ID:ODSU2YkD0
二章:涙と笑顔(3)

 涙を流している悠人に気付いたのは、サルドバルドの激戦を制した後であった。
 初め、味方の誰かが倒されたのかと不安になったが、集まったスピリット隊は誰一人として欠けてはいなかった。
「ユート様、どうなされたのですか?」
 皆を代表して、静かに涙を流す悠人にエスペリアが言葉を掛けた。
「死んじまった、いや、殺したんだ…」
 誰を、とは言わなかった。ここが戦場であるだけに、その誰かが他ならない敵スピリットであった事は明白であった。
 彼の体から立ち昇っている金色のマナ。恐らく、それが全ての結果なのだろう。
 互いに殺し合い、そして殺し、殺された。
 何度経験したかを忘れる程、当たり前でよくある事だった。
「死にたくない、って必死だった。
降伏するなら殺さないって言ったけど、目の前で散々仲間が斬られてるのに、そんな事言われても信じられるわけ無いよな?
逆に凄く怯えてさ、俺じゃ斬り伏せる事しか出来なくて…」
 誰も何も言えず、只悠人の言葉を聞いていた。
「治そうとしたけど、駄目だった…。ハハッ、自分でやった癖に何のつもりなんだろうな…」
 屠ったスピリットが倒れていたのだろう、悠人は大地の一点を見詰めていた。
「何で…!!」
 悠人は叫んだ。
「何で『ありがとう』なんだよっ…!?助けられなかったのに、俺が殺したのにっ…!!」
 憎んでくれれば良かった。怨嗟の声でも良かった。
 それ以上に、斬り殺した敵スピリットの最期の言葉が何よりも悠人には残酷過ぎた。
 消えていった微笑みが本物だと解ってしまった事が尚更に辛かった。
「ユート様。何度も申し上げた通り、私たちスピリットは戦う為に存在しています」
 悠人に歩み寄り、エスペリアが言葉を紡いだ。

226 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/07/05(土) 11:16:58 ID:ODSU2YkD0
二章:涙と笑顔(4)

「敵として出会っていれば、私たちもユート様と剣を交えていました…」
 相手が誰であろうと、戦えと命じられたスピリットは戦うしかない。
 立場が違えば、今の仲間も敵同士だったのだ。
「ユート様、戦場では一瞬の躊躇が死を招きます」
 解っていた。死ぬわけにはいかない。
 この世界で佳織を守れるのは悠人だけなのだから。
「確かに、殺す事を躊躇うのは弱さだと思う…」
 血を吐く様に、悠人は声を絞り出した。
「でも、誰かを殺せる事が強さなんかじゃない」
 弱くても良い、平然と誰かを殺す事が出来るくらいなら。
 殺しの免罪符など、存在しない。してはならないのだ。
「ユート様…」
 隣に立ったエスペリアが、真っ直ぐに悠人を見ていた。
「私たちはユート様の下に集う事が出来ました。それは私たちにとって幸運な事でした…」
 悠人がマナに還したスピリットを想い、エスペリアは少し遠い目をした。
「ですが、同時に不幸でもありました…。私がマナに還る時、その相手はユート様ではないのですから…。
私は、ユート様がマナに還されたスピリットを少し羨ましく思います…」
 エスペリアが浮かべた表情に、悠人は驚いていた。
 それは今し方見せられたあの微笑みで、そこに紛れも無い羨望が悠人には見て取れた。
「私たちの歩む道は血に染まっています。そして、その先はバルガ・ロアーに繋がっているのでしょう…」
 空を飛ぶ鳥が翼を持って生まれてくる様に。
 肉を食む獣が爪と牙を持って生まれてくる様に。
 剣を持って生まれてくるスピリットは戦う為に生まれてくる。
 殺す為に生まれてくるのだ。

227 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/07/05(土) 11:23:01 ID:ODSU2YkD0
二章:涙と笑顔(5)

 そんな業を背負うスピリットたちにも救いがあるとすれば、それは悠人の様な人間がいてくれる事であろう。
 出会える事であろう。
 そして、涙を流してくれる事であろう。
 たとえそれが殺された結果だったとしても、作業の様に殺されるくらいならいっそ悠人に殺された方が良い。
 スピリットでも、こんなに優しい人間が想ってくれる事を知って逝けるから。
 悠人の心に触れる事が出来るから。
「エスペリア…」
「そんな顔をなさらないで下さい、ユート様」
 悠人の困惑を、エスペリアは微笑んで受け止めた。
「死ぬ覚悟は出来ています。ですが、ユート様は私たちに生きろと願って下さいました。ならば、私たちは最後まで生きようと思います」
 死ぬ事が恐い。漠然とした恐怖だったそれが、今は途轍も無く恐い。
 悲しむ誰かがいてくれるから。
 共に生きたいと思うから。
「そっか…。サンキュ、エスペリア…」
「はい、ユート様…」
 少し元気が出たのか、悠人が微かに笑っていた。

228 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/07/05(土) 11:41:43 ID:ODSU2YkD0
二章:涙と笑顔(6)

「ぐすっ、良い話ですよね…」
 野菜を刻みながら、ヘリオンが滂沱の涙を流していた。
「ヘリオン?テノルグ(玉葱)が塩味になるからその辺で…」
「あ、す、スイマセン…」
 目元を拭い、ヘリオンが改めて野菜を刻み始めた。
「でも、本当にユート様は争いがお嫌いなんですね…」
「えぇ、あれじゃ軍人は勤まらないわ…」
「ですけど、私はユート様が隊長で良かったと思いますっ」
 珍しく断言したヘリオンにセリアが少し意地悪く笑った。
「あら?軍人に向かないのは否定しないのね」
「はい…。ユート様は優し過ぎますから…」
 セリアとヘリオンは肩で溜息を吐いた。
 悠人の優しさに、自分たちは報いているだろうか。
 あの鈍感な少年は、自分が優しい事も優しくしている事も気付いていないのだろう。
 それが普通だと想っている悠人だから、見返りなんて求めてくるわけがなかった。
「カオリ様と一緒に過ごされて、ユート様もやっと安心なさっているんでしょうね…」
「そうね、ユート様からカオリ様の話は良く聞かされてたわ」
 得意気に佳織の事を語っていた悠人の佳織への溺愛ぶりを思い出し、二人は小さく笑った。
「セリアさん、私たちもお二人に会いに行きませんか?」
「そうね。これからまだまだ長い付き合いになるわけだし、何か包んで行きましょう」
「はい」
 朝の第二詰所に、美味しそうな匂いが漂い始めた。

229 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/05(土) 12:03:16 ID:ODSU2YkD0
双子、冒頭しか出てきませんでした…orz
と申しますか、コレは悠人がメインの話ですね…
良いのカシラ…?

でも、オイラは悠人が好きでなければ恋愛の絡んだSSなんて書けませんから
少しくらいは悠人の株を上げる話を挟んでも良いとは思うンですよ
双子が絡まないのはアレですが…

230 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/06(日) 12:59:04 ID:+ypR5o6n0
  ヽ)/    r‐-- -┐
   ∠´ ハ`ゝ  /・ 皿・ ヽヽ
   彡//ノハハ〉 レ'´从リ从!〉
   ゞ(リ ゚д゚ノ! 从◎_◎从 お兄ちゃん。
   /¶ V ¶\ / V ⌒i  最初に私を選んだのは、マインドボーナスの為じゃないよね?
  /  | |゚/ ̄ ̄ ̄ ̄/  |
__(__ニつ/  求め  / .| .|____
    \/____/ (u ⊃

と、言うわけでSS(1〜6)投下です

231 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/07/06(日) 13:01:58 ID:+ypR5o6n0
二章:その胸に灯るもの(1)

「えぇ〜っ!?」
 第一詰所の玄関を潜って居間へと続く廊下。
 その扉越しに聞こえてきた少女の絶叫に、居間に入ろうとしたネリーとシアーは思わず身を竦ませた。
「か、カオリ様なのかな?」
「そうだと思うけど…」
 声を抑え、互いに目配せをした二人はそっと聞き耳を立てた。
 扉越しとは言え、人間のそれより遥かに優れた五感を持つスピリットにとって居間の会話を拾う事など簡単な事である。
 幸いな事に、エトランジェの二人はハイ・ペリアの言葉ではなく聖ヨト語で会話をしていた。
 悠人が佳織と呼んでいる事から悠人と会話している相手は佳織で間違い無いのだろう。
 一体どんな話をしているのだろうか。
 二人の会話に加わろうとしたネリーとシアーが扉に手を掛け様として、
「で、お兄ちゃん。お嫁さんにするなら誰が良いの?」
「……」
「……」
 二人の動きが凍りついた。
「ユート様の…」
「お嫁さん…」
 口に出したその言葉を二人は反芻していた。
 街で何度か見掛けた家族連れの幸せそうな光景。
 その光景を自分と悠人に置き換えてみると、それはとても甘くて温かいものだった。
「ほわ〜♪」
「ふえ〜♪」
 想像した幸せは想像以上に幸福なもので、紅潮した頬を両手で押さえ、二人は蕩けた表情でイヤイヤと頭を振った。
 ともすれそのまま大空に飛んで行ってしまいたかったが、流石にそこは理性が勝っていた。
 何としてでも悠人の返答を拝聴せねばならないのだから。
「う〜ん…」
 思案に暮れている悠人の声を、二人は固唾を呑んで聞き入っていた。
 悠人は今、一体誰の事を思い浮かべているのだろう。

232 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/07/06(日) 13:04:45 ID:+ypR5o6n0
二章:その胸に灯るもの(2)

「「あっ…!!」」
 ふと気が付いた。
 悠人が自分たちを選んでくれなかったらどうなるのか。仮に選んでくれたとしても、自分たちの内のどちらを選ぶのか。
 自分だけ幸せにはなれない。少なくとも、目の前の半身が悲しんでいれば絶対に。
 いずれにせよ、悠人が誰かを選ぶ以上、残りの全員は選ばれないのだ。
「いないねぇ…」
 悠人の言葉に、二人は大きく息を吐いた。
 果たしてそれは安堵かそれとも落胆なのか、或いはその両方か。それは本人たちにも分からなかった。
「えぇ〜?皆凄く綺麗で良い人たちばかりなのに」
 悠人の答えに佳織は残念そうな、そして少しだけ安心した笑みを浮かべた。
 そんな義妹の反応をどう判断すれば良いのか。分からない悠人には只苦笑するしかなかった。
 しかし、佳織の言った通り、自分の周りには魅力的な女性が多いと悠人は思った。
 スピリット隊に加えてレスティーナ女王までも候補に挙げられているのには驚いたが、容姿も能力も性格もどれもが全て申し分無いだろう。
 個性的ではあるが、それでも理想的であると言えた。
 確かに、誰かに惚れてしまっても不思議では無いのかもしれない。
「でも、今までそんな事考えた事も無かったしなぁ…」
 今日と明日を生きる為に必死だった悠人には恋愛事に関心を向ける余裕など存在していなかった。
 その点で言えばスピリット隊の皆も同じなのだから、お互いに異性として意識する暇など無かったのかもしれない。
 そう考えて、悠人は成程と一人で納得していた。
「まぁ、男と女が一緒に居れば必ず付き合うってワケでもないしな。
そりゃあ仲が良くなる事はあるかもしれないけど、惚れるとかそう言うのとは違うんじゃないか?」

233 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/07/06(日) 13:08:50 ID:+ypR5o6n0
二章:その胸に灯るもの(3)

「それはそうだけど…」
 今一つな表情の佳織であったが、この手の話題は長引かせればその分ややこしくなると経験で知っている悠人は出来るだけ素直な感想を吐くしかなかった。
 変に照れたり隠したりすると藪蛇に為りかねないのが恋愛の話題の危うさなのである。
「別に、俺は仲間や家族の絆が恋人の絆に負けてるなんて思わないけどな。
それに、俺は今のままでも充分だと思うし、特に恋人が欲しいとは思ってないよ」
「あはは。お兄ちゃんらしいけど、それじゃ結婚なんて出来ないよ?」
 悠人の言葉に、佳織は少し困った笑みを返した。
 若しかすると、妹である自分や幼馴染との長年の付き合いで悠人は異性に対して恋愛感情を抱き難くなっているのかもしれない。
 更に付け足すのなら、恐らく悠人には好みの女性のタイプは無いと思われた。
 如何に魅力的であっても悠人の心を射止める直接的な原因には無り得ない。
 惚れたから惚れた。悠人の恋とは多分そんなものなのだろう。
 一体、こんな悠人とどうやって恋に落ちれば良いのだろうか。未だに出ないその答えに、佳織は少し切なくなった。
「いや、そんなに俺の将来って心配なのか?」
 佳織の雰囲気の変化を自分への心配と受け取った悠人が気拙そうに頬を掻いていた。
 そんな悠人を見てしまっては佳織は苦笑するしかない。
 全く、大好きな兄は何処まででも疎いのだった。
「でも、やっぱり私としてはお兄ちゃんには素敵な恋をして欲しいな」
「う〜ん…。そんな事言われても、やろうと思って出来るものじゃないしなぁ…」
「うん。だから、私はお兄ちゃんのペースで良いと思うんだけどね」
「そうだな、まぁ、のんびり行くさ。今はそれよりも気になる事があるし」
「気になる事?」
 佳織の言葉に、悠人ははにかむ様な表情で返してきた。

234 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/07/06(日) 13:10:55 ID:+ypR5o6n0
二章:その胸に灯るもの(4)

「目が離せないって言うか、危なっかしいって言うか…。いや、頼りにしてるし、どっちも俺よりずっと強いんだけどな?」
「どっちも?」
 要領を得ない悠人の説明に佳織は首を傾げ、そんな仕草に悠人も自分の言葉の足りなさに気付いた。
「佳織も絶対覚えてると思うけど、ネリーとシアーって言うそっくりな双子だよ」
 その言葉に佳織が得心の表情を浮かべた。
「うん、ちゃんと覚えてるよ。初めて挨拶した時は私もびっくりしちゃったし。二人ともすっごく良く似てたんだもん」
「それでさ、何か色んな意味で放っておけないと言うか、まぁそんな感じなんだよ」
「へぇ」
 悠人から始まった二人の話題に佳織は思わず聞き入っていた。
 何より、悠人がここまで誰かを気に掛けていると言う事が珍しかったし、悠人が二人をどう思っているのか興味が湧いてしまったのだ。
「今じゃそうでもなくなったんだけど、最初は本当に危なっかしくて冷や冷やしてたな。
まぁ、俺もエスペリアに心配掛けてたから人の事言えないけど…」
「あれ?お兄ちゃん、その手の傷…」
 佳織に指摘され、悠人は自分が右手の甲に刻まれた傷を眺めていた事に気が付いた。
 もう消える事の無い右手の傷。
 それを改めて眺めながら悠人はこの傷と共に刻んだ記憶を思い出していた。
「あぁ、これか?そうだな、まぁ、これがきっかけで二人と良く組む様になったのかもな」
 不条理な世界。愚かな人間たち。使い捨てられる数多の命。悠人にはどれもこれもが受け入れ難い事ばかりであった。
 その中で悠人が一番打ちのめされたもの。それは悲しみに暮れる二人の姿だった。
「絶対守るって決めたんだ。戦いとかだけじゃなくて、もっと色んなものからも…。
佳織や他の皆もそうだけど、俺は俺の大事な人たちが幸せになれない世界なんて間違ってると思う」
 守りたいものは、皆の笑顔だった。その為なら、いくらでも頑張れると悠人は思えた。

235 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/07/06(日) 13:12:10 ID:+ypR5o6n0
二章:その胸に灯るもの(5)

「だからさ、今は恋とかそう言うのより守りたいって事で精一杯なんだ」
「そっか、そうだね…。私もそれで良いと思うよ、お兄ちゃん」
 少しだけ眩しそうに、佳織は悠人を眺めた。
 二人を話す時だけに見せる悠人の表情。
 初めて見たその表情は思っていたよりもずっと優しく、温かく、そして微かに胸を刺した。
 その痛みを、佳織は嬉しさの後ろにそっと押し込めた。
 妹として、女性として、悠人の幸せを願っていたかった。

「………」
「………」
 手の甲の傷を眺めながら、ネリーとシアーは悠人の話を聞いていた。
 悠人の言う通り、あの時から二人は悠人の傍にいる様になったのかもしれない。
 否、いたいと思う様になったのだった。
 気が付けばいつも悠人を探し、見付ければ彼の元へ駆けていった。
 会えない時はいつも悠人を想い、会えない程に想いが募っていった。
 傍にいてくれるだけで嬉しくて、撫でてくれればその日はずっと幸せな気分になれた。
 もうどう仕様も無いくらい、二人の心の中は悠人で一杯になってしまっていたのだ。
 痛い程に他の皆とは違う、悠人だけへの『好き』。
 それに気付いてしまった。
「恋…、なのかな?」
「分かんないけど、そうだと良いな…」
 佳織の言っていた恋とはこの気持ちなのだろうか。

236 名前:@@@@:2008/07/06(日) 13:36:42 ID:vW9fTx1Z0
「変…、なのかな?」
住職の言っていた変とはこの気持ちなのだろうか。

237 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/07/06(日) 13:39:33 ID:+ypR5o6n0
二章:その胸に灯るもの(6)

 悠人に恋をしている。
 そう思うと、二人に堪らない嬉しさが込み上げてきた。
 悠人に恋をした事が二人にとっては他の何よりも誇らしい。
 好きで好きで堪らなくて、悠人に対してこんな気持ちになれる事が本当に嬉しくて仕方が無かった。
「えへへ〜♪」
「ユート様ぁ〜♪」
 恋に対する憧れも興味も知識も微塵も無い。
 それでも、ネリーとシアーは一直線に悠人に惚れてしまっていた。
 突発的で修正の利かない、全身全霊の恋。
 恐らく、恋が出来る最も幼い精神で二人は悠人に惚れてしまったのだ。
 だが二人は、間違い無くどう仕様も無く本物の恋に落ちていた。
「あの〜、さっきからお二人とも何をなさっているんですか?」
「盗み聞きって言うのは、あまり感心しないわね」
「「〜っ!?」」
 背後からの声に、ネリーとシアーの背筋が一気に伸びた。
 と、
「わ、わ、わっ!?」
「ふゃっ!?」
 体を預けていた扉が開き、二人は縺れ合いながら居間へと転がり込んでいた。
「や、やっほ〜?ユート様、カオリ様…」
「あ、遊びに来たよ〜…」
 突然の二人の登場に悠人と佳織は目を丸くし、そんな二人にネリーとシアーが愛想笑いを浮かべていた。
 そしてその開いた扉の向こうでは、狼狽えるヘリオンの隣で米噛みを抑えて瞠目するセリアが立っていた。

238 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/06(日) 14:02:39 ID:+ypR5o6n0
ふぅ…
連投規制で干されてましたよ…

しかし、コレでオイラのストックが晴れて底尽きました…
暇を作ってはチマチマ書いて投げていきたいです
双子も漸く惚れてくれたようですし、悠人も早く双子に惚れて貰いたいものです
書いて思ったンですが、オイラのSSでの悠人はかなり惚れ難い性格になってますね

さて、「愛しの彼が振り向かない」はいつまで保つのやら…
双子の頑張りをアシストする方々に期待しましょう
では、ノシ…

239 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/06(日) 21:13:14 ID:c6Ls0Y7vO
お疲れ様

ネリシアはフタコイにめざめ、悠人はロリフォトンにめざめるんですね。わか(ry

ネリシアは嫁に求められる条件をクリアすべくお菓子の味見に励むんだ!

>236
おまw


240 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/06(日) 22:27:23 ID:dZe8LAqg0
>>214
貧乳(ひんにゅう)とは女性の小さい乳房に対して使用される言葉。
Aカップ未満程度のサイズの場合に使用されることが多いが、相対的な概念であって明確な基準があるわけではない。
対義語は巨乳。俗語ではまな板、洗濯板とも。微乳(俗語)と言い換えられることもある。

 〜中略〜

古来、日本の文化では、女性の乳房は大き過ぎない方が良いとされていた。

241 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/06(日) 23:27:28 ID:+ypR5o6n0
>>239
ぶっちゃけ、双子(同性であれば更に)だとモノの共有は割りと出来るンですよね…
一緒に漫画やゲーム買ったり、外食では食べたい料理が二つあったらお互いに頼んで半分こしたり
趣味や嗜好が似通った双子なら普通の兄弟(姉妹)よりはずっと近しい存在なんですよ、お互いに
双子と言うアイディンティティは、対(片割れ)がいないと成り立たないわけですから
環境も影響していますが、本人たちの意識、無意識のうちにバランスを取りたがる嫌いがあります
まぁ、反発型もありますが
ネリーとシアーの場合は性格こそ違いますが、いつも一緒に居るので基本は同化型とオイラは認識してます
価値観や思考が理解出来るので、お互い以上の理解者は先ずいないでしょう
好敵手でもありますが、同時に何を差し置いてでも優先するべき分身でもあります
同化型は言わずもがな、反発型であってもお互いを充分理解しているからこそ同族嫌悪で相容れないわけです
つまりどちらにせよ、お互いを知っているからこそ仲が良く、知っているからこそ仲が悪い
双子とはそんなモンだとオイラは思っております

242 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/06(日) 23:42:43 ID:+ypR5o6n0
さて、長ったらしく御託を並べたワケですが要約するとこうです

どっちも俺の嫁

どちらかと言えば、双子の共有化の下に悠人の方が二人の旦那にされるワケですが
加減を知らない双子に甘え殺されてマナの塵に還れるならオイラは本望です

243 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/06(日) 23:55:22 ID:pT2HrbwM0
ならセリアは俺がもらっていくぜ!

244 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/07(月) 00:12:59 ID:2d37tuBS0
ナナルゥは俺がいただきます(性て(ry

245 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/07(月) 00:30:42 ID:ckqEjawA0
同時期に転送されてきて周囲に姉妹扱い公認だからまぁ双子みたいなもんか
ヘリオンかわいいよハリオン

246 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/07(月) 00:31:23 ID:GME77Bas0
特にアレと言うわけでも―、まぁアレなんですが(イミフ)

若し読むなら、ハリオンとニムントールのどちらのSSが需要があるンでしょうね?
ハリオンなら、オイラのSS風な感じで
ニムントールは、しれっと良い子なツンデレスト・イン・ファンタズマゴリア

後学の為に、何かの種になると祈って…

247 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/07(月) 00:47:15 ID:I1nRJ6Ze0
あえて言おう、両方だと

248 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/07(月) 01:42:14 ID:GME77Bas0
まぁ、「どっちも読みたい」が正解なんですよね…

気の早い話ですが、今のSS完結させたら次のSSは何書こうかと思いまして
一応、結末まで粗筋を考えてSS書くので今のSSが未完で終わる事は無いです
最初は"Twinkle Fairies"かハリオンの話かでどっちが先かがあったんですけど
知「双子でお願いします」
と言うワケで今のSSを始めたワケですね

さて、次はハリオンとニムントールのどっちが先に声が掛かるのやら
因みにどっちも長編を予定しております
只、オイラのSSは原作の流れに沿うので正直クドイです
ですが
「これなら普通にサブスピのルート出来ンじゃん」
なSSが書きたかったわけです
序盤はフラグ立て&愛情値を稼ぎまくる
中盤はルート分岐(←今ここです)
以降は専用シナリオに突入〜end
実際、序盤は知人に選択肢を出しまくって悠人になって貰ってました
専用シナリオになればもう結末迄一直線です

249 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/07(月) 02:40:27 ID:YLMgcnIC0
ニムに期待
ニム可愛すぎる

250 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/07(月) 10:54:32 ID:mNd3XRFCO
まあある程度、進んだ場面から始めるとかね。

ハリオンの場合、初期の悠人ムッチリほんわか看病記は捨てがたいw
ニムとハイペリアに行って、人事不省なニムの熱病吐息看病記も捨てがたいがw


251 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/07(月) 12:45:10 ID:UNt/TaIuO
>>250
ハリオンは誰か(まぁ、決まってる様なものですが)に甘えても良いとオイラは思っております
そんなSSが書きたいですね

ニムントールは
「泣き虫ユート…」
と言わせてみたいです
どんな表情で言われるかは皆さんの想像に今はお任せします

大体の方向性はこんな感じですかね?

252 名前:月野陽介:2008/07/07(月) 22:39:11 ID:oz2Ofc950
>>251
いいですね。個人的な事だけど特に二ムの話に期待します。

完璧に忘れ去られてるだろなーと思いつつもまた来てしまいました。
5節クリアしたとこ辺りから前の続き投下してみます。
はしょりすぎだろ細かくかけよと友人に言われたけど
ただでさえ下手なのにスピたんの通常シーンを丸写しみたいな羽目になる危険性大なので
スピたんのナナルゥルートのイベントあったらこんなのかなってのだけ抜き出してます。
投げっぱなしジャーマンで場外どころか客席まで吹っ飛ばしたほどのいい加減さですが
つっこみと訂正の嵐は覚悟の上でやっぱ投下しちゃいます。
スピたん〜幻のナナルゥルート〜4章、・・・逝きます。

253 名前:4章 刃と炎の向かう先:2008/07/07(月) 22:40:59 ID:oz2Ofc950
少しみんなから離れたところに移動し、コウインさんが口を開いた。
「・・・ナナルゥの事、気付いているのか?」
流石にコウインさんは鋭い。再会して少ししか経ってないのにナナルゥの様子に気付いていたらしい。
「はい。実は・・・」今までの開拓者との遭遇の経緯を簡単に話した。
「・・・それでナナルゥは今迷っています。だけどそれはナナルゥが自分の感情に気付いて戸惑っているからです。
僕としては何とかナナルゥなりの答えを出せるように影ながら支えたいと思っています。」
「なるほど。いや、気付いているならいいんだ。・・・そうか、あのナナルゥがな・・・」
そう言ったコウインさんの顔は意外そうで、でも嬉しそうだった。
「やるじゃないかロティ。ナナルゥがそこまで変わったっていうのはすごい事なんだぜ?
・・・この数年で大分ましになったとはいえ、戦争の時のナナルゥは感情が読めないというよりよ、
感情がないって感じだったんだ。本当に・・・勝手に動く人形みたいだったな・・・。」
光陰さんの顔に苦いものが浮かぶ。僕はその時の事をナナルゥから聞いたけど見たわけではない。
でも昔のナナルゥがどんなものであろうと今は違うはずだ。
「今のナナルゥは迷っているとはいえ、それはナナルゥが望んでいた感情ってもんを
取り戻してきているって事だ。これもロティのおかげって事だな。」
「いえ・・・僕が何かしたのではなく、ナナルゥが頑張った結果ですよ。」
「いや、それだけじゃないだろ?それも当然あるだろうけどやっぱり愛の力のおかげだろ」
「・・・は?」・・・何か変な方向に話がずれてる気がする。
「なんだ?そっちには気付いてなかったのか?俺でもすぐわかったのによ。」
「え、ナナルゥの事で他に何かあるんですか?」
「本当に気付いていないのか・・・。もうみんなも気付いてると思うけどよ、ナナルゥはお前に惚れてるぞ」
「・・・・・・はい?あ、あはははははまさかそんなことナナルゥが」
「もしかしたらって思った事はないのか?考え過ぎだなと思って気付かないようにしてたんじゃないか?ん?」
・・・確かにもしかしたらっていうのは何度かあった。まさか、ナナルゥが僕を?
「・・・ほ、本当に、ですか?」
「おう、間違いないな。少なくとも隊長に対する信頼なんてもんじゃないぜ。
・・・で、どう思う?まんざらでもなさそうだな?」

254 名前:4章 刃と炎の向かう先2:2008/07/07(月) 22:44:51 ID:oz2Ofc950
「・・・そりゃ、もちろん嬉しいですよ。・・・本当にそう思ってくれてるなら、応えたいなって思います。」
「そうだろそうだろ。そういえばなんだかんだで付き合い長いし不思議って訳でもないんだよな。
ヘリオンちゃんやネリーちゃん達と上手くいくんじゃないかと思ってたから俺としてはありがた・・・
いやいや少し意外ってのに変わりはないけどな。」
・・・何か不穏な台詞が聞こえた気がするが気にしないでおこう。気にしたら負けな気がする。
ナナルゥの事はもちろん嫌いではない。いや、むしろ好き・・・なのだろう。
ナナルゥは文句なく美人だし。怜悧な顔の奥にある優しくて一生懸命な内面を知って。
それでいて自分の事を頼ってくれてるなら(冗談の師というのはどうかと思うが)気にならない筈がなくて。
ナナルゥはそういう色恋沙汰に関心がなさそうだし、できるだけ意識しないようにしていたけど、
実はナナルゥも僕を好きでいてくれてる?それって・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・わぁお。
「隊長、コウイン様。」
「な、ナナルゥ!?」
いつの間にかナナルゥが真後ろに立っていた。
「皆、休息は十分とりました。そろそろ方舟に帰還するべきではないかと提案しますが。」
「え、あ、ああそうだね!な、ナナルゥは今の話聞いていたのかな!?」
「・・・?いえ、特には・・・」
「そ、そっか・・・」ほっとしたけど少しがっかり・・・かも。
「え〜と、じゃあみんなのとこに戻ろうか。・・・!」
・・・感じた。あのときの殺気!
「・・・ロティ!!」
「わかってます!!」
コウインさんの声に合わせて同時に防御のオーラを展開する。
瞬間、巨大な炎の塊が襲い掛かる。
「ちっ!」
「うああっ!」
オーラの壁を感じさせない凄まじい熱気と衝撃が全身を貫く。
しかし、コウインさんの加勢のおかげかどうにか炎自体は防ぎきった。
「・・・耐えたか。まあそうでなくば興醒めというもの。」
「!!・・・あ・・・!」
「っ・・・また・・・エンレイン!」

255 名前:4章 刃と炎の向かう先3:2008/07/07(月) 22:46:48 ID:oz2Ofc950
炎が晴れた後には炎の剣の切先を向けて不敵な薄笑いを浮かべたエンレインの姿があった。
「・・・あれが言っていた開拓者って奴か。」
「見ない顔だな。・・・かなりできるようだが、貴様と剣を交えるのも悪くなさそうだ。」
・・・どうする?コウインさんがいるから3人でなんとかなるかもしれない。
しかしみんなはそう離れてないし、呼べばすぐに来てくれるだろう。
一人抜けてみんなを呼ぶ方がいいかもしれない。そう考えていた矢先―
「・・・っわああああああああああああああああーーーっ!!!!」
「っ!ナナルゥ!?」
突如、悲鳴のような雄叫びを上げてナナルゥがエンレインに切りかかった。
いつもの洗練された動きは見る影も無い、型も何もない隙だらけの大振りの太刀筋。
「む・・・」
エンレインは片手で難なくナナルゥの剣を受け止め、そのまま強引に剣を振り切った。
甲高い金属音とともにナナルゥの剣が弾かれ、身体ごとこちらに吹き飛ばされて来る。
あわててナナルゥを受け止めたがナナルゥは僕に気付いていないらしく、そのまま魔法の詠唱を始めた。
「上位世界の御遣いよ、第一の喇叭を吹き鳴らせ!獄焔の驟雨となりて地を焼き払え!フレイムシャワー!!」
詠唱を終え、大量の炎の礫がエンレインに降り注ぐ。対してエンレインは特に動じた様子もなく剣を頭上に掲げる。
すると降り注ぐ炎が不可視の壁にぶつかり、一つもエンレインに当たる事なく消え失せた。
「ナナルゥ!どうしたの!?」「・・・るな」
ナナルゥらしくないあまりに無鉄砲な行動に疑問を感じたが、そこでやっと気付いた。
ナナルゥの身体が震えている事に。その顔は恐怖に歪み、青ざめている事に。
「来るな・・・来るな来るなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるな
くるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるな来るなあぁっ!!」
「!?」
まずい。ナナルゥの様子は普通じゃない。恐慌を起こしかけて目の焦点も定まっていない。
まさか、あの時の事を思い出しているのか?

256 名前:4章 刃と炎の向かう先4:2008/07/07(月) 22:48:48 ID:oz2Ofc950
「・・・怖いなら、迷うなら退いていろ。今の貴様に興味は無い。」
エンレインのナナルゥを見る目はつまらなそうな、冷めた眼差しだった。
「大方剣に呑まれる事に怯えているのだろう。そんな状態で無理に戦えば本当に心が壊れるぞ。」
「ナナルゥ、落ち着いて!少し、下がっていたほうがいい!」
「・・・嫌です・・・私・・・は、戦わないと、みんなを、守る・・・!」
「守る、か。違うな。貴様はそう思う事で空っぽの自分を肯定したいだけだろう。」
「なっ・・・!」
瞬間、物凄い怒りが込み上げてきた。一体、何を言いだすんだ?
「貴様も気付いているのだろう。貴様は単に戦い以外にできる事がなく、
せめて戦う事に守るという意味を持たせたいだけだと。
そうすることでそれ以外何もない自分の存在を他の者に認めて欲しいだけだと。」
「〜っ!う、ああ・・・!」
ナナルゥは身を震わせ、涙すら流し、それでも、動く事ができなかった。
「・・・やはり動けんか。つまらぬものだな。」

「・・・黙れ!!」
声を荒げ、真正面からエンレインの剣に『紡ぎ』の刃を叩きつけた。
エンレインは多少面食らったようだがすぐに体制を整え、刃を押し返してくる。
それ以上無理に抵抗せずに後ろに飛びのき、呼吸を整えて昂ぶった心を静める。
「・・・貴方が、ナナルゥを侮辱するな。そんな資格は誰にもない。」
「違うとでもいいたいのか。そこの女が戦場での正しい有り方だと思うのか?」
「正しい、とは言えないかもしれない。だけど、ナナルゥを間違ってるなんていわせない。
ナナルゥの事を何も知らない貴方にナナルゥをそんな風に言わせない!」
別に自分がナナルゥの事を知っていると自惚れるつもりはない。
だけど、僕はナナルゥが戦い以外に目を向けようとしている事を知っている。
いつもみんなの事を考えているナナルゥを知っている。
自分自身の感情で、意思で、自分だけの答えを出そうとしている事を知っている。

257 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/07(月) 22:49:59 ID:2d37tuBS0
支援

258 名前:4章 刃と炎の向かう先5:2008/07/07(月) 22:50:22 ID:oz2Ofc950
「ナナルゥは今、やっと迷う事ができるようになった。そうする事さえ、今までできなかった。
戦いで迷う事は強くはないかもしれない。だけど弱いんじゃない。愚かなんて、間違っているなんて認めない!
仲間を守ると言う事を、誰かのために何かしたいという思いをそれだけしかできないなんて言わせない!
ずっと頑張ってきてそう思えるようになったナナルゥを馬鹿にする事こそ間違っている!!」
そうだ。ナナルゥの頑張りを見ていない、ナナルゥの想いを知らないこいつにナナルゥの事を否定なんてさせない。
迷いや恐怖と言うものを戦いの邪魔なんて切り捨てる必要なんか絶対にない。
甘かろうが愚かだろうが青かろうがこの思いは捨てない。
捨ててなんか、やらない。
何の迷いも躊躇いもなく『強い』よりは、僕もこんな風に『弱く』ていい。
迷いを持って、弱さを抱えて、想いや理想を捨てず、それでも負ける事がないと言うなら。
それが強さでなくてなんだと言うのか。
「貴方が貴方の強さでナナルゥの思いを否定するなら、僕は僕の強さで貴方の強さを否定する!!」
「・・・上等だ!その強さ、存分に俺にぶつけてくるがいい!!」
エンレインが歓喜に震え、それに呼応して炎の剣からの熱波がこちらに伝わってくる。
「・・・コウインさん。僕一人でやります。みんなを、呼んできてください。」
本当ならコウインさんが加勢してくれた方がいいのだろう。だけど、これだけは譲りたくなかった。
「・・・あまり褒められることじゃないが・・・いいだろう。すぐ戻るから隊長として勝手に死ぬんじゃないぞ。」
「ありがとうございます。ナナルゥ、大丈夫だから・・・下がってて。」
「っ・・・駄目です・・・隊長・・・!」
「僕も、みんなを守りたい。誰も死んで欲しくない。・・・その中には当然、ナナルゥも入っているんだから」
一度だけナナルゥのほうに振り返り、そして僕はエンレインに再び斬りかかった。

動けない。剣では到底敵わない。魔法を使えばロティ様を巻き込んでしまう。
それ以前に、自分の身体の全てが動く事を拒否していた。
別にあの男の言葉のせいで動けないわけではない。

259 名前:4章 刃と炎の向かう先6:2008/07/07(月) 22:52:22 ID:oz2Ofc950
(守る、か。違うな。貴様はそう思う事で空っぽの自分を肯定したいだけだろう。
貴様は単に戦い以外にできる事がなく、せめて戦う事に守るという意味を持たせたいだけだと。)
そんな事はわかっていた。わかりきっていたはずだった。
今はそれでもかまわないと思っていた。自分がこれからの世界に必要でなくとも、
せめてこれからの世界に生きる者達が暴力に晒されないようにと、そう思っていた。
それ以外の自分の空ろな部分は、後で少しずつ満たしていけばいいと。
だけど、脳裏にあの夢が蘇る。自分が、仲間を斬り刻み、焼き払うあの悪夢が。
今力を振るえば、それが現実のものになるのではないか。実際に自分はそうなりかけたのだ。
こういう時の為に、力を望んだのに。
誰かに降りかかる暴力を自分が肩代わりできるように強く有りたいと願ったのに。
この身体は震えが全く止まってくれない。頭に浮かぶ悪夢はちっとも消えてくれない―!

「はああぁっ!!」
エンレインの左からの一閃を上体をそらしてかわす。しかし避けたところに左手の義手が飛んできた。
「がっ!」
金属の拳を顔面に受けてしまい、怯んだ瞬間にエンレインの剣が右から迫って来ている。
僕はその剣を柄尻からも刃を伸ばして受け止め、そのままもう片方の刃で斬りつけようとしたが
「ふんっ!!」
「うあ・・・っ!」
瞬間、エンレインの剣が爆ぜて炎が僕に迸る。
たまらずに後方に飛び、着地と同時に間合の外からの攻撃を放つ。
「・・・一貫、護剣の段、空割の型!」
「四象剣、風象の刃!」
互いの剣から放たれた不可視の刃がぶつかり合い、相殺する。
「また腕を上げたな。だが・・・残念ながらまだ遠いな。」
一見すれば互角に見えるが、こちらは常に全力だというのにエンレインはまだまだ余力がある。
強い。くやしいが僕より体力も剣技も数段上だ。
かといって負けれない、負けてなんかやれない。
(・・・長引けばもたない。それなら―!)

260 名前:4章 刃と炎の向かう先7:2008/07/07(月) 22:54:06 ID:oz2Ofc950
「・・・『紡ぎ』、いくよ!」
『紡ぎ』に力を込め、刃を限界まで強化する。・・・危険だが、試す価値はある!
「ほう・・・」
エンレインも僕の動きに合わせて刃を受け止める構えを取る。
「っはああああああああああああああああーーっ!!」
裂帛の気合とともに大上段に構えた『紡ぎ』をエンレインの右肩を狙って振り下ろす。

しかし、刃のぶつかる音はしなかった。
「何!?」
エンレインの目が驚愕に見開かれる。
僕は『紡ぎ』を振り下ろしきっていたが、エンレインの身体は斬れていない。
なぜなら剣がぶつかる寸前に僕は『紡ぎ』の刃を消したのだ。
まともに振り下ろしたとしてもエンレインには弾き返されただろう。
一歩間違えれば僕が斬られていただろうが、成功した。
エンレインは全力で刃を打ち返そうとしたために下腹ががら空きになっている。
(もらった―!)
紡ぎを腰溜めに構え、刃を戻すと同時に本命の突きを繰り出す―

261 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/07(月) 22:54:26 ID:GME77Bas0
支援っ!!

