連作 『ヨウジョレーダー』

コアラ様が偵察にラキオスに来たが、神剣を置いて来てしまった
慌てて戻ろうと思ったが光陰の「ヨウジョレーダーに探知されてしまい」城に拉致される
果たしてコアラ様は無事に外に出られるか?

misson ~神剣を奪取して、ラキオス城を脱出せよ~

「さて、こんな所を抜け出すのは簡単なのですけど、『秩序』の位置が問題ですわね……」
目を瞑り、神経を集中させる。同調する波動の中から、よく知った気配をすぐ発見した。
「……なっ!なんであんな所に…………誤算ですわ…………」
珍しく、くわっと目を見開いて驚く。こんなに驚いたのは、二周期ぶり位だろう。
急いで検索して確かめる。人間界の風習。『秩序』が置かれている場所と一致する項目。それは……
『men's only』
男子トイレの入り口に、黒々と書かれているその文字がビジョンとして飛び込んできた時、
テムオリンはぽっと頬を染めて、いやいやと身体をくねらせていた。牢屋の中で、年甲斐もなく。

コアラ様は無事男の聖域に侵入出来るのか?そこである事に使われていた『秩序』の運命とは?
次回、『ローガスがいなくても、運命は巡る』。ヨウジョレーダーが妖しく光る…………

一人で身悶えを続けるコアラ様の元に近づく人影。それは何故か包帯ぐるぐる巻きに
なっている坊主と、ライバルストーカー女のストーキング対象の坊やだった。
「光陰、なんか震えてるぞこの子。やっぱりお前がいきなり追い掛け回すからじゃないのか」
「何を言う、ちょいと見知らぬ可愛い娘に声を掛けただけじゃないか。
どれ、どうしたんだお嬢ちゃん、何をそんなに震えてるのかな?」
不意に掛けられた声に赤らめていた顔を隠すことも出来ずに
くねくねぷるぷると震えるまま坊主と向き合うコアラ様。しかしその頭の中では非常に冷静な思考が渦を巻いていた。
(どうにか、ここから脱出して剣のあるアノ場所へ行きませんと……。
くふふ、ちょうど良いですわ。この油断しきった間抜けな坊やたちを篭絡するなど造作もないこと。
目の前の坊主の思考様式などお見通し、存分に利用させて頂きますわ……)
坊主を見ていた目を逸らし、潤ませつつちらちらと上目遣いに覗き込み、内心を悟られぬように小声を届かせる。
「み、見ていて分かりませんの……? この牢には……お、お手洗いが有りませんでしょう……」
弾かれたように顔を見合わせる坊やと坊主。慌てて顔を逸らす坊やは今はどうでもいい。
より重要なのは目の前で巻かれていた包帯を弾き飛ばさんばかりのオーラを展開させた坊主の方だ。
「……連れて行ってくださいませんこと……?」
かかった。全ての包帯をずたずたに引き裂いた内側から現れた、コアラ様たちにとって心地よい黒きオーラの奔流。
あっという間に牢から抱えだされて、向かうべき場所へと運ばれている。
顔にかかる鼻息に、心の中で坊主を三周期は串刺しにし続けながら、コアラ様の反撃がいま、始まる……

恐るべき戦略により某所へのルートを確保したコアラ様。果たして『秩序』は無事に取り戻せるのか。
次回、『崩れ去ってしまいそうな秩序』。ヨウジョレーダーは止まらない……

「へっ、待ってろよ、お嬢ちゃん。今、連れてってやるからな。」
コアラ様をお姫様抱っこしながら、額に汗を滲ませ、ひた走る破戒坊主。
だが、その行く手を阻むかの如き人影があった。

「ふふふ...手加減しちゃったあたしがバカだったわ。光陰っ!そこになおんなさいっ!!」
雷鳴のオーラが立ち昇り始めた。

「悪いな、今日子。だが、俺もどうしても引けない訳があるんだ。力ずくでも通らせて貰うぜ!」
「だーっ!!ついに開き直ったわね!これでも食らいなさいっ!!」
ビシビシビシ!ズダダダダダ――ン!!
地も裂けよと襲い掛かる紫電の雷撃が打ち砕いたものは、
しかし、鮮やかなバックステップでそれをかわしたロリ坊主の残像だけであった。
「なっ!?はっ、早い!!」
驚愕する今日の字を尻目に悠々と逃げ去る光陰。すでに黒きオーラを完璧に使いこなしているようだ。
「これは...思わぬ拾いものですわ...。まさかこれ程の歪みを抱えているとは...!」
次第に熱を帯びる鼻息に閉口しながらも、ひょっとしたら今日の自分はツイているかも知れない、などと
安易な思いにとらわれるコアラ様であった。

