「最近ユート殿が遅刻気味でのう・・・」
「え・・・あっ!す、すみません、わたくしが至らないばっかりに・・・」
「ああ、いやいや、エスペリア殿が頭を下げることはない。すまん、愚痴になってしもうたかの。」
「いえ、そんな・・・」
「さて、ワシはそろそろ指南に戻るかな・・・よっこいせ。お茶、ごちそうさん。」
「あ、はい、行ってらっしゃいませ、ガンダリオン様。宜しくお願い致します。」
ペコリ、と頭を下げて、エスペリアはガンダリオンを見送った。
「・・・・・・はぁ。」
テーブルの上のカップを片付けながら、エスペリアはそっと溜息をついた。
さっきの話--最近悠人が訓練の集合時間によく遅れるというのだ--を思い出して憂鬱になる。
エスペリアには原因に思い当たる事があった。ガンダリオンには言いそびれたが、
この頃悠人の寝坊癖が激しくなっているのだ。
「やっぱりわたくしが悪いのかしら・・・」
もっとも、エスペリアは以前と変わらずちゃんと定時に起こしに行ってはいる。
ただ、元々寝起きが壊滅的に良くない悠人はエスペリアの起こし方にも免疫が付いたのか、
最近はなかなかすんなりとは起きてくれないのだ。
「どうしたらいいのかしら・・・もっとこう、積極的にえぃって感じで・・・それともいっそ一緒に・・・
そ、そんな・・・そんな事、わたくしにはとても出来ません・・・・・・あ・・・」
1人で赤くなって悶えていたエスペリアがふと思いついた。
「そうだわ・・・。みんなの起こし方をこっそり見せてもらって参考にさせて頂くのがいいかも。」
で。
「という訳で、みなさん順番にユート様を起こして差し上げて下さい。」
「「「「えーーーーーーーーーーーーー(一部♪)」」」」
悠人「・・・いや、なにが「という訳で」なんだ、エスペリア・・・」悠人の呟きはその場の全員に黙殺された。
~ネリー・シアー・ヘリオン・オルファリルの場合~
ヘ「おじゃましま~す・・・ユート様、まだ寝てらっしゃいますか~・・・」
ネ「お~いユート様~!訓練の時間だよ~お~き~ろ~!!」
シ「オ~キ~ロ~~~」
オ「パパ~!起っこしに来たよ~!!」(バフッ)
ヘ「わわ、みなさん何してるんですか~~っ。大声出したらダメですよ~~。」
ネ「えーーっ!だって起こすんでしょーー!大声出さなきゃダメじゃん、ねーー?」
シ「ねーーーっ」
ヘ「そ、そんな事言ってもいきなりじゃ心の準備が・・・///(何か想像してる)
ってオルファさ~ん、そろそろ降りて上げないとなんかユート様苦しそうですよ~っ。」
オ「へ?あ、あはは~~。パパったら白目剥いて、かっわいい~~♪」
ネ「ねえねえシアー、これ、なにかな~?」
シ「なになに?何だろ。」つんつん。(ピクッ)「あっ動いた、面白~い!」つんつん。(ピクピク・・・ムクッ)
ヘ「し、白目って、それって気絶してるんじゃ・・・って、え?え?」
オ「あ、それはね~、パパにだけ付いてるんだよ~。前にオルファ、お風呂で見たんだ~。
・・・ん~でもこれってなにか、パパ教えてくれないんだ~。」つんつんつんつん。
ヘ「あ・・・あ・・・あ・・・」///
ネ「ん?ヘリオンちゃん、どうしたの?」
シ「たの~~?」
ヘ「い・・・」
オ「イ?イっていうの?これ。」つんつん。(ムクムクムクムク)「わぁ・・・すっっごくおっきいよ、これ♪」
ヘ「いやーー!!!!!ユート様のエッチーーーーーー♪♪♪♪」(ダダダダダダ・・・バタン!)
