ヘリオンは、初期設定のLv.が自分だけ低い事に悩んでいた。
「どうしてこんなにちっちゃいんだろう……」
だぶつき気味な服の胸元をくつろぎ、覗き込む。
つるぺたな胸はいきなり関係ないが、とりあえず盛大な溜息をついてみた。
「はぁ……頑張ってるんだけどなぁ……」
悩みの原因は、自力で訓練メニューを選べない事にある。
最初から使い勝手の良いハリオンやナナルゥとは違い、
ただでさえ大器晩成型の彼女はLv.1のファーストプレイでは戦力にならない。
更に編成画面で一番下に表記されてしまうこともあり、
うっかりすると話がソーンリームにさしかかるまで忘れられている事もある。
よくついでで他のスピリットと十把一絡げで訓練され、
適当に上書きされたスキルが後で使えない事もしばしば。
そして何故かダークインパクトだけいつまでも残っていたりする。
それでも鍛えられるのはまだましな方で、
油断すれば処刑なんていうしゃれにならないコマンドまで用意されている。
「サポートに徹した方がいいのかなぁ… 私に似合ってるような気がするし」
良くそのポジションで使われているせいか、そんな考えも浮かぶ。だけど、
「わたし、ちっちゃいですけど… いえ、だから速さでは負けないんですっ!!」
そんなセリフも捨てがたい。悶々としながら『失望』を振り回す。
早く、ユートさまのお役に立ちたい。最前線でユートさまと戦いたい。
ユートさまに褒めてもらいたい。そしてあわよくば…………
「え、えへへ…………」
「ヘリオン、楽しそうね」
「わきゃあっ!」
いきなり後から声をかけられて、ぴょん、と小さく飛び跳ねた。
心臓と一緒にお下げが両方とも引っくり返る。いつの間にかヒミカが背後に立っていた。
「浸ってるところ申し訳ないんだけど、次ディフェンス宜しく」
「え?ディフェンスってえっ?えっ?あ、ちょっとヒミカさ~んっ!」
動揺したままのヘリオン置いてきぼりで猛然と敵に向かって走り出すヒミカ。
その背中にかけられた叫びはむなしく戦いの砲煙に掻き消されてしまった。
どうしよう。
さっぱり訓練をしてもらえていない自分がディフェンスだなんて。
一番HPが低いのに。抵抗力もあまりないのに。すぐに回数が尽きるのに。
大体ブラックスピリットに、ディフェンスは向いていないのだ。
唯一攻撃されつつ反撃できるというメリットはあるが、それも雀の涙程度。
もしこれで戦闘不能にでもなったりしたら、訓練どころではない。
存在自体をユートさまに忘れられる恐れさえある。
「あ~、ヘリオンさんですぅ~♪」
本気で焦っていると、聞き覚えのある妙に間延びした声が前方から聞こえてきた。
ヒミカとすれ違いに、向こうから駆けて来るのはハリオンだ。天の助け。
「ハリオンさんっ!助……」
藁にもすがる思いで口を開きかけたヘリオンは――――
「……け……て」
ごくり、と思わず唾を飲んで沈黙した。
たゆん、たゆん、たゆん……
「………………」
揺れている。猛烈にゆれている。普段から目立つ胸が、これでもか、という位。
その上下運動の迫力は、例えば毎日ミルクを飲むといった努力では到底追いつけそうにも無い。
目を奪われ、とりあえず目標はヒミカさんよりハリオンさんかなぁ、などと
勘違いな志を立てたのが運の尽き。
「さぽーとは任せてください~…………えいっ☆」
すれ違いざまウインドウイスパを唱えたハリオンはあっという間に後方へと行ってしまった。
同時に襲い掛かってくる敵の猛攻。ヘリオンは必死でそれを受けながら叫んでいた。
「い、いっったぁぁぁいっ! ふぇ~ん、もうヤだぁぁ!!」