とある運動会の1コマ

悠人との二人三脚に向けて熾烈な争い(くじ引き)。
引き当てたはいいけれど、ヘリオンは一歩ごとに転んでしまう……

 転んだ時に色々と怪しい体勢になってしまっているのを少しだけ惜しみながら、
慌てて起き上がりつつヘリオンは小さく頭を下げた。
「うぅ、すみません。わたし、ちっちゃいから歩幅が合わないんですね……」
 ヘリオンの場合は体格がどうこうと言う以前に、肩と腕が触れ合ったり太ももが擦れあったりするだけで
スタートを切る前から心臓だけが大爆走を始めている状態だったのが原因なんじゃないかと思いながらも、
自分まで必要以上に意識する訳にもいかないと悠人は言葉を飲み込んだ。
 ともすればヘリオンの細い肩や、滑らかな足の感触に心を奪われそうになるのは悠人も同じなのだから。
 解けかけた二人の足をくくる紐を直して、悠人も立ち上がって呟く。
「だめだ、このままじゃビリになっちまう。ん、ちっちゃい……?よし、これだ!」
 慣れない競技に悠人たちほどでは無いものの前方でのたくたとてこずっている面々を後ろから見据え、
一つ頷くと悠人はおもむろにヘリオンの腰に手を伸ばし、力強く抱え込んだ。
「きゃぁ、あ、あの、ユートさま一体何を」
 先ほどよりも確かな密着感に動揺、あるいは興奮してしまうのもつかの間、そのまま悠人は駆け出していく。
「ひゃああっ、ゆ、ユートさまぁっわた、わたし浮いてますっ、地面に足がついてませんよぅっ」
「いいから、そのまましっかり捕まって走ってるフリをしてろって。ゴールしちまえばこっちのもんだ!」
 そう言われて、ヘリオンは驚いた拍子に、振り落とされないように相手の身体にきつく腕を回しているのに気が付いた。
まるで自分の身体を押し付けるようにくっついているのを自覚し、どんどん頭に血が上ってしまう。

 真っ赤な顔でしゃにむに地面から離れた所で足を空回りさせるヘリオンを抱えて、悠人はそのまま、
同じく体格差でペースが合わないエスペリア、オルファペアを抜き、
急ぎがちなネリーとそれに未だ合わせられないシアーのペアを抜き、
横に並ぶと差がはっきりと出てしまう、ハリオンとヒミカの(いろんな所が)凸凹コンビを抜き、
ついにえっちらおっちら一度も転ばずに先頭を進んでいるファーレーン、ニムントールペアを捉え、
その異常なまでのスピードのまま抜きさって、今一着でゴールイン!
……
…………
………………
『大会実行委員長、レスティーナ・ダイ・ラキオスによる、審査結果の発表です。
ただいまの競技にてエトランジェ・ユート、ヘリオン・ブラックスピリットペアの
不正が発覚しました。大会実行委員会審判部イオ・ホワイトスピリット、ヨーティア・リカリオン
両名による観測と審査の結果、当該ペアは失格。繰上げにより、
二位のファーレン・ブラックスピリット、ニムントール・グリーンスピリットペアが一位となります』

 実行委員会特別テラスにて。
「ついカッとなってやった。悪気は無かった。今は反省しているが金メダルは返さない」
「なに訳のわからんことを言ってるんだボンクラ、ばれない方がおかしいぞ。それにこっちはこっちで」
 呆れて溜め息をついたヨーティアが悠人を睨んでいた目を逸らし、ヘリオンに視線を向けると、
イオに注意を受けながらも、ぽーっと顔を上気させたままふらふらとしてうわ言のように呟いているのが映る。
「ふわぁ……がしっと、それからぎゅぅーって……」
「まだ地に足がついていないようですね」

 一位の表彰台にて。
「ユート様とあんなにくっついて……羨ましくなんて、羨ましくなんてっ」
「試合に勝って勝負に負けたってことね、お姉ちゃん」