ア&セリア子供劇場Ⅷ

アセリアとセリアは幼馴染です。
二人は物心ついた頃、一緒にエルスサーオに転送されてきました。
以来、遊ぶのもご飯を食べるのも訓練を受けるのも寝るのもいつもいつも一緒。
同じ青スピリットだったこともあり、二人は絵に描いたような仲良しさん……とはいきませんでした。
生まれた時から何を考えているかよく判らないアセリアはともかく、
セリアは何をやっても敵わないアセリアを密かに敵対視していました。いけませんね。

ある日のこと。
二人は詰め所内の掃除を命じられました。
エスペリアお姉ちゃんが用事で出かけている間に終わらせるように、とのお達しです。
…………どうでもいいですが、本当に無事掃除が終わるとでも思っていたのでしょうか。
もしかしたら何か激しい勘違いをしていたのかも知れません。エスペリアだし。
ああ、そんなことよりさっそく箒の奪い合いを始めましたね。応接間の主導権争い真っ最中の様子。
「だからわたしがここを掃除するのっ!」
「セリアは台所を掃除する。だからここはわたしがやる」
「いいのっ!ここはわたしがやるのっ!」
「二人で分担した方が早い。セリアはあっち」
「いいから貸しなさいってばっ!」
…………どうしてそんなに応接間に拘るのでしょう。
命じられた掃除に意欲満々なのは感心しますが、子供の縄張り意識というのはどうも良く理解出来ません。

暫く睨み合っていた二人でしたが、う~っと低く唸ったセリアがぷいと横を向いた所で決着が付きました。
「アセリアなんて知らないっ!」
そして捨て台詞を吐きながらどすどすと大股で台所の方へ歩いていくセリア。
その後姿ははしたない事この上ありません。女の子としての嗜みがまだまだなお年頃。いけませんね。
アセリアはというと無表情でその様子を見送っていますがどう思っているのでしょう。
「……………………」
どうやら何も考えてないようです。鉄仮面健在。無言で戦利品の箒を何時までもこねくり回しているだけです。
もしかしたら勝利の余韻に浸っているのかも。…………いいからさっさと掃除をしなさいよ。

さて。
しぶしぶ台所に到着したセリアは、そこで真の惨劇というのを見ました。
よく判らない材料をよく判らない調理で台無しにした後暴風が駆け抜けて行ったとか、そんな感じの。
考えます。そういえば、掃除を命じたエスペリアお姉ちゃんの顔が引きつってました。
更に考えます。そういえば、昼前辺りからアセリアの様子が変でした。何か落ち込んでいる様な。
ぴろぴろぴ~ん。頭で擬音が聞こえた様な気がしました。正解。アセリアにハメられました。
棒立ちになっているセリアのポニテがざわ、と逆立ちます。『熱病』が赤いマナで光り出しました。
おお、あれだけ使いこなす事の出来なかった『熱病』が素直に呼応しています。セリアのレベルが上がりました。
「~~~ふんっ!!!」
鼻息荒く気合を入れたセリアはそのままアセリアを撲…………おや?何か様子が変ですね。
いきなり袖捲くりを始めたと思うと、だぶついた半袖を大きめのロールアップで細い肩に巻き上げていきます。
手甲とブーツも脱ぎ捨てました。関係ありませんが襟元をくつろげると真っ白な鎖骨が目に眩しいですね。
ついでと言わんばかりに青ストをくるくると脱ぎ捨て、上着のスリットも腰の辺りで巻いて短くしてます。
最後に傍らに掛かっていたエスペリアお姉ちゃんの大きすぎるエプロン(フリル付き)を首から掛けました。
どうやらアセリアの後始末を引き受ける決心をしたようです。服が汚れない様に装備したつもりなのでしょう。
どういう心境の変化かは知りませんが、セリアそれではまるで裸エプロンです。大変よく出来ました。

元気の無いアセリアの顔を思い出しながら健気にこしこしと床をふきふきするセリア。
素直になれない優しさが彼女の真の魅力です。エプロンから見え隠れする蒼の水玉パンツなんて目じゃありません。
ふりふりするかわいいお尻や、開かれた襟元でささやかに揺れる未成熟な谷間など及びもつかないものです。
華奢な白い腕や薄っすら浮かんだ幼い鎖骨や意外とボリュームのあるしっとりと汗ばんだ太腿もうたまりません。

