朔望

夜想 overture

 §~聖ヨト暦330年エハの月黒いつつの日~§

一点の曇りも無く澄み渡る夜空。
明滅する星々が殊更明るい月の庇護の元、ささやかに寄り添い合って浮かぶ。
あるものは群れを成し、またあるものは孤高に煌き。そしてあるものは流れ、消えていく。

月が好きだった。
加護を受けているから。そんな当たり前の理由ではなくて。
全てが寝静まった世界をただ見守り、悠久に浮かび上がるその姿が。
日ごとに形を変え、その度に移りゆく表情が。
ひっそりと静寂を包み込む、慈愛に満ちた優しさが。――――闇を紡ぎ、映し出す強さが。

りぃぃぃぃん…………

それは突然に、訪れた閃光。
白く輝く森の木々が淡く夜空を照らす。
光の中で輪郭を失い、次々と消えていく星達。
ただ独り、未だ中空に漂う月の影が、初めて孤独に見えた。

  ――――― 朔望 ―――――