ズズズ… 
「あ~、みんな元気だなぁ…」 
悠人がお茶をすすりながらつぶやく 
「でもなんでこんなことになったんだっけか」 
「まあまあ、そんなことはいいですから。お茶のお代わりはいかがですか?」 
お茶請けのヨフアルを盛った皿を持って現れたのはハリオンだ。 
「まあ、そうだね~、あ、お代わり頂戴」 
ラキオス第二詰め所、演習場。
「でも、ハリオンは参加しないのか?というか何でみんなあんなに必死なのか疑問だけど」 
「はい~、今日は救護に徹します~。」 
悠人とハリオンはお茶をしていた。こんなところで和んでいる辺り、流石はハリオンと言うべきか。 
だが、それでも。他の誰かがみたら、そこだけ世界が違うと必ず感じるだろう。 
今演習場では、、、
演習とは思えないほどの戦闘が繰り広げられていた。
………時間は昼頃に戻る。 
その日、悠人を除く第一詰め所の面々は全員が遠征のためラキオスにいなかった。 
昼は適当に何か作ろうかと思っていたのだが、事務連絡のためにきていたハリオンが 
「よろしかったら~お昼はうちの方で食べませんか~?みんなも喜びますし~」 
と言った為、昼食は第二詰め所でとることになった。 
「ん、うまい!」 
「そうですか~、お気に召していただけて何よりです~」 
「ユート様ー、これシアーと私が作ったの!食べて食べて!」 
「て~」 
「ん、どれどれ…うん、これもうまいよ」 
悠人の満足げな顔に食べるのも忘れてはしゃぐネリーとシアー。 
「今日はユート様が来たから、って当番じゃない人も手伝ってくれたんですよ~」 
「はは。客ってわけじゃないから気を使わなくてもいいのに。でも、サンキュ」 
「あ、食後にはヘリオンちゃんが作ったお菓子がありますよ~」 
「そうなんだ、じゃあ、少し余裕もっとかないとな」 
「あ、いや、お口に合うかどうか判らないですし、えと、あの、でも、うれしいです…」 
「うん。楽しみにしてるよ」 
「は、はいっ!」 
こうして昼の楽しいひとときは過ぎていった… 
食後のお菓子も食べ終わった後、第二の面々が各自自室に戻ろうか、というときに。 
「そういえば~、エスペリアさんたちはいつ頃戻られるんでしょうか~」 
「ん?そうだな…今日中には帰らないとかいってたけど。」 
「それなら~、今夜はこちらでお休みになりませんか?」 
――――― 一瞬、その場にいるほとんどのものが動きを止めた。
「うーん、でも、詰め所をあけるのはまずいだろうし、やっぱり向こうにもd…」 
「大丈夫っ!!」 
「~うぶ!!」 
大声を張り上げたのはネリーと、シアーだった。 
「エスペリアさんなら戸締りちゃんとしてあるだろうしっ、ユート様も鍵かけてきたでしょっ?」 
「あ、ああ…」 
「それなら今日ユート様はネリーとシアーの部屋でお休みー!ね?いいでしょ?」 
そういって二人はユートにしがみついてきた。 
「だ、そ、そんなのダメです!ずるいです!私だってユート様と一緒に寝たいです!それで、それで…」 
大声で反対したのはヘリオンだ。興奮状態なのか妄想状態なのか、言ってることがかなり大胆である。 
「あー、いや、だから俺は…」 
「あらあら~、困りましたね~。」 
そういうハリオンだが、全然困っているようには見えない。むしろこの状況を楽しんでいるようにみえる 
「ふ、ふんだ!バカみたい!いこう、お姉ちゃん!…お姉ちゃん?」 
「…-と様と一緒に、ユート様と一緒に、いや、でもそんな、だけど…あ、に、ニム、どうしたの?」 
「どうしたの、じゃないよ。早く部屋に戻ろう?」 
「え、ええ…そうね」 
ファーレーンが後ろ髪引かれる思いで部屋に戻ろうとしたとき… 
「それじゃあ~、勝負しましょう~」 
ハリオンが、なにか、言った。 
「「「勝負(ですか)?」」」 
「ええ♪午後は各自自由時間ですけど~、訓練を名目でユート様を賭けて勝負するんです 
あなたたち三人以外にもユートさまと一緒に寝たい人もいるみたいですしね♪」 
横目で真っ赤になっているファーレーンとニムントールを見ながら言うハリオン。 
「あ~、その、ハリオン?やる気になってるところ悪いんだけど」 
「はい~、なんですかユート様~? 
