さて、この状況で俺はいったいどうするべきだろう。 
目の前にはたった今鉢合わせた、屋台のヨフアルを手にしてにこやかにパクついているヘリオンちゃん。 
うん、いい。可愛い娘が、実に美味そうにお菓子を食べる。うん、良い絵だ。 
何よりも、その無邪気な顔の柔らかそうなほっぺにひとかけらの食べかす。 
お約束を裏切らないナイスなドジっぷり。 
けれども。やっぱり場所が場所なんだ。 
ちょっと見てる分には微笑ましいが、そのままでうろうろするのは宜しくない。 
気付かないままでいて、いざという時に恥をかくってのも……それはそれでイイかもしれないが…… 
いやいやいや、流石にそれは可哀相過ぎる。 
という事で、最初の自問に戻るんだが……さて、どうするべきか…… 
周りにはばらばらと一般客の姿もある。城下の人間がスピリットと交流する。 
良い事だとは俺も思うが、この状況では面と向かってヘリオンちゃんに注意も出来やしない。 
かといって、急に物陰に引っ張りこむのも同じく他人の目があるから却下だしなぁ…… 
ここはあくまでもさり気なく―― 
あー、ヘリオンちゃん、今日子がどこにいるか知らないかな? 
ああ、そう、さっきまでヨフアルの屋台の前で一緒だった。へぇー。 
ヨフアルって、今食べてるやつ?それ、食べる時にちょっと気を付けないとダメだよな。 
時々かぶりついた所から、ぽろっと欠片が落ちたりしてさ。ヘリオンちゃんは大丈夫かな? 
――よし、これで行こう。 
「よう、ヘリオンちゃん、どっかで今日子の奴を見なかったか?」 
よし、頭の中の台本よりもさらに自然だ。 
「え、キョーコさん、ですか?わたしはちょっと……」 
なんてこった。早くも計画が崩れ去っちまった。 
次の作戦の立案を急ぐ脳味噌。だがそれが完成する前にふらりと一人の男が通りかかった。 
「あ、ユートさま、キョーコさんが何処にいるかご存じですか?」 
「今日子?確か、さっきヨフアルの屋台のところで見かけたけど」 
ナイスタイミングだ!これならちょっとした修正だけでさり気なく注意を…… 
って、おい、悠人。いきなりヘリオンちゃんのほっぺを凝視してどうするんだ。 
え、なんだ、その「しょうがないなぁ」って感じの苦笑いは。ヘリオンちゃんも戸惑ってるぞ、なあ。 
あ、あ、手を、手を伸ばして……むに。むに?むに!? 
摘み取りやがりましたよこの野郎!あ、あまつさえ自分の口にお運びに! 
あーあ、躊躇いも何も無しでやっちまいやがった。つーか、何も考えないでやっただろお前。 
何せ茹でダコみたいになっちまったヘリオンちゃんを見て慌て出すくらいなんだからな。 
おいおい、周りから見られてるって。あらあの二人ですよ、何時見ても初々しいですね、だとさ。 
あのなお前ら、城下へ出かけたときもそのノリかよ。 
やれやれ。そうか、今日子はヨフアルの屋台の所か。と。 
じゃあな、二人で見回りでも観覧でもしててくれ。 
お、まだいた。ま、せっかくだから声でも掛けるとするか。おーい、今日子……お前もか。 
……さて、俺はいったいどうするべきだろう?