――――ラキオススピリット第一詰め所。悠人の部屋。
今日もここで、不毛で下らない、実にどーでもいい会話が、漢達によって繰り広げられるのであった………。
「さーて、悠人よ。今日はだな――」
コンコン
丁度、光陰が本日の議題(?)を言おうとした所で、ドアをノックする音がした。
光陰の奴は訝しげな顔をしながら、こちらを見る。
「誰かと約束でもしたのか?」と、まあそんなトコだろうか。当然、そんなものはない。
第一そんな約束があるのなら、どうして野郎二人でむさ苦しく話などするだろう。
ぶっちゃけ、そっちの約束を優先させる。何がなんでも。そんな事は、自明の理だ。
…しかし、そうすると一体誰だろう?深夜と言うにはまだ早いが、既に夜中。
こんな時間に俺の部屋を尋ねて来る者など、必然的に限られてしまうわけだが……。
光陰は、もう既にここに居るし除外。アセリア…なわけないよな。
今日子は、クォーリンと女同士で飲み明かすとか言っていたし、来るまい。
エスペリア…は最近ピリピリしていて、ノックしてくれません………。(泣)除外。
時深…だったら、俺は窓をブチ破って全速力で逃げます。(超本気)
けど「ひたすら自室で瞑想中」とレスティーナが言っていたし、大丈夫。…そう、信じたい所。
結局、残るはオルファとウルカの二人。まあ、普通に考えればたぶんオルファだろう。
とりあえず、声を掛けてみるか。
「誰だー?オルファかー?」
「…いえ、違います。ヒミカです。ユート様、入っても宜しいでしょうか?」
「え、ヒミカ!?あ、ああ、どうぞ。入ってくれ」
カチャリ
ドアを開け部屋に入ってきたのは、言葉違わずヒミカだった。さすがに驚きは隠せない。
何せ、俺の予想の斜め上を行く絶妙なチョイス。……やるな、天の意志。(謎)
「それにしても珍しいな、こっちに来るなんて。何かあったのか?」
心持ち表情を引き締めて、聞いてみる。俺が、第二詰め所に行く事は数多い。
がその逆、二詰めの皆がこっちに来る事は、年少組が遊びに来る事を例外とするならほとんど無い。
だから、何か問題が起こってヒミカがやって来た、と考えるのはかなり順当な思考と言える。
とは言え同時に、有事特有の緊張感がまるで感じられなかったし、その可能性は低いとも思ってはいたが。
「あ、いえ。特に問題事などはありません。こちらへ伺わせて頂いたのは…その、私用です」
そう言ってヒミカは俺、光陰の交互に目をやり、少し微笑んだ。
「コウイン様もいらっしゃって良かったです。お二人にどうしてもお聞きしたい事があったので」
「ヘ、俺も?…よっしゃ!性の悩みから性の悩みまで、この物知り光陰様にど~んと任せなさい!
じゃあ、早速服を脱い―――モガッ!?」
今朝シアーに貰って残っていたヨフアルを、規制コードに引っ掛かりかねない野郎の口に押し込む。
危険なだけでなく話も進まなくさせる、究極のストーリー・デストロイヤー。それがこの漢、碧光陰。
今更ながら思う。……なんて厄介な奴なんだ、こいつは。
ともかく、光陰の口を封じている間に訊いておこう。
「で、その訊きたい事って、結局何なんだ?」
「それは……『オトコの友情』、です」
「お、漢の友情?これはまた、なんとも説明し難いものを……。それに、一体どうしてそんな事を?」
「脚本用の物語で、使おうと思いまして」
成る程。そう言えば、そんな話聞いた事があったな。
そういう訳なら、きちんと説明しない訳にはいかないだろう。けど…さて、実際何て説明しよう…?
スピリットは皆女性だしなぁ…。分かり易い解説………うーむ、困った……。
「モグモグ…ゴックン。…ハッハッハ!何を言葉に詰まっとるか、悠人よ。
漢の友情なんてのは、河原で殴り合って、夕焼けを背景に熱く厚く育むもの!これで決まり!だろ?」
光陰は、復活した早々馬鹿な事を言ってのけた。そら確かに、俺たちの間で殴り合いは日常茶飯事だが……。
…ある意味尊敬に値するな、この漢。
「何が、だろ?だ。いつの時代の話だよ、それは。そもそも分かり辛いし…なあ、ヒミカ?」
「はぁ。確かに意見としては、もう少し具体的な事をお聞きしたいですけど」
具体的な意見。それ即ち、俺と光陰の付き合いの軌跡に他ならない。
正直恥ずいし、あまり喋りたくは無いが………ま、仕方あるまい。
「…とりあえず、俺とこいつの事でも話すよ。
そうだな。俺とこいつ(と今日子)は、まあ昔からの付き合いでさ。いろいろあったよ、本当。
小さい頃はまだまともだったんだけど、成長するに従って、その…な」
「駄目人間になった、という事ですか?」
流石はヒミカ。話が早くて助かる。
「ああ。ロリペド→マゾ→HENTAI。凄まじい早さで、マイナス方向に転がって行ってさ。
まさに、駄目人間ここに極まれり、って感じだったよ」
「コラコラ、キミ達。もう少し、オブラートに包みたまえ」
…オブラートに包めばいいのだろうか。一応、否定するとかして欲しかったのだが。
何かこいつの開き直りっぷりも、本当に逝き着く所まで逝き着いた感があるなぁ………。
「ま、ともかく。こんな奴だから付き合ってられん!って思う事は山ほどある。喧嘩もしょっちゅうだし。
でも、さ。この腐れ縁を切ろう、って気には何でかならないんだよな。不思議なんだけど」