「俺帰りたいんだけど…」 
「…」 
「…」 
「それじゃあ~、5人だとちょっと足りないですから~他に参加する方いませんか~?」 
(シカト!?) 
「だからハリオン、俺帰るからさ、その、勝負とかなし、な?」 
「ユート様~?あまり駄々をこねるとお姉さんがめっ、しますよ」 
「いや、「めっ、」とかいわれてもな…そもそも駄々とは言わないだろ、今の」 
「そうですか~、それでは仕方ありません~」 
ちょっとだけしゅん、とする、ハリオン。だけどこればかりは仕方がない。 
「そうか、それじゃあ、悪いけどかえr…」 
「しばらくおとなしくしていただきましょう~♪」 
「…は?」 
そういったハリオンの動きは今まで見てきたどのスピリットに比べても圧倒的に速かった。 
どこから取り出したのか『大樹』を悠人の目の前にかざし、詠唱を開始する。 
「大樹よ力を解き放て――――エレメンタルブラスト!!」 
見ほれてしまうほどのきれいな精霊光が放たれる。 
その動きにまったく反応できず精霊光をもろに浴びた悠人は… 
和んでいた。 
「さて~、賞人の確保も出来ましたし~、改めて参加者を募ります~」 
何事もなかったのように、話を進めるハリオンであったがこの三人もあまり気にしていないようだ。 
悠人はお茶をすすりながら悦に入っている。 
「はーい!私やるよー!」 
「シアーも!」 
「わ、私も参加します!」 
「はい、それじゃあ~ネリー、シアー、ヘリオンの三人は参加、と♪他にいませんか~?」 
「ニムもやる。べ、べつにユートなんてどうでもいいけど!」 
そういったのはニムントールだった。まだ真っ赤にしている顔で「どうでもいい」といっても説得力はないが。 
「私もやります。」 
「お、お姉ちゃん!?」 
それに続いてファーレーンが参加意思を表明した。こっちもニムントールに負けないくらい顔が真っ赤だ。 
ニムントールが驚いている、まあ当たり前といえば当たり前だけど。 
「・・・・・・・・・!」 
「・・・・・・・・・・!」 
ファーレーンとニムントールの言い争いをよそにハリオンはヒミカたちに呼びかける。 
「ヒミカさんたちはいかがですか~?どうせなら二人とも参加しましょう~、ね~?」 
「…ねえ、ハリオン。今更なんだけど」 
「はい?」 
「私もユート様は帰った方がいいと思うんだけど。まあ、「ああ」なっちゃってるけど第一の方あけるわけにもいかないでしょ。だから…」 
「もう、ヒミカさんも素直じゃないですね~。」 
「は?いや、そうじゃなくて」 
「仕方ありませんね~、ネリー、ちょっとこっちにきてください」 
「なーにー?」 
「(ゴニョゴニョゴニョ)」 
「んー、よくわからないけど、わかった!『静寂』、力を少し解放して!」 
「ッッッッッ!!まずいっ!!ナナルゥっ!逃げるわよ!」 
「・・・・・・・・・・・?」 
「―――――――――――――サイレントフィールドッ!!」 
場にいるスピリットが少しやる気になった!! 
赤スピリットは特にやる気になった!! 
ハリオンには効果がなかった!! 
