たゆんたゆん対策会議

「えー、第4回『ハリオンが悪い』第二詰所会議を始めます」
第二詰所の居間にヒミカの宣言が響いた。
「申し立てによれば、『服を着ていてもハリオンは猥褻物陳列罪である』とのことです。各自の意見をどうぞ」
「ぶふぉっ! お、おいっ、なんつー議題を…せめて俺のいないときにやってくれよ」
提示された議題のあまりのあんまりさにむせる悠人だったが、
「この件にはユート様も無関係ではないと判断しました」
ギロリと一瞥を食らい沈黙。
「まぁ、以前と違って非常勤とはいえ男の方もいるわけですから、少々問題があるというのは否めないのかもしれませんね、いろいろと」
議論を始めるべくか、冷静に切り出すセリア。言いながら悠人の方にギロッと一瞥が来たような気がする。
「あ、あの、あのあのあのっ、わたしたちの精神衛生上も良くないですっ」
ヘリオンがどもりながらも珍しく強く主張する。何故か頬を染めながら。
「あの~、わたし~、何もしてないんですけどぉ~?」
おっとりハリオン。そもそも何が問題になっているのかを理解できているのかも怪しい。
「ふんっ」
ぷりぷりニムントール。まぁ、ニムントールが不機嫌なのは別に珍しいことではない。
「ある意味、抜け駆けとも言えるのかもしれませんね。恐ろしいことに、天然で…」
淡々とファーレーン。…というか抜け駆けってどういう意味だ?
「先制攻撃でしたら負けません」
おーい、ナナルゥ…。
「あ、あの、速さだったらわたしだってっ」
ヘリオン…いや、まぁ、アイデンティティは大事だけどな。
「ほらほら、論点がずれてるわよ」
そうそう、そうだよ。ヒミカの仕切りに悠人は内心でエールを送った。いや、よく考えてみれば、下手に口を挟むととんでもないことになりそうな針の筵よりいっそ、うやむやになった方が良かったかも…。

各員の意見が一段落したところでヒミカが暫定対策案を提案した。
「それじゃ、ハリオン、あなた、サラシを巻きなさい、ね?」
「ネリー、さんせー」
まぁ、ネリーはおもしろそうなら何でも賛成するし、な。
「……(もきゅもきゅ)」
シアーは特に意見はないようだ。…もしかして、誰かに買収されたのか? お菓子で。
「「「「異議なし!」」」」
大合唱。
「あの~、物事は~、自然なままが~、いいと思うんですけど~」
「あなたねぇ…自然なままって、服着てるでしょうが」
「わたしは~、着なくても構わないんですけどぉ~」
「却下。ツッコミ入れた私がバカだったわ」
ハリオンの天然をサックリあしらってる辺り、さすがだな、ヒミカ。
……生のままのハリオン…ぐぶるぶふぉおぉ~~~っ!
「…次は、第32回『ユート様が悪い』会議かしら、ね」
ごめん、勘弁して。というか、既に30回以上ですか、隊長失格ですか、そうですか。
「んもぅ~、しかたないですねぇ~」
もぞもぞ。
「あー、こらこら、ここで脱がないの!」
「あら~? どうしてですかぁ~? わたしは~ぜんぜんかまいませんよぉ~?」
「あんたが構わなくても他が構うの!!」
ぐっ…ぅぼぶるぶほぉおぉ~~~~~っ……バタッ。悠人は星になった。

星々の世界を旅して来た悠人が意識を取り戻してまもなく、別室に行っていたらしいヒミカとハリオンが戻って来た。
「ま、こんなところでどう?」
引き連れて来たハリオンを皆の前に差し出すヒミカの額は何故か汗に塗れていた。
「「「うっわぁ…」」」
面々から感嘆の声があがる。
「こ、これは…ずいぶん寂しく…あ、いやいや、すっきり…じゃなくて、な、何と言うか…奇跡?」
悠人の感想も思わず混乱。何と言うか、「普通」だった、信じがたいことに。
「ふーむ、信じられん。あのたわわな実りがここまで…」
思わず口から脳内垂れ流し。
じろじろ。
「…ぁのぉ、ぅごけなぃとぃぃますかぁ、ぃきがくるしぃんですけどぉ……」
じろじろ。
「…は…くちゅん」
悠人が観察に熱中するあまり、髪の毛がハリオンの鼻筋をくすぐっていたらしい。
「あっ!」
ヒミカが叫んだ、ような気がした。悠人はよく覚えていない。この一瞬後に起こったことのせいで。
ビシッ
何か音がした、と思う間もなく、悠人の目の前で。

   た ゆん た ゆん

「うぉっ!?  大 迫 力 !!!」
悠人は今、永遠の旅に旅立って逝った……


悠人とは違った意味で死屍累々の中、かろうじて、ヒミカの手が挙がった。
「……だ、第1回…『ハリオンにサラシは危険だ』…会議……」
ぐったり。