ある爽やかな朝の事。
何気なく第二詰め所を訪れた悠人を待ち受けていたのはただの悪夢だった。
「おはようっ! お兄ちゃん♪」
「お、おはよう……お、お兄ちゃま…………」
ガタッ!
今開けて入ってきたばかりのドアに勢い良く背中をぶつけてしまった。
自分の耳を疑うセリフが聞こえたような。よく判らないが、例えようの無い不安を感じる。
「ネ、ネリー、シアー……。お、お前ら一体……?」
「もーっ!朝の挨拶はおはようだよっ、おにいたまっ!」
「ぐふっ!」
最後まで言わせてももらえずに、オルファリルの体当たりを喰らってしまう。
色々な意味で悶絶した。っていうか、訳がわからない。
混乱した視界にたまたま?通りかかったファーレーン、ニムントール姉妹が
「あら、兄上様、おはようございます。……どうかしたのですか?なんだかお顔が……」
「アニキ、そんなとこで何やってるのよ、もう。」
「………………えっと…………」
たらたらと背中に冷たい汗が流れるのは決して腹部の鈍痛のせいではないだろう。
正直ニムントールにアニキ呼ばわりされるのがこんなに気味が悪いとは思わなかった。
「あらあら~。なにか失礼な事を考えていますか~、兄(にい)や~。」
「うわっ!ハリオン、何時の間にっ!」
びっくりした。慌てて横を見ると、にこにこ顔のハリオン…………と、ヘリオン。
「あっ!あのっ!」
「は、はい?!」
反射的に返事をしてしまう。
するとみるみるうちに真っ赤になったヘリオンが、殺人的な一言を放った。
「兄チャマ、ヘリオンのこと、応援して下さいねっ♪」
「………………」
きゃーーっ!と悲鳴を上げつつ駆け去ってしまうヘリオン。
ドキドキしながら悠人は心の中でそっと突っ込んでいた。
――――ヘリオン、それは版権的に大丈夫なのか……?
で、なんなんだ、コレは?
それはそれとして、とりあえず頭痛を感じた。こめかみに人差し指を当てながら懸命に考え
ばたんっ!
いきなりドアが開いた。咄嗟の事で対応出来なかった悠人はそのまま床に。
更に入ってきた人物が容赦なく踏んずける。痛いって。
「おじゃまし…………きゃっ!兄上様、ど、どうしてそんな所に!すみませんっ!」
「にいさま、じゃま。」
「………………」
アセリアに踏んずけられて動けないまま、悠人はふたたび心の中で突っ込まざるを得なかった。
――――エスペリア、お前は年上だろうが………………
嗚咽に浸って現実逃避しようとする悠人に、しかし容赦なく声がかかる。
「あら?あにぃ、いらっしゃい。久し振りですね。」
「…………兄(あに)くん。なんで寝ているのですか?」
ヒミカ、お前もか…… 何処かで聞いたセリフが思い出される。
っていうか、ヒミカ、違和感バリバリだ。
それにナナルゥ、お前は何故頬を染めている?
もはや突っ込みどころが判らなくなってきたが、とりあえず。
「お 前 ら 何 の つ も り だ ?」
悠人は絶叫していた。
「え~?だってコーインが言ってたんだよ、ユートは『妹』が好きだって~!」
「そうそう。それで、カオリさまが『お兄ちゃん』だから、皆はそれぞれ別の呼び方にすればいいって♪」
「…………またあいつか……どうしてあいつは俺の安寧をかき乱すのが好きなんだ…………」
脳裏に浮かんだ光陰はいかにも邪悪そうな微笑をたたえていた。
また酷くなった気がする頭痛ごと頭を抱える。
「それで、皆で決めたのです。兄君様の『妹』になろうと。」
「……いや、多分それ、説明不足だと思う…………わざとだろうけど。」
いつの間にか横にいたウルカにもはや突っ込む気力もない悠人は力無く答える。
すると二階からなにやらどたどたと駆け下りてくる足音。
それは部屋のドアを勢い良く開けて飛び込んできた。
「騒がしいわね!いったい何?!…………あ、あ、あ…………」
セリアは悠人の姿を確認したとたん、口をパクパクさせて動かなくなった。
やがて顔を真っ赤にしたかと思うともじもじし始める。普段は決して見れない仕草だった。
皆の注目の中、やがて意を決した様に顔を上げる。
「どうした?セリア。」
「あ、あ、ア…………」
「ア?」
「アンちゃんっ!」
「セリア、それゲーム違う。」
悠人は神速で突っ込んでいた。
―――終わる。