「は~い、それじゃあ、もう一度聞きますね~、二人とも~、参加しますか~?」 
「もちろんするわ。私のため、添い寝のため、私は戦わなくてはならないの!」 
「・・・・・・・・・(コクリ)」 
そのころセリアは…
「ばかばかしい、やってられないです。ユート様、第一詰め所の留守番は私がやりますので鍵を貸してください。」 
「あー、うん、まかせるよー」 
「・・・それでは失礼します」 
「うん、気をつけてー」 
セリアは逃げるように外に飛び出していった。 
・・・・・・・・・ 
・・・・・・ 
・・・ 
さて、いつもならすぐにファーレーンが折れて終わる口げんかも今回はまだ続いていた。 
「だから!私も参加しないから、お姉ちゃんもやめなきゃだめー!」 
「え、でもこんなことはめったにないでしょ?それに、私も、その…(ボソボソ)したいし」 
「~~~~~~~っ!!」 
ファーレーンいつになく頑固だ。ニムントールはそんな姉を論破できず、同じ言葉を叫び続けていた。 
「まあまあ~、ニムちゃん?それだったらニムちゃんが勝てばいいんですよ~」 
「それが簡単に出来ればこんなに反対してないわよ!」 
「それじゃあ、仕方がないですね~。ヘリオンさん~こっちにきてください~」 
「添い寝添い寝添い寝添い寝…!えっ!?あっ!はいっ!」 
妄想にふけっていたヘリオンはあわててハリオンの元に走ってきた。 
「え~と、今から~、目を瞑って、集中してください」 
「は、はいっ!」 
何の疑問も持たずに目を瞑るヘリオン。 
「今から私が言うことに続いてくださいね~」 
「判りました。」 
ファーレーンとニムントールはハリオンの突飛な行動にわけもわからずただ二人をぼう、と見ていた。 
「マナよ~闇の法をもって~我らが身に宿り~」 
「マナよ、闇の法をもって我らが身に宿り」 
ヘリオンの詞に『失望』が反応し始める。 
「力を倍加させよ~」 
「力を倍加させよ、えと、ダークスプリング、ですか?」 
そして詠唱が完成したとき… 
その場にいるスピリットは攻撃的になった!! 
やっぱりハリオンには効果がなかった!! 
「な、何してんのよハリオン!!お姉ちゃん本気になっちゃったじゃない!!」 
「あら~、間違っちゃいました~?」 
「~~~っ!ヘリオンもなに素直に詠唱してるのよ!途中で気づきなさいよ!」 
「ご、ごめんなさい…」 
「ニム」 
ビクンッ。 
「お、お姉ちゃん…」 
「私は参加します。これは決定事項です。それで、あなたは参加するのですか? 
参加するのなら私は貴方を敵と認識します。生半可な気持ちでやると大怪我しますよ?」 
別人とすら思える言葉にしばらく閉口してしまったが、それでも気丈にニムントールは答える 
「ニムは負けない。絶対に勝ち残る。添い寝なんてさせないんだから!」 
「では~、ファーレーンさんとニムちゃん、参加ですね~。」 
「それでは~、これから「ユート様と添い寝する権利争奪戦」を始めます~♪ルールは~このとおり~」 
そういってルールの書かれた紙を広げた。 
「ルールは相手を消滅させてしまうような攻撃でなければなんでもありです。 
制服の袖についているラキオスの紋章を切り落とされたら脱落です。 
最後まで紋章を守った人が勝者です。 
私は救護に回りますから参加者ではありません。攻撃したら、めっ、ですよ。 
*万が一相手を消滅させた場合ファンタズマゴリア追放処分になるので気をつけてくださいね。」
みながそれぞれルールを見て異なる反応をする。 
それぞれの思惑が交錯する。 
「よーし!絶対勝つよ!」 
「勝つよー!」 
「添い寝添い寝添い寝添い寝・・・」 
(相手を傷つけないで紋章を切り落とすためには・・・フレイムレーザーしかないか…少し厳しいかしらね) 
(あまり魔法は使えませんね。ですが私の剣技はもともと装甲を薄くするためのもの…服を切ることなど造作もないですね) 
(さて、誰から狙うのがいいでしょうか。…そうね、やっぱり…) 
(お姉ちゃんにだけは絶対絶対ぜえ~~ったい勝たせないんだから!) 
