ある一つの物語の終わり

12月24日クリスマスイヴ 小鳥の部屋

いつもなら大はしゃぎするわたしも今年ばかりはそんな気分にはなれない。
一緒に盛り上がってくれる今日子先輩も・・・
お坊さんなのにクリスマスに浮かれ、羽目をはずしてはハリセンで殴られる碧先輩も・・・
いつも一緒にいる大親友の佳織もいない。
そしてなにより・・・
「悠人先輩・・・」
わたし達に振り回され困ったような顔をしつつも最後まで付き合ってしまう人。
ぶっきらぼうな様でいながら本当はとても優しい人。
わたしにとって一番大切な人・・・悠人先輩もいない。
「みんな・・・無事なのかな・・・」
悠人先輩とアセリアさんがファンタズマゴリアに帰還してからまだ二日と経っていない。
だけど悠人先輩の話ではもう向こうでは随分時間が経過してるはずなのに誰も帰ってこない。
ついつい思考は悪い方に傾いてしまう。自分はもっと楽天的な性格だと思っていたのに。

先輩達が過酷な状況に巻き込まれたことは自分の身をもって知った。
今でもあのことを思い出すと体が震える。
先輩にも本当は行って欲しくはなかった、側にいて欲しかった。
先輩の前では大丈夫なふりをしたけど、そんなに簡単に気持ちの整理はできない。
でも・・・止めることなんてできるはずがなかった。
佳織達にも帰ってきて欲しかったし、何より悠人先輩が皆を見捨てる訳は絶対にない。
だから笑顔で送り出した、先輩に心配をかけないように・・・
わたしにできるのはそれぐらいだから・・・・
「先輩鈍いから気付いてないんだろうけど・・・」
苦笑してしまう。わたしの気持ちだって思いっきりぶつけてるつもりなのに全然気付いてないし。
いつものテンションのままだから冗談だと思われてるのかな?
「悠人先輩が帰ってきたら真面目に告白なんかしちゃおうかな。
アセリアさんにも負けませんって宣言したし。あ~でもアセリアさんは強敵だな~」
暗くなりがちな気持ちを切り替えて楽しい事を考える。
「わたしが本気で告白したら悠人先輩どんな顔するのかな~
きっと凄いうろたえるんだろうな~先輩そういうのに疎いし。
あ~でもでも俺も実は小鳥のことが・・・とか言われたりして。」
うん、どっちに転ぶかは判んないけど帰ってきたらわたしの気持ちを伝えよう。
悠人先輩のことは前から好きだったけど今回のことで確信した。
いなくなるかもしれないと考えたとき私は・・・・

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「あれ・・・?私なにしてたんだっけ?」
何かとても大事なことを考えていたような気がするんだけどな。
どうしても思い出せない・・・
ひょっとして寝ぼけてるのかな?
首をかしげながら、ふと窓の外をみる。
「雪だ・・・・」
外にはいつのまにか雪が降っていた。
クリスマスの町を彩る幻想的な風景・・・
だけどわたしには悲しい風景に思えた。
町を覆う白い雪。まるで全てをなかったことにするかのような・・・
「あれ・・・?」
窓に映るわたしは泣いていた。
「わたし何で泣いてるのかな?
雪を見て泣けるほど感受性は豊かじゃないのに・・・」
判らない・・・判らないけど涙が止まらない。
ただ・・・ただ悲しかった。

彼女は知らない悠人がその時エターナルとなったことを・・・
必ず帰るという約束も彼に対するその想いも・・・

数ヵ月後
「ほらほら佳織ー。早くしないと遅刻するよー。」
「ま、待ってよ・・・小鳥。だいたい小鳥が寝坊するから・・・」
わたし達は学校にむけて走っている。
「そんなこと言ってると遅刻する・・・わぁ!」
佳織の方に振り向いた瞬間人にぶつかってしまう。
「おっとっと・・・大丈夫か?」
ツンツン頭のちょっとカッコいい人だった。
「あ、はい。ごめんなさい。大丈夫ですか?怪我してないですか?」
慌てて謝る。
「いや、平気だよ。こ・・・君も怪我がなくてよかった。」
優しそうな笑顔を浮かべる。
「ごめんなさい、急いでて・・・」
「遅刻しそうだもんなこの時間だと・・・お、か・・・友達も追いついたみたいだし
急いだ方がいいぞ。」
「あ、そうだ!遅刻しちゃう!佳織行くよ!」
「も、もう限界・・・」

走っていく二人を見送る。
相変わらず小鳥が佳織を振り回してるらしい。
元気そうな二人を見て安心する。
「ただいま小鳥、佳織。今までサンキュな。・・・それじゃ行ってくる!」