ビョオオオオ―――ッ
リクディウス下ろしの強烈な北風の中、制服をたなびかせる三人のエトランジェが並んで立っていた。 
スピリットとではハンデがありすぎるというレスティーナの言により、 
エトランジェ対抗の競技が始まろうとしていた。 
「悠人よ、手加減は抜きだぜ。一度お前とは全力で戦いたいと思ってたんだ。」光陰が不敵に笑みを浮かべる。 
「ぬかせ、光陰。今の俺なら、剣の力を全て引き出せる!」 
「あたしは女の子なんだから、そこんとこ考えてね、二人とも。」 
今日子が慣れないウィンクをして見せる。 
「「こんな時だけ女を強調するな!」」二人が同時に今日子に突っ込んだ。 
「いいのかい、あんな連中に競争させても?」ヨーティアが心配そうにレスティーナに訊いた。 
「いいのです。いつもガキ...こほん、子供のケンカみたいな事ばかりしてますから、 
あの三人にはさわやかにスポーツの汗で発散させてあげましょう。」レスティーナが優雅な微笑を浮かべた。 
「しかし...」光陰が前方に目を移す。「あれ、障害物なのか?」 
一直線にゴールまで引かれた白線の上に色とりどりの美少女達が待ち構えていた。 
「どう見ても障害『物』じゃないよなあ、『物』じゃ。」悠人も眉をひそめる。 
「私達スピリットは人間の道具です。道具も物も大差ありません、ユート様。」 
「うわっ、エスペリア!いつの間に後ろに!?」 
驚いた悠人が振り返るとそこにはチェッカーフラッグを持って立っているエスペリアの姿があった。 
「私がゴールでお待ちしております。皆さん、お体にお気をつけ下さいませ。」 
物騒な言葉を残してエスペリアがタッタッタと走り去っていった。 
戦闘シーンの緊張感ぶちこわしのジョギングみたいな効果音は何とかして欲しいと思う悠人であった。 
スタートの笛が鳴った。 
「まず、第一の障害物は...」悠人が目標を見定める。 
「―――敵?なら、倒すだけ。」殺気に満ち満ちた声が風に乗って三人の耳に届いた。 
次の瞬間、空中から研ぎ澄まされた神剣の衝撃波が襲う。ほぼ同時に目くばせをしあう今日子と悠人が、 
素早く光陰の背後に回りこんだ。 
展開した加護のオーラを突き破られ、光陰が「存在」の餌食になった。 
「お...おいおい...こりゃ、シャレになんないぜ...うぅ、ぐふっ」 
「よくやったっ、アセリア!」倒れた光陰の屍を蹴飛ばし、今日子、悠人が奔る。 
「さて、お次は...」今日子が前方を見据えた。 
「パパー、いっくよー、てりゃあ――っ!!」オルファのハイキックが悠人を捉える。 
「へっ、悪いけどオルファ、このくらい何ともないぜ!」ほとんどダメージを受けずに悠人が今日子の後を追った。 
「まとめて...消しとばします。」紅蓮の炎が巻き起こった。 
「「ぐわあぁぁぁ―――っ!!」」地に倒れる今日子と悠人。 
「――やってくれたわね。」しかし、先に立ち上がったのは今日子であった。 
「ぐう、しまったっ!...やっぱり...『絶』だったか!」 
毎度おなじみの手に引っかかり、やや遅れをとった悠人が再び走り始めた。 
後方から追い付いて来た光陰の両頬にくっきりと真っ赤な手形が付いていた。 
「...ニムにリヴァイブかけて貰ったのか。お礼とかなんとか言って変な事しようとしたな、光陰。」 
「なっ、なぜそれが!?」 
前方でネリシア姉妹の双子攻撃に惑わされる今日子に追いつき、再び三人が並ぶ。 
「最後の障害は...」 
「こ、ここから先は通しません!私、ちっちゃいですけど、こう見えても怖いんですよ! 
こ...怖いんですkむぎゅぎゅっ!!」 
口上の長いヘリオンがそのスピードを生かす事のないまま三人の踏み台になる。 
「「「ゴールだっ!!」」」 
「エレメンタル~ブラスト~~」嗚呼、ゴールテープ直前で静止する来訪者たち。 
袋叩きに遭うバカップルを尻目に、そのままハリオンにお持ち帰りされる悠人であった。 続かない。