「エンゲキ?もう一度あれをやれって言うのか?勘弁して欲しいなあ。」 
ヒミカの依頼に悠人は渋い顔をした。以前出演した時の事が思い出される。 
突然カンペでキスをしろと言われたり、ハリオンが瞬間移動してヘリオンがいじけたり... 
「あ、今回はユートさまには出て頂かなくて結構です。」 
ヒミカが柔らかな笑みを見せる。「ただ、ユートさまの役をする方にお願いして頂ければ、と思ったのですが。」 
「俺の役を?誰に頼むって言うんだ?ま...まさか光陰に?それは非常に危険な試みだぞ、ヒミカ!」 
「えーと、色々と考えまして、キョウコさまにお願いしたいのですが...。まだ、ラキオスに来てから日も浅いですし、 
これをきっかけに、とけ込んで頂こうかと思いまして。ただ、私からではちょっと...」 
「へえ?今日子か。ま、確かに髪型は似てるけどさ。あいつ、引き受けてくれるかなあ。」 
悠人は腕組みする。 
「そこは友人のユートさまが上手く説得してください。出し物は前回と同じサモドアの一シーンです。 
では、宜しくお願いします。」言いたい事を言うとサーッとヒミカは引き上げた。 
「光陰!あんたってやつはっ!!」 
悠人が詰所から出て行くと、例によってドツキ漫才をしている二人の姿が目に入った。 
「...なるほど、確かにあれじゃウチのスピリット達は近付けないよなあ。」 
さすがは気配りのヒミカだ、などと妙な感心をしつつ悠人はシールドを全開にして 
ゆっくり今日子に近付いた。 
「あたしが?なんで悠の役なのよ?」ハアハアと荒い息をつきながら今日子が言う。 
「親睦を深めてほしいっていう事だよ。ほら、怯えてるだろ、あそことか。」 
そう言いながら悠人が指し示す先にネリーとシアーが木の陰から、 
おっかなびっくりこちらを伺っているのが見える。 
「う...で、でも大体光陰が悪いんだからっ!」まさにガキのケンカである。 
「ケンカもいいけど少し場所を考えてやれ。じゃ、頼んだぞ。」 
学園祭当日。 
「今回は見る側か。やっぱり俺にはこっちの方が気楽でいいよ。」 
「出演者全員女の子なんて、まるでタ○ラヅカみたいだな。」 
悠人の横の光陰も上機嫌である。やがて、幕が上がった。 
アセリア役のヘリオン、エスペリア役のセリアも今回は堂々とした演技っぷりであった。 
ハリオン姉さんが夜なべして作った衣装のせいもあり、低音で演技する山本直子、もとい今日子も、 
遠目からはまさしく悠人のあの日の姿であった。 
「ううう、ぐすっ。俺ってあんなにカッコ良かったっけ?」 
「...俺に聞くな、悠人。」そう言う光陰の目にも涙が光っている。 
翌日。 
悠人が詰所前の庭を歩いていると賑やかな声が聞こえてきた。 
「キョウコさまー!」 
「さま~!」 
双子が今日子を探している。 
「ちょっと、悠っ!なんとかしてよ!」 
「いいじゃないか、人気者で。」 
今日子のおかげで、シャンプー片手にナナルゥが風呂場に侵入する事もなくなり、 
すっかりプライベートな時間を取り戻した悠人が笑う。 
「あっ、いた!」 
「いた~!」 
「ヤバい、見付かった!お、憶えてなさいよ、悠!」捨てゼリフとともに今日子が逃げ去る。 
今日子と双子を見送る悠人の背中から声が掛かった。 
「あの...ユートさま...」 
「え?セリアか?」 
いつもとはうって変わって、すっかり恥じらう乙女といった風情のセリアに、悠人は度胆を抜かれる。 
「これを...キョウコさまにお渡しして頂きたいのですが...。」 
花柄模様の封筒を悠人に渡したセリアが「キャッ!」と言いながら頬を染めて走り去った。 
「......百合?」 
リクディウスからの北風が、やけに冷たく感じられる悠人であった。