「ここも、誰もいなくなってしまいましたね」
かつて多くの人がいた世界に、時深はひとりたたずんでいた。
その人達も今や、新天地で楽しく過ごしている。
「……いつかはここも完全に忘れ去られ、無かった事になってしまうのでしょうか」
思わず口から出た自らの言葉に、いや、と時深はかぶりを振った。
時を改竄してなお『求め』のカケラを持ち続けていた佳織を思い出す。
人は前に向かい、進み続ける。
時が経てば、忘れてしまう事もあるだろう。
でも、それでいい。
例え人の記憶から忘れられたとしても、人の魂に何かは残る。
過ごした日々の積み重ねが、間違い無くその人を形作っているのだから。
自然に浮かぶ笑み。
「さて、私も行きましょうか」
未来に何が待っているのか、未来視の目をもってしてもはっきりとは判らない。
だから、積み重ねた過去の上に、未来に向かって、今を精一杯に生きる。
未来を見ても、過去を思い出しても、出来る事は結局今に帰結するのだ。
時深はすっと背筋を伸ばし、迷いの無い足取りで歩き出した。
永遠に続く道を、一歩ずつ。