外国語・ユートさまのハイペリア語講座

悠人がふらりと第二詰所にみんなの自由研究の進み具合を見に来たところ、
居間でヘリオンと鉢合わせした。ぱっと顔を輝かせてお茶に誘うヘリオンの言う事を聞いてみると。
「ハイペリアの言葉を教えてくれ? そっか、ヘリオンはそれがテーマなんだな」
「ええ、『さんきゅ』がウレーシェの意味なんですよね。
あと、キョーコさまの『つっこみ』って言うのが、あの『はりせん』っていう武器と雷で同時に攻撃をかけること」
「いや、あれは『つっこみ』とはちょっと違うと思う。まぁそれは置いといて。
分かった、俺にエスペリアみたいな先生役が勤まるかどうかわからないけど、一緒に頑張ろう。
あれ、でも今日子や光陰からも教えてもらえるんじゃないか」
そう悠人が疑問を口にすると、ヘリオンは視線を二階に向けて眉を寄せた。
「それが、コウインさまにお話を伺っていたら、
キョーコさまが『つっこみ』を入れられて今はお取り込み中です」
「光陰から、どんな話を聞いてたんだ……」
「えっと、朝のあいさつが『おはよーくしゃーてりあー』、お昼のあいさつが『こんにちわわー』
夜のあいさつが『こんばんわんこー』……でした。それで、お迎えのあいさつが、
『おふろにする?ごはんにする?それとも……』というところでキョーコさまが飛んできたんです」
続きは何と言えばいいんでしょうか、と続けるヘリオンの言葉に悠人は大きく溜め息をついて、
「でたらめだから全部忘れていいぞ、ヘリオン」
と言い切り、彼女の顔を困惑に染めた。

悠人の取った教授法は、かつてエスペリアに受けた授業を思い出して、
基本的な単語を中心に教え、文章へと直していくというもの。
「『私の名前は悠人です』」
「えっと、『ゆーと』が名前の所ですから『わたしのなまえはへりおんです』?」
自分が教えられたことをもう一度やり直してみると、改めてその方法が優れていたことがわかる。
さらにヘリオンにしても、生徒として非常に優秀で、悠人とは比べ物にならなかった。
そして、一回目の授業も終盤に入って。
「そうそう。何だ、めちゃくちゃ飲み込みがいいじゃないか。
なら、これはどうかな。『私はピーマンが嫌いです』」
「『ぴーまん』……リクェムのことですね、きっと。『きらい』はスユテ、ですから……
『わたしは』……あ、あのぅ、嫌いな食べ物が無いんですけどどうしましょうか」
「偉いなぁ嫌いな食べ物が無いなんて。そうだなぁ……」
首をかしげて尋ねるヘリオンに対して、悠人は目を閉じて考えてみる。
一つ頷くと手を打って口を開いた。
「じゃ、逆の意味にしてみるか。『私はモンブランが好きです』」
それを耳にして、ピクリとヘリオンの動きが止まる。
脳裏に浮かんだ回答に、血が頭に上っていってしまう。
「……『すき』、が『きらい』の逆の意味、ですか?」
「あ、ああ、そうだけど。まあ、物の名前はヨト語のままでいいから、何か文章を作って言ってくれ」
「『わたしは』……」
口をパクパクさせながら言葉を探す。
「……ヘリオン?」
「え、あ、えと……ヨフアル『がすきです』!」
そう言ったあと、深呼吸をするように息をついているのを見かねて、悠人が声をかけた。
「うん、よく出来ました、一日目でこれだけ出来たら上等だよ。
今日のところはこれくらいにしようか、何か疲れたみたいだし」
「は、はいっ、ありがとうございましたっ!」
ぺこりと頭を下げてとたとたとヘリオンは自分の部屋へと戻って行った。

……本日の授業の復習に用いた例文はいわずもがな。