温かな日差し。さわさわと気持ちのいい風。
木漏れ日の中、足取りも軽く駆け抜ける。
早く帰らなきゃ。そんな気持ちに急かされて。
やがて見えてくる赤い屋根。緑のドア。勢いよく開けるとそこには。
「ただいま、お姉ちゃん。ついでにユートも」
「俺はついでか。まあいいや、ニム、お帰り」
「お帰りなさい、ニム。もう、いいかげんユートさんを呼び捨てにするのはやめて」
苦笑いしながらも迎えてくれる二つの笑顔。寄り添う笑顔。
ベーと舌を出したままユートにしがみつく。柔らかい、落ち着く匂い。
「ユートはユートだもん!ユートだってニムのことニムっていってるし」
「もう、しょうがないですね…………」
「まあまあ、ニムも悪気がある訳じゃなし」
髪を撫ぜられる感覚が気持ちいい。ちょっと硬くて大きい手。頬を胸板に押し付けると暖かくて安心した。
ごろごろと音を立てそうな喉は恥ずかしいのでぐっと抑えておく。
「そうだよ~、ニムはしょうがなく呼び捨てにしてるんだから~」
「何を言ってるの、もう、この子は…………」
「おいニム、こんなトコで寝たら風邪引くぞ~…………」
「お姉ちゃんの大切な人だから…………しょうがなく、なんだ、から…………」
軽く揺さぶっているのはお姉ちゃんだろう。もう、そんなに優しく揺られたらもっと眠くなるじゃない……あれ?
「ニム、ちょっと…………」
「起きろ~お~い…………」
声が段々遠くなる。代わりに激しくなってくる揺れ。浮き上がるような身体。何か頬が熱いような。あれ?あれれ?
ぱちくり。目を開けるとそこには。
「おい、起きろってば、ニム!」
「ユ、ユートさま、もう少し優しくお願いします…………」
心配そうに覗き込んでくる二つの顔。怪訝そうな顔。炬燵から這いずり出してぼーっと見つめる。
「お、起きたかニム。どうやっても起きないから心配したぞ」
「………………」
声を無視して辺りを見回す。見慣れた部屋、見慣れた景色。頭がぼんやりしている。
ユートの顔。横に、お姉ちゃんの顔。もう一度、ユートの顔…………ぺたぺたぺた。
「うわわ!ど、どどどどうしたいきなりっ!」
「ちょ、ちょっとニム、ユートさまから離れなさい!」
うん、間違いない、ユートだ。じゃあさっきの続きをしてもらおう。なんたって気持ちいいから。
ぼふっと胸に顔を埋める。鼻を擦り付けるとユートの匂いがした。柔らかい、落ち着く匂い。
頬擦りする。すりすりすり。やっぱり暖かい。触れた部分がぽかぽかする。ふにゃ~。
「あ、あ、あ、あ…………」
「ま、待てファー落ち着け、ちょ、一体なんなんだっ」
なんか雑音が聞こえるけど、まあいいや。あ~気持ちいい。ほっぺたが暖かくてひりひりする…………ひりひり?
そっと頬を擦ってみる。熱い。なんだろう、腫れてるのかな…………ってなんでっ!?
がばっ。
「うわっ!」「きゃっ!」
声が唱和する。のけぞる二人を見ていたら、だんだん頭がはっきりしてきた。頬に手を当てる。
すりすりすり。うん、確かに腫れている。なるほど。っていうかだんだん頭に血が昇ってきた。
目がじと~と擬音を発し始めているのが自覚出来る。どうやら機嫌が悪いようだ。
あんな良い夢を邪魔されたのだから当然だ。うん、ニムは悪くない。悪いのは…………
「ユ~ト~~~」
「な、なんだニム…………その、怒ってるのか?そりゃ平手はまずかったけど、あれは止むを得ず……」
「ふぅ~~~~」
言い訳なんか聞いてあげない。なんたってニムは気持ちよかったんだから。
唸りつつ、手探りで炬燵の中の『曙光』を掴む。おっと、マナをちゃんと送り込んで、と。
気配を察したユートが後ろに下がる。逃がさないわよ。……お姉ちゃんまで逃げ腰なのはちょっと悲しいけど。
「せっかく良い夢だったのに~~~~~!!!!!」
「うぎゃーーーっっ!!!」
「ちょっとニム、止めなさ~~~いっっ!!」
どたばたどたばた。暴れながら、それでも頬は暖かい。決して腫れていたせいだけじゃないと思うけど。