お洒落セリア

「私って、特徴らしい特徴がないんじゃないかしら…?」
「…人の部屋に押しかけて、開口一番何ですかソレは」
ここはラキオススピリット部隊第2詰め所。その1室、ナナルゥの部屋である。
簡素ながらも鏡台、クローゼット、テーブル等、一通りのものは揃っている。
ちなみにテーブルはちょうど部屋の真ん中に置かれていて、そこで向かい合ってセリアとナナルゥが今現在、会話の真っ最中である。
「だから、ネリーの3連へヴンズスォード、ヘリオンのダメージ付きアイアンメイデン、ヒミカの赤属性攻撃とか、皆これぞ!って技を持ってるのに比べて、私ってただバランスがいいだけって気がするのよ」
「必殺技が欲しいんですか?それなら特訓して、飛天御○流でも第7センスでも勝手に開眼してください」
「…もしかして馬鹿にしてる?」
「してます」
にべもない台詞に、セリアは思わず絶句してしまった。
言葉が出てこないので、とりあえず溢れんばかりの怒気を目の前の人物にぶつけてみる。しかし、ナナルゥはそんな事は意にも介さず言葉を続ける。
「まあ、あなたの言いたいことは大体察しが着きます。つまり、皆には突出した個性があるのに自分にはない、とそう言いたいのでしょう?」
「…そうよ」

「確かに、戦闘データだけ見ればそうかもしれません。ですが性格としての個性なら、十分他の人に負けないものを持ってると思いますが。何も問題はないでしょう」
「負けないだけじゃ駄目なのよ、何か差をつけるものがないと…」
「何で駄目なんですか?」
「うっ、そ、それは…」
言葉に詰まるセリア。沈黙。
そして、会話としてはかなり不自然な間を置いてからようやく、
「…別に。ただちょっとこのままだと皆の中に埋もれちゃうな~とか、地味だな~とか思っただけよ」
歯切れ悪くそれだけ言うと、プイとそっぽを向いてしまった。何故か、顔を赤くしながら。
「……ユートさまですか」
「!!そ、そんな事一言も言ってないでしょ!?最近へリオンが妙にユートさまと仲良さそうにしてるとか、エスペリアやファーレーンのユートさまを見る目つきが怪しいとか、私は全然気にしてな…」
そこまで言って、セリアは猛烈に自爆したことに気が付いた。が、全ては後の祭りだった。
思ってたことを、こうはっきり口に出しては弁解の仕様がない。

「全く、あなたは分かり易いですね」
「うぅ…わ、悪かったわね、分かり易くて…」
セリアは、真っ赤になって俯いてしまう。
(こーゆー所、本当に魅力的な性格だと思いますけど…ま、言わないでおきましょう。
言ったところでどうせ怒るだけでしょうし)
そんな事を考えて、思わず苦笑してしまうナナルゥだった。
「まあ、いいです。それじゃ、始めましょう。」
「え…?」
「剣技も性格も一朝一夕では変えられないけれど、外見だけなら比較的簡単に変えられる。
それで私の所に来た。違いますか、セリア?」
「あ…」
常に前線で戦うスピリットたちにとって、化粧をするといった事や、綺麗な服で着飾るといった事は、ほぼ無縁である。
しかし、そこは変わり者(?)のナナルゥ、化粧やら服やら何故かたくさん持っているのだった。
で、セリアがナナルゥの部屋を訪れたのも、確かにその事に起因している。
とゆーか、ナナルゥの言うことは、そのまんま図星であったわけだが…
「それはそーなんだけど…。何か癪だなぁ…」
どうにも初めから全て見透かされていたようで、納得できないセリアであった。
「ハイハイ。分かりましたから、とっととクローゼットから好きな服を選んで、鏡台の前に座ってください」
ナナルゥに促され、渋々といった感じでセリアは席を立つ。

「そう言えばリクエストはありますか?どう変わりたいとか、何かあるでしょう」
「え、えーと、その…」
一瞬躊躇するセリアだったが、続けて蚊の鳴くような声で答えた。
「…か、可愛く見えるように、して欲しい…」

 間。

「成る程。初対面で『あなたは指揮官として信用できません、逝ね』とか言ったものだから、それ以降何か冷たく見られてるっぽいな~とか思ってたわけですか、ずっと」
「ひ、人の心を読むな~!!って言うか、そこまで非道くは言ってない!!」
語気を荒くするセリア。しかし、それを向けられているはずのナナルゥは、やはり何ら意に介した様子も見せずに飄々としている。
「……全く、あなただって最初は全然喋らなかったくせに…。どこでどう間違ってこうなったんだか」
「…ユートさまのせいでしょう」
「え?それって…」
もう1度後ろを振り向こうとしたセリアだったが、ナナルゥに制される。
「冗談です。皆があまりに騒がしいから、毒されただけですよ」
いまいち釈然としないセリアだったが、
「それより動かないで下さい。始めますから」
というナナルゥの言葉にしたがって、じっとしている事にした。

―2時間後―
メイクアップが終わったセリアは、何とゆーか既に一目ではセリアとわからない容姿になっていた。
「なかなかイイ感じに仕上がりましたね」
「そ、そうかしら…?私には、ひたすら似合わなく見えるんだけど…」
「そんな事ないですよ。もう少し、自分に自信を持って下さい」

