隔番

 人には向き不向きがあると思う。
 況や私たちスピリットは、持って生まれた能力からしてそれが著しい。
 もっとも、赤スピリットの身で魔法より剣を執る私がそう言っても説得力が無いのは分かっている。
けれど、それでも私は赤スピリットなのだ。炎を扱う事にかけては秀でている自負がある。
 ――だというのに。
「どうして私がお菓子屋の売り子をしなくちゃならないの……」
 ひっきりなしだった客足が漸くおさまって、ほっと一息を入れる。
 目の回る忙しさはお菓子作りも売り子も変わらないのだけれど、
一心不乱にお菓子を焼き上げる方が性に合っているのは間違いない。さらに言えば、
誰からも――私も含めて――好かれる笑顔を持っていて、今日は焼き窯の面倒を見ている、
役割の変更を言い出した彼女の方が売り子に向いているに決まってるじゃないか。
 貼り付いたような笑みと、硬い口調でしか応対出来ていないのではないかと、
不安ばかりが渦巻く私の頭は、不意に薄暗くなった目の前に気付くのにも時間を要した。
 もちろん、それは空が曇ったわけではなく、お客さんがやってきた証で――
「も、申し訳ありません、ご注文はなんでしょうか……! あ……ゆ、ユート様……」
 何てことだろう、売り子が違うと言う話を聞きつけてやって来たそうだ。
 いきなり見せてしまった失態に顔から火が出そうな私の心地に気付きもしないで、さらりとこう続ける。
「前のおっとりした売り子さんには癒されたし、
今日の活発な売り子さんには元気を貰ったってさ。はは、すっかり看板娘じゃないか」
 思ってもいなかった評価と嬉しそうに話すユート様の表情に、頭の中が白くなってしまう。
 だから、いつもはお土産を買うユート様を奥から見ているだけだったなと思い至ったのは、
「今までは奥にいるのを見る位しか出来なかったから、話せて楽しかったよ。じゃ、また詰所でな」
と、私が見繕ったお菓子が入った袋を抱えて帰るユート様を見送った時だった。
 奥から、ニコニコと暖かな視線を感じる。……してやられたと思うと同時に、感謝を送った。