さて、ここに一連の炬燵騒動の始まりを、世界の裏側で眺めやる人物が居ました。 
孤軍奮闘の日曜大工に精を出している悠人を見ているのはみんなご存知、時深おねえさんです。 
「ああ、悠人さんたらあんな物を拵えようとするなんて。 
きっとホームシックになってしまったんでしょうね、 
色々と故郷の物が恋しくなる季節ですから」 
ところが、『求め』を使ってテーブルの足を切り始める悠人を見て、ぽかんと口を開いてしまいまいました。 
「永遠神剣であんな事をするなんて。悠人さんが『求め』の悪口を言う資格なんかなくなっちゃいますよ。 
あらあら、どうしたんですかそんなに慌てて。 
まさか、切った足を後でどうするか考えてなかったんじゃないんですか? 
はぁ~、本当に『求め』にいつも言っている言葉を返されてしまうなんて…… 
ん? どうやら何か思いついたみたいですね」 
黙々と作業する悠人の動作一つ一つに息を飲み、手に汗握り自らに実況中継を繰り返します。 
どうにかこうにか悠人が炬燵を完成させた時には、彼以上に疲れ果てた顔を見せていました。 
「ふぅ、やっと形になりましたか。それにしても……」 
そう言う時深おねえさんの脳裏に、数年前の悠人の姿が浮かびます。大体、学校の技術工作の時間でしょうか。 
「あの頃から、デザインセンスはあまり変わりませんねぇ」 
くすくすと、懐かしむような笑みを浮かべて再び完成品に目を向けます。 
それでも、何処と無く味があるように見えるのは想いによる贔屓目になのかもしれません。 
もそもそと自作の炬燵に潜り込む悠人の顔を見て、時深おねえさんに、ポン、と妙案が浮かびました。 
「ふふ、それなら。もしも、私が予定通りにあちらへ行くことになった時には、 
懐かしいものを作って差し上げましょう。きっと悠人さんも喜んでくれるはずです」 
その時の悠人の顔を思い浮かべて、時深おねえさんの顔にはさらに深く笑みが刻まれました。 
目の前に浮かんでいる光景を眺め続けながら、時深おねえさんは炬燵の上のみかんを手に取り、 
三個目になるそれを、ゆっくりとむき始めました、とさ。