回復魔法に止まらぬ血

「シアーが!! シアーが死んじゃう!!」
 ファンタズマゴリアはロウ・エターナルの手から守られ、『再生』の剣も砕けた。
 レスティーナがガロ・リキュア王国の建国を宣言した数日後、光陰と今日子のもとに、ドアを突き破ってネリーが転がり込んできた。
 「遊びに来てくれるなんて嬉しいなー」と言いかけた光陰も、いきなりドアを破壊されて呆気にとられていた今日子も、ネリーの様子を一目見て、ただ事ではない事を理解した。
「シアーを助けて!! 助けてよぉーー!!」
「落ち着けネリー。一体何があったんだ?」
 泣きじゃくるネリーに視線の高さを合わせ、光陰が優しく語る。
 しかし、動転したネリーの言葉は要領を得ない。
 その時、
「コウイン様!!」
 壊れたドアから飛び込んできたのはセリア。
 普段冷静な彼女の慌てようからも、何かとんでもない事態だという事が伝わって来る。
「シアーが倒れました。出血が止まらないんです」
「何!? エスペリアとかハリオンがいるんじゃないのか?」
「駄目なんです。魔法が全く効かないんです。こんな事初めてで、私どももどうしていいのか……」
 俯きかけるセリアに、光陰はやはり慌てず、迅速に質問する。
「場所は、シアーは今どこにいる?」
「第2詰め所のベッドで寝ています」
「解った。すぐ行こう」
「私も行く!!」
 部屋を飛び出した光陰と今日子の前にはアセリア。
「飛んでく。しっかり掴まって」
 セリア、アセリアというウイングハイロゥを持つブルースピリットが来たのはそういう事。
 そしてそれは、一刻を争う事態という事。

 風を切り裂き空を駆ける中、セリアがシアーの状態を語る。
「昨日からみたいなんです。本人は心配かけたくなくて黙ってたみたいで。それを、私達は疲れのせいだと思い、見逃してしまった……」
「本人の様子はどうなんだ?」
「朝食の時にいきなり倒れて……。意識ははっきりしてますが、気持ち悪くて腹痛がすると」
「原因に心当たりは?」
「ありません。同じ物を食べていたと思いますし……戦いも終わってようやく平和になると思っていたのに、どうしてこんな事に……」
「セリア!! お前が弱気になってるんじゃない!!」
「す、すみません」
 セリアが下唇を噛む。
 アセリアと今日子はさっきから黙ったままだ。ネリーも泣きじゃくったまま、後を突いてくるだけ。
 ようやく第2詰め所が見えてくる。
 表でおろおろとしていたエスペリアが光陰達を見つけ、急いでシアーの寝ている部屋に通した。

 で。

 部屋から追い出された光陰が、連絡を受けて慌てて駆けつけてきたヨーティアと一緒にお茶を飲んでいる。
 今日子はスピリットの皆に原因と対処方法を説明中だ。

「しっかし、あせったぜ」
「何を言ってる。人にもよるが本当に辛いんだぞ、あれは。男にゃ死ぬまで解らん事かも知れんがな」
「違いない。しかし、月に一回は必ずか。女も大変だな」
「ま、それが女っつーもんだ。とりあえず今日はお祝いだな」
「赤飯……の代わりに何かあったかな? こっちじゃどういう事するんだ?」
「セキハンというのが何かは知らんが、大人になった祝いだ。酒でいいんじゃないか?」
「いいわけあるか」

 そんな平和の一コマ。