「春だね、お姉ちゃん」
「そ、そうねニム」
めっきり春らしい日和。
少し前までは、城壁に阻まれて日差しが届くことが無かったというのに、今はその石積みの上
空高く昇った太陽が、春の暖かさをもって惜しげもなく周囲を包んでいた。
第二詰め所を出て歩くふたり。やや風が強いだろうか。
「……ねぇお姉ちゃん」
「な……なぁにニム?」
「いい加減無理しない方がいいんじゃないの?」
「そ、そ……ん……、、な、こ、こ ヘクシッ」
腰に手を当てニムは、はぁ、と小さくためいき。
「ほらっ、もうお姉ちゃんって世話が焼けるんだから」
「ニ、ニムゥ゙~ ダ、だって~ ちーん」
渡された懐紙で鼻をかむファーレーン。だけどやっぱり一時しのぎに過ぎなくて。
「ゆ、ゆーとさまがねぇ あヒ クシッ クシュックシッハクシュッ」
「だってじゃないでしょ。ほらまた」
再び懐から懐紙を出し、今度はファーレーンの顔を拭いてあげるニム。最後にそのまっ赤な
鼻に当ててちーん。
「うう゛~ニム~~」
なんだか怨みがましげな目でニムを見る。既にその顔は涙でグシャグシャ。鼻はまっ赤で、
あの清楚で落ち着いた美貌は見る影もない。ついでにあのマスクもない。
「だって、ユートさまがね。ユートさまがね」
「はいはい。何度も聞いてるから」
ニムはにべもない。
昨日のユートのセリフ『ファーレーンさ、マスクで隠す必要なんて無いんじゃないか?そ、
そのせっかく美人なんだしさ』
Critical!
「まったくユートはいっつも余計なんだから。お姉ちゃん無防備だし。この時期のお姉ちゃん
にはホントにクリティカルなのにさ」
そっぽを向いてニムはぶつくさ。
「え、ニムなんて言ったの?」
「何でもない。でもさお姉ちゃん? そんな顔でユートに会うわけ?」
「……ウウ、ニムぅーどうしよー」
「素直にマスクしたら?」
「で、でもユートさまがー クシッ」
ニムから見れば本当に馬鹿馬鹿しい事で。一体何処に悩む必要があるのか。
「はぁ」
春の日差しに溜息一つ 女心と花衣 お姉ちゃんには粉かけ禁止