(((((((でも、どうやってファンタズマゴリアから追放するんだろう))))))) 
「それでは、始めます」 
ピ――――――ッ 
開始の笛とともに全員が演習場の各所に散った。 
「さて、とりあえず、相手の正確な位置を探らないと。でもどうするかな…」 
ヒミカは一本の木の上で考えをまとめていた。神剣を持っているので大体の気配と方向はわかるが 
視認できなければ、この戦いは勝てない、きるのは服の袖なのだから 
しばらくして神剣の気配が近づいてくるのを感じた。ヒミカは音を立てずに気配のする方向に向かった。 
「ん?あれはナナルゥね…よし、あの子には悪いけど最初の獲物になってもらうわ」 
幸い魔法の詠唱中なのか隙だらけだ。ヒミカはフレイムレーザーの詠唱を始める。 
しかし、詠唱途中に不意に考えがよぎった。詠唱をしているとはいえ、まったくこっちに気づかない、というのはおかしい。 
一体なんの魔法を唱えているのかと疑問に思い、ヒミカは詠唱を止め、耳を澄まして彼女の唱える呪文を聞いた。 
「ッッッ!これ!」 
ヒミカはナナルゥに向かって無我夢中で走り出した。 
ナナルゥの詠唱している呪文は「スターダスト」だ。そんな高威力の魔法を放ったらここら辺いったいはただじゃすまない。 
だが、ヒミカは別の心配をしていた。正直演習場のことなどどうでもよかった。 
ナナルゥがアレを放ったらもうナナルゥはナナルゥではなく「消沈」になってしまう。 
それだけはさせるわけにはいかなかった。 
「ナナルゥ!やめなさい!」 
だが、ヒミカの心配をよそに、ヒミカが近づいた瞬間、詠唱はぴた、ととまった。 
「え?」 
一瞬、あっけに取られるヒミカ。だがその一瞬が命取りだった。 
「隙だらけです。」 
斬っ… 
双剣の連撃がヒミカの服だけを丁寧に刻んだ。 
「………ごめんなさい」 
ナナルゥの謝罪。 
「…ははっ、罠だったんだ。まいったわ」 
「………約束ですから、あの魔法は使わない、と」 
「そうだったわね。それでも心臓に悪いわ」 
「……ごめんなs」 
「いいわよ。でも、嘘でもこんなことしないで、絶対に」 
ヒミカの目には涙が浮かんでいた 
「……」 
ナナルゥが何も言うことが出来ずにいると、 
「返事は?」 
「・・・はい、絶対に」 
「よし、じゃあ、気をつけていってきなさい」 
そういったヒミカはもう笑顔になっていた。 
「ええ。…ヒミカ」 
「なに?」 
「ありがとう」 
そういってナナルゥは林の中に駆けていった。 
「ははは…」 
負けたけど、ヒミカは気分がよかった。ナナルゥが約束を覚えていた、守ってくれた。 
なにより、いきいきしていた。表情はあまり普段と変わらなかったけど、ヒミカにはわかった。 
それがうれしかった。 
「それはそれとして…」 
「あの子、服切りすぎよ。どうやって帰ろうかしら…」 
ヒミカの服はもうその機能を果たしていなかった。 
「ネリー、ネリー、どこー?」 
シアーははぐれていた。ネリーが自分に「右の方に飛ぶよ」といったのに思いっきり左に飛んだのだ。 
それからずっとネリーの気配がするほうへ歩いているのだが一向に見つからない。返事もなかった。 
「うぅ~、怖いよ~」 
いい加減ネリーに会いたかった。来る途中でナナルゥに遭遇し、必死に詠唱を抑えながら逃げ切ったりもした。 
シアーが泣きながら歩いていると、ものすごい速さで近づいてくる気配があった。ネリーじゃない。 
「ヘリオンちゃん?」 
ヘリオンはシアーの間合いの一歩外で立った。 
シアーは普段から親しいヘリオンが来たことで安心して近づこうとして…足を止めた。 
「ユート様と添い寝、ユート様と添い寝…」 
ヘリオンの様子が変だ。今までもたまに何かを考えて惚けてしまうこともあったけど、今の彼女はそんな次元じゃない。 
「へ、ヘリオンちゃん?あ、あのね、ネリーみn」 
「シアーちゃん、まだ紋章ついてますね」 
聞こうとしてヘリオンにさえぎられた。その刹那、ヘリオンが飛び込んできた。 
