「ユート」
アセリアが悠人の前に紙を差し出した。何やら絵が描かれている。
「ん? あぁ、アセリアは自由研究に絵を描いたのか?」
「ん。ハイペリア」
どうやらハイペリアの想像図を描いてきたらしい。
「そ、そうか…えーと、これは?」
「学園」
「どうして城の形なんだ?」
「ん。カオリが言ってた。学園は大きい建物だって」
「あー、うん、まぁ、そうなんだけどな。でもどちらかと言えば城よりは研究所の形の方が近いかな」
「そうなのか」
しきりと感心している(ような気がする)アセリアに、悠人は続けて尋ねる。
「で、これはアセリアか?」
「ん」
「どうして何かと戦ってるんだ?(汗」
「『ブンブリョードー』…違うのか?」
心なしかションボリしている(かもしれない)アセリアに、悠人は慌ててフォローする。
「あー、まぁ、剣道部とかあるしな。うん、アセリアには剣道部なんか合ってるかもしれない、うん」
「『ケンドーブ』?」
「あぁ、えーと、剣の練習を通して心と体を鍛える人たちの集まりのことだ」
「剣の訓練か? それなら好きだ」
「あぁ、でも、相手を殺すことが目的じゃない。だから神剣(真剣)は使わなくて、竹刀…えーと…模擬剣でやるんだ」
「戦わないのに訓練するのか?」
「えーと、戦うけど、殺し合いじゃないんだ」
「よく…わからない」
「んー、そうだなぁ…最近、アセリアは訓練のとき、打ち合う相手にウルカをよく選ぶよな? それはどうしてだ?」
「ん。ウルカ、強い」
アセリアがぎゅっと拳を握った。
「そう、アセリアは訓練でも強い相手と打ち合うと充実するだろ? 殺し合うんじゃなくて、ただ技を磨いて競い合う楽しみ、そういうことさ」
アセリアが『存在』に目を遣るのを見て、悠人は続ける。
「ウルカは、神剣を使わなくても、模擬剣でも強いだろ? きっとウルカは神剣の力を引き出すんじゃなくて、自分の力や技術を鍛えてきたんだ。
そういう風に、自分以外の力じゃなく、自分自身の強さを鍛えて、競い合って、より強くなる、それが『ケンドー』さ」
アセリアはしばらく『存在』と自分の掌を見比べていたが、やがて悠人に視線を戻した。
「ん…少し…わかった気がする」
「そっか」
よしよし、とアセリアのさらさらな髪を撫でてやりながら、悠人は心の中で呟く。
(ちょっと都合のいい解釈にしちゃったけど、まぁ、それは勘弁してもらおう)
そして、「ハイペリア想像図」の他の部分の検証はやめておくことにした。
他の部分も、まぁ、何と言うか、微妙に空想的でありながら、ファンタズマゴリアの知識の範囲を出ていない、なんとも奇妙な感じだった。
ハイペリアに憧れを抱きながらも、その想像の翼はウィングハイロゥほどには広がらない、そんなアセリアのもどかしさが表れている気がする。
そんなアセリアだから、追求を始めるといつまでたっても終わらないだろうからだ。
(まぁ、少しずつ、な)
翌日。
「ウルカ、『ケンドー』を教えて欲しい」
「は? 『ケンドー』、ですか?」
アセリアの唐突な頼みに、ウルカは困惑させられていた。
「ん。ユートが、ウルカの剣は『ケンドー』だって言ってた」
しばらくアセリアから『ケンドー』の説明を受けるも要領を得ず、結局アセリアと共に悠人の元へ訪れたウルカは、悠人の説明を聞いて得心した。
「なるほど、たしかにそれは手前の剣の道に通じるものがございますな」
「あぁ、ちなみに、『ケンドー』の『ケン』は剣を、『ドー』は道を意味するんだ」
ほほぅ、と感心するウルカ。「さすがハイペリア」と呟いた気もするが、まぁ、それは置いておこう。
「では、アセリア殿、共に剣の道を究めましょうぞ」
「ん。『ケンドー』する」
アセリアが『存在』に手をかけるのを見て、悠人は慌てて釘をさした。
「神剣はなし! 模擬剣でやること! それから、訓練棟でやること!」
こうして、ファンタズマゴリアにケンドー少女が二人誕生した(?)