―――ラキオススピリット訓練場内 
「……遅いな」 
俺は、人を待っていた。もちろん訓練場で待っているのだから、訓練をするためだ。 
一つ説明しておくと、ここ最近の訓練は一日ごとに相手を変えての模擬戦、という形をとっている。 
今日の俺の相手は、ただ今遅刻真っ最中のハリオンだ。 
ローテーションを組んだのも、それを紙に書いて第一、第二詰所に貼ったのも、自分自身である。 
ハリオンが相手という点に、間違いはない。今朝もしっかり確認した。 
しかし、来ない。待てど暮らせど、一向にハリオンが姿を現す様子がない。 
既に、他の皆は訓練を始めており、相手の居ないのは自分のみ、そんな状況だった。 
激しく金属同士をぶつける音が、そこかしこから聞こえてくる。 
……まいったな。まさかとは思うけど体調を崩して寝こんでるとか? 
いや、それならそれで、誰かが気付いて俺に報告して来ないのはおかしいし……。 
仕方ないので、休憩中のセリアとナナルゥに聞いてみることにした。 
「なあ、二人とも。ハリオンがどうしてるか知らないか?」 
「え、ハリオンですか?一緒に朝食は摂りましたけど。…もしかして、二度寝してるとか」 
んな馬鹿な。いや、でも相手はあのハリオンだ。 
二度寝していても、何ら不思議はない。(失礼) 
とりあえず、セリアの相方にも「知ってるか?」と、視線で問うてみる。 
どうやら伝わったらしく、ナナルゥは首を振りながら答えを返す。 
「部屋に戻るのは見たのですが。…でも、今日のセリアの下着の色なら知ってます。 
水色のストライプです。」 
「な、ななななな……!!」 
何でもない事の様に、しれっと言うナナルゥ。 
それに対して、セリアは言葉も出ないようで、口をパクパクさせている。 
で、何か知らないがまだ続きがあるらしい。 
「しかも、昨日の夜などはベッドで…」 
ブチッ、何かが切れる音がした。 
「…殺す。あんたは、ぜ~~ったい殺す!!そこ、動くなぁッ!!!」 
言葉と共に、『熱病』に手を掛けるセリア。 
が、その時点で既に、ナナルゥは30m程離れた位置に移動していた。 
……むう、いつの間に。 
「では、ユートさま。アディオス」 
シュタッと手を挙げ、それだけ言ったナナルゥは、赤スピリットとは思えない尋常ならざるスピードで駆けて行く。 
それを、ウイングハイロゥ全開で追撃するセリア。 
顔が真っ赤に染まっているのは、羞恥のためか、怒りのせいか。 
……いや、ま、どっちもだろう。 
あ、ちょっと泣いてる。 
2人の姿は、あっという間に見えなくなった。 
何か、2人ともキャラ違ってきているような気もするが、この際気にしない事にする。 
それよりも、今気にすべき事は………そう、水色のストライプだ。 
妄想中―――NOW LOADING―――
うーむ、あとベッドで……何だろ?実に気になる。 
こーゆー大切な事は、キチンと言ってくれなきゃ困るじゃないかね、チミ。 
全く………。 
「…って違~~う!!そうじゃなくて、ハリオン!」 
「はい~、遅れて申し訳ございませんでしたぁ」 
………………。 
「ッうおおぉ!?」 
思わず、その場を飛び退く。そこには、当然の様にハリオンが居た。 
全然気付かなかったのだが、どうやら妄想してる間に隣までやってきたらしい。 
……心臓に悪いから止めてくれ。 
※妄想してる方が、悪いと思います。
まあ、いい。とりあえず遅れた理由を聞いて……あれ? 
何か、普段と違うよーな……?? 
