ネリーの不満

「ねぇネリー、やっぱりやめようよー」
「だめっ、今日という今日は言ってやるんだから」
 第二詰め所廊下に響く、青い髪の二人の少女の話し声。
「だってずるいよっ。私たちにはユート様と馴れ馴れしくするなとか、同じだと思う
なとか言うくせに、自分が一番仲良くしてるじゃないっ」
「そ、それはぁそうだけどぉ」
 憤るネリー、消極的ながら同意するシアー。いつものパターンだ。
 ずかずか突き進むネリーの後をおろおろしながらシアーが追う。そこへ右手のドア
が開き、ハリオンが顔を出す。
「あらあら、どうしたんですかぁ。なんだか怒りんぼのようですけどぉ」
 いつもの、間延びした声でネリーとシアーに声をかけた。
「ハリオンッ、ねぇー聞いてよ。今日の訓練の時にねユート様とちょっと休憩してた
らね、すごく怒られたんだよ。ちょっと疲れたからお話ししてだだけなのにさ、まじ
めにやれとか、ユート様と遊ぶなとかラキオスのスピリットとしての心構えだとかた
まには魔法も練習しろとか人間に反抗するなとかユート様は私たちと違うんだから常
にスピリットとしてユート様に仕えろとかシアーも同じ事言われたんだよ」
 長セリフものほほんと受け流すように、ハリオンはニコニコしたままおもむろに口
を開く。

「あらあら、大変ですねぇ。エスペリアさんも使命感が強いですから、しょうがない
と思いますよぉ」
「えーだってぇ、そのあとでエスペリアとユート様で街に買い物に行ったんだよっ。
ずるいずるいっ。シアーだってそう思うよね」
「え、う、うん」
 突然話を振られて、つっかえながら答えを返すシアー。実のところ、シアーもネリー
と同意見ではあるのだが、不満を口に出すエネルギーはないのが実情だ。
「だってエスペリアって、私たちに色々言うくせに、一番ユート様と仲良くしてるん
だよ。自分だけ仲良くするなんてずるいよ。ハリオンもそう思うでしょ」
「そうですねぇ。大体は同意しますけど、ユート様もエスペリアさんが一番話しやすい
でしょうし、何よりエスペリアさんはユート様の副官ですからねぇ。あ、ほら、知って
ますか?ユート様がこの世界、えー、えー何でしたっけファ、ファ」
「ファンタズマゴリア?」
 シアーが助け船を出す。
「そうそれです。ファンタズマゴリアに現れてから、ユート様はずっと寝たきりだったんで
すよ。それをずっとお世話してたのはエスペリアさんですから。知ってましたかぁ?」
「うん、聞いたことはあったよ」
 シアーも横で肯首する。
「エスペリアさんにとってはですね、ユートさまは手の掛かる弟のような感じだと思
いますよ。だから少しだけ独占欲みたいなものがあるのかもしれませんね」
「んーだったらネリーもユートさまのお世話する。朝も昼も夜もっ!」
 力説するネリーと、顔を赤らめるシアー。
「ネ、ネリー夜はちょっと……」
「え?だって夜もユートさまをお世話して遊べるんだよ。一日楽しいまんまだよ。シ
アーも一緒にやろーね」
「えっえ?ちょ」
「あらあら、走って行っちゃいましたよ。どんな騒動が起きますかねぇ~」
 くすくす笑うハリオンは、真っ青に晴れ上がった空を廊下の窓越しに見上げながら、お洗濯
と第一詰め所に見学に行くのと、どちらが良いでしょう、と楽しげに思案するのだった――――