のらすぴ ~そうだ、散歩に行こう~

「はい、ユート様、お疲れ様でした。」
「ふ~う、なんとか終わったな。エスペリアもお疲れ。」
「いえ、そんな。それじゃ、お茶をお持ちしますね。」
「ああ、いつもありがとう。」
苦手な書類整理を終えた悠人はエスペリアを待ちつつ
何気なく窓の外を眺めていた。
「いい天気だな~」
柔らかな日差しの午後。ぼんやりとしていた悠人は
ふと良いことを思いついた。
「ごめん、エスペリア。俺ちょっと出かけてくるよ。」
「あ、ユート様?」
エスペリアの呼びかけに返事もそこそこに第二詰め所に向かう。
「最近ゴタゴタしてて全然構ってやれなかったからなぁ。」
走りつつ、そんな事をつぶやいていた。

詰め所のドアを勢いよく開く。
「みんな、散歩に行くぞ!」

 Misson ~そうだ、散歩に行こう~

・・・・・・・・・
・・・・・・

海の見える高台。備え付けのベンチに座りながら悠人は既に後悔し始めていた。
「いや~たまには散歩もいいもんだなぁ、なぁ?悠人。
心の穢れが清められるというか、人生の垢が落とされるというか・・・」
「・・・・・・なぜお前がここにいるのかはもう問わないから
いい加減ヘリオンを離せ。怯えてるだろ。」
溜息をつきながら光陰を睨む。
見るとヘリオンは光陰の腕の中でひたすら縮こまって動いていなかった。
しかもうるうると縋る様に悠人を見つめている。
「え?あ~、気にするな。妙にこの黒が気に入ったんだよな、何でだろ?」
「俺に聞くなよ・・・ったく。ほれ。」
強引にヘリオンを奪い取る。すると物凄い勢いで尻尾を振ったかと思うと
顔を悠人の胸にすりつけ、すぐおとなしくなった。何故か耳まで伏せている。
「それはそうと光陰、お前今日子はどうした?一緒に来たんじゃないのか?」
「ああ、アイツなら街で買い物だ。なんだか友達ができたんだとよ。」
あさっての方をニコニコと見ながら光陰が答える。
その目線を追ってみると広場でネリーとシアーがじゃれていた。

「・・・俺って犬に嫌われてんのかな?」
戻ってきた光陰が元のベンチにどっかと座り、空を仰いで呟いている。
「いや、そんなことはないと思うが、何か本能的な危険を感じたんじゃないか?
でもほら、ハリオンならお前が来ても平気そうだし。」
横で丸まっているハリオンの背中を撫ぜてやる。緑の光が一瞬体を包む。
お、ウインドウィスパか?もうそんなの憶えてたのか。
「んーーなんかこう違うんだよなぁ、射程外っていうか・・・ってなんだ?射程外って」
「だから俺に訊くなよ、意味不明な奴だな。あれ、どうした?ヘリオン」
何故かヘリオンが小刻みに震えていた。

初夏の日差しが石畳にまんべんなく降り注いでいた。穏やかな午後。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「ところでものは相談なんだが、悠人よ。」
「・・・なんだよ、いいたい事はわかるけど、俺にはどうにもできんぞ。」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・俺たちは憩いを求めてここにいるはずだよな。」
「・・・ああ。たぶんそうだと思う。さっきまではそう確信してた。」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・ならこの緊張感をなんとかしようとは思わないか?」
「・・・だから俺にいわずにこいつらに言ってくれ。むしろ頼む。」
目の前では直立不動もといお座り不動状態のセリアとヒミカが周囲を警戒していた。
道行く人々に敵意むき出しである。
ヒミカ「・・・・・・・・・」
セリア「・・・・・・・・・」
悠人・光陰(・・・・・・・・・番犬?)
空はどこまでも高かった。