262 名前:4章 刃と炎の向かう先8:2008/07/07(月) 22:55:18 ID:oz2Ofc950
瞬間、視界がブレた。
「っあ―!?」
気付くと僕は横からの衝撃に吹き飛んでいた。
あわてて立ち上がり、腰の辺りの鈍痛を堪えながらエンレインのほうに向き直ると
エンレインは顔を歪めてわき腹を押さえていた。血が多少出ているようだが深手というほどではない。
「くっ、そぉっ・・・!」
かわされた。おそらく腰を捻ると同時に僕を蹴り飛ばして致命傷を免れたのだろう。
『紡ぎ』を構えなおした分だけ攻撃が遅れたのだ―!
「くっ・・・見事。だが、惜しかったな。」
「・・・はあっ、が、はあぁっ・・・!」
『紡ぎ』の力を無理に使いすぎ、凄まじい疲労感がこみ上げてきた。
生半可な気合ではエンレインにフェイントを見破られてしまうと思ったのが仇になった。
「ふっ・・・まだこんなもので死んでくれるなよ!?」
「っ!!」
エンレインの一撃を防げたのはただの偶然だった。反射的に頭上に剣を掲げたらそこに剣が来ただけだ。
だけど身体に力が入らず押し返せない。剣を逸らしても二の太刀をかわせそうにない。
・・・ダメだ!諦める事なんてできない。なんとか、しないと・・・

ロティ様が死ぬ。また、自分の目の前で。
なのに、身体が動かない。
また戦争の記憶が蘇る。あの悪夢が自分を蝕む。
赤い血。金色の霧。冷たい死。
過去と悪夢が自分を縛る。
またなのか。自分はまた何もできずに失うのか。
だめだ。こんな所で終われない。あの人をこんな形で無くしたくなんかない。
(ナナルゥ。強くなろう。色々な事、色々な意味で・・・二人とも、強くなろう。)
あの人の言葉をもう一度聴きたい。できる事なら、あの人の温かさをもう一度感じたい。
震えは止まらない。悪夢は消えない。
―だから、なんだというのだ―!

263 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/07(月) 22:55:30 ID:2d37tuBS0
C

264 名前:4章 刃と炎の向かう先9:2008/07/07(月) 22:56:45 ID:oz2Ofc950
こういう事を繰り返したくないからこそ強く力を望んだのではないか。今力を使わなくていつ使う。
やはり自分には、戦うことしかできないのかもしれない。
本当の意味で誰かを守りたいと願うのなら、力だけでは不可能だというのに。
判っていながら自分は、どうしようもなくただ敵に勝つ力ばかり望んでいる。
それでも、自分は強くありたい。
この力で、これからの時代に生きる人達を、何よりもあの人に降り注ぐ暴力を振り払えるように。
それは根本の解決には決してならない。今の自分はそれ以上の事を、それ以外の事をできない。
だけど自分はこれだけでもいい。みんなを守りたい。死なせたくない。
その中には当然、ロティ様も入っているのだから―!
(『消沈』、お願い!あの人を守る力を、敵だけを退ける力を!!)
「・・・灼熱のマナよ、地の底より疾く来たりて死の顎を閉じよ!イグニッション!!」

「ぐおっ!?」「あっ・・・」
エンレインの足元に亀裂が走り、次の瞬間に紅蓮の閃光で視覚が消し飛んだ。
閃光が消え、煙が晴れた先にエンレインの姿はなかった。
あの強さでは流石に消し飛んだとは思えないし、殺気を感じないと言う事はおそらく退いてくれたのだろう。
焼け焦げ、砕けた地盤を見れば爆発の凄まじさがわかるが、僕自身は意外なほど衝撃や熱気は感じなかった。
「隊長、御無事ですか・・・!?」
よろめきながら近づくナナルゥの顔は不安そうな上に真っ青で、今にも倒れそうだった。
「・・・僕は大丈夫。ありがとう、助かった、よ・・・」
安心させる為になんとか笑顔を作ることができた。
「・・・よかった・・・範囲を、最小限に抑えるように、『消沈』が、力をを・・・貸し・・・」
「わっ」言い終わる前にナナルゥが僕の胸に倒れこんできた。
情けないが、疲れきった身体では支えきれずに一緒に倒れてしまった。
ナナルゥは気を失っている。精神的な負担と安心して気が抜けてしまったのが同時に来たのだろう。
といっても僕も、ほっとしたら身体が動かなくなってしまったが。
みんなの声が聞こえる。コウインさんが呼んできてくれたのだろう。
大丈夫だって言わないといけないんだけど・・・あ〜、ダメかも。もう意識、が・・・

265 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/07(月) 23:00:07 ID:2d37tuBS0
円円円円

266 名前:月野陽介:2008/07/07(月) 23:00:53 ID:oz2Ofc950
4章はここまでで。支援ありがとうございます。<(_ _)>
つーか無駄に時間空けて手直ししまくったわりに文章上手くなってませんね・・・。
ま、ここまできたら最後までいこうと思います。あと2章。
次は・・・Hシーンでも書こうかな・・・?
なんとかシリアスと言うか真面目なのかいてたつもりだったけど
完璧なアホ展開なるかも・・・。・・・怒りませんか?

267 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/07(月) 23:16:54 ID:GME77Bas0
>>266
お疲れ様です

また、次も読ませて貰いますね

268 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/08(火) 14:31:09 ID:bJ3X6hyUO
帰宅次第、ニムントールの試作型短篇を投下してみますね。


269 名前:月野陽介:2008/07/08(火) 17:50:21 ID:rOcF3PbG0
>>251
が一番上が切れてました・・・恥ずかしい。
いらないかもしれないけど一応補完。
「ロティ、ちょっといいか?」
「はい、何でしょう?」
また今回もなんとかツェナを目的地につれてゆき、休憩中の僕を呼び止めたのはコウインさんだった。
ヨーティアさんがエーテルジャンプの改造版とかで助っ人として呼んでくれて
僕達が魔物の大群に襲われて危うく全滅しかけた所を助けてもらったのだが、
その戦いぶりを見てやはり自分がまだまだ未熟という事を痛感させられてしまった。

・・・から始まります。もう手遅れか・・・

270 名前:月野陽介:2008/07/08(火) 17:54:12 ID:rOcF3PbG0
うわ、さらにまちがえてた。
>>253
の最初のやつです

271 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/08(火) 19:53:17 ID:SJ4rrrNU0
>>268
     ヽ)/
  ∠´ ハ`ゝ
  彡//ノハハ〉
  ゞ(0゜ ゚ -゚ノ! PCの前で正座して待ってる
  (0゜∪ ∪ +
  と__)_) + 

>>269
気付いたならばそれは手遅れじゃあないんだぜ

272 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/08(火) 22:58:58 ID:a0/36bZ/0
詰所に出来たサウナでうつむいてぐったりしてたら、スピリットの双子が入ってきたんだ。
俺がいて少し動揺した様子だったが、寝たふりしてたら安心したのか、二人で向こう側に腰掛けた。
そのうちポニテで背の高い娘のほうがこちらの腰のタオル越しをちら見してくる。
先っぽをぴょこぴょこ動かしたらびっくりした様子で、あるかないかだった緊張が解け、二人で思わず笑いあってしまった。
先にあがって体洗ってたら、近くで二人も体洗いっこ始める。
んだけど、そっちの洗い場には備え付けがリンスしかなかったようで

273 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/08(火) 23:26:42 ID:iskbKoti0
  '´ ⌒ヽ  別に、ニムがやりたくてやったわけじゃないから…
  ! ソノノ~)))  ただそれだけ…
 く人リ゚ ー゚ノiゝ  あ〜、も〜、関係無いしうるさ〜いっ!!
  ⊂}!廿i つ 
   く/Цレ'   
    し'ノ  

と言うワケで短編SS(1〜5)投下します

274 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/08(火) 23:27:51 ID:iskbKoti0
短編:負けず嫌い(1)

「お鍋に水入っれって〜♪」
 第二詰所の厨房に、一人の少女が立っていた。
「俎板包丁出して〜♪」
 小柄な体躯をエプロンに包んで上機嫌に料理をしている少女の様は彼女を知る者ならば仰天もので、同時に微笑みも誘われずにはいられない。
 少し吊り気味の団栗眼。ショートヘアーのツインテイル。得意そうな小鼻と口元は少し優しい。
「ふふん、みてなさい…」
 ニムントールが不敵に笑っていた。

 事の始まりは少し前の出来事だった。
「アレ、誰もいないのか?」
 第二詰所を訪れた悠人は無人の居間に立っていた。
 悠人以外の第一詰所のメンバーは任務で全員出払っていた。
 そこで昼食は第二詰所で済ませて欲しいとエスペリアに言われたので悠人が出向いた次第であるのだが、こちらも閑古鳥が無く有様であった。
 どうやら第二詰所の面々も何かの用事で出払っているらしい。
と、
「う…ん。お姉ちゃん…?」
 居間の扉が開き、そこから寝惚け眼のニムントールが入ってきた。
 今し方起きてきたのだろう。解けた髪は跳ね上がり、ズレた寝巻きが肌蹴ていた。
「お?何だ、ニム以外は皆居ないのか?」
 そんなニムントールに悠人が苦笑しながら声を掛けたが、まだ夢半分の彼女は「う〜…」と唸るばかりである。
「ホラ、早く顔を洗って着替えて来いよ」
 悠人の言葉にコックリ頷くと、ニムントールは詰所の奥へと消えて行った。
「う〜ん、皆居ないんじゃ俺が作るしかないよな…」

275 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/08(火) 23:29:28 ID:iskbKoti0
短編:負けず嫌い(2)

 ゴンッ、ズダダダダダッ、バァンッ―!!
「な、何でユートが此処にっ―!?」
 居間の扉が弾かれ、顔を水滴に滴らせたニムントールが叫んだ。恐らくは洗顔中に額をぶつけて目が覚めたのであろう。額が少し赤くなっていた。
「いや、あっちじゃ誰も居ないからこっちでメシを食べる様に言われたんだけど…」
「それに、エプロンなんか…」
 ニムントールの指摘通り、悠人はエプロンの前掛けを着けて厨房に立っていた。慣れた手付きで食材を捌く悠人の様が意外だったのか、ニムントールは少し驚いた。
「まぁ、誰も居ないなら俺が作ろうかと思って」
「ふ〜ん。ユートって料理得意なの?」
 かなり訝しんだニムントールの視線であったが、悠人は気にするでもなく再び料理を再開した。
「どうだろうな?今作ってるのは俺の得意なんだけど、他に何でも上手に作れるワケじゃないしなぁ…」
 取り出した底の深い鍋に水を加え、悠人は食材を入れて煮込み始めた。
 赤い、サラダに良く使われる野菜が大量に入れられるその光景にニムントールは思わず目を剥いた。
「それ、本当にユートの得意料理?今入れた野菜って、普通は煮込まない野菜なんだけど?」
 そんなニムントールの指摘に、悠人は思わず笑みを零した。
「…何かムカつく」
「いや、ゴメンな?でも、確かにニムの言う通りだよなぁって思ってさ。俺もこんな料理じゃなかったら絶対使わないって思うしな」
 鍋に掛けた火を抑え、煮込んで野菜の水分を飛ばし始めると、悠人はまた別の底の深い鍋を出してたっぷりと水を張って火に掛けた。
「それより、早く着替えて来いって。女の子がいつまでもパジャマってのもアレだし…」
「〜っ!!」
 悠人の言葉に、ニムントールの顔が真っ赤になった。
「バカユート、見るなっ!!」
 そう言い残し、ニムントールは自分の部屋へと走って行った。

276 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/08(火) 23:30:46 ID:iskbKoti0
短編:負けず嫌い(3)

「お、戻ってきたな。それじゃあニム、悪いけどテーブルの準備をしてくれないか?もうそろそろ出来上がるしさ」
 着替えを済ませて居間を見ると、悠人が厨房で煮込んでいる鍋の味を調えていた。時折、味を見ては調味料を加え、何やら頷いたりしている。
「それくらい、別に良いケド…」
 布巾を取り、ニムントールがテーブルを拭き始めた。
 か言われなくてもするつもりだったのだが、そんな事を考えていたと思われるとは知られたくないのでニムントールはついぶっきらぼうな口調で返してしまった。
「サンキュ、ニム」
「う、うるさいっ…!!」
 返事としてはあんまりな応えだったが、悠人は気に掛けずに料理を仕上げていった。
「さて、麺も茹だってアルデンテ。ソースも上出来。後はこれを絡めれば―」
 ハクゥテの麺を底な浅い鍋に取り、煮込んだソースを悠人が手際良く混ぜていく。
 ニムントールの目の前で、ハクゥテが鮮やかな赤に染まっていった。
「俺特製、ファンタズマゴリア風ナポリタン、もとい、ハイ・ペリア風ハクゥテの出来上がりだな」
 会心の出来に、悠人は満足した笑みを浮かべていた。

 テーブルに並べられた見たことも無いハイ・ペリアの、それも悠人直々の料理をニムントールは暫くの間じっと眺めていた。
 材料はこっちの世界のものだが、これがあの伝説のハイ・ペリアの料理なのだ。一体、どんな味の料理なのか。
「まぁ、冷めない内に食べるか。いただきま〜す」
 合掌し、悠人はハクゥテを絡めたフォークを口に運び出した。それに倣い、ニムントールもハクゥテを口の中へ突っ込んだ。

277 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/08(火) 23:32:36 ID:iskbKoti0
短編:負けず嫌い(4)

「あ、美味しい…」
 サラダで食べる時の鋭い酸味が解れ、まろやかな酸味に変化していた。他にも塩気やほろ苦さが酸味と相俟って、ハクゥテの麺に信じられない美味しさを齎していた。
(ん?苦味?)
 そこで気が付いた。赤いソースにチラホラ混じる緑のアノ野菜。
「若しかして、リクェム入れたの?ユート」
「うん、入れたけど?この苦さが少し加わると味に奥行きが出来るんだ」
 信じられなかった。いつもは敬遠するリクェムが、この料理には欠かせないアクセントになっていた。
 確かに、この料理からリクェムを抜いてしまえば物足りなさを覚えてしまうだろう。
「美味いか?」
「うん」
 こっくりと頷いて気が付いた。
 悠人がニコニコと笑っている事に。
 不覚であった。
 ニムントールの顔が、みるみるナポリタン色に染まっていく。
 今、自分はどんな表情を浮かべていたのだろうか。
 幸いにも、悠人は料理を食べる事に集中していてニムントールの変化に気が付いていなかった様であった。
 しかし、そんな事は関係無い。今の彼女には既にある決意が生まれていたのだ。
 悠人の料理に美味しいと言ってしまった以上、この屈辱を雪ぐには自らの料理も以ってして悠人に美味いと言わせしめねばならない。
 負けっ放しなど、彼女のプライドが許さないのだ。
(ユートに、ニムの料理で絶対美味しいって言わせる…)
 悠人の料理を頬張りながら、ニムントールはそう決心するのであった。


278 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/08(火) 23:34:26 ID:iskbKoti0
短編:負けず嫌い(5)

 夜の第二詰所のその一室で、ニムントールは早速相談を持ち掛けていた。
 その相手とは―
「お姉ちゃん、ニムに料理教えて。悠人に絶対美味しいって言わせるから」
 カシャーン、と、ファーレーンの手から手入れをしていた『月光』が落ちた。
 普段なら「こら、ニム。ユート様を呼ぶ時は様を付けなさいって言ってるでしょ」と窘める所であったが、今の彼女にはそれ所ではなかったのであった。
「え?急にどうしたの?ニム…」
「どうもこうも、ユートにニムの作った料理を食べさせて美味しいって言わせたいだけ」
 第二詰所の台所を預かる一人である彼女からしてみれば、単純の厨房に立てる人数が増える事は喜ばしい事である。
 しかし、それが特定の誰かの為の料理であるとすれば、それは一体どの様な事を意味するのか。
「えっと、つまり、ニムはユート様に美味しい料理を作りたいの?」
 その質問に、ニムントールは大きく頷いた。
「お願い、お姉ちゃん。どうしてもユートに食べて貰わないといけないから…」
 妹の、娘の、その切実な願いに、ファーレーンは涙を流して了解したのであった。


279 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/08(火) 23:36:57 ID:iskbKoti0
自覚したら終わり、と言うコンセプト…

オイラのニムSSのネタを流用しました
『らしさ』が出ていれば良いなぁ…

きっと、本人たちが気付かない内に出来上がっているのかもしれませんね

280 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/08(火) 23:53:19 ID:iskbKoti0
続編?

皆さんの『求め』が強ければあるいはナニかの扉が開くかもしれませんね

とは言ったものの、"Twinkle fairies"もありますし、先に双子のSSを終わらせてからですね

281 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/09(水) 00:02:53 ID:xKNdTScc0
認めたらデレデレ・・
自覚したら終わりとはよく言ったものですねぇ…

なんにせよGJ!


282 名前:夜明け前のぱすとらる:2008/07/09(水) 08:21:05 ID:qk0iSiXi0

たまに第二詰所に泊まったりすると、枕の違いか、中々寝付けない時がある。
そんな時には、食堂にもぐりこんでエスペリア直伝のハーブを飲んで過ごす。
昼間の喧騒もいいが、こうして皆寝静まった後のしんとした空気も悪くない。
そもそも本来俺は、大勢に囲まれてるよりも独りで居る方が落ち着く性分なんだ。
こうしてハーブから立ち昇る湯気をぼんやり眺め、木製の椅子の軋みを感じるだけで不思議に安心する。
だけど、その日はちょっと違った。
所在無く夜空を眺めていたその窓に、いつの間にか人影が映っていたのだ。
少しびっくりしながら振り返ってみると、戸口に寝巻き姿の少女がぼーっと突っ立っている。
目が合うと、少女は一瞬だけこちらを一瞥し、それから何事も無かったかのように厨房へと向かう。
沈黙。短く刈り揃えた緑色の髪がさらさらと流れ、不覚にもただ呆然と見送りそうになる。
「……って、ニムじゃないか。どうしたんだ、こんな夜更けに」
「……うるさい」
微かだが、厨房に消える前にそんないつもの憎まれ口が返ってきたので安心する。
どうやら幻や幽霊ではないようだ。となると、ただ単に夜中に喉が渇いたとか、そんなところだろう。
新たな来客によって先程までの心地良い孤独さは壊れてしまったが、まあこれは仕方が無い。
第一、ここは俺の家でも何でもないのだから。異世界で、"仮の宿"で、そんな贅沢は言えない。
再びカップを手に取りながらそんなことをつらつら考えていると、ニムが戻ってくる。
彼女はとてとてとやや機械的に歩き、やがて俺の正面に座り、手に持ったコップを一度机に置く。
中身は、クーヨネルキ。よく冷えているのか、透明なコップの表面には細かい水滴が付いている。
山羊のような動物の乳だそうだが、味も色も牛乳に良く似ていて、俺も朝食の際に良く飲む。
座る時に出来た皺が気になるのか、ニムは軽く寝巻きの裾を引っ張り、それからコップを手に取る。
両手で口元に当て、こくこくと飲み干す。喉が動くのを、俺は黙って見ている。ここまで双方無言。

283 名前:夜明け前のぱすとらる:2008/07/09(水) 08:26:05 ID:qk0iSiXi0

「……ふぅ」
「喉が渇いてたのか?」
「……」
コップを置くのを見計らい、話しかけてみる。
するとニムはそこに初めて俺が居るのに気づいた、というような面持ちで顔を上げる。
つまらなそうな目が細くなっている。答えは返ってこない。眠いから、不機嫌なんだろうか。
考えてみれば、いつもファーレーンと一緒な彼女と二人きりでまともに会話をするのは初めてだ。
と言ってもまだ会話にすらなっていないけれど。俺が一方的に話しかけているだけで。
何だか気まずい。独りの時にはあれだけ心地良かった沈黙が、両肩にずしりと重く圧し掛かってくる。
オレンジ色に揺らめくマナ灯の炎のせいで、壁に映った小柄な彼女の影がとても大きく見えてしまう。
しかもニムの、緑柚色の瞳がずっとこちらを観察しているので、俺も金縛りのように目が離せない。
いたたまれなくなり、カップを口に当てると空っぽ。誤魔化すように立ち上がる。
「ニムも、お代わりいるか? ついでに入れてきてやるよ」
「……」
無言を了承と勝手に受け止め、彼女のコップを取り、そそくさと厨房に駆け込む。
その仕草を、ニムはずっと目で追いかけ続けている。背中にまで痛い程の視線を感じるくらいに。
「よ、お待たせ」
「zzz……」
「って、をい」
そして戻ってくると、ニムは机にうつ伏せ、静かな寝息を立てている。
暫く様子を窺ってみるが、起きる気配が無い。軽く肩を揺すってみたが、全く効果無し。
いくらラキオスが温暖な気候でも、このままでは風邪を引いてしまう。
「しょうがないな……よっと」
「ん……んむぅ……」
「……軽いなぁ」
背中におぶり、廊下に出る。寝室が並ぶ通りに近づくと、暗がりにファーレーンが立っている。
どうでもいいけど、手に小さなマナ灯を吊るしてなければ驚いて悲鳴の一つでも上げているところだ。
俺が近づくと、ファーレーンは明らかにほっとしたような表情を見せる。ずっと探していたのだろう。
背中の荷物が目を覚まさないよう、そっと小声で話しかける。

284 名前:夜明け前のぱすとらる:2008/07/09(水) 08:31:21 ID:qk0iSiXi0

「食堂で寝ちまったんだ」
「ユート様……すみません、ご迷惑をおかけしてしまって」
「いや、いいよ。それよりもニムの部屋はどこか教えてくれないか?」
「ここです。あ、でも」
「いいって。ここまで来たら最後まで運んでやるさ。起こしたら可哀想だし」
「……はい。すみません」
謝りながら扉を開くファーレーンの後に続き、部屋に入る。
ベッドにそっと下ろし、シーツをかけてやると、ニムは側に居たファーレーンの服の裾を掴んでいる。
相変わらず寝息のままなので、恐らくは無意識だろう。ファーレーンもされるがままになっている。
そのままベッドの側に座り込み、ニムを見つめる瞳が母親のように微笑んで優しい。
「仲、いいんだな」
「はい……ずっと一緒でしたから」
「そっか」
そこで気づいたが、ニムの髪をそっと撫でてやるファーレーンの寝巻きはうっすらと透ける薄い生地。
夜目に慣れてくると、月明かりのせいでぼんやりと浮かび上がっている体のラインが目に毒すぎる。
内心の動揺を悟られないよう背を向け、殊更平静に努めながら、何気無さを装い周囲を見渡す。
女の子としては、寂しすぎる部屋。机、ベッド。窓に映る、夜空。ここには必要最低限のものしかない。
部屋の隅で、ぼんやりと緑に輝くのは永遠神剣『曙光』。本来なら、必要最低限でもないもの。
戦うことのみにその意義を見出されるスピリットだから。こんな所で独りなのは、きっと辛いだろう。
「……あの、実は」
「ん?」
「その……ニムはたまに」
「たまに?」
「たまに、なんですよ。本当なんです」
「いやだから、何が?」
「あ、その……たまに寝惚けて、そのままふらふらとどこかに居なくなってしまう癖が……」
「あれで最初から寝てたのかよ!」
起こさないようにと気を遣いながら、小声で突っ込む。
全然気がつかなかった。食堂で、普通に応対しようとしていた俺の立場は一体。
良く判らないままぺこぺこと謝るファーレーンを中心に、何だか間抜けな空気が広がっていく。
直前までのしんみりしたような雰囲気などは完全に消し飛んでしまっていた。そんな夜だった。

285 名前:夜明け前のぱすとらる:2008/07/09(水) 08:49:41 ID:qk0iSiXi0

戦いが進むにつれ、敵もだんだんと強くなっていくような気がする。
流石のバカ王も気づいたのか、ラキオスもそれに対応して戦力を強化した。
つまり、今までは控置していたスピリット。ファーレーンとニムを投入したのだ。
元より卓抜した剣技と特殊なマセスの加護を受けるファーレーンは、戦線に絶大な影響を与えた。
補佐する意味で組になっているニムも、ファーレーンの防御を担当しながら頑張っている。
しかし、それでもイースペリアの首都が近づくにつれ、戦いは少しづつ膠着の様相を呈してきた。
敵の防御が厚い部分ではどうしても部隊が進路上で団子状態になり、所構わずの乱戦になる。
沈みかける夕日を背にしたその日も、やはりそんな味方の所在が把握し辛い局地戦の真っ最中だった。
「よし、ここはほぼ片付いたな」
「ん」
「じゃあ後は任せてもいいか? 俺は森の方を見てくるから」
「ん」
何を言ってもん、しか言わないアセリアに街道を後退していく敵への警戒を預け、右手に広がる森を目指す。
森、といっても樹はあまり密生していないから、見通しは比較的良い。奥で小さな湖が水面を輝かせている。
さっき、ファイヤーボールらしき赤い光が走ったのが気になっていた。誰かがまだ戦ってる。
「……ニムッ!」
案の定少し奥へ進んだところで、樹々の隙間に短く刈り揃えた緑色の髪が流れた。思わず叫ぶ。
ニムは三方を敵に囲まれてしまっている。『曙光』を包む光が弱い。そこを狙ってファイヤーボールが飛ぶ。
ずしっ、という爆音。小柄なニムは両手で握った『曙光』と一緒に数歩分後ろに下がる。
シールドハイロゥの輝きが一層鈍くなった。ファーレーンが見当たらない。はぐれたのか、それとも。
「うおおおおおっ!」
とにかく『求め』に力を篭め、オーラを纏いつかせ、そのままレッドスピリットに突っ込む。
彼女が吹き飛ぶのを確認しつつ、枝を足場に滑空してくるブラックスピリットの攻撃を自ら倒れて避わす。
そしてすぐに、捻れた身体を無理矢理振り回し、着地した黒い翼へ横殴りに『求め』を叩きつける。
背中からあり得ない方向にくの字になったブラックスピリットはたちまち金色の霧へと変化してゆく。
残ったブルースピリットはちっ、と舌打ちを残し、飛び去った。森の奥に消えていく翼を見送る。

286 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/09(水) 08:51:48 ID:oKq9othNO
支援

287 名前:夜明け前のぱすとらる:2008/07/09(水) 08:56:21 ID:qk0iSiXi0

気配が完全に無くなったのを確認し、ようやく身を起こす。半身が土だらけだった。
森で地面を転がったのだから当然だ。軽く払い、それからニムの方へと振り返る。
彼女は呆然としてその場にあひる座りをしていた。まだ両手で握っている『曙光』が杖になったような形で。
緑柚色の瞳が大きく開かれたまま動かない。というか、身動ぎもしない。有体に言えば茫然自失。
こんなに吃驚しているニムは初めてみたな、とふと思う。
「よ、危なかったな」
「……ぁ、……ユート?」
「ああ。怪我はないか?」
「ぅ、うん。平気」
「そっか、よかった。それで、ファーレーンはどうしたんだ?」
「お、お姉ちゃんなら足を捻挫したからちょっと後ろに」
「なんだ。それなら駄目じゃないか、独りで突っ込んだら」
「ぁぅ、ごめん」
「……なんだか今日はやけに素直だな」
「でもお姉ちゃんに怪我させた奴らが許せな……ぇ?……ユート?」
「ん? 呼んだか?」
ゲシッ!
「おうっ!?」
「な、ななななによユートのくせに! 偉そうにしないで!」
「ぐっ、い、いきなりなにす」
「……フンッ」
あひる座りのまま脛を蹴り上げてくるなんて、なんて器用な奴だ。
それにしても、俺なんか気に障るようなことでも言ったか? 痛みと供に、そんな理不尽な疑問も湧いてくる。
しかし涙目になりながらふと見ると、ニムの肩は微かに震えていた。小さな体で、強がっているのだ。
するとさっきのやりとりの時も、ショックが抜けないまま俺と認識せずに答えていたのか。なんだ。
判ってしまうと、怒る気も失せてくる。ふっと肩の力が抜け、自然と手を差し伸べていた。

288 名前:夜明け前のぱすとらる:2008/07/09(水) 09:01:26 ID:qk0iSiXi0

「……ほら」
「……なによ」
「腰、抜けてるんだろ? おぶって行ってやるよ」
「なっ! いいっ! 一人で立てる!」
「いいから。ニムだって早くファーレーンに会いたいだろ? 俺も部隊の様子が気になるしさ。頼むよ」
「〜〜〜〜ッッ」
「な? このとおり」
「〜〜〜〜〜〜〜ッッ」
「……ふぅ。よし判った。無言は了承と勝手に受け止める。変なとこ掴んだら言えよ」
「なっ、ちょ、ちょっと待っ……ふあっ!」
「うわ、暴れるなって。落ちるぞ」
「くっ……このぉ……」
「はは、相変わらず軽いなぁ」
「ふんっ! 大きなお世話……相変わらず?」
「おっと、こっちの話だ。急ぐぞ、しっかり掴まってろよ」
「ぅ、うんわかった……ユート?」
「ん? どうした?」
「えっとその……ユートが頼むから、仕方なくだからね。今日は特別おぶさってあげるんだからねっ」
「……ぷっ」
「な、なによ! あと、お姉ちゃんには内緒なんだから! 言ったら殺すっ!」
「わかった、わかったから首を絞めるな。それと、女の子なんだからあまり胸を押し付けるなって」
「〜〜〜〜ばっかじゃないのっ!!」
「いてて、冗談だってば。ははは」
「……ムカつく」
憎まれ口を叩きながらも両腕はしっかりと俺の首に回されている。
子供らしい、熱の高い体温が背中から伝わってきて、それが不思議と安心させてくれた。
でも仲間と合流する直前で無理矢理降りた時の耳元が真っ赤に染まっていたのは、やっぱり内緒なんだろうな。


289 名前:夜明け前のぱすとらる:2008/07/09(水) 09:15:36 ID:qk0iSiXi0

そんな訳で、俺は今日も夜更けにこうして一人、食堂でハーブを飲んで過ごす。
昼間の喧騒もいいが、こうして皆寝静まった後のしんとした空気も悪くない。
そもそも本来俺は、大勢に囲まれてるよりも独りで居る方が落ち着く性分なんだ。
こうしてハーブから立ち昇る湯気をぼんやり眺め、木製の椅子の軋みを感じるだけで不思議に安心する。
「……来たか」
気配に振り返ってみると、戸口に寝巻き姿の少女がぼーっと突っ立っている。
目が合うと、少女は一瞬だけこちらを一瞥し、それから何事も無かったかのように厨房へと向かう。
沈黙。短く刈り揃えた緑色の髪がさらさらと流れ、不覚にも噴出しそうになってしまう。
隠しているが、頬っぺたが軽く赤みを帯びている。これで本当に寝惚けているのか、疑いたくなるほどだ。
彼女はとてとてとやや機械的に戻り、やがて俺の正面に座り、手に持ったコップを一度机に置く。
中身は、いつものクーヨネルキ。よく冷えているのか、透明なコップの表面には細かい水滴が付いている。
ニムは軽く寝巻きの裾を引っ張り、それから両手で口元に当て、こくこくとそれを飲み干す。
穏かな時間が流れ、やがて頭を揺らせたニムは机に突っ伏す。それを見計らい、俺は抱き上げる。
廊下を歩いていくといつものようにファーレーンが待っているので、寝巻きの方は見ないように話しかける。

290 名前:夜明け前のぱすとらる:2008/07/09(水) 09:25:13 ID:qk0iSiXi0

「食堂で寝ちまったんだ」
「ユート様……いつもすみません、ご迷惑をおかけしてしまって」
「いや、いいさ。よっと」
もう既に勝手知ったるニムの部屋に入り、ベッドに寝かしつけ、シーツをかける。
側に座り、寝息が鎮まっているのを確かめ、それからニムの髪をそっと撫でてやる。
それらをずっと、後ろからマナ灯で照らしたファーレーンが見守ってくれる。
つまりいつの間にか、最初の頃と役目が逆転してしまった。それというのも。
「……やっぱり離してはくれないな」
「くす……はい。夜明け近くまで寝顔を見ている時もありますから。ですけど」
「うん。……飽きない、よな」
「……はい」
シーツからはみ出している小さな手。その先は、俺の服の裾をぎゅっと握って離さない。
最近はほぼ毎日になってしまった、この寝不足気味になる行事。独りではない夜。
大勢に囲まれるよりも。その筈だったのに。なんだろう、椅子の軋みよりも深く感じるこの安心さは。
ふと、窓の外を見る。相変わらずの星空。部屋を満たす静寂。それから……側にある温もり。
「……ん……ユー……お姉ちゃん……」
「惜しい」
「ふふ、もう少し、ですね」
きっと、寝言がフルネームで聞けた時。その理由もわかる気がする。それまでは、ゆっくりと。
この無防備な、あどけない寝顔を充分に堪能したいと思う。そんないつもの、独りではない夜明け前――――

291 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/09(水) 09:27:14 ID:qk0iSiXi0
とか、ニムブームに乗ってみる
支援、ありがとうございました。誤字脱字ハリオンマジック等御指摘があれば幸いです。

>>279
ニムのお話の筈なのに、何故か涙を流して了解したファーレーンの方に涙を流すほど激しく首肯せざるを得ないのです

292 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/09(水) 20:32:28 ID:CcxEELXB0
>>291
乙です。
ニムものなのにファーレーン(の体)に目が行ってしまう辺りが信頼の人だねぇw
あー、目に浮かぶ気がするなぁ、寝惚け眼で不機嫌そうに睨んで来る目。
擬態語は「じとーん」って感じかなぁ。


×:ファイヤーボール
○:ファイアボール

△:安心さは
○:安心は
○:安らぎは

かな。
あと、他作でもあったような気がするけど、
?:ハーブ
○:ハーブティー
他作でしばしば使われてる「〜を楽しむ」なら通しかなと思うけど、
「〜を飲む」については要検討だと思う。

293 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/10(木) 01:24:43 ID:GuyxEw2IO
♪ニームニムニム強がる娘


ファーの涙にはもらい泣きを禁じ得ませんなw

そしてクーヨネルキで髭を生やすニムの口元を拭いてあげたく候うw


「これはさしずめ、ファーレーン殿が母親、ユート殿が父親、そしてニムントール殿がその娘ですな」
「な、い、いつからいたんだよウルカ!?」
「ナナルゥ殿の深夜の調べを味わいに来たところなにやら……というところですが。なに、ユート殿。詰所ごとに家庭を持つというのも男の甲斐性でありましょうや、ふっ……」
「ちょ、いや、これは」「エスペリア殿には黙っております故、ご安心めされよ」
「いや、待て、勝手に配慮したつもりになるなっ!」



294 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/10(木) 09:19:24 ID:t9tqapk80
あーっ、もうっ!
ニムはムスメなのかイモウトなのか、はっきりしてよねっ

295 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/10(木) 10:41:52 ID:Ypa12az30
嫁で。

296 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/10(木) 13:10:17 ID:FTft6S+H0
義妹

297 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/10(木) 16:33:18 ID:cuEQqOeoO
ニムントールはいつまでも刺の抜けない儘でいて欲しい…

298 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/10(木) 20:30:56 ID:ejEVte5q0
新妻ニム 神剣の誘惑 〜 んぐぅっっ!!お姉ちゃん……助…け…… 〜


(´-`).。oO(なんだかフ○ンス書院みたいになってしまた)

299 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/10(木) 20:54:20 ID:JBKLCp630
誘惑・・?って思ったらユートが求めに負けたのか
ってかイービルルートwwww

300 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/11(金) 00:07:03 ID:1pOKBfBj0
ニムントールの短編の続き(6〜8)を投げても宜しいですかね?

301 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/11(金) 00:11:16 ID:TJUqXVrZ0
短編:負けず嫌い(6)

「………」
 ニムントールにナポリタンを作ってから数日経ったある日。
 第二詰所の食堂で、悠人は一人テーブルに着いていた。
 厨房からは料理を作っている気配が伝わってきたが、悠人は底の無い不安に駆られていた。
「ユート、いいからちょっと来て…」
 珍しくニムントールの方から声を掛けられ、のこのこホイホイ付いて来た結果がコレであった。
 心に刻まれ、半分は傷となった思い出が甦る。
(まぁ、ニムは回復魔法が得意だしなぁ…)
 悠人は既に悟りの境地に達していた様であった。
 ぞくり…
「―――ッ!?」
 背筋に走る悪寒に悠人は周囲を見渡した。
 そして、ソレを見付けた悠人は思わず息を呑んだ。
 食堂の入り口の僅かに開いた扉の隙間。
 ロシアンブルーの瞳が、じっと悠人を見ていた。
 何処か、酷く悲しそうな色を灯していた。
(まさか…)
 ここ暫くの間、悠人は一人の時に誰かの視線を度々感じる事があった。最初は気の所為だと思っていたのだが、ある日を境に確信へと変わってしまった。
 夜、誰かに見下ろされている気がして目を覚まし、ふと視線を感じた窓の方を見て悠人は凍りついた。
 人の手の形をした曇りが、窓にベットリと張り付いていたのだった。
 それから、夜中に目を覚ます度に悠人は窓に張り付いている手形の曇りに怯える様になった。
 窓を開けて外を確認しようなどとは思いもしなかった。
 窓や扉と言うものは本質的に門や結界であり、それを開くことは外のモノを『招き入れる』行為なのだと言う。

302 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/11(金) 00:12:38 ID:TJUqXVrZ0
短編:負けず嫌い(7)

 そう、怪談などで良くお目に掛かるアレである。
 もし、あの手形はそれを誘う罠だとすれば…。
 悠人は頭から毛布を被り、長い夜が明けるまでガタガタと震えていたのだった。
 そして、昨夜は激しい雨が降っていた。
 ここ最近の夜の視線で、既に館の軋む音にすら怯える様になっていた悠人は少し安心していた。
 雨が降っていれば不気味な音も聞こえない。雷も単なる自然現象に過ぎない。
 何より、外が濡れていれば手形の曇りも出来はしないからであった。
 悠人は久しぶりに安眠を享受する事が出来たのだ。
 だが何故だろうか。悠人はふと夜中に目を覚ました。
 雨は依然激しく、時折雷鳴が轟いていた。
 不安に駆られて窓を見たが、矢張り雨に濡れた窓に手形の曇りなどありはしない。真っ黒な闇の帳が何処までも広がっているだけだった。
 悠人が安堵した瞬間、悠人の部屋が稲妻の閃光に包まれた。
 そして、悠人は見たのだ。
 稲光に映る、悠人の窓に張り付いていた人影を。
「う、う、うわあぁぁぁぁーっ!!!?」
 悠人はそこから先の記憶が無い。
 悲鳴に駆けつけたエスペリアが言うには悠人は床に倒れて失神していたらしい。
 よく恐怖のあまりに失神するなどと言うが、アレは本当なのだと悠人は思い知った。
 心が恐怖で壊れない様に情報を遮断する防衛本能なのだ。
 稲光の逆光で顔が見えなかったが、只濡れたこちらも見ていたロシアンブルーの瞳だけが悠人の脳裏に残っていた。
(ここ連日の視線の正体は、ファーレーンだったのか?)
 と、
「ユート、出来たから…」
 ニムントールの声に思考に没頭していた悠人は我に返った。
 見れば、ニムントールがトレイに料理を載せて厨房から出て来ていた。
 スープにサラダ、そしてパンとハーブティー。
 匂いも見た目もかなりまともであった。

303 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/11(金) 00:16:06 ID:TJUqXVrZ0
短編:負けず嫌い(8)

「じゃあ、食べて…」
 悠人の前に並べ、ニムントールがテーブルの向かい側に着いた。
「い、いただきます…」
 神妙な面持ちで、悠人は合掌した。
(マトモな味であってくれ…)
 かなり失礼な願いであったが、過去のトラウ―、思い出からそう思ってしまう事は仕方の無い事であろう。
 覚悟を決め、悠人はスープを掬って口へと運んだ。
 ごくり…。
 鳴らした喉は、誰のものであったか。
 二人だけの食堂に沈黙が流れた。
「ゆ、ユートっ!?」
 沈黙を破ったのは、ニムントールであった。
「ち、ちょっと、何で涙なんか流して…!?」
 ニムントールの言う通り、悠人はダバダバと涙を流して泣いていた。
「そ、そんなに酷かった?味見はちゃんとしたのに…」
 ニムントールが狼狽したが、悠人はふるふると首を振った。
「違うから、不味くて泣いてるわけじゃないから…」
「え…?」
 ニムントールの目が丸くなった。
「いや、ちょっと感動してさ…」
「え、それって…?」
 驚いた。
 悠人の料理が美味しかっただけに、悠人が自分の料理でここまで感激してくれるとは思ってもいなかった。

304 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/11(金) 00:17:33 ID:TJUqXVrZ0
短編:負けず嫌い(8)

「そ、そんなにニムの料理が良かったの?」
 ニヤけそうな頬をプライドで引き締め、ニムントールは悠人に訊いてみた。
「うん、普通に美味くて何か涙出てきた…」
 嘘偽りの無い悠人の言葉に、ニムントールは内心で拳を突き上げた。
(やった!!ユートに美味しいって言わせた!!)
「そ、それじゃあニムも食べようかな〜」
 そう言うと、ニムントールは厨房に戻り悠人の向かい側に料理を並べた。
(ここでならニムの料理に満足したユートの顔が見れるし…)
 勝った気満々で、上機嫌なニムントールは心行くまで料理と悠人の様を堪能したのであった。
 そんな光景を、食堂の入り口から眺める者が一人。
「に、ニム〜…」
 泣き崩れるファーレーンであった。

305 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/11(金) 00:20:05 ID:TJUqXVrZ0
最後の投下が改行が多いと突っ撥ねられました…
ちょっとぐらい良いジャンカよぅ…

今回は、ファーレーンにもスポットライト(稲光)を当ててみました
如何なモンでしょう?

