―――第一詰所。
それはある朝、唐突に幕を開けた。先に食卓に座っていた蒼いストレートヘアの少女が、
寝ぼけ眼の悠人を衝撃的な言葉とともに出迎える。
「......ん、おんじい。」
―――何だ?何が起こったんだ?
口をぱくぱくさせて、現実が受け入れられずにいる悠人に、次々と追い打ちがかかった。
「あ、これは祖父殿。」
―――ウルカ、お前まで、どうしたってんだ!?
「ご朝食の準備が出来ております、おじいさま。」
―――エスペリアまで!?
「エトランジェ・グランパ、このたびの任務遂行、大儀でありました。
昨夜は良く眠れましたか?」
―――朝っぱらから、何故ここに居る?
頭の中が真っ白になった悠人は、居合わせた少女たちの顔をせわしなく見比べながら、
この事態の説明を一体誰に頼むべきか迷った。
そう言えば、悠人が妹タイプ好みというデマ(?)が広がった時に、
詰所中のスピリット達が一斉に悠人を兄呼ばわりした事があったが、今回のは違う気がする。
いくら何でも孫フェチなんて聞いた事が無いし、思い当たるような言動をとった覚えも皆無であった。
――ん?そういや一人足りない?
悠人が気付いたまさにその時、いつもは活発な赤い少女が、しょんぼりとした足取りで食堂に入ってきた。
「あ―――、パパ。」
茫然と立ちすくむ悠人に気付き、うつむいていたその顔を上げて声を発したその少女だけは、
いつもの呼びかけ方を変えていない。
口調こそ沈んではいるが、どうやらこの異常事態には巻き込まれていないようだ。
ほんの少しだけ冷静さを取り戻した悠人は、今自分が見舞われている事態の真相よりむしろ、
オルファの様子のほうが気になり始めた。
「どうしたんだ、ずいぶん顔色が悪いぞ、オルファ。どっか具合でも悪いのか?」
幼い妖精が力なく首を振る。部屋中に気まずい沈黙が流れた。
まさかとってもイケナイ事を訊いてしまったのだろうか?確かにオルファが人間ならば、
そろそろ始まってもおかしくない年頃である。
しかしスピリットには確か生殖能力が無く、したがってそういう事も有り得ない筈であった。
ややあって、赤い妖精がゆっくりと口を開いた。寂しげな、笑みを浮かべながら。
「オルファね...気が付いちゃったんだ。」
「き、気が付いたって...何を?」
思わず固唾を飲んで、悠人は続く言葉を待った。
「笑っちゃうよね、パパ...。オルファ、みんなのママだったんだよ...。」
「なるほど!それでつまり、俺はみんなのおじいちゃんってわけか!...それもやだなあ。」
すべての事に得心が行き、膝を打った後、オルファ同様に肩を落とした悠人はポツリとつぶやいた。
「―――それにレスティーナは関係ないだろ、レスティーナは。」