デレセリア

「えへ、……ふふふふふふふふ」
この上もなく幸せそうに頬を緩めながら、セリアが悠人に抱きつく。
一瞬、困ったような表情を浮かべた悠人は、けれど、セリアの為すがままにベッドに倒れこむ。
トンッ、という軽やかな音が悠人とセリアを歓迎する。仕方ないな、なんて雰囲気を滲ませながら、
胸に抱きついているセリアの髪を悠人が掻きあげた。
お風呂からあがったばかりだから、少し濡れている。
どんな風に思われているのかセリアは不安だったけれど、顔をあげて確かめる勇気はなかった。
それよりも、悠人に髪を掻きあげられている現実の方が重要だった。
本音を言えば、抱きしめ返して欲しかったけれど。
「――なぁ、セリア」
おずおずと悠人が切り出す。
「…………何?」
「離れられないか?」
「いや」
駄々をこねる子供のようにセリアが答える。
ぎゅ、と強く悠人に抱きつく仕草は、まさに子供そのもの。
これからするであろう行為を考えれば、離れないければいけないのは明白。
身動きできない体勢でセリアが抱きついているのだ。
一回離れて、仕切りなおしをしなければ、次のステップには進めない。
――それは、分かる。分かるんだけれども、もし、離れたら、これが夢で終わってしまいそうで……
「……離れない。ずっとこのまま」
悠人の胸に顔を押し付けてセリアが言う。はぁ、というため息が聞こえた後、
「――分かったよ。セリアの準備が整うまでずっと抱きしめててやるから」
背中に腕が回される感触。心地よい幸福感に包まれながら、セリアは意識が遠くなって行くのを、
まるで他人事のように考えていた。

目が覚める。映るのは天井。それも悠人の方じゃなくて、変わりない自分の方。
寝起きは良い方だ。だから分かった。今のが夢だということに。
「――――ううううう」
涙が流れないように必死に耐えながら、バンバンとベッドに八つ当たりする。
「う、うぇ……」
――だめだ、耐えられない。
夢にリアリティが在り過ぎた。
お風呂の前にキスをしたのも覚えているし、されたのも覚えている。
どう考えても、夢なんかじゃない。
抱きしめられた時の幸せも覚えているし、抱きしめたときの暖かさも覚えている。
――だからこそ、ダメージが大きすぎる。なぜなら悠人は、一昨日からマロリガンに行っているのだ。
どうして、自分と蜜月をすごせよう。
ぼろぼろと涙を流しながら、ベッドから出る。
「……裸?」
おかしい。昨日は――――あれ? 思い出せない。
たしか、クォーリンのやけ酒に付き合ったんだ。二回目の。
て、ことは…………?
「あ、『お姉様』。おはようございます」
顎が外れんばかりに、セリアが驚く。
居たのは、同じく裸のヘリオンだった。