サフィズムの舷窓のぱくり

第二詰所、浴室。
その脱衣所からは、幼いスピリットたちの騒ぎ声が漏れてくる。
汗を流していたのは、訓練を終えたネリー、シアー、ヘリオンの三人だった。
「はぁ~、訓練よりも疲れましたぁ」
「ネリーはぁ、はしゃぎすぎだよ~」
「そ、そんなことないもん」
「ありますよぉ。背面飛びでお風呂に飛び込んだあと、
 そのままお湯の中でウィングハイロゥを動かしてたじゃないですか」
「じゃないですかぁ~」
「い、いいじゃない。ほかに入ってる人もいなかったんだから」
「私とシアーさんが入ってましたよぉ」
「いいでしょ! 今日はネリーたちで最後だったんだし…。
 二人だって思いっきりお湯をかぶって面白かったでしょ!」
「それはそうですけど…」

「……」
「な、なんですか、ネリーさん」
「……」
「シアーさんも、人の胸をジロジロ見ないでくださいよぉ」
「うん、えへへ、負けてない」
「負けてない~」
「なっ、勝ったとか負けたとか関係ないじゃないですか!」
「へっへっへ」
「へっへっへ~」
「あーっ、シアーさんまで馬鹿にしてぇ!
 そのうち、私だってヒミカさんよりもないすばでーになるんですからぁ!」
「ネリー達だって、ヒミカくらいは、ねぇ…」
「ねぇ~」
お互いの、どことはなしに胸やらを見やり、
そして浴室で見た、慕うレッド・スピリットの少女の体の線を思い出す。
自分たちがヒミカの年になるまでに、
どれほど背は伸び、複雑な思いを詰め込んだこの胸はふくらむのだろう?
(でもせめて、ヒミカさんくらいは、きっと……)
口には出さずとも、それは年少組全員の胸に秘められた目標だった。
だが、しかし……
その目指す山の頂は思うほど高くはなく、そこに立った時、
その先にある、さらに高くそびえる山々が努力だけでは超えられぬことを、
幼い少女たちは、まだ、知らない…