ネ「あっ!待ってよ、ヘリオンちゃーん!そっかわかった!競走だねっ!ネリー負けないよ!」(ダッ)
シ「シ、シアーもまけないもーーん・・・・」(タタタタタタ・・・)
オ「ほらほらこんなに・・・って誰も居ないね・・・。まいっか、オルファも訓練しに行こっと。
パパも早く起きないとエスペリアお姉ちゃんに怒られちゃうよ!じゃねっ!!」ぱたぱたぱた・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・だめじゃん
~セリア・ヒミカ・ナナルゥ・アセリアの場合~
ヒ「ユート様、失礼致します。」
ナ「・・・・・・失礼致します。」
セ「シツレイイタシマス。」
ヒ「(溜息)セリア、貴女ねぇ。そんなに嫌なら無理して来なくてもいいのよ。」
セ「・・・・・・任務だし、仕方ないでしょ。実際彼が来ないと訓練にも支障が出るし。」
ぷいっと横を向いてしまうセリア。しかしかすかに頬が染まっているのをヒミカは見逃さない。
ヒ「(クスッ)まぁいいけど。で、どうやってユート様を起こしましょうか。ナナルゥ、なんか意見ある?」
ナ「・・・先制攻撃。」
ヒ「それは戦いでの話しでしょうが・・・って貴女、また神剣に飲まれてるんじゃぁ・・・!」
ナ「・・・大丈夫。最近は干渉が弱まっているから。それよりあれ。」
ナナルゥが指差す先ではいつの間にか部屋にいたアセリアが悠人を揺り越そうとしていた。
ア「ユート、起きる。エスペリアが時間だと言っている、ユート。」(ユサユサ)
セ「アセリア、そんな事で起きるならエスペリアさんも苦労してないんじゃ?」
ヒ「う~ん、なにか危険じゃない方法ですっきり目覚める方法がないかしら・・・」
悠「・・・・・・だからなんで・・・・・・」
全「??????」
腕組をして考え込んでしまった全員に突然悠人の呟きが聞こえてくる。
ア「ん?なにか言ったか、ユート。」
悠「だからなんでみんな俺がいるのに平気で入ってくるんだ・・・」
全「!!!!!」
どうやら風呂の一件でうなされている様だがそんなことはこの場の全員が知る由も無く、
生真面目なヒミカあたりは寝ぼけた悠人に早速頭を下げていた。
ヒ「も、申し訳ありません!失礼とは思いましたが、最近ユート様の寝起きが良くないとの事なので・・・」
セ「だ、だってしょうがないでしょう!なによ、せっかく人が起こしに来てあげたっていうのに・・・」
ナ「・・・・・・反省してます(ボソッ)」
ア「ユートは私が部屋に入るの、迷惑なのか・・・?」
謝ったりすねたりしょんぼりしたり訊ねたりする4人。しかし悠人の寝言は既に別のステージに移行していた。
悠「・・・うう~んすまん佳織、あれはセクハラだった・・・・・・」
ピキッ
場が凍りついたのは一瞬だった。たちまちあたりに怒りのオーラが満ちていく。
意味は解らなくてもそこは女の勘の恐ろしさ、言葉のどこかに不穏なものを感じたらしい。
いきなりヒミカとナナルゥが呪文の詠唱に入る。
ヒ「マナよ、力となれ、敵の元へ進み・・・」
ナ「マナよ、怒りの炎となれ・・・」
ヒ「インシネレート!!!」
ナ「アポカリプス(Ⅱ)!!」
何気に力をセーブしているヒミカに比べて自分でもよく解らない怒りに身を任せているナナルゥ。
ア「マナよ、凍てつく風を呼べ、・・・」
セ「手加減はしません、最強の技で葬り去るのみ。」
ア「サイレントフィールド!」
セ「いやぁーーーーーっ!!!」ペンペンペンペン!!!!
そしてアセリアが威力をサポートしたセリアの容赦ない平手打ちが規定攻撃回数分続いた。
黒こげになって寝て(?)いる悠人にはそれをかわせる訳もなかった。
「「「「・・・・・・・・・バカーーーッッッ!!!!」」」」 (ズンズンズンズン・・・・・・バタン!!)
