ユート様がみんなへ自由研究という課題を出されたので、私は日記を書こうと思う。
提出はいつなのかまだ決まっていないらしい。二ムに何をするのか聞いてみたら、
「……はぁ、面倒」なんて言っていた。姉としては、この機会に料理を勉強して欲しい
と思う。セリアとかハリオンなら快く教えてくれるだろうし。そういえば、ユート様の
妹であるカオリ様も料理が得意なのだとオルファが言っていた。ニムもカオリ様のよ
うに食べることだけじゃなく、作ることにも興味を持って欲しいと思う。
――――(中略)――――
訓練が一段落した休憩中に、ユート様がヨフアルと呼ばれるお菓子を差し入れてくれた。
何故かユート様はワッフルとよんでいたけれど。初めて見るお菓子だったので、期待半分
不安半分で食べようと思ったら、ニムがヨフアルを落として砂まみれにしてしまっていた。
ニムは親の仇(ユート様は最大級の怒りの表現だと説明してくれた)のようにユート様を
睨んでいて完全に八つ当たりだったけれど、その心中がなんとなく理解出来たので、私の
ヨフアルをニムにあげることにした。訓練が終わってからユート様が、
「ファレーン、すまなかった。少し多めに買っておけばよかったな」
と言ってくれたので、嬉しかった。ヨフアルは本当に美味しかったらしい。食べたかったなぁ。
エスペリアが料理を作りに来た。何でも第一詰め所では、アセリアが再び料理に
挑戦するらしく、自分ひとりに任せてくれ、と言われたそうだ。そんなわけで、
既に買ってしまった食材を無駄にしないように第二詰め所で作るのだと言う。エスペリアの
料理は美味しいので、アセリアに感謝しておこうと思う。何気に、ニムが一番喜んでいた。
――――(中略)――――
ユート様がヨフアルの差し入れに来たのだと言う。伝聞形なのは、ニムから教えて
貰ったからで、つまり、私はヨフアルを食べていない。というのも、その時私はバーンライト王国
の警備にあたっていたから。私の分を残しておいてくれれば良いのに、ニムが二個食べたので、
もちろん残っていない。溜息をついたときに、ふとユート様が言った、
「少し多めに買っておけばよかったな」
というのを思い出して、ニムを問い詰めると四個食べたと白状した。ネリーとシアーも三個
食べたそうで、なんか泣きたくなった。
「――――というわけで、この日記を読む限り、お姉ちゃんはヨフアルが食べたくて食べたくて
仕方なかった。という結論に達しました」
ニムが言った。
「しつこく、しつこく、しつこーく、私が食い意地を張ってるって非難しているけれど。
実際に食い意地を張ってるのはお姉ちゃんでしょう?」
「食い意地を張っているって?」
聞き捨てなら無い言葉を聞いてファーレーンは声を上げた。
「そう。だって、私がヨフアル落としてユウトに八つ当たりしたのは事実だけど、
お姉ちゃんは自主的に私にあげたのに、未練がましく日記に書いてるし」
はぁ、お姉ちゃんひねくれてる、とニムが溜息をつく。
「ひねくれてる?」
ファーレーンは日記を勝手に読んだニムを怒る様子もない。そもそも、日記のような
私物でも、姉妹のような関係である二人には見られて当然の品物だった。
「そんなわけで、お姉ちゃんは頑張ってヨフアルを買ってきて」
当然の話題の変換にファーレーンは、目を瞬いた。自信満々のニムに何故か後ろめたくなり
「え、ええ」
なんか、まるめこめられた気がしないでもない。――というか、かなりする。
「あ、ネリーとシアーも食べるって言ってたから、十個くらい買ってね」
嬉しそうに笑うニムを尻目に。
ファーレーンは、ヨフアルを買うために列に並び、溜息をついた。