真夜中。草木もぐっすりと眠っている遅い時間です。アセリアとセリアの二人は、二つ並んだ
ベッドで可愛らしい寝息を立てています。二本の神剣は仲良く壁に立てかけてあります。
昼間の訓練がきつかったのでしょう。さらに加えて、エスペリア先生による国語と歴史の授業
もありましたからなおさらです。セリアに取ってはアセリアに勝るところを見せるのにとても良
い機会なのですが世の中そう甘くはありません。何も考えていないようにしか見えないくせに、
アセリアは記憶力だけは抜群に良くて、エスペリア先生の質問に簡単に答えてしまうのです。も
ちろん文章の解読などではアセリアに負ける物ではないのですが。
あれれ、一人だけむくりと起きあがりました。真っ暗なのでよく見えませんが隣のベッドで
眠る少女をゆさゆさと起こしています。
「セリア、おきろセリア」
言葉からするとどうやら起きたのはアセリアのようです。でもこんな夜中にどうしたのでしょ
う?毛布にくるまってさながら蚕の繭のように寝入っているセリアは、延々繰り返される揺れに
ようやく目を開けました。
「ん~~もう分かったわよぅ~」
小さな口が動くと、寝ぼけ眼をこすりながら渋々体を起こしました。いつもの短めのポニテは
流石に解かれていてサラリとセリアの肩口で流れます。これはこれで…… コホン
セリアとアセリアは、小さなおそろいのスリッパを履くと連れだって部屋を出て行きます。パ
タパタと足音を立て、ギィと扉を開きます。愛らしいパジャマの裾が乱れて暗闇に白い肌が映え
ていますが気づいていないようですね。一体二人でどこへ行くのでしょう。
野外での実戦形式演習の休憩時。アセリアは座り込んで汗を拭いているセリアの本へ歩いてい
く。セリアは手を休めてアセリアを見上げると、溜息をついた。
「はぁ~アセリアまた?私は用無いんだけどな」
「セリア、いやか?いつも一緒だったぞ。それにできる時にしておくべきだ」
アセリアは妙にまじめな顔でセリアに語る。いつもの顔と変わらないように見えてもそれは、
見る方に修行が足りないだけだ。もちろんヒミカとハリオンに次いで古い関係の二人なら、既に
阿吽の呼吸という物を体得している。
仕方ない、とつぶやきセリアは腰を上げた。アセリアの瞳が微かに笑ったように見える。二人
して演習場から離れていく。
「お、どうした二人で?」
革袋の冷えた水をがぶ飲みするユートが、意外な組み合わせを認め二人を呼び止める。アセリ
アはユートを一瞥すると口を開いた。
「私の役目を果たしているだけ。エスペリアに言われた昔からの役目だ」
「は?役目って何だ」
悠人はセリアに目を向ける。アセリアでは理解できる言葉が返らないかも知れないから。
「あ、ななんでもありませんっ!役目なんてありませんっ!ほ、ほらアセリア訓練始まるわっ!
急いでっ!ユートさまもお急ぎくださいっ」
一瞬で朱に染まったセリアが、アセリアの肩を掴むと凄い力で演習場の方へ押し戻していく。
「大丈夫か、セリア。漏らさないか?」
あっけにとられた悠人が見ている前で、ずりずりと踵で地面に轍を付けながらアセリアが言う。
「な、ななn何のこと言ってるのアセリアほら早くエスペリアが怒るわよ」
どんどん離れていく二人を眺める悠人。なにがなんだか分からないけど、とりあえず戻ろうと
思った。エスペリアに怒られるのは悠人といえど御免だから。
「ユートも水ばかり飲んでいて大丈夫か?エスペリアに怒られるぞ」
遠くからアセリアの声が聞こえてくる。でもやっぱり悠人には意味不明だった。