・・・・・・合掌(藁)
~ファーレーン・ニムントール・ハリオン・ウルカの場合~
ウ「ユート殿、入ります。」
フ「失礼します。ユート様、おはようございます。」
ハ「お~は~よ~う~ご~ざ~い~ま・・・」
ニ「ね~お姉ちゃ~ん、いいからユートなんて放っとこうよ~・・・」
フ「こらニム、なんてこと言うの、ユート様に失礼でしょ?」
ニ「だって~。なんでニムやお姉ちゃんがこんなことしなきゃなんないの~・・・めんどくさい・・・」
フ「これはお仕事なんだから、ちゃんとしなさい。もぅ、しょうがないんだから・・・」
ウ「まぁまぁファーレーン殿。ここは手前1人でも充分間に合いますので。
もし宜しければニム殿と先に訓練に行かれては・・・」
フ「いえ、大丈夫です。(キッパリ)」
ウ「・・・・・・は?」
フ「い、いえ、なんでもないです(汗)。お気遣いなく。任務ですから(汗汗)」
ニ「(ジトーー)・・・・・・これだから目が離せないのよね・・・」
フ「なにか言った?ニム。」(ギロッ)
ニ「ううん、何も。もういいからさっさとユートを起こしちゃおうよ、お姉ちゃん。」
フ「もう、またこの子はユート様を呼び捨てで・・・まぁいいわ。ユート様、そろそろ・・・」
そう悠人に呼びかけようとしたファーレーンの動きがベッドの方を振り返って停止した。
フ「・・・あ・・・あ・・・」
ハ「すーーーーーすーーーーーすーーーーーーーーーーー」
そこでは起こしに来たはずのハリオンが悠人と一緒に寝息を立てていた。
もちろん同じベッドで。御丁寧に和みのオーラが二人を包んでいる。
ハ「すーーーーーすーーーーーすーーーーーー」(キラキラキラキラ)
ウ・フ・ニ「・・・・・・・・・・・・」
悠「う、う~ん・・・(ガバッ)(スリスリスリ)」
ハ「あん♪だ~め~で~す~よ~、も~う。むにゃむにゃ・・・」
ウ・フ・ニ「!!!!!!!!!!」
何と勘違いしたのか、ヘリオンのふくよかな胸に顔を埋めだす悠人と幸せそうに悠人の頭を抱え出すハリオン。
それをプルプルと凝視していたファーレーンからなにかが切れる音がした。
ニ「え?なにかいった、お姉ちゃん?」
フ「・・・・・・私もする。」
ニ「は?」
フ「私もする!私もユート様と寝る!!寝るんだもん!!!寝るんだもん!!!!」
ニ「ちょ、ちょっとお姉ちゃん?何言って・・・」
フ「ヤダもん!!私もすりすりしてもらう!!だってハリオンだけなんてズルいズルいぃ!!!
わたしだってわたしだって・・・」じたばた。
ウ「ま、待て、ファーレーン殿、冷静に。二人とも起こせば済む事・・・」
ニ「わ、お姉ちゃん、ちょっと!」
完全に錯乱しているファーレーンをウルカとニムントールが懸命に抑える。
しかし暴走か日頃溜まったストレスかそれともこれが地なのか、激しく幼児化したファーレーンは
二人を引きづったままベッドににじり寄っていった。
ニ「・・・しょうがない、お姉ちゃん、ゴメンね!」
そういって咄嗟に呪文の詠唱を始めるニムントール。気付いたウルカが制止しようとするが、間に合わない。
ウ「な、待て、ニムントール殿、今それを使われては・・・」
ニ「ハーベストーーー(Ⅳ)!!!」
(キラキラキラキラキラキラキラキラ・・・)
・・・・・・・・・
・・・・・・
フ「・・・・・・あ、あれ?私何を・・・ってニム?なんでしがみ付いてるの?」
ニ「・・・お姉ちゃん、落ち着いた?」
フ「え?なに?どうしたの、えっと?」
ニ「全く、しょうがないんだから・・・めんどくさい。」
そういいながら薄っすらと涙目のニムントールとよく解らないままでも妹の頭を撫でて慰めるファーレーン。
一見微笑ましい光景を横目にしながらウルカは小さく溜息を付いていた。
ウ「これでしばらくユート殿の目が覚める事はないでしょう・・・」
そう呟いてちらっとベッドの方を見る。
ハ「すやすやすや・・・」
悠「ぐーぐー・・・・・・」
そこにはニムントールの全体癒し魔法をもろに受けて爆睡している二人がいた。
ウ「・・・・・・・・・・・・・・はぁ。」
ちゃんちゃん。
その頃。
「・・・・・・・・・」
エスペリアは第一詰め所でひとり頭を抱えていた。
「・・・・・・だれも来んのぅ・・・・・・」
ガンダリオンは訓練場でひとり黄昏ていた。