髪-ポニーテールを下ろして、ストレートに。
大きなリボン、所々に小さなリボンもついている。
顔-アイライン等メイクの効果か、柔らかく少し幼くなった印象を受ける。
服-フリルがたくさんついたワンピース。白を基調として、水色も入っている。
  セリアから見て、一番可愛い服らしい。
胸-据え置き(笑

「う~ん…自分から言い出してなんだけど、やっぱ柄じゃないわ…」
立ち上がりながら、伸びをするセリア。
2時間座りっぱなしでじっとしていたので、さすがに疲れた様だった。
「私は良いと思うんですけどね」
ナナルゥは少々残念そうな表情を見せながら、化粧道具を片付け始めている。
コンコン
ちょうどその時、部屋のドアをノックする音がした。

「…今日は千客万来ですね。すみませんがセリア、出てもらえますか?」
「うぇ~…この格好で、あんまり人に会いたくないなぁ…」
渋るセリアだったが、頼み事をした手前こんな些細な要求を断るわけにもいかない。
しかし、セリアがドアの前に立つよりも早く、外にいた人物はドアを開けて中に入ってきた。
「入るぞ、ナナルゥ。セリアがここにいるって、ヒミカから聞いてきたんだ…けど…」
「ユ、ユートさま!?」
部屋の外にいた人物が悠人だったとは微塵も予想せず、セリアは思わず声を上げたまま硬直してしまう。一方、驚いたという点では悠人も全く同じだった様だが、セリアよりは冷静なのか、すぐに言葉を紡いだ。
「…………その声、セリア…なのか?」
(しまった!黙ったまま、ナナルゥに知り合いの青スピリットだとか何とかフォローしてもらえば良かった…)
かなり無理がある。大体悠人は、セリアがここにいると聞いて来たのだから、ごまかし様もない。が、今現在のパニック寸前のセリアに冷静な思考を求める方が酷という物である。
「ち、違うんです!こ、これは、その魔が刺したとゆーか…いえ!そーじゃなくて、あの、その……」
最早、自分でも何を言ってるのかよくわからないセリア。半分涙目で、まるでいたずらがばれて親に叱られる子供のようだった。
けれど、そんなセリアの心境を知ってか知らずか、悠人は笑顔でこう言った。
「驚いたな…。普段の凛々しい姿もいいけど、その格好もすごく似合ってる」

「……えっ!?」
セリアは耳を疑った。聞き間違い、もしくは幻聴じゃないだろうか…ついつい、そんなことを考えてしまう。そっちの方が、よほど納得がいくからである。
「ユートさま、今何て…?」
「ん?いや、似合ってるって。すごく可愛いよ」
……どうやら聞き間違いではないらしい。とすると、これは夢か妄想…?
とりあえず、頬をつねってみる。痛い。=夢じゃない。
「ユ、ユートさま、嘘ついてませんか!?」
「ついてないって」
苦笑する悠人の言葉を聞いて、ようやくセリアはこれが現実だと認識する。そして、喜びが胸の内に湧き上がってくると同時に、気恥ずかしさを憶えて、耳の先まで真っ赤になってしまう。顔から火が出そうというのは、こういう状態を言うのであろうか。
そんなセリアを見て悠人も少し照れている様だったが、ここに来た用事を思い出し口を開いた。
「あー、あのさ。そう言えば部隊編成の事で話したいことがあったんだ。後で、部屋に来てくれないか?できれば、その格好の方が嬉しいな」
「は、はい!い、今すぐで大丈夫です!」
悠人は頷くと、ナナルゥと二言三言簡単に言葉を交わして部屋を出て行く。
セリアも慌ててその後に続こうとして、思い出したように立ち止まり振り返る。
「ありがとう、ナナルゥ!私も…もう少しだけ自信持ってみるね!」
それだけ言うと、セリアは足早に去っていった。

それから―
その後、悠人と妙な格好をしながらも幸せそうなセリアが、2人でいるところが度々目撃されたと言う。
「色恋沙汰は当人同士の問題。手前どもがとやかく言う筋合いはないでしょう」
「ん」
「全く、今は大切な時期なのに…恋愛なんてもっての他です!」
「エ、エスペリアお姉ちゃん、なんか怖いよ~?」
「ネリーも、あーゆー可愛い服着たいなー♪」
「…シ、シアーも~」
「ユートが誰と一緒に居ようが、二ムは別に構わないけど、お姉ちゃんが部屋に篭っちゃうのが困る…」
「あらあら~、そ~言えばヒミカさんも部屋から出て来ませんね~」
「ハァ、羨ましいなぁ…私も、もっと背が高くて魅力があればなぁ…」
「ヘリオンちゃん、君の魅力は俺が知っている!俺に任せろ!!さあ、この胸に飛び込んで来るんだ!!」
「で、その後はどーするわけ?」
「そりゃもちろん、熱い抱擁、熱いヴェーゼ、そのままベッドへGO!って、ハッ!?」
「とりあえず、死んどけぇぇッ!!!」
「ぶげらッ!?」
「ああっ、コーイン様~!!」
落ち込む者、羨む者、興味のない者、2人に関して皆の意見は様々だったが、概ね問題はなかった。(約1名、星になりかけたが、自業自得なので割愛)

「まあ、一応ハッピーエンド、なんですかね…?」
並んで歩く悠人とセリアの二人を遠くから眺めながら、ナナルゥはそっと微笑む。
その微笑みはとても優しく、けれど同時にどこか寂しげにも見えるのだった。