306 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/11(金) 09:07:51 ID:zrV9SyytO
飛馬の姉ちゃん乙
悠人に張り付く意味がいまいち見えんがw
ニムに相応しいか興信所ディテクティブなのかしらんw

「ん、ユート。ニムの料理はうまかったのか?……そうか」
「ア、アセリア?
包丁研ぎはもう十分ですよ!?」
「……ん」

アセリアがアップをはじめたようです。


×トラウー
○トラウマ


307 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/11(金) 09:50:00 ID:jgZqqRfx0
>>306
>×トラウー
>○トラウマ
これは「(ry」とか「げふんげふん」の類じゃないのか

ニムがかわいすぎて僕も失神しちゃいます><

308 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/11(金) 09:50:54 ID:QEMNG6LxO
>>306
トラウ―の『―』は長音符号(ー)ではなくダッシュ(―)なんですね
紛らわしくてスイマセン…
ファーレーンの念が込められた悠人への視線を考えていたら、何故かオイラの話では監視に発展してしまいました…
悠人、逃げて〜

309 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/11(金) 14:39:20 ID:zrV9SyytO
>308
ありゃ、そうか。スマソ
携帯だからよくみえんかった。
だがそうすると、読点がいらない気が酢テミ。「―」も二つ使う方がよいと思う。


ところでウルカの場合、オルファリルをオルファと呼ぶのにためらいがあったけれど、ニムに対してはどうだったんだろうな。


310 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/11(金) 15:48:31 ID:QEMNG6LxO
>>309
そうですね、配慮が足りませんでした…orz

オルファリル本人がオルファと呼んで欲しいと言っていたので「オルファ殿」と呼んでましたが、ニムントールの場合「ニムと呼んで」とは言われない気がします
多分、ウルカは「ニムントール殿」と呼ぶのが一番違和感が無いのかもしれませんね

311 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/11(金) 15:54:55 ID:QEMNG6LxO
トコロで、ハリオンの短篇SSがあったら読みたいと言う方はいらっしゃいますかね?

312 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/11(金) 16:00:59 ID:VH6orrbG0
( 'A`)ココニイルゾ!

313 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/11(金) 16:32:12 ID:QEMNG6LxO
じゃあ、今から作ってみます…

314 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/11(金) 22:42:20 ID:StzQUmnS0
逆ハリオンマジック、名付けてヘリオンマジック誕生の予感

315 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/11(金) 23:22:09 ID:bhmuX04A0
ハリオン最愛の俺が来ましたよ
短編楽しみに待ってます

316 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/12(土) 01:18:59 ID:vjrv3kjS0
何か方向性がアレになってしまいましたが一応出来たのでSS(1〜7)を投下します

317 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/12(土) 01:20:47 ID:vjrv3kjS0
短編:ハリオン・リヴァイブ(1)

「痛ててて…。ハリオン、回復して欲しいんだけど良いかな?」
「はいは〜い。お姉さんのお任せですよ〜?」
 戦いを終え、傷を負った者たちは各々の部隊で最も回復に長けた者の元で治療を受けていた。
 そして、悠人もその例に漏れず同じ部隊であったハリオンの世話になっていた。
「お、ナナルゥも怪我したのか?」
 ハリオンの元にやって来た悠人は先客がいた事に気が付いた。
 主に後方支援に徹している彼女が怪我をするなどとは珍しい事態である。
「敵の<アイス・バニッシャー>の消化と、下がりすぎたマインドを上げる為の戦略的負傷です。問題ありません…」
「?」
 首を傾げた悠人であったが、ナナルゥの判断の的確さを信用してそこは聞き流す事にした。
「お待たせしました〜。次はユート様の番ですね〜」
 ナナルゥの治療を終えたハリオンが『大樹』を構えて悠人を呼んだ。
「あぁ、それじゃあ頼むな。ハリオン」
「はい、それでは〜。『大樹』〜、お願いしますね〜…」
 ハリオンの詠唱に呼応する様に周囲に緑のマナが満ち始め、癒しのオーラが立ち昇った。
 と、
「あら〜?」
 そんなハリオンの不思議そうな声と同時に、発動しかけていた回復の魔法が霧散した。
 「おかしいですね〜?」とハリオンが再び詠唱を始めるが、やはり魔法は不発してしまうのだった。
「どうしたんだ?ハリオン」
「え〜っとぉ。どうやら回復魔法のマナが底を尽いたみたいですね〜」
「えぇっ!?」
 「困りましたね〜」と、ハリオンは申し訳無さそうに悠人を見た。
「………」
「いや、別にナナルゥが悪いわけじゃないからな?今日も活躍してくれてたし、充分援護して貰ったしな」
 じっと見詰めてきた無言のナナルゥに悠人は焦った声を上げた。こんな仕草で来られては悠人の方が反応に困ってしまう。

318 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/12(土) 01:23:02 ID:vjrv3kjS0
短編:ハリオン・リヴァイブ(2)

「あ〜…」
「ん、どうしたんだ?ハリオン」
 声を上げたハリオンに、悠人が思わず声を掛けた。
「新たな技を習得しました〜♪」
「え、もしかして回復魔法か?」
「はい〜。アタック・スキルでも〜ディフェンス・スキルでもないですよ〜」
 天啓が下ったかの様に、ハリオンは胸の前に手を組んでニコニコと微笑んだ。
「じゃあ早速その魔法で回復してくれ。ハリオン」
「解りました〜」
 『大樹』を構え直したハリオンの前で、悠人は治療を待った。
「それではいきますよ〜?『大樹』〜もう一度お願いしますね〜」
 ハリオンの詠唱に伴い、周囲に再び癒しのオーラが満ちていく。
(アレ?そう言えばハリオンって何の魔法を覚えたんだろうな?)
 回復魔法を受けながら、悠人はふとそんな事を考えた。
(確か、<アース・プライヤー>や<キュアー>とか<エレメンタル・ブラスト>を覚えてた筈なんだよな?あぁ、多分<ハーベスト>かな?)
 ハリオンの魔法を思い出していた悠人であったが、癒しのオーラで傷が治る心地良さに次第に気にしなくなっていた。
(まぁ、傷が治るなら贅沢は言ってられないよなぁ…)
 悠人がそう思った瞬間、ハリオンが『大樹』を掲げて魔法の発動を宣言したのであった。
「<リヴァイブ>〜!!」
 悠人が、ほんわかと緑のマナに包まれた。


319 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/12(土) 01:31:29 ID:vjrv3kjS0
短編:ハリオン・リヴァイブ(3)

「ハリオン、ナナルゥ。先程の戦闘からユート様のお姿が見えないのですが、存じませんか?確か、今日は貴女たちと一緒だった筈です」
 任務後の全員の点呼を確認していたエスペリアはハリオンとナナルゥを呼び止めた。
 既に先の戦闘からは結構な時間が経っているにも関わらず、悠人は一向に点呼に集まって来なかったのだ。
「まさか…!!ユート様に何かあったのですか…!?」
 不吉な想像に襲われたエスペリアが有無を言わさぬ強い口調で詰め寄った。
 だが、ハリオンもナナルゥもそんな重大な事を隠す様な人物ではない。そうエスペリアは思い直して再び思案に暮れた。
 では、何故悠人は姿を見せないのであろうか。
「え〜っとぉ。ユート様でしたら今着替えをなさっていると思いますので〜、もう少しすればお見えになると思いますよ〜?」
 ハリオンの答えに、エスペリアは胸を撫で下ろした。
「全く、着替えをなさるのでしたら私に報告なさってからして頂ければ良かったのに…。それに貴女たちも貴女たちです。ユート様が来られないと知っていたのなら、私に――」
とたとたとた…!!
 間隔の短い足音を響かせ、幼い少年が三人の元に駆けて来た。
「ごめんなさい、着替えてたら遅くなっちゃって…!!」
 息を切らせた少年がペコリとエスペリアに頭を下げた。
「え?あ、あの…?」
 突然の少年の言動に、エスペリアが狼狽えた。一体、この少年は誰であろうか?
「あらあら〜。ちゃんと一人で着替えられたんですね〜」
 そんなエスペリアを尻目に、ハリオンは少年の頭を優しく撫でて褒めた。少し照れ臭そうな仕草が可愛く見えた。
「えっと、ハリオン。失礼ですが、そちらの方は…?」
 説明を求めるエスペリアに、ハリオンが少し考える素振りをした。言いたくないと言うよりも、どう説明すれば良いのか解らないと言う具合であった。


320 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/12(土) 01:36:42 ID:vjrv3kjS0
短編:ハリオン・リヴァイブ(4)

「えっと、僕は――」
 言いかけた少年を、ナナルゥが後ろ方抱き抱えて持ち上げた。
「ウチの子です…」
「はい…?」
 ナナルゥの意味不明な言葉に、エスペリアも間の抜けた返事をしてしまった。
 そんな二人を見兼ね、はりおんあがおずおずと喋りだした。
「え〜っとですね〜。エスペリアも薄々気付いているかもしれませんが〜、この男の子はですね〜」
 何やらハリオンが説明を始めたが、エスペリアはそれが異世界の言葉にしか聞こえてこなくなっていた。
 確かに、最初に見た瞬間から強烈な既視感を感じていた。
 硬質そうなさんばらの黒髪に、同じ色をした漆黒の双眸。腰に差された少年が持つにしては長大な鉈の如き蒼い刀剣。
「まさか…」
 エスペリアの中で、在り得ない仮説が導かれる。
 理性がそれを否定する一方で、もう一つの理性が冷静に事態を認識しようとしていた。
 神剣は時に人智をも自然法則をも超越した、信じられない奇跡を起こすと言う事を。
 半信半疑のエスペリアと、ナナルゥに抱き抱えられた少年との目があった。
「はい、高嶺悠人です。点呼完了しました〜」
 にぱっ、と少年が――若返った悠人が元気良く宣言した。

「つまり、ハリオンの<リヴァイブ>で悠人を治療した結果。ユートはあの様になってしまったと…」
「は〜い、そうですね〜」
 レスティーナ女王の質問にハリオンがのほほんと答えた。
 ラキオス城の作戦会議室は、物々しい雰囲気で満ちていた。
 集められたメンバーはレスティーナ女王を始め、スピリット隊全員。それにヨーティアとイオを合わせた総勢16名。
 因みに悠人はナナルゥの膝の上に抱えられ、事の成り行きを黙って見ていた。
「まぁ、一応今回の件について私なりに仮説を立ててみたけど。先ず、それについて説明しようじゃないか」
 会議中、今まで聞き役に徹していたヨーティアが板書しながら説明を始めた。


321 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/12(土) 01:41:53 ID:vjrv3kjS0
短編:ハリオン・リヴァイブ(5)

「神剣魔法についてだが、これには大きく二種類の魔法に分類される。対象を選ぶ魔法と選ばない魔法だ」
 カツカツと図を描き、ヨーティアが説明を書き込んでいく。
「で、だ。先ず対象を選ぶ魔法についてだが、これは条件が揃わないと発動しないタイプの魔法だな。まぁ、青スピリットの<アイス・バニッシャー>とかだと解り易いか?」
 ヨーティアの説明に、年少組を中心にして、おぉ!!と声湧き上がった。
「で、次に対象を選ばない魔法だが、これは術者のみで発動出来る魔法だ。今回の<リヴァイブ>もそうだが、対象を選ばないから必ず発動するのが特徴だ。ここで便宜的に前者を不完全魔法、後者を完全魔法と呼ぶ事にするよ」
 主に年少組以外が頷くのを確認すると、ヨーティアは更に説明を続けていった。
「不完全魔法についてだが、この魔法は基本的にマナを通す回路が一部致命的に欠落している。対象がいないと発動しないのはその為だな。だから、対象そのものを回路に取り込む事で回路を完成させて発動しているワケだ」
 頭脳派が頷いた。
「今度は完全魔法だが、これは初めから魔法が発動する回路が出来上がっている。だから術者がマナを注ぐだけで発動出来るんだな」
 年少組の中から、幾つかの寝息が聞こえ始めた。
「そして問題の<リヴァイブ>だが、これは普通の回復魔法とは大きく違う。何せ一度霧散したマナを回収して再構築する魔法だ。限定的だが、ある意味死を超越した究極の魔法だと言えるね」
 「全く、神剣ってぇのは恐ろしいモンだね」と、賢者は笑った。
「そこでだ、何故ボンクラが縮んだのかについてだが、その前にハリオン。一つ訊いくけど正直に答えるんだよ?」
「ふぁい〜。どうぞ仰って下さい〜」
 ぽわぽわと、半分夢見心地なハリオンが目を擦りながら答えた。


322 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/12(土) 01:48:24 ID:vjrv3kjS0
短編:ハリオン・リヴァイブ(6)

「ボンクラに<リヴァイブ>を掛ける時に、今のボンクラを想像してなかったかい?それも相当強烈に…」
「そうですね〜。きっと子供の頃のユート様はこんな風なんでしょうね〜、って考えちゃいましたね〜」
 ハリオンのあっさりとした物言いに、ヨーティアは眼鏡のズレを直した。
「まぁ、ハリオンの言った通り。多分これが今回の原因だろうね。術者に完全に依存して発動出来る上に再構築の魔法だ。
本来は対象者の意識によって再構築の情報が上書きさせられるのが普通だが、ボンクラが気を抜いたのかハリオンの想像が逞し過ぎたのか。兎に角、こうなっちまったってワケだ」
「あらあら〜。そうだったんですね〜」
「何で、アンタはそんな事を考えてたのよ…?」
 ヒミカが額を押さえて頭を振っていたが、ハリオンはほんわかと平常通りに微笑んでいた。
「あ、でも〜。もう一度<リヴァイブ>を掛けたら元に戻られましたから〜、大丈夫だと思いますよ〜?」
 ハリオンの台詞に、会議室の空気が凍結した。
「それを早く言いなさい!!」
「やぁん♪」
「まぁ、ボンクラをイメージしてもう一度再構成すれば元に戻るのは道理と言うワケだ…」
 一応、解決策として予想してはいたものの。こうもあっさり辿り着いてしまった事に疲れたのか、ヨーティアが何処か気だるそうに呟いた。
「それでは私が元に戻しますので。ナナルゥ、ユート様をこちらへ」
 エスペリアが名乗りを上げ、この件は終了と誰もが思っていた。
 否、一人だけは。或いは、二人はそうは思っていなかったのかもしれない。
「その命令には、従えません…」
「え…?」
 まさかのナナルゥの反対意見に、エスペリアのみならずその場の全員が耳を疑った。


323 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/12(土) 01:51:36 ID:vjrv3kjS0
短編:ハリオン・リヴァイブ(7)

「今元に戻った場合、ユート様の着ていらっしゃる服が破れてしまう可能性があります…」
「あ…。そ、そうでしたね…」
 ナナルゥの説明に、エスペリアは安堵した。
 確かに、ナナルゥの言う通りである。
「では、服を脱がせて差し上げて、その上に何か羽織らせましょう。そうすればユート様が元に戻られても大丈夫ですから…」
 エスペリアが手を伸ばして悠人を受け取ろうとするが、ナナルゥは黙ってエスペリアを眺めていた。
「ナナルゥ?」
 思えば、ずっと最初に気付くべきであった。
「………」
 片時も悠人を抱いて話さないナナルゥの状態に。
「ナナルゥ!?」
 そう、気付くべき時には遅過ぎたのだ。
 しゅばっ!!
 突如、ナナルゥが跳躍し、会議室の出入り口に降り立った。
 その光景に、誰もが目を疑った。
「う…ん?ナナルゥお姉ちゃん?」
 今まで寝ていた悠人が目を覚ましたが、本人は少し揺れた位にしか感じていないのだろう。怯えた様子は微塵も無かった。
「何でもありません。眠いのでしたらまだ眠って頂いて構いませんので…」
 ナナルゥがそう言うと、悠人は再びナナルゥに抱き抱えられたまま眠り始めた。
「訓練の賜物です…」
 何処か誇らし気に語るナナルゥであった。
「それでは、失礼します…」
 そう言い残し、ナナルゥは悠人を抱いて走り去って行ったのだった。
「あらあら〜。ユート様が気に入っちゃったんですね〜」
「それだけっ!?」
 ハリオンが盛大に突っ込まれた。
「まぁ、面白そうだから暫くはこの儘でも良いんじゃないのか?」
 「ナナルゥを捕まえて〜!!」「ユート様が攫われた〜!!」と、俄かに賑やかに成り始めた様を見ながら、ヨーティアは一人かんらかんらと笑っていた。
 悠人争奪戦の火蓋が切って落とされた。


324 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/12(土) 01:54:17 ID:vjrv3kjS0
ナナルゥ暴走し過ぎだろう…orz
すいません、ファイアボルトはぶつけないで下さい…

325 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/12(土) 01:57:39 ID:VpwWYSBU0
ハリオンssと思いきや・・・ナナルゥが主役とは!
とりあえずユート、俺とかわr ウワナニヲスル  ファイアボルト!

326 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/12(土) 09:03:02 ID:cOAf2SvaO
ナナルゥに萌えた。

が、根本的疑問が2つっていうかそれがこの話のキモ・オチかと思た。

そしてなぜか絶対ロリスピチルドレン解禁! とか連想した俺コウイン

327 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/12(土) 09:58:57 ID:vjrv3kjS0
>「ウチの子です…」

個人的にはココが好き

ってか、今週は寄り道ばっかりで全然双子SSを書いてないですよ…orz

328 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/13(日) 00:01:59 ID:10NqEywQ0
とか言いつつ、実は書いてたりするンですケドね…

構成は1〜11ですかね?
もっと推敲しなさいと怒られまして、かなり手間取っております
いや、悪いのはオイラなんですよ
眠い頭で投げるから暴投しちゃうンですよね…orz

さて、今回は連絡スレにお世話にならない様に頑張ります

329 名前:Twinkle faireis ◆f.DQhHGo4M :2008/07/13(日) 00:05:45 ID:10NqEywQ0
二章:漆黒の翼、再び…(1)

 第一詰所を飛び出した時にはあれ程けたたましく鳴り響いていた半鐘。
 それもラキオス城が見えて来る頃には神剣魔法の爆音と怒号、そして逃げ惑う人々の悲鳴だけに代わっていた。
「クソッ…!!」
 城内を走る悠人は思わず悪態を吐いた。
 噎せ返る様な血の匂い。事切れた数多の兵士たち。
 城内は既に戦場と成り果てていた。
 否、それは戦場ですらない一方的な虐殺である。
 人間よりも遥かに優れた身体能力に加えて神剣による加護。そして幼少より徹底的に戦闘技術を仕込まれたスピリットが相手では人間には抗う術は無かった。
 悠人は改めて戦慄していた。
 スピリットと言う存在に。
 この世界の危うさに。
「ユート様…」
 振り返ると、悠人を怯えた表情でネリーが見上げていた。その隣を走る、同じ色を浮かべたシアー。
 この凄惨な光景に対してか、それとも同じスピリットが人間を襲った事に対してか。
 確かに、それらに対して衝撃を覚えなかったわけではないのだろう。
 しかし、それらに衝撃を覚えたからこそ二人は思い当ったのだ。
 悠人が何を考えてしまったのかを。
 それは、とても恐ろしい想像であった。
 悠人がスピリットを恐れる事が。
 二人を、恐れる事が。
 悠人に見捨てられてしまえば、きっと心が砕けてしまうから。
 振り向いた悠人の目が、黒い瞳が真っ直ぐに二人を捉えていた。
 逸らさずに、見ていた。

330 名前:Twinkle faireis ◆f.DQhHGo4M :2008/07/13(日) 00:09:43 ID:10NqEywQ0
二章:漆黒の翼、再び…(2)

「今こんな事言うのは不謹慎かもしれないけど、俺は絶対に二人の事は嫌いになんかならないからな」
 頬を掻きながら悠人が言った。
 その言葉に、二人の中で抑えきれない嬉しさが弾けた。
 恐くないわけがない。戸惑いだってあるのかもしれない。
 それでも、悠人は受け入れてくれようとしてくれているのだ。有りの儘に、在るが儘に。
「さあ、早く敵を倒して皆を助けような!!」
「「うんっ…!!」」
 その言葉に、二人は大きく頷いた。
 手に持つ神剣から敵の気配を伝えてきた。強い、それも相当な手練れの刺客たち。
 それでも、心は揺るがない。
 負ける気がしなかった。
「いくぞ、二人とも!!油断するなよっ!!」
 悠人の檄が飛ぶ。
 神剣からとは違う、魂の高揚が全身に力を漲らせた。
「任せといて、ユート様っ!!」
「シアーだって、頑張るよ…!!」
 頼もしい返事が悠人の背中から聞こえてきた。

331 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/13(日) 00:12:13 ID:RSJOXNzS0
えんえんえんえん

332 名前:Twinkle faireis ◆f.DQhHGo4M :2008/07/13(日) 00:13:35 ID:10NqEywQ0
二章:漆黒の翼、再び…(3)

「そっか、レスティーナは第二詰所の方に向かってたんだな…」
「うん。他の皆が守ってるから、もう大丈夫だよっ」
「敵もいっぱい倒したから…」
 スピリットの館へと通じる城の中庭からの抜け道の半ばを過ぎた辺りで、悠人は合流したネリーとシアーからの報告に安堵していた。
 途中で第一詰所と第二詰所とに道が分かれていた為、第一詰所のメンバーと残りの第二詰所のメンバーで二手に分かれる事にしたのだが、どうやらあちらで保護されたらしい。
 先程、伝わってきた神剣同士がぶつかり合う気配も今では良く知る馴染みの気配だけになっていた。
 一方、悠人たちは依然として第一詰所に向かって走っていた。
 地下に隠れているとは言え、佳織の安全が絶対に保障されているわけではない。
 一刻も早く佳織の傍に居てあげたかった。
 何故か、悠人の中にじわじわと不安が広がってきていた。
「―っ!?」
「ユート様っ!?」
「〜っ!!」
 『求め』の警告に続き、ネリーとシアーが緊張した面持ちで悠人を見た。後続のメンバーも、その事態の急変にその場に立ち止まる。
 悠人の背中に、じっとりと戦慄の汗が滲み出してきた。前を向いて見えないが、恐らく背後のメンバーも同様であろう。
 この神剣の気配、そして重圧感。
 忘れる筈が無かった。
「再び見(まみ)える事になるのも、また縁…」
 漆黒のウィング・ハイロゥをはためかせ、その妖精は悠人たちの前に降り立った。


333 名前:Twinkle faireis ◆f.DQhHGo4M :2008/07/13(日) 00:16:55 ID:10NqEywQ0
二章:漆黒の翼、再び…(4)

 敵地に在りて、泰然自若。
 多勢に揺るがぬ、その闘志。
「やはりお前か、ウルカ…!!」
 イースペリアで対峙した神聖サーギオス帝国最強のスピリット、<漆黒の翼>ウルカであった。
 月の欠片を散りばめた白銀髪の下、その切れ長の鋭い双眸が悠人を見据えていた。
「何でこんな事をしたんだ!?やっぱりお前も、神剣に操られてやっているのか!?」
「神剣の声は手前には聞こえぬ。それ故に戦う意味を探している。この剣を振るう意味を…」
「何言ってやがるっ!!これだけ人が死んだんだぞっ!?」
 悠人の叫びに目を伏せたウルカの表情に一瞬だけ苦い色が浮かんだものの、再び目を開いた時にはもうその色は何処にも無かった。
「ラキオスのユート殿、手合わせを願おう…」
 膨れ上がった武人の、ウルカの闘気に悠人の肌が粟立つ。手元の『求め』がオーラフォトンの燐光を発し、呼応する様に悠人の闘争本能を焚き付け始めた。
 最早語る言葉は尽き、ここから先は力がぶつかり合うだけの世界となる。
 ウルカが鍔元に手を掛け、悠人が『求め』を正眼に構えた。
「手前はウルカ。<漆黒の翼>ウルカ。これ程の使い手と戦える事に感謝する…」
 無言の一拍を置いて、先に動いたのはウルカだった。
「参る…!!」
 神速の抜刀。
 月光に煌めく白刃を、悠人は視認する事が出来なかった。


334 名前:Twinkle faireis ◆f.DQhHGo4M :2008/07/13(日) 00:20:06 ID:10NqEywQ0
二章:漆黒の翼、再び…(5)

 悠人の眼前に火花が散った。
 同時に走る腕の痺れがウルカの斬撃の威力を物語っていた。
 見えていたわけではない。悠人自身、どうやって受けたのかすら判らない。
 それでも、悠人の体は動き続けていた。
(ほう…)
 一方、感嘆の念をウルカは禁じ得なかった。
(まさか、この様な手で手前の剣を受けるとは…。読みも、良い…)
 ウルカの居合いを、悠人は悉く弾いていた。
 否、弾いているわけではない。
 悠人は隠れていた。
 如何に超絶の反射神経を有したとしても、悠人の持つ長大な神剣を振り回していれば必ず切り込まれる隙が生まれてしまう。
 打ち合えば、負ける。
 ならば、打ち合わなければ良い。
 『求め』を柱とし、斬撃からの死角を作る。
 悠人の生存本能が見い出した活路であった。
 姑息ではあるが、ウルカは悠人のその発想を評価した。
 技量の無さを機転で補う事も、また戦い方の一つである。
「――っ!?」
 直感が発した警告にウルカが半歩下がった直後、悠人の影から飛び出した二人がウルカに斬り掛かった。
「シアー、いくよっ!!」
「うん…!!」
 変幻自在のネリーの鋭い斬撃。その全てをウルカは捌いた。
(手数は多いが、重さが…。否、これは――)
「え〜いっ!!」
 ネリーと入れ替わり、シアーが渾身の一撃をウルカに見舞った。


335 名前:Twinkle faireis ◆f.DQhHGo4M :2008/07/13(日) 00:23:19 ID:10NqEywQ0
二章:漆黒の翼、再び…(6)

(受ければ、折られる…!!)
 迫るシアーの一撃に、ウルカは自らの太刀を重ねた。
「ハァッ!!」
 スゥワンッ――
 滑らかに触れ合う互いの刀身からは火花すら出る事は無く。羽で撫でられたかの如き力でシアーの斬撃がいなされた。
 在り得ない迄のウルカの技量とその能力、そして決め手に成り得た一撃を逸らされ、シアーの目が驚きで見開かれた。
 その隙を、ウルカは逃さなかった。
「ふっ!!」
「ぅあぅっ!?」
 踊る様に回り、シアーが倒れた。
「「シアーッ!!」」
 ネリーと悠人がシアーに駆け寄り、ウルカから守る様にして立ちはだかる。
 一方、ウルカは既に剣を鞘に収めて瞠目し、静かに佇んでいた。
「シアー、シアーッ!!大丈夫っ!?」
「うぅ…」
 ネリーの呼びかけにシアーは痛みを堪えて唸った。
 右の肩口から胸元に掛けて大きく切り裂かれ、黒い血染みが広がっていく。
 マナに還り始めた血が、月下に煌めきながら立ち昇った。
「くっ!!」
 『求め』を構えて向き合うが、悠人にはウルカに斬り込む隙を見い出せないでいた。
 居合いに長けたウルカにとって、剣を構える事は構えではない。
 あの力を抜いた自然体が、既に構えなのだ。
 悠人は戦慄していた。
(ここ迄の差があるのか!?)
 神剣の気配から判断して、ウルカの持つ神剣は『求め』より格下であると断言出来る。
 だが、経験と技量によってウルカはそれらの穴を埋め、悠人たちを圧倒していた。
 空気が、その場に重く圧し掛かってきた。


336 名前:Twinkle faireis ◆f.DQhHGo4M :2008/07/13(日) 00:26:31 ID:10NqEywQ0
二章:漆黒の翼、再び…(7)

「ここ迄としよう…。手前には別の使命がある故…」
 しかし、膠着の最中、突如ウルカがその闘気を収めた。
 それが隙ではないと知るが故に、悠人たちは動けない。
「………またの機会を、待つ」
 二つ名である漆黒の翼を広げ、ウルカは飛び去った。
 その目に僅かな憐憫を浮かべて。
 悠人は全身から汗を噴出した。
 あの儘戦っていれば、間違い無く最悪の結果が訪れていただろう。
 悔しいが、自分たちは見逃されて貰ったのだ。
「…ゥトさま…」
 か細いシアーの声に、悠人は我に返った。
「シアー、大丈夫かっ!!」
 傷は深かったが、既にエスペリアの治癒の魔法によって大分直りかけていた。
 だが、シアーは何処か怯えた表情で、それでも何かを言おうとしていた。
「無理して喋らなくて良いから、今は――」
「違うの、ユート様っ!!」
 シアーの大声に、悠人は驚いた。
 ウルカに斬られた事に怯えているのではないのならば、一体シアーは何を恐れていると言うのか。
「か、カオリ様が危ないの…」
 まだ残る痛みに耐えながら、シアーはウルカの飛び去って行った方角を、佳織が居る第一詰所を指差した。
「――っ!?」
 悠人は己が失念していた事を恥じた。
 ウルカは別の使命があると言っていた。ならばまだ敵の任務は終わってはいない筈だった。
 一時の安堵に気を奪われ、大局を見誤ってしまったのだ。
「皆、館へ急ぐぞっ!!エスペリアたちは手当てが済んだら後から来てくれ!!」
「畏まりました、ユート様」
 エスペリアの返事を背中で聞き、悠人たちは森の中を疾走した。
(無事でいてくれ、佳織っ!!)
 悠人の内に、不吉な予感が広がり初めていた。


337 名前:Twinkle faireis ◆f.DQhHGo4M :2008/07/13(日) 00:30:24 ID:10NqEywQ0
二章:漆黒の翼、再び…(8)

「ユート様、アレっ!!」
「――なっ!?」
 ネリーの言葉に、悠人も思わず驚愕の声を上げた。
 煌々と上がり始めた火の手。敵は第一詰所に火を放ったのだ。
(あの中には、佳織が居るんだっ!!)
 館へ突入しようとした悠人に、手元の『求め』が鋭くマナの気配を知らせた。
(上だ…)
 弾かれる様に顔を上げ、悠人はその光景に目を見張った。
「佳織ぃ〜っ!!」
 漆黒の翼を生やしたウルカの腕の中。そこには、ぐったりとして気を失っている佳織の姿があった。
「気を失っているだけ故、安心されよ…」
「ふざけるな!!佳織を返せ!!」
 怒声に表情一つ変える事は無く、ウルカは真っ直ぐ悠人を見据えてきた。
「ユート殿に、我が主からの伝言がある」
「主だと…!?そいつの命令で佳織を攫うって言うのかっ!?」
「『佳織は僕のものだ。取り戻したかったら、追って来い』」
 その内容に、悠人の中で遂に不吉が形を成した。
 信じられないと言う一方で、ウルカの伝える言葉が否応無しにそれを確信へと変えていく。
「ウルカ、お前は瞬の手先なのか!?」
「シュン殿は我等の主。手前どもは『誓い』の下に集う剣」
 悠人の手元から、焼ける様な激しい憎悪が全身へ駆け巡った。
(砕け、契約者よ…!!『誓い』を砕くのだっ…!!)
 衝動が、悠人を冥い底へと引き摺り込んだ。
(瞬が、奴がこの世界に居るって言うのか…!!)
(『誓い』を砕け…!!『誓い』を滅ぼせ…!!)
 瞬への、『誓い』への憎悪が境界を無くし、どろどろに混ざり合った。
(俺から、佳織を奪おうって言うのかっ!?)
(『誓い』を、その眷属を砕くのだ…!!)
「うおぁああぁあぁあっ!!」
 咆哮と同時に悠人の体から金色のマナが、『求め』の刀身から蒼いオーラが立ち昇った。

338 名前:Twinkle faireis ◆f.DQhHGo4M :2008/07/13(日) 00:33:42 ID:10NqEywQ0
二章:漆黒の翼、再び…(9)

 足元から湧き上がる光条によって緻密な文様の巨大な魔方陣が展開されていく。
 その光景にウルカも、味方迄もが驚愕していた。
「これは、シュン殿と同じ力っ…!!」
 右手に収束したマナの光球を、悠人は魔方陣の中心に叩き付けた。
「瞬の、『誓い』の手先…」
 マナが魔方陣の文様を駆け巡り、神剣魔法を完全に発動させた。
「滅びろぉぉぉ!!」
 幾多の蒼い光の矢がウルカへと襲い掛かった。
「ハアァァァァァッ!!」
 裂帛の気合と共に、ウルカの神速の剣がこれを弾いた。捌けなかったものは全て漆黒のウィング・ハイロゥに刺さったが、際どい所で防ぎ切っていた。
「まだだっ!!」
 悠人の声に、弾かれて消えかかっていた矢はまるで意思を持つかの様に集まり、再びウルカへと襲い掛かった。
 気力も体力も尽きた今のウルカならば、易々と貫けるだろう。
 ウルカが覚悟を決めた瞬間。ウルカの前に純白のウィング・ハイロゥが広がった。
「ダメーッ!!ユート様―っ!!」
 ネリーが、その身を盾にしてウルカの前に立ち塞がった。
(我の邪魔をするか、妖精…!!ならば、そやつ諸共打ち砕いてくれよう…!!)
 その『求め』の言葉に、悠人の中で新たな怒りが爆発した。
「ふざけるなぁぁぁっ!!バカ剣っ!!」
 瞬や『誓い』への憎悪すら塗り潰す、『求め』への悠人の凄まじい怒りであった。
「ぐぅ、がぁぁぁっ!!」
 一つになっていた意識がベリベリと剥がれた。だが、その脳が千切れる様な痛みを悠人は撥ね退けた。
 悠人は意識を手放さない。手放すわけにはいかなかった。
「曲が、れぇぇぇっ!!」
 血走った目で、悠人は叫んだ。

339 名前:Twinkle faireis ◆f.DQhHGo4M :2008/07/13(日) 01:44:25 ID:10NqEywQ0
二章:漆黒の翼、再び…(10)

(何だと…!?)
 ネリーに届くその直前、光の矢が放射状に拡散して虚空に霧散した。
 手元の『求め』の驚愕が悠人に伝わってきた。
「へっ、見たかバカ剣…」
 そう吐き捨て、悠人の意識は落ちた。
「ユート様ぁ!!」
 崩れ落ちた悠人にネリーが飛び付いた。
 無防備な背中に生えた白い翼を眩しそうに一瞥し、ウルカはボロボロになったウィング・ハイロゥを再構築した。
「この娘は頂いていく。シュン殿の言葉、確かに伝えた」
 夜の明け始めた空の中を、ウルカは南へと飛び去って行った。

「ひっく、うぅ、ユート様…」
「ユート様、ユート様ぁ…」
 覗き込んでいる誰かが泣いている。そう気付いて悠人は目を覚ました。
「ネリーとシアーか…。何で泣いてるんだよ?二人とも…」
 思考も記憶も混乱していたが、それでも悠人は何とか二人に話し掛けた。
「ごめんなさい、ユート様…」
「シアーたち、カオリ様を助けられなくて…」
 その言葉に、悠人は少し頭の中で整理が着いた。
 悠人が首を傾けると少し焼けた第一詰所が見えた。どうやらあの後、気を失っていたらしい。
「泣くなよ、二人とも…」
「でも、ネリーたち…」
「何も出来なくて…」
 悲しかった。悔しかった。
 悠人が辛い思いをするのを止められなかった事が。
 何もしてあげられない無力さが。
 何もかもが悠人に対して申し訳無かった。


340 名前:Twinkle faireis ◆f.DQhHGo4M :2008/07/13(日) 01:48:15 ID:10NqEywQ0
二章:漆黒の翼、再び…(11)

「二人の所為じゃないって…」
 悠人の言葉に、二人はふるふると首を振った。
 そんな二人に、悠人はやれやれと嘆息して手を伸ばした。
「シアー、敵の目的に良く気が付いたな。偉かったぞ…。ネリーも、佳織を守ってくれてサンキューな…」
 大地に寝た儘、悠人は二人の頭を胸に抱いた。
「大丈夫、佳織は無事だって。佳織を攫った奴は許せないけど、絶対に佳織に危害加える様な奴じゃないんだ」
 悠人に重なりながら、二人は黙って悠人の言葉を聞いていた。
「奪われたら取り返せば良いんだ。まだ何も終わってない。終わってないんだ。だからさ、二人とも俺に力を貸してくれないか?佳織を取り戻す為に…」
「うん…。ネリーたち絶対カオリ様を助け出すから…」
「シアーたち、頑張るから…」
 頷いてきた二人の瞳には、既に新たな決意が灯っていた。
「あぁ…。頼りにしてるからな、二人とも…」
 そう言うと、悠人は再び瞼を閉じた。
 今はもう疲れて動けそうに無い。
 二人の体温を感じながら、悠人は深い眠りに落ちた。


341 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/13(日) 01:52:47 ID:10NqEywQ0
ばいばいさるさんに捕まって一時間待ちぼうけ食らいました…
あ、また何か描いとけば良かったかもしれません…

まぁ、時間も時間ですしオイラもこの変で失礼します
これにて二章は終了です
次回からは三章になります

………訂正箇所は無いですよね?

342 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/13(日) 11:42:55 ID:10NqEywQ0
変の字が違う…orz
まぁ、本文じゃないのでセーフかと…

343 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/13(日) 11:45:10 ID:jm2f0vjB0
流石にそこまで見てなかったわ…
なんにせよ乙乙



344 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/14(月) 05:55:49 ID:4yxszio+0
久々にガロリキュア放送局(1〜5)を作業BGMに梯子…
いや〜、これは良い作業妨害BGMですね
遅々として進みませんでしたw
ギリギリで間に合ったので結果オーライです

345 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/14(月) 21:24:58 ID:iMXshu720
あれ、争奪戦は?
楽しみにしてたのに……

346 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/14(月) 21:25:40 ID:iMXshu720
あれ、争奪戦は?
楽しみにしてたのに……

347 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/14(月) 22:30:13 ID:iMXshu720
大切なことなので二回……ではなくただの事故です
なんでだろ?

348 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/14(月) 22:41:47 ID:4yxszio+0
まさか争奪戦の続きを所望して頂けるとはw
ならば、此処で筆を取らねば漢じゃないですね
続きを頑張って考えてみます

まぁ、双子SSの方も可能な限り併行してみます
パァァァッショォォォンッ!!!!



349 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/14(月) 22:42:17 ID:4yxszio+0
まさか争奪戦の続きを所望して頂けるとはw
ならば、此処で筆を取らねば漢じゃないですね
続きを頑張って考えてみます

まぁ、双子SSの方も可能な限り併行してみます
パァァァッショォォォンッ!!!!



350 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/14(月) 22:46:20 ID:CgIAIT3b0
       _
    '´ ヘ ヘヾ
   ノ〈从ハ从〉
   从ヲ´ヮ`ノヲ 大事な事なので〜 二度言いましたぁ〜
   ノ⊂》|Tリつ
  て(く/|_ノゝ
     し'ノ



351 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/14(月) 23:18:32 ID:8XpQ8Ubk0
                      /!「 ̄`|/: : `ァー-_、 ;
                     r': : :|l: : :.f: : : :./´ ̄: : :\ ;
           ,.. -―-- 、∧: : :.|: : :.|: : :./: : :.:.;. ===ニ{ ;
        ,.' ´ ``´  ̄ ``丶v'"´   |_.|: : :}: : : :/: : :.〃: :.\;
      ,. '´   ,   、     \   |  ̄\:.:._:|: : :.j仁:.\: :| ; 呼んだカナ?カナ?
    /   ,  l  i  ヽ \ヽ\ ヽ、 |   /.‐z:.:\イ:ト、: : : V-.、 ;  
    / ./ /,'  !ヽ ヽ  ヽ. ヽ ヽ ヽ. ヽ\i  /,>.´ \:.〉:|:.:|: : / !  .| ;
   / / ./ l _⊥ヽ‐ヽ、'T''|ヽ i   i i'⌒Z/    r': :.|ーl/ | ,.{ ;
   {{ |  | レ'! ヽ\_\,,-,‐-!、'} ,、r'i  ヽ |: : 〉   |. ̄    | /. ヽ .
   l l l  | | |/Tハ    |::f;;}| レ'/i' .l,,ハ__N ̄ _,. イ      | |    | ;
    !ヽN |、 | !` l:リ}     ‐'‐' ,._/ ! / | }ヽ  ,>‐- 、|      | | 〜‐ | ;
       `!ヽN ヽ" ` __  ""/__,)'ー-‐ '´ ̄ ̄ヽ\     j/^ー〜'
      / / ̄ ̄ヽー‐/ /  ̄\ \            ト、 __/
      }_l__,ハヽ_l_j__|_,}. 〈 〈l | ./ ,}  }   / __ /
        ` ̄      ヽ'ー'‐'-'<!/ヽ-‐'

352 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/15(火) 21:50:55 ID:OP+zPzdFO
栗スト発売決定ですね。

353 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/16(水) 00:07:49 ID:/Vbu9bxZ0
>>351
2回言うn…いやなんでもない
つーか帰って下さいおねがいします

354 名前:月野陽介:2008/07/16(水) 15:33:54 ID:NwwOMWb00
何の前触れもなく全く空気を読まずにコッソリ大学のパソより再臨。

Warning! 警告! ammonimento!
・この作品はキャラクターの人格が一部崩壊している恐れがあります。
・この作品は著しくキャラのイメージを損なう恐れがあります。
・胃薬、もしくは頭痛薬を用意する事をお勧めします
・(*ノノ)キャー
以上を理解したうえでご覧ください。
スピたん〜幻のナナルゥルート〜一番の問題作、5章。
投下します・・・どぎゃらっしゃーっ!!

