ア&セリア 閑話的路傍クイズ 「赤っ恥 青っ恥」

 すぅっと息を吸い込んで。
「第三回セリアの恥ずかしい秘密クイズ!――溶けた氷の中に―― はじまりはじまり~~」
「わーぱちぱち」
 ハリオンの合いの手に両手を上げて応えるヒミカ。

「俺、飯食ってんだけど……」
 額に手を当て歎息するのは我らがエトランジェ・ユート。
「ん、負けない」
 その隣で口元を引き締めるアセリア。ハクゥテが一本口からはみ出てます。

「それでは第一問」
「いきなりかっ!? 大体三回ってなんだよっ?」
 悠人の皿にはまだハクゥテが結構残ってたりするが、流れはそのまま完全無視。

「えーとまずは小手調べ。セリアとアセリアは二人一緒に転送されてきたわけです
が、さてどの都市に転送されてきたのでしょうか?」

「え、ちょっと待てって。さすがに俺がそんなのわかるわけないだろう」
「あらあら~ユートさまいけませんよ~、それくらい名簿を読んでれば書いてあるんですから~」
「そうです。まぁユートさまのセリアへの関心がそんな程度と言うことを物語ってるのかも知
れませんが」
 なんだか含むところのある口調のヒミカ。悠人の後方へ目線を走らせたりするけど。
 アセリアはと言うと。
「ユート、知らないのか。私とセリアは抱きしめあった状態でエルスサーオの変換施設に生ま
れたんだ」
 結構ヤバゲな発言がアセリアの口からするっと飛び出してきた。ハクゥテは逆にするっと口
に入っていく。
 さらに言葉を続けて、最初にアセリアの目に映ったのはセリアの閉じられたまぶただとか、
小さく空いた唇だとか、細い鎖骨だとか、聞きもしないのに饒舌に語るのだった。一応、粗末
な貫頭衣を身につけていたそうな。チッ

「一問目はアセリアが取りました。ユートさまがんばってくださいね」
「ナデナデしてあげますよぅ」
「いやいいから」

「第二問。仲がイマイチ良くない二人を心配したエスペリアは、二人をお使いに出して、手を
携え困難を克服することを教えようとするわけですが、さてこのときのお使いとは如何なるも
のだったのでしょうか」

「……あーあのナナルゥが笑った時のか。パンでも買いに行ったのか」
「ん、初めての私とセリアの共同作業。大切な想い出」
「いやだから、目的を…………って分かんないのねこれ」

 出題者も答えがわからないので次ぎ。

「三問目は~エスペリアさんが関与してますねぇ。え~とぉエスペリアさんはアセリアにセリ
アに関するある役目を与えていまして、それが今も有効らしいのですが~一体それは何でしょ
う~」
 今度はハリオンが代わって問題を読み上げた。問題の書かれた紙は何処かに挟んであった模様。
「えっ? なによそれは。そんな問題聞いてないわよ」
 ヒミカにも秘密の問題らしい。流石はハリオンだが……どうして知ってる?
「あーなんか聞き覚えあるな。野外訓練の時だっけ」
「ん、その役目は」
 ガンッ。
 突然悠人の後方のテーブルで物音がした。振り返っても……誰もいない。
「なんだ一体?」
 悠人は立ち上がろうとするのだが、ヒミカ達はなだめ付け、
「何でもないでしょう。だれもいませんよ」
「そうですよ~お座りくださいな~。あっお茶煎れてきますね~」
 悠人とアセリアの空になった皿を下げながら、悠人の背中方向――厨房――へハリオンは歩
いていった。途中空きテーブルに顔を向けてニッコリ笑ってるけどなんなのだろうか?

「その役目は口止めされてる。セリアと私の大切な想い出。だから言えない」
 間がずれたものの、アセリアが答えた。
「そーなのか? なんか漏れるとか何とか言ってたよな」
「漏れる? 何のこと? アセリアお願いだから教えてっ」
 ヒミカの嘆願もすげなく、アセリアは無言で首を振る。こうなってはてこでも動かないのは
皆の周知のこと。

「まぁしょうがないか。要調査っと」
 常に携帯の閻魔帳に書き記してから、第四問。
「セリアは、またエスペリアに用事を言いつけられ、街へ出て行くこととなったのですが、街
の不逞の輩と悶着を起こしてしまいます。今のセリアなら鼻で笑って伸してしまうでしょうけ
ど、このときばかりは幼いセリアには荷が重かったようです。ですがこれだけではなくて、他
にも原因があったようなのです。さてそれは何でしょう? あ、最近もちょうどユートさまの
目の前で近いことが起こりましたね」

