続・緑スピホイホイ

翌日。今日から悠人はまた第一詰所の住人だ。行ったり来たり、これも隊長の務めである。
第一詰所の居間に入った悠人は唖然とした。コタツだ。エスペリアが居眠りしている。お茶が三人分出ているところを見るに、アセリアとオルファもいたのだろう。しっかりヨフアルとネネの実も常備されている。
「……ん…ぇ? あ、ユート様!? すみません、ついうとうとと」
物音だか気配だかで気づいたらしく、エスペリアが目を覚ました。
「あー、それはまぁいいとして。どーしてコタツがここに…?」
「は、はい、あの…ハリオンが『とっても素敵なハイペリアの風習』と」
頭が痛くなってきた。ハリオン…お前というやつは…。
「で、アセリアとオルファがノリノリってとこか」
光景が目に浮かぶようだ。
「はい…その…(実は…わたくしもなのですが…)」
やれやれ。とりあえず落ち着こう、俺。テーブルがコタツに改造され、椅子は隅に退けられているので、コタツ以外に落ち着き場所がない。ということで、座ろうとして布団というか毛布をめくる悠人。

「………ニム…お前というやつは…」
「ぅみぃ~」
身を丸めてコタツにもぐっていたニムントールの姿を見つけた。
「えっ!? いつのまに…」
驚いて毛布をまくるエスペリア。まぁ、うとうとしている間に、だろうなぁ。口には出さずに心の中だけで悠人はツッコミを入れる。
「はぁ、どうしてそうコタツにこだわるかなぁ、ニムは。ほれ、出て来い」
ため息混じりにそう言って、悠人はニムントールを引きずり出す。ずりずり。
「ぅうぅ~っ」
げしがしげしがしっ!
「ぐぉっ!?」
顔を引っ掻かれた。
「ユ、ユート様!? だ、大丈夫ですか?」
「くっ、あぁ、何とか。それより、水筒にお湯を詰めて持って来てくれないか」
「は、はい…?」
悠人の顔の傷を気にしながらもお湯を入れて来たエスペリアから水筒を受け取って、それをまたコタツに引っ込んでいるニムントールのほっぺたに当てる。
「ほーれ、そろそろコタツの方は冷めてきてるだろ、こっちの方があったかいぞー」
水筒を掴もうと伸びて来たニムントールの手をかわして少しずつコタツの外に誘導する。完全にコタツから出たところで、手の届く範囲のちょっとだけ先に水筒を置いた。
ニムントールがぱっと飛びついて水筒を抱え込む。またコタツに潜り込まれないうちに、悠人はニムントールを抱き上げた。
「よっと。じゃ、ちょっとニムを第二詰所に置いて来るわ、エスペリア」
そう言ってニムントールをお姫さまだっこで運んで行く悠人を、指を咥えて見送るエスペリア。
「……うらやましい」

悠人が第二詰所から戻って来てみると、コタツにお尻が生えていた。もとい、エスペリアがコタツに頭を突っ込んで何やらもぞもぞしていた。
「…んっ…おかしいですね…ニムントールはあんなに簡単に…ん…わたくしだって…ユート様に…だ…こ…」
ふりふりふり。エスペリアのお尻が揺れる。……自分じゃわからないかもしれないけど、とってもえっちぃぞ、エスペリア…。
「何してるんだ、エスペリア?」
「きゃっ!? ユート様!?」
ガンッ!
やけにいい音がして、コタツの…もとい、エスペリアの尻がぽてんと倒れた。
「エスペリア!? だ、大丈夫か!?」
…大丈夫じゃなかった。
エスペリアを彼女の自室へ運んで頭に氷嚢を添えてやって居間に戻って来た悠人はしみじみと呟いた。
「どうしてお前らそこまでコタツが好きなんだ…」

やがて意識を取り戻したエスペリアが運ばれる時に意識を失っていたのを悔しがったということを悠人は知らない。
妄想もとい想像しているのと違ってだっこではなくおんぶで運ばれたということをエスペリアは知らない。