漢達の談議・改~復活編~

――――ラキオススピリット第一詰め所。悠人の部屋。
今日もここで、不毛で下らない、実にどーでもいい会話が、漢達によって繰り広げられるのであった………?

「なぁ、悠人。『秩序の杖』と『ョゥジョの声』って似てるよな」
「似てねえよ#ってか、どーして何事も無いかの様に喋ってんだ!?前回、死んだじゃん、俺達!!
ここは、霊界とかそーゆーオチか!?そうなのか!?」
俺は光陰の襟首を掴んで、ガクガクと揺さぶった。
しかし、慌てふためく俺に対して、奴は全く動じた様子を見せない。…てか、笑っとる。
「はっはっは。何言ってんだ、悠人よ。
あの後エスペリアのリヴァイヴで、俺達二人とも、何とか事無きを得たのを忘れたのか?」
「………………そうだったっけ?」
「おいおい、しっかりしろよ、悠人。
大体、俺達復活した後、『鬼』と化した時深大明神の怒りを鎮める為にいろいろしたろ?
皆で舞を踊ったり、供物を捧げたり……。忘れようが無いと思うが」
「………ああ、そう言えばそうだったな。すまん、どうにも記憶が混乱してたみたいだ」
「うむ。まあ、過ちの一つや二つ誰にでもある。気にするな」
「…実にありがたい台詞だな。でも光陰、お前は反省しとけよ。時深がブチきれたの、やっぱお前のせいだし」
「………待て。それは、ちょっと聞き捨てならんぞ。
元はと言えば悠人、お前がB69がヤバいとか言うから悪いんだろ。そっちこそ十二分に反省しろ」

カッチーン
…あれ?何かおかしいですよ?俺は、ただ的確に事実を述べただけ。
なのにそれを認めないばかりか、人のせいにしようとしてますよ、この坊主は。

「ほー。つまり、お前はこう言いたいわけか。自分は全然反省するつもりは無く、全ては俺のせいだ、と」
「ああ。その通りだろ?」
「…お前、セクハラ、覗き、下着盗難、数々の嫌疑がかけられた重要参考人の分際で、よくそんな口が訊けるな。
このスーパーエロ魔人。事件の犯人って言ったら、それこそ全部お前の仕業だろーが」
「………………#」

……何と言うか、本気でムカつく。尤も、光陰の奴も表情を見るに、心境は同じらしいが。
漢同士、言い合いで決着がつかない場合、やる事は一つだけだ。
「マロリガン戦で俺に負けた事、もう忘れたか、光陰?前言撤回するなら、今のうちだぞ」
「へッ、馬鹿言うな。あん時はわざとだ、わざと。お前みたいなヘタレ王に、本気で戦って負けるわけ無いだろ」
「…上等。後悔すんなよ、この歩く対ョゥジョ有害指定人間が!」

――拳が飛ぶ。蹴りが跳ぶ。頭突きも出る。投げ技も関節も、必要に応じてやる。何だって有りだ。
俺達が動く度、書類、ティーカップ、花瓶、椅子、机、大小様々な物が吹っ飛んでいく。
だが、そんな事気にしちゃいられない。周りの様子など目に入らない。
今考える事は、ただ目の前の相手を黙らせる事のみ!

――――30分後。
「……なかなか、やるな。ヘタレのくせに」
「……お前もな。ロリペドのくせに」
俺も光陰も、満身創痍で少しふらつきながら、不敵に微笑む。
そして同時に、お互いこれで最後と言わんばかりに、渾身の力を込めた右ストレートを放とうとして、
「お二人とも、何をなさってらっしゃるのですか?」
唐突に投げ掛けられた台詞に、身体を硬直させた。

