「えっとですね。悠人さん」
「ん? どうしたんだ、時深」
「実は今日、私の誕生日だったんです」
「……は?」
「ですから誕生日だったんです」
「誕生日?」
そもそも年も取らずに世界を渡り歩くエターナルが、わざわざ地球時間に合わせて誕生日を計算したのか?
「祝うにしたってケーキの上に1000本もろうそくを立てたらえらい事になるぞ?」
あまりにもシュールなケーキの想像図を頭から振り払う。
「ケーキも捨てがたいですけど、とりあえず愛のこもった贈り物が欲しいです」
時深は、時々こういう我侭を言う。
1000年も生きてるくせに、妙に子供っぽい。
こういうところが可愛くもあるのだが、いきなり言われても困る。
「男の甲斐性を見せて下さい。今がキングオブヘタレの汚名を返上するチャンスなんですよ?」
ここで言いなりになって流されてしまうところこそ、ヘタレのヘタレたる所以だろうと自分でも思うのだが、惚れてしまったものは仕方無い。
「……しょうがないな、これはとっておきだったんだけど」
時深の手を取る。目と目が合う。
彼女の瞳は、急に手を取られた事への驚きと、ちょっとばかりの照れ、そして俺から何が貰えるのかという期待と興味にきらきら輝いている。本当に子供っぽい。
「俺の高嶺の姓を贈りたい」
「え?」
指輪も何も要らない。
永遠の世界に生きる我々にとって、物質はさしたる意味を持たない。
だからこそ、形の無いものの大切さが解る。
「受け取ってもらえるかな?」
涙を浮かべた最高の笑顔で、
「勿論です。1000年生きてきて、今までで一番嬉しい贈り物です。有難う御座います、悠人さん。私は本日この場から、高嶺時深となります」
力ある由緒正しい血を示す倉橋の姓を、時深はあっさりと手放した。
俺達はゆっくりと契約の口付けを交わす。互いを己の半身とする誓いの儀式。
共に歩んでいこう。俺達を祝福してくれているこの世界を護る為に。