献身の理由

神剣は、心を飲み込む。強大な剣程その力は大きい。
力を振るえば振るう程、蝕まれる心。闇に一歩ずつ近づく。
そんな姿は見たく無い。出来れば戦っては欲しくない。
だけど、貴方はきっと戦う。守る為に。自分を捨てても。
だから、わたくしは盾になります。
アセリアが、剣になる様に。それがスピリットなのだから。

 ――――俺も、戦うよ!
そんな一言で、こんなに動揺するなんて思いませんでした。
ミルクを温める手が震える。いけない。笑わなくちゃ。
軽く自分の頭を叩いて気を取り直す。

 ――――スピリットだって、女の子だろ?
そんな嬉しい言葉を仰らないで下さい。汚れた自分には過ぎます。
そう、私は汚れている。あの時、汚れてしまったのだから。
浮き上がる泡の白、綯交ぜに織り上げられる心。
コップに移したミルクに甘く味付けをする。お盆に載せながら、決心した。
あの優しい少年を、きっと守ってみせる。たとえマナの霧となっても。
それがラスク様への、せめてもの恩返しになるかも知れないから……

肩を叩く。まだ起きてると、寝ぼけた様な口調が可愛らしい。
「ふふ……本当は、もう眠られたほうがよろしいんですよ……?」
自然に笑みが零れる。穏かな夜、つかの間の刻。
カップを受け取りながら、不思議そうな顔で貴方は言います。
「ありがとう……って、エスペリアはいいのか?」
きっと、伝わらないでしょう。少々鈍い貴方だから。
でも、それでもいい。言葉の意味は、伝えるものだけではないから。

 ――ありがとうございます、ユートさま。わたくしは……大丈夫ですよ。

それが神剣を持つ、ささやかな理由になるのだから…………