 ってこんなの分かるんかい? 
「ん、セリアかわいかった」
「最近も……? なんかあったっけ」
「ですから、あの、ナナルゥの部屋であったでしょう」
 じれったい。
 何でこうこの男は巡りが悪いのか、などと隊長を貶めるようなことを思ったりするけど、そ
れはラキオススピリットとしての分を越える考え。だからセリア、所詮縁がないのよ。
「あ、もしかしてあれか。化粧か?」
 おしい。
「えーとそれもあります、もう一声。アセリア?」
「私とセリア、おそろいの服。一緒に歩くと嬉しかった。今はネリーとシアーが着てる」
 心底から嬉しいのが分かる笑顔でアセリアは言った。
「服か……へー、アセリアとおそろいで。一度拝んでみたいもんだな」
「充分セリアに見とれてたと思いますが。それでは五問目」
 まだつづくの? 読んでる人も同じ思いでは。
「まだあるのか。小鳥の胡散臭い診断テストを思い出すぞ」
 話しの中の人も同じ思い。

「ハイペリア語を言われても理解不能です。えーと悠人様? アセリアを見て何か私達と違う
ところに気付きませんか」
「違うところ?」
 隣のアセリアを見る。顔、胸、お腹、真っ白な二本の脚。
 やっぱり、溜息の出る美人だよな、などと改めて思う悠人だが。
「ユート、脚ばっかり見てる」
「お、おいアセリアっ!、ち、ちがうってそのなんだつい目が引きよ……いやあの」
 ヒミカの背中に炎立つ。
 様に見えた。
「こほん。いいですかユートさま。今のでまぁ間違いではありません。アセリアの脚です」
 声は落ち着いているものの、鼻から小さな火の玉が飛び出そうな核熱プレッシャーに悠人は
気圧されてしまう。刺激しない方がいいだろう。
「あ、脚って?」
「はい、アセリアだけ素足でしょう? これにも実は、アセリアとセリアの幼少時代が関わっ
ているのです。セリアからの願いでアセリアはニーソックスを履くのをやめてしまいました。
これが五問目の問題です。どうしてだか分かりますか」
「そりゃニーソで興奮するからだろ、セリアが」
 即答。
「ユート、なんでしってる」
 驚きアセリア。
「え? まさか当たってんのか」
 単なる自分の性癖をぶっちゃけただけ、なのかも知れない悠人は驚きの顔を浮かべる。
 でも、アセリアは素足の方が良いとも思うのだった。セリアと同じ感性なのか。

「はいどうぞ~お茶ですよ~」
 厨房から戻ってきたハリオンが、人数分のお茶をお盆に載せてきた。
 お茶をすべて置くとヒミカに何事か耳打ちした。
「え、もう?」
「はい~限界まで後一分でしょうか~」
「ちっ。それではユートさま最後の問題です。セリアは実は今気になる人がいます。それは一
体だ…………」
 がたん。
「ヒ~ミ~カ~ハ~リ~オ~ン~」
 後ろから聞こえる地獄の呼び声に思わず振り返る悠人。
「……いきなりやってくれたわね。エレブラ食らわしてこんなとこに転がして」
 どうやら並べた椅子二つに寝かされていたらしい。テーブルクロスに隠れてしまうため、悠
人の視界に入らなかった様だ。
「で、ユートさまとアセリア相手にこんなことして、何がしたかったのかしら?」
 ゆらりと立つセリアが手近な椅子の背もたれを掴むと、空気中の水分が凍り付き氷の膜が作
られていく。
「ハリオンッ、駄目じゃないのっ!」
「あらあらまぁ~さすがセリアですね~」
「あっ待ちなさいっ!」
 戦略的撤退を図る二人を追いかけようとするも、ハリオンのエレメンタルブラストの余韻が
まだ残っているのかふらついてしまう。それを悠人が抱き留めてくれた。
「セリア。き、気になる人がいるって…………ホントか?」
「え、ユートさま?」
 思いがけない近い距離にあるユートの顔。
 気になる人。その本人。目の前。
 顔が熱い。これこそ熱病か。怒りが別の物に変換されていく。
 これは、千載一遇のチャンスなのかもしれない。きっとそう。だってこれから先このヘタレが
能動的に動いてくれるなんて想像も付かない。こんな状況もう無いかもしれないし。必要なのは
先制攻撃。

 すぅっと息を吸い込んで。
「います。気になる人は……目の前にいます」
 告白。
 言ってしまった。
 ユートさま。

「…………そうか、セリア。俺もみんなに理解してもらえるよう努力するよ」

 ええっ!! こんな、上手くいって良いの?

「大丈夫だ。俺の世界でも認められ始めてたことだから」

 え?

「でも、さ。ヘリオンとの中精算しておけよ。あ、ヒミカとも噂無かったか? アセリアがか
わいそうだからな」

 少し寂しげな顔で悠人は言った。 
 なんのことだろう。セリアの頭は理解力スト中。

「それじゃな、きっとヒミカとハリオンも心配してくれてたんだと思うぞ。良い奴らを友達に
もったな。俺のと交換して欲しいくらいだよ」
 はは、と笑うと、アセリアの肩を一度たたいて悠人は食堂を出て行った。

「…………アセリア」
「ん」
「なんでこうなるの?」
「ん、わからない。…………ハクゥテまだ残ってる食うかセリア?」
「……いただくわ」

 ユート謹製ハクゥテは塩がちょっと効きすぎだった。
 でもアセリアはちょっと嬉しげ。