355 名前:5章 あなたにひとつ、あいのうた。:2008/07/16(水) 15:42:56 ID:NwwOMWb00
「ん・・・」目を開くと、そこには見慣れた天井があった。ここは・・・僕の部屋?
「・・・隊長!」
「あれ、ナナルゥ・・・?」
何で僕の部屋に、と聞こうとした瞬間に今までの記憶が浮かんできた。
「そっか・・・あのまま倒れて・・・みんなが運んでくれたのかな?」
「はい〜。ナナルゥさんはすぐ目を覚ましたんですが〜ロティさんが起きないのでずっと心配してたんですよ〜?」
「あ、ハリオンさん・・・。」
声のした方を見ると、ハリオンさんが椅子に座っていた。
「ナナルゥさんはロティさんが心配だからってずぅっと手を握りっぱなしで〜。
女の子を心配させちゃ「めっ!」ですよ〜?」
「えっ・・・」
そこでやっとナナルゥが僕の手を握っていた事に気付いた。
時計を見るともう次の日になろうかという時間だった。ほぼ半日間眠りこけていたらしい。
・・・その間ずっと、手を握っていてくれたのか?
「ナナルゥ―」
心配かけてごめん。と言おうとした所で気付いた。
みるみるうちにナナルゥの目が潤んで今にも泣き出しそうになって―
「え、あの・・・ナナルゥ?」
「たい、ちょ・・・う、ぅぅうううううう〜〜〜〜〜・・・・」
「え、ぇえええっ!?」
「あらあら〜。」
そのままナナルゥが泣き出した。
いつもは無表情な美貌をくしゃくしゃに歪めてぼたぼたと大粒の涙を流し続ける。
「も、申し訳、ありませ、わっ、私は、あの時動け、戦えたはずなのにっ、
隊長が、こんなになるまで、な、何もしなくて!こんなことになって!
このまま、隊長が起きなかったらって、わ、私っ・・・!」
「わああ泣かないで!ほら、僕は大丈夫だから!
あの時は勝手に僕一人でやったことだし、ナナルゥのおかげで助かったし!!
な、ナナルゥは気にしないでいいから!というか気にしちゃ駄目だから!!」
ああ情けない。隊長と言う立場を知りながら一人でやるなんて大見栄を張ったくせに勝てず、
結局自分の強さを、ナナルゥの想いを証明する事もできなかった。
「うぐっ・・・しかし・・・結局、あの開拓者も、討ちもらして・・・」

356 名前:5章 あなたにひとつ、あいのうた。2:2008/07/16(水) 15:44:26 ID:NwwOMWb00
「大丈夫!エンレインもたぶん逃げられたけど・・・次にあったら今度こそ負けないから!ほら、涙を拭いて!」
正直に言って自信がある訳ではない。まだ実力は大分離れているだろう。
だけど、また逢うその時までにもっと強くなる。今度こそ絶対に。
「ぐすっ・・・たいちょおぉ・・・。」
「もう〜。こんなに女の子を泣かしちゃって〜ロティさんはいけない子ですね〜」
「うう、ゴメンナサイ・・・」
でも実はこんなにナナルゥに心配されて不謹慎だけどちょっと嬉しいとも思ったりして。
「だけどもう大丈夫そうですね〜。それじゃあ私はおいとまします〜。」
そういって椅子から立ち上がったハリオンさんが振り返り、ナナルゥに微笑んだ。
「・・・いいですかナナルゥさん〜?この後もしもの時になったら前に言ったあれをしてあげるんですよ〜?」
「・・・ぁ・・・。」
「え、あれって?」
「うふふふふ〜♪今はまだ内緒です〜♪」意味深な笑顔と言葉を残してハリオンさんは部屋を出て行った。
残された僕達の間にしばし沈黙が訪れ、とりあえず僕がその沈黙を破った。
「・・・えっと、落ち着いた?」
「・・・はい。・・・申し訳ありませんでした。」
「それはもういいって。」
「・・・あの、隊長。少し、・・・・聞いてくれますか?」
「ん、何?」
「以前から考えていた・・・答えが出た気がするのです。」
「え・・・どういう、事?」
「はい。・・・今まで私は戦闘時に『消沈』に何割か精神を預けて戦ってきました。
その時は目の前の出来事が他人事のように感じ、迷いや恐れをほとんど感じずに戦ってきました。」
「・・・・・・。」
「しかし、あの開拓者と遭遇し・・・隊長を傷つけてしまったときから、私はそれをやめました。
結果として、やはり戦闘において支障をきたし、今日はあのような事になってしまいました。
・・・それでも、なぜかこのままでありたいと思っている自分がいます。
そういう感情を抱えた上で、守りたいものを守れるよう強くありたいと思います。
それが、私の『答え』・・・です。」
「ナナルゥ・・・」それは、奇しくも僕がエンレインにぶつけた想いと似ていた様に思う。

357 名前:あなたにひとつ、あいのうた。 3:2008/07/16(水) 16:00:27 ID:NwwOMWb00
「しかし、これはあくまで我侭・・・です。隊長。私は間違えているのでしょうか?」
ナナルゥが不安そうなまなざしをこちらに向けてきた。対して、僕の言う事は決まっていた。
「・・・それでいいと思うよ。それが、ナナルゥ自身の出した答えだから、僕は応援する。」
そうやって強くなったっていいと思う。戦争のためじゃないこれからの時代なら、
そういう強さを目指せる筈だから。そういう強さが必要だと思うから。
「・・・僕も手伝うよ。ナナルゥがそういう風に強くなれるように。
これからも、ラキオスに帰った後も一緒に頑張ろう。
いつでも僕はナナルゥの味方で、ナナルゥの傍にいるから。」
・・・うわぁはずかしいぃぃ!!絶対最後の一言は言うんじゃなかった!
自分で言っておきながら何ですかどうですかその物言いはあぁぁ!!
「あ・・・あの・・・隊長。」「ん・・・な、何?」心の中で身悶えしている所にナナルゥが声をかけてきた。
「・・・何故、隊長はここまで私を気にかけてくださるのですか?」
「そ、それは・・・ナナルゥが、大切、だから。」
「・・・大切、というのはどう言う意味の大切、なのですか?」
・・・・・・あはは。これってあれだね?前にヨーティアさんが吹き込んだ冗談と似てるね?
だけどナナルゥの顔は真剣そのものだ。・・・いや別にいつもと特に変わってる訳でもないけど
なんとなくそう感じるっていうかだけどナナルゥは冗談いう際でも常に真剣だったか?
うーんだけどコウインさんが言ってた事が本当とすればもしかしたら―
・・・って違う。そうだとしても関係ない。
僕の想いは、伝える事は、一つしかないから。
「・・・特別な意識、愛情や恋愛感情・・・だよ。」
「・・・えっ・・・!?」
回りくどい言葉を避け、必死に言葉を選んで僕は告白する。
ナナルゥにこの気持ちがちゃんと伝わるように。
「・・・僕は、ナナルゥが好きだ。隊長としてとかじゃなくて、一人の男としてナナルゥが好きだ。
ナナルゥの優しい所も、、危なっかしい所も、頑張り屋な所も。全部大好きで、見守っていたい。
・・・だから、ナナルゥの傍にいたい。ナナルゥに傍にいて欲しい。これからも、ずっと。」
言ってしまった。なんかプロポーズしたみたいな物言いだなと半分麻痺した頭が考えていた。

358 名前:あなたにひとつ、あいのうた。 4:2008/07/16(水) 16:02:33 ID:NwwOMWb00
「・・・ロティ様が、私を、好き・・・傍に・・・ずっと・・・」
「ナナルゥは・・・僕のこと、どう思うかな?・・・迷惑、かな?」
「い、いえ!それは決してありません!その、上手く言語に現せませんが、
・・・決して失いたくない、傍にいるだけでなく、自分の全てをかけて守りたい人・・・です。
あの、この気持ちは・・・好き、という感情になるのでしょうか?」
「え?えっと・・・そう、だったらいいなと思うけど・・・ナナルゥは僕がに傍いても迷惑じゃない?」
「はい。・・・むしろ、私から傍にいたいと思います。」
「僕といて、楽しい?」
「はい。その時間が、ずっと続いてほしいと思うときがあります。」
「・・・だったら、そういうことにして欲しいな、なんて・・・」
「そうですか・・・この想いが、好き。私が、ロティ様を。ロティ様も、私を・・・」
ナナルゥが頬を薄く染めてなにやら考え込みだした。・・・えっと、これはOKという事でいい・・・よね?
「・・・ロティ様。」
「え、な、何?」
「抱いてください。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぃ?」
「・・・抱いてください。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・よし。オーケイ、落ち着こう。僕は冷静だ。
この状態でこんな事言われちゃったら僕でなくとも健全な男を自負するならば
考える事は一つだけと思うがここで文面どおりに受け取ってはいけない。
「・・・え〜とナナルゥ?念のため聞いておくけどどういう意味かわかってるかな?」
ナナルゥの事だからただギュッとして欲しいという意味かもしれない。
いや、ヨーティアさん辺りが僕に言ってみろと吹き込んだ冗談と言う可能性も十分有りうる。

「・・・一般的な意味の対象を腕で抱えるという行為ではなく互いの身体、正確には性器を」
「うんよくわかったありがとうききかえしたりしてごめんなさい」聞くんじゃなかった。
「互いに男女が好き合っているのならば、身体を重ねるべきらしいとききました。
それは正にこの状況であり、更にこういう事は女性が言う方が男性は喜ぶらしいです。」

359 名前:あなたにひとつ、あいのうた。 5:2008/07/16(水) 16:04:26 ID:NwwOMWb00
・・・お願いだからそんな事吹き込まないでください。
ナナルゥに吹き込んだ可能性が高い数人の顔を思い浮かべたら頭痛がしてきた。
そんな苦い感情が顔に出ていたらしい。
「・・・嫌、なのですか?」
「そ、そうじゃないよ!」
もちろん嫌な筈がない。
好きな女の子、それも非の打ちようのない美人(更にスタイル抜群!!)と両想いだったってわかって?
ほぼプロポーズみたいな告白を了承してもらえて?おまけに抱いてくれなんていわれちゃって。
これだけの条件がそろっていればもう万歳三唱したいくらいな訳で。
「す、すっごく嬉しいんだよ?でもあのね?好き合ってるからっていきなりこういう事するんじゃなくてさ?
普通はなんかこう段階とかステップとかっていうのがあって・・・」
せっかくだしこういう事は手順を大事にしたいというか。いや、言い訳じゃないよ?
本心をいえば今すぐコウインさんの世界のある物語に出てくるという有名な泥棒の孫だか曾孫だかみたいに
一瞬で素っ裸になって水泳の飛び込みの如くナナルゥにダイブしたいのだが。
今だって僕の中にいるもう一人の自分(と言うより下半身にある分身)が何を言ってるんだ
男なら据え膳を皿まで喰らってしまえその先には比喩でない掛け値無しの楽園があるぞと猛抗議をしている。
「・・・では、普通ならば今はその段階ではないという事ですか?どのくらいからがその段階なのですか?」
「う゛。・・・えっと、そういうのは、言葉で説明できるもんじゃ」
「・・・私は『普通』とはいくらか逸脱しているという自覚は有ります。
『普通』ならば、今はその時でないのかもしれません。」
「!! 違うよ、ナナルゥ!僕はそういう意味でいったんじゃ・・・」
「承知しております。しかし、私はそれでも、今の自分を偽る気はありません。
率直に言うとこの気持ちさえも一般的な「好き」という気持ちかさえも自信が持てません。
それでも、今抱いている想いが『普通』と逸脱していようと、見当違いであるとは思いたくありません。
・・・私は今、誰の意見でもなく自分自身の意思で、ロティ様に抱かれたいと思っています。」
「ナナルゥ・・・」
「・・・私は、今すぐにロティ様が欲しいです。私を・・・ロティ様のものにしてください。」
・・・すいませんここでちょっとひと区切りつけます。このパソ規制きつすぎ・・・

360 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/16(水) 20:26:02 ID:ZvtWVVnj0
>>355
乙。頑張れ。

361 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/16(水) 21:42:45 ID:QYRgw+zS0
おいw勉強してくださいww
つか最後の2行普通に繋げて読んだせいでヨフアル噴いた
かんじんなところでなんという寸止め
れスティーナもびっくりぜよ


   正 確 に は 性 器 を

362 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/16(水) 23:13:39 ID:vezsc0vV0
>>359
学校のパソからとはまたチャレンジングなw

363 名前:5章 あなたにひとつ、あいのうた。6っ!:2008/07/16(水) 23:17:12 ID:Cs+XsSkC0
学校終わってバイトも終わり!やっと自宅に帰ってきました。規制が来るのはかわらないけど
続きをのろのろ投下していきます↓。頭痛薬の用意はよろしいですか!?
ぐはぁ!!
ストライクと言うか、ノックアウトだった。必死に耐えていた自制心が紙っぺらのように吹き飛んだ。
「・・・ごめん、ナナルゥ。そんな事言わせちゃって。」
全く、情けない。こんな事を言うのにはすごく勇気がいるものと気付かないなんて。
「謝らないでください。無理を言っているのは理解しています。」
「違うよ。その・・・僕も、ナナルゥとすごくしたいし。でも、変に気を回しすぎちゃったね。」
そういってナナルゥの肩を掴み、引き寄せた。想像してたよりずっと華奢で、だけど柔らかい感触だった。
「あの、ナナルゥ。今なんとか我慢してるけど、始めると我慢、できなくなるかもしれないから、
その、先に言っとくよ・・・ごめん。」
「・・・大丈夫です。ロティ様の、好きにしてください・・・。」
うう、そう言われるとますます自分が保てなくなりそう・・・
「あ、ありがとう。その、最初はできるだけ優しくするから・・・目、瞑ってくれる?」
「?はい・・・。」
良く意図がわからなそうだったがそれでもナナルゥは言った通り目を瞑ってくれた。
できるだけ優しくを心がけ、右腕をナナルゥのうなじ、左腕をナナルゥの背中に回して―
「んっ・・・!?」
僕の唇で、ナナルゥの唇を塞いだ。
数秒で唇を話し、目を開けたナナルゥと視線が合ってかーっと顔が赤くなるのを感じた。
「あ・・・今、のは・・・」
「えっと・・・キス、ってやつ。・・・ごく、軽いやつだけど。」
「これが、そうですか・・・ロティ様?顔に、紅潮が見られますが・・・」
「そ、それは・・・ナナルゥも同じだよ。」
「え・・・そういえば、顔が熱く、恥ずかしい?でも、不快ではなく・・・あぅ」
ナナルゥはわずかに湿った唇をそっと白い指でなぞり、恥ずかしそうに顔を俯かせる。
これは・・・か、可愛い・・・。
「ナナルゥ、もう一回・・・強めにしていい・・・かな?」
「あ・・・はい、どうぞ・・・」
そういってまた律儀に目を閉じてくれた。了承をもらったところでもう一度唇を触れ合わせる。

364 名前:5章 あなたにひとつ、あいのうた。7っ!:2008/07/16(水) 23:19:28 ID:Cs+XsSkC0
「ん、ふうっ、んん、ん・・・」
初めは軽く触れる程度のキスが、次第に角度を変え、強く自分の唇を押し付ける。
それに対してナナルゥは身体を強張らせたが全く抗おうとはしなかった。
少し躊躇ったが自分の舌を突き出してナナルゥの唇を割り、ナナルゥの口内に―
「んっ!?」がちっ!!
「@/:∀%#萌〒¥逝〆$℃※〓†(ノ゜O゜)ノ∬∇――!!」
驚いたナナルゥに舌を噛まれてしまいました☆しっかりしろ、傷は浅いぞ。
「も、申し訳、ありません・・・」
「いや・・・こっちこそ、いきなりやってごめん・・・。」
うう、やっぱり本みたいにはいかないんだね・・・。でも諦めない!
「・・・ごめん、ナナルゥ。もう一回やらせてください。」血が出ていない事を確認し再トライ。
3度、ナナルゥの唇を奪って舌を突っ込み、噛まれないように歯茎を丹念に舐ってみる。
ナナルゥは過敏に反応したが嫌がるようすはなく、むずがゆさからか顎を開く。
その隙を逃さずに強引に舌を突っ込み、ナナルゥの口の中を舐めまわし、その舌を絡める。
「んうぅ!?ん、あむぅ・・・ちゅ・・・ん〜っ・・・」
流石に後ろに逃げようとするナナルゥの頭を右手で押さえ込み、更にナナルゥの口腔を貪る。
ナナルゥは驚愕に目を見開いたが、決して拒まずに自分からも懸命に舌を絡ませてくる。
溢れて来る互いの唾液を混ぜあい、舌を吸い、混ざり合った唾液を音を立てて嚥下する。
「んんーっ!!ん、んぷっ!…………うんん……んー、んっうっ…………うー…」
驚きは残っているが、ナナルゥの目は酩酊したようにとろんとしている。
調子に乗って今度はナナルゥに唾液を流し込んでから唇を離してみる。
「んぅ・・・んっんっ・・・こく、んん・・・はあぁ・・・」
それに対してナナルゥは僕の唾液を咀嚼して躊躇いなく嚥下し、更に物欲しそうな目を向けてくる。
ああもう可愛い!変なものに目覚めてしまいそうだ!
「ナナルゥ、胸・・・触っていい?」
「ふあ・・・はい・・・」
首に回していた手を胸に移して、服ごしに胸に触れる。
「っあ・・・!」
(や、柔らかい・・・っ!)
何でできているのかと思いたくなる(本当は知っているけど言葉にしたくない)感触が頭を痺れさせる。
感触を確かめるために指を動かして柔らかさと弾力を確かめる。

365 名前:5章 あなたにひとつ、あいのうた。8っ!:2008/07/16(水) 23:23:43 ID:Cs+XsSkC0
「っひゃ!ああ・・・なんでしょう・・・触られると、ドキドキしま、んっ・・・」
「〜っ!ナナルゥ、直接、触るよっ・・・!」
我慢できずに胸口のファスナーを一気に降ろして豊かな胸を露出させる。
「っ・・・!」
なんというべきか。大きさはハリオンさんにも負けてない。
形は綺麗なおわん型で乳首は小さめでピンク色。
質と量の完璧な両立。これはもはや芸術の一つといえるのではないか。
「ゴクッ・・・」ああやっぱりこれって反則というか破壊力抜群だなぁ
いや小さいのを否定したりしないけどやっぱり男というのは何であろうと大きいのに憧れるもんだと思う。
大きい事はいい事だ。うん、夢がある。いっぱいつまっている!
・・・まずい、さっきから自分の大切なものが色々と壊れてきている気がする。
「・・・ひっ・・・!」
しっかり鑑賞したナナルゥの胸を両手で直接揉みしだく。
やっぱり服越しとは比べ物にならない。力を入れると潰れてしまいそうなほど柔らかいのに
ある程度力を込めるとこちらの手を押し返してくる。
「っは、あああ、や、ふああ・・・!」
ナナルゥが胸をもまれて声をもらし切なそうな表情を見せる。いつも表面上感情の揺らぎを感じないナナルゥの
必死に我慢しているようなこの態度は、なんかこう、すごくくるものがある。
もっと聞きたくてナナルゥの乳首に吸い付き、飴球のように舌でころがす。
「ああ!?ふぁ、ひ、あ〜っ!」
ナナルゥがあられもない悲鳴を上げる。いつもは絶対に聞けない声を自分だけが耳にしている事に更に興奮する。
気をよくしてもう片方の乳首を指でいじり、しこらせた乳首をしばらく弄ぶ。
乳首から口を離し、下半身の秘部に目を見やる。
「ねぇ・・・こっち、触るよ?」
ナナルゥは声を出す余裕もなさそうで、ただこくこくと頷く。
左手は胸を弄ったまま右手で下着をずらし、恥毛に覆われた秘所をまさぐる。
「う、わ。濡れてる・・・。」
「え・・・やぁ、どうして、こんなの、初めてで、ああ、音がしてるっ・・・!」
「えっと、ナナルゥって・・・一人でした事、ない?」
「・・・?な、何を、ですか?」
「・・・いや、な、なんでもないよ・・・」
ナナルゥの秘裂に指を突っ込み、窮屈な膣内をむりやり押し広げてみる。

366 名前:5章 あなたにひとつ、あいのうた。8っ!:2008/07/16(水) 23:25:11 ID:Cs+XsSkC0
「・・・痛くない?」
「はいっ・・・ひ、表現しがたい感覚が、これ、気持ちい、ふあっ・・・。」
嫌ではないと認識して更に弄り続ける。
指を2本に増やし、上下左右に動かしている最中、偶然親指が秘裂の上にある小さな突起を捉えた。
「うあああっ!?」
ナナルゥがこれまでにない大きさの悲鳴を上げ、身体かビクンと跳ねた。
「だ、大丈夫!?」
「あ、あああぁぁ・・・!」
ナナルゥの様子がおかしい。ぐったりしてうつろな瞳で荒い息を吐いてて、なんかすごい・・・いやらしい。
「・・・ここ、もっと弄るよ。」
「え・・・だ、ダメです、少し待、!!!!!」
ナナルゥの抗議を最後まで言わせずに先程乳首を弄ったように突起を摘んでみる。
その度にナナルゥは喜んでいるのか苦しんでいるのか解らない声を間をおかずにあげ、
自分の手で僕の手を更に下半身に押し付けてくる。
それをもっとして欲しいと判断し、一際強く摘みあげた瞬間、
「〜〜〜!!、!!っ・・・・・・・・・!!!!」
ナナルゥの身体が弓なりに反り、声にならない絶叫をあげて僕の手に熱い液がかかった。
「・・・あ、あああ・・・・・・・!」
身体から力が抜け僕の方にもたれ掛かってきたナナルゥは淫靡で、そしてすごく綺麗に見えた。
「・・・気持ち、よかった?」
「はひ・・・はじめれの、かんかくで・・・いひきが、はっきりしめひぇん・・・」
呂律の回らないナナルゥに更に劣情を掻き立てられ、ナナルゥをベットに押し倒して自分のズボンをずらす。
「っあ・・・」
僕の愚息は焦らしやがってこちらはいつだって準備万端だと喜び勇んでいる。

367 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/16(水) 23:38:32 ID:QYRgw+zS0
なんか…暑いな…今日のスレは…

368 名前:5章 あなたにひとつ、あいのうた。10っ!:2008/07/16(水) 23:45:12 ID:Cs+XsSkC0
「その、・・・入れるけど、最初ってすごく痛いらしいって、知ってる?」
「・・・はい。知識として認識はしております。体験した事はありませんが。」
「・・・怖くない?その、今なら、なんとか我慢できそうだけど・・・。」
「ダメです。」きっぱり言われた。
「・・・ロティ様にも、悦んで欲しいです。今度は・・・私を全部感じてください」ぐはあっ!
またクリティカルな言葉が僕の胸に突き立った。
顔も覚えていないお父さん。僕は今日大人への階段を上ります。3段飛ばし位で。
「・・・入れるよ」
「はい・・・んっ・・・!」
ずずずずっ、と僕のものがナナルゥの中に潜り込んでいく。
もの凄い抵抗を感じ、僕のものが押し出されそうになる
その抵抗を一切無視して強引にナナルゥの膣内を掻き分け、
―ブツン―
「っ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
「う、あっ・・・!」
ナナルゥの処女を奪った。結合部分から赤い血が滲み出て来る。
「ごっ、ごめん!」あわてて自分のものを引き抜こうとするが
「!ダメ、ですっ・・・!」
「うわっ!」
ナナルゥの足が僕の腰を引き寄せて強く自分の方に押し付けた。
抜けかけていたものがナナルゥの最奥まで引き込まれる。
「な、ナナルゥ・・・」
「・・・やめないで、くださいっ・・・!」
「だ、だけど痛いと言うか、つらいでしょ!?」
「今やめられたら、もっとつらいですっ・・・!」
ナナルゥの目には涙が浮かび、それでもしがみついて離れようとしなかった。
その姿をみてこのままめちゃくちゃに突いてしまいたい、思うがままに味わい尽くしたいと危険な感情が浮かんだ。
「ナナルゥ・・・・わかった。じゃあキス、させて・・・」
その邪念を必死に払うためにナナルゥに口づけをする。
ナナルゥとのきすは唇をかみ締めた時の血の味がかすかにした。

369 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/16(水) 23:46:38 ID:vezsc0vV0
支援

370 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/16(水) 23:59:37 ID:QYRgw+zS0
ヨフアルヨフアルぅ

371 名前:5章 あなたにひとつ、あいのうた。11っ!:2008/07/17(木) 01:08:42 ID:LrCJdDmT0
「・・・大好きだよ、ナナルゥ。」
唇を離し、改めて言う。
絶対に離したくない、離れたくない。ずっとつらい思いをして、それがつらいとさえ思えなくて。
それでもけなげで、真面目で、自分でない誰かのために頑張っている。
そんなナナルゥが愛しくて、痛々しくてたまらなかった。
つらい過去は消えないけど、つらかった過去の分だけこれから楽しい事があって欲しい。
悲しい思いをしてきた分だけこれからは笑って欲しい。
僕もその手伝いができたらいい。自分がそばにいる事をナナルゥが喜んでくれるなら。
これから自分といる時間を、ありったけの幸せで埋めれるようにしたい。
「・・・ロティ様・・・もう、大丈夫ですから・・・動いてください。」
「え、でも」
「問題、ありませんから。」
「・・・わ、わかった・・・ゆっくり、いくよっ・・・」
暴走しないように少しずつ腰を浮かし、スローにスローにものをナナルゥの奥に押し付ける。
「っ、う、ふぅっ・・・」
「・・・ロティ様?つらいのですか?」
「い、いや、これは・・・気持ち、いいんだよ・・・。」
ナナルゥの膣内は初めてなのもあって物凄くきつい。
落ち着いてきた今なら中のぶつぶつした物がぼくのに擦れててるのがわかる。
その上できゅうきゅうと締め付けてきて少しでも気を抜いたら簡単に達してしまいそうだが必死に我慢する。
すぐ終わらせたほうがいいのかもしれないけど、ナナルゥの初めてをもっと感じたくなったから。
「・・・よかった、です。・・・あの、我慢、しないでください。」
「え・・・」
「・・・その、特に支障はありませんので・・・激しく動いても、問題ありません。」
うーん、やっぱり気付かれてたのか。まあ激しく動いたら出そうってのもあるんだけど。
「・・・じゃあ、いくよっ・・・!」
自分のものが抜けそうなくらい腰を引いて、おもいきりナナルゥの膣内に押し込む。
「んっ!」
一回で終わらず何回も、何回も、だんだんペースを速めて出し入れする。
「ん、うう、はああ・・・凄い、中で、ロティ様を感じ、ひゃうっ!」
「っは、はあっ、はっ、うう、うああっ・・・!」
ナナルゥの一番奥のかべにものがぶつかり、それに答えるように周りのヒダが擦れ、絞りとるように収縮する。

372 名前:5章 あなたにひとつ、あいのうた。12っ!:2008/07/17(木) 01:09:59 ID:LrCJdDmT0
「気持ちいい・・・ナナルゥのなか、気持ちいいよ・・・」
「ロティ様、ああ!な、何か、変です、先程と同じ、違う、更に強い刺激が・・・!」
「・・・ナナルゥ、もう痛くない?」
「え?あ、はい、むしろ、ものすごい快感が、んっ、なんで、うああああっ!」
「・・・気持ち、いいんだ?」
「っは、はい、そ、そこ!お、奥を突かれる度に、すご、きもちい、んう〜っ!」
「よかった、僕も、凄く気持ちいよ・・・!」
ナナルゥが感じてくれてるとわかって無意識にセーブしていたが本当に全力で突き込みを開始する。
上に圧し掛かってしなやかな長い髪をかき乱し、荒い息を吐く唇をむしゃぶり、豊かな胸を揉みしだく。
「んぅ、はぁあ、ロティ様・・・!愛して、います・・・。何よりも、誰よりもっ・・・!」
「ナナルゥ、ナナ、る・・・ごめ、も、出そうっ・・・!」
「あああ、私、も何か、また、きます、なにかが身体の奥から上がってきて、う、あー?」
「出っ、ナナルゥ・・・!」
ナナルゥと唇を重ねたまま、最後に一番奥にぶつけ、ぐりぐりと一番奥の気持ちいい所にねじ込む。
「んむっ、んう、んんんんんんんんんんんん〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!」
「うぐぅっ、ぅうう、ううううううううう〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
ナナルゥの膣内が激しく脈打ち、それに合わせて僕の高まった熱が爆ぜた。
大量の白濁液をナナルゥの一番奥に流し込み、その熱にナナルゥが大きく身を反らし、跳ねる。
「うあ、あああ・・・熱い、です・・・。」
「はあ、はあ・・・はあああ〜〜〜〜っ・・・」
しばらく繋がったままの体勢で息を整え、名残惜しそうにものを引き抜く。
「・・・あ。」
「いや、あ、あはは・・・」
しかし抜いてみるとぼくの愚息はもう元気を取り戻していて。
いややっぱりこれは若さ万歳っていうか初めてだしナナルゥ綺麗だしああもうそんなまじまじ見ないで〜ッ!
「・・・失礼します。」
「え・・・はうわあ!?」

373 名前:5章 あなたにひとつ、あいのうた。13っ!:2008/07/17(木) 01:36:16 ID:LrCJdDmT0
瞬間、ぼくのものが柔らかい感触に包まれる。
みると、ナナルゥが・・・僕のものをその大きな胸で挟み込んでいる。
「なななななナナルゥ?ど、どうやってこんな事覚えたのかな?」
「先日、ハリオンさんにロティ様とこうなったときの為とご指導賜りました。曰く、
『女の子がこうしてあげると男の人はとても喜ぶんですよ〜。
こうしてあげればもうロティさんはメロメロです〜』とのことです。」
わあナナルゥって声帯模写すごくうまいなっていうかハリオンさんさっき言ってたのはこれですか
一体なにやってるんですか今度あったら男としてお礼をじゃなくて隊長として注意して
「・・・ロティ様?お気に召さないなら中断しますが」
「気持ちいいですやめないでください続けてくださいお願いします」
ありがとうハリオンさん気持ちいいですうれしいですなんかもうメロメロですっ!!
・・・うう、情けないとは言わないで。男の子だもんっ!
「了解しました・・・ん、んっ・・・」
「う、あ・・・」
ナナルゥの胸が僕のものを擦り始めた。
既に僕のものはナナルゥの愛液やら自分の精液やらでぐちゃぐちゃですべりは抜群で。
膣内に入れたときの様なきつさはないけどこれもまた物凄く来るものが・・・
「・・・ん、れる・・・」
「はうっ!」
ナナルゥが舌を伸ばし、僕のものの先を舐めた。
じわじわとくる胸の快感と違い、強烈な快感が電気のように頭まで突きぬける。
「ん、れる、チュ、ふぅ、んん・・・」
「な、ナナルゥ、そ、それは・・・う、うわぁっ?」
「・・・これも、ハリオンさんに教わりました。少しでも抵抗を感じるなら無理をしなくていいとの事でしたが
ロティ様のなら全く抵抗はないので問題ありません。」
「いや、それは嬉しいけど、そういうのは、う、ううう・・・!!」
ナナルゥの舌が先の割れ目をなぞり、口付けてくる。
「・・・あ、何か、出てきました。」
「き、気持ち、いいから・・・出ちゃうものなんだよ・・・。」
「そうですか。気持ち、いいのですね・・・ん、んんっ・・・」
「はうあ!」
割れ目に舌を押し込まれ、唾液を流し込まれた。こじ開けられそうな痛みに近い快感が走る。

374 名前:5章 あなたにひとつ、あいのうた。13っ!:2008/07/17(木) 01:47:43 ID:LrCJdDmT0
割れ目に舌を押し込まれ、唾液を流し込まれた。こじ開けられそうな痛みに近い快感が走る。
「ナナ、ル、ダメ、も、ダメだって!で、でちゃうからっ・・・!」
「・・・ん、んう、れる・・・」
ナナルゥは聞こえてないのか聞いてて無視してるのかやめようとしない。
それどころか更に舌をねじ込まれて やば だめ も でる
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!」
「きゃっ・・・ん・・・!」
最初あれだけ出したと思えないほど精液が飛び散り、ナナルゥの顔にぶちまけられる。
「わああ!!ご、ごめんナナルゥ!」
「・・・ん、ふぅ、ちゅ・・・」
ナナルゥは気にした様子もなくまだ脈打つ僕のものに口付け、飛び散った精液を舐めとる。
「わあああああああそんなの舐めなちゃダメだよ汚いよ吐き出して!!」
「んくっ・・・大丈夫です。私は特に偏食はありません。」
「いやそういう問題じゃないからっていうかそもそも口に入れるもんじゃ」
「それに・・・ロティ様のなら、いくらでも構いませんから。」
「・・・・・・・・・。」
がちゃん。
僕の中で音を立てて一番大事そうなリミッターがはずれた気がした。さようなら僕の理性。
同時に三度、僕の中のケダモノが鎌首を擡げ上げ、自分の服を瞬時に脱ぎ捨てる。
「あ、あの・・・ロティ、様?」
「・・・ナナるゥ、ごメん。やっぱり男ってのはこう下半身ハ別人格と言うかデも僕は決して
誰でもいい訳でナくてあくまでななるゥへの愛ゆエであります。」
「・・・ろ、ロティ様?言語に著しい違和感を感じますが、あの、少し待」てません。
最後まで言わせずに僕はナナルゥへを組み敷く。
「あん♪」
抵抗しなかったナナルゥの悲鳴が期待のようなものを含んでいたのは、気のせいでないと思いたい。

375 名前:5章 あなたにひとつ、あいのうた。15っ!:2008/07/17(木) 01:50:12 ID:LrCJdDmT0
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
・・・・・・気まずい。と言うか恥ずかしい。
一夜明けていつもの様にみんなで朝食をとっているのだけどナナルゥとまともに顔を合わせれない。
目が覚めてとにかく平謝りした時はナナルゥは全く嫌ではなかったといってくれたけど。
まさか昨日あんな事になってしまうとは。僕って意外とやばい奴なのかもしれない。
半ば勢いに流されてしまったとはいえ、後悔はないし嬉しかったしちゃんと責任はとろうと思っているけど
ああ気持ちよかったなナナルゥきれいだったなうふふえへへあははーって違う!!
・・・いや、違いはしないんだけど。素直な感想だけど。ああとにかく恥ずかしい。
ナナルゥはいつもと変わらない様に見えるけど僕と目線があうと微妙に顔を赤く染めている・・・様に思える。
更に『紡ぎ』の機嫌が物凄く悪い。今頭にガンガン響いているこの頭痛は
寝不足や疲れだけではないのだろう。原因は・・・考えるまでもないが。
(おのれ・・・何故このシリーズには神獣という設定が・・・我とて顕現できれば・・・
つるぺたチビ天使どもとは比べ物にならんというのに・・・!)
・・・何かよくわからないけどこっちも色々と禁忌に触れてる気がする。
早く食べてしまおうと料理をかき込んでいるとネリーが声をかけてきた。
「ねぇロティ。ナナルゥとけんかしたの?」
「っ!?ゲホッゴホッ!ど、どうしてそう思うのかな?」
「だって二人ともいつもとなんか違うもん。よそよそしいよ。仲直りしないと駄目だよ!」
「そ、そんなことないよ?喧嘩なんかしてないから大丈夫だから!」
「だけど何かあったんじゃないですか?二人ともぎこちないのは私も感じますよ?」
ヘリオンもか。うう、さすがにみんなナナルゥと付き合い長いだけあって鋭い。
「ふむ。・・・二人の様子からして確かに喧嘩とかじゃないんだろうなぁ。」
・・・ヨーティアさんがギラリと眼鏡を光らせ、ものすごいニヤついている。嫌な予感しかしない。
「・・・青年、欲望に負けてナナルゥを襲ったな?いくらナナルゥが好いてくれるてからってモラルってもんがあるだろう」
「「「・・・・・・。」」」
・・・おちつけからかっているだけだてきとうなんだのったらだめだ
ほらみんなあきれているしんじてないだいじょうぶおちついてたいおうしよう!

376 名前:5章 あなたにひとつ、あいのうた。16っ!:2008/07/17(木) 01:54:01 ID:LrCJdDmT0
「・・・ヨーティアさん?いくらなんでも朝からそういうのはあんまりじゃないですか?」
「・・・ヨーティア様。今の発言は撤回を求めます」
よかったナナルゥはれいせいそのものだいやまてさっきよりあきらかにかおがあかくないか?

「昨日はあくまで私から懇願したのであり、ロティ様が強要したのでは断じてありません。」

ぶひゃあ。ガゴン!!
テーブルについていた一同が盛大に料理を吹き出した。ついでに僕は派手に額をテーブルに打ち付けた。
「なっなななななナナルゥさん!?それって本当に昨日ロティさんとあんな事やこんな事をーッ!?」
「発言が不明瞭で理解しづらいですが、昨夜は・・・ロティ様に抱いていただきました。」
「だ、抱いてっ!?」
「はい。腕で対象を抱え込むと言う事ではなく互いの身体、より正確に言うならせ―」
「わーっわーっ聞いてないです何も聞こえないですーーっ!!!」
「な、ナナルゥ!なんでそんな恥ずかしいことあっさり喋ってんのよ!?」
「・・・羞恥よりも自分が嬉しいと素直に感じた事を偽る事こそ恥ずべき事だと感じましたので。」
「いや確かにそれ正論ぽいけど絶対どこか大事な所が間違ってるわよ〜っ!!」
「あらあら〜ナナルゥさん〜。私の教えたあれはしてあげましたか〜?」
「はい。ロティ様にはお気に召していただけたようです。ご指導、感謝します。」
「あれ?あれっていったい何をナナルゥに教えたのよ!?」
「うふふふ〜。好きな男の子への奉公の仕方です〜。ヒミカにも詳しく話しましょうか〜?」
「わあ言わなくていい聞きたくない絶対ろくな事じゃない気がするから!」
テーブルのあちこちで恐慌が起きている。なにコレ?あ、新しい冗談か。・・・違うよね。
「・・・ほ〜う。それで青年。初めてはどんな具合だったんだ?
童貞卒業して舞い上がってナナルゥをリードできなかったんじゃないのか〜?。」
「いえ、後半は常にロティ様が主導権を握り私はされるがままになりました。
・・・しかし決して不快な思いはなくむしろ筆舌に尽くしがたき幸福感や快楽を感じ、一晩で3回ほど絶頂を」
ぶわたーん!!
凄まじい音をたてて顔を真っ赤にしたツェナやヘリオン達がぶっ倒れた。

377 名前:5章 あなたにひとつ、あいのうた。17ぁ!:2008/07/17(木) 02:04:27 ID:LrCJdDmT0
「ぜっちょー?ねーロティ。ぜっちょーって何?」「あ、あなたはまだ知らなくていいから!」
話の内容がよくわかっていないらしいネリーの質問にセリアさんが狼狽している。
・・・できる事ならもう僕も気を失いたい!というよりこの場から消えてなくなりたい!!
「ほほう、3回か。まあ初めてでそれだけなら上出来だな。」
「冗談です。本当は7回ほどでした。」はい、その通りです。
実はあの後リミッター飛んでから4回続行。計6回(前戯含まず)僕頑張りすぎ。
「・・・ってナナルゥ!そんなの冗談というかシャレにならないからっていうかお願いもうやめてーっ!!」
「・・・青年。優しいというか甘そうな顔してなかなかやるな。ここまでナナルゥをメロメロにするとは
いったいどんな立派なブツでアンアンいわせたんだ?ん〜?」
「ななななんて言い方するんですかあっ!」
「・・・ロティ様は、昨日の行為に対して後悔や不快感を感じているのですか?」ウルウル。
ナナルゥが潤んだ目で僕を見つめてくる。ああそういう表情もなにかこうくるものがって違うだろ自分。
「そそそういう訳じゃないよそんな泣きそうな目で見ないでぇっ!いや気持ちよかったっていうか
嬉しかったし後悔もないし責任とかもろうかとは思ってるってそういう事じゃなくて!
そりゃ僕もナナルゥの事が好きかとか付き合ってるのかと聞かれたら隠さずに答えるけど
流石にこんな事まで言っちゃうのはどうかって何ですかコウインさん
そのよくやったぞとでもいいたげな祝福と慈愛に満ちた暖かなまなざしは〜ッ!?」
「・・・ロティの変態スケベ不潔けだもの女の敵最低最悪のばいきん男!!!」
ズバシュ☆
ソニックストライクよりきついニムの言葉が僕を貫いた。さようなら僕の理性パート2。
「うわrsあああああGBきNああああjあああidhべAMじょCqVあああduいdLーーーーーーッ!!!!!!!!!」

・・・こうして。
僕とナナルゥは、めでたく(?)みんなの公認の仲となった・・・

378 名前:月野陽介:2008/07/17(木) 02:13:50 ID:LrCJdDmT0
月野「っとまあ二次制作としてこんな同人ゲームや同人誌あったら売れそじゃね?」
友人「くたばれもしくは死ね」・・・ですよねTOT。
・・・以上!時間かかり無駄に長い駄文まじすんませんでした・・・。
お薬は飲みましたか?本当は暴走状態のロティ君がナナルゥをガンガン責め
ってのも考えたけどいいかげんにしろと本格的にクレーム来そうなんで消しました☆
さらに調子のって画像板にもあほな絵投下したりして。
http://etranger.s66.xrea.com/gbbs/index.htm
ほんとごめんなさい。あと一章は真面目にやって終わらせます・・・。
どうかあと一度だけお付き合いください。ではっ!

