その後の緑スピホイホイ

エスペリアがコタツで頭を強打した翌日の朝。
悠人が居間に入ると、エスペリア、アセリア、そして、光陰、ヨーティア、イオまでがコタツで寛いでいた。
「あー…えーと…いろいろ聞きたいことはあるけど……まず、光陰、何でお前がここに居る?」
「ほら、この後、宮中警護だろ? それまで休もうかと思ってな」
「で、イオ…はどうせヨーティアが連れて来たんだろうけど、どうしてヨーティアがここに居るんだ?」
「それはまぁ、あれだよ、科学者というものは常に未知のことに興味を持たねばならんのだ。そもそも科学の心というものはだな…」
「あー、わかったわかった、御託はけっこう。よーするにコタツを研究するとか言うんだろ」
「むっ! 科学の心を理解しないとはなっとらんなぁ、このボンクラが!」
まぁ、とりあえず落ち着こうと腰を下ろしつつ毛布をめくって
「……居るんじゃないかとは思ってたけど…ニム…」
「何っ、ニムントールちゃんが!?」
ガバッと毛布をまくって確認する光陰。
「おぉっ、いつの間にっ、俺としたことが迂闊だったぜ!」
気づいてなかったのか…そう言えばたしかにニムントールは光陰から一番遠い位置に陣取っている。光陰…哀れな奴…というか何がどう迂闊だったんだ、おい。
「もういい加減、第二詰所に連行するだけ無駄な気がするなぁ。でも、ほれ、ニム、せめて頭ぐらいは外に出しとけ」
「う゛~」
毛布からぎりぎり目までを覗かせて睨んでくるニムントール。
「そんな顔してもだーめ。ちゃんと頭出さないと、第二詰所に強制連行、水筒なし。しかもっ、光陰直々にだっ!」
ピョコンッ。瞬時に頭が飛び出て、ふるふるふるふる。…ここまで効くとは思わなかった。光陰がドヨーンと落ち込んでいる気がするがとりあえず忘れる。大丈夫、あいつは強い、少なくとも今日子の稲妻ハリセンを食らっても生きてる程度には。

「ん? あれ? どうしてこんなに温かいんだ?」
ようやく腰を下ろした悠人はすぐにまた疑問にぶつかった。
「なーに、ちょいとイオの『理想』でな」
「おいっ!」
事も無げに答えるヨーティアに神速で悠人が突っ込む。
「コタツを知るのになるべく本来の状態に近くする必要があるわけだが、さすがにエーテルを使うわけにもいかんのでな」
「要するに、さすがの天才様もエーテル無しでは役立たずってことか」
「何だとぉっ! この 大 天才を捕まえて役立たず呼ばわりしようってのかい、こんのボンクラはぁっ!」
「というか、イオは大丈夫なのか?」
どうもヨーティアと話すと止せばいいのにいちいち突っ込んでしまう。適当なところで無視しないと際限ない罵り合いになる。
「えぇ、常に力を使っているわけではありませんし、これ位なら」
冷静で落ち着いた返答。さすがだな。これ位じゃないとヨーティアといつも一緒にいるのは無理なのかもしれない。
「そっか…」
ここで悠人はようやくテーブル…もとい、コタツの上に見慣れぬ物があることに気がついた。いや、どことなく見覚えがあるような気もするのだが。
「これは?」
そう言って手に取った瞬間、悠人の記憶層が刺激された。まさか…いや、しかし…。
「も、もしかして…」
口に入れてみる。しょっぱい。パリン、ボリボリ。
「まさか、『やんわり野菜』?」
「何だ? その『ヤンワリャーサイ』というのは?」
思わず漏れた呟きにすかさずヨーティアが食らいついてきた。
「あ、いや、忘れてくれ。煎餅か?」
固有名詞はきりが無い、一般名詞に留めておかないとな。
「そうそう、その『センベー』さ。コーイン殿が、コタツには欠かせない、と言うんでな。いくつか種類があるらしいが、近い物が再現できそうなものをエスペリア殿とイオに作ってもらったんだ」
「……光陰っ!」
「おうよっ!」
「(*^ー゚)b グッジョブ!!」

翌日にはヨーティアの手によって、エーテルも『理想』も使わない熱源効率の改善が行われた。こうして、うやむやの内に第一詰所のコタツは合法化。第二詰所のコタツの復活も時間の問題だろう。
大天才ヨーティア・リカリオンは今日も科学の道を往く。