「っきゃあっ!」 
とっさにフローズンアーマーを展開するシアー。 
「いつも思っていましたがシアーちゃん、防御うまいですよね。ですが…」 
「私たち黒スピリットの攻撃は必ず1回は当たってしまうんですよ、青のスキルは」 
一つ、二つと氷の鎧が砕けていく。そして… 
スッ 
音もなくシアーの紋章が切り落とされた。 
「うぅ~、怖かったよ~」 
シアーはネリーを探しているときよりも大粒の涙を流しながらハリオンの元へ向かっていた。 
――――ネリーちゃんはハリオンさんのところにもういると思います。 
ニムちゃんと二人がかりでファーレーンさんと勝負していましたから。―――― 
紋章を切り落とされたあとに、ヘリオンがそう言っていたのだ。 
(戻ったらユート様に抱っこもらおう) 
…泣きながらもシアーはそんなことを考えていた。なかなかしたたかである。 
カチャリ 
剣を収める音とともに二つの紋章が地に落ちた。 
「う~、負けちゃった…ユート様と一緒に寝れないよ~!」 
「・・・・・・・・・」 
ネリーは負けても元気いっぱいである。 
ニムントールはうつむいて黙っていた。 
「ニム」 
「・・・・・・・・・か。お姉ちゃんのバカ!もう知らない!」 
ニムントールの叫びにネリーも黙り込んだ。 
「ニム…」 
ファーレーンはヒステリックに叫ぶニムントールをそっと抱きしめた。 
「今夜は一緒に寝てあげるから。ね?」 
「・・・・・・でも、お姉ちゃんは勝っちゃうでしょ?」 
「・・・・・・・・・」 
「お姉ちゃん?」 
「そうね、そしたらニムを真ん中にして3人で寝ましょう」 
「べ、別にユートなんていなくてもいいもん・・・」 
「フフッ、はいはい」 
ファーレーンはしばらくニムントールの頭を撫でていた。 
「さあ、ハリオンさんのところにもどってて。もうすぐ終わるでしょうし。」 
「・・・・・・うん」 
「ネリー、ニム抱えて飛べる?」 
「うん、大丈夫だよ!」 
「そう、それならおねがいね。」 
「はーい!ファーレーンさんがんばってね!」 
「ええ。ありがとう、ニム」 
ネリーとニムントールが飛んでいったのを見届けた後、 
「お待たせしました。始めましょうか」 
ファーレーンは背後の木に向かって言った。 
「…気づいていたんですか」 
木の裏から現れたのはナナルゥだった。 
「ええ、だいぶ前からそこにいましたよね。なぜ攻撃してこなかったんです?」 
「今の貴方ならあの二人に余裕で勝てると踏んだので体力を温存しておくことにしたんです。 
それに、私の魔法では貴方はともかく、あの二人は消えてしまいます」 
「なるほど。では、改めて…参ります!!」 
声と同時に懐に飛び込むファーレーン。しかしナナルゥは読んでいたのか横に大きく跳んでかわす。 
そしてそのまま林の中を走り抜けていった。 
「っ!しまった!逃がしません!」 
可能な限り全速力で駆けるファーレーンだったがこの林の中ではナナルゥと同じ速さでしか飛べなかった。 
ようやく林を抜けたと思った瞬間―――― 一閃の炎が走った。 
「!!」 
すんでのところでかわすファーレーン。 
そこにナナルゥが切り込んできた。 
「……私の勝ちです。」 
走る刃がファーレーンの袖を襲う。 
しかし、ナナルゥが聞いた音は服が裂ける音ではなく、乾いた金属音だった。 
「・・・・・・!?」 
驚くナナルゥ、しかしすぐに火球を放ち間合いを取る。そして次の詠唱を開始する。 
「空を舞うマナよ、炎となりて、地に降り注げ―――フレイムシャワー!!」 
だが、ファーレーンはまるで踊りを踊るようにによけていく。なおも続くナナルゥの魔法。 
「マナよ今一時焔獄の世界となりて、立ちふさがるものに炎の裁きを――――アークフレア!!」 
問題なく炎の一閃をかわすファーレーン、だがナナルゥが避けた方向に切り込む。 
さっき森を抜けたときと同じ展開、だがタイミングはさっきよりも絶妙! 
