すぴりっとのさんすう

 夜、悠人は一階に降り、水を飲もうと食堂へ向かった。薄暗い廊下の奥、ドアから漏れる明かりに気付き
エスペリアの部屋の前へ歩いていく。しっかりとお茶と甘い物を用意してから。
 もしかして、また地図を広げて、廻らない舌をこねているのかと思ったのだが、今回は違った。
エスペリアは、半年に一回の決算報告書を前に、うんうん唸っていたのだ。
 食費や日常・戦闘両方のマナのやりくり。完全な赤らしい。色々小言を言われて悠人は渋面を作った。
やれ、訓練に偏りがあるから無駄な出費が増える。やれ、小さい娘達に悠人が甘い顔をしすぎる。やれ、
エスペリアと部隊が別れた時、他の娘達と仲良くしすぎる……最後のは違う気がする。
 で結局何が最大の問題かというと、計算なのだ。ずらりと項目ごとに並んだ出費。それらに人数を掛け合わせたり、
割ったり足したり。さらに一人当たりの平均だの三時のおやつ代やら、ネリーとオルファが壊した備品の補充やらetc……
 この世界には計算機など無い。算盤もない。有るのは訳の分からない、ごつくて使いにくい計算尺だけ。
 しかし、我らが悠人君はハイペリア人なのだ。そう、彼には九九がある。さらには当然ながら?高校生程度の暗算
が利くのだ。
「そこは、えーと一人3ルシルのヨフアルを16人分で、48ルシル。それが7日でえー336ルシルか。えーと一日の
必要マナが256マナで、戦闘時を除くと64日か……えー(紙に書いて縦書き筆算)16384マナだな」
 ぽかーんとした表情のエスペリア。驚くのも無理はない、エスペリアは書き物に関しては悠人は員数外として頭
から決めつけていたのだ。それがどうだろうか。いつのまにか聖ヨト語の数字だけは完全マスターし、エスペリア
の頭を煮えさせていたエスペリアにとっての難題をすらすら解いて行くではないか!
 そして、レスティーナへの進言によって、ラキオス公教育に九九が取り入れることとなり、さらにはおつむがちょっ
とあったかい年少スピリット達にも教育がなされることとなったのだ。
オ「すごーいパパ。あたまイイーー」  ネ「うへー、べんきょういやーー」 
シ「これが全問できればヨフアル……シアーがんばるもん」 光「悠人、天才だな。ここではw」
今「私よりバカなくせに……おもしろくない」 悠「うるさい。お前に言われたくないぞ今日子」