聖夜の祈り

聖ヨト歴332年スリハの月黒ひとつの日。
珍しく朝から冷え込んだその日、悠人はふらっと第二詰め所の裏に来ていた。
そこではみんなが忙しそうに駆け回っている。
「あ、ユートさま!」
いち早く気付いたヘリオンがとてとてと駆け寄ってくる。
「いらっしゃい~、もうすぐ出来ますよ~」
少し離れたところでハリオンも手を止め、微笑みかけてくる。
悠人は少し見上げてほうっと白い息を吐いた。
「お~、なかなか立派になったなぁ~」
「そうだろうそうだろう。ま、これも俺様の努力の賜物がぁっ!」
「な~にが努力よ、ネリーとシアーを追いかけて登ってただけじゃない」
いつの間にか横に立って自慢げに頷いた光陰が今日子にハリセンでシバかれる。相変わらずだ。
「お~いユートさま~」
「ネ、ネリーちゃん、大声出したら危ないよ~」
ぶんぶんと大きく手を振って騒いでいるネリーと慌てて止めようとわたわたするシアー。
悠人は苦笑しながら手を振り返した。

「ユート様、これを」
ファーレーンに渡された銀の十字架を首にかけながら、悠人はまじまじと観察した。
「へ~、良く出来てるじゃないか」
「ん」
「みんなでアセリアに教わりましたから……」
少し照れくさそうにそっぽを向くアセリアとばつが悪そうにもごもごと口籠もるセリア。
「やっぱりこういうのは形から入らないと」
全員お揃いのネックレスが嬉しいのか不思議な言い回しのヒミカ。
「あ~ニムニム、そこ違うよ~」
「う、うるさいわね、ニムニムって言わないでよ!」
はしゃいだオルファに突っ込まれて珍しく顔を真っ赤にしているニムントール。
「ここはこうして……」
「な、なるほど…………」
ウルカとヒミカも戦士としての欣持を今だけは忘れ、楽しそうに準備をしている。
エスペリアが最後の指示を出していた。
「はい、そこでO.K.です、クォーリン」
「…………よっと……よし、完成っ!」
一番高い所に居たクォーリンが巨大な星型のマナ結晶を設置した後飛び降りる。
「「「 完成~~~~~~~!!!!! 」」」
全員から歓声の声があがる。「日溜まりの木」、X'masバージョンの完成だった。

ささやかなパーティーが始まる。
それは戦いが終わり、平和が訪れたファンタズマゴリアを祝うスピリット達のこれからの宴。
悠人はその楽しい雰囲気に酔っていった。
それでも楽しい時間はあっという間に過ぎ、やがて夜も更けてくる。
「さ、準備は良い?」
エスペリアの合図に全員が頷く。胸の十字架を握りながら、各々目を瞑りだした。
先ほどまでの喧騒が嘘のような静寂が辺りを包みこむ。
まず最初にエスペリア、ハリオン、ニムントール、そしてクォーリンがハイロゥを展開する。
呼応した「日溜まりの木」がぽうっと緑色に光り出した。
次にオルファ、ヒミカ、ナナルゥの力を抑えたヒートフロアが辺りを赤くドレスアップした。
ウルカ、ファーレーン、ヘリオンが月の光を強調すると、木の装飾がきらきらと輝きだす。
最後にアセリア、セリア、シアー、ネリーがアイスバニッシャーを同時に唱えた。
「わぁ…………」
今日子が珍しく潤んだ瞳で空を見上げた。ちらちらと舞う白い雪。
「ほぅ…………」
光陰が感嘆の声を上げながら掌をかざす。
神剣魔法を唱え終わった全員がこちらを見て、満面の笑顔で唱和した。
「「「 メリー クリスマス !!! 」」」
ぎゅっと胸元の十字架を握り締める。冷たい筈の金属の感触が、泣きたくなるほど温かかった。
悠人は幻想的な景色の中で優しく輝く「日溜まりの木」に願わずには居られなかった。
どうかこの穏やかな時間が、何時までも続きますように。俺がこの世界から居なくなった後でも、と。