『第一回第二詰め所制服コンテスト』
王室の間に掲げられたその大仰な看板に悠人は盛大な溜息をついた。
「一体なんでこんな企画が通ってしまったんだ……」
会場はすっかり観客で埋まっていた。どこから集まってきたかと思える程の彼らからは異様な熱気が感じられる。
その最前列に座らされている自分の前には何故か『審査委員長』というプレート。
「まぁたまにはいいじゃないか、この天才様にかかればハイペリアの衣装なんて朝飯前さ」
自慢げに鼻を鳴らす隣の『副委員長』殿が少し恨めしかった。
「それでは第一回第二詰め所制服コンテストを開始いたします」
いきなりカゾリック系シスターの格好をしたエスペリアが登場して開会の挨拶をする。
黒で統一されたロングワンピースに白の肩衣。胸元にはロザリオが光っていた。
それだけで会場からおおーと大きな歓声が上がる。
「エントリーナンバー1番、『赤光』のヒミカと『熱病』のセリア、タイトルは禁断の花園」
セリアが比較的スタンダードな紺のツーピースブレザーで恥ずかしそうに登場した。
続いて現れたヒミカがセリアと腕を組む。着ているのは……黒のガクラン。
がたたっと派手な音を立てて悠人が椅子から転げ落ちた。なんだそのタイトルわ……
「ちょ、ちょっとやめなよヒミカ」
「そんなに恥ずかしがることはないんじゃない、可愛い娘羊ちゃん?」
「こんな格好、十分恥ずかしいって!娘羊ってなによ!なんでそんなに適応してるの貴女は?!」
「ふふっ怯えた顔の君も素敵だよ……さあ逝こうじゃないか、二人の楽園に」
「な、なに言ってるのよ貴女は、ちょ、ちょっとそっちは寝室…………」
二人のやりとりが微かに聞こえる。悠人は何故か心臓の鼓動を抑えることが出来なかった。
「エントリーナンバー2番、『静寂』のネリー『孤独』のシアー姉妹、タイトルは愛姉妹」
その版権スレスレのタイトルに再びずっこける悠人。一部観客から絶叫が上がった。
手を繋いだ二人はおそろいの黄色い帽子を被っている。水色のワンピースはやや短めのスカート。
そして胸元には刺繍で「ねりぃ」「しあ」と名前が書いてあった。
「ね、ね、ユートさま驚いてる~」
「ほんとだ…………(ポ」
こちらを見て手を振る二人に引きつった笑顔を返しながら悠人は(絶対光陰だな)と確信していた。
「エントリーナンバー3番、『消沈』のナナルゥ、タイトルはお嬢様」
続いて登場したのはゴシック調の格子柄を基調にしたジャケットを身につけたナナルゥだった。
白のブラウスに細いネクタイがスカートと同じ清楚な青で統一されている。
胸元に刺繍されているラキオスの紋章がかろうじてここがファンタズマゴリアだと認識させてくれていた。
「………………にこっ」
殊更上品な仕草で微笑むナナルゥに観客が沸いた。
抑え目にしていても自己主張している胸元に視線が集中しているのは別として。
ただ致命的なのは髪の色と補色になってるんだよな……といつの間にか悠人は真面目に評価していた。
エスペリアの紹介は続く。
「エントリーナンバー4番、『曙光』のニムントール、タイトルは……え?ニムがいない?え、えっと……」
「…………?」
「すみません、4番は体調不良のため欠場とします。続いて5番……」
(逃げたな……)エスペリアの説明を聞きながら悠人はニムの逃亡先をあれこれと考えていた。
「『大樹』のハリオン、タイトルはき、巨乳お姉さん特別授業」
今までで最高のどよめきが会場を覆う。出てきたハリオンの格好をみて悠人は思わず前かがみになった。
大きく開かれたカッターシャツにどこから入手したのかハイペリアのブラのラインがくっきりと浮かび上がる。
歩くたびにひらひらと舞うミニスカートにもはや滅亡したかと思っていたルーズソックスのハリオンは、
間違いなくこのコンテストの趣旨を完全無欠に勘違いしていた。新宿の3丁目辺りの方が絶対相応しい格好である。
「お客さん~初めてですかぁ~」
判っているのかいないのかそんなセリフを飛ばす。別の意味で効果は絶大だった。
悠人がそっと振り向くと、会場中が前かがみになって困っていた。
「こほん、エ、エントリーナンバー6番、『失望』のヘリオン、タイトルはドジっ娘」
気を取り直したエスペリアの紹介に続いてちょこちょこと出てきたヘリオンはごく普通の制服姿だった。
濃紺のジャケットにスカート、ブラウスの胸元にエンジの棒ネクタイ。無難なデザインに少しほっとする。
「あ、あの、宜しくお願いしま…………きゃぁ!」
悠人の目の前でハデにすっ転ぶヘリオン。
そしてその勢いで大きく捲くられたスカートの下からゾウさんプリントの……ってぇ!
「きゃ~っ!きゃ~っ!きゃ~~~~っ」
慌てて立ち去るヘリオンに悠人は不覚にもドキドキしてしまっていた。
相次ぐお色気攻撃に騒然としてきた中、エスペリアの紹介もラストとなった。
「それでは最後になります、エントリーナンバー7番『月光』のファーレーン、タイトルは覆面取ったら」
タイトル通り素顔を晒して登場したファーレーンはセーラー服だった。
白いセーラーに黒のスカートと、定番中の定番である。
右肩だけに二本の黒い縦線がデザインされているのが清楚な感じを強調している。
長い深緑のロングヘアーを白いリボンで纏めているのが新鮮だった。
開かれた首元に浮き上がった綺麗な鎖骨や歩くたびに見え隠れするお腹がさり気なく涼やかな色気をも醸し出している。
何より普段めったにお目にかかれないファーレーンの素顔に悠人はぽーっと見とれていた。
「あ、あの、ユートさま?そんなに見つめられると困ります……」
悠人の視線に気付いたファーレーンが消え入るような声で軽く抗議する。その仕草だけでもう殺人的だった。
「あ、ご、ごめんファーレーン、その、あんまり可愛かったから……」
「か、からかわないでください~」
一瞬二人だけの世界に浸る悠人とファーレーンにエスペリアの進行が少々阻害された。
「コホン、それではこれでエントリーは全員です。投票をお願い致します…………」
投票を終えて会場を抜け出した悠人は誰もいない第二詰め所に来ていた。とある部屋をノックする。
「…………だれ?」
「俺だ、開けてもいいかな?」
「……ユート?……勝手にすれば?」
声を確認してゆっくりと扉を開く。果たしてニムントールが制服姿で立っていた。
フリルをあしらった白ブラウス。チェックのスカートがジャケットとお揃いだ。
「ふん、どうせ似合わないとか言うんでしょ!」
「そんな事ないぞ、似合うじゃないか。どうして出なかったんだ?」
「はぁ?ばっかじゃない!?ニムがそんなの出るわけないでしょ!」
「じゃあなんでそれ着たままなんだよ」
「ユ、ユートが見たがると思ったからよ!なにさ、他の娘見て鼻の下伸ばしてたクセに!」
「ああ、ゴメンな。でもニムがいないって知ったときは本当に残念だったんだぜ」
「え…………ふ、ふん!ニムなんて皆の前じゃ絶対こんなの着ないんだからっ!ユートだけなんだからね!感謝しなさいよっ!」
そう言って腰に手を当てるニムントールのスカートからなにか紙切れがひらひらと落ちた。
そこにはたった一文だけ『タイトル:ユートだけ見ていい』と書かれていた。