379 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/17(木) 03:10:33 ID:Jr5PwqkU0
乙。ふっ、睡眠時間削ってまで待った甲斐があったぜ。燃え尽きた、真っ白にな…
っつか七回って。紡ぎの主は底なしかっ!?…ふっ、若さってヤツぁ…

380 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/17(木) 07:29:16 ID:y55f9A300
>>378
お疲れ様です

オイラは少し難産気味…orz
土日に投下出来ると良いなぁ…

381 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/17(木) 12:55:49 ID:LXjQBtbR0
>>378
乙です!色々と吹きました。胃薬よりロティ君に赤マムシをあげたいです!
リミッターはずれた後のロティ君・・・どうなったか気になる!
カットしなくてもいいと思いますよ。今からでも元の文があったら投下してほしいくらいです。
なので脳内補完してみる
1理性の飛んだロティ君、ひたすらケダモノ攻め
2やばいのに目覚めたロティ君、ゆるい愛撫と言葉攻めでネチネチいじめる
3あくまで純愛!ラブラブなやつ!
4話を無視して(失礼)3回目はまだ前半って事で攻守交替、ナナルゥが攻め
なんちゃって。自分は2がいいなぁ・・・

382 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/17(木) 17:26:27 ID:4+4dvwTQ0
5 先に枯渇した゜ー゜をヒートフロアで無理矢理復活させる目覚めたてなナナルゥ

383 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/17(木) 19:40:32 ID:QqsG1i6D0
ふふ・・・ロティ様、まだまだこれからですよ…

384 名前:月野陽介:2008/07/17(木) 22:30:59 ID:LrCJdDmT0
あはは、あまり(表面上は?)クレームきてなさそうですね?
自分的に1みたいなのを考えてたけど2と4もいいなあ〜。
なんがまたイケナイ妄想が暴走しそう・・・。
一応次は6節をすっ飛ばして最終節からエピローグって考えていたけど
6節終了後のやつででまた上みたいな練りこんでやつ・・・作ってみようかな?
・・・どうでしょうか?
1なんとか耐えれます。やってみればぁ?
2頼むから勘弁してくれさっさと終わらせちまえ
3くたばれもしくは死ね
1なら希望のシチュとかありましたら。なかったら2か4かな?
2、3が多いならちゃちゃっと終わらせます。遠慮なく指摘してください。
・・・へたくその分際で調子乗りすぎすか?ゴメンナサイ・・・

385 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/17(木) 23:45:45 ID:2NQVUDP20
クレームなぁ。すまん、スピたんには手を出してない上にロティがあまり好きになれそうにないので読んでません
なんかユートが残していったものを摘み食いしてる感じがな。個別に入らないでも食ってるらしいじゃん

386 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/18(金) 00:50:59 ID:SH/1nRMG0
>>385
そういうのはクレームじゃなくて、食わず嫌いで気に入らないものへの
やっかみって言うんだ。覚えとこうぜ。

でも自分もあえてクレーム。
読者の意見をいちいち飲み下して話を作るんじゃなくて、腹案をストレートに読ませて欲しいなと。
あまり面白くなかった場合に、それが読者の要望に盲従したせいに見えちゃうので。
これまでは面白く読ませてもらってるので、最後まで他人を取り入れず走りきって欲しいです。
読者の期待に応えるのは最初の一周が終わってからの二周目、エキスパンションでいいんじゃないですか?

あと、三点リーダ使ったり半角全角の使い分けをマメにしてくれると字として読みやすいかなーと。
けっこうぐちゃぐちゃしてます。

387 名前:月野陽介:2008/07/18(金) 06:41:29 ID:dmublJoD0
>>386
ご意見どうもありがとうございます_(_^_)_
どういう展開にするかいまいち決めかねてるけど
とりあえず書きながら決めていく事にします。
そのままいくかあえて一章増やすかはまあそのときで。

文がやっぱり読みにくいですか・・・で、できるだけ善処します・・・。

388 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/18(金) 07:52:52 ID:gQALXEwC0
>>387
句読点が極端に少ない感じがする、かな?
展開は…本能の赴くままに前進あるのみ!

389 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/18(金) 14:29:17 ID:+b2ZiuRGO
もう、「朝チュンで良いカシラ?」とか、思うこの頃…
まぁ、オイラの場合ずっと先なんですけどね…

390 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/19(土) 10:35:38 ID:rBZq9LKX0
スピ式ストライキ

悠人「行くぞ!みんな!」
ヒミ「ヒートフロア」
ヘリ「ば、バニシングハイロゥ」
ファ「イニシャライズ」
ニム「ストライク」
ナナ「スイング」
ハリ「リヴァイブぅ〜」
セリ「ウォーターシールド」
ネリ「ウォーターシールド」
シア「ウォーターシールド」
悠人「リレミト」

391 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/19(土) 21:33:43 ID:sNdChKuXO
エス「ユート様。わたくし達は国家公務員なのです。スト権などないのです。それは本当なのです……」


392 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/20(日) 02:13:25 ID:QODVczqn0
争奪戦の続き(1〜8?)を投下致します
あんまり争奪してませんが、「続きは〜?」とか言われない様に纏めてみました
ギリギリまで推敲して投げるので、少し投げる間隔が長いですのでご了承下さい

393 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/20(日) 02:16:03 ID:QODVczqn0
短編:夜の森で…〜続ハリオン・リヴァイブ〜(1)

「ところで、ヨーティア殿」
「ん、何だい?レスティーナ殿」
 スピリット隊が出払った会議室で、レスティーナは気になっていた事を尋ねてみた。
「ユートが子供になった理由は解りました。ですが、何故あの様な性格になってしまったのですか?」
「ふむ、そうだねぇ…」
 顎に手を添え、ヨーティアが瞠目した。
「多分、『大樹』の――いや、ハリオンか?まぁ、どちらにせよユートの精神が神剣の力で歪められたんじゃないのか?」
 ヨーティアの言葉に、散乱した会議室を片付けていたイオが手を止めて振り返った。
「やはり、そうでしたか…」
「おや、イオは気付いていたのかい?」
 イオは頷くと、懐から『理想』を取り出した。
「ユート様の神剣ですが、そこに『大樹』の気配が大分混ざっていました」
「ほ〜、『大樹』が『求め』の精神を上書きしたのか…」
 悠人に負けず劣らずのざんばら髪を掻きながら、ヨーティアは驚いて呟いた。
「いえ、結果で言えばハリオンさんの精神に『求め』が引き摺り込まれた様です」
 その言葉に、ヨーティアとレスティーナが崩れ落ちた。
「流石の『求め』も、ハリオンには敵わなかったって事か…」
「神剣の干渉に耐性があるとは聞き及んでいましたが、まさかこれ程とは…」
 神剣同士が力を及ぼし合う事は知られていたが、二つも高位の神剣を手玉に取る事が出来るのは大陸広しと言えどハリオンくらいのものであろう。
「さて、大方の疑問が解った処で。イオ、ナナルゥはもう捕まったか分かるかい?」
 イオは『理想』に意識を集中すると、ヨーティアの質問に首を振って答えた。
「いえ、まだ捕まってはいない様です」
「そいつは凄いね、どうやって逃げているのか直に見てみたいモンだが…」
 会議室から廊下に出ると、三人はスピリット隊が出て行った中庭から争奪戦が繰り広げられている森の方を見渡した。
「取り敢えず、森でスピリット隊の大規模な演習が行われていると国民には報じておきましょう…」
「ま、賢明な判断だね…」
「皆さんが怪我をなされない事を祈りましょう…」
 彼等の一日は、まだ終わりそうにはなさそうである。

394 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/20(日) 02:18:16 ID:QODVczqn0
短編:夜の森で…〜続ハリオン・リヴァイブ〜(2)

「でも、驚いたわね。まさかナナルゥがあんな事をするなんて…」
 森を探索していたセリアが呆れ半分で呟く。
「ホント、ホント。ユート様を攫っちゃうなんて思いもしなかったわよ」
 隣を歩くヒミカもそう漏らして溜息を吐いた。
 しかし、そんな言葉とは裏腹に二人の表情には僅かな喜色が浮かんでいたりしている。
「だけど、流石にユート様をずっとあの儘にしておくわけにはいかないわ」
「そうね。でも、その辺はナナルゥも解っているとは思うのよね〜」
 いくら暴走しているとは言え、考えの至らないナナルゥではない。
 勿論、今は児童誘拐なんぞカマしちゃっているワケであるが、悪い娘ではないと言う事は彼女を知る者全ての共通認識である。
「ふふっ。ユート様には悪いかもしれないけど、もう少しナナルゥも我が儘に付き合って貰うって言うのはどうかしら?」
「それは良いんだけど、でも一応二人の居場所くらいは確認しておきましょうよ」
「えぇ、解っているわ」
 悠人を抱えているナナルゥを思い出し、少しだけ二人は笑い合った。

395 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/20(日) 02:20:29 ID:QODVczqn0
短編:夜の森で…〜続ハリオン・リヴァイブ〜(3)

 一方で、熾烈な戦いを繰り広げている者たちも居たりする。
「そぉれ〜♪」
「くぅっ…!!」
 辛うじて躱した刺突であったが、遅れてきた真空の鞭がエスペリアの頬を打ち据え、鮮血を飛沫かせた。
 焼き鏝を押し付けられた様な痛みが走る。
 が、危機を感じた脳はそれ以上の痛みを全て切り捨てた。
 機能に支障が無いのならば、最早痛みは邪魔な感覚でしかなかった。
 それ程迄の強敵と、エスペリアは壮絶な応酬を繰り広げていたのだった。
「ハリオンッ!!何故私の行く手を邪魔するのですかっ!?」
 火花を振り撒く槍撃の嵐の中で、エスペリアはハリオンに叫んだ。
「そうですね〜。理由を挙げますと〜、もう少しの間だけ見逃して貰う為ですね〜」
 既に満身創痍のハリオンであったが、立ち昇るマナなど気にも掛けずにいつも通りののほほんとした口調でそう答えた。
「ユート様は私たちの隊長なのですよ?それをこの様に扱うなど到底許される事ではありません!!」
「でも〜、ユート様ならお優しいですから〜、きっと許して下さいますよ〜」
「規律の問題なのです。いくらユート様が人徳を備えているとは言え、限度があるでしょう!!」
 『大樹』を弾き上げ、ハリオンに隙を作ったエスペリアが決定打の一撃を繰り出した。
 貰った、と確信したエスペリアの背中にぞくり、と悪寒が走った。
 ハリオンの目が、笑っていた。
「え〜いっ!!」
 『献身』の腹を手甲で打ち落とし、ハリオンがエスペリアの懐に入った。
「なっ!?」
 弾かれていた腕がその儘に引き絞られ、ハリオンの構えが完成した。
「やぁ〜っ!!」
「きゃあぁぁっ!?」
 大地を踏み砕いて放たれたハリオンの一撃が、エスペリアを防御ごと吹き飛ばす。
 如何に堅牢と言えど、ハリオンの渾身の一撃を受け止めるにはエスペリアの重さが足りなさ過ぎていた。

396 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/20(日) 02:22:45 ID:QODVczqn0
短編:夜の森で…〜続ハリオン・リヴァイブ〜(4)

 木々を粉砕しながら森を転げ、エスペリアは七本目の巨木に打ち付けられて漸く地に足が着いた。
「くっ…!!」
 『献身』を杖に、エスペリアが立ち上がった。
 咄嗟に全身をシールドでハリオンの一撃や吹き飛ばされたダメージは軽減出来ていたが、足元がふら付いてしまっていた。
 三半規管が完全に酔ったのだ。
 嘔吐感に堪え、揺れる視界を見据え、それでもエスペリアは己を奮い立たせた。
 手元の『献身』の警告が頭の中で響いた。
 確かに、今の状態は最悪なのだろう。
 しかし、エスペリアの闘志は消えない。心は折れない。
「ユート様を、元に戻します…!!」
 エスペリアの全身が、緑のオーラに包まれた。
 傷が癒え、大地の祝福がエスペリアに更なる限界を突破させた。
「あらあら〜?」
 オーラを立ち昇らせるエスペリアの前に、ハリオンが『大樹』を構えて立ちはだかった。
「仕方がありませんね〜。それじゃあ私も、頑張って時間を稼ぎましょうか〜」
 周囲の緑マナがハリオンに収束し、『大樹』が紫電を纏い始めた。
 向かい合い、腰を落として互いに槍を引き絞る。
 次の一撃が最後なら、ここで出し惜しむものは何も無い。
「やあぁあぁっ!!」
「とぉ〜っ!!」
 蹴り飛ばされた大地の欠片が後方の木々に突き刺さった。
 全身の関節と筋肉が連動し、力と技を乗せた極限の一撃が放たれた。
 余波の衝撃波が周囲を切り裂き、マナの稲妻が迸る。
 音すら辿り着けぬ、無音の刹那。
 直後。閃光と共に、空間の悲鳴がラキオスに轟いた。

397 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/20(日) 02:25:40 ID:QODVczqn0
短編:夜の森で…〜続ハリオン・リヴァイブ〜(5)

 時は少し遡る。
「そう、その切れ目に指を挿入して下さい。ユート様…」
「こ、こうかな?」
 言われた通りに割れ目に指を宛がい、ゆっくりと進めていくと、くちゅり、と湿った音と共に濡れた感触が悠人の指を包み込んだ。
「わわ、何かぬるぬるしてるよ?ナナルゥお姉ちゃん」
「落ち着いて下さい、ユート様。あまり急に指を動かされますと中が傷付いてしまう恐れがあります…」
 ナナルゥは真剣な表情で悠人の行為を指導していた。
 煩雑かもしれないが、この作業をするのとしないのでは後々の具合に雲泥の差が出てくるのである。
 衝動的な本能に流されて事を急いでは、苦い結果しか得る事は出来ない。
「中で指を曲げて、絡み付かせる様にして下さい…」
「う、うん…」
 ナナルゥに言われた通りにすると、捲れた中身が赤々と姿を現し、大量の体液が悠人の指を伝って外に溢れ出してきた。
「上出来です、ユート様…」
 悠人の手技に満足したのか、ナナルゥも何処か興奮気味に悠人を褒めた。
「そ、そうかな?」
 照れ隠しについ鼻を擦ってしまった悠人は、その匂いに少し顔を顰めてしまった。
「う〜、ちょっと生臭いや…」
 普段は嗅ぐ事の無いその臭気に対して、悠人は素直な感想を漏らした。
 尤も、強烈な、ある意味生のその匂いが鼻に慣れる迄には単なる異臭にしかならない事は、悠人に限らず万人に共通している事でもある。
「で、次はどうすれば良いの?」
「そうですね…」
 下準備を済ませ、次の段階に進むべきと判断したナナルゥはいよいよ醍醐味とも呼べる最終段階に移る事を決心した。
「ユート様、これは火遊びではありません。この行為によって満たされる事もあれば、すべてが台無しになる可能性もあります。心して臨んで下さい…」
「うん、ここからが本番なんだね…」
 ナナルゥの言葉に込められた重さを感じ取った悠人がゴクリ、と喉を鳴らした。緊張か或いは期待か、悠人の頬は朱に染まっていた。
 そんな悠人の意気込みを確認したナナルゥは、悠人に最後の手解きを教え始めた。

398 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/20(日) 02:27:55 ID:QODVczqn0
短編:夜の森で…〜続ハリオン・リヴァイブ〜(6)

「ユート様、焼き上がりました…」
「有難う、ナナルゥお姉ちゃん」
 焼き上がった川魚を受け取ると、悠人は早速囓りついて堪能し始めた。
「あれ?何か味が付いてるね」
「移動中に発見し、採取した幾つかの香辛料を使用しました。如何でしょう?」
「うん、すっごく美味しいよ」
「恐縮です…」
 満面の笑みを浮かべる悠人を確認し、ナナルゥも焼き上がった川魚を焚火から取って食べ始めた。
 どうやら内蔵はちゃんと取り除けていた様で、余計な苦味は無く、川魚の淡白な風味に香辛料の味が綺麗に付いていた。
 先の作業が見事に功を奏していたらしい。
「そう言えば、何で僕たち森の中なの?」
 その質問に、ナナルゥの動きがピタリ、と止まった。
 それからやや黙考し、何かを閃いたのか。ナナルゥはポン、と手鼓を打った。
「先程、我がスピリット隊では大規模な演習が行われているとの通達がありました。ですから、現在の状況もその一貫と言う事になります…」
「へぇ、そうだったんだ。目が覚めたらいきなり森の中で吃驚したけど、それなら仕様が無いね」
 そして黙々と夕食を摂り終え(途中で聞こえてきた大音響に悠人が驚いたが)、火の始末をした二人は寝る場所を探して移動を始めていた。
「この木の下が適当と思われます…」
 雨風が凌げそうな木を見付けると、ナナルゥは行軍用の鞄から野営用の外套を取り出した。
「あれ?僕の分は?」
「緊急時でしたので一人分しか確保出来ませんでしたが、今のユート様でしたら充分二人でも収まると思われます…」
 バッチコイ、と外套を羽織ったナナルゥが悠人に向かって両腕を広げて待機していた。

399 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/20(日) 02:30:30 ID:QODVczqn0
短編:夜の森で…〜続ハリオン・リヴァイブ〜(7)

「寒くはありませんか?ユート様…」
「うん、平気だよ」
 木に凭れ、悠人を背中から抱き抱えながらナナルゥは夜空を見上げていた。
 悠人も釣られて夜空を見上げ、ナナルゥと目が合うとにぱっ、と笑った。
 相変わらず表情は変わらないが、代わりにナナルゥは少し悠人を抱く腕に力を込めた。
 伝わってくる悠人の鼓動を胸に感じ、ナナルゥは更に悠人の頭に顎を乗せてグリグリと擦り付ける。
「わわっ!?ナナルゥお姉ちゃん、少し思いよ?」
 そんな悠人の声を無視して、ナナルゥは悠人の髪を楽しんだ。
 硬くてチクチクしていたが、不思議と安らいだ気分にさせられた。
「ユート様の匂いがします…」
「それなら、僕はナナルゥお姉ちゃんの匂いがするよ?」
 ナナルゥの呟きに、悠人はクスクスと笑った。
「ユート様…」
「なぁに?」
 一拍の間を置いて、ナナルゥは言葉を続けた。
「元のお姿に戻られたいですか…?」
「ナナルゥお姉ちゃんと同じくらい大きくなった僕だっけ?」
「はい…」
「そうだね、やっぱり元の姿に戻りたいかな?今の僕だと、皆を守る事も出来ないしね」
 口調こそ軽いものの、決意を込めて悠人は答えた。
 それはつまり、この騒動の終止符を意味していた。
 ナナルゥは無言で悠人を抱き締めた。
「有難う、ナナルゥお姉ちゃん。今日はすっごく楽しかったよ」
 その言葉に、ナナルゥは静かに頷いて返した。
「だから、今度は僕がナナルゥお姉ちゃんを連れて何処かに遊びに行きたいな」
 回されたナナルゥの腕に手を添え、悠人は背中のナナルゥに呼び掛けた。
「今度は、僕がナナルゥお姉ちゃんを誘うからね?」
「はい、ユート様…」
 星が一つ、二人の上を流れていった。

400 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/20(日) 02:32:48 ID:QODVczqn0
短編:夜の森で…〜続ハリオン・リヴァイブ〜(8)

「ふ〜…。まぁ、これで全部元通りってワケだ…」
 今朝、悠人を背負ったナナルゥが城に戻って来た為、演習は終了となった。
 ニムントールの<リヴァイブ>によって元に戻った悠人であったが、今日は暇を取るらしい。
 他にもエスペリアとハリオンも休暇申請をしていたが、こちらは演習での疲れで寝込んでしまっているとの事だった。
 と、報告書を読んでいたヨーティアがククッ、と笑った。
 その儘報告書を机の上に放り、ヨーティアは大きく伸びをして窓からラキオスの街を眺めた。
 空には千切れた雲一つ。悪戯な風がペラペラと報告書を捲っていった。
 最後のページに記載されたもう一人の休暇申請受理者欄。
 “ナナルゥ・レッド・スピリット”
「全く…。ナナルゥも申請理由に“逢引き”なんてバカ正直に書かなくったって良いだろうに…」
 髪を風に靡かせながら、ヨーティアは愉快そうに目を細めた。

401 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/20(日) 08:13:21 ID:QODVczqn0
あぁ、連絡スレにまたお世話になりました…orz

ところで、何でオイラの話ではエスペリアとハリオンがいつもこうなのカシラ?

402 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/21(月) 00:34:58 ID:ftrZ4Z4Z0
乙〜
まあエスとハリオンはこのスレじゃ昔からこんなもんでしょw

403 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/21(月) 01:13:58 ID:WKARpzwL0
シアー「エスペリアお姉ちゃんと〜」
ネリー「ハリオンお姉ちゃんって〜」
シアー・ネリー「「被ってるよね〜?」」

エスペリア「……」
ハリオン「・・・…」

404 名前:月野陽介:2008/07/21(月) 08:06:13 ID:2Pf+kuMf0
<<401 乙です。
そう言えば自分エスペリアルートクリアしてなかったな・・・(聖なるかなやりだして投げ出しちまいました。)
やったのはアセリア、ウルカ、オルファだけ。レスティーナもクリアしてないか。
イービルは陵辱嫌いなので元からやってないし。
でもってスピたんは絵適に好きだしロティ君もそんなに嫌いでなく、
ナナルゥルートさえあればそれだけで残りの不具合を許せると思う自分はかなり異常な奴かもと思う今日この頃。

それはさておき。続きをどうしようかとすごく迷ってる最中なのですが、少しだけ思いつきました。
一応三点リーダーと句読点を気にかけたつもりになってみます。
とりあえずこんな出だしはどうでしょう?
6章終了後の所からスピたん〜幻のナナルゥルート〜6章(仮)!

405 名前:これもひとつのあいのうた。(仮):2008/07/21(月) 08:08:12 ID:2Pf+kuMf0
「・・・ま、またなんとか、みんな無事に方舟まで戻ってこれたね?」
「はい。喜ばしい事です。」
「で、ですね。あ、あははははは・・・」
「むぅー。ナナルゥはいいなー。」
そう、今回は開拓者と遭遇する事もなく、無事に方舟まで戻ってこれた。
ツェナの話によると、おそらくあと一回で本命の目的地にまでいけるらしい。
ナナルゥも戦闘において調子を取り戻した。いや、むしろ前よりもいいくらいだ。
…それはいいとして。
「あ、あのさ、ナナルゥ?」
「何でしょうか?」
ナナルゥが、方舟に戻って来てからずっと僕にくっついてきている。(方舟を出るときもだったが)
手をつなぐとか組むとかいうレベルではなく、腕に抱きつくといっていいレベルで。
うれしはずかしというか。もう恥ずかしいしかないというか。腕に胸がうふふえへへあははーなわけで。
「もうすぐ町に着くからさ、その…恥ずかしいから、ちょっと離れてくれない?」
「…ロティ様、冷たいです。…昨夜は、テントの中であんなに愛してくれたのに…」
ぶひゃあ。(セリアさん達が吹いた音)ばたーん!!(約3名ほどがすっ転んだ音)
「ナナルゥ!?いや、昨日は何も…」

「冗談です。」

……ダレカタスケテクダサイ。
あのときのナナルゥの大暴露&大混乱、大絶叫のあと、
互いに真剣である事と、何よりもナナルゥが嬉しそうだからという事で、
僕達二人は、晴れてみんなの公認の仲となった。
・・・だけどそれからというもののナナルゥが終始僕にべったりな訳で。

406 名前:これもひとつのあいのうた。(仮):2008/07/21(月) 08:10:46 ID:2Pf+kuMf0
恋人ならこうするものと言って何かと僕の世話を焼いてくれて。
自分で料理当番を買って出て、僕にあーんしてを強要したり
(みんなが言うには、普通に美味しかったらしいが、恥ずかしくて味がほとんどわからなかった)
みんなの目の前で膝枕に耳掃除とか(正直、鼓膜を突き破られると思って戦々恐々だった)
僕が出かけるたびについて来たりとか(腕にくっついてきてむにゅー。うふふえへへあははー)。
ちなみにナナルゥに吹き込んだ大体の情報元はヘリオンとハリオンさんである。
嫌な筈はない。ものすごく嬉しい。これぞコウインさんが言っていた、男の夢というものだろう。
だけど、これらの事を全く他人の目を気にせず、おまけにしょっちゅう夜の話を人前で話すのはなんとかして欲しい。
「…ちょっとロティ。まあその、こ、恋人同士なんだし、やるなとまではいわないけど、
…いくらなんでも、こうも開けっぴろげにされちゃネリー達の教育によくないわ。」
「は、はい…。な、ナナルゥ!あのね、お願いだからみんなの前でいわないで!」
「…それは、何故なのですか?私が恋人であると言う事は、人に言えないほど恥ずかしい事なのですか?」
うるうるうる。
「えええ!?いや、そうじゃなくてさ、流石にそういう話を他の人の前でするのは」
「恋人同士なら、当たり前の行為と聞きました。ロティ様は当たり前の事が恥ずかしいのですか?」
ウルウルウルウルウルウルウルウルウルーーーーーッ!!
「あわわわわわわ!?い、いやあのえと、う〜あ〜…。」
最近気のせいでなく、こういう事にかけてナナルゥは自己主張をするようになったと思う。
それは喜ぶべき事なのだろうが、いくらなんでもこんな話を堂々と話せる訳がない。
「えーと、あ、そうだ!そういうことは、そう、みんなには秘密なの!二人だけの秘密ってやつ!」
「…そう、なのですか。…了解、しました。これからは控える事にします。」
「そ、そう…よかった…。」
「…二人だけ。ロティ様と、私の、二人だけの……。」
…納得、してくれたんだ…よね?

「…で、ナナルゥ?結局、離れないのかな?」

407 名前:これもひとつのあいのうた。(仮:2008/07/21(月) 09:03:42 ID:2Pf+kuMf0
「……。(ウルッ)」
「ごめんなさいごめんなさいもういいませんから
どうかそばにいてくださいっていうかなかないでください!」
「…♪」むにゅ〜う。
「あ、あの…ナナルゥ、…柔らかいものが、思いっきり当たっているんだけど・・・。」
「当てているのです。」

たすけてくださいっ!!

と瞳を閉じて世界の中心でラヴを叫びたい。
「うふふふ〜。ナナルゥさん幸せそうですね〜」
「ええ、本当に。…できるならもう少し、周りの目を気にして欲しいけど」
「周りが見えなくなるほど好きって事なのね〜。まあ、こっちがもう見てられないって感じだけど。」
「ふっ…やるなロティ。俺から教える事はもう何も無い…。これで、俺も心置きなく…」
セリアさん、コウインさん、ハリオンさん、ヒミカさんが一連のやりとりを、生暖か〜い目で見守っていた。
「いいな、いいな〜。」
「兄さん…えっち。」
え〜?
「ロティ、ずっと鼻の下伸ばしてる。恥ずかしそうにしてて、デレデレ喜んでる。」
「えっとニム、まあふたりは付き合ってるんですし…」
「そうですよ!二人とも素敵ですっ!」
「ま、あそこまでオープンだと、もう注意する気もなくなるよね〜。」
「…ふん。すけべ。」
…たす、け…て……

結局、ツェナの家まで(家に着いてからも)、ナナルゥは、ずっとぴったりくっついたままで。
方舟の人達の目が、やっぱりちくちく痛かった…。


408 名前:これもひとつのあいのうた。(仮:2008/07/21(月) 09:07:03 ID:2Pf+kuMf0
続く?

とりあえずここまで。ナナルゥ、デレ期に入る?
でもナナルゥはツンじゃないか。クーデレって奴か?
さて、これから先どうしましょう?
5章みたいにエロなアホ展開やろうかな?
それともぱぱっと真面目に終わらせようか?
まあもう少し考えて何も浮かばなかったら考えてた真面目なやつを。
では。

409 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/21(月) 19:18:52 ID:SH3rtsnq0
ところで皆さん、オイラの手元にあるSS(1〜6)を見てどう思います?

410 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/07/21(月) 19:24:33 ID:SH3rtsnq0
三章:本気の証(1)

 聖ヨト歴331年チーニの月緑ふたつの日。
 ラキオス王国が神聖サーギオス帝国からの襲撃を受け、七日が過ぎた。
 ラキオス王を筆頭に多大な犠牲を支払わせられたラキオスにおいて、打倒帝国は最早国是となっていた。
 レスティーナは第一王位継承者として即位を宣言し、大多数の熱狂的な国民の支持の下、ラキオス女王として玉座に就いた。
 しかし、若き女王にとって王の冠を頂く事は同時に新たな苦難の始まりでもあった。
 圧倒的な支持があるとは言え、スピリットの解放とエーテル技術の永久放棄を謳う彼女の理想は余りにも崇高に過ぎた。
 当然だと享受していた生活の豊かさを未来の為に放棄する。
 その苦痛は容易く受け入れられるものではなかったが、レスティーナは敢えて国民に強要はしなかった。
 理想とは掲げるものであり、押し付けるものではない。
 各地での遊説では反対派の批判と真っ向から議論し、レスティーナはその悉くを見事な弁舌と明確な論拠を以って論破していった。
 その姿に、国民が一人また一人とレスティーナの理想を胸に抱き始めていったのだった。


411 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/07/21(月) 19:27:51 ID:SH3rtsnq0
三章:本気の証(2)

「ふぅ…」
 今日の政務を終え、自室に戻ったレスティーナは漸く一息吐いた。
 覚悟していたとは言え、想像以上のその激務に良くぞ耐えられたものだと自分に感心してしまった。
 軍備拡張をエスペリアが担当して負担を軽減してくれなければ、間違い無く過労で倒れていただろう。
(ですが、各地を遊説した効果はあった様ですね…)
 椅子に腰掛け、レスティーナは今回の遊説に確かな手応えを感じていた。
 勿論、掲げる理想を浸透させる事もあるが、それと同等に重要な目的をも兼ねていたのだ。
(恐らく、いえ、必ずや私に反乱を起こす者たちが現れるでしょう…)
 目星の付いた者たちには既に間者を放ち、不隠な動きがあれば逐次報告が来る様に仕向けていた。
 無論、あちらも間者をこちらに放っている様だが、権謀術数の中に生れ落ちて今まで生きてきたレスティーナがそう易々と醜聞を晒す事は無かった。
 緩やかではあるが、レスティーナは自分の理想が皆の中で大きく動き始めていると言う確信があった。
 そして、政界での反対派について、レスティーナは敢えて彼等の議席を保障していた。
 主義の違いと言うだけで爪弾けば為政者として信頼を失うと言う事もあったが、何よりも彼等の批判は国民の抱く不満そのものでもあったのだ。
 彼等に納得のいく回答を突き付ける事は、そのまま国民への誠意の表れとなる。
 国民の信頼を得る一方で、レスティーナは確実に反対派の首を真綿で絞めていった。
(あと少し…。そうすれば、旧王党派も一掃出来るでしょう…)
 帝国に勝つ為には、国を磐石なものにしなければならない。
 今は、じっと耐えるしか無いのだ。
 理想を実現させる為に。
 悠人への誓いを果たす為に。
(カオリ、待っていて下さい。必ずや、貴女を帝国から救い出してみせます…)


412 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/07/21(月) 19:30:34 ID:SH3rtsnq0
三章:本気の証(3)

 と、
 くぅ…
「………」
 女王の私室に、控えめな音が響いた。
(そう言えば、遊説中は全然ヨフアル食べられなかったよ〜…)
 ぷるぷるぷるぷる…
 禁断症状が出たのか、椅子に凭れたヨフアル中毒者が小刻みに震えだした。
(う〜ん…。流石に命を狙われてるし、今迄通りにお城を抜け出して買いに行くワケにもいかないって言うのは解ってるんだけどね〜…)
 冷静な頭が今の自分の置かれている状況を正確に判断していた。
(でも、だからこそ買いに行くって言うのはある意味ヨフアルへの証立てだと思うんだよね〜…)
 エーテル技術を永久放棄する覚悟は出来ても、ヨフアルだけは諦められない様である。
「レスティーナ様〜?」
「入っても良い――、じゃなかった、宜しいでしょうか〜…?」
 扉を叩く音と共に聞こえてきた声に、王冠に伸ばしていたレスティーナの手がピタリ、と止まった。
「許可します。入りなさい…」
 瞬時に佇まいを正して入室を許すと、扉を開けて紙袋とお茶を持った双子のスピリットが現れた。
(――っ!?この匂いはっ!?)
 室内に漂ってきた匂いに、レスティーナの嗅覚が激しく反応した。
「えっと、こっちから出向く時は何か包んで行くと喜ばれるって前にセリアに言われたんだけど…」
「ネリー。そんな言い方しちゃダメだよぅ…」
 紙袋を手渡すネリーのあんまりな言い方にシアーが思わず口を出したが、既に女王の意識は紙袋の方に集中していてそれ処では無かったりする。
「あぅ、そだった…。えと、レスティーナ様。これ、街で売ってるネリーたちが好きなヨフアルなんだよ――、じゃなかった、ヨフアルです」
「街でも評判のヨフアルで〜――、レスティーナ様…?」
「はっ!?」
 紙袋を凝視していたレスティーナであったが、二人の視線に気が付くと、こほん、と咳払いで仕切り直して改めて二人に向き合った。


413 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/07/21(月) 19:38:31 ID:SH3rtsnq0
三章:本気の証(4)

「それで、二人は何か私に用が有って来たと言うわけですね?」
「うん――、じゃなかった。はい、そうです」
「どうしてもしたいお話が有って来ました」
 慣れない敬語に吃りながら、二人はヨフアルの詰まった紙袋を献上した。
(やぁぁあぁったぁぁああぁっ!!久し振りのヨフアルがきたよぉおぉぉっ!!)
 表面上は平静を装いながら、レスティーナが品良く二人からの土産を受け取った。
「折角ですから、使いの者にお茶の準備をさせましょう」
「はわわわわっ!?」
「えぇっと…。シアーたちがやるから、大丈夫だ――、ですから…」
 そんなレスティーナの言葉に何故か慌てだす二人であったが、それでも二人はテキパキとお茶の準備を整えた。
「では、本題に入りましょうか」
 シアーから差し出されたカップを受け取りながら、レスティーナはテーブルを挟んで二人に尋ねた。
「どうぞ、座って結構です」
「はい…」
「…」
 レスティーナが促すと二人はおずおずと椅子に腰を下した。
「えっと、レスティーナ様…」
「何でしょう?」
 ネリーの言葉を真っ直ぐに受け止め、レスティーナがその紫の瞳で見詰めた。
 その透き通った、心も見通す様なその雰囲気に一瞬呑まれそうになったが、ネリーは発起するとその蒼い瞳にレスティーナを映して口を開いた。
「あ、あのね。ネリーたちはスピリットだけど、人間を好きになって良いの――、ですか…?」
 その質問に、レスティーナ目が少し開いた。
「え、えっと。その…」
「続けなさい…」
 レスティーナの態度に瞳が揺れたネリーであったが、その言葉に従って再び勇気を出した。


414 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/07/21(月) 19:42:34 ID:SH3rtsnq0
三章:本気の証(5)

「ネリーたちはスピリットだから人間とは違うけど、それでも好きになっちゃったらどうすれば良いの…?」
「それはユートの事ですか?」
 二人はコクリ、と同時に頷いた。
 そして、次の瞬間に一気に耳迄赤くなった。
「って、どうして解ったの!?レスティーナ様っ!?」
「わわわわっ!!」
 慌てふためく二人を余所に、レスティーナはヨフアルを囓ると優雅に咀嚼して茶で唇を湿らせた。
 「いや、知ってるから…」と言う言葉を飲み込んで、レスティーナは「落ち着きなさい」と二人を宥めた。
「貴女たちはスピリットですが、それだけなのです」
「それだけ…?」
 シアーの呟きにレスティーナが首肯した。
「確かに、スピリットは人間とは違います。ですが、それがどれ程の意味を持つのでしょうか?」
 人間よりも優れた能力や容姿を備えたスピリットたる彼女たち。
 確かに、兵器として利用される彼女たちは脅威であろう。
 だが、心ある彼女たちの本質は人間と何一つ変わらないとレスティーナは知っていた。
「貴女たちがユートを好いている事に、ユートが人間である事が関係ありますか?違う筈です。ユートだからこそ好きになったのでしょう?」
「うんっ」
「ユート様だから好きになったの…」
 誇らしく頷く二人を見て、レスティーナは目元に優しい光を灯した。
「では、ユートは貴女たちがスピリットである事を気にしているのですか?」
 その質問に、二人は大きく首を振って否定した。
「ならば、何も問題無いではありませんか」
「で、でも…」
「その…」
 尚も、食い下がる二人にレスティーナは何かを感じ取った。
「私とて、いつでも時間が取れると言うわけではありません。ですから、思っている事は全部この機会に言わねば次はいつになるか分かりませんよ?」
 意地の悪い言い方かもしれないと思ったが、二人の想いの先を知りたいと思ったレスティーナは敢えて言葉を選んだ。


415 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/07/21(月) 19:45:15 ID:SH3rtsnq0
三章:本気の証(6)

 そして、その言葉に釣られた二人の頬は見るからに茹だっていた。
「ネリーたち、ユート様のお嫁さんになりたい…」
「ユート様と、結婚したいな…」
 りんご〜ん、とレスティーナの頭の中で福音の鐘が鳴った。
 花嫁衣裳に身を包んだネリーとシアーに囲まれた新郎姿の悠人。そして、彼等を祝福する親しい者たち。
 そんな光景が脳裏をよぎった。
 ついでに、泣いている者の涙の意味は各々の解釈に任せておく。
「えっと、レスティーナ様…?」
「やっぱり、ダメなのかなぁ…?」
「はっ!?」
 投げたブーケが原因で、国が滅びそうになった辺りでレスティーナの意識が戻ってきた。
「一夫多妻制度でなければ、世界が滅ぶ危険がありますね…」
「「………?」」
 前後の見えない、突然のレスティーナの台詞にネリーとシアーが心底不思議そうな顔をしていた。
「い、いえ。ユートが二人を娶ると言うのなら、婚姻制度を考える必要もあると言う事です」
 思わず取り繕ったレスティーナの言葉であったが、実はその言葉は二人にとっては至上の言葉であった。
「ほ、本当っ!?レスティーナ様っ!!」
「シアーたち、二人ともユート様と結婚できるんだ〜♪」
「いや、あの…」
 目を輝かせて歓喜する二人に、「二人とも、お待ちなさい」と言う事がどうして出来ようか。
「有難う、レスティーナ様っ!!」
「シアーたち、頑張るね」
 既に敬語も忘れた二人は、レスティーナに礼を述べると元気良く部屋を出て行った。
 一人、部屋に残ったレスティーナは紙袋からヨフアルを取り出すとおもむろに囓り付いた。
「まぁ、いずれはスピリットも人間も一緒になるワケだし…。早めに前例を作っておいた方が良いよね?」
 茶を飲み、レスティーナは一息吐いた。
「ユート君、二人は本気だよ?覚悟しといてね〜…」
 そして、更にヨフアルを囓って――
「あ…!!そう言えば、多妻制なら私にもまだチャンスってあるのかな?」
 そんな事をボヤいていた。

416 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/21(月) 19:48:18 ID:WKARpzwL0
>>409
すごく…かっこいいです(レスティーナ的な意味で

417 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/21(月) 19:53:06 ID:SH3rtsnq0
あれ?
最初の女王様は何処に行ったのカシラ?
すいません、レスティーナ好きの方怒らないで下さい…
アイス・クラスターされると続きが書けません…

そして、誤字脱字がありません様に…

418 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/24(木) 10:43:19 ID:K8SeU4yt0
今更で、流れぶった切る様で申し訳ないが
スピたん派は怒るかもしれんが……。

ヘリオンはユートの嫁っ!!
雑魚スピの皆は、ユートの嫁っ!!

