朝餉

彼は朝起きるのが苦手だ。その証拠に、今もまだ現れようとはしない。
オルファリルにはエスペリアの、ニムントールにはファーレーンの、
そしてネリーにはシアーと私自らの躾でもって、彼女たちの寝坊癖なんかとうの昔に直してるというのに。
テーブルの上には九人分の空になった食器と、一人分の食事。
最後にお皿を空にしたのはシアーと私。付き合うようにゆっくりと食べたあと、
彼が広めた『ごちそうさま』を言ったシアーを送り出しても、まだ彼は現れない。
仕方なく、空の食器を重ねて厨房へと運ぶ。
残った一人分の皿の上にはやや硬さが増したパン。隣にはまだ汚れていないスープ皿。
今ならまだ許してあげると胸のうちで呟いて、普段の人数分の洗い物との格闘を始めた。
そして、自分の決めたタイムリミットはやってきた。水に濡れた手を拭いながらもう一度食堂へ顔を出す。
やはり彼は起きてこない。実に久しぶりに使うことになった『躾』に
懐かしさを感じると同時に、躾ける対象の年齢について頭痛を覚える。
厨房の鍋の中に残ったスープに一工夫を加えて、さらに硬くなったパンをスライスして炙り直す。
全ての調理が終わったところで、予想通りにのそのそと寝ぼけ眼のまま彼は姿を現した。
「お早う、セリア……あれ、俺の分の朝飯は?」
既に何も乗っていないテーブルの上を見てそう尋ねる。
「お早うございます、と言えるとお思いですかユート様。すっかり冷めてしまいましたので作り直した所です」
顔に浮かんだ反省を見て取って、少しだけ悪いことをしたのかも、という考えが頭の隅をよぎったけれど、
先に寝坊したのは彼の方なので気にしないことにする。
「さ、どうぞ。今朝の献立は、ラナハナとリクェムのホットサンドと、卵とリクェムのスープです」
「アノ……作り直す前は……?」
バターつきパンと卵スープ。自分で作ったスープなのだから、工夫しても味は壊れない。
でもそれは言わずに、ただにこりと彼を見つめる。硬直から脱してちまちまと食を進め始める。
自分でも分かってる。食卓を一緒に囲めなかった腹いせもちょっとだけ混じっていることに。
だから、ゆっくりと食べることになる献立で、しばらくの間彼が朝食を摂るのを眺め続けていた。
……次からは、早く起きてください。