「・・・・・・終わりです」 
これで決まる。そうナナルゥは確信していた。しかし、 
「いいえ、貴方が剣を使う限り私には勝てません」 
微笑みながらファーレーンが剣を振るう。乾いた金属音が3回鳴り響く。 
「私たちは速さを最も重要視します。そのため、防御とともに攻撃が出来るのです。 
その私たちが防御だけに徹すれば一撃が重い青や緑の攻撃ならともかく、赤の攻撃では傷をつけることは不可能です」 
「私が剣で服を切ろうとする限り勝てない、と?」 
「そういうことです、そろそろ終わりにしましょう。この勝負、私の勝ちです」 
「・・・・・・・・・そう簡単に勝ちは譲りません」 
そういってナナルゥは詠唱を開始した。 
「空漂うマナよ、地に眠るマナよ…」 
「っ!そういうことですか、ならば!」 
ナナルゥのアポカリプスは当たらずとも動きをしばらく止める効果がある。それを使われたら、いくらファーレーンでも剣をかわす事は出来ない。 
「マナよ、ハイロゥに一時の安らぎを!バニシングハイロゥ!!」 
とっさの機転によるファーレーンの高速詠唱によって二人のハイロゥが消滅する。 
これで今は全てのスピリットの攻撃、効果は半減してしまう。しかし、今更魔法を止めている余裕はない。 
「爆炎となりて舞え―――アポカリプス!!」 
炎の中に見えるかすかな人影を確認し、そこへ飛び込む。危険だが勝つにはもうこれしかなかった。 
そうして炎の中に飛び込んだ瞬間。 
「惜しいです。」 
そういった声と同時に、カチャリ、と剣を収める音がした。 
「あのアポカリプスではとめる時間がたりませんでしたか…」 
そういってナナルゥは地に伏した。 
気がついたらナナルゥはファーレーンに抱えられて飛んでいた。 
「あ、気がつきましたか。もうすぐ救護室につくのでもう少し待っていてください」 
あれだけ戦ったのにまだ仲間を抱えて飛ぶ余裕があったファーレーンをみてこの人にはかなわない、そうナナルゥはおもった。 
そして何より自分がナナルゥであることを認識できることを意識して 
(もう少し冷静にならなければいけませんね。) 
深く反省するのだった。 
救護室の前にはヘリオンが立っていた。 
「あなたが最後のようですね、ヘリオン」 
「はい、ファーレーンさん」 
最後に残ったのは黒スピリットが二人。 
勝敗を決めるのはお互いの剣技であることは明白だった。 
「とりあえずハリオンさんの治療を受けてきてください。待ってますから。」 
「いいんですか?」 
「はいっ私も回復してもらいましたから。」 
「そうですか、ではお言葉に甘えて」 
そういってファーレーンはナナルゥと一緒に救護室へ入っていった。 
体力を回復させ、ファーレーンは外に出た。 
「お待たせしました、では始めましょうか」 
だが、そういうファーレーンの言葉を聴いてもヘリオンは動こうとしなかった。ふいにヘリオンが口を開いた。 
「…ファーレーンさん、引く気はありませんか?」 
「ありませんよ、何故そんなことを聞くんです?」 
「貴方は星火燎原の太刀を使えないはずです。ならば私の勝ちです。」 
「なるほど。そんな理由ですか」 
「ええ、ですから…」 
引いてください、といおうしたヘリオンが間合いをあけた。ファーレーンが構えたのだ。 
構えたまま、ファーレーンが言う。 
「たしかに私では星火燎原の太刀を使いこなせません。『月光』は強い剣技ほど力を使いますから、この太刀は連続しては使えません。 
ですが、私と貴方との1対1の勝負なら勝敗は一合で決します。ならば最高の技を使うのが道理。違いますか?」 
「・・・そうですね、確かにその通りです。申し訳ありません」 
「構いません、それでは」 
「はい!」 
「「星火!!」」 
「「燎原の太刀!!」」 
二つの刃が奔った。
空には月が出始めていた。 
今は全員で夕食をとっていた。だがその様子は昼食のときとは違いやけに静かだった。 
