稲妻の示す道 (序)

「ん……。朝か。」
ベッドから体を起こす。
いつもと同じ朝。何もない部屋。外から聞こえてくる鳥の鳴き声。
だけど、昨日と何かが違う気がする。
そう、何か大切なものをなくしたような、喪失感。
なぜこんな気持ちになったのだろう。なくしたものなど何一つないのに。

コンコン
聞き慣れたノックの音。
「入ってくれ。」
「失礼いたします。」
そう言って入ってきたのは、俺がこの世界に来てから、ずっとそばで支えてきてくれたグリーンスピリット。
「早朝から申し訳ございません。レスティーナ様が、至急謁見の間まで来るように、と。」
「わかった。すぐに行く。」
ということは、突然現れたエターナルの眷属への対応が決まったのだろう。

「防衛戦!?正気か、レスティーナ?」
只でさえ戦力は向こうの方が上なんだ。こっちの不利は目に見えてる。
「もちろん、ずっとではありません。トキミ殿のお仲間2人が助けに来て下さるそうですので、
それまでの間は消耗を押さえ、こちらの戦力が整ってから、一気に反撃に転じます。」
「なるほど。時深さん、援軍が来るまでにはどのくらいかかるんだ?」
「それは私にもわかりません。しかし彼らなら、2週間以内には来るでしょう。」
「どうですか?我が国のスピリット隊の隊長としての判断を聞かせて下さい。」

俺は少しだけ間を置き、答えた。
「まぁ、俺達が勝つためにはそれしかなさそうだしな。やってみるさ。」
2週間。はっきり言って、これだけの期間をスピリット隊で持ちこたえるのは無茶だ。
レスティーナも、時深さんもそれは解って言っているのだろう。

それでも、俺は不思議と絶望していなかった。
俺はレスティーナや時深さんを信頼している。この二人が立てた作戦なら、一番勝つ可能性は高いのだろう。
傍らには永遠神剣もある。俺がこの世界で生きて来れたのも、この剣のおかげだ。
そして――――
俺は左をちらりと見る。
俺をずっと支えてくれた少女。俺がもっとも信頼し、―――あるいは、もっと別の感情を抱いているかもしれない少女。
クォーリン。彼女が、俺の側にいてくれるなら。
……この作戦も、不可能ではない気がしてくるのだ。

「では、改めて命じます。
 ラキオス軍スピリット隊隊長 「因果」のコウイン。援軍が到着するまでの間、我が国を守り抜きなさい。」
「おう。任せておけ!」