エスペリアの憂鬱Ⅲ

―――スリハの月、黒いつつの日。

ここラキオス王国でも、新年を清々しい気持ちで迎えるべく、皆が一様にせわしなく
年末の大掃除に明け暮れていた。

「...ま、こんなもんか。」悠人は早々に自室の片付けを終えてつぶやいた。
元々自分の持ち物がほとんどない上に、普段からエスペリアが行き届いた掃除をしてくれているお陰である。
「――にしても、今日は特別張り切ってたなあ、エスペリア。」
ここ最近は炬燵にこもる事の多かったエスペリアも、流石に今日は自分が主役とばかり獅子奮迅の活躍を見せている。
「他の様子も見てくるかな。」暇になった悠人は部屋を出た。

「キャッ!」
悠人が詰所の広間に出てきた時、暖炉からドスンという鈍い音とともに、聞き慣れた声の悲鳴が上がった。
「いたた...」腰をさすりながら出てきたのはエスペリアであった。
どうやら煙突掃除の真っ最中だったらしく煤だらけである。
「穴の掃除ってこの事か...。大丈夫か、エスペリア?」
灰だらけで這い出てきたメイド服の少女に、悠人は声を掛けた。
「え...ハッ!?ユ、ユートさま!?も、申し訳ございませんっ!!これはお見苦しいところをっ!!」
「いや、そんな事より、ケガしてないか?」
悠人がそう言いながら引き起こそうとして差し出した手を、しかし、エスペリアは首を振って拒んだ。

「ユートさま...私は汚れています...汚れているのです...。」

「...そりゃ、見れば分かるけどさ。―――ま、とりあえず来年もよろしくな。」
...出来れば新年こそは、関西路線から脱却したい悠人であった。