それは、ニムの「あ、ヤバ」と言うセリフから始まった事だった。
「おー、ふむふむふむ~これは興味深い。興味深いぞ~。これが食マナ鬼か。文献でしか読ん
だこと無かった、非常にまれな現象をこの目で見れるとは、眼福眼福ぅ」
ニヤニヤしながら部屋に入ってくるヨーティア。明らかに分かってやっている。
「ヨーティア……楽しんでるだろ。冗談じゃないぞ、早く何とかしてくれっ!」
「いや~はっはっは。なんだ理性の限界かぁ、ん~?」
「ふざけないでくれ、まじでさ」
正直、ヤバイ。情けない顔でヨーティアに頼み込むしかない。
なんたって、いまの俺の状態は……
椅子に座った俺。その左太股にネリーが跨って、俺の首っ玉にすがりつき密着し、首筋に舌
をはわせている状態。冗談抜きで、俺の両手は今にもネリーの背中に廻ってしまいそうだ。
ンハァ、ハァハァ。
ネリーの吐息がやけに大きく聞こえる。耳に近いんだから当然だ。
「まぁ、心配するな。ネリーも腹がふくれれば、元に戻るさ。それまでの辛抱だ。ま、そのあ
とのユートの運命までは関知しないがな」
全てはニムの蘇生魔法の失敗からだった。呪文をとちった為にマナの収束がうまくいかず、
ネリーは体組織のマナが希薄なまま生き返ってしまったのだ。そのため極度の飢餓感に襲われ
いきなり俺の首筋にかじりついてきたってわけだ。その場にいた中で、俺が一番マナが強いか
らだとはヨーティアの弁だが、ネリーが生きるか死ぬかって場面だったのが、違う意味で凍り
付いてしまい、今度は俺が命の危険にさらされている…………。今は皆静観しているけど……。
いや、だからこそ俺の両手はネリーを掴むわけにはいかないんだ。俺は気力を奮い起こし、
揺るがぬ理性を保ち続けなくてはいけないんだっ!
「ンン、ユートさまぁ、はぁちゅっちゅっ」
も、保つのかっ?
首筋の小さな傷。そこから立ち上る金色のマナ。ネリーの小さな赤い舌がちろちろと蠢き、血
ともマナとも分からぬものを一心不乱に掬い上げる。
「せ、せめて、ネリー体くっつけるのやめてくれないか」
無駄だと分かっていながらも俺は云うことしかできない。
「ユートさまぁだめだよ、ハァちゅっ。この距離はネリーの間合いなんだからぁ」
…………俺頑張れ。