その頃巡回中?のナナルゥは道に迷っていた。
元々マーキングのつもりでその辺をふらふらしていたのだが、
野原の方から不穏な気配がしたのでついここまで来てしまったのだ。
しかし肝心の気配を見失い、自分は迷子になってしまった。
ナナルゥ「・・・・・・(ボソッ)」
なにか腹が立ってきたのでなんとなくヒートフロアでもかけてみる。
最近躾けられた技だ。悠人に褒めてもらえたが1人で発動しても意味は無かった。
(ガサッ)
ナナルゥ「・・・・・・!」 
とっさに身構える。さっきの気配が近づいて来ていた。

「と・に・か・く、アタシじゃなかったら黒こげだったんだからね~!わかってる?悠!」
目の前で仁王立ちの今日子がまくし立てていた。胸にナナルゥを抱いている。
「アンタの躾がなってないからこんなことになるんじゃないさ!しっかり監督してなさいよね!」
みると髪の毛が少し焦げている。体中がパリパリいっているのはエレクトリックの名残だろう。
「全く冗談じゃないわよ。御丁寧にもヒートフロアかけといてイグニッションのコンボなんてさ!
敵襲かと思ったじゃない!!」
「悪かったって・・・だけどお前それ、エレクトリックだろ?
自分で抵抗力下げてどうするんだよ・・・・・・すみません。俺が悪かった。」
あ~ん?何か言った?とかつぶやきつつ雷撃のオーラをまとい始めた今日子に素直に謝る。
気絶しているらしいナナルゥの毛が静電気で逆立っていた。
「まぁまぁ、その辺にしといてやれよ、別に赤いのも悪気があってやった訳じゃないだろう?
悠人だって反省してるようだし・・・・・・ぐぁぁぁぁぁ!!!」
八つ当たりのサンダーストームが光陰に直撃していた。

「それにしても凄いよね~、もうそんな高レベルの魔法を使えるなんて。
きっとユートくんの躾がしっかりしてるからだね☆」
「いや、俺は別になにもしていないんだけどな・・・・・・って、え?レムリア?なんで?」
「うん!久し振りだね、ユートくん。これも運命かな☆」
ひょっこりとベンチの後ろから現れたレムリアがニムントールを抱きかかえていた。
「キューン、キューン」 足元でファーレーンがおろおろしている。妹が心配なんだろう。
「レムリアとはね、こないだ知り合ったんだよ。な~んか妙に気が合っちゃってさぁ。
さっきも一緒にワッフルたべてきたんだ、ねっ!」
「うん!、でもワッフルじゃないよ、ヨフアルだよ☆」
(・・・なるほど、「俺たちのお姫様」の友達は本物の「お姫様」だったか・・・)
気が合うわけだ、と誰にも聞こえないように悠人はつぶやいた。
「さっきもこの子の攻撃をレムリアが防いでくれたんだ。
いや~、さすがのアタシもあれにはびっくりしたね。ねね、どうやったの?魔法?」
「あれはね、たまたま足元にこの子がいたんだ。守らなきゃって抱きかかえたら
突然緑色の光がこう、パーッって・・・・・・」
(・・・つまり妹が盾にされてたんだな・・・すまん、ファーレーン)
悠人は心の中でファーレーンに頭を下げた。

・・・・・・・・・
・・・・・・
夕暮れ。すっかり遊びつかれて眠りこけている子犬達。
彼女たちを纏めて寝かしつけたバスケットを抱きかかえながら帰り道を歩く。
「・・・ってハリオンは遂に一回も目を覚まさなかったな・・・・」
思い出して苦笑しながら今日一日を思い出す。
「・・・おい、楽しかったか?俺はおかげさまで良い一日を過ごせたよ。ありがとな。」
抱えた子犬達を軽く突付いてみる。「フゥーンフゥーン・・・」
甘えるような仕草で擦り寄ってくる彼女達を見ながら、悠人は改めて思った。
「ホント、良い日だったよな・・・」
明日からはまた戦いが待っている。でもこんな平和な一日を守れるなら、そう悠人は思っていた。

  ーendー