次回、『タキオスの憂鬱』。君は、歴史の証人になる...。

「むぅ…………この辺りで、確かに気配が…………」
背中の『無我』に神経を集中させる。
目の前の、小屋のようなもの。やはりそこから『秩序』の波動は流れていた。
「しかし、なんだココは。いかなる機能を備えているというのか」
一見平凡な、ただの平屋造り。罠があるとも思えない、開放的な入り口。
下賎の風習などに興味が無いタキオスは、そこが何であるかを、知らない。
ただ、眺めていると、何故か落ち着かなかった。こう、下半身がむずむずするというか。
「む…………」
急に急かされるような、焦りに見舞われる。入らなくてはいけない。そんな誘惑。
自分自身に起こったこの衝動が、理解出来なかった。
「まぁ、いずれ入らなければならぬからな…………」
扉をくぐりながら、誰に言い訳をしているのかと、首を傾げていた。

「あ…………」
「ぬぅ…………」
目が、合う。そこでは、若きエターナルが、いかにも無防備な体勢で突っ立っていた。

じょろろろろろ~~~……
じょろろろろろ~~~…………
妖しげな音が、二つ並んで響き渡る。黒き剣士は、初めて戦い以外に開放感を味わっていた。

和やかに連れションなどして、当初の目的をすっかり忘れてしまっているタキオス。
一方、レディスに高速運搬されつつあるコアラ様は、無事『秩序』まで辿り着けるのか。
次回、『忘れ去られた誓い』ヨウジョレーダーが示す明日はどっちだ…………

「ふゥ...。」
ぶるっ、と一つ身震いをしたタキオスは小さな吐息を漏らした。
「それにしても...あの方は神剣も持たずに一体どこへ行かれたというのか...。」
横で並んでいる若きエターナルも気になるが、今は偵察に行くと言い残して飛び出した
直属上司が最優先の問題である。
―――と、その時。はるか彼方に上がる土煙がタキオスの視界に入って来た。
「この気配は...間違いない。しかし、これはまた、ずいぶんと高速で
移動されておられるようだが...って、あっ、あれはっ!?(д)゜゜」
タキオスは我が目を疑った。彼の敬愛して止まぬ法皇が、まるでヨウジョのように
抱きかかえられて向かってくるではないか。
黒き剣士を震撼せしめたその男...「淫牙のコウイン」は、まったくこちらには目もくれず、
小屋の反対側の入り口に飛び込んでいった。

「ハァハァ...やっと着いたぜ、お嬢ちゃん。」
達成感とともにこれ以上ないくらい爽やかな笑みを浮かべるコウイン。息が荒いのは走り続けたせいだろうか。
しかし、ようやく地上に降ろされたコアラ様はなかなか小屋に入ろうとしない。
「どうしたんだ?」不審に思ったコウインの問いかけに。
「ひ...ひ、一人では...できませんわ...。」本当に、自分は何のために戦って来たのだろう、
そんなアセリアじみた疑問を胸に、法皇テムオリンは捨て身の演技に打って出る。
しかし、我が愛しの神剣『秩序』は小屋の反対側で主を待ち焦がれているのだ。
ここはあらゆる恥を忍ばねばならない。コアラ様の目にうっすら浮かぶは実に十周期ぶりの涙。