食器とナイフ、フォークがあたる音だけが響く 
結局争奪戦の勝者は決まらなかった。 
最後に残ったヘリオンとファーレーンとの勝負は引き分けだったのだ。 
そのため、結局悠人がどの部屋で寝るかを決めることになった。 
静なのはユートが誰の部屋を選ぶのか気が気でなかったからであった。 
「それで、ユート様は結局どこで寝るのー?」 
静寂を破ったのはネリーだった。 
「んー、やっぱり誰かの部屋で寝なきゃいけないのかな?」 
悠人の言動一つごとにハリオン以外の全員が一瞬動きを止める 
「なあ、ハリオン他に部屋はないのか?」 
「そうですね~、それじゃあ、客間に寝床を準備をしますから、ユートさまは汗を流してきてください~」 
ハリオンは意外とすんなりと答えた。一気に空気が重くなる。 
「そうか。それじゃ、ご馳走様。さて、お風呂お風呂、と」 
悠人が浴場に向かったことを確認して、ハリオンは沈んでいる皆に言った。 
「さて、みなさん、客間に行きますよ~」 
「「「「「「「???」」」」」」」 
「ふぅ~、いいお湯だった。あれ、みんなはもう寝たのかな。」 
食堂でお茶を頼もうかと思ったがそこには誰もいなかった。 
「まあ、水でいいか。………ふぅ、んじゃ俺も寝るかな」 
悠人は客間に向かった 
「…やけにでかいベッドだな」 
部屋の中央にどこぞのお姫様が使っていそうな巨大なベッドが一つ。客間にあったベッドは本当に大きかった。 
一瞬、ここは本当にスピリットの詰め所なんだろうか、と疑ってしまった。 
「なんか一人用のベッドに思えないんだけど………まさかね、考えすぎだろ」 
なにやら作為的なものをひしひしと感じたが、それ以上に眠気が強かったため深く考えずに寝ることにした。 
(おい、バカ剣、今夜は寝るの邪魔するなよ?) 
(・・・・・・・・・・・・・・・) 
(おい) 
(我は、邪魔はしない) 
(・・・・・・頼むぞ、マジで) 
そして悠人はベッドにもぐり、眠りについた。 
(我は、な) 
悠人はその『求め』のつぶやきを聞くことはなかった。 
ゴソゴソ…ガサガサ…バタンっ…パカッ…ごちんっ 
「あうっ」 
「しぃー」 
「(こくこく)」 
ズズッ…ズズズ… 
ベッドの下、クローゼットの中、天井裏、…それぞれから出てきた7つの黒い影 
「みんないい?静かにユート様に飛びつくのよ。、起こさないようにね」 
「うん!『天使のように繊細に、悪魔のように大胆に』だね!」 
「は~、ユート様の寝顔かわいいです~」 
「フフフ、覚悟しなさい、ユート(ぺきぺき)…」 
「…とにかく、いくわよ!」 
「ん?なんだ…ぐふぅぁ!んぶっ!?やめっ、ちょ、く、ぐるじ……(ガクリ)」 
そして夜は更けていく… 
翌朝… 
ネリー:「ん~、おトイレ~」 
シアー:「レ~」 
「…」 
ファーレーン:「んっ…もう、朝なんですね。ユート様の体暖かかった…(照)ほら、ニム、おきて」 
ニム:「ん~~~、まだ寝る…」 
ファ:「そんな事いわないの、ほら」 
ニム:「わかったよー」 
「…」 
ヒミカ:「え、もうこんな時間!?迂闊、寝すぎたわ…。でも、たまにはいいかな。ほら、ナナルゥ…ふふっ、そっとしておこ」 
「…」 
ヘリオン:「はうっ、寝過ごしました!早く食堂に行かないと!」 
「…」 
ナナルゥ:「・・・・・・・・・・・・(むくっ)」 
「…」 
ナナルゥ:「・・・・・・・・・・・・(ゆさゆさ)ユート様?」 
「…………」 
ナナルゥとセリアを除く第二も面々は朝食をとっている。 
ヒミカ:「ナナルゥはまだ寝てるのかしら?」 
ヘリオン:「そうみたいです、私が起きたときもまだ寝ていましたから」 
ナナルゥ:「・・・・・・・・・あの」 
ヒミカ:「あ、ナナルゥおはよう。席についてご飯食べなさ…どうしたの?なにかあった?」 
ナナルゥ:「・・・・・・・・・おはようございます。ユート様が白目むいてます」 
「「「「「「え゛」」」」」」 
ハリオン:「あらあら~」