「フフン。そんなのお前が、俺なしじゃ何も出来ないヘタレだから、という理由で全て解決だ。やーい、ヘタレ~♪」
人が折角真面目に心情を吐露している最中だというのに、この馬鹿ときたら……。空気読めんのか。
「黙っとれ。負け犬」
「なっ!?また、その話を蒸し返すとは…。この間みたくボコボコにされたいのか、悠人よ?」
「滅茶苦茶ドローだったじゃねーか。だが、闘り合う事に異存は無いッ!!」
…ああ、やはり人は言葉だけでは分かり合えない。 本日の格言:時には必要、鉄拳制裁。
「お前みたいなヘタレ王、いやへタレ皇帝に奇跡は二度は起きないぜ?」
「HENTAIチャンプの戯言など、聞く耳持たんな。今度こそ往生しろ、光陰―――ん?」
ふと何か声が聞こえた気がして、視線を横に移す。
「ぷっ……くすくす。ふふ………あはははっ」
何故か、ヒミカが笑っていた。
…しかも、大笑いと言って差し支えない笑い方だ。相当可笑しかったらしい。目元に涙まで溜まってるし。
こんな風に笑うヒミカを見るのは初めてだった。まあ、それは別にいい。と言うか、何だか可愛い。
いや、違う。違わないけど違う。あれ?とにかく、ヒミカが可愛いのは事実だが、それは問題点じゃない。
問題なのは…何がそんなに可笑しくて笑っているのか、それに皆目見当がつかない事だった。
さっきまでの闘る気も何処へやら。
俺も光陰も、頭上に「???」とクエスチョンマークを浮かべるしかなかった。
暫く―五分ほど経って、漸くヒミカは笑うのを止めた。と言うか、笑い疲れた様にしか見えなかったわけだが。
「はぁ……。こんなに笑ったのは、久しぶりです。
全く、もう。お二人とも、あんまり笑わせないで下さい」
「いや、笑わせるたって…何が可笑しかったのか、俺達にはさっぱり分からないんだが。
別段、可笑しな所は無かっただろ?」
ヒミカは目元を指先で拭いながら、ブンブンと首を横に振る。
「いいえ。可笑しかったです。
だって、お二人とも口では凄く非道い事を仰っているのに、全然悪意とか無いんですから。
そりゃ、笑いもしますよ」
…言われてみれば。確かにそうなのかもしれない。
思えば、本気の本気で光陰の奴と闘り合ったのは、マロリガン戦が最初で最後。
普段の俺達の喧嘩は…強いて言うなら、友情を前提にした俺達なりの遊び、とでもするべきか。
あまり、認めたくは無いのだが。
「やれやれ…。ヒミカには敵わないな、全く」
文才だけでなく、優れた観察眼も持っている。本当に大したものだと思う。
「お褒めの言葉と受け取っておきますよ、ユート様」
先程までとはうって変わって、優しい微笑みを浮かべるヒミカ。そして言葉を続ける。
「あと、『オトコの友情』についてもよく理解できました。お二人とも、ありがとうございます。」
「…あんなんで理解できたのかい?」
と、これは光陰の言葉。ただ、内容は俺の思った事と全く同じ。
そもそも後半、喧嘩しようとしてただけだしなぁ……。正直、あれで分かるのは無理だろう、と思う。
けれど、やっぱりヒミカは自信に満ちた顔で、首を横に振る。
「いいえ。お二人を見ているだけで、伝わってくる様でしたよ」
「…そっか。ヒミカがそう言うんなら、そうなんだろうな。ま、役に立てて良かったよ」
いつもは馬鹿な話ばっかりだし。偶には、こういう実りある会話も良いだろう。
「あ、実はもう一つ訊きたい事があるのですけど…。お尋ねしても宜しいでしょうか、ユート様」
「うん?ああ、まあ乗りかかった船だし。何だい?」
「ええと、あの…その、ですね…」
「?」
何だか、ヒミカらしくない物言い。大体、こっちの目を見てないし。人差し指どうしをすり合わせて、俯いている。
おまけに、顔も赤い様な気がする。
…一体、何なんだ?
「その、こ、恋人達の語らいと…よ、夜の過ごし方、というのを教えて頂きたいのですが……」
間。
………………………………ハッ!?あまりの衝撃に、意識が飛びかけた。てか、一瞬飛んでた様な気もする。
ちらっと横を見ると、光陰の奴は石になっていた。…俺の数百倍は、ショックを受けたらしい。
だが、こっちも人の事にかまけている場合ではない。こういう時こそ、漢の真価が問われるのだ。
落ち着け。そう!冷静に対処せよ!!
「そ、そそそそそれは、俺のこ、個人的指導によるものでよ、宜しいのですか?」
だ、駄目だーーーーーッ!!俺みたいなヘタレには、冷静な切り返しなど、最初から無理でした……orz
大体、何で敬語になってるのか自分でもよく分からん。ところが、
「は、はい。コウイン様とかじゃ嫌ですけど。ユ、ユート様なら……」
と、頬を赤く染めながら呟くヒミカ。
……可愛過ぎるにも程がある、つーか反則過ぎです。
なんか、おかげで緊張とか混乱とかその他諸々、吹っ飛びました。これなら…イケル!!
視界の隅で石になった光陰がガラガラと崩れたりしてたけど…(・∀・)キニシナイ!!
「フッ。ここじゃなんだから、ヒミカの部屋に行こうか。夜はまだまだ長いし…ね」
「そ、そうですね。行きましょうか…」
部屋を出る際、崩れていた光陰が、サラサラと灰になるのが見えた。まあ、暫くたてば元に戻るだろう。無問題。
「そんじゃ、光陰。ア・デュ~♪」
―――漢達の談議………は続かないが、恋人達の夜はこれから…らしい………。