「うおぉぉぉ―――っっ!!」
我が人生に一片の悔いなし、そんな咆哮とともに真っ黒オーラを全開させるコウイン。
その力はすでに一介のエトランジェのものではない。

次回、『悟りのコウイン』。ヨウジョレーダーも臨界突破。

再びコアラ様を抱え上げ、今いる方とは反対側の扉への突入を目指すロリ坊主。
しかしながら、喜ぶべき方向転換にも関わらずコアラ様の心中は穏やかではなかった。
「お、お待ちなさいっ、抱え方が先ほどとは違うではありませんかっ」
「ハァハァ……大丈夫だぜお嬢ちゃん。これなら着いてすぐに致せるからなっ」
後ろから脚を抱えて大きく広げる。後はスカートを捲って下着を下ろせば準備完了である。
『秩序』さえ取り戻せば。そう自らに言い聞かせて辱めに耐えるコアラ様であったが、
黒きオーラの塊が『秩序』の元へと続く扉をぶち破った瞬間、
それを取り戻した後の考えなど全て吹き飛んでしまった。
「……タキ、オス……?」
「テムオリン、様……そのお姿……まさか私以外の者にその役目を……」
見つめ合う一対の瞳。この忠に厚き大男が驚愕に目を見開くなど幾周期ぶりのことか。
その大きく開かれたままの瞳から零れ落ちた一筋の血涙がコアラ様の胸に突き刺さる。
「タキオス!? 違いますわタキオスっ!
これは、『秩序』を取り戻すための策。この坊主とは何もございません!」
『秩序』を求めて首ごと視線をさまよわせるコアラ様に、ふらふらと忠臣が跪いた。
「『秩序』ならばここに。一足先に取り戻しておきました……私の役目は、此処までのようです……」
虚ろな瞳のままで立ち上がり扉に向かって背を見せるタキオスに、先端に亀の子タワシを突き刺さした
『秩序』を握り締めたコアラ様は、坊主を振りほどこうとしながら悲痛な叫び声を上げる。
「お待ちなさい、タキオスっ! ……くぅっ、放しなさい、放してぇっ」
神剣の力を発動させることも忘れて、ただがむしゃらに抜け出そうと暴れ続ける。
その弾みで、浮かべてはいても、決して流れることは無かった涙がはらりと落ちる。
自らを捕らえていた黒きオーラへとふりかかったその刹那。眩いばかりの光が小屋の中に満ち満ちていく。
「な、何ですの!?」
思わず閉じていた目を再び開きなおしたコアラ様の視線が、徐々に高度を下げていった。

抱え上げられていた高さから、普段の自分の身長どおりの視点に切り替えられて、
ようやく自分が坊主から解放されたことを理解する。
「……行きな、お嬢ちゃん」
どうして、と疑問を含んだ目線をうしろにやると、そこには既に黒ではなく淡く黄緑に輝くオーラを纏った坊主の姿。
「ただ単に愛でるだけなら良かったさ。だけどな、泣かせたとあっちゃあ『悟り』失格なんだ……さぁ」
坊主が纏うオーラはもはや不快なものでしかなく、今潰しておく事が得策だと理性は叫ぶ。
だけれども。背を向けた大きな背中は放たれた光を気にも留めないように扉をくぐり抜けて行く。
「……くっ、覚えておくことですわっ」
戸口から姿を消したタキオスを追い、コアラ様もまた扉を抜ける。
一度姿を消したところで『秩序』を握った右腕だけを見せ、
「今日のところは、これで勘弁して差し上げますっ!」
『秩序』を振り下ろして坊主の顔面に亀の子タワシをクリーンヒットさせ、本当に気配を消した。
大男と連れションをしたと思ったら、訳の分からぬうちに全てが終わって呆然とする友をよそに、
コアラ様を抱きかかえた感触を反芻しつつ、亀の子タワシを思い出の品として懐にしまう坊主であった。

追いついた。大きな背中に体当たりをするように跳びつく。
「タキオスっ、私から離れるなど許しませんっ! 決して、許しませんわっ!」
「……テムオリン様……宜しいのですか……」
振り返って目を合わせる忠臣に、慌てすぎた自身を恥じるように息を整えて言う。
「当然です。『秩序』も戻って来ましたし、一応の偵察も終わりましたわ。
……城の牢とお手洗いの場所に関しては。ですから、貴方がお役御免になる事など有りえませんわ」
「それでは……」
「ええ、帰りますわよタキオス。……遺跡の物陰は暗すぎますわ、帰ってから最初の勤めを果たしなさい」
身を引き締め、ハッっと短く応えた後に二人の姿が掻き消える。
――ソーン・リーム台地は雪に負けずに熱くなりそうだ。
                                  -完-