この信念は、揺るがない…そう思ってるヤツ、手を上げて♪
無論、ワシは言わずもがな。

419 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/24(木) 14:40:46 ID:m1DPrCHw0
>>418


420 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/24(木) 14:44:08 ID:WyFwCHaoO
>>418


どのサブスピも魅力的ですが、やはり「一番のお気に入りはこの娘」って言うのはありますね

本当は美人なのに、他の魅力の所為で美人になりきれないキャラとかは愛着が湧きます

元気一杯とか、楽天家とか、く〜るなマイン・スタンパーとか…

421 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/24(木) 14:57:43 ID:BbpNsnoL0
前置きされたところで、スピたんユーザーを根底から否定する意見には賛同しない。
思うは勝手だがその勢いを高めるために他人を否定しないで。

どうしてもそうしたければ言葉で否定するのではなく
「こんなソゥユートがいたら炉帝なんていらないワ!」と思わせるくらい良質な作品で対抗せにゃね。
…とはいえ、実際こんな意思表示がいまだ後を絶たないのはそんだけ魅力的な炉帝を見る機会が少ないからか…
月野さんがんばれ超がんばれ。エターナルがんばれ。むしろナル・ハイエターナルがんばれ。

422 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/24(木) 15:40:35 ID:J3EFA2YOO
冷静に考えれば、
ユートが旅だった後の彼女達はどっかの誰かと添い遂げる可能性濃厚な訳で。

訓練士の誰かとか、店の常連とか市井の無名人とか。クラウとかw
そう言う話と違うかw

まあ同人設定を見る限り、まだまだ戦いからは解放されないようだがね。


423 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/24(木) 16:45:37 ID:WyFwCHaoO
>>421>>422
スピたんSS無くは無いです
時系列が探険終了後のストーリーで、凡そ半分辺りで止まった状態になっております
書き止めたきっかけは、ドリームエレメントの方でオリジナルものは遠慮して欲しいとのお達しを見たからかと…
世界観や設定が壊れる様な高位の神剣やキャラは出てきませんが、長編でオリジナルキャラが出てくるのでその辺りを悩んで封印
双子SSに切り替えて現在に至るワケです

424 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/24(木) 16:58:14 ID:QLxzMevw0
>>422
なんとなくセリアさんとエンレインは相性が良さそうな気が、何故かする

425 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/24(木) 20:33:08 ID:J3EFA2YOO
そういや、ハリウス、ファズリィズにエロが無いのってなんだかな。ロティがレイプされるべきだよね。


そしてふと思う。
アセリアがハイペリアに来た際見たであろうNHKには、アナログの文字が画面上でおどってるわけか。うざ。


426 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/24(木) 22:34:59 ID:4PJKgGBQ0
彼女達主観での時間の流れがどうしても

悠人と出会い→忘れ→ロティと出会い

だからなぁ。
つまりは雑魚スピが幸せになればそれでいいって所では意見一致してんでないの?
1)悠人の嫁になればそれがベスト
2)誰でもいいが幸せにせんと許さん
程度の相違はあるにしてもさ。流石に
3)誰だろうが許さん
ってな頑固親爺はそんなに居んだろ、いくらこのスレでもw

427 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/25(金) 00:32:21 ID:2V+wLx6m0
>>425
ノベル版スピたんを読んだことがないようだな。
あるイミ焚書されても足りないようなカオスな内容なので、知らないからってオススメはできんけども。
もしくはその威力に当てられて読んだ記憶を封印したか。いずれにせよ業の深い一冊だった…

なるかなはともかくスピたんは設定が大まか過ぎて、アタマに浮かんだ発想という泥水を
設定という網で漉して、矛盾やつまらなさといった不純物を抜き出す作業に面白みがなくて困る。
ある意味の作りやすさでもあるけど、逆に何でも透き通ってしまうぶんオリジナリティが強まって受け入れがたいというか。

ん、じゃあとりあえず今からロティのSS書いてくる。

428 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/25(金) 06:17:27 ID:2V+wLx6m0
 
で、前半書いてきたです。後半は早ければ1両日中に。

「お祖父様。食事を頂いてもよろしいでしょうか。」
「…訓練はどうした」
「訓練士なら先ほど帰りました。何でもお暇を頂きたいとかで」
「またか…」つぶやき、皺に塗れた面の皮の渋みが増す。
「これで何度目だと思っている」
「畏れながらお祖父様。僕に命ぜられたのは然るべき訓練を受けて強い兵士になるという事です。
 荷が勝ちすぎる訓練士に上手な指導をさせてやる事ではありません。」
「潰れるのは先方の勝手、ひいてはわしの読み甘さということか」
「仰る通りです。僕を早く戦場に立たせたいのであっても。もっと有能な訓練士を招かねば。
 当家が優れた兵隊足りうる人材を出し惜しむ。忠国の精神に反する家だと謗りを受けかねません。」
「腕もさる事ながらよう口が回る。そうやってわしに反抗しているつもりだろうがな」
「僕はお祖父様に逆らった覚えは。一切。ございません。」
頭を下げる。
お辞儀の角度は深く、待ち構えていたタイミングで、何かを斬り捨てるように。
「従順と服従は同じではないが…まあ良い、お前に従順を求めてなどおらぬでな。
 飯など勝手に食らえい。わしに報告するなど訓練の経過だけでよかろうものを」
「僕は。お祖父様の。お言いつけを。」
「もう良い。……下がれ」お前など口を利くのも汚らわしい、と言わんばかりの空気を口から吐き出しつつ。

「…! また、若様は…」
給仕のメイドが食卓の様子を見て嘆息する。
豊潤な食材が惜しげもなく、食べる者の舌を唸らせるべく調理され、絢爛に盛り付けられた料理。
その皿が一つ残らず叩き割られていた。

429 名前:2/10:2008/07/25(金) 06:22:46 ID:2V+wLx6m0
 
「はぁー…」
街を適当にぶらつき、手にした水瓶で、鬱陶しく口に残る肉のカスを適当にすすいで飲み下す。
今日もようやく一日の仕事が終わった。
おれの仕事。それは家に帰って家族と顔を付き合わせる事だ。
おれにとって家族というものはそれ自体が労働だ。互いに望みもしない相手に会い、
義務的に言葉を交わし、それさえ済んでしまえば一切相互不干渉。
一応兵士になれという名目で家に訓練士を招き、そいつの稽古を受ける事になっている。
それは仕事だとは思っていない。強いて言えばおれの趣味だ。
本気で来て構わない、などと言ってのけるむくつけき肉だるま共を、上背も横幅も重量もないおれが遊びで叩きのめす。
それは体を動かす事がストレス解消になると同時に、訓練士共がおれの『上司』―世間一般で言うところの祖父―
の意を跳ね除けていると感じられて、わずかに溜飲が下がるからだ。
だがそれもほんの一瞬の事。そんな事に痛快さを追及してしまう自分がくだらなく、そしてその痛快さも
結局は『上司』の恩恵にも思えて苛立ってくる。
何年も前から、もうあの家の世話になった覚えはない。衣と食は街をぶらつくチンピラを軽くおしおきして
巻き上げた金で几帳面に買い揃え、そこらで夜明かしをする。
遊びに使う金も必要ない。チンピラからサイフをむしる方がまだ楽しいから金なんて溜まる一方だ。
「はぁー…」また溜め息が漏れる。
家に反目し、小悪党を制圧し、そのくせ社会のルールを半端に守り、結果当て所ない。
カツアゲが楽しいなんて嘘だ。結局おれは楽しめてなどいない。
そもそもおれは、この世界の楽しい事がなんであるかも計りかねているのだから。

430 名前:3/10:2008/07/25(金) 06:28:18 ID:2V+wLx6m0
 
「よぉッリーダー!」
翌日、街をぶらついていると柄の悪そうな面子が4人ほど道を塞いだ。
「…ああ」見慣れた面構えだ。名前なんて覚えてない。何ヶ月か前におれに因縁を吹っかけてきて
返り討ちにしたら後を付いて回るようになった奴等。
「なんだよ相変わらず分かりやすい不満ヅラしちゃってさぁ!」へらへら笑いながら寄り添ってくる。
「そう?」軽く相槌を打つ。
「えっとな? 実は今日はちょっと頼みがあってよ」そう言って肩に手をかけてくる。
「実は隣町のヤツラが最近ハデにやってやがって…コッチの女とか酒場にチョッカイかけてきてんだ」
「ふーん」
「で、おとといマーリンのヤツがやられたんだ…! 入院までして、鼻とか折られてもうヒデー顔だった」
「ふーん」
「でよぉ、オレ達も当然リベンジすっけどオマエの力もチット貸して欲しいんだよ!」
まあそういう事だ。自分達に非がない事を主張しておれの力を拝借したいらしい。
兵隊上がりの屈強な訓練士も欠伸しながら素手で病院送りにできるおれ。しかも仲間の仇討ちという
大義名分が付いておれにも気分のいい話というわけだ。あるいは隣町側の動きってのも嘘だろう。
「いいよ」
「マジか! やったぜ、オマエいりゃ百人力っつーか敵なんていねーし! んじゃよ報酬は」
「いいよ、お金なんて」
「イヤイヤそれはねーって、いくらオレらでもダチにタダ働きさせるわけ」
「ただなんて言ってないよ。お金の代わりにまず君たちが行って来てくれればいいから」
「は…?」
「ひと騒ぎあれば相手がどれくらいの人数連れてくるか分かる。おれもトモダチが目の前で頑張る姿を見れば
やる気に火が点いて負ける事はなくなると思うし」
「で、でもよ」
「トモダチの仇討ちに体も張れないのかい? そんな男にトモダチ呼ばわりされるのはきついなぁ」
「……」一同が押し黙る。後ろにいるやせぎすなどはもう怯え始めていた。

431 名前:4/10:2008/07/25(金) 06:33:46 ID:2V+wLx6m0
  
「まぁ怪我するのが嫌なら別の方法でトモダチだって証明してくれればいいけど」
「ほ、ホントか?」リーダー者の、つまらなそうに渋っていた表情が現金に明るくなる。あからさまな様子に苦笑しながら
「あっ。さいふおとした。」
ポケットから取り出した財布を思い切り地面に叩きつける。金属が石床に叩き付けられる音がガチンと響き、
財布が破れて小銭がいくつかそこらに転がった。財布がぶつかった石床は砕けている。
「ひろってくれないかな。」
「は…?」
「ナカマがさいふをおとしたんだ。ひろってあげるってすごくやさしくてトモダチっぽいとおもうんだよね。」
「あ、ああ…」一瞬疑いと怒りの色が露わになったが、よっぽど隣町の奴をどうにかしてやりたいのか破れた財布を拾おうとする。
「ちゃんと。ひろってくれるとうれしいなぁ。トモダチてきに。」
「ちゃ、ちゃんとって何だよ…」
「しゃがんで。こぜにもいちまいいちまいひろって。それでわたしてくれるとほんとうにうれしいよ」
「く…」明らかに舐められていると分かっても、4人はそこら中に散らかった小銭をのろのろと拾い集めて
「ホラよ…落としたぜっ」そう言ってぼろぼろのサイフをぶっきらぼうに突き出してくる。
「ありがとう。おとしたひとにはおれいをしなきゃね。せっかくだからぜんぶあげるよ。」
「………!!」足りない頭の血管でも切れそうになったか、リーダー者の顔が赤くなる。
「そうそうマーリンの事だけどさ、きのう酒場のけばい女とニヤケながら歩いてたよ」
「なっ」「げ…」
「まぁ僕らのトモダチのマーリンは病院で悔し涙を流してるんだから、きっと
世界で一番マーリンに似てる他人の空似なんだろうけどさあ。あっ、安心していいよ。
ちゃんと敵はとってあげるから。なんせおれたちは。トモダチだからね。」
にっこり笑ってリーダー者の肩を叩いて言う。わかりやすくビクッと震えた肩肉の感触に、おれの口元が苦笑でゆがんだ。

432 名前:5/10:2008/07/25(金) 06:40:25 ID:2V+wLx6m0
 
「はぁー…」
街道をだらだらと歩く。昼の街並だ。何を見るでもなく視線をさまよわせていれば誰かと視線がかち合う。
「ひ…!」おれより一回りは上の男が慌てて顔を背ける。珍しい事ではない。
おれはこの街でおそらく最も有名だからだ。悪い意味でという限定が付くが。
「喉渇いた…」ふと思って商店街を眺めると、いいタイミングで柑橘の果汁を絞った水を売る水屋があった。
「これ一瓶。瓶も頂戴…ってあれ」
尻を探っても何もない。そういえばあの『トモダチ』にくれてやってしまった。仕方ない諦めるか…
「ど、どうぞ…」
こちらが視線を落とした瞬間、たっぷりと注ぎ込まれた瓶が差し出された。
「いや、財布落としたからやっぱ」
「いいんですいいんです! あっあなたからお金を頂くなんて…」
「いや、だからね」
「お味が気に入らないなら別のを用意いたしますし、好きなだけ持っていかれて構いませんから…
あっ、瓶が邪魔でしたらここで飲んで行かれてもっ」
恐々とした様子で店員のおばさんが促してくる。おれの顔も見ず、話も聞かず、ひたすら卑屈に。
それはまるでおれと関わる事が恐ろしく、いや、疎ましいようで。
その姿に、あの皺まみれの面がだぶって―――
「……っ」
おれはきびすを返して隣町に向かった。
押さえがたい苛立ちが歩調を速めてくれたおかげで、向こうのチンピラの溜まり場にはさっさと到着した。

「うう…」「ぐ…!」「いでえ…」醜いうめきが重なり合う路地裏の真ん中で、おれは倒れ伏したデブの上に
座って休憩を取っていた。
やっぱりあっけない。前歯を折った奴だけでも10人は下らないような集団だったが、
地力が違う上にそれなりの訓練を受けているおれが相手では話にならない。
「はぁー…」
虚しい。心の中で、退屈と虚脱感の競争が止まらない。

433 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/25(金) 07:20:25 ID:6Qu5HcHP0
>>421
まぁ、ヘリオンが人気が高かったのも…
PS2版で、他の雑魚スピの魅力が、より高くなったのは
ユートのお陰だからな…と言うか、オレもユートが相手だから

より引き立ったと思うし、それがだけに…ロディと言う存在自体
スピたんと言う、作品じたいに…拒絶反応が出てる人が多いからじゃない?
出た当時は、色々と凄かったからな(汗

それ自体、全否定したいヤツが居ても不思議じゃない

どこかのリーフのトゥーハート2のアレ(サブキャラの為に作られてた主人公そのままの)
みたく攻略と言う意味での、メインヒロイン達とサブキャラ達の立ち位置を
逆転させたモノを、サウズが最初から作っていれば…こんな事はなかったと

オレは考える、あくまでオレの意見であり、考えだが
…スピたんを支持しているヤツには、謝っとく…申し訳ない。

434 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/25(金) 07:57:41 ID:+Dp0kEFX0
スピたんに、ダッシュ移動があれば…

435 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/25(金) 08:00:54 ID:HQWwlFXgO
>427
持ってるw
スピたんに3掛けしたくらいのクソっぷりが清々しく記憶からエターナルしてた。
なるかなノベルはどうなんだろうな。


436 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/25(金) 20:28:03 ID:2V+wLx6m0
>>435
今読んでるけど面白い…と言うのとはチョット違うかも。
資料集やFD同様、本編で放置してたものに触れてるのが嬉しいから補正かかってる気がする。
クリストとかしゃべるし、雑魚スピスキーたちにはそれだけでも立ち読み程度の価値はあるかと。
1巻目にしていきなりエトカリたんが喋ってたりもするので萌えたし。

イラストは正直ちょっと。なにげにエロゲ業界でベテランの人だったりするのがまた。

437 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/25(金) 22:44:58 ID:HP8rNVbR0
ノベルの話になってきたからノベルを考えてみたよ!

ニムントールの憂鬱
ニムントールの溜息
ニムントールの退屈
義姉ファルヒの消失
義姉ファルヒの暴走
ニムントールの動揺
義姉ファルヒの陰謀
ニムントールの憤慨
ニムントールの分裂
ニムントールの驚愕 ←いまここ

サブタイトルだけだけどな

438 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/25(金) 23:22:26 ID:HQWwlFXgO
分け方が秀逸w よく知らんけど。


縁「わ、私どうしてここにいるんですか?」

439 名前:432:2008/07/26(土) 04:13:51 ID:/jgJ3wyM0
ご無沙汰しています。規制に巻き込まれてました。
続きの方は中抜けでこっちに戻ってくるのもアレだし、まぁスピたんだしで
全部アッチにぶっこんできたので猛者の方だけでも読んでみて頂ければ幸いです。

「神剣士」ってなんかFFTみたい&厨っぽくて素敵な響き!

440 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/26(土) 11:33:02 ID:vp2Go3gy0
>>439
大変面白くて、一気に読み通してしまいました
若し、また投下される機会があるのでしたら是非にお願いします
お疲れ様でした

441 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/26(土) 16:23:32 ID:OLAGfT3RO
う〜ん。そのまま過ぎてあんまり……。
スマソ


442 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/26(土) 22:32:00 ID:hpYs9FTo0
確かに定番だけど、その分安心して読めたよ。
「僕」と「おれ」の使い分けには感動。GJでした。

443 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/27(日) 03:09:00 ID:wr8DpW920
なるかなノベル読んでるけどルゥが完璧にアセリアだ。
あざとくはあるがなかなか分かってるな筆者。

>>434
逆に考えるんだ
「ダッシュしてあの程度」と考えてごらん

444 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/27(日) 11:07:03 ID:+79wuDWO0
>>443
その発想は無かったです…

さて、もう週刊連載となりつつあるオイラのSSですが
いよいよサブタイトルを考えるのも結構大変になってまいりました
それでも目指せ、週末休日連投作家…
と言うワケで、SS(1〜7)を投下します

445 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/07/27(日) 11:10:15 ID:+79wuDWO0
三章:第一詰所を後にして…(1)

 まだ草木が朝露に濡れる朝。
 悠人は『求め』を腰に差して鞄を背負うと、見納めとばかりに部屋を眺めた。
「さて、そろそろ行かないとな…」
 決して多くはなかった私物の確認も終え、悠人は今まで自室であった部屋を出ると改めてそう呟いた。
 ファンズマゴリアの暦で凡そ一年間。悠人にとっては間違い無くこの部屋は自分であり、そして第一詰所は帰る家であった。
 廊下を渡り、居間から玄関に出ようとした時、悠人は出入り口で待つ人物たちに気が付いた。
「お、皆。見送りしてくれるのか?」
「ん…」
「はい、本当はもっとちゃんとお見送りをしたかったのですけど…」
「………」
 悠人の視線の先には、いつも通りのアセリアと申し訳なさそうなエスペリア、そして寂しそうな表情を浮かべているオルファリルが居た。
「はは、こうやって見送ってくれるだけで充分だよ。エスペリア。そんな大層な事じゃないし、あんまり凝った事をされると出て行く時に俺が寂しいからな…」
 「それじゃ、行くから…」と、悠人が皆の脇を抜けようとして時、不意に悠人の袖が握られた。
「ユート…」
「ん、どうしたんだ?アセリア」
 振り返ると、アセリアが悠人を見詰めていた。
「ユート、偶には、ん、帰って来い。料理、上手くなって、きっとご馳走する…」
「あぁ、それは楽しみだな…。その時は腹一杯食べさせて貰うから、腕を磨いておいてくれよ?」
 悠人が笑うとアセリアは大きく頷き、トン、と胸を叩いて「あぁ、任せろ…」とその手を放した。
 表情が変わらないのは相変わらずであったが、それでも伝わってくるアセリアの気持ちが嬉しかった。

446 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/07/27(日) 11:13:27 ID:+79wuDWO0
三章:第一詰所を後にして…(2)

「うぅ〜っ…。パパぁ、本当に行っちゃうの?」
 その隣で、オルファリルが離別を惜しむ表情で悠人を見上げてきた。
 悠人としても、慣れ親しんだ場所を離れる寂しさを覚えないわけではない。
 しかし、それも覚悟の上で第一詰所を出ると既に決めたのだ。
「そんな顔するなって。別にもう会えないってわけでもないんだからさ…」
 悠人がオルファリルの頭をくしゃくしゃと撫でるが、それが挨拶なのだと言う事は誰が見ても明らかであった。
「行っちゃ嫌だようぅ…。パパぁ…」
「オルファ、あまりユート様を困らせてはいけませんよ…」
 エスペリアがそっとオルファリルの肩を優しく抱いて宥めた。
「ですが、本当の事を言いますと私も少し寂しいです。ユート様…」
「ん…」
 皆が別れを惜しんでくれているのだと思うと、悠人の中に堪らない嬉しさとそれと同等の切なさが湧き上がってきた。
 だが、そんな想いを胸に仕舞うと、悠人は貰った思い出の返礼にと大きく笑顔を見せた。
「皆、サンキュ…。じゃあ、俺行ってくるから…」
「ん、行ってこい…。ユート…」
「行ってらっしゃいませ。ユート様…」
「パパぁ、オルファたち待ってるからね〜」
 手を振って応えると、悠人は第一詰所を後にした。
 新たな一日の始まりを謳う小鳥たちの囀りを聞きながら、悠人はその一歩を踏み出した。

447 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/07/27(日) 11:28:10 ID:+79wuDWO0
三章:第一詰所を後にして…(3)

「どぉりゃあぁあぁっ!!」
「え〜いっ!!」
「うおぉおぉぉっ!!」
「やぁっ!!」
 訓練場の一角で、悠人とシアーが激しい打ち合いを繰り広げていた。
「ぐぁっ!?」
「たぁっ!!」
「くっ!!」
「はぁっ!!」
 最初は拮抗していた二人であったが、十数合と進むにつれて掛け声に均衡の崩壊が表れ始めた。
「うあっ!!」
「とぁっ!!」
「くあっ!?」
「え、え〜と…。次の掛け声は何にしようかな…」
 徐々に優劣が明確になるにつれて、打ち合いの綻びも広がっていく。
「せぇいやぁっ!!」
「あ、そ〜だ。『これで終わりだよ〜!!』」
 裂帛の気合で繰り出された互いの一撃が火花を上げてぶつかりあった。
 床を鳴らす一振りの模造剣の甲高い金属音が、その儘二人の訓練を終わらせる報せとなった。

「はい、ユート様」
「お、サンキュ。ネリー」
 濡れたタオルで汗を拭きながら、悠人は今だに痺れの残る自分の手を眺めていた。
「あの…。ユート様、大丈夫…?」
 そんな仕草が気になったのだろう。シアーが不安そうな表情で覗き込んできた。
 しかし、悠人はヒラヒラと手を振ると都合(ばつ)の悪い表情で笑い掛けた。
「いや、大丈夫だから。それより、シアーの一撃ってどうして俺のより重いんだろうな?」
 互いの得物は神剣ではない刃の潰された模造剣。
 しかも、背丈に見合った大きさを使っている為に悠人よりも二回りも三回りも小さいシアーの得物である。
 当然、シアー自身も小柄であるので普通に打ち合って悠人が力負けする道理は無い筈であった。

448 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/07/27(日) 11:41:30 ID:+79wuDWO0
三章:第一詰所を後にして…(4)

「それは、『力』を込めてるからだよ。ユート様…」
 模造剣を構えて、シアーがそう答えた。
「『力』?」
 悠人の呟きに、シアーがこくんと頷いた。
「俺だって力一杯打ち合ったんだけど…?」
「ううん、それは違うよ?ユート様」
「?」
 理解出来ない悠人を見てシアーは困った表情を浮かべたが、何かを思い付いたのか「ユート様、ちょっとシアーを抱っこしてみて」と言って悠人を立たせた。
「?まぁ、良いけど…」
 今一解らなかったが、悠人は言われた通りにシアーを抱き抱えた。
「ふふ〜♪」
 結果は予想通り。羽の様に軽いシアーは簡単に悠人に持ち上げられ、シアーは満足そうな表情で悠人を見下ろしていた。
「あ〜!!ネリーも、ネリーも〜!!」
 案の定、隣で見ていたネリーが声を上げてきた。
「あ〜…。分かった、分かったから…」
 そう言ってシアーを下すと、今度はネリーを高い高いする悠人であった。
「別にシアーは遊んでるわけじゃないよ?」
「えへへへ〜♪でも、ネリーは羨ましかったんだもん」
 一頻り楽しんで満足したのか、下されたネリーはすっかり上機嫌になっていた。
「それじゃあ、ユート様。今度は仰向けになって寝てみて」
「こうか?」
「うん」
 悠人が横になった事を確認すると、シアーは悠人の体を暫く眺め「あ、多分ここかな?」と、悠人の体に圧し掛かった。
 シアーの尻や太腿が悠人の腹部に押し付けられ、そこから伝わってくる形や柔らかさ、そして体温に悠人の心臓が思わず高鳴った。
「し、シアー?」
「ほら、もう動けないよ?ユート様…」
 焦った悠人と対照的に、シアーは仕掛けた罠に獲物が捕まった様な何処か悪戯っぽい表情で悠人を見下ろしていた。
「え?」
 身を起こそうとした悠人であったが、驚くべき事に先程まで難無く持ち上げたシアーの体がいくら力を込めても持ち上げられなくなっていた。

449 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/07/27(日) 11:50:01 ID:+79wuDWO0
三章:第一詰所を後にして…(5)

「アレ、さっきは普通に持ち上げられたのに?」
 腕や足を使って踠く悠人であったが、まるで縫い付けられた標本の様に動く事が出来なくなっていた。
「えっとね、今シアーはユート様に只乗ってるんじゃなくて『力』を掛けてるからだよ?」
 腹筋、背筋、その他の筋肉を駆使して起き上がろうと試みるが、結局悠人はシアーを退かす事はおろか、体の向きすら変える事は出来なかった。
「『力』を込めるって言うのは、単に力を出すのとは違うんだよ?力比べでは負けても、こうすればシアーだって負けないもん」
 悠人を『力』で押さえ込めた事に少し得意になったのか、シアーが意地悪そうな表情を浮かべていた。
 成程、『力』は単純に出すのではなくこうやって要所に集中させる方が効率的なのだと悠人は理解した。
 とは言っても、悠人にシアーの様な『力』の扱い方など一朝一夕で身に付きそうにないのだが…。
「ネリーもやる〜!!」
「うわっ!?」
「わわっ!?もう、ネリー」
 二人の遣り取りを見ていたネリーが堪らずにシアーの前、つまり悠人の上腹部に圧し掛かった。
「えっへっへっへ〜♪どう、ユート様?これでもう逃げられない?」
 『力』を込めてグリグリと押し付けてくるネリーであったが、それは同時にネリーの服の下をそのまま悠人に押し付ける行為であった。
 つまり、大きく開かれた太腿やその根元の白い三角の丘の頂の膨らみの形やら。
 下からモロに見えている部分が、見せ付けられる様に悠人の腹部に擦り付けられていた。
「ネリー、狭いよう」
「ね、ネリーっ!?み、見えてるからっ!?下着が――、むぅっ!?」
「ひゃうんっ!?」
 悠人の言葉はシアーから背中を押されたネリーによって封じさせられた。
 真っ暗な視界で形が分かる程に密着したネリーの丘に完全に口が塞がれた悠人は鼻でしか呼吸が出来ず、その布一枚越しの感触と匂いが否応無しに悠人の脳髄を焼いていた。

450 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/07/27(日) 12:04:11 ID:+79wuDWO0
三章:第一詰所を後にして…(6)

「あ、あぅっ…!?わわっ、ちょっとシアー!?押さないで!!ふやぁっ…!?」
「?」
「〜〜〜っ!!」
 珍しく赤面したネリーが悲鳴の様な声を上げるが、前が見えないシアーは何やら慌てているネリーともごもご唸っている悠人の声に首を傾げていた。
 やがて、二人の下で暴れていた悠人が力尽きて静かになった頃、漸く事態に気が付いたシアーがネリーの背中から手を放したのであった。

「ごめんなさい、ユート様…」
「もう、怒ってない…?」
「いや、何か俺の方が謝らなくちゃいけない気がするンだけど?」
 一日の訓練を無事(?)に終えた三人は帰るべき家に帰るべく、夕焼けの家路に着いていた。
 幸い、あの『力比べ』は休憩時間であった為に他のメンバーの目に触れる事は無かったが、それでも今日は何処か緊張しっ放しの訓練になってしまっていった。
 何と言うか、二人を見るだけで感触やら体温やら匂いやらを思い出してしまい、終始腰が引けた状態で訓練をせざる得なかった。
 親友の生臭坊主ではあるまいし、と己に喝を入れてみたが、いくら年下とは言え結局二人はれっきとした女の子であったと痛感させられたのだ。
 悠人は二人に対する自分の認識を改めて思い知らされてしまっていた。
 そして、それに反応する自分の中の雄の存在にも…。
(って、何を考えているんだ俺は?二人とも佳織くらいの歳なんだぞ?)
 邪念を振り払うかの様に悠人は頭を振ってみたが、余計に頭が混乱するだけであった。
「あれ?ユート様、こっちで良いの?」
「この儘だと、第二詰所に着いちゃうよ?」
 と、第一詰所と第二詰所へと分かれる道を少し過ぎた辺りでネリーとシアーが悠人に尋ねて来た。
「あぁ、別に大丈夫なんじゃないかな?」
「え?そうなの?」
「泊まっていくの?ユート様?」
 途端に二人の表情が輝いた。
 そんな二人を見て、悠人の中で不安が募った。
(本当に大丈夫なんだろうか?俺は…)
 と、そう考えて、悠人はある事に気が付いた。

451 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/07/27(日) 12:11:37 ID:+79wuDWO0
三章:第一詰所を後にして…(7)

「ん?って言うか、二人は知らないのか?」
「?何が?」
「どうしたの?ユート様?」
 首を傾げる二人の反応を見て、悠人は己の推測が当たっている事を確信した。
「ホラ、第一詰所ってこの前燃えちゃっただろ?」
「うん、知ってるよ」
「でも、少し燃えちゃっただけで済んだって聞いてたよ?」
「いや、まぁそうなんだけど…」
 迅速な消化活動により、放火の憂き目に遭った第一詰所は全焼どころか半焼にも届かぬ程度の小火で済んだ。
 これ自体は不幸中の幸いであったと言えるであろう。しかし、全てが無事であったわけではなかったのも事実であった。
「何て言うか、俺の部屋だけ綺麗に燃えちゃってさ…」
「え…?」
「それって…?」
 驚きに見開かれた二人の目の前に、悠人は今日第一詰所から持ってきた私物の入った鞄を出した。
「今日から第二詰所の方で暮らす事になったんだけど…。その、宜しくな?」
「………」
「………」
 しかし、悠人の言葉を聞いた二人は凍り付いたかの如く微動だにしなかった。


452 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/07/27(日) 12:14:50 ID:+79wuDWO0
三章:第一詰所を後にして…(8)

「えぇっと、二人とも?」
 悠人が心配になって二人を覗き込もうとして、
「やあぁあぁぁあぁっっったあぁぁあぁぁっっ!!」
「ユート様と一緒だよぉおぉぉっ!!」
「わわっ!?二人とも…!!」
 突然の大歓声と共に、二人は悠人に抱き付いた。
 余程興奮しているのか、背中からは純白のウィング・ハイロゥまで広がっていた。
「一緒!!一緒だよ!?ユート様っ!!」
「ユート様、ユート様〜!!」
 幸せそうな、否、幸せの表情を浮かべて二人は悠人にしがみ付いた。
「えへへへ〜♪」
「にゅう〜♪」
 二人は新しい家族を連れて、悠人は新しい家へと三人で腕を組んで歩いた。
「それじゃ、早く俺たちの家に帰ろうな?腹も減ったし…」
「うん!!」
「今日は何のご飯なのかな〜?」
(ま、何とかなるのかもな…)
 二人の笑顔を見ながら、悠人も笑いながらそう楽観する事にしたのであった。


453 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/27(日) 12:29:23 ID:+79wuDWO0
書いてるオイラの脳髄も焼かれてました…

だって、シアーは自覚無しに色気を振りまいてる気がするンですもん…
ネリーも自覚は無いですが、こちらは事故が多い気がします…

恋する双子は切なくて、ユート様の事を思うと直ぐに×××しちゃうの
な展開はもう少し先カシラ?
一つ屋根の下、双子が我慢出来なくなったら間違い無く襲われそうな予感がしますね

今回のSSに未来のナニかが見えました

454 名前:月野陽介:2008/07/27(日) 21:23:38 ID:3qWeLT0c0
>>453
乙です!
水曜からパソの画面が壊れてずっと見れなかったけど
やっと直って全部見させていただきました。
いいなあかわいいなあ双子。もう身悶えします。
文章構成の上手さは常に師と勝手に仰いでいます。マジで。

パソが壊れて話に加われなかったけどなんかスピたん嫌いな人多そうですね・・・
まあ自分もぶっちゃけスピたんが好きって訳じゃないです。嫌いじゃないけど。
むしろアセリアのほうがストーリー、システムともに好きです。
スピたんは嫌いだっていう人もわかります。自分も地雷だって知ってなかったらひでぇと思ってたでしょうね。
でもおかしいだろと言う人もいるだろうけど自分はロティが主人公って言うのは特に不満がないんですよ。
重要視してるのはサブスピはその後幸せになれたかってやつなんですね。
なんか嫌いというより惜しいと思うんです。スピたんはもっと設定を詳しくして欲しかったと言うか。
何よりもアネたん出さんでいいから攻略対象増やしてくれっていうか。(ナナルゥを!)
絵とかキャラは好きです。いっそビジュアルノベル形式でいいじゃんと思うくらい。
まあそんな感じで一番好きなナナルゥのこんな展開があればよかったのにとかいうのかいてます。
あほで異常な主張すいません_(_^_)_しばらくしたらスピたんの駄文、最終章出そうかと考えてます。
心の広い人は生暖かい目で見てください。
心底嫌いな人には悪いけど無視してください。

455 名前:インタビュー4:2008/07/28(月) 00:38:03 ID:iSHj4Zo70
元ラキオス軍 スピリット隊所属
ニムントール・G・ラスフォルト

出世欲もなく
ただ姉といることを望んだ少女

現在は その姉と二人で
穏やかな生活を送っている


456 名前:インタビュー4:2008/07/28(月) 00:38:50 ID:iSHj4Zo70
彼女が入ってきた瞬間
私はタオルを引き寄せ

湯気に包まれた湯船から
何とか脱出した

嫉妬にあおられた視線が
降りた先は―

『私』の胸元

途方も無く狭くて
何も無いただの荒野だった

『成長期』がくるまで
どれだけ待たされるか

457 名前:インタビュー4:2008/07/28(月) 00:39:25 ID:iSHj4Zo70
『浴場』内は視線干渉が激しい

無線も救難信号も
届く確率が低いんだ

途方に暮れたわよ

それにしても見事なまでの
ぺたんこっぷりだった

まだ早いんだと感じたよ

458 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/28(月) 00:50:19 ID:MGiZhrkx0
支援

459 名前:インタビュー4:2008/07/28(月) 00:53:51 ID:iSHj4Zo70
でも その時―

頭上で轟音が走った

彼女の胸だ

私は悠々と揺れるその胸に
嫉妬した

そして 汗が止まるのを待たず
脱衣所へと歩いた

とにかく早くキッチンでミルクを飲んで
彼女と張り合いたかったんだ

結局 今でもそれは
適ってないけどね


460 名前:インタビュー4:2008/07/28(月) 00:57:11 ID:iSHj4Zo70
胸ってのは
垂れたら終わりなんだ
When a fighter plane goes down, that's the end.

四方八方に垂れ散って
スタイルが跡形も無く崩れてしまう

そりゃあ怖いわよ

でも そうなる前なら
いい女の証が得られる

461 名前:インタビュー4:2008/07/28(月) 00:58:53 ID:iSHj4Zo70
私は諦めたけど
今もミルクを飲んでいる

だけど―

寂しいんだ 平たすぎて

やっぱり 彼女と張り合ってみたいものよね

462 名前:455:2008/07/28(月) 01:21:31 ID:iSHj4Zo70
懲りず時間も空けてもはや過去のものになりながらもまたやった。
反省はしてないがニムのキャラクタが合ってるかどうか後悔が残る。

463 名前:インタビュー5:2008/07/28(月) 01:46:42 ID:iSHj4Zo70
元ラキオス軍
スピリット隊副隊長

エスペリア・G・ラスフォルト

通称 緑時々黒のメイドさん

464 名前:インタビュー5:2008/07/28(月) 01:48:49 ID:iSHj4Zo70
その容姿と能力から
エトランジェの副官として任命された女性

現在はガロ・リキュア王城内で
女王の補佐を務めている


あのころの私は決意に満ちていました

ラキオスの未来をかけて
勝利へと導くために

綺麗なだけでいては
何の解決にもなりません


私の任務はエトランジェ――ユート様のコンディション維持

そう 失敗することは許されない
重要な任務

あの日 妹たちからの
噂話を聞いて

私は怒りを覚えました

465 名前:インタビュー5:2008/07/28(月) 01:53:32 ID:iSHj4Zo70
混乱しているユート様

相手は天然 
それもたった1人

正統なあの手この手が天然風情に
負けるわけがありません

ですが 私の誇りもユート様も
汚されたのです

何が違ったのか

まあ どうであろうと
彼女のおかげで

随分違うシナリオを
歩むことになりました

466 名前:インタビュー5:2008/07/28(月) 01:59:33 ID:iSHj4Zo70
貴方は考えたことがありますか?
胸とは何か

そこに生きる女性一人一人が
胸を有しているのです

努力せず成長した胸に
アピールする色気などありません

そんな相手に
なぜ私は負けたのでしょう

ただ大きくなるに任せていた胸に

責任を背負わねば
胸は大きくなるとでもいうのでしょうか


467 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/28(月) 02:44:07 ID:MGiZhrkx0
>>454
誤字脱字が多いので、何ともw
ですが、オイラも他の方たちの巧い描写や演出は積極的に倣う様にしています
嫉妬するンですよ「巧いなぁ〜、自分もこんな風に粋な文章が書けたらなぁ〜」と
日々精進です

スピたんは結局謎の儘に終わってしまった部分があったので、その消化不良が納得いかないンですね
他にも、双子やらニムントールやらの初濡れ場で、何でいきなりそこまで飛躍した行為に及ぶのかとか
もう少し外堀を埋めてからでないと進展しないンじゃなかろうか?とか
「物事には順序と言うモノが…」と思いながら
「まぁ、戦闘システムも大幅に新しくなったし、ここで更に時間を掛けて個別シナリオを綿密に費やしたらスタッフさん死ねるわね…」とかで諦めていました
キャラもストーリーも良い下地が十分揃っているだけに、結果に過程が急かされている感じが勿体無い気がしました

後、オイラの「Twinkle fairies」はスピたんを意識してるンですね
一番書きたいのは、誰かを好きになる、若しくは好きになってからの成長なんですね
その点、双子は成長性大有りですから書いてると実に楽しいワケです
後、オイラのサブスピSSですが、長編モノはオイラが勝手に作ったサブスピルートなるものをベースにしております
上記の双子SSにある様に、悠人の舞台が完全に第二詰所に移ってサブスピ中心になっております
ルート分岐は至って簡単で、前半をひたすらサブスピと組むだけです
そして、嫁選びで愛しのサブスピのあの娘を選べば個別ルート分岐だぁ!!
挿げ替えるだけで簡単に他のサブスピヒロインルートが出来る上に、何より他のルートと照らし合わせても『矛盾が出来難い』と言う安定感があります
最後に編入されるニムントールとファーレーンは嫁選びで稼がないとルート分岐が厳しい気がしますが…
原作でサブスピルートがあれば良かったのに…、と言うオイラの『求め』が作り出した泡沫の夢なのです

まぁ、早い話が全部オイラの妄想なんですが…

468 名前:463:2008/07/28(月) 02:49:01 ID:iSHj4Zo70
空気も読まずにやった。だが反省はしていない。
例によって齟齬はハリオンマジックで許されると思っている。

469 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/28(月) 02:54:53 ID:MGiZhrkx0
>>468
夜中に起きてた甲斐がありましたw
インタビューシリーズは楽しいのでニヤニヤしながら読ませて貰っています
お疲れ様でした

470 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/28(月) 09:57:09 ID:eoQwz91/O
インタビューシリーズって元ねたあるの?