いや、声の主は誰だか分かってる。エスペリアだ。断じて、時深ではない。
だから、俺達は別に恐る恐るドアの方を振り向く必要はない…はずなのだ。
だが、先程まで熱気に溢れていた部屋の空気が、今は真冬の様に凍りついた物になってるのはどういう事なのか。
これじゃ、まるでエスペリアが冷気を噴出しているかの様じゃないか。
首を巡らし、ドア付近に立つ人物を見る。…エスペリアだ。……パッと見は。
なんら、普段と変わりない。
髪がちょっと逆立っていたり、見る者を射殺すかの様な目つきをしている事を除けば。
あと…あと、背後に『龍』の形をした闘気を背負ってる事を除けばーーー!!((((゚д゚;;))))ガクブル

て言うか、これ前回のパターンと酷似しているどころか、まんま同じじゃねーか!!
と、正直思いきり突っ込みたかったのだが……場の空気的に無理らしい……。
これは、余計な事は言うな、という天の啓示なのだろうか?……そう思う事にしとこう。

「…あの~、エスペリアさん?
そりゃまあ、確かに俺達ちょっと騒がしくしてたとは思うけど…何もそんなに怒らんでも……」
「怒る?わたくしが?」
ギロリ!
控えめに言った、つもりだった。
しかし何故か、普段からキツめなセリアの120倍位(当社比)の視線で睨み返される。
小動物やヘリオン辺りなら、眼力だけで十分に仕留められるだろう。断言できる。
……マジで怖いんで勘弁して下さい、ホント……。
「わたくしは、別に怒ってなどいません。
勿論、前回のトキミ様暴走の余波も関係ありません。
それで、わたくしの大っ切なハーブ園や食器が全て壊滅した事も、全く怒ってなどいません。
…ええ。怒っていませんとも!!!」

怒ってるじゃん!!
だが、その言葉は今言ったら最期という気がするので、胸の内にしまっておく。
…うん、慎みは日本の美徳だし。お互いの気持ちを思いやる事って、やっぱり大事な事だよね…。(遠い目)

「…ですが。もし、また同じ事が起きるというのなら…とてもじゃないですが、自制できる自信がございません。
その時は本当に………わたくし、全身全霊をかけて 怒 り ま す よ ?」

既に、全身全霊で怒ってる様な気がするんですが…まだ、これ以上があるんですか?
……想像不能です。((((゚д゚;;))))ガクガクブルブル

「「…スミマセンでした。以後、決して暴れたり騒いだり致しませんので、許して下さい」」
気が付くと、俺も光陰も土下座していた。
この世界で土下座が通じるのかどうかは分からないが、誠意を見せない限りは『死』あるのみ。
沈黙。静寂。……ああ、まさに蛇に睨まれた蛙の心境。
尤も、蛇どころか、相手は龍だが。
分が悪過ぎる、とゆーか性質が悪過ぎる……。
一分ほど経った頃、漸くエスペリアが口を開いた。
「…分かりました。お二人を信じましょう。ですが、くれぐれもわたくしの信頼を裏切らないで下さいね?
…どうなっても構わない、と仰るのなら話は別ですけれど。
では失礼致します」
エスペリアはそれだけ言い残し一礼すると、来た時と同じ様に音もなくドアを閉め、去って行った。

俺も光陰も、身体を起こし無事を確認した後、すぐにその場に崩れ落ち大の字に寝転がる。
「ふぅ~~。や、やばかったぁ……」
「俺なんて走馬灯流れて、エンディング曲までかかってましたよ?」
「…うん、まあ気持ちは理解できる」
俺達は、お互い力無く笑い合った。

「なあ、光陰。俺は分かったよ。争いは何も生まない、って事。
あと、女性(特に怖い人)を怒らせちゃいけない、って事」
「全く同感だ、悠人よ。(特に怖い人の部分)
生きているって素晴らしい!」
俺達は熱い涙を流し合いながら、固く握手を交わすのだった。

―――漢達の談議は続く………。


「…少し騒がしいですよ」
「「申し訳ございません、エスペリアさん。もう寝ます」」

―――漢達の談議………今日の所は終わる。