「ハリオン…一つ質問してもいいか?」 
「はい?何でしょう~」 
「………何故、ニーソックスを履いてないんだ?」 
そう。 
何でか知らないが、今日のハリオンはニーソックス(以下ニーソ)ではなく、生足だった。 
通常、スピリットは自分の属性と同じ色のニーソを着用している。 
もちろん、例外もあるのだが。(アセリア、エスペリア、オルファ等) 
「あ、実はですねぇ、今日履こうと思ってたのも予備の分も、どこかになくしてしまった様でして~。 
一応探してみたんですけど、見つかりませんでしたぁ」 
…成る程。それで遅れたワケか。しかし、これは………… 
エロい。とてもエロい。 
アセリアで生足なんて見慣れたぜ!なんて思っていたのだが、どうやらそれは、大いなる勘違いだったらしい。 
何せ、ハリオンは部隊一のないすばでぃ(推定)。 
重層というか荘厳というか、まあ、アセリアには出せない未知の力を、あの太ももは発していると言える。 
誤解されないよう言っておくが、俺は決してニーソは嫌いじゃない。 
むしろ、好きだ。大好きだ。 
ぶっちゃけ、Hシーンでニーソを脱がすなんて言語道断、神々への冒涜だ、コンチクショウ、とか思っている。 
だが、相手がハリオンだからか。それとも、やはりこれもニーソの魔力なのか。 
ああ、素晴らしき太もも。 
何だか、血液が一ヶ所に集まって行く気さえする。 
………って、そりゃさすがにヤバイだろ!皆、いるってのに。 
とりあえず落ちつけ、俺!こんな時こそクールに。 
クールになるんだ、高嶺悠人!! 
「BE COOL」 
「…はぁ、私は落ちついてますけどぉ」 
………………。 
口に出しとるッ!? 
「い、いや、これは……そう! 
訓練中も、戦場と同じ様に常に冷静でいなければならない、そー言いたかったんだ。うん! 
………ホントですよ?」 
「ああ、そ~だったんですかぁ。判りました~」 
フゥ、なんとか誤魔化せたか……。 
だが、一難去ってまた一難。 
「でも、どうしてそんなに前屈みで、剣を構えられてるんですか~?」 
「え、えーと……あ、ほら、新しい型を考えたからちょっと試してみようかなーって。 
まあ、気にしないで下さい。」 
語尾が何故か丁寧語になってるあたりが、そこはかとなく余裕の無さを醸し出しているような気がしないでもない。 
けれど、ハリオンは納得したのか、槍型永遠神剣『大樹』を構えた。 
「それでは~、行きますよ~!」 
「お、応ッ!!」 
こうしてようやく始まった訓練だったが……結果、ハリオンの10戦10勝。 
当然と言えば当然だった。 
何せ、ハリオンが『大樹』を振り回す度、たわわに実った双丘がたゆんたゆん揺れるわ、太ももはちらつくわ。 
その度に、こっちはほとんど動けなくなってしまう。 
勝負になるわけなかった……。 
「ユートさま、ひょっとしてお身体の調子が悪いのですか~?」 
「……ああ、うん、ちょっとな」 
実際は、ちょっとどころか、身体の一部が大変な事になっているのだが。 
しかし、まさかそんな事言うわけにもいかず、ただ曖昧に頷いておく事にする。 
「そ~だったんですかぁ。じゃあ、今日はこれで終わりにしましょう~」 
「それがいい。そうしよう…」 
ほぼ拷問と言える訓練なので、終わってくれると非常に嬉しい。 
少々、残念な気もするが。 
で、そのまま部屋に帰るのかと思われたハリオンだったが、どーゆー訳かこっちへ近付いて来た。 
そして、耳元で何か囁きかける。 
「……今日はいろいろと御迷惑をお掛けしましたぁ。 
お詫びと言っては何ですけど~、お部屋でお待ちしておりますぅ」 
………………。 
もしかしなくても、全部バレてましたか? 
視線で問う。 
ニコニコと笑うハリオン。 
……どうやら、疑う余地はないらしい。 
何とゆーか、喜ぶべきなのか、落ち込むべきなのか。 
…いや、嬉しいけども。 
そんな俺に、『求め』から、ありがた過ぎる思念が伝わってくる。
『―――この駄目人間が』 
「………………駄目人間ゆーな、この野郎(泣)」