471 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/28(月) 23:01:11 ID:QetnD0cL0
>>459
轟音に噴いたw
>>463
エスずっと黒いままじゃんw

つか所々で少女達の胸と精神にダメージを与え続けてますなハリオン

>>470
実は1の頃から知らずに笑っている自分のような奴もいる>元ネタ

472 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/29(火) 00:19:59 ID:ViydCP530
       _
    '´ ヘ ヘヾ <でも〜、やっぱり小さい胸の方が可愛いですよね〜
   ノ〈从ハ从〉   それに〜、大きいと何かと大変なんですよ〜?
   从ヲ´ヮ`ノヲ   動く時に擦れたり〜、走るとバランスが取り難いんですからね〜
   ノ⊂》|Tリつ   肩も凝っちゃいますし〜
  て(く/|_ノゝ   でも〜、浮いてくると軽くなるので〜、私はお風呂が大好きなんですね〜
     し'ノ

473 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/29(火) 07:48:12 ID:T+z4jQOL0
あまり知られてはいないが、
神剣『大樹』は根を張りある特定部位の成長を
対象から奪い去るという恐るべき能力を保有する

 ―――― んふふ〜、あれが今度転送されてきた子ですね〜……

後に言うハリオンバストM&A政策。
この暗躍は常に一定のツルぺた支持層により逆説的支持を受け続け、
最後の犠牲者となった某グリーンスピリットなどはあろうことか
年齢を重ねるごとに身長までちんまくなるという現象が(この記事は削除されました

474 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/30(水) 01:52:14 ID:ZgUNniAhO
青スピリット1
青スピリット2
赤スピリット1
赤スピリット2
黒スピリット1
ハリオン

イアお金を集める

「さぁてこれで、新作お菓子の資金が出来ました〜」

475 名前:インタビュー6:2008/07/30(水) 02:28:07 ID:fdBvWWMs0
セリア・B・ラスフォルト

元ラキオス国
スピリット隊

同部隊のヒミカ・R・ラスフォルトとともに

『永遠戦争』後
軍を抜ける

『巨乳なき世界』創設メンバーと
噂されるヒミカ・B・ラスフォルト

その赤スピリットと行動を
共にしていた為

グループの重要人物の一人と
噂されていた

476 名前:インタビュー6:2008/07/30(水) 02:31:42 ID:fdBvWWMs0
現在はガロリキュア首都ラキオスにある
孤児院を運営している


『鬼神』とはよく言ったものね

彼女の胸に触れた視線は
全て壊れていったわ

まるでマジックのようだった

私も軍に属していた頃には
大きいほうと言われていた

時々男の人からアプローチも貰ってる

自分の身体に不満を感じたことは無いわ

それは胸においても同じよ

誰が相手であろうとも
興味は無かった

477 名前:インタビュー6:2008/07/30(水) 02:36:58 ID:fdBvWWMs0
でもあの子との買い物中―

何かが芽生えた

最初は何か解らなかったわ

買い物籠を持つ手が
強張っているのに気付いて

初めて解った

これは嫉妬よ

情けない話だけど 本当なの

だから別れたの

ヒミカには悪いんだけどね

でもあの子は今も
胸を揺らしているんでしょうね

居乳好きはどこでもいる

あの子の需要は無くならない

478 名前:475:2008/07/30(水) 02:47:25 ID:fdBvWWMs0
あんまり調子に乗りすぎたから
そろそろ砂利の上で正座して膝に漬物石置きながら反省しようと思う

479 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/30(水) 03:13:48 ID:arKRDGlH0
【居乳】が誤字なのかどうか判別不可能すぎて盛大に噴いた

480 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/30(水) 21:46:08 ID:0BuJCF5a0
正直元ネタが分からないと何もかも突発的過ぎて大して面白くないな

481 名前:名無しさん@初回限定:2008/07/30(水) 23:05:25 ID:QELXxSZw0
わたしはセリア。
人によってはちょっぴりツンデレと言われるスピリット。
過去のもろもろで対人恐怖症気味ではあるけれど、年少組には厳しく躾。
ポニーテールを振り回し、今日も明日もエーテルシンク。
敵だろうが隊長だろうが、そんなことに躊躇している暇などありません。
仲間を危険に晒す軟弱さにはこう応えるでしょう。貴方のこと、信頼していませんから、と。

とか?

482 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/07/30(水) 23:45:27 ID:aam3aCEd0
まぁ、評価は人それぞれ
でも、この『らしさ』の捉え方は羨ましいと思う

483 名前:名無しさん@初回限定:2008/08/02(土) 00:57:33 ID:4V/ugo050
各スピの「らしさ」ってなんだろな。3行で。

484 名前:名無しさん@初回限定:2008/08/02(土) 08:06:53 ID:l/fpE0D30
ファーレーン:驚きの黒さ、ほんとは緑じゃね? 仮面は蒸れないの?
ニム:お姉ちゃん、ツンデレ、幼女
セリア:EDにCGがない、ツンデレ、ナイチチ
エスペリア:メイド、夜のお供、可燃物質

485 名前:名無しさん@初回限定:2008/08/02(土) 10:33:59 ID:21uPEeeS0
ヘリオン:ダークインパクト、テラーT、戦闘よーい

>>484
>セリア:ナイチチ
その新説には激しく反論する

486 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/08/02(土) 10:59:19 ID:2Rw7OGlX0
ネリー:くーる、ヘブン三連、驚いた表情の立ち絵自重(PS2版)
シアー:アタッカー&サポーター殺し、エーテルシンクは使えなくはないよね?、ちゃっかり
ヒミカ:緑殺し、エンチャント+赤魔法で確殺、サイレントフィールドは使うんじゃねぇ、ブチ殺すぞ!!
ヘリオン:一周目は余ったマナの処理、ツインテイル、皆さんオーラフォトン・ブレイクはバニシング・ハイロゥで乗り切りましょう!!

487 名前:名無しさん@初回限定:2008/08/02(土) 11:42:27 ID:l/fpE0D30
>>485
イービルルートのシーンでセリカとヒミカの胸に大差があるとは思えない
ヒミカはナイチチ
つまりセリアもナイチチ

488 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/08/02(土) 12:13:38 ID:2Rw7OGlX0
いや、イビルのヒミカは育っていた様な気がしないでもない様な…?
てか、ヒミカがハリオンと比べているからコンプレックスを感じているだけで、年相応に普通にあるとオイラは思うンですが…
スピたん(アネたん)ではちゃんとそれなりに育ってましたし、発展途上をナイチチと言うのはどうなんでしょう?

あと、セリアの胸は結構なモンですよ?
PS2版のクラスアップイベントのCGで確認しましたが、ビックリするくらい育っています
多分、悠人が来て一年以上ですからその間に育ったのかも…

489 名前:名無しさん@初回限定:2008/08/02(土) 12:34:49 ID:WZBY/qJw0
>悠人が来て一年以上ですからその間に育ったのかも…
つまり悠人がセリアの胸をもんd

490 名前:名無しさん@初回限定:2008/08/02(土) 12:57:18 ID:hnymRMlxO
マナの利用を断念した事による揺り戻し。
もれなく増量されて……ないですね、撤回します。

491 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/08/02(土) 13:03:37 ID:2Rw7OGlX0
エーテル技術へのマナの使用は禁止されても、スピリットの成長に使う事は禁止かどうかは分かりませんしね…
まぁ、『成長』がその儘『性徴』に繋がるかどうかは分かりませんが…

492 名前:名無しさん@初回限定:2008/08/02(土) 14:30:08 ID:l/fpE0D30
アセリア:手先が器用、正ヒロイン、攻略不能の原因の一人
永遠のアセリア:公式嫁、ユートの嫁、ユーフィの母親
ナナルゥ:イグニッション、アポカリプス、無印修正前は戦力にならない
オルファ:無邪気な残虐、これもゆとりか?、攻略不能の原因の一人
ウルカ:侍、アセリア並の料理の腕だが改善する努力はしてるのだろうか?、燃えやすい

欄外
ユート:苦労人、鈍感、守備範囲は結構広い
コウイン:一途、苦労人、ここのスレで愛されてるけど愛され方が不憫
今日子:無自覚な二股、とりあえず恋人のところに行けよ、強すぎ
時深:おばさん、千年ストーカー、愉快犯

493 名前:名無しさん@初回限定:2008/08/02(土) 18:51:46 ID:5BJxvZUz0
時深:時をかける少女、可憐、清楚

494 名前:名無しさん@初回限定:2008/08/02(土) 23:27:32 ID:BR1YIae70
>金烏氏
余計な事かもしれんが、投稿時以外は名無しさんでいいんじゃね?

495 名前:名無しさん@初回限定:2008/08/02(土) 23:59:03 ID:jgNqXanV0
まぁ多分知らないだけだと思うけれど。
発言に責任を持つという意味で必要なスレとかもあるけど
ここはネタスレだから名無しの方が気軽に応酬出来るよね。
他の書き手氏も作品投稿以外は皆コテ使わずに潜伏しているようだしw

ネリー:おばかくーる、能天気ポニー、
     あまり知られていないが無印イービルで陥落したプレイヤーが相当数いる。多分

496 名前:名無しさん@初回限定:2008/08/03(日) 00:03:29 ID:jgNqXanV0
ついでにこんなん見つけた

304 名前:名無しさん@初回限定 投稿日:04/05/07 18:23 ID:p04amp19
最終集計
5票 アセリア ヘリオン

4票 エスペリア(エス)

3票 ウルカ

2票 ハリオン 時深 レスティーナ(レムリア) ヒミカ
   ユーフィ ファーレーン

1票 小鳥 ントゥシトラ セリア シアー 今日子
    ナナルゥ ヨーティア


四年前に行なわれたスレ内投票。今見るとかなり新鮮

497 名前:名無しさん@初回限定:2008/08/03(日) 00:13:40 ID:dfwbbVH90
PS2の公式サイトの人気投票は組織票が多かったよなぁ
普通に考えたらヘリオンが1位ってのはないだろ

498 名前:名無しさん@初回限定:2008/08/03(日) 00:21:58 ID:vWe8SbXE0
ハリオンが1位なら理解できるんだがな

499 名前:名無しさん@初回限定:2008/08/03(日) 00:24:22 ID:Pr6DApXzO
前提が違うけど保管庫の人気投票も…ゲフンゲフン……刑事さん全てゲロします。
俺、2時間ごとに投票してました……。だって、だってエスがぁ……。


あ、今見れないのよね。

500 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/08/03(日) 01:14:56 ID:xyhtEtrr0
>>494
確かに、そちらの方が気楽ですね

「ンな暇あったらSS書けやぁ!!」ですし…

因みに、SSは現在ルーズリーフに執筆中…(この時点で進行具合は約半分です)
さ〜て、今日も頑張っていきまっしょいっ!!

501 名前:名無しさん@初回限定:2008/08/03(日) 11:46:00 ID:QxK7jGSp0
>>493
どこを突っ込めばいいんだおbsn

ここまで
エスペリア:夜のわたくし、とことこ、マグネシウムリボン
なし

502 名前:名無しさん@初回限定:2008/08/03(日) 14:18:56 ID:Pr6DApXzO
よるのわたくし 床々 燃え上がる


503 名前:名無しさん@初回限定:2008/08/03(日) 16:17:25 ID:dfwbbVH90
再生のオルファ:永遠のロリ、ロリでも主導権を握ってます、精神面での成長が見られます
深遠の翼のウルカ:貧乏生活、同棲時代、普通の恋愛観を持ちました

504 名前:名無しさん@初回限定:2008/08/03(日) 18:09:10 ID:rwMUACxp0
永遠のアセリア:ポゼッション、オーラフォトンバリア、マタニティーリムーバー

505 名前:月野陽介:2008/08/04(月) 01:43:46 ID:yQthOddg0
こんにちは。パソの画面が完璧に壊れて新しいのをやっと買いました。
前にアホな主張したくせにずいぶん自分の駄文は何故ここまで惹かれあう事になったかが
凄く曖昧だなと思ったので一章プラスして急遽補完のようなものを。
明らかに遅すぎだろと言う友人のつっこみをアイスバニッシャーで無効化して
流れを無視して、ぶった切ってやはり投下いたします。
前の仮を返上して6章の前編としてスピたん〜幻のナナルゥルート〜。いざ。

506 名前:6章 これもひとつのあいのうた。前編:2008/08/04(月) 01:46:21 ID:yQthOddg0
あの人は、自分とこのような関係になって、喜んでくれているのだろうか。
自分があの人と、否、誰かとこのような関係となる事など想像もしなかった。
いまだにこの状況に戸惑いを感じるが、不快な気持ちは微塵もない。
ただ、うれしい。あの人の事をこのように想えるという事が。そう思える様になった自分が。
(幸せ、とは、今のような気持ちを、言うのでしょうか…?)
自分は、変わったのだろうか。
あの、何も感じず、何も思わなかった、戦争時代の自分と比べて。
ここまで来るのは、本当に危ない綱渡りだったような気がする。
もし、自分があの戦場で散っていたなら。
もし、自分に大切と思う人が一人もいなかったら。
もし、自分が完全に絶望して、『消沈』に全てを委ねてしまっていたら。
もし、あの人と逢う事がなかったなら。
ほんの少しでも歯車が狂えば、自分はどうなっていたかと思うと怖気が走る。

―そういえば昔、そんな記憶もないのに、自分の在り方に、この世界に憤った人がいたような―

もしかしたら、自分は誰であろうと構わなかったのかもしれない。
自分を認めてくれるのであれば。自分の空ろな部分を満たしてくれる人であれば。
だけど、なんとも勝手な言い分かも知れないが、
もう、あの人以外では駄目なのだ。
いつからこんな風に想ったかはよくわからない。
方舟に来て、絶望の中であの人の言葉を聞いた時か。あの人の手の温かさを感じた時か。
いや、はっきりとそう意識した瞬間は無かったのかもしれないけど。
まだ、あの人と出会って半年と少ししか経っていなくて、その間、特に劇的な何かがあった訳でもないけど。
気が付けば、あの人の存在が自分の中でどんどん大きくなっていった。
あの人の声を、笑顔を、手の温かさを思い浮かべるだけで、自分の空虚な部分が満たされる気がする。
自分は、あの人が好きなのだ。誰よりも誰よりも、あの人が。
おそらく今後、どのような人に出会おうとも、あの人以上に想う事は不可能だろうと思う。
この想いが、自分の独りよがりでなく、あの人もそうであったらいいと想うのは、我侭すぎるだろうか?

507 名前:6章 これもひとつのあいのうた。前編2:2008/08/04(月) 01:49:43 ID:yQthOddg0
「ナナルゥさん、お風呂ですか?」
「はい。少々遅くなってしまいましたが。」
「あ、夕食の後片付けしてたんですね。でもさっき、ロティさんが浴室に入って行きましたよ?」
「そうですか…それでは、また後に致します。」
「! 待って下さい!これはチャンスですよナナルゥさん!」
「はい?」
「いいですか、恋人ならこういうときは…」

「ご指導、感謝します。では、早速実戦に入ろうと思います。」
「はい!頑張ってくださいねっ!」

―どうか、あの人に、喜んでもらえますように―

「…つ、疲れたぁ…」
その後。
あまり語りたくない(何度もいうが、嫌ではない)ナナルゥとのやり取りが色々あって。
今、僕は遅めのお風呂に入っている。
「嬉しいんだけど、やっぱり恥ずかしいなぁ…」
身体を洗いながら、今日の夕食の事を思い返して見る。

今日の夕食は、ナナルゥが料理当番であって。僕の隣に座って、
「どうぞ、ロティ様。」と。
それが当然と言うように、自分の作った料理を箸で摘んで、僕の口元にもっていく。
「……ありがとう。いただき、ます。」
ここで変に拒否すると、またナナルゥは泣きそうになるだろう。
ナナルゥの泣き顔は見たくないのであって、
決して意思が弱い訳ではないと自分に言い聞かせてナナルゥの料理を頂く。
「…うん、おいしいよ。ありがとう、ナナルゥ。」
少し耐性がついてきたのか、今日はちゃんと味がわかった。
「…ありがとうございます。」

508 名前:6章 これもひとつのあいのうた。前編2:2008/08/04(月) 01:50:51 ID:yQthOddg0
そういってナナルゥがわずかに口元を綻ばせる。それが嬉しいのだと解釈するのは、考え過ぎではないだろう。
そしてナナルゥは僕が口をつけた箸で、それが当然というように料理を自分の口に入れる。
…やっぱり恥ずかしい。更にみんなの視線が痛い。
生暖か〜い視線、好奇の視線、いたたまれないという様な視線、約一名の冷た〜い視線は黙殺する。
更にその後調子に乗ったヨーティアさんが恋人同士なら口移しで食ってみろと言い出し、
みんながまたもや料理を吹き出し、ナナルゥはそれを実践しようとしたが、流石に僕も断り。
涙目になったナナルゥを僕、セリアさん、ヒミカさんの三人で全身全霊で説得し、なんとか納得してもらえた。
ナナルゥには悪いが、流石に僕もそこまで神経が図太くできていない。
…まぁ、興味が…ない訳ではないが…。

「まあ、ナナルゥが…感情が表に出せるようになってきてるって事かな…」
誰にいう訳でもなく、虚空に向かって一人呟いてみる。
半年前、ラキオスの軍に入り、ナナルゥと出会ったときの事が脳裏に蘇る。

「…ナナルゥ・ラスフォルトです。」

その姿を見たとき、比喩でなく背筋が凍ったと思った。
スピリットらしいその美貌は一切感情が伺えず、
整った顔立がまるでよくできた人形の様な不気味さを醸し出していた。
その瞳は冷たいと言うよりは、何も写さない曇った硝子玉のようだった。
それまでにヘリオンやネリー達と会い、町中でもたまに出会うスピリット達を見てきただけに、ショックは大きかった。
神剣に取り込まれたスピリットの事は、話としては聞いていたが、
完全にとり込まれたのではないにせよ、そう言うスピリットを実際に見た事はなかった。
エトランジェのハーフと言う事がばれ、
やり場のない怒りを周囲にぶちまけたりしていた自分など全然甘かった。
怒る事さえできない、そもそも怒るという事が分からない。
悲しいや悔しいという感情さえ持つ事ができなかったのだと。
一体、どうなったらあの様になってしまうのだろう。
戦争が終わったいま、ナナルゥはどう思っているのだろう。

509 名前:6章 これもひとつのあいのうた。前編4:2008/08/04(月) 01:57:33 ID:yQthOddg0
「あ、あの、ナナルゥさんは少しずつ、感情を取り戻してきてるんです。
その、無表情に見えるかもしれませんが、凄くいい人ですから!
だから、その、えっと…すぐ、仲良くなれますから!」
ヘリオンはそう言ったが、初めはどう接していいか分からず、ナナルゥとまともに顔を合わせる事もできなかった。
ネリーやシアー達がナナルゥに気さくに話しかけ、ナナルゥが淡々とそれに応じる光景を見つめ、
ナナルゥがみんなに好かれている事を感じ、まともに話せない自分に苛立ちを覚えた。
なかなかナナルゥと打ち解けないまま、出会って一週間経ち、その日の夜―

―傷口から血が滴り落ちる。それが地面に落ちる前に金色の霧になり、消えた。
傷口からも金色の霧が立ち上がり、周囲の視線が驚愕から忌避と恐怖に変わる。
その日から全てが変わった。祖父が、友達が、家の使用人が、町の全てが敵になった。
いや、自分が敵に回した。敵なのだと、決めた。

(化物の証だ)

だまれ。
そう言った奴を殴った。言ったと思う奴を殴った。そう思ってそうな奴を殴った。

(エトランジェのハーフ)
(不貞の娘の子)
(家督の恥)

五月蝿い。うるさい。うるさいウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイ。
自分の何が悪い。母さんを馬鹿にするな。父さんを化け物なんて言うな。

―やめてくれ。またあの夢なんだ。頼むからもう覚めてくれ。
これ以上、続きを見せないでくれ。僕にあんな事を考えさせないでくれ。
早く覚めろ。早く。 はやく―

何で自分がこんな目に遭うんだ。何で自分が化物なんて言われなきゃいけないんだ。

―やめろ。その先を言うな―

510 名前:6章 これもひとつのあいのうた。前編5:2008/08/04(月) 02:01:58 ID:yQthOddg0
何で父さんは普通の人じゃなくてエトランジェなんて奴なんだ。
何で母さんは父さんなんかと結婚したんだ。

―違う!僕はこんな事思っていない!!
僕は父さんと母さんが好きだった。
三人で過ごした時間は僅かで、裕福じゃなかったけど、決して不幸なんて思わなかった―

本当にそうか?ならなんで自分は父さんの顔が思い出せないんだ。

―それは、僕が幼かったから―

そうか?自分が忘れたかったからじゃないのか?化物が父親だって認めたくないから…

―違う!!違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!!!
やめろ!!もう言うな!!頼むから、その先を言うな―

何で自分はこんな風に生まれたんだ。
化物に生まれてきたくなんかなかった。二人の間に生まれたくなかった。

「やめろぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーっ!!!!!!!」

絶叫と共に跳ね起き、自分が物凄い汗を書いている事に気付いた。
「…はあ、はあっ…」
今のは夢であり、時計は午前2時前。ここは自分のあてられた部屋であり、僕はベットの上だ。
「…また、あの夢か…。」
ここ数年、たまに見てしまう夢。
正体がばれ、周りにやつあたりしていたあの時のこと。
そして頭に響くどす黒い感情。やり場のない怒り、悔しさ、憤り、そして―
「…やめろ。それ以上考えるな…!」あれは僕の本心じゃない。
僕は。僕、は…

511 名前:6章 これもひとつのあいのうた。前編6:2008/08/04(月) 02:04:13 ID:yQthOddg0
「…こ、降参…。」
「…わかりました。しばらく休憩にしましょう。」
朝の夢のせいで悶々とした気持ちを抱えつつ、僕は初めてナナルゥと模擬戦をしてみた。
結果は惨敗。永遠神剣を持ち、毎日訓練を欠かさないナナルゥにコテンパンにされてしまった。
「どうぞ。」ナナルゥが瓶に詰まった水をを差し出してきた。
「あ、ありがとう…はあ…」2口で水を飲み干して大の字に寝転び、一息つく。
「…その、やっぱり強いね、ナナルゥは。」
「いえ、私は神剣魔法による戦法を重視しているため、白兵戦はそれほど長けている訳ではありません。」
「そ、そっか…」謙遜なのかフォローなのかわからないが、どちらにせよ更に傷つく。

「…ふ、あぁぁ…」
あの夢のあと結局朝まで眠る事ができず、横になると急激に眠気が襲ってきた。
「ごめん…寝不足で、少し眠ってもいいかな…?」
「了解しました。15分程度の仮眠は効率的です。時間がきたら起こすと言う事で構いませんか?」
「うん、ありがとう。お願い、する、よ…。」
表情が変わらないからわかりにくいけど、親切なんだな…
そう思いながら、意識が闇に沈みゆく―

キライだ。みんなみんな、この世の全部、だいっきらいだ。

祖父も、町の奴らも、この世界も、こんな風に生まれた自分も

こんな風に生んだ母さんも、その理由になった父さんも、ぜんぶ

―嫌だ。こんな事思いたくない。
こんな自分は嫌だ。こんな情けない自分はいやだ。こんな汚い自分はいやだ。
嫌だ、イヤだ、いや

「ロティ様!」

512 名前:6章 これもひとつのあいのうた。前編7:2008/08/04(月) 02:21:29 ID:yQthOddg0
「ロティ様!」
「っ…!あ……!!」
「…大丈夫ですか?いきなりうなされだしたものですから…。」
ナナルゥが珍しく、少し焦った顔をして僕を覗き込んでいた。
「…ごめん、大丈夫。ちょっと…嫌な夢を見ちゃって…。」
「…夢、ですか。…事情を、聞く訳にはいきませんか?」
「……そうだね。なんでもないとは、言えないよね…」
気付いたら、僕の口は勝手に言葉を紡ぎ出していた。
何故あんなに簡単に話してしまったのだろうか。
あの、僕が密かにずっと悩んでたことは、先生にさえ話した事がなかったのに。
いや、違う。
多分僕は、ずっと誰かにあの事を相談したかったのだと思う。
「…僕が、エトランジェのハーフだっていうのは知ってる?」
「…はい。ミュラー様から、聞いております。」
「そっか。…僕の父親は、エトランジェだったんだ。
父親は、僕が物心つく前に死んで、顔も覚えていない。
母親は、貴族の一人娘らしかったけど、父親と駆け落ちして、
父親が死んだ跡、生活は苦しかったけど、必死に僕を育ててくれた。
だけどある日、怪我をしたときにエトランジェの子だってばれちゃってね。」
ああ、それから、全てが変わった。
「僕と母親はそれから爪弾きにされて、結局母親は実家に戻って再婚したんだ。
新しい子供もできて、もう何年も会っていない。
あと、両親の結婚に反対してた祖父が、僕を軍に売り込むために、僕を鍛えてたっけ。」
皮肉だが、そのおかげで今この軍に入る事ができるようになったのだろう。
「それから先生に会うまで、僕は凄く荒んでいたんだ。
目に入るもの全てが敵に見えて、みんなが僕を嫌な目で見てる、
みんなが僕の悪口を言ってる様に思えて、力に任せて何の意味もなくみんなをぶっ飛ばしたり、
物を壊したりして。…気を引きたかったのかな。いっそのこと、罵ってくれても構わなかった。
何も言わずに遠ざかって欲しくなかった。見て見ぬふりをされたくなかった。何か僕に反応してくれたら、
僕はそれでやめれるのにってね。…当然みんなますます僕を遠ざけて、更に僕は荒んでいった。」
今思えば愚かだったと思うが、その時はそれ以外に方法が見つからなかった。

513 名前:6章 これもひとつのあいのうた。前編8:2008/08/04(月) 02:23:14 ID:yQthOddg0
「それで、ある日町にやってきた先生と鉢合わせしてね。難癖つけて喧嘩を吹っかけて
ぼこぼこにのされちゃってね。それから何度も突っかかって、何度も倒されて、
先生が剣聖ミュラーだって分かって、そのまま弟子にしてくれって頼んだんだ。
…変な言い方かもしれないけど、あの時僕は嬉しかったんだ。
どんな形であれ、先生は僕を、見て見ぬふりをせずにちゃんと見てくれたから。」
そして、先生は今のこの名前をくれた。
今での自分をやり直す為の。
ナナルゥは僕が話す間、僕の隣に腰掛けて一言も話さずこちらに顔を固定していた。
できれば相槌の一つくらいは打って欲しいものだが、ちゃんと聞いてくれているというのは分かった。

「…町の事は、もう今はいいんだ。僕も悪い所もあったし、納得できないところもあるけど、
今は憎んだりしてない。…だけどさ」

待て。これ以上言ってしまっていいのか?
これ以上言えば、言葉にしてしまえば、僕は―
「…僕は、両親の事が、嫌いなのかもしれないって。」
ああ。言ってしまった。
言い出したらもう止まれない。面白いくらいに抑えていた言葉が溢れ出す。
「…両親が、僕を大切だと思ってくれてたんだろうなとは思うんだ。
貴族だった母さんが慣れない家事や仕事を頑張ったのも僕のためだった。
再婚した事だって別にいいんだ。顔を合わせる気にはならないけど、
今…母さんが幸せって思っているのならそれでいい。」
今、母さんはどうしているだろうか。幸せ、なのか?
「父さんが、エトランジェが差別される事が悔しくてたまらなかった。
何も父さんは悪い事をしてないのになぜ化物なんて言われないといけないんだって。
…うん。僕も、2人が好きだった。
その、筈だった、けど…」
だけどそれは、そう思いたかっただけだった。
ただ自分の醜い感情を、包み隠していたかっただけだったんだ。

514 名前:6章 これもひとつのあいのうた。前編9:2008/08/04(月) 02:24:39 ID:yQthOddg0
「…夢の中で、昔の僕の声が聞こえるんだ。…何でこんな風に生まれてきたんだって。
父さんがエトランジェじゃなかったらよかったのに、母さんが父さんを選ばなかったら、
普通の人に生まれてきたらよかったのにと。
そんな事ない、自分は二人とも好きなんだって思いたかったけど、
…否定、しきれないんだ。そんな風に思っている自分がやっぱりいるんだ…!」
そうだ。ずっとそんな事を密かに考えてる自分が許せなかった。
結局僕は、あの町の人達と変わらない―
「戦争が終わって、差別らしい差別は無くなったけど、そんなのは関係ない。
結局僕は、本当の所は、二人の事を疎んじて、嫌いで―」

「…そんな事は、ないと思います。」
「…え?」
「…私にはいまだに人の感情がよく理解できません。
それに、スピリットには両親というものがありません。
したがってロティ様の過去について私が何かをいう資格など無いかもしれません。
しかし、ロティ様がお二方を本当に嫌っているのなら最初から悩みなどしないのではないでしょうか?」
「…どうして?本当に好きなら、こんな事悩みもしないんじゃ―」
「いいえ。私見ですが、大切に思うからこそ、その様に悩めるのではないでしょうか?
その人の全ての部分が好きになる事は、不可能だと思います。
…たとえ、そのような事を密かに考えていようと、
それでもお二方が好きという事でいいのではないでしょうか?」
「―あ―」
―そう、なのかな?そういうことにして、いいのかな?
好きだったという事でいいですか―
「……私には明確に誰かを大切と思う、好きと思う感情がよく分かりません。
失いたくない、守りたいというような想いはありますが、その理由を問われると言葉にできません。
しかし、いつか自信を持って大切と思う人を認識できるようになりたい。
…今は、そう思っています。
私には、ロティ様がそういう感情を含んだ上でも、お二方が好きなように見えます。」
それは、自分を納得させたいだけと言えばそれまでかもしれない。
でも、僕はずっと抱えていたしこりがとれた気がした。

515 名前:6章 これもひとつのあいのうた。前編10:2008/08/04(月) 02:35:16 ID:yQthOddg0
「―ロティ様?」
「…大丈夫。これは、嬉し泣き、だから。
そっか。僕はちゃんと、父さんと、母さんの事が好きだったのか―」
自然と、涙が出た。泣いている事も気付かずに馬鹿みたいに涙があふれた。
どす黒い感情が、流れ落ちていくようだった。
「…休憩時間を、もう少し延ばしましょうか?」
「ん…。」
しばらく涙が出るのに任せて、ようやく止まったところでナナルゥにお礼を言う。
「…ありがとう、ナナルゥ。それとごめん。…ナナルゥも、辛い思いをしてきたのに、
自分一人だけ不幸だみたいな言い方しちゃって。」
「いえ、私が聞いた事ですから。…こちらこそ、ありがとうございます。」
「え?」
「…ロティ様の過去を話していただき、そして、私の意見を真剣に受け止めていただきました。
…それが、不謹慎かもしれませんが、嬉しい、と感じます。」
そう言ったナナルゥがほんの少し、微笑んだように見えた。
瞬きする間に元の表情に戻っていて、見間違いと言っても仕方ないのだけど、
それでも、あのときナナルゥは僕に笑顔を向けてくれたのだと思っている。
僕は思わず、ナナルゥの手を握っていた。
ナナルゥの手は意外とひんやりとしていて、だけど今の僕には心地よかった。
―そう言えば、手の冷たい人って、心が温かいっていうんだっけ―
「ナナルゥは、優しいね。」
「優しい、ですか?…自分には、よく分かりませんが…」
「ナナルゥは優しいよ。本当に、ありがとう。」
それから僕は、あの夢を見る事はなくなった。

ヘリオンが言った事が、スピリット隊のみんながナナルゥを好いている理由が、少しわかった気がした。
それと同時に、悲しかった。
こんなに優しい人が、戦争に駆り出され、命を奪わなければならなかったという事に。
こんなになるまで、感情を表に出せなくなるほど省みられる事が無かった事に。
それが、当然だった世界に。

516 名前:6章 これもひとつのあいのうた。前編11:2008/08/04(月) 02:38:45 ID:yQthOddg0
力になりたいと思った。これからの時代で、ナナルゥ自身が幸せになって欲しい。
楽しい事がいっぱいあって、そのときに笑えるようになって欲しい。
そのための手助けが少しでもできたらいい。
そして、もしできる事なら―

(ナナルゥの目一杯の笑顔が、見たいな…)
―ひょっとしたら、僕はあの時から、ナナルゥに惹かれていたのかもしれない―

「ナナルゥは…僕とこうなって、喜んでくれてるのかな…。」
今、ナナルゥは幸せだと思えるだろうか。
僕は、その手助けができたのだろうか。
…ナナルゥは、もし僕がいなかったとしてもいずれ幸せというものを感じれるようになったと思う。
ナナルゥの周りにはナナルゥが大切に思う人がいて、ナナルゥを大切と思う人がいて。
僕でなくてもその人達か、あるいはこれから会う人達がきっとナナルゥを支えていったのだろう。
たまたま、それが僕だったというだけかもしれない。僕でなくてもよかったかもしれない。
だけど、どんな偶然や幸運だろうと自分がナナルゥの大切な人になれたのなら。
ナナルゥが僕がいる事で喜んでくれるのなら。
「ふふ…だとしたら…やっぱり、嬉しいなぁ…」
そうつぶやいた瞬間―

「…ロティ様、失礼します。」
「!!!!!!!????????」

はい、前編はここまで。微妙に二章とかぶってる?
…ええ、そうですね。手遅れですよね意味不明ですよね見苦しいですよね…。わかっています…。
…さて、後半はどんなのやろうかと考えてたら自分の脳内偉人(或いは変人)が
エロいのをやれというのでエロアホ展開にしてしまいます。前半の繋がりほとんどなし。
いいかげんにしやがれと言う友人の罵詈雑言をエーテルシンクで封じ込めつつ
続きを書いていきます。シチュは…前に言ってた2、4、他でいきます。
頭痛薬、胃薬、精神安定剤等を用意しておく事をお勧めします。では!(逃走)

517 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/08/04(月) 12:33:53 ID:abKnXDB60
土日がゴタゴタしてたモンで、遅れてしまいました
と言う事で、早速SS(1〜14)を投下致します
出来れば、支援の程お願い致します

518 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/08/04(月) 12:38:59 ID:abKnXDB60
三章:誰(たれ)が『求め』…(1)

「良〜し、出来たぞ」
「これがハイ・ペリアのご飯なの?ユート様」
「わくわく〜♪」
 夕食時の第二詰所の食堂で、エプロンに身を包んだ悠人は大皿に盛られた特製のナポリタン・スパゲティーをテーブルの上にどん、と置いた。
 材料はファンタズマゴリアのものを使用したが、元々見た目や味は似通った食材が多い為、悠人の世界のものと遜色の無い程の出来である。
 湯気と共に立ち昇る香りが漂い、否応無しに空腹感を誘ってきた。
「それじゃ、冷めない内に食べような?」
「うんっ」
「どきどき〜♪」
 悠人の言葉に頷くと、三人は早速大皿から適当に取り分け、顔の前で揃って手を合わせた。
「頂きます」
「イタダキマ〜スっ」
「イタダキマス…」
 悠人に倣い、ネリーとシアーも食事の挨拶を済ませると二人は元気良くナポリタンを食べ始めた。
「美味し〜!!ユート様、このハクゥテすっごく美味しいよ!!」
「うん、美味しいよ。ユート様」
「腕に縒りを掛けて作ったからな。喜んでくれたんなら、作った甲斐が有ったってもんだ」
 はぐはぐ、とナポリタンを頬張る二人を眺めながら、悠人は満足そうに微笑んだ。
「あら?確か今日は私たちが当番の筈だったんだけど…?」
「何だか美味しそうな匂いがしますね〜」
 聞こえてきた声に三人が振り返ると、エプロンに身を包んだセリアとハリオンが丁度食堂に入って来るところであった。
「よ。二人とも今戻って来たのか?」
「あ、セリア、ハリオンお帰んなさ〜い」
「お帰りなさ〜い」
 一旦食事の手を止め、三人がそれぞれの挨拶で二人を迎えた。
「あの、ユート様。これは一体…?」
「悪い。今日は勝手に俺が作らせて貰ったんだ」
「まぁ、それは別に構いませんが…」
「あらあら〜、有難うございます〜。ユート様〜」
 仕事を奪ってしまった悠人が決まり悪そうに返事をしたが、それよりもセリアにとっては悠人に料理が出来ると言う事が驚きであった。

519 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/08/04(月) 12:42:43 ID:abKnXDB60
三章:誰(たれ)が『求め』…(2)

「セリア、ハリオン。ユート様のハクゥテすっごく美味しいんだよ」
「酸っぱくて、塩っぱくて、苦いけど、美味しいんだよ〜?」
 一体、それはどんな美味しさなのだろうか。
 第二詰所の厨房に立つ二人としては、ネリーとシアーの感想に大きく興味がそそられた。
「俺の世界の『ナポリタン』って言う料理を、こっちの材料で作ってみたんだけど…?」
 二人の前に、大皿から取り分けられた悠人の料理が並べられた。
 まだホカホカと湯気が立ち昇り、ハクゥテに絡んだソースからの酸味を思わせる芳香が鼻腔を擽ってゆく。
 これが伝説と謳われるハイ・ペリアの、悠人たちの世界の料理なのだろう。
「そうね。それじゃあ、私も頂こうかしら…」
「そうですね〜。折角のユート様の手料理ですし〜」
 エプロンを畳むと、セリアとハリオンはテーブルに就いた。
「『イタダキマス』だよ?セリア、ハリオン」
「『イタダキマス』?」
「聞き慣れない言葉ですね〜。どう言う意味なんでしょう〜?」
 始めて聞いたネリーの言葉に、セリアとハリオンが首を傾げた。
「ユート様がね、食べる時には手を合わせて、そして感謝の言葉を言うんだって」
 シアーの説明にセリアとハリオンが得心の表情を浮かべた。
「解ったわ。『イタダキマス』…。これで良いのかしら?」
「『イタダキマス』です〜」
 手を合わせて一礼を捧げると、二人は悠人のナポリタンを肉叉に絡め始めた。
「自分で言うのも何だけど、結構上手に出来たと思う」
 そんな二人の『頂きます』を見届けると、悠人は二人が料理を口に運ぶ様を期待に満ちた表情で眺めた。
「確かに、始めて食べる味だけど、美味しいと思うわ」
「と〜っても美味しいですよ〜。ユート様〜」
「ほ、本当か?」
 二人の感想に、悠人は確認する様に言葉を漏らした。

520 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/08/04(月) 13:00:57 ID:abKnXDB60
三章:誰(たれ)が『求め』…(3)

「こんな事で、嘘を言ってどうするんですか…」
「うふふ〜。でも、本当に美味しいですよ〜。ユート様は〜、お料理がお上手だったんですね〜」
「いや、これ以外はそんなに得意ってわけじゃないんだけどな?でも、二人が美味しいって言ってくれると何か自信が付きそうだよ」
 照れる悠人の表情に、セリアとハリオンの表情が思わず緩んだものになった。
 本人は気付いているかどうかは知らないが、こんな時の悠人はとても無防備で幼い表情を浮かべて嬉しがるのだ。
 母性と言うものがスピリットにあるのかどうかは判らないが、あったとすれば恐らくこの様な感覚なのだろう。
 そんな思いを抱かせる表情であった。
「あれ?もう夕飯の準備出来てるの?」
「今までの如何なる料理にも該当しません…。初めて目にする料理です…」
「わわっ!?ユート様がエプロンを着ていらっしゃいます!?も、若しかして、今日の夕食はユート様がお作りになられたんですか!?」
「何?今日の夕飯はユートが作ったの?」
「こ、こら。ニム。ちゃんとユート『様』ってお呼びしなさいって言っているでしょう?」
 と、残りの第二詰所のメンバーが遅れて食堂に集まって来た。
 皆、訓練を終えて空腹なのか、大皿に盛られた料理に早くも関心が向けられている。
「あぁ。俺の世界の料理を作ってみたんだ。良かったら皆も食べてみてくれ」
 皆の皿を用意しながら、悠人が嬉しそうに給仕を始めた。
「そ、そんな。ユート様がそんな事なさらなくても…」
「分量の調節でしたら、お任せ下さい…」
「そ、そうですよ。後は私たちが自分でしますから、ユート様はゆっくりしていて下さいっ」
「ほら、ニム。お皿を並べるのを一緒に手伝いましょう?」
「メンドい…」
 俄かに沸き立つ食堂であったが、悠人は皆をやんわりと制した。
「何言ってるんだよ?今日はもう皆上がって仕事は終わりなんだろ?だったら俺も今は皆と同じ家族なんだから、これくらいの仕事はさせて貰っても罰は当たらないよ」

