「ヘリオンー。あんたはいいわよねぇ。皆から可愛がられてるし。甘え上手だしー」
「――や、止め。セリアさん。止めてください」
「いいじゃないのよー」
「良くないです!」
なんでこんな目に? と思いながら、抱きついてくるセリアから逃れようともがく。
アセリアとの見回りを終えて、やっとのことで帰ってきたのだ。
ウイングハイロゥを展開して、ヘリオンのことなど知ったことか、
とばかりに疾走していくアセリアを追いかけて追いかけて。
もうクタクタのぐでぐで。疲れてるんです。寝たいです。
――というか。
「けほ。……セリアさん酒くさいですよ? 酔ってますね?」
「何言ってるのよー。酔ってない、まだ飲めるー」
何で酔っ払いは自分が酔ってることを認めたがらないんだろう、なんて思いながら、
セリアをずるずると引っ張って浴場へ向かっていく。
冷たいシャワー浴びせれば、たぶん正気に戻るに違いない。
「うー。ヘリアンどこ行くのよー」
「はいはい。動かないでくださいね」
お姉さん風を吹かせながらヘリオンが言う。
最年少はニムントールなのに、そう扱われることが多い彼女は、
それが少しコンプレックスで前から妹的存在が欲しいと思っていたのだ。
「あたっ」
「んぐっ」
――まぁ、何も無いところでころべる様なドジっ娘なら、
妹が出来ても逆に世話されそうではあるが。
「いたた。すみませんセリアさん。ころんじゃいました」
あはは、とから笑いしながらヘリオンが立ち上がる。
セリアの方を見ると、うつ伏せに倒れていた。
申し訳なく思いながら、右腕を掴んで無理やり立ち上がらせる。
――その時、セリアと目があった。
潤んでいるように見えるのは、ヘリオンの気のせいか。場違いにも綺麗だな、
と見とれてしまったヘリオンは、次のセリアの行動に対応することが出来なかった。
「――――ユート」
うっとりと目を細めて、セリアが抱きついてくる。
「――――!!」
本能が危険だと激しく警告を鳴らす。第二詰め所に帰ってきた時に襲ってきたセリアと、
今のセリアは違う。それはもう全然。完璧に。
それに、とヘリオンは思った。セリアさんてば、私とユート様を勘違いしてる……?
「ん――」
キスをねだるようにセリアが顔を近づけてくる。
貞操の危機! セリアを振りほどこうと、本気で突き放そうとする。
けれど、それもセリアの前では儚い抵抗でしかなかった。
「むーだ」
くすくす、と少女のように笑いながらセリアが言う。
顔面を蒼白にしたヘリオンは、大声を出そうとして――――唇を塞がれた。
「んー。ん、んんー―――」
ヘリオンが目を見開く。ショックで一瞬放心する。と、
「んんんんん……あ、んっ、ん、うむ」
「ん……んく、はむ……んっ」
口内に何かが入ってくる。
それがセリアの舌だと分かったときには、時すでに遅し。
ヘリオンはもう、なすがままだった。
「ん……んん……!? んうぅぅぅ!」
「はむ………。ん、ん……あ」
妖艶な笑みを浮かべながら、セリアの顔が遠ざかって行く。
惚けた表情で、ヘリオンがだらんと脱力する。
それを、全く苦にせず片手でセリアが支える。
「もう一回……する?」
笑みを全く崩さずに、セリアが言う。コクコクと、ヘリオンは頷いた。
「それじゃあ。舌、出して」
「――え? あ……」
ふるふる、とヘリオンが首を振る。
そんな恥ずかしいことできない、とばかりにヘリオンの顔は真っ赤に染まっている。
それを、全く変わることない笑みで黙殺すると、
「――止めて良いの?」
「ん――――」
止めないで、とばかりにヘリオンは舌を伸ばす。
セリアと唇が再び合わされ――――。
「――クォーリン。一つ聞いても良い?」
「ええ。かまいませんけど」
「なんかさ。ヘリオンの私に対する態度って最近変じゃない?」
「そうですか? ――まぁ、言われてみれば確かに」
「たまに、『お姉さま』ってヘリオンが言ってるのが聞こえてくるのよ」
「――事実じゃないですか。慕われているんでしょう。喜んだらいいじゃないですか」
「私に向ける視線も変なのよ。判りやすくいうと、ニムに対する光陰さまの視線」
「普通じゃないですか」
「ごめん。この質問はあんたには通じないんだった」
「――どうゆうことですか?」
「気にしないで。それでさ、心当たりある?」
「いいえ、全く」
「――そうよね。はぁ、困ったなぁ」
「困るんですか?」
「とっても。はぁ、私にも全然心当たりないし。まぁいいわ。エスペリアにも聞いてみる」
「そうですか。それじゃ」
「うん。ありがと。それじゃ」