運動着

 事の発端は、ネリーが我々の世界の服について尋ねた事。
 俺達は制服で戦っているが、これは自分たちの住んでいた世界と今の自分達とを繋ぐものとしての意味合いが大きく、本来制服は激しい動作をする為の服ではない。
 それで運動着について光陰がネリーとシアーに説明していた。
 そして案の定、話はズレてきた。
「ユート様の世界の『ぶるま』って、動きやすいの? それで戦うと戦いやすい?」
「うんうん。良いかも知れないな」
 にやけた光陰の脳裏には、ブルマ姿で戦うラキオススピリット隊の姿が浮かんでいるに違いない。
「そうは思わないか、悠人。みんなに運動着にブルマで戦ってもらえば俺達のやる気も10割増しだよな?」
「俺に振るな。つか、どう考えてもそれはやばいだろ」
「何を言う!! さあさあ、想像してみるんだ、悠人!! ネリーちゃんが!! シアーちゃんが!! ヘリオンちゃんが!! オルファちゃんがブルマ姿で戦う姿を!!」
「……戦いの緊張感が微塵も感じられないぞ。命を賭ける戦場が、運動会のグラウンドになっちまう」
「か~っ!! 全くお前という奴は。いいか、そもそもブルマというのはだな……」
 ノリにのっている光陰の後ろから、地獄の底から響くような今日子の声が聞こえてきた。
「光~陰~」
「ぎくうっ!!」
「ぎくうっ、とか口で言うな!! この変態!! 天誅!!」
 ズドーン!! バリバリバリ!!
「ギャ━━━━━━(;;゚口゚;;)━━━━━━!!」

 やれやれといった感じで今日子がため息をつく。
「はぁ~。全く、ブルマなんてあんたみたいな変態のせいでもう無くなりかけてるでしょ。私達の学園だってスパッツじゃないの」
「すぱっつって何?」
 ネリーが今日子に尋ねる。シアーもそれに習う。
 二人が来た初めの頃は、光陰が焦げる度に少しは気にかけていたのだが、今ではもう完全スルーだ。
「あー、スパッツって言うのはね、私が履いてるみたいな……」
 今日子がスピリットの皆にスパッツの説明を始めたのを見て、ぷすぷすと煙を出しながらも、光陰は不敵に笑った。
「ふっふっふ、狙い通りだ」
「何笑ってるんだよ、光陰。ブルマ計画が失敗したんじゃないのか?」
「甘いな、悠人。ブルマはおとりだ」
「おとり?」
「その通り。俺はブルマが好きな事に間違いは無いが、今日子がいる以上みんなにブルマを履いてもらうのが無理な事くらい俺だって承知している」
「ほぅ」
「でだ。俺はブルマも好きだが、スパッツも好きなのだ」
「……」
「世の人間は皆ブルマが良かったと言い過去を懐かしんでばかりだが、スパッツも捨てたもんじゃない。
 腰とかお尻の形がよく解るし、何よりもあの真ん中にスジがあるところなんか最高じゃないか!! そうは思わないか、悠人?」
 こぶしを握り締め、語っていた光陰が顔を上げると、そこには今日子の引きつった笑顔。
「あんた、そういう目でスパッツを見てたんだ……#」
「いや、それは!!」
「言い訳無用!! 天誅!!」
 ズドーン、バリバリバリ!!
「ギャ━━━━━━(;;゚口゚;;)━━━━━━!!」
 焦げた光陰を見ながら悠人は光陰とは別の方向の事を考えていた。
 ハリオンがきつきつの運動着を着てたらそれこそ戦いどころじゃないだろ、と。