…………壊れそうなのでアセリアの方へ視点を向けて見ましょう。
うんうん、真面目に掃除を始めている様子です。ざっざっと箒の擦れる音がリズム良く聞こえてきます。いい感じです。
「…………ん?」
おや、何か見つけた様ですね。棚に飾ってあるティーカップセットに近づいていくようです。
「……………………」
じっと見つめたまま何かを考えています。どうしたのでしょう。あ、ソーサーを手にとってかざしました。
…………あらら、割れてますね。真っ二つ。どうやら誰かが壊したまま隠していた様です。
アセリアは考えます。そういえば、朝からエスペリアお姉ちゃんがしょんぼりしてました。
だから元気を出して貰おうとお姉ちゃんの替わりにお昼ご飯を作ろうとして失敗した訳ですが。
それは置いといて更に考えます。そういえば、昨日の夜からセリアが妙にそわそわと落ち着きがありませんでした。
ぴろぴろぴ~ん。頭で擬音が聞こえた様な気がしました。正解。セリアが壊して隠していたのです。
アセリアは黙って台所の方へ目を向けました。しゃがみ込んだセリアの脹脛だけが動いています。はぁはぁ。じゃなくて。
何も言わずに自分の後始末をしてくれているセリア。アセリアは決心がつきました。
「………………うん」
ぱっとソーサーを空中に浮かせます。そして持っていた箒を両手で握り直し、脇を締めて…………フルスイング。
がしゃああああああん。
哀れエスペリアお姉ちゃんお気に入りのソーサーはアセリアによってこなごなに砕け散りました。大変よく出来ました。

応接間の方から聞こえてきた破壊音にびくっと跳ね上がったセリアは驚いて台所を飛び出しました。
するとそこにはスイングの余韻に浸っているアセリアと散乱した陶器の破片。
口を半開きにさせたまま事態を把握できないセリアに、気付いて振り向いたアセリアがぼそっと言いました。
「ごめん。壊した」
「アセリア…………これって…………」
足元の破片を手に取りながらセリアが呟きます。
一瞬でアセリアの意図を悟ったセリアは、胸がいっぱいでそれ以上暫く何も言えませんでした。
じ~んと涙が零れ落ちそうになって慌てて深呼吸。ふうっと息をついて無理矢理苦笑いを浮かべます。
「…………一緒に片付けよ?」
「…………ん」
二人は一緒に応接間を掃除しました。もちろんその後台所も。

帰ってきたエスペリアお姉ちゃんは何も言いませんでした。
ただ黙って二人の頭を撫ぜてくれました。珍しく大人の対応でした。大変よく出来ました。
ところでアセリア、どうして野球を知っているのかな?


エスペリア「あの時は本当に悲しかった……台所は使用不能になるしお気に入りは壊されるし」
セリア「だからりゅうりゅうと『献身』をしごかないでよ……悪かったって思ってるから…………」
ハリオン「あらあら~、セリアさんって意外とお転婆さんだったんですね~」
ネリー「セリアお姉ちゃん、ネリーが廊下走ってたら怒った~!」
シアー「シ、シアーも応接間で騒いでたら怒られたよ…………?」
ナナルゥ「これでは年少組を躾けても説得力ありませんね」
ウルカ「因果応報…………というやつでしょうか」
ニムントール「大人ってずるいよね」
ファーレーン「こらニム、つまらなそうに言いながら炬燵に潜り込まないで」
ヒミカ「う~んこれはフォローしようがないかな」
セリア「 ア ン タ が 書 い た ん で し ょ う が っ ! 」
アセリア「セリア、なぜ、怒る?これ、セリアとわたしの大切な想い出」
セリア「そうね~大切な二人だけの想い出よね~その大事な想い出を他の人にぺらぺら喋るのはこの口かしら~?」
アセリア「ヒェリアひひゃい、ひっひゃらへるといひゃいぞ」