521 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/08/04(月) 13:08:05 ID:abKnXDB60
三章:誰(たれ)が『求め』…(4)

「まぁ、ユート様がそう仰るのでしたら…」
「うぅ…。何も言えなくなっちゃいます…」
「了解しました。それでは暫く待機します…」
「ま、ユートもここに来たからにはそれが当然だけど…」
「もう、ニムったら」
「はは、良いよファーレーン。それに、ニムみたいに考えてくれる方が俺には嬉しいからさ。サンキュ、ニム」
「う、五月蝿いっ…」
 ぷい、と横を向くニムントールであったが、耳が赤い事について悠人は黙って微笑んだ。
 個性豊かな大所帯の第二詰所であったか、誰もが優しくて温かかった。
 実は、第二詰所での生活に少し不安を抱いていた悠人であったが、今ではそんな事は杞憂なのだと思った。
 紛れも無い悠人の『家族』が、ここにちゃんと存在してくれているのだ。

「むぅ…」
「む〜…」
 そして、そんな悠人を中心に盛り上がる食堂で、少し離れてむくれた視線を送る二人の視線があった。
「あら、どうしたの?二人とも」
「お料理が冷めちゃいますよ〜?」
「う…ん…」
「そう、だけど…」
 セリアとハリオンが声を掛けるものの、ネリーとシアーはもごもごと歯切れの悪い言葉の返事をした。
 そんな二人の様子にセリアはやれやれとした、ハリオンは何処か嬉しそうな表情で眺めた。
(まぁ、これも仕様が無いと言えばそうなのかもしれないのだけれど…)
(あらあら〜。私はお二人とも可愛くて〜、良い事だと思いますよ〜?)
「うぅ〜…」
「にぅ〜…」
 ナポリタンを絡めた肉叉を齧りながら唸る二人を、セリアとハリオンはそっと見守るのであった。


522 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/08/04(月) 13:18:42 ID:abKnXDB60
三章:誰(たれ)が『求め』…(5)

「う…ん…」
 部屋を照らす窓からの陽の光と、朝を謳歌する小鳥たちの囀りが悠人の意識を掬い上げた。
 瞼がゆっくりと開くと、漸く慣れてきた新しい天井が悠人の視界に映った。
 他の部屋より一回り大きい第二詰所の賓客室。それが、割り当てられた悠人の新しい自室であった。
「ん?」
 と、身を起こそうとした悠人は両腕に違和感を覚えた。
 一瞬、昨日の夕飯で給仕を張り切り過ぎて疲れが残っているのかと思ったが、直後にそうではないと判断した。
 何と言うか、疲れた云々以前に腕の感覚が痺れて無くなってしまっていたのだ。
「アレ?」
 天井を眺めながら、悠人は混乱した。
 横を向いて寝ていたのならば、下敷きになってしまった腕が痺れてしまっていても何ら不思議ではない。
 しかし、仰向けに寝ている今の悠人の両の腕が痺れてしまっているのは如何なる為か。
「くぅくぅ…」
「すぅすぅ…」
 布団に混じる別の温かさとその重さに導かれ、悠人は首だけを動かして見下ろした。
「………」
 悠人の両脇辺りに、布団を押し上げて寝息を漏らして上下する二つの小山がこんもりと出来ていた。
 成程。両腕が痺れていたのは、いつの間にか潜り込んで来ていた二人の所為か。
 と、それぞれの上腕に乗せられた青い頭を眺めながら悠人は思わず苦笑を漏らした。
「こら、二人とも。起きろって…」
「うん…?」
「んゅ…?」
 悠人が肩を揺らせて声を掛けると、反応したネリーとシアーが身を捩って唸った。
「あぅ…、ユートさま…?」
「う〜…、ユートさま〜…?」
 目に映るものの判別が付くくらいには覚醒したのか、二人は確認する様に悠人の名前を呟いた。
「あぁ、俺だよ。それよりも、腕が痺れて動けないから二人ともちょっと退い――、うわっ!?」
「ユートさま〜♪」
「さま〜♪」
 目に映るものの判別が付くくらいしか覚醒していなかった二人が、ぽわぽわと寝惚けた状態で左右から悠人の体を這い上がってきたのであった。

523 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/08/04(月) 13:26:52 ID:abKnXDB60
三章:誰(たれ)が『求め』…(6)

 緩慢な動きの二人であったが、生憎と両腕の痺れている悠人には逃れる手立ては無かった。
 やがて二人は悠人の首に齧り付くと、まるで匂い付けをするかの様にスリスリと頬擦りを始めた。
「んふふふ〜♪ユートさまのにおいがする〜♪」
「いいにおい〜♪」
 悠人の耳元で聞こえてくる程に大きく息を吸い込み、二人は恥ずかし気も無く悠人の匂いを楽しみ始めた。
「〜〜っ…!!」
 一方の悠人も、二人から漂う寝汗の混じった体臭や、寝巻き越しに伝わってくる柔らかな感触にかなり悶絶させられていた。
 血が昇ると言うか、集まると言うか…。双子に感付かれない様、悠人はそっと膝を立てるのであった。
「んむぅっ!?」
「えへへへへ〜♪」
「ぎゅうぅ〜っ♪」
 悠人の匂いに中てられたのか、二人は更に這い上がってそのちくちくとした頭を胸に抱き込んできた。
 それだけではない、何と二人はまだ痺れている腕を股に挟むとまるで全身で悠人の感触を味わう様にぐりぐりと押し付けてきたのであった。
 頬に感じる慎ましさやら、腕に感じるその形やら…。血が集まり過ぎると痛みを覚えるのだと、悠人は知った。
(って、落ち着け…!!二人は寝惚けているだけなんだ…!!)
 自分に言い聞かせ、悠人は声を掛けようとして二人の胸から顔を上げた。
「んゃうっ!?」
「ふゃぁっ!?」
 悠人の動きに合わせて、二人が大きく身を強張らせた。
「あ、あれ…?」
「ゆ、ユート様…?」
 驚いた表情の二人が、腕の中の悠人と目が合った。
「えっと、お、お早う…。二人とも…」
「お、お早う…。ユート様…」
「お、お早う〜…」
 割と緊急事態に陥っている悠人に対して、何故か腰を引かせた二人の気拙そうな挨拶であった。
「お、おおお、お早うございますっ!!ユート様っ!!今日は、わ、私が起こしに参りまし――た…?」
 そして、そんなベッドの上の三人を見て、起こしに来たヘリオンの表情が凍り付いた。
「し、しし、失礼しました〜っ!!」
 何故か赤面し、疾風の如き素早さで走り去るヘリオン。その妙に重苦しくも清々しい朝の雰囲気の中で、部屋の隅に立て掛けられた『求め』が人知れずに妖しく輝きを放っていた。

524 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/08/04(月) 16:33:39 ID:abKnXDB60
三章:誰(たれ)が『求め』…(7)

 ぬちゃ、ぬちゃ、と粘り付く水音が響いていた。
 踏み伏せられた幼い体躯がはしたなく両足を開けさせられ、その中心の雪の様な白い肉の丘に荒ぶった悠人の剛直が突き立てられていた。
『ユート様ぁ…。気持ち良いよぅ…』
 長く蒼い髪を背中に広げ、見上げてくる瞳がもっともっと、と切なそうに訴えていた。
 その浅ましいおねだりに応じて挿出を激しくすると、途端に肉の悦びが戦慄いた。
『ひゃあぅんっ!?あっ、あぅっ、い、良いよぅ…』
 ずりゅ、ずりゅっ、と粘膜が擦れ合う度に焼ける様な快感が腰から広がっていった。
 引き擦り込まれる様に無数の襞が吸い付き、まるで生き物の様に絡み付いてきた。
 腰を掴み、猛った逸物で奥まで一気に突き通すと、みっちりと咥え込まれた肉の隙間から白く濁った粘液がぐじゅっ、と泡を立てて逆流してきた。
『ひゃあぁぁあぁっ!?』
 びくびく、と全身が震え、それに合わせて中の蠕動がきゅうきゅうと断続的に締まった。
 奥からじわりと、更に熱い露が零れてきた。
『あは、は…。ユートさまぁ…』
 法悦の表情を浮かべ、無意識にか、それでも更に快楽を求め様とくい、くいと腰が悠人を咥えて誘っていた。
 繋がっている秘所は、混ざり合った互いの体液で溢れ返り、シーツには尻と膝を伝って垂れて出来た大きな染みが強烈な性臭を撒き散らせていた。
『ユートさまぁ…。もっと、もっといっぱい…』
 手を伸ばし、蕩けた表情で求めてくる。
 望み通り、まだ十分な硬度を保ったモノで悠人は挿出を再開した。
『ひ、あ、あ…。だ、抱っこ…。抱っこして…、ぎゅう〜って…して…』
 強く絡み付いてきた四肢に応じる様に抱き返すと、肩に乗せられた顎から『うふぅ…』と、熱っぽい吐息が首筋に掛かってきた。


525 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/08/04(月) 16:39:49 ID:abKnXDB60
三章:誰(たれ)が『求め』…(8)

 密着した薄い胸からは、桜色の硬いしこりと小さな体には不釣合いな程の大きな鼓動が感じ取れた。
 少し離れて見つめ合うと、いつもの得意そうな表情ではない、牝の色を帯びた蟲惑的な表情がそこにあった。
 はぁ、はぁ、と獣の様な荒い息遣いが悠人の顔に掛かる。
『あ、あ…。や…、だ、ダメ…。あぅ、あ…』
 容赦無く中を掻き回す動きに腕の中で小さな体が跳ね、その細い喉から我慢出来ずに甘い嬌声が漏れ出した。
 やがて、その声に切実な響きが混じり始め、二人の腰使いにも余裕の無いあからさまな卑猥な動きになる。
 しがみ付いてくる小さな体が、絶対に離さないと組み付いてきた。
『ユートさま、ユートさま、ユートさま…』
 譫言の様に、ひたすらに繰り返されるその言葉を聞く度に悠人の脳髄が甘く痺れた。
 責めながら、絹よりも滑らかな髪を撫でてやると、見上げてくる瞳がふにゃりと綻んだ。
『あ、あ、あ、あっ…』
 迫る限界が近いのか、声のトーンが高くなった。
 悠人も中の激しい肉のうねりや、根元まで呑み込まれる張りのある肉厚な丘のフニフニとした感触にじわじわと疼痛を覚え始めていた。
『んあぁぁあぁぁ〜っ!!』
『くぅっ…!!』
 絶頂と同時に、中の粘膜が悠人に襲い掛かった。
 扱かれ、吸い上げられるその感覚に耐え切れず、悠人は堪らず滾った精を迸らせた。
『あぁ…。ユートさまのが出てる…』
 胎内に広がる熱さを、悠人が満足してくれた証であると、そして自分へのご褒美であると言う様な恍惚とした表情であった。
『ユート様…。大好き…』
 幸せそうに、ネリーが呟いた。


526 名前:名無しさん@初回限定:2008/08/04(月) 16:52:25 ID:Mcql9q5l0
サポートするよ!

527 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/08/04(月) 18:45:51 ID:abKnXDB60
三章:誰(たれ)が『求め』…(9)

『はあぁぁぁ…。ユートさまぁ…』
 形の良い眉を悩まし気に寄せ、大きな瞳がトロンと悠人を見上げていた。
『ユートさまのが、いっぱいだよぅ…』
 くちゃ、くちゃと腰を揺らす度に、胡坐を掻いた悠人の膝で串刺しになった部分から粗相でもしたかの様な大量の粘液が漏れていた。
 白磁の如き肌は桜色に染まり、汗ばんでしっとりと吸い付いてきた。
 未熟さが残るものの、膨らみ始めた胸や腰回りからは牡を誘う牝の色香が漂わせている。
 薄いが、それでも柔らかく張りのある尻を掴んで突き上げると、ごり、と先端が最奥の壁に当たった。
『ふやぁあぁっ!?ふ、深いよぅ…』
 啜り泣く声を上げながらも、快楽を感じる腰は貪欲に悠人に押し付けられていた。
 茹でられた卵の様な、今にも弾けそうな盛り上がったプニプニとした肉の扉が、むっちりと悠人を根元まで挟み込んでいた。
 手を滑り込ませ、指でその扉をめち、と開くと、限界まで広がった入り口とその上の膨れた突起の鮮やかな朱色が粘液に塗れてぬらぬらと光っていた。
『やぁん!!い、いきなりはダメだよぅ…』
 与えられた刺激が強過ぎたのか、びくん、と大きく身を震わせると拗ねた様な表情を浮かべてきた。
 今度は指の腹で、突起を包皮の上からそっと撫で上げると、それに合わせて中の動きがきゅっ、きゅっ、と締まる。


528 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/08/04(月) 18:50:21 ID:abKnXDB60
三章:誰(たれ)が『求め』…(10)

『はぁ、はぁ…。んっ…、そうだよぉ…。お豆さんは、んっ、とっても感じるから、優しくして…。はぅん…』
 その儘手を離して弄るのを止めると、今度は悠人の腹部に押し付ける様に腰を擦り付け始めてきた。
 滴る涎で、悠人の下半身は忽ち汚された。
『ん……。ちゅっ…。むぅ…』
 互いの息が掛かる程に見つめ合うと、どちらとも無く唇が重ねられた。
 絡み合う舌が口腔で激しく暴れ、ぴちゃ、ぴちゃ、とはしたない音を立てた。
 擦れ合う知覚器官が食欲にも似た性感を齎し、零れた涎が二人の顎を伝っていった。
『ぷ、はぁ…。はぁ、はぁ…。ユートさまの味ぃ…』
 口から伝う糸を切り、啜った口の中のものを嚥下するとうっとりとした面持ちでそう呟いた。
『うむぅっ!?むぅっ!?』
 その口を強引に塞ぐと、今度は下の口を遠慮無しに荒々しく小突き始めた。
『ひむっ!?むぁっ!?んふぅっ!?』
 逃げようとする体を抑え込み、絶頂の痙攣にも構わずに我武者羅にその欲望で蹂躙していった。
 じゅぶじゅぶと、掻き出された粘液が泡立って垂れ、二人の膝をベタベタと粘つかせた。
『ぷぁっ!!ユートさま、ユートさま…!!もっと、もっとだよぉ…!!』
 喘ぎ声に急かされる様に、互いに激しく腰を打ち付けあった。
 ぱん、ぱん、と肉の音が粘液を散らせて響き渡る。
 一突き毎に駆け上ってくる愉悦が、悠人の理性を削り取っていった。
『あ、あ…!!くる、くるよぅ…!!ユートさま!!ユートさまぁ〜っ!!』
 遂に奔流が決壊し、ぎちぎち、と痛い程に悠人を締め付けた。
『はぁぅんっ!?出てる、ユート様のがいっぱい出てるよぅ…!!』
 ドロドロに熔けた悠人の獣欲が子宮にぶちまけられるのを感じ、肉体的にも精神的にも最大のオルガスムスが駆け抜けていった。
『えへへ…。もっといっぱいエッチして欲しいな…。ユート様…』
 悠人の胸に倒れながら、シアーが目を細めて甘えてきた。


529 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/08/04(月) 19:28:03 ID:abKnXDB60
三章:誰(たれ)が『求め』…(11)

「はぁ…」
 汚れた下着を洗いながら、悠人は大きな溜息を吐いた。
 第二詰所に移って来て三週間(15日)程経ったが、ここ最近は何故か淫夢を見る事が多くなっていた。
 悠人とて健康な年頃の男であるので、性欲を持つ事も持て余す事も別段珍しい事でも無い。
 発散しなければ、そんな結果が訪れてしまっても仕方の無い事であった。
 しかし、それが特定の人物たちの淫夢であれば、それは一体何の意味があるのだろうか。
 ネリーとシアー。
 この二人が夢に出てきた時は、必ずと言って良い程にまぐわり合う夢を見ていた。
 最初は普通に夢を見ていた悠人であったが、先々週のナポリタンを皆に振舞って以来、急に彼女たちの淫夢を見る様になってしまっていた。
(それが契約者の『求め』ではないのか?)
 悠人の頭の中に、諭す様な『求め』の声が響いてきた。
「ふざけるなよ。バカ剣。どうせお前が見せている夢なんだろうが…!!」
 悠人の言葉に、『求め』から肯定とも取れる笑いの気配が伝わってきた。
(その割には、契約者も随分と満足している様だが…?)
「くっ…!!」
 悠人の顔が、耳迄赤く染まった。
 朝一番で、まだ誰も居ない洗い場で下着を洗わねばならない今の状況が、悠人の羞恥心を更に煽った。
(犯せば良かろう…。あの妖精たちも、契約者の事を憎からず思っている様だ…)
「また、あの二人に何かしようって言うのか…?」
 凍て付いた声で、悠人は呟いた。
(ふっ、何かするのは契約者ではないのか…?)
「何だと…?」
 いつぞやの、激しい怒りが悠人の中で首を擡げ始めた。
 だが、その気配を気にするでも無く、寧ろ挑発する様に『求め』は悠人に囁き始めた。
(汝もあの妖精たちに惹かれているのだろう…。ならば、何を躊躇う事があるのだ…?)
「はっ!!だから、俺にあんな夢を見させて二人を襲わせようってか?そんな事、誰も『求め』ちゃいないぜ?」
(クハハハハハッ…!!)
 皮肉を込めた悠人の台詞に対し、返ってきたのは『求め』からの哄笑であった。


530 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/08/04(月) 19:38:26 ID:abKnXDB60
三章:誰(たれ)が『求め』…(12)

(我は確かに汝の『求め』を聞いた。あの妖精たちを悲しませたくないのであろう…?)
「あぁ、バカ剣が見せたくだらない夢みたいに、俺の欲望で傷つけたりはな…!!」
(契約者よ…。汝はそう思っているかもしれぬが、あの妖精たちも同じとは思わぬ事だ…。我は『求め』…。純粋なる『求め』に応じ、代償によってその願望を実現させる存在…)
 その言葉に、今度は悠人が笑い返した。
「あの二人が、俺にあんな夢をみたいな事を望んでいるって?それこそ有り得ないだろ?焼きが回ったんじゃないのか?バカ剣」
 仔犬の様に懐いてくる二人が、夢の中の様な痴態を晒す事など妄想も甚だしかった。
 血は繋がっていなくとも、二人はもう悠人にとって大切な家族なのだ。
 義妹の佳織に恋愛感情や劣情を抱かないのと同様に、二人に対してもそんな感情を持つなど考えもしなかった。
「良いか?バカ剣。二人は俺の妹みたいなモンで、俺は二人のお兄ちゃんなんだよ。だから、そんな間違いは起きないし、俺が起こさせない」
 二人を悲しませたくないと誓った悠人が、二人を傷付けられる筈が無かった。
「頭を撫でたり、抱き締めた事も有ったけど、それは守るべき仲間で大切な家族だからやったんだ。俺の欲望なんかで汚しちゃ駄目なんだよ」
 洗い終わった下着を絞ると、悠人は他の洗濯物と一緒に洗濯紐に吊るし始めた。
 『求め』から何故か呆れた様な気配が伝わってきたが、これ以上は何も言う気が無いと感じた悠人は黙って部屋へと戻って行った。

 悠人が去った後、別の出入り口から洗濯籠を抱えた二人の人影が現れた。
「参ったわね…」
「まぁまぁ〜。ユート様だってお年頃なんですから〜、仕方が無いじゃないですか〜」
 ハリオンのあんまりな言い方に、セリアが思わず気を抜かれた。
「ハリオン?えっと、今のユート様の言葉をちゃんと聞いていたのかしら?」
「はい〜。『求め』の所為で〜、ユート様がムラムラきちゃうんですよね〜?」
「ムラムラって…。それは、まぁ…、そうなんでしょうけど…」
 実際には、ラキオスの命運が懸かった重大な事態なのだが、ハリオンにしてみればその程度の事なのかもしれない。

531 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/08/04(月) 19:44:39 ID:abKnXDB60
三章:誰(たれ)が『求め』…(13)

 しかし、性格的にハリオンの様に楽観出来るセリアではない。
 ないのだが、
「まぁまぁ〜。ユート様でしたら〜、きっと大丈夫だと私は思いますよ〜」
 ずい、と笑顔のハリオンがセリアに迫ってきた。
「で、でも…。一応、上に報告して、何かしらの対策を立てておいた方が…」
「セリアは〜、ユート様の事を信じていないんですか〜?」
「そ、そう言うわけじゃないけど…」
 さも心外だと言う表情で覗き込んでくるハリオンに、セリアも思わず曖昧な態度で返してしまった。
「それじゃあ〜、この事は私とセリアだけの秘密ですね〜」
「そ、それは…」
「ね〜?」
 ニコニコと笑顔を崩さないハリオンに、セリアは降参とばかりに溜息を吐いた。
「解ったわ…。ユート様を信じましょう、ハリオン…」
「有難うございます〜。セリア〜」
 胸の前で指を組み、ハリオンはセリアに満面の笑みを浮かべた。
 それを見たセリアも、内に湧いていた己の安堵に気付いて少しだけ頬を緩めた。
 頭ではそれが希望的な判断であると理解していたが、本当は何よりも信じたかったのだ。
 悠人の強さと優しさを…。
「それに〜、ユート様でしたら襲われても嬉しい気もしますし〜」
 ハリオンのトンでもない台詞に、洗い場に向かおうとしていたセリアは盛大に籠を落とした。
「ち、ちょっとハリオン!?」
「だって〜、私たち緑スピリットは皆さんを回復する時にはマナを使うんですよ〜?それならユート様にマナを吸われちゃうのもあんまり変わりませんよね〜?」
「貴女、何を言っているの!?」
「ですから〜、ユート様にマナを吸われる時の話ですよ〜。どうせ疲れちゃうんでしたら〜、気持ちが良い方が良いですよね〜?」
 頬を染めるハリオンであったが、潔癖の気があるセリアには素で答える余裕など無かった。
「し、知らないわ!!そんなの…!!」
「あらあら〜?半分くらいは冗談でしたのに〜」
「半分は本気なのね…?」
「はい〜。ユート様が〜、私を選んで下さればですけどね〜」

532 名前:Twinkle fairies ◆f.DQhHGo4M :2008/08/04(月) 19:50:40 ID:abKnXDB60
三章:誰(たれ)が『求め』…(14)

 悠人が選ぶ。
 神剣に操られているのではなく、自分の意思で、男として。
 それならば、確かに納得がいくのかもしれない。
 たとえ如何なる結果になったとしても。
 と、セリアは思い至った。
「本当、参ったわね…」
 セリアは米噛みを押さえて唸った。
 口伝に拠れば、『求め』は破壊とマナ、そしてスピリットの身体を欲していると言われている。
 破壊とマナについては、スピリットたれば神剣の欲求として理解出来た。
 では、身体を求めるとはどんな意味がそこにあるのか。
 それは恐らく、スピリットとエトランジェの身体の構造に起因するのであろう。
 必要に応じて周囲のマナを吸収して体内でエーテルに変化させる両者の身体は、いわば天然のマナ収束装置であり、精製装置でもあった。
 そして、身体に蓄えられたマナを吸収するには二通りの方法が存在していた。
 一つはマナと詰まった器ごと神剣で破壊して吸収するやり方。
 そしてもう一つが、両者の肉体を繋げ、そこから流れ込んでくるマナを得るやり方であった。
 前者は危険を伴うものの、破壊衝動を満たして簡便にマナを得る事が出来、後者は手間さえ掛かるものの、良質のマナを持続的に得る事が可能であった。
 恐らく、『求め』が悠人に要求してきたのは後者の筈である。
 そして、それがどの様な行為を以って行われるか、当然悠人は知ってしまっているだろう。
 だが、その行為が神剣の意思では無い純粋なものであっても、悠人は警戒して拒絶してしまうかもしれない。
 大事に思うが故に、悠人は距離を置いて離れるに違い無かった。
 二人の前途を思い、セリアは再び大きな溜息を吐くのであった。

533 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/08/04(月) 19:58:11 ID:abKnXDB60
途中で用事が急に入ったり、今回の投下に限って何でこんなに忙しかったのでしょう…
しかし、ここにきて漸くのサービスシーンの挿入…
夢と本番でのネタが被らない様に四苦八苦しました…

目を汚したのでしたらスイマセン…
でも、話の流れ的にそろそろ必要カシラ?と思い立ったわけです…
挿絵は…、描けないですね流石に…
しかし、オイラのルーズリーフには双g(以下、検閲削除)

534 名前:次スレテンプレ案:2008/08/04(月) 22:41:51 ID:EQDVB6lM0
お二方とも乙でした。
残りが少ないので取り急ぎ。
……つか、勝手ながら建ててしまった方がよさげな残り容量かも。

日々精進です。レベルが上がりました。レベルが上がりました。
日々精進レベレベルが新たなスキ日々精レベルが上がレベル日々……

つぎ込まれるエーテル。加速する噛み噛みボイス。
しかし、ソーン・リーム台地玄関口ニーハス仮設訓練所に響き渡る声も何時かは消える。
マナも、エーテルも決して尽きてはいない。
けれど、それを受け入れる器には限界があった。
未知のクラス、未知のスキル、未知のボイス……
それらを残したまま、伝説の訓練士までもが音を上げる。
だが。だがしかし。限界を超える術は用意されている。
選ぶのは、我々雑魚スピ者。

    Nomal
    Hard
   Super Hard

永遠のアセリア&雑魚スピ分補充スレッド 30

前スレ:永遠のアセリア&雑魚スピ分補充スレッド 29
http://set.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1213891998
発売元:Xuse【本醸造】公式サイト
http://www.xuse.co.jp/
外部板:雑魚スピスレ保管庫 (初代スレ〜29スレ)
http://etranger.s66.xrea.com/
外部板:雑魚スピスレ避難所@MiscSpirits
http://www.miscspirits.net/Aselia/refuge/

535 名前:名無しさん@初回限定:2008/08/04(月) 23:02:44 ID:EQDVB6lM0
建ててきました。不備がありましたら申し訳ありません。
二代目保管庫が今スレにて終了(>>37)のため追記または削除しております。

永遠のアセリア&雑魚スピ分補充スレッド 30
http://set.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1217857554/

536 名前:名無しさん@初回限定:2008/08/04(月) 23:09:10 ID:heoYPPGD0
>>533
内容に関しては何も言わないけど、
支援してくれって言って、支援してくれた人が居るのに一言もないってのはどうなの?

537 名前:名無しさん@初回限定:2008/08/04(月) 23:17:25 ID:Mcql9q5l0
>>536
まぁ気にする必要も無いと思うんだぜ!
…支援の必要性あんま理解できてないし


>>533
>しかし、オイラのルーズリーフには双g
oと3Pですね?わかります

538 名前:名無しさん@初回限定:2008/08/05(火) 00:50:14 ID:ZJu+avOu0
責はないとはいえ最近は大長編のコンボが続くので、そろそろもたれて来た…。
口直しというか箸休めというか、軽くてアッサリ味の超SSも投下せねばなぁ。

>>537
支援されないと連投規制を誘発してしまい普通の投稿すら阻害されるから、
投下者にとってはけっこうな恩恵になるんだよ。

539 名前:金烏 ◆f.DQhHGo4M :2008/08/05(火) 10:20:32 ID:fol4b7H50
>>536
確かに、義理を欠く行為でした
支援して下さった方にはこの場を借りて謝意とお詫びを申し上げます

>>537
支援は有り難いです…
お礼を言うのを忘れて、身勝手な事をしてしまいました

>>578
どなたかの投稿を発見すると、支援せずにはいられないですね

因みに、知人に読ませている方では規制の為に今回の濡れ場(7〜10)は切ってます
でも、6→11でも繋がるので問題は無い筈…

>大長編
マロリガン編はまた色々と長いですから…

540 名前:名無しさん@初回限定:2008/08/05(火) 11:59:53 ID:A3cMIyAp0
>>538
なるほど。ありがとう

もう一つついでに教えてもらいたいんだが
何レス毎に、なんて目安はあったりするかな?

541 名前:名無しさん@初回限定:2008/08/05(火) 12:57:13 ID:fol4b7H50
>>540
2,3分しか間を置かないと3回目くらいで「連続投稿ですか?」で干されて
一時間内に10回以上(?)で「やはりあなたは連投しすぎです」で暫く干される
前者は10分くらいで解除、後者は分からないけど1時間も待っていれば解除される

この間は「荒らしてねぇよぅ!!」と叫びたくなる
気持ちを切り替えて、規制を続きを推敲する時間に当てたりすると暇が潰せる、かも…

542 名前:名無しさん@初回限定:2008/08/05(火) 13:18:47 ID:A3cMIyAp0
それじゃ可能なら2レス毎に・・ってことでいいのかね
ありがとさー

543 名前:月野陽介:2008/08/05(火) 14:25:51 ID:4mA+nT8Z0
こんにちわ。前の後編投下しようと思います。
>>381 の2,4をもとにしたシチュでエロシーン投下して行きます。
不快な表現がでる危険性大なのでスピたんと言うかロティ嫌いじゃ!
と言う人はみないほうがいいです。
もしOKなひとはお薬を用意しといてください。
スピたん〜幻のナナルゥルート〜6章後編。参る!

544 名前:6章 これもひとつのあいのうた。後編:2008/08/05(火) 14:28:33 ID:4mA+nT8Z0
反射的に振り返ると、裸身にタオルを巻きつけたナナルゥが浴室に入ってきた。
「………ナナルゥ?」
サッとタオルで大事な所を隠し、表面上冷静に呼びかける。
「……お背中、お流しいたします。」
あははははははなんですかこのお約束的な台詞は。夢ですか幻ですか作者の趣味ですか
「あーーーーー。ナナルゥ。これは誰かから聞いたのかな?」
「ヘリオンから聞きました。曰く、『これこそ愛する二人の王道ですっ!』とのことです。」
「…ヘリオン…。」
ああなぜか頭が痛い。おかしいな、『紡ぎ』は持ってきてないのに。
「…?あの、嫌ですか?」
そう言って僕の顔を覗き込んだナナルゥは意外と恥ずかしそうな表情で、
更に不安が混じったなんともいえない表情でああそんな顔されたら僕はもう…!
「え、いや、その、えっと…じゃあ、手足洗ったので、背中洗ってください。」
おいこら状況に流されるなさっきの綺麗な思い出はどこいったと言うもう一人の自分を払いのける。
やっぱり僕も男っていうか。あはは、嬉しいです、ありがとうヘリオン。
「了解しました。」
そう言って後ろからなぜか布が落ちる音とナナルゥが石鹸を泡立てる音が聞こえ、
「うひゃあっ!!??」
ヌルッとした感触と同時に柔らかいものが背中に押し付けられた。
首を回してなんとか後ろを見ると、ナナルゥが泡だらけの胸を僕の背中に押し付けている。
「な、ナナルゥサン!?」なぜか片言になってしまった。
「…女の人が男の人を洗うときはこうするとの事です。」
…誰が言ったのかとは、もうあえて聞くまい。
「あ、うわぁ…。」
「んっ…。動かないで、ください…。」
ナナルゥがゆっくりと、押し付けた胸を擦りつけるように動かしてゆく。
「…いかかですか?ロティ様…。」
「は、はひっ!も、もう最高でございまする!」もう呂律が回んない。
「そう、ですか…。んっ、んっ…ふぅ、はあぁ…。」

545 名前:6章 これもひとつのあいのうた。後編2:2008/08/05(火) 14:30:14 ID:4mA+nT8Z0
ああああああああああああああああやばいまずいヤヴァイ
胸が柔らかいよ先っぽが硬くなってきてそこが擦れてくすぐったい
首筋あたりにナナルゥの熱い吐息がかかってむず痒くて動くななんてもう拷問ですよ
僕の愚息がタオルを押し上げてテントを張り出したああああああああああああああ

身悶えしてるうちに背中にまんべんなく石鹸が塗りたくられた。
「っ…はぁ…。ロティ様、次は…前、洗いますね…。」
ナナルゥが前に回りこんできて、再び胸に泡立てた石鹸を塗りなおす。
やば、見てるだけで、もう変なものに目覚めて し ま
「…失礼します。」
「はわうあぁっ!!」
僕の方に手を置き、僕の胸板にナナルゥの胸が押し付けられる。
ナナルゥもこれは結構恥ずかしいらしく、珍しく頬を染め、若干固めの表情になっている。
「…行きます…。」
「ううぅ、うううううううう〜〜…。」

まずいです大変です危険です非常事態ですエマージェンシーですっ!!
ナナルゥの切なそうな顔が眼前にせまってるだけでもやばいのに
大きくて柔らかい胸が僕の胸に押し付けられて自在に形を変えて
しこった胸の先っぽがくすぐってきて
ああもう僕はどうすればっ!?
「んっ…はぁ…何故でしょう…?身体がどんどん熱くなって、切ないです…!」
ボンッ!!
その言葉で僕の頭の回線が焼ききれました☆本当に意識して言ってないのか?
「きゃっ…!ああ…!」
たまらずナナルゥを抱きしめてもうビンビンの愚息をナナルゥに押し付ける。
「あぁ…これは、あの、ロティ様?」
「…その、ナナルゥを見てたら、我慢できなくなって、今、したい、です…」
「…あ、ロティ様が、私、で…。…あぅ……。」
ナナルゥの顔が更に赤くなり、うつむいた。ああ、可愛いなぁ…。
「わ、わかり、ました…。…あの、最初は、その、これを、お願いします・・・。」
そう言ってナナルゥが目を閉じ、唇を突き出してきた。これで聞き返すのは野暮だろう。

546 名前:6章 これもひとつのあいのうた。後編3:2008/08/05(火) 14:37:09 ID:4mA+nT8Z0
「わかった。んっ…。」
「んむ、ふぅ、ちゅ、んっん、れる…」
ナナルゥの唇を奪って、舌を絡め合い、互いの唾液を交換する。
「んっ、ちゅ、んむぅ!?ん、ううぅ〜〜〜っ!!」
キスに夢中になっているナナルゥの胸を両手で揉みしだく。
石鹸で滑りがよくなっていて、さわり心地が更によくなっている。
手に収まりきらない柔肉が、僕が指に力を込める度に形を変え、胸の先端が僕の手の平を突く。
硬くしこった乳首を指で摘んだ瞬間、耐えられなくなったナナルゥの唇が離れた。
「ぷはっ、あ、やぁ!駄目です、それは、ひゃうん!」
唇が離れ、僕はナナルゥの乳首に吸い付く。
石鹸の苦さが少ししたが、気にせずに舌で転がし、甘噛みする。
「やっあ、ひゃんっ!ふぁぁああ、はあ、ロティ、さまぁ・・・!」
悶えるナナルゥの声を聞き、もっと感じて欲しくなって空いた手をナナルゥの秘所に這わせる。
うっすらと濡れている一本のすじをなぞり、その間も胸を弄るのはやめない。
「っ〜〜〜〜!!!んああ、あぁん!や、駄目、駄目です!それは嫌、嫌ぁん!!」
…その声を聞いて、少し危険な嗜虐心が芽生えた。
(もう少し、ナナルゥを困らせてみたいな…。)

「…そっか、ナナルゥは嫌なんだ。」
「えっ…」
「じゃあ、やめようか。嫌なら無理矢理したくないしね。」
「え?そ、そんな…!」
「嫌なんだよね?」
「あ、あぅ…いえ、あの、嫌では、ない、です、その、むしろ、いいです…。」
「ん?何がいいのかな?」
「え…、あの、それは、」
「はっきり言わないと判んないな。何がいいのか、言って?」
「そ、それは、あぅ、うううぅぅ〜〜〜〜〜〜……。」
ナナルゥの顔がこれまでにないくらい赤くなり、両手で顔を覆う。
そのしぐさにたまらないもの感じる自分は、もしかしなくてもやばい気がする。

547 名前:6章 これもひとつのあいのうた。後編4:2008/08/05(火) 14:38:45 ID:4mA+nT8Z0
「そ、そのっ!ロティ様に、キスされるのが、胸とか、股間を、身体を触られるのが、
たまらなくて、きっ、気持ちよくてっ、嬉しい、ですっ…!
だから、や、やめないで、ください・・・。」
「ん、わかった。」
その声を聞いて愛撫を再開する。すじをなぞり、秘所を割り開いて指を一本入れる
「っ!…あ…」
しっとりと濡れているナナルゥの中の熱い媚肉を押しのけ、ゆっくり抜き差しする。
緩慢に指を上下左右に動かし、淫靡な水音を鳴らしながらきつく締め付けてくるナナルゥの中を味わう。
「うあ、あっ、あ、ああああ!やん、ひっ、ふああ…!」
次第に緩慢な指使いに焦れて来たのか、ナナルゥが自分から腰を動かし、秘所に僕の指を押し付ける。
「・・・ナナルゥ、自分から腰動いてるよ。」
「えっ?あ、やぁ、あの、これは…。」
「…もっと激しくして欲しい?」
「そ、そんなこと、いっ、いえな」
「じゃあこのままでいいかな?」
「そ、それは…あの、もっと激しく、弄って欲しいですっ…っ!」
どんどん自分の人格が崩壊していく気がするが、止まらない。
いつも冷静で無表情なナナルゥが困って、恥ずかしい表情を見せる。
それがたまらなくが可愛く見てしまう自分は、脳が湧いていると思う。
「じゃあ、激しくするね…。」
そういって秘所に入れる指をもう一本増やし、一気に一番奥に突き入れる。
「っああぁ!んああああ〜〜っ!!」
瞬間、ナナルゥが絶叫し、びくんと身体が跳ねる。
だけど手を休めず、更にもう片方の手で少し上にある突起を弄る。
「〜〜〜!!駄目、駄目です!そこは、うぁ、駄目、ん〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
「…どうして駄目なのかな?ナナルゥは気持ちよさそうだけど。」
ナナルゥの抗議を聞かず、更に突起を摘み、乳首を弄ったときのように指で転がす。

548 名前:6章 これもひとつのあいのうた。後編5:2008/08/05(火) 14:52:14 ID:4mA+nT8Z0
「駄目ぇ!だめらめらめらめらめぇっっっ!!!ひゃ、あ、あ、あああ、
ふああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
これ以上ないほどナナルゥの身体が弓なりに反り、ナナルゥが達する。
倒れないようにナナルゥの身体を支えると、脱力したナナルゥが倒れこんできた。
「んっ、は、あぁ…ろ、ロティ様、あの、もう、そろそろ、ロティ様のを…」
「うん、僕も、我慢できないや…。」

「こ、この体位で、するの、ですか…?」
「うん。嫌、かな?」
「いえ…。その、恥ずかしいです…。」
ナナルゥには四つんばいになってもらい、こちらに向かってお尻を突き出してもらっている。
「…でも、恥ずかしがってるナナルゥは、可愛いよ?」
「…! きょ、今日のロティ様は、なんだか意地悪ですっ…!」
「…う。ご、ごめん…。」反論できない。実際楽しんでいたし。
「えっと、でもその、ナナルゥは、大好きなんだけど、恥ずかしがるナナルゥが
ほんとに可愛いというか、だからついそうしたくなるというか」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!やっぱり意地悪ですっ!!」
「か、重ね重ねごめん…。」更に墓穴を掘ってしまった。いまさらながら自己嫌悪する。
「…いいです。…そういうロティ様も、私は嫌いじゃありませんから…。」
「…あ、ありがとう…。」
結局僕は、許してもらえると信じてナナルゥの愛情に甘えてるんだろうな。
「…お願いします。」
「うん。…できるだけ、ナナルゥも気持ちよくするから…。」
先刻の反省を兼ねて焦らさずにナナルゥの腰を掴み、隆起したものを秘所にあてがって
「っ!!!!!う、あ……!!」
一気にナナルゥを貫いた。同時に膣内が強烈に僕のものを抱きしめる。
「っ!っは、きつい、すご…。」
思わず射精してしまいそうな締め付けに耐え、もう一度腰を打ち込む。
「っあ!あっ!うぁ、ん〜〜〜っ!」
ナナルゥの尻肉が僕のお腹に当たる。燃えるような赤い長髪を振り乱してナナルゥが乱れる。
「っは、ああ、いい、ロティ様の、気持ちいいです、ふああぁ!
ロティ様は、私の感じ、いい、ですかっ…?」


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