皆はコウイン様の事を鈍いと思っているんですよ。
けれども、私には解ってしまうんです。
コウイン様は私の想いに気付いている。なのに態度を全く変えない。
コウイン様はとても優しくて、だからこそとても残酷な人。
キョウコ様が、嫌いでした。
『空虚』が強力な神剣だという事は理解しているつもりですが、例えそうであったとしても、神剣に支配されているキョウコ様が許せなかった。
コウイン様は、一人で何でも出来る。神剣も己の意思で自在に使いこなしている。
なのに、そんな強いコウイン様が、キョウコ様の為にもがき、苦しみ、命まで捨てようとしている。
キョウコ様は、コウイン様の足手纏いになっている様にしか、私には見えなかった。
キョウコ様が『空虚』から開放されたと知った時のコウイン様の笑顔を、私は忘れる事が出来ません。
コウイン様の顔を見て驚き、心奪われ、そして涙が零れました。
私はその時まで一度も、そう、たったの一度すらもコウイン様の本当の笑顔を見た事が無かったのです。
私では、コウイン様の笑顔を引き出す事が出来無かったのです。
キョウコ様の心は弱くて脆い。でもその弱さにこそ、コウイン様が惹かれたんだと解ってしまった。
皮肉ですよね。コウイン様を目標にし、隣に立てるような存在になろうと頑張ってきたのに、その目指した強さゆえにキョウコ様の弱さに敵わなかった。
私では、コウイン様から信頼してはもらえても、好きになってはもらえない。
あの日、コウイン様はキョウコ様を私に託されましたよね。
私、あの時、キョウコ様が死ねばって思ったんですよ。
けどそんな事をしてもコウイン様は決して心変わりされない。ずっとキョウコ様だけを見つめ続ける。私を見ては下さらない。それが解ってしまうから。
そして何より、私にはコウイン様の信頼を裏切るなんて事、出来無いから。
コウイン様は、そんな私の心の動きすらも全てお見通しだったのでしょうね。
本当に、酷い人。
私は今日、失恋を知るでしょう。
コウイン様。私の新たな出発を、コウイン様から始めさせて下さいね。
願わくば、私が次に好きになる人は、私を必要としてくれるような弱さを持っていますように。