続・クォーリンの憂鬱

三十分前? 違うなら一時間?
自分の感覚に任せるなら、もう一日が過ぎ去ったような気さえする。
けれど、時間は全然たっていなかったりするものだ。
――それがつらい事なら、なおさら。
「いやぁぁぁ! ……もう、もう、いやぁぁぁぁぁ!」
「今日子、しっかりしろ! 今日子!」
二つの悲痛な叫びを聞きながら、私は何も出来ずにただ立っている。
歯がゆい。手を合わせて祈ってみるけれど、そんなのはなんの助けにならないなんてこと、
当の昔に気づいているはずなのに。
「やめて、やめて! 私は、殺したくなんかないのにぃぃ!」
「くそっ! おい<因果>! なんとかできねぇのかよ!」
何時も冷静沈着なコウイン様が、こんなに感情的なのが事の必死さを伝えてくる。
――でも、私は何も出来ないのだ。
「ああああああああ!!!!」
キョウコ様のこの世全てを呪うかのような叫び。

――違う。キョウコ様が呪うなら、私。
グリーンスピリットなのに救える事すら出来ない、私。
そして、キョウコ様に<空虚>を使うことを強要するマロリガンそのもの。
「……ふぅ。――クォーリン、いたのか」
「あ、あの。キョウコ様は……?」
部屋から出てきたコウイン様に、キョウコ様の様子を尋ねる。
「ああ、寝ちまったよ。<空虚>もこれ以上は、今日子の肉体に負担が
大きいって気づいたんだろ。今までは苦痛を与えてただけなんだがな。
今日子の精神に目ぇつけやがった」
「………………」
無言で俯く私の頭をコウイン様が大きな手で撫でる。
「気にするな、とは言わねぇ」
「――――え?」
「その分祈ってくれや。な?」
顔を上げた私の視界に入ってきたのは、コウイン様の笑み。
「……は、はい!」
自分のしていた行為が、役にたっている。
そんな風に考えてもらえている。そのことが嬉しくて、私は――

 

 
「へぇ、なるほどなぁ」
「自分も少なからず神剣の干渉を受けていらしたようですけれど、全くそんな
素振りをされなくて。知っているのは稲妻部隊では私だけなんですよ」
ふふ……、と嬉しそうにクォーリンが言う。
第一詰め所でのお茶会。マロリガンのことを聞いているうちに話が脱線して、
何時の間にか光陰と今日子の話になった。
友達だからこそ見えないこと、とでも言おうか。クォーリンの話は、
とても興味深かった。
ちらり、と庭の方を見遣る。
「ニムちゃーん。シアーちゃーん。ネリーちゃーん」
年少組はお茶会もそこそこに、庭で遊んでいる。一人邪魔だな。
「コウイン様は他人だけでなく、自身も大切になさるお方ですから……」
満面の微笑みでクォーリンが言う。
全員が全員、